オックスフォードをみまった災厄


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エドマンド・ハイド卿ゲームズ・マスター(以下GM):エドワードは前回の最終バトルでぺちゃんこになってしまったので、王党派の首都オックスフォードにある自宅に戻って静養しています。
エドワード:(笑)
エドガー:紙みたいにヒラヒラになっちゃいましたからね(笑)
GM:エドワードの父親のエドマンド・ハイド卿が空気入れで膨らませて元に戻してくれました。エドマンド卿はエドガーの顔を見て「き、君は、まさか……いや、何でもない、忘れてくれ」と設定回収的な発言をします(※キャラクター作成時のランダム・イベントにより、エドワードとエドガーは、本人たちは知りませんが、双子という設定です)
エドガー:何か見覚えがあるわけですね。
GM:エドワードが静養している間、エドマンド卿の屋敷にツァツァマンク国から学者が訪れていて、ベッドの上で暇を持て余すエドワードと付き添いのエドガーにアラビア語を教えてくれたということにしましょう。

 今回のシナリオは〈言語(アラビア語)〉技能の有無でかなり難易度が変わるので、エドワードとエドガーは不承不承ながらアラビア語の学習に成長ポイントをつぎ込みました。なお、ヴァレリィはハイド邸の中庭で反復横跳びを繰り返し、〈回避〉技能を修練しました。

 オックスフォードは大学都市ですが、戦争で王党派の貴族や軍隊が押し寄せ、カレッジの大部分を占拠しています(教育は小規模に続行)。市民の多くは議会派支持のピューリタンで、反王党派です。もともと大学関係者(主にカトリック信者)と市民の間に軋轢があり、大量の王党派流入で緊張が高まっています。カレッジの出入りは管理され、相互の行き来も制限中。王党派の最高指導者プリンス・ルパートクライスト・チャーチ・カレッジに宮廷を構え、政治を行っています。


GM:状況はそんな感じです。ヴァレリィはハイド邸にいるよりも、市民に混じって生活しています(※ヴァレリィの派閥は“ピューリタン”)。彼女は医者なので、引く手あまたですからね。
エドガー:信仰的にもその方が居心地良いのか。……ジョンは?(笑)
GM:彼は病気が長引いてまだロンドンにいます。この時代のスペイン風邪は本当にヤバイですからね。熱に浮かされて奇矯な行動したおかげで癲狂院に入れられてしまっています(笑)
エドワード:長患いですな。2シナリオに参加できないくらいですから(笑)
エドガー:相当ヤバイな(笑)
GM:エドワードの身体が膨らんで、体調も戻ってきた頃、エドマンド卿が仕事を斡旋してくれます。エドマンド卿が懇意にしている人物にレジナルド・パーキンソン卿がいます。レジナルド卿はプリンス・ルパートに直接助言をできる立場にいる王党派の重鎮で、錬金術師でもあります。レジナルド卿はオックスフォード大学で錬金術を教えていたので、エドワードは彼の元教え子だったということにしましょう。
エドワード:ほう。
GM:(エドマンド卿)「レジナルド卿が、仕事を請け負ってくれる人材を探しているとのことだ。傷も癒えた頃合いだろうから、話を聞いてみたらどうだ?」
エドワード:「分かりました、父上。行ってみましょう」
GM:うかがう旨の返答をすると、皆さんはすぐにレジナルド卿のタウンハウスへと招待されます。もちろんヴァレリィも合流します。(エドマンド卿)「レジナルド卿は王党派の重鎮でもあるので、失礼のないようにな」
エドガー:「分かっております!」……確かに、何か粗相とかありそうだよな(笑)
レジナルド・パーキンソン卿GM:指定されたタウンハウスに行くと、レジナルド卿に出迎えられます。「よく来てくれた。まずは食事をしよう」ということで、ダイニング・ホールに通されてみんなで食事をします。食事の後、書斎に移動して仕事の話となります。
エドガー:はい。
GM:各々席に身を落ち着けると、レジナルド卿はパイプをくゆらせながら話を始めます。「このような俗世のことを話し合うために集まってもらって申し訳ないのだが、君たちに協力してもらいたい仕事があるのだ。その前に、慎重に行動し、私の許可なしに私の求める捜査の結果で判明したことを公にしないよう、誓ってもらいたい」
エドガー:「もちろんです。依頼を受けるからには」
エドワード:「守秘義務は厳守します」
GM:レジナルド卿は満足して頷き、話を続けます。

 レジナルド卿が話した内容はおおよそ以下の通りです。
 数週間前、ブレイズン・ノーズ・カレッジの礼拝堂でカトリック司祭が祭壇で殺害される事件が発生しました。反王党派に付け入る隙を与えないよう、スキャンダル回避が重視されています。カレッジの校長の指示で内部捜査が行われましたが、担当捜査官も死亡し、行政当局も手一杯です。そのため、カレッジは公平で鋭い捜査を行い、可能なら犯人を逮捕できる人材を探しています。


