1.導入

 ある夜、眠っていたPCに大いなるクトゥルフ神より夢が送られてきます。夢の内容は「ある村へ行き、そこで教団を組織し、村民を改宗させて教団に引き入れ、その村をディープワンの聖地とせよ」という指令でした。

 夢から覚めたPCは、ある者は列車に乗って、またある者は暗い深海を泳いで、目的地へと向かいます。
 目的地は「シュミントン村」。
 かつてクトゥルフ神を崇拝する教団が支配し、そして叛乱した村民によって奪われた、ディープワンの聖地です。
 PCたちはシュミントン村を奪還し、再び聖地とするためにダゴン招来の儀式を行わなくてはなりません。



2.教団を組織する

 シュミントン村に集合したPCはリーダーを決め、そのリーダーの下に秘密の教団を組織しなければなりません。PCに偉大なるディープワンがいる場合、そのキャラクターが教団のリーダー(司祭)になります。偉大なるディープワンがいない場合は話し合いでPCの中から司祭を決めてください。NPC(マルグレーテ、グァオン:後述)が司祭になる事はありません。司祭となったPCにはその証に三重冠(後述)がマルグレーテより贈られます。
 また、後述のアイテム「深海の短剣」を与えられる“聖なる執行者”が選ばれます。“聖なる執行者”はダゴン招来の儀式で重要な役割を果たす侍祭です。司祭が兼務しても構いませんが、別のPCを指名した方が儀式のシーンが盛り上がるでしょう。

 教団を組織するに当たって助けになってくれるのはシスター・マルグレーテです。マルグレーテはPCと目的を同じくする工作員であり、シュミントン村における最大の情報源です。身を隠して行動しなければならないキャラクター(ディープワンのPC等)を匿ってくれる協力者でもあります。マルグレーテに関しては、後述の「修道女派」の項目を参照してください。



3.舞台背景

 PCによって組織された教団は、以下の舞台設定の中で自由に行動し、教団の信者を増やしながら、最後にダゴン招来の儀式を執行しなくてはなりません。
 キーパーは舞台の設定をよく理解し、PCの行動に対して臨機応変に対応してください。


【シュミントン村】(地図)
 海沿いの漁村です。中型船3隻による漁業が主な産業であり、村民のほとんどが漁業従事者です。教育施設(学校)がないため、学生は朝夕2便だけのバスに乗って近くの町の学校に通っています。村には雑貨屋を兼ねた宿が一軒ありますが、村に立ち寄る旅行者などほとんどいないため、いつも「空室あり」の看板が出ています。

 シュミントン村はかつて、クトゥルフを信奉する教団によって支配されていました。村の中をディープワンやその混血児たちが我が物顔で跋扈する不浄の拠点だったのです。
 ディープワンの司祭による呪われた治世は長らく続きましたが、今から50年程前、ネッド・フィッシャーという名の漁師を中心とした人間たちの蜂起によって、村はクトゥルフ教団の支配から解放されました。現在は外部からの住民を積極的に受け入れて、ディープワンの血をほぼ根絶しています。今ではクトゥルフ教団の呪われた治世を知る者はごくわずかしかいなくなりましたが、ディープワンやその呪われた眷属に対する話題は未だに禁忌とされています。

 解放後50年に渡って平穏な日々を刻んでいたシュミントン村でしたが、半年ほど前からちょっとした騒動が持ち上がっています。
 村外れにあった無人の教会に一人の修道女が派遣されてきて、そこに住み始めました。マルグレーテと名乗るその修道女は、都会育ちで洗練された物腰の、若く、類稀な美貌の持ち主でした。村の若者数名が彼女に興味を抱き、頻繁に教会へと足を運ぶようになります。間もなく、マルグレーテは若者の溜まり場となっているパブへと顔を出すようになり、そこで若い女性たちとも親しくなりました。マルグレーテは何度か大漁の日を予言して若い漁師たちの信頼を得、女性たちには都会風のファッションや化粧の仕方などを教えて信頼を勝ち取っていきました。
 しかし、そんなマルグレーテの事を良く思わない者がほとんどでした。網元エドワード・フィッシャーを中心とした古くからの村民たちは、マルグレーテの持ち込んだ煌びやかさを良しとしなかったのです。
 ここにエドワードを中心とした「網元派」とマルグレーテを中心とした「修道女派」の2つの派閥が誕生し、控えめながらも反目するようになりました。エドワードの跡取り息子であるペリーが親修道女派の筆頭であることも事態をややこしくしている一因です。
 網元派と修道女派のどちらにも属さず、両派閥の緩衝材の役目を果たしているのが村長のヘニング氏です。彼の取り成しがなければ、シュミントン村は壮絶な派閥争いでバラバラになってしまう事でしょう。

