オリンピア


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 前回までにゲームズ・マスター(以下GM)もプレイヤーもこのゲームのルールについて大分把握できましたので、今回からはキャンペーンのストーリー部分を動かしていきます。
 出発地はロンドン。議会派の首都であり、17世紀においてはヨーロッパ最大の都市です。


GM:なお、お分かりと思いますが、ジョンはスペイン風邪にかかって隔離されているので、今回は欠席です。
エドガー:ヤバイ! この時代にそれは命に関わりますよ(笑)

ライン

ヴァレリィ・カプランGM:皆さんはシャードリー・ホールでの事件で負った心身の傷を癒しながらこの大都市に滞在しており、「そろそろ仕事もしなくては」と思っていたところです。ロンドンといえばヴァレリィの生まれ故郷なので、伝手を頼って彼女が仕事の話を持ってきてくれました。ケンブリッジ大学で物理学を教えているスパランツァーニという学者が護衛の仕事を引き受けてくれるグループを探しているとのことです。
エドワード:ほほう。
エドガー:まさに我らに打ってつけの仕事ですが、この時代に街道沿いで襲われたりする危険はあるものなの?
GM:戦争中ですので、食うに困った人たちが強盗を働く可能性はあります。ルールブックにも“追い剥ぎハイウェイマン”という職業があるくらいですから。
エドガー:なるほどね、危険性はあるわけか。
GM:(ヴァレリィ)「とりあえず、面談に行ってみようよ」ということで、皆さんは指定された場所へ向かいます。そこはスパランツァーニが一部を借りている、高級住宅街の中にあるタウンハウスです。到着して用向きを伝え、使用人に案内されて応接室へ続く階段を上がっていると、階段の途中にある窓から向かいの翼棟が見え、そちらから美しい歌声が聞こえてきます。
エドガー:「ん?」
オリンピアGM:窓から見える向かいの部屋に、テーブルに肘をついて座っている少女の姿が見えます。声の主は彼女のようです。そうですね……〈歌唱〉とか〈楽器演奏〉とか、音楽関係の技能があればロールしてみてください。
エドガー〈楽器演奏(ハイランド・パイプ)〉を持っています!(コロコロ……)成功!
エドワード:私は〈歌唱〉で……(コロコロ)……失敗。
GM:成功したエドガーは、その歌がプロ級に上手いことがわかります。
エドガー:お? プロの歌手かな?
GM:この時代、ロンドンの劇場は議会によって閉鎖されていますので、プロのエンターテイナーは王党派の支配地域へ逃げていっているのが実情です。まあ、歌自体が禁止されているわけではないので、素人が自宅で歌を歌っても罰されることはありませんが。
エドガー:「なんとも素敵な歌が聞こえてきますね。あれは劇場で歌っていてもおかしくない実力の持ち主ですよ!」とエドワードに話しかけます。
エドワード:「う、うん?」(笑)
GM:エドワードはピンと来ていない様子です(笑)。歌っているのはこれから社交界にデビューしようかというくらいの、10代半ばの少女です。〈知覚〉ロールをしてください(2人とも成功)。少女は、目の焦点が合っていないような、ぼんやりとした表情をしています。
エドガー:は? 目が見えていないとか?
GM:目を開けたまま眠っているかのように、表情は虚ろです。体を揺らしているわけでもなく、ただ口を動かしているだけなのに、情感たっぷりの見事な歌いっぷりに強い違和感を覚えます。
エドガー:何でしょう? 確かにおかしいですね。
GM:そうしていると歌が突然プツッと止みます。それも切りの良い小節まで歌い終えるのではなく、例えば「いつくしみ深き」という歌詞があったとすると、「いつくしみふ」で突然切れてしまいます。
エドガー:「……良い歌だと思っていたのに」
GM:そう思って少女を見てみると、やはり目の焦点が合っていないような表情を浮かべて、テーブルに座って、口をつぐんでいます。
エドガー:う~ん、何でしょうね?
GM:「一体何なんだ?」と思いながらも階段を上り続けて、皆さんは応接室に入ります。