GM:レジナルド卿はカレッジ校長のサミュエル・ラドクリフと懇意にしていたことから、この事件を捜査してくれる人物を探してくれるように依頼されたのですが、事件については概要を知るだけなので、「詳しくはラドクリフ校長に会って聞いてくれ」ということになります。レジナルド卿からは紹介状がもらえます。この紹介状があれば、特別に立入禁止となっている場所を除く、合理的に立ち入りができると思われる場所へ入場することができます。つまり、カレッジに出入りできます。
エドガー:エドワードの口からは言いづらいと思うので、私から言いますが「この仕事を受けることで、どのような報酬をいただけるのでしょうか?」
GM:レジナルド卿は大金持ちなので、気前の良い報酬がもらえます。「ふむ……3人合わせて300シリングくらいでどうだ?」
エドガー:本当に!? 1人当たり100シリングも!?
GM:どのように按分にするかは別として、グループとして300シリングを約束してくれます。
エドガー:「ありがたく引き受けさせていただきます!」ほかに何か聞いておきたいことはありますか?
エドワード:ん~、特にないかな。まずはカレッジに行って、校長に話を聞いてみましょう。

ライン

 ブレイズン・ノーズが正式にカレッジとして設立されたのは前世紀になってからですが、中世初期から学問の場として存在し、現在も印象的な複合建築物を誇っています。教員の宿舎や図書館、食堂、小さなチャペルがあり、講義や研究に利用されています。現在は正門からのみ出入りが許され、警備員が監視を行なっている状況です。


GM:正門の両脇にはハルバードを持った兵士がいて、警備に当たっています。近づくと「待て、待てい! 現在カレッジへの進入は禁じられている!」と止められます。
エドガー:レジナルド卿からもらった紹介状を提示して「特別な依頼により、うかがっています」
グリップス軍曹GM:すると兵士たちは何かを小声で話し合った後、「しばし待たれよ」と言って1人がカレッジの奥へと走っていき、もう1人の別の軍人を連れて戻って来ます。(軍人)「カレッジ警備隊のグリップス軍曹であります。レジナルド卿からの使いの方が来ることは聞いております」
エドワード:「それならば話が早い」
エドガー:「早速ですが、ラドクリフ校長にお会いできればと思うのですが」
GM:(グリップス軍曹)「分かりました。ご案内いたしましょう」連れ立ってカレッジの中を歩いて行きます。道すがら、グリップス軍曹は自分が亡くなった前任のランジワース大尉に代わって、警備隊の責任者をしていると話します。
エドガー:「亡くなられた大尉についてうかがえますか?」
GM:(グリップス軍曹)「善良でしたが、実際には兵士向きの方ではありませんでした。残された夫人は不幸ですな。彼は殺人犯の捜索をしていました。校長は司祭殺人事件について、人に知られたくないのだと思います。ブレイズン・ノーズはほかのカレッジからも、カレッジ自体の学生からも、町の住民からも良く言われてはいませんので」
エドガー:殺人事件が露見することは、そんなにマズイことなの?
GM:聖職者が殺害されているので、それは悪魔崇拝者たちがやったことだと、痛くもない腹を探られる可能性があります。カレッジ内に悪魔崇拝者がいるとなれば、多方面からいらぬ詮索や干渉を受けることになりかねません。現代の我々が思うより、これはずっと深刻な問題です。
エドガー:なるほど。
GM:(グリップス軍曹)「しかし、私にはどれも正しい判断とは思えません。あの裏切り者のグリーンウッドを除けば、カレッジは充分に堅実に思えます。とにかく、礼拝堂は封鎖され、検視官が出入りし、重罪人を追い詰めるのは大尉に任されました。私は現場検証には立ち合いませんでしたが、司祭の遺体の運び出しを担当しました」
エドワード:でも、その大尉は死んでしまったんじゃなかったっけ?
GM:(グリップス軍曹)「大尉は病気になりました。司祭の遺体を発見した朝、彼はとても具合が悪そうでした。彼が亡くなったのは、確か1、2週間前です。それに、まだ他にもあります。まったく気にしていませんでしたが、兵士の内の1人か2人が、殺人のあった晩に大尉が見回りをしているのを見た覚えがあると言っていて……彼を墓場に追いやったのが、自責の念でなければ良いのですが」
エドガー:自分が見回っていた晩に殺人事件が起こって、気に病んで死んでしまったのではなければ良いのにってことか。ランジワース大尉の具合が悪くなったっていうのは、殺人事件の後?
GM:そうです。時系列的に言うと、司祭が殺されたのは5週間前、ランジワース大尉が死んだのは2週間前です。
エドガー:ランジワース大尉が療養していたのはどこ?
GM:大尉はオックスフォード生まれなので、市街のアパートに住んでいて、療養していた場所はその自宅です。カレッジにも専用の宿舎があるので、殺人事件の夜はそこにいました。
エドガー:なるほどね。
GM:グリップス軍曹は声をひそめて続けます。「司祭は礼拝堂内で刺殺体で発見されました。死因は剣による刺傷で、犯人は剣術の心得がある人物と推測されます。事件は前夜に起きたと考えられ、門番や衛兵に聞き込みをしても有力な証言は得られませんでした。現場は荒れ果て、扉は蝶番から外れていて、恐ろしい雰囲気でした」
エドガー:犯人は戦いに慣れている人物の可能性が高いのか。カレッジへの出入りが統制されているとなると、剣を扱える人物はかなり限られてきますよね。
エドワード:うん。
エドガー:「扉が壊れていたということですが、どのような状況でしたか?」
GM:(グリップス軍曹)「扉は、まるで礼拝堂内部から大きな力を加えられたかのように、外側に向かって吹き飛ばされていました」
エドワード:「司祭の人となりで知っていることは?」
GM:(グリップス軍曹)「ゴードン・ブリトン司祭とは関わったことはありません。礼拝堂はカレッジの学者たちのためのものでしょう? 我々には専門の従軍司祭がいますし、礼拝も別々に行なっています」
エドワード:「司祭については大学関係者に聞いた方が良いってことか」
GM:(グリップス軍曹)「その方が良いでしょう」