 以上が舞台となるシュミントン村の現状です。
 本シナリオでは便宜的に村の人口を50名とします。


【網元派】
 シュミントン村の大多数を占めるのが、漁業を司る網元であるフィッシャー家を中心とした網元派です。村にある3隻の漁船はすべてフィッシャー家の所有となっており、村民の大半はフィッシャー家の使用人として漁業に従事している格好になります。

 現在の網元であるエドワード・フィッシャーは、50年前に村を開放した英雄ネッド・フィッシャーの息子です。エドワードは漁業組合の役員として漁師たちを束ね、自らも船長として船に乗り込んで漁業に従事しています。気難しい人物ですが村民からの信頼は厚く、シュミントン村における発言権は村長に比肩します。ただ、エドワードは村の運営にはあまり関わらず、もっぱら漁業関連の事柄に対してのみ口を出すようにしているようです。

 エドワードの邸宅は浜辺に近い場所に立っています。この邸宅の地下は海底から続くトンネルと繋がっており、そのトンネル内の一室に、かつてこの村を治めていたディープワンの司祭のミイラが残っています。フィッシャー家がこの村を開放した証として、この気味の悪いミイラが残されているのです。ミイラの存在はエドワードの他、ジェイク、ウィリアムといったごくわずかなフィッシャー家の人間にしか知られていません。

 現在のフィッシャー家の悩み事は、村外れの教会に住み着いた修道女の存在です。網元の下に団結していた村民の一部が修道女に組みする派閥を作って、村を騒がす火種にはならないかと憂慮しています。特に、エドワードの長男であり、行く行くは網元の座を継ぐ事になるペリーが修道女に入れあげている事は悩みの種です。

 シュミントン村奪還のための最大の障害が網元派です。網元派からどれだけの人数を引き抜けるかがミッション達成の鍵になります。
 他の村民への影響力を考えればエドワードを仲間に引き入れることは大変有効な手段ですが、解放の英雄の子孫である事に誇りを持っているエドワードを説得する事は不可能でしょう。しかし、フィッシャー家は人数が多いので、つけ込む隙もまた多いはずです。
 エドワードが信頼を寄せる従兄弟(ジェイクやウィリアム)を篭絡したり、エドワード自身の家族を人質に取ったりすることが有効かもしれません。
 また、エドワードは孫であるローラ・F・バーガーを溺愛しているので、彼女を利用すればエドワードの頑なな態度を崩す事が出来るかもしれません。ローラは解放の英雄ネッドの直系の子孫であるため、儀式の際の生贄としても高い価値をもつキャラクターです。
 エドワードの跡取りでもあるペリーは最初から修道女派であるため、彼を上手く仲間に引き込めば網元派の取り崩しも容易になるかもしれません。同じく修道女派のニナはエドワードの姪に当たるキャラクターです。彼女を仲間に引き入れておけば何かの役に立つでしょう。
 どれも上手くいきそうにない場合、エドワードの殺害という手段もありえます。

網元派の主な人物
 エドワード・フィッシャー(網元)
 ウィリアム・フィッシャー(エドワードの従兄弟。網元派ナンバー2)
 ジェイク・フィッシャー(エドワードの従兄弟、網元派ナンバー3)
 ローラ・F・バーガー(エドワードの孫。ペリーの姪(ペリーの姉の娘)。生贄価値20%)
 ピエール・シャントラン(エドワードの義弟、ニナの父親。漁業組合事務局長)


