陽勝香炉


九


キーパー:約束の日になります。皆さんが事務所に集まっていますと、ガチャッと扉を開けて身なりの立派な人が現れます。髪を短く整え、無精ひげを剃って、伊達眼鏡にスーツ姿の飛鳥英樹です。「見違えただろ? こんな時のために普段は見すぼらしい恰好をしているのさ」
村雨:負けじと身なりを気にしながら(笑)、『終南経』を読んで分かったことをかいつまんで説明しておきます。
泰野教授:「そういうわけなので、きっと記事にはできないわよ?」
キーパー:(飛鳥)「それに関してはもうどうでも良くて、結末が知りたいだけだからさ」
泰野教授:「そういうことなら、良いと思うけど……」
村雨:問題は発狂して敵に回られることですけどね(笑)
山田:「では、行きますか」
泰野教授:「行きましょう」香炉を持って出発します。

ライン


キーパー:指定された“万座殿”という地下街にはテナントがほとんど入っていない無人区画があって、そこにコンクリート打ちっぱなしのイベント用貸しスペースがあります。催事用に電気は通っています。
山田:大事な儀礼を行なうなら、もっと立派な場所を借りればいいのに(笑)
北始成武キーパー:到着すると会長の北始成武と2人の秘書がいて、晴れて全権を委任された広瀬社長が所在なさげに待っています。
村雨:……持田副社長はいないのか。
キーパー〈目星〉INTロールをしてください(山田は〈目星〉、それ以外の探索者はINTロールに成功)。すると、何か鉄のような臭いが漂っていることに気づきます。〈目星〉に成功した山田さんは会場の奥の方に、何かが入った頭陀袋が1つあることに気がつきます。そして鉄の臭いはその頭陀袋から漂ってきていることに気づきます。
山田:……頭陀袋から“血”の匂いが漂ってきている、と。
村雨:……副社長ですよ、きっと。
キーパー:何もないコンクリート打ちっぱなしの空間の真ん中にいる北始成武は、いつも通りの紋付袴姿です。皆さんが会場に入ると、2人の秘書が扉を閉めて、鍵をかけます。そして、秘書たちは扉の両脇に立ちます。
泰野教授:「お約束の物はお持ちしましたよ」と言って香炉を渡します。
キーパー:北始成武は押し戴くようにして受け取ると、それを自分の前に置きます。そして高揚した顔で宣言します。「それでは、これより極星香炉を用いた儀礼をご覧に入れよう!」
一同:ゴクリ。