ライン

スパランツァーニGM:応接室に通されると、今回の雇用主となるスパランツァーニが皆さんを出迎えます。恰幅の良い、中年の男性です。「よく来てくれた。君たちが今回の仕事を引き受けてくれるのかね?」タイミングよく使用人がお茶などを用意してくれて、ソファに腰掛けるように促されます。
エドワード:「とりあえず、仕事の内容というのは何ですか?」
GM:(スパランツァーニ)「うむ。ロンドンを出発して、途中数か所に立ち寄りながら、目的地へ行って戻って来るまでの1か月間の護衛を頼みたい。報酬は、途中の宿泊費や食費とは別に、グループ全体で150シリング出そう。前払いで50シリング、目的地に着いたら50シリング、ロンドンに帰ってきたら50シリングだ」
エドガー:仕事の間、住むところと食べ物を心配しなくて済むのは、私としてはありがたい(笑)。引き受けますよね?
エドワード:当然です。「お引き受けしましょう」
エドガー:「詳しい仕事の内容をお教え願えますか?」
GM:(スパランツァーニ)「先ほど言ったとおり、君たちに頼みたいのは護衛だ。このような時勢ゆえ、旅の途中に何があるかわからんのでな。ロンドンを出発したら、まずはケンブリッジ、次にバーミンガムへ向かい、その後、係争地域(※ネイズビーの戦いの後、戦いで使われた錬金術ポーションによって汚染された“汚れた土地”がある、人々が住まなくなっている地域)を少し旅する予定だ」
エドガー:「なるほど。それなら護衛が必要ですな」
GM〈知識(地域)〉ロールをしてください(コロコロ……2人とも成功)。ケンブリッジとバーミンガムには大規模なクロックワーク工房があるのを知っています。
エドガー:バーミンガムにも?
GM:ガン・クォーターという銃製造業の世界的な中心地があって、そこにクロックワーク工房もあります。つまり、クロックワーク兵器の最前線研究基地です。
エドガー:なんでこんな時にジョン(※機械伝道師)はいないんだよ(笑)
GM:彼はスペイン風邪で生死の境をさまよっていますので(笑)
エドワード:ケンブリッジから係争地域に行って、最終目的地はバーミンガム?(※バーミンガムは係争地域内にあります)
GM:いえ、ケンブリッジ→バーミンガム→係争地域なのですが、スパランツァーニは「事情があって、最終目的地についてはまだ明かすことはできん」と言います。まあ、イングランドで係争地域よりも最悪の場所はないので、「とりあえず最悪の場所へは行くよ」ということで間違いないです。
エドワード:なるほどね。
エドガー:「護衛対象というのは、どなたになりますか?」
GM:(スパランツァーニ)「この儂と、我が娘オリンピアだ」
エドガー:「……オリンピアとは、もしや、先ほどの素敵な歌声の方ですか?」
GM:スパランツァーニは自慢の娘を褒められて満足そうに頷きます。もう1人、オリンピアの世話係であるジェーン婦人という女性が同行するそうです。以上の3人が2頭立て馬車に乗るので、その馬車を守るのが皆さんの仕事です。ちなみに馬車の御者とその助手(兼馬車職人)も一行に加わりますが、彼らは皆さんと同じ雇われ人になります。
エドワード:我々以外には5人ということですか。
エドガー:答えてくれるか分からないけど聞いておこう。「今回、特定の誰かに狙われるかもしれないという懸念はあるのですか? そのような危険性があるのなら、我々も備えができると思うのですが」
GM:なるほど。では〈洞察〉ロールをしてください(エドワードが成功)。スパランツァーニの片眉がピクリと上がるのをエドワードは見逃しませんでした。
エドワード:ということは、何か狙われる心当たりが若干あるのかもしれないですな。
GM:(スパランツァーニ)「……気を緩めず、心づもりはしておいてほしい」
エドガー:「出発はいつになりますか?」
GM:(スパランツァーニ)「君たちにも準備はあるだろうから、明後日出発しよう」

 冒険者たちは学者スパランツァーニの護衛の依頼を引き受けましたが、この後、(プレイヤーの病欠による)ジョン不在の事実に大いに悩まされることなど、まだ知る由もないのでした(笑)