【修道女派】
 つい半年ほど前に村に住み着いた修道女マルグレーテを中心に、村の若者たちで構成されているのが修道女派です。ボストンから来たと語るマルグレーテの洗練された物腰と美貌は、退屈な漁村に新しい風を吹き込みました。ただ、その風によって村の安穏とした空気が乱されたことも事実です。修道女派は露骨に網元派と対立する事はありませんが、網元派が過剰に意識している事もあり、村内では歓迎されている派閥ではありません。

 マルグレーテは本名をピア・マーシュといい、インスマスのマーシュ家に縁のある人物です。PCたちに先駆けてシュミントン村へ送り込まれた工作員であり、半年間に渡って村の情報を収集していました。その過程でペリーやニナという村の若者たちと親しくなり、村の支配権を取り戻す足がかりを作りました。<魚を呼び寄せる>呪文を使って大漁となる日を何度か「予言」しており、この実績から若い漁師たちの信頼を勝ち得ています。また、その都会的なセンスは停滞気味の村の雰囲気に飽いた若い女性たちに評判が良く、数名の村娘が彼女をファッション・リーダーとして崇めています。
 修道女派は網元派に比べると規模が小さく、村政への影響力はほとんどありません。しかし、村の名家であるフィッシャー家の跡取り(ペリー)や漁業組合事務局長の娘(ニナ)が擁護についているため、村内では無視できない派閥となっています。

 修道女派の拠点となっているのは村に一軒だけあるパブです。マルグレーテは修道女であるにもかかわらずパブに頻繁に出入りするため、若者たちに人気があり、古くからの村民からは白い目で見られています。
 マルグレーテが住居としている村外れの教会では毎週日曜日にミサが行われていますが、参加者は多くありません。教会の地下にはトンネルが掘られており、直接海岸へと抜けられます。つまり、ディープワンのPCであっても見咎められる事なく教会建物内に入る事が可能です。

 シュミントン村奪還のために、修道女派に組みする10人の若き村民(マルグレーテ含む)の利用価値は小さいものではないでしょう。若者たちを教団に引き入れても良いですし、生命を脅かして強引に従わせるという選択もあります。
 村の若者の代表とも言える、網元エドワードの息子ペリー・フィッシャーは重要な鍵を握る人物です。ペリーをどう利用するかで、展開は大きく変わってくる事でしょう。ペリーはマルグレーテに対して強い好意を持っているので、マルグレーテが誘惑すれば容易に操ることができます。また、ペリーは父親エドワードに反発しているので、これを利用しても良いでしょう。ペリーを仲間に引き入れられれば、修道女派の残りの若者たちを篭絡するのは容易になります。
 ニナ・F・シャントランはフランスへの留学経験をもつ才女です。しかし、両親の意向で今はシュミントン村に帰ってきています。ニナはシュミントン村を嫌っており、都会的な匂いのするマルグレーテとはよく話が合います。しかし、ニナはペリーほど盲目的にマルグレーテを信頼してはいないので、対応には慎重さが求められます。気の強い女性ではありますが、暴力に対しては全くの無力です。APPの高い「人間」の男性PCが誘惑を成功させる展開もあるでしょう。修道女派の残りの娘たちは盲目的にニナに追随してしまいます。
 修道女派を教団に引き入れるにはペリーとニナの二人を利用する事が一番の近道です。

修道女派の主な人物
 ペリー・フィッシャー(網元の息子)
 ニナ・F・シャントラン(漁業組合事務局長の娘。網元の姪。生贄価値10%)


【村長家】
 網元派にも修道女派にも肩入れせずに、中立の立場を貫いているのが村長ライオネル・ヘニングです。
 村の中央広場に面した場所で雑貨屋兼宿屋を経営しており、村内外の交渉事は全てヘニング氏が取り仕切っています。そのため、村民からは一目置かれており、派閥に属さないにもかかわらず、多大な影響力をもっています。