ライン

玄鹿キーパー:位置関係的には会場の奥から北始成武、香炉、皆さん、出入口となるのですが、皆さんと香炉の間に地から湧き出るように玄鹿が現れます。玄鹿がその場で膝を折って香炉の前にうずくまると、北始成武がその角にそっと手を添えます。すると角が取れて、成武の手に握られます。
泰野教授:おお……角を手に入れられてしまった。
キーパー:成武は香炉の蓋を取って開けると、角をその中に収めます。ここでINTロールをしてください(泰野教授以外は成功)。香炉の深さと角の長さからすると、明らかに中に入るのはおかしいです。角を中に収めると、何事もなかったかのように蓋を閉めます。角を取られた玄鹿はうずくまったままです。INTロールに成功した人は〈正気度〉ロールです(宇乃と山田が1ポイントずつ喪失)
宇乃:この1ポイントが……
山田:――生死を分けますな。
キーパー:北始成武は厳かに詠唱を開始します。すると鹿が彫られた香炉の下の部分がボゥっと光を放ち始め、香炉の前にうずくまっていた玄鹿の身体がざわざわと蠢き始めます。そしてバチバチっと音を立てて、玄鹿の身体が無数の黒い球体になります。
佐山:ほほう。
キーパー:それが成武と香炉を取り囲むように、ブワッと展開して、空中に制止します。その黒い球体はブンブンと羽音のような音を立て始めます。ここで皆さん〈聞き耳〉ロールをしてください(※山田が〈幸運〉ポイントを使って成功)。山田さんは気づきますが、そのブンブンという音は成武の詠唱にシンクロしていきます。ただの羽音というより、節回しになっていきます。
山田:なるほど。
キーパー:やがて、まるで多人数で詠唱しているかのように、成武の詠唱と球体の羽音が完全に唱和します。その“声”は会場全体に響き渡る大音量になります。
宇乃:秘書の2人はどんな様子なの?
村雨:予想外の事態に慄いているのか、全部承知していましたとばかりに法悦に浸っているのか?
キーパー:瞬きもせずにじっと様子を見ています。所在なさげにしていた広瀬社長は皆さんの方へと寄って来て、変装した飛鳥を見てギョッとしています。
山田:社長はどうやら我々と同じ部外者のようですな。
キーパー:鹿が彫られた香炉の下の部分が、ひと際まばゆい光を放ちます。そして皆さんと成武の間のコンクリートの地面が、急にボコボコと泡立ち始めます。そして詠唱の声がピタリと止みます。泡立つ床は黒い液体となっていて、それが徐々に盛り上がって、人の姿になります。人の姿が完全に形成されると、床の泡立ちがピタッと止まります。
宇乃:……そこに現れたのは?
キーパー:薄暗いこの部屋の中でも、ひと際黒いモノです。皆さんは互いにそれなりの距離を取って立っていると思うのですが、全員にそのモノの正面が見えます。その姿はホログラムのように絶えずチカチカと揺らめいて見えるので、視界の中でピタッと定まりません。
泰野教授:ははあ。
終南真人・玄キーパー:その姿は細身の老人で、よく水墨画などで見る、髭をたくわえ、ゆったりとした服を着た中国の仙人に似ていますが、すべてが黒です。閉じていた目を開くのですが、その中も黒です。〈正気度〉ロールです。成功すると1ポイント、失敗すると1D6ポイント喪失です。
村雨:さあ、ここからですよ!
宇乃:ゲームが始まるのはここから!
泰野教授:(コロコロ……)失敗! 2ポイント喪失!
村雨:(コロコロ……)失敗! 6ポイント喪失! INTロールは……(コロコロ)……01! クリティカル成功!!
一同:(笑)
村雨:どうせオレはこれ以上何もできないので、後はお任せします(笑)。(コロコロ……)とりあえず4戦闘ラウンドの間、パニックに陥って逃亡します。鍵のかかった出入口の扉を叩きながら「開けてくれ!」と叫んでいます。
キーパー:現れた老人を見た成武が「おお、極星終南真人天尊! なにとぞ我が望みを叶えたまえ!!」と言うと、皆さんの頭の中にも声が聞こえてきます。
宇乃:ああ、私たちも相対したからか!
泰野教授:じゃあ、不老不死になれるんじゃね?(笑)
キーパー:(終南真人)「善き哉、善き哉。汝の望みは今果たされよう」すると、今度は極星香炉の鶴がかたどられた上の部分が光り始めます。気づくと、いまさらのように香炉から一筋の煙が立ち昇っています。(終南真人)「香の煙に近う寄れ。我と共に参ろうぞ」
宇乃:まだ? まだかな?
村雨:もうちょっと。もうちょっと見てみましょう(※発狂中)
キーパー:すると、終南真人の身体から、白い湯気のような光が立ち昇り始めます。それに伴って、終南真人の姿が徐々に薄れていきます。
泰野教授:ん? 帰っちゃう?
キーパー:成武を取り囲んでいた黒い球体からも白い光が立ち昇り始めて、徐々に薄れていきます。言われるままに、香の煙に身を寄せていた北始成武の身体が、宙に浮き始めます。
宇乃:妨害して良いのかな?
キーパー:(北始成武)「ああ! ついに、100年の宿願が叶う! 我、昇仙せり! 我、昇仙せり!!」歓喜の声を上げながら、ゆっくりと北始成武の体が上昇していきます。それを見て、2人の秘書は歓喜の涙を流して伏し拝みます。
村雨:そういうことなら、一時的狂気発症中の私はサムターン回して外へ逃げ出します。「うわぁぁぁぁぁ! ……じゃ、サヨナラ」(笑)
キーパー:会場に残っている人はINTロールをしてください(全員成功)。すると、終南真人から立ち昇る湯気が上空でわだかまっていることに気がつきます。
佐山:あ、第二弾が来る(笑)。逃げようか。
キーパー:対して、香炉から立ち昇る煙は拡散していきます。終南真人から立ち昇る靄と、香炉から立ち昇る煙が混ざることは一切ないです。
泰野教授:北始成武はどちらの蒸気に従っているの?
キーパー:北始成武は香炉の煙に従ってじりじりと上昇して行っています。