オリンピア


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 今回の旅には明確なタイムリミットはないらしく、あまり無理せずに進み、日暮れが近づく前に町や村に立ち寄って宿を探すので、1日に進む距離は15~20㎞ほどとなります。

 ロンドンからケンブリッジまでは約78㎞ありますが、アーミン・ストリートという状態の良い幹線道路を進めますので、最初の目的地までの旅程は約4日間となります。

ジェーン婦人 冒険者たちがロンドンの城壁の外に定められた集合場所へ行くと、2頭立ての馬車が待っていて、旅に同行する全員が揃います。冒険者たちが初対面となるのは3人。ジェーン婦人は壮年の未婚女性で、良家の令嬢の世話係をずっと生業としてきました。残りの2人は御者のカペラと、御者助手のアウリガです。スパランツァーニが冒険者たちを含め、全員に紹介をしてくれます。その間、オリンピアは馬車に乗ったまま、ぼんやりと虚空を見つめています。

 ケンブリッジへ向かう旅が始まります。1日目の道中、特に危険なことは起こりませんでしたが、馬車の中のオリンピアが急に歌い出すという奇行を不定期に繰り返します。スパランツァーニに加え、どうやらジェーン婦人もこの奇行については承知しているらしく、特に気にする様子もありません。やがて(御者たちも含めて)パーティはこの奇行にも慣れてしまいます。話しかけても、オリンピアは「ああ――ああ」という薄い反応しか返さず、(ヴァレリィが〈治癒〉技能で見立てた所)現代で言うところの中度の知的障害があるように見受けられます。


GM:日暮れ前に本日の宿屋に到着します。では、宿屋の名前をルールブックにある「下品で卑猥な宿名の生成表」で決めましょう。D100を2回ロールしてください。
エドガー:(コロコロ……)14!
エドワード:(コロコロ……)90!
GM:今日泊まる宿屋は“独身のトライフル亭”です(※トライフル=イギリスの甘いデザート)。独身サラリーマンの買うコンビニスイーツみたいな宿です。
一同:(笑)
GM:全員がこの“独身のトライフル亭”に泊まります。小さな村にある粗末な宿です。質素な食事が出てきて、屋根があって、馬をつないでおける程度の施設です。この日はこれで終わりです。こんな感じで旅は進んでいきます。

 2日目も特に事件はなく移動を終えます。2日目の宿は“かさぶたのあるネズミ亭”でした。看板のネズミのデザインが「ハハッ」と笑うネズミそっくりなので、近いうちに消される運命にあるのでしょう。


ライン

追い剥ぎGM:ケンブリッジへ向かう旅の3日目、街道を進んでいると、3人の追い剥ぎと思われるグループが現れて馬車を止めます。彼らは街道を旅する金持ちから金品を奪う連中で、大人しく要求に従えば、命まで取ってはいきません。スカーフで顔の下半分を隠して、威嚇的にピストルを構えています。(追い剥ぎ)「分かるよな? 金目のものを置いていけば、手荒なことをしないで済む」
エドガー:「……そういうわけにもいかないんだよねぇ」
GM:御者たちはすぐに運転台を降りて馬車の下に潜り込んで身を隠します。スパランツァーニは馬車の中から「追い剥ぎに施しを与えるつもりはない。追い払ってくれたまえ」と命じます。
エドガー:我々が雇われた意義を示さなくてはなりませんね。
エドワード:そうですな。
エドガー:「お前たちこそ、このまま退けば命までは取らないぞ」
GM:(追い剥ぎ)「ムムッ、なにをぅ!?」と彼らがいきり立ったその時、オリンピアが歌を歌い始めます。
エドガー:え? ここで?
GM:相変わらず惚れ惚れする歌声ですが、例によって中途半端に歌い出して、切りの良くないところで歌は止みます。追い剥ぎたちも面食らったようで、互いに顔を見合わせます。
エドワード:そりゃそうだ(笑)
GM:(追い剥ぎ)「どうやら素晴らしい歌姫がいるようだが、彼女に怪我をさせたくなければ、大人しく金目のものを置いていけ」
エドガー:結局、そういうことだよね。

 追い剥ぎ3名との戦闘になります。
(鎧を着ていないために行動順が早い)追い剥ぎたちのピストルが命中してエドワードとエドガーがダメージを受けましたが、エドガーのグレート・ソードの反撃によって早々に2名の追い剥ぎが無力化され(エドワードの攻撃は命中しませんでした)、不利を悟った最後の追い剥ぎは逃亡を図ります。


GM:追い剥ぎは逃げようとしますが、追跡するつもりなら可能です。
エドガー:追います!
GM:すると馬車の中からスパランツァーニが「勘違いするな! 君たちの仕事は馬車の護衛だぞ!」と怒鳴ります。
エドガー:なるほど。追うのはやめます。