 ヘニング氏は前村長(故人)の娘と結婚する事によって今の地位を受け継ぎました。妻との間に一人の子供をもうけましたが、呪わしくも不浄の血の正当な継承者であるかのごとく、その子――フランチェスカ――はインスマス面をした醜い女児でした。自分が生んだ娘が醜悪な怪物との取替え子だと知ったヘニング氏の妻は、生来の体の弱さも祟って、間もなく病死します。
 長じても自分にも亡妻にも似てこない醜い娘を愛する事ができなかったヘニング氏は、14年前に二人目の妻を娶ります。二人目の幼な妻ガブリエラは村でも評判の美しい娘であり、間もなく生まれたヘニング氏にとっての二人目の子供・ジャクリーンも母親の血を正当に受け継いだ可愛らしい女の子でした。ヘニング氏の愛情は全て美しい母娘に対して向けられるようになり、醜い魚面の長女フランチェスカは以前にも増して疎まれるようになりました。しかし、前村長のたった一人の孫娘という特殊な立場にあるフランチェスカを追い出す事も出来ず、ヘニング氏はフランチェスカに金だけを与えて家族の絆としていました。父親から愛情を注がれずに育ったフランチェスカの精神は捻じ曲がり、その歪んだ憎悪は血の繋がらない母親のガブリエラと妹のジャクリーンに対して向けられています。

 歪んだ心のフランチェスカは、シュミントン村で一番の鼻つまみ者です。村長家の長女という地位を振りかざして、村内で我侭の限りを尽くしています。気の弱いガブリエラやジャクリーンを怒鳴りつけている現場も良く目撃されていますが、ヘニング氏はそんな長女を気にするどころか、全く無視してやりたい放題にさせています。まるで、係わり合いになりたくない、とでもいうような態度です。
 村長家の取り崩しには、身も心も歪んだこのフランチェスカを利用する事が有効かもしれません。単純にガブリエラやジャクリーンを脅迫のネタに使う事も、二人を溺愛するヘニング氏に対しては有効な手段でしょう。
 また、次女のジャクリーンは修道女派の筆頭であり網元の息子でもあるペリー・フィッシャーに好意を持っています。ペリーを仲間に引き入れた上でジャクリーンを崩しにかかる展開もあるかもしれません。

村長家の主な人物
 ライオネル・ヘニング(村長)
 ガブリエラ・ヘニング(ライオネルの二人目の妻。生贄価値10%)
 フランチェスカ・ヘニング(ライオネルと先妻との間に生まれた娘。魚面の美女)
 ジャクリーン・ヘニング(ライオネルとガブリエラの間に生まれた娘。生贄価値15%)


【古老ロン・アレン】
 ロン・アレンはシュミントン村の最長老です。50年前のネッド・フィッシャーの蜂起から始まった「ディープワン狩り」に直接参加した人物では唯一の存命者です(エドワードたちは、当時はまだ幼いという理由で「ディープワン狩り」には参加しませんでした)。しかし、その当時の激しい戦いがアレンをすっかり臆病者へと変えてしまいました。今のアレンは大昔の恐怖を思い起こしては震えている酔っ払いです。

 重度のアルコール中毒者ではありますが、村に隠された秘密を知り尽くしているのは、間違いなくアレンです。フィッシャー家の地下にあるディープワンの司祭のミイラ、フローク夫妻が隠し持つダゴン像、海岸から村の地下へと通じている無数のトンネル、禁忌の小島に隠された祭壇の存在等、忘れ去られようとしているディープワンの爪痕を余す事なく記憶しています。

 ロン・アレンは『インスマスを覆う影』に登場するザドック・アレンと似たような役所のNPCです。しかし、インスマスのザドックが「呪われた漁村からの脱出」を助長する情報源であるのに対して、シュミントン村のロンは「(不浄の)聖地の復権」を助長する情報源になります。二人のアレンの大きな違いはここです。
 ロン・アレンは若者の集うパブの片隅でブツブツと独り言を言いながら酒を飲んでいるか、海を眺めながら身を震わせています。

 この老人は消極的に網元派に属していますが、ディープワンのPCを利用するなどして昔の恐怖を思い出させてやれば、すぐにでも教団の言いなりになります。また、アルコールに強く依存しているため、酒を恵んでやれば容易く秘密を聞き出す事が出来るでしょう。他の村民に対する影響力はまるでなく、暴力的な事柄には全く役に立たない人物ですが、シュミントン村の過去と秘密を知る上では、最も役立つ人物です。


【フローク夫妻】
 村の外れにあるほとんど使われる事のない灯台の脇に、粗末な小屋を建てて住んでいる夫婦がいます。醜い「インスマス面」をしているために村民から忌み嫌われているドノバンとジェシカのフローク夫妻です。その蛙じみた容貌から「フロッグ(蛙)夫妻」と蔑称されています。

 夫のドノバンは凄腕の漁師であるため漁船に乗せてもらっていますが、それに見合うだけの報酬は貰っていません。しかし、シュミントン村で生きていくためにはフィッシャー家に従わざるをえないため、最低限の報酬にも文句を言う事なく働いています。
 妻のジェシカも他の村の女たちと親しくする事なく、大人しく夫の世話をしているだけです。

 フローク夫妻は村民と必要最小限の接触しか持たないため、マルグレーテでさえ面識がありません。しかし、フローク夫妻はダゴンを崇拝している隠れ教徒です。自分たちが崇めているモノが何であるかは完全には理解していませんが、その信仰心は盲目的と言えるほど純朴です。夫妻は自分たちの信仰が弾圧対象となる事を理解しています。

 フローク夫妻を教団に引き入れる事は難しくありません。混血児のキャラクターが勧誘すれば心を動かすでしょうし、ディープワンのキャラクターを見れば神(ダゴン)の使者として伏し拝みさえするでしょう。フローク夫妻が仲間になれば、村における拠点として小屋を提供してくれます。また、小屋には磨耗したダゴン像が安置されています。かつて、シュミントン村がディープワンの支配下にあった時から、代々受け継がれてきた神像です。このダゴン像はクライマックス時の<ダゴン招来>呪文の成功率に+5%のボーナスを与える効果をもちます。


【禁忌の小島】

 シュミントン村の海岸から沖合いへ1キロほど離れた場所にある岩島です。上から見ると直径50メートルほどの歪な円形をしている無人島です。

 この岩島は、かつてシュミントン村がディープワンによって支配されていた時代に聖域とされていました。ディープワンと人間の交合など、村民にとっては忌まわしい儀式の行われる場所でした。ネッド・フィッシャーによって村がディープワン教団から開放された後、この島は立ち入り禁止となり、ここ50年の間、上陸した村民は一人としていません。
 島の内部は空洞になっており、その内部空間は祭壇が設けられた祭祀場となってます。その空間(“忌の洞穴”)へは海中にある入り口からしか入れません。

 禁忌の小島は、決して村民に見つかる事のない秘密の隠れ家として利用できます。もし村民を誘拐して監禁しておくことが必要になった場合、忌の洞穴は監禁場所としては最適の場所です。出入り口が一つしかないため(しかも、それは海中にあります)逃亡が困難な上に、見張り役も少人数ですみます。
 禁忌の小島でダゴン招来の儀式を執り行った場合、その成功率に5%のボーナスが与えられます。



4.NPC

【協力的なNPC】

■修道女マルグレーテ(ピア・マーシュ):
 シュミントン村の2大派閥のうちの「修道女派」の中心人物が、マルグレーテことピア・マーシュです。容姿の美しさと親しみやすい雰囲気を兼ね備えた彼女は、村の若者たちの間で絶大な人気を誇っています。
 マルグレーテはシュミントン村に住み着いてからの半年間を、村民たちの情報を集める事に費やしました。NPCに関する情報はマルグレーテの口から伝えられる事になります。
 また、ぺリー・フィッシャーを教団に引き入れるに当たって最も有効な手段は、マルグレーテに誘惑させる事です。

ピア・マルグレーテ・マーシュ、女、23歳
STR 9  CON 8  SIZ 12  INT 18  POW 14
DEX 15  APP 16  EDU 17  SAN 57  耐久力 10
ダメージ・ボーナス
:+0
武器:ポケット・ナイフ 70%、ダメージ 1D3+db
技能:言いくるめ 75%、応急手当 60%、オカルト 55%、回避 50%、クトゥルフ神話 13%、信用 35%、心理学 60%、説得 50%、天文学 45%、値切り 40%、博物学 40%、目星 40%、ラテン語の読み書き 50%、歴史 50%
呪文:魚を呼び寄せる、ディープワンとの接触、ガタノソアとの接触
魔道書:クタート・アクアディンゲン(ラテン語版)


■赤鱗のグァオン:
 インド洋から駆けつけた協力者です。赤茶けた鱗をした、屈強なディープワンです。
 彼の役割は<忘却の波>の呪文を唱える事です。村民を恐慌に陥れる手段として津波を用いる場合、彼の魔術が必要になるでしょう。また、グァオンは戦士としても優秀です。暴力という手段をとる場合、彼の力は非常に役に立ちます。
 もし一行の中に<忘却の波>が使えるPCがいる場合、グァオンは登場させなくても良いでしょう。

赤鱗のグァオン
STR 21  CON 14  SIZ 21  INT 10  POW 15
DEX 10  APP 5  EDU 12  SAN 75  耐久力 18
ダメージ・ボーナス
:+2D6
武器:かぎ爪 70%、ダメージ 1D6+db
ハンティング・スピア 70% ダメージ 1D6+db(貫通可)
装甲:1ポイントの皮膚と鱗
技能:回避 70%、隠す 55%、隠れる 60%、聞き耳 45%、追跡 50%、投げる 50%、ナビゲート 40%、目星 60%
呪文:忘却の波(改訂版)、門の創造、ロブスターを魅了する


【平均的な村民】

 戦闘シーン等で村民の数値が必要になった場合は、下記の汎用NPCの能力値を使うと良いでしょう。若いペリーはSTRやCONを増やしたり、老いたロン・アレンは全ての能力値を減少させたりして、必要に応じて修正を加えてください。

■平均的な男性NPC:
STR 13  CON 12  SIZ 13  INT 10  POW 10
DEX 12  APP 10  EDU 12  SAN 50  耐久力 13
ダメージ・ボーナス
:+1D4
武器:こぶし 55%、ダメージ 1D3+db
棍棒 45%、ダメージ 1D6+db


■平均的な女性NPC:
STR 10  CON 10  SIZ 12  INT 10  POW 11
DEX 13  APP 11  EDU 12  SAN 55  耐久力 11
ダメージ・ボーナス
:0
武器:こぶし 50%、ダメージ 1D3+db



5.アイテム

三重冠:
 教団の司祭となるPCにダゴン神より贈られる品です。浜辺に流れ着いたものをマルグレーテが受け取る形で保管していました。
 黄金製で、表面にはルルイエの情景を表した見事な意匠が施されています。教団のリーダーとなるPCに与えられ、この三重冠の所有者は5ポイントのマジックポイントを追加で得られます。

首飾り:
 エドワード・フィッシャー邸の地下に隠されたディープワンのミイラが身につけている首飾りです。上記の三重冠と同じ意匠が施されています。泥土に汚れていますが、黄金製です。
 この首飾りには<(水棲の神性)との接触>の呪文成功率に+5%のボーナスを与える力があります。本シナリオの場合、クライマックスの<ダゴン招来>の呪文に対する+5%のボーナスになります。

ダゴン像:
 フローク夫妻が隠し持っている高さ50cmほどのダゴン神像です。かつて見事であったであろう意匠は摩滅してしまいましたが、魔力はいまだ健在です。
 この神像は<ダゴンとの接触>の呪文成功率に+5%のボーナスを与える力があります。

深海(ふかみ)の短剣:
 緑色の鉱物で作られた生け贄用のダガーです。任意のPC(キーパーが選んでください)に、ダゴン神より贈られます。ダゴン神によって夢を通じてダガーを授ける事を伝えられたPCは、翌朝、シュミントン村の海岸に打ち上げられたこの短剣を発見します。
 この短剣は、ダゴン招来の儀式において生贄を捧げる際に用います。この短剣を用いて生贄に止めを刺すと、生贄価値と等しい値の儀式成功率ボーナスを得る事ができます。短剣の使用者は、儀式の主宰者である司祭である必要はありません。選ばれた“聖なる執行者”のみが、この短剣を使う事ができます。
 この短剣には裏の使用法があります。選ばれた“聖なる執行者”(短剣の持ち主)が、短剣に自らの心臓を捧げる事によって、数万匹のディープワンを深海から呼び寄せる事が出来るのです。心臓を捧げた使用者は当然死にますが、その使用者の死体をめがけてディープワンの津波が深海より押し寄せるのです。押し寄せたディープワンたちは一帯を破壊し尽くした後、使用者の死体を持って深海へと還っていきます。
 シュミントン村奪還に失敗した場合、この「裏の使用法」によって聖地を廃墟に変えてしまう事が可能です。PC及びマルグレーテ、グァオンを除いた全てのNPCは、この“葬送の津波”によって虐殺され尽くします。



6.シナリオの進行

 上記の状況の下、なるべく多くの村民を教団に引き入れ、ダゴン招来の儀式を執り行う事がPCたちの目的となります。ミッション達成の最低ラインは村民の半数(25名)以上を教団に引き入れる事です。心から教団に帰依していなくても構いません。嫌々ながらでも最後の儀式に参加させれば良いものとします。騙しても脅しても、クライマックスのシーンに立ち合わせれば良いのです。
 村民を教団に引き入れる手段としては、以下のようなものが考えられるでしょう。

・村全体を恐慌に陥れるデモンストレーション等:津波の発生(<忘却の波>の魔術による)、謎の溺死事件等
・村長に協力させる:妻や娘を人質にする、フランチェスカと内通する
・フィッシャー家の者を脅すなどして漁師仲間を動かす:エドワードの殺害、祟り等の迷信を使う、アレン老を協力させる
・ペリーを協力させる:マルグレーテに色仕掛けさせる。エドワードの後釜を約束する等
・ニナを協力させる:脅す、色仕掛け等

【イベント】
 以下にあげるのはシュミントン村探索中に起こるイベントの一例です。必要と思えば、他にもイベントを設定してください。キーパーは、なるべくイベントを通じて村の内情や人間関係をPCに伝えてください。

・浜辺で言い争うエドワードとペリー(帰漁直後)。ペリーを殴りつけるエドワード→立ち去るペリーたち若者(浜辺調査時)
・嘲りを浴びつつ立ち去るドノバン・・・容貌は隠して。歩き方に特徴あり(浜辺調査時)
・禁忌の小島を恐ろしげに眺めるロン・アレン(浜辺)
・漁に出るため教会から出て行くペリー→無事を祈るマルグレーテの手を熱心に握る(初日)
※上記4イベントはシナリオ序盤に発生させておくと良いでしょう。ペリー、フローク夫妻、ロン・アレンを調べるきっかけとなるはずです。

・バスで通学していくジャクリーンとローラ(バス停)→(ペリーが共にいれば)ペリーを憧れの目で見るジャクリーン(中盤以降? ペリーを仲間に引き入れた後)
※ペリーを教団に引き入れた後、ジャクリーン(村長家)関連のイベント発生のきっかけとすると良いでしょう。

・パブにたむろする若者たち(パブ)・・・マルグレーテに導かれて(修道女派を勧誘する際)
※本格的に修道女派を教団に取り込む際に発生するイベントです。若くて見目の良い人間PCであれば、マルグレーテの紹介によって難なく若者たちと懇意になれるはずです。

・村長宅前で言い争うガブリエラとフランチェスカ→フランチェスカはパブへ→パブにいる若者たちは退散(村長家調査時)
※村長のヘニング氏を従わせるためにはガブリエラ、フランチェスカ両人とも役立ってくれます。村長家の取り崩しにかかる際に発生させると良いイベントです。

【ダゴン招来の儀式】
 一行のリーダーが儀式の執行を指示した時点(制限時間を決めていたら、その時刻になった時点)でダゴン招来の儀式は開始されます。司祭の指揮の下、参加者全員で招来の呪文を詠唱し、“聖なる執行者”が生贄の心臓をダゴンに捧げるのです。
 儀式の成功率はミッションの達成度合いによって以下のように変化します。

・儀式に参加した村民1人につき+2%
・捧げる生贄の生贄価値により+5〜+20%
・禁忌の小島で儀式を行う事により+5%
・フローク夫妻のもつダゴン像を手に入れていたら+5%
・ディープワンの