ライン

サミュエル・ラドクリフ校長GM:校長室の扉の前でグリップス軍曹が声をかけると、「入ってくれたまえ」と返答があります。中に入ると60台半ばに見える男性、サミュエル・ラドクリフが皆さんを出迎えます。〈知識(地域)〉ロールをしてください。他国出身のエドガーは-40%です。
エドワード:(コロコロ……)成功です。
GM:地元のエドワードは知っていますが、それなりに人気のある校長です。ただし、彼がカレッジを率いている間に財政破綻に追い込まれています。戦争初期に王党派への支持を表明していて、戦費調達のためにカレッジのプレートなどを売却してしまっています。「まあ、かけてくれ」ということで椅子を勧めて、全員が落ち着くと彼は経緯と状況を話し始めます。

 サミュエル・ラドクリフ校長の話の要点は以下の通りです。

  • 早朝、カレッジの使用人ベス・ホースナーが血まみれの床と司祭の死体を礼拝堂で発見。
  • 怯えたベスがラドクリフ校長に報告し、彼は確認のため現場へ急行。途中、警備責任者ランジワース大尉に同行を依頼し、上級フェローのダニエル・グリーンウッドも興味を持ち加わる。
  • 礼拝堂で惨状を目の当たりにし、一同衝撃を受ける。元医師のランジワース大尉ですら気分を悪くするほどで、司祭は胸から大量の血を流して絶命していた。

エドガー:「礼拝堂自体に変わったところはありませんでしたか?」
GM〈洞察〉ロールをしてください(2人とも成功)。校長には何かを言い淀んでいる様子が見られますが、それを明かす雰囲気はありません。
エドガー:なるほど。何か隠したいことがあるってことが分かっただけでも収穫です。「第1発見者の使用人から話を聞くことはできますか?」
GM:(ラドクリフ校長)「もちろんだとも。呼びに行かせよう」ということで、しばらくすると怯えた様子の少女、ベス・ホースナーが校長室にやってきます。校長に促されますが、彼女の話したことと言えば、「朝、厨房に仕事に行く途中、壊れた礼拝堂の扉に気づき、中を覗き込んで死体を見た。校長の宿舎に駆け込み、事故/犯罪を報告した」という程度のものです。
エドワード:特に追加の情報はありませんな。
GM:ベスにはこれ以上言えることはないので、校長は彼女を下がらせて、話を継ぎます。「この件については、ジョン・ランジワース大尉が責任を持って捜査した。しかし、目撃者がいないため、あまり進展はなかった。学生たちやゲストたちが校内でトラブルを起こさないように、夜間外出は禁止されている。すべては静まり返り、何か異常を報告した兵士はいなかった。できればこの問題を片づけてほしいのだが……。それに――心配なのだ。私たちは“重要な日”を控えている。だからこれ以上は言えないが、静かに、静かに、慎重に頼むよ」
エドガー:“重要な日”というと、カレッジや王党派のイベントがあるとか? 突っ込んで聞いちゃいますか。「“重要な日”とは、何かカレッジとしてのものですか?」
GM:(ラドクリフ校長)「……ふぅ。“カレッジとして”くらいで済んでくれれば良かったのだが……」
エドワード:「ん?」
GM:(ラドクリフ校長)「この件については、これ以上話せない。とりあえず、これから重要なイベントがあるので、その前に本件のような懸念事項は払拭しておきたいのだ」
エドワード:話を変えて、司祭について聞いてみましょう。
GM:(ラドクリフ校長)「彼は素晴らしい人物だった。とても残念だ」ゴードン・ブリトン司祭は“議論を醸すような人物ではなく”、どちらかというと“退屈な人物”であるという、ラドクリフ校長が理想とする人物だったそうです。司祭は未婚でカレッジ内に住み、特に悪癖もなかったとのことです。
エドガー:「ランジワース大尉は病死とお聞きしましたが……」
GM:(ラドクリフ校長)「ランジワース大尉は元学生で医者志望だったが、戦争で学業を中断した。司祭殺人事件の捜査に関わったが、その最中に体調を悪くして、結局戻らなかった。彼の妻は涙ながらに夫の不在を詫びたが、彼は熱か何かで亡くなった可能性が高い」
エドガー:あともう1つ。「ダニエル・グリーンウッドというのはどういう人物ですか?」
GM:校長は舌打ちをします。「ダニエル・グリーンウッドは次期校長の座を狙っている長老派(=ピューリタン)で――私たちの間には敵意がある。彼は私の座っている椅子を欲しがっているが、それを得ることはできまい。彼は嫉妬深いトラブルメーカーだ。しかし、政治的な違いはあっても、学者仲間とは何とかやっていけるものだ。哀れな司祭に会いに行ったとき、彼も一緒に来てくれた。彼は充分に有能な上級職で、充分に頭の回転の速い学者だ。しかし、私は彼を少しも信用していない」
エドガー:「グリーンウッド氏に話を聞くことはできるのでしょうか?」
GM:(ラドクリフ校長)「彼も忙しくしているだろうが、居場所を教えることはできるから行ってみてはどうだ?」
エドワード:では、まずは関係者からの聴取ということで行ってみましょう。

ライン

ダニエル・グリーンウッドGM:グリップス軍曹に案内されてダニエル・グリーンウッドの所へ向かいます。40代半ばの男性で、面倒くさそうな顔で出迎えます。「忙しいので手短してくれたまえよ」
エドガー:「司祭殺害の件でお話を伺いたいのですが」
GM:するとグリーンウッドは一段声を低くして「ふむ……その件か」と辺りを見回して、立ち聞きされないように気を配ります。なお、ヴァレリィと彼はピューリタン式の挨拶(※バルカンサイン)を交わしています。「長寿と繁栄を」
一同:ないないない(笑)
エドガー:「殺人現場の礼拝堂に校長たちと一緒に行ったとのことでしたが、何か不自然なことには気づきませんでしたか?」
GM:(グリーンウッド)「あの血の騒ぎはちょっとひどかった。あまり見て回らずに、私は急いで外に飛び出してしまったのだ」〈洞察〉ロールをしてください(2人とも成功)。彼は何らかの嘘を言っているようです。
エドガー:「扉が内側から吹き飛ばされていたと話を聞いたのですが、そのようなことを起こしうる方法について、何か心当たりはありますか?」
GM:(グリーンウッド)「……祭壇に、何やら奇妙な印がチョークで書かれていた。ここだけの話にしてくれ――悪魔崇拝者たちが隠れているなどという悪評がなくても、ラドクリフが校長になったことで、カレッジは大いに悪化している。ショックだよ、本当に、司祭があのような……」
エドガー:校長が言い淀んでいたのはこのことかもしれませんね。ということは、印を見ているのは最初の3人(※ラドクリフ校長、グリーンウッド、ランジワース大尉)か。
GM:グリップス軍曹はそのような印を見ていないので、校長か大尉が消してしまったのかもしれません。
エドワード:司祭の人となりについて聞いてみます。
GM:(グリーンウッド)「退屈な男。やる気のない説教者。それ以外のことはほとんど知らん」グリーンウッドは長老派ですから、カトリックの司祭であったゴードン・ブリトン司祭と付き合いがなかったのは不自然ではないですね。なお、グリーンウッドは街中にある教会に通っているそうです。
エドワード:「ラドクリフ校長から聞いたのですが、“重要な日”が控えているとのことですが、何かご存じですか?」
GM:「校長はそのようなことまで言ったのか……。そう、重要なイベントがあるが、詳細は教えられない。君たちもあまり口外しないでくれたまえ」この件について、ラドクリフ校長は気の進まない表情を、グリーンウッドは誇らしげな表情を浮かべていたように感じます。
エドガー:なるほど……。
エドワード:宗教絡み?
エドガー:グリーンウッドにとっては校長の椅子に座るのに近づくイベントなのかもしれませんね。もう聞くこともなければ、次は事件現場に行ってみましょう。