 ヴァレリィによる〈応急手当〉で銃創を手当てし、パーティは旅を続けます。3日目の宿は“不幸な胃袋亭”でした。


ライン

GM:4日目の夕方にケンブリッジに到着します。スパランツァーニはこの都市のカレッジで教鞭を執っているので、歩いていると「スパランツァーニ先生!」と学生たちに声をかけられたりします。
エドガー:あ、そうか。この都市には知り合いがいる可能性があるのか。
GM:ケンブリッジは大きな都市なのでスパランツァーニとオリンピアとジェーン婦人は1泊8シリングの上等な“鉈宿”(※「センスのある宿名の生成表」で作成)という宿に泊まります。御者たちと皆さんは1泊3シリングの下宿屋“臭いハリネズミ亭”(※例によって「下品で卑猥な宿名の生成表」で作成)です。
エドガー:宿屋に“臭い”とか“汚い”って名前をつけちゃ駄目でしょ!(笑)
エドワード:スパランツァーニに確認しますけど、「ケンブリッジで何か用事があるんでしょうか?」
エドガー:そうですね、そこは確認しておきましょう。
GM:了解です。今晩の食事は“鉈宿”の1階にあるレストランで全員一緒にとるので、その際に出発は明日の朝になると告げられます。「用事自体は、今晩のうちに済むだろう」
エドガー:あ、そうなの? すると、この高級宿で誰かお客さんを待っている感じなのかな?
GM:食事の際、“鉈宿”組と“臭いハリネズミ亭”組は別テーブルで、メニューも少し、“臭いハリネズミ亭”組の方がランク落ちします。“鉈宿”卓はシャインマスカットで、“臭いハリネズミ亭”卓はデラウェアです。なお、デラウェアを落とす意図はありません。デラウェアはデラウェアで美味しいですよね(笑)
一同:確かに(笑)
エドガー:オリンピアは食事をしている?
GM:していますが、非常に小食です。ジェーン婦人が取り分けたものを前においても、一口食べるか食べないか程度です。
 スパランツァーニたちの卓には1つ空席があります。食事を始めて少しすると、“鉈宿”組のテーブルに近づく人物がいます。スパランツァーニは立ち上がって両腕を広げ、その人物を出迎えます。
エドガー:どんな人物ですか?
コッポラGM:銀髪の背の高い人物で、ぱっと見た感じは性別不詳です。しかしスパランツァーニに挨拶する声は深く低いものなので、きっと男性なのでしょう。スパランツァーニは彼のことを「コッポラ」と呼びます。コッポラがオリンピアを見て、「……コレが?」と問うと、スパランツァーニは満面の笑みを浮かべて「そう! そうなのだよ!」と頷きます。
エドガー:……“コレ”って言った?
エドワード:そう言ったねえ。
GM:用意されていた空席はコッポラのためのものだったらしく、彼はそこに座ります。ただし、彼はまったく食事には手をつけません。シェリー酒を頼んで、それを一口飲んだだけです。コッポラは両手に乗るほどの大きさの、錠前つきの木製の小箱を取り出すと、それをスパランツァーニに渡します。(コッポラ)「これが依頼されていたものだ」
エドワード:これを受け取ることがケンブリッジでの用事でしょうかね?
エドガー:小箱?……何だ?
GM:小箱を受け取ると、スパランツァーニは貨幣が入っていると思われるずっしりとした袋をコッポラに渡します。
エドガー:袋にはどれくらい入っていそうですか?
GM:少なくとも、皆さんへの報酬合計額よりも多そうです。すると突然オリンピアが歌い出して、レストランの客からも「おお、何だ、何だ?」と声が上がります。歌自体は抜群に上手いので、変な野次が飛んでくることはありません。
エドガー:コッポラの反応は?
GM:コッポラはチラリとオリンピアに目を向けただけで、動じた様子はありません。例によってオリンピアが突然歌うのを止めると、コッポラが拍手をして、周りの客もそれにつられるようにまばらに拍手をします。(コッポラ)「素晴らしい、実に素晴らしい」
エドガー:なるほど。
GM:コッポラは先ほど受け取った袋の中から、無造作に貨幣をつかみ出して、じゃらっとテーブルの上に積みます。(コッポラ)「ここの勘定は私が持とう」それだけ言うと、彼は立ち上がってレストランの出口へと向かいます。去り際に振り返ると「スパランツァーニ、君の企ては素晴らしいが、彼らを甘く見過ぎない方が良いぞ。それと、アーサーによろしく」と言い残して姿を消します。
エドガー:コッポラの言葉を聞いて、スパランツァーニはどんな様子ですか?
GM:頷くでもなく、真面目な顔をしてコッポラを見送ります。
エドガー:特に怒ったりしている様子はないわけですね。……何か心当たりがありそうだな。
エドワード:ふ~む。
エドガー:コッポラを「何者なんだ」とは思いますけど……彼はどのような服装でしたか?
GM:そうですね――ジョン(※スペイン風邪罹患中)の服装と似ていたかもしれませんね。おそらくクロックワーク技師でしょう。
エドガー:年齢的にはスパランツァーニの方がかなり上に見えるけど、話しっぷりは対等だったよね。先生と生徒ってわけではなさそうだね。渡していった箱の中身はクロックワーク機械なのかもしれませんね。

 ここでもジョンの不在が響き、受け取ったクロックワーク部品(?)の正体の確認手段がない冒険者たちなのでした。これも後々響いてきますので、乞うご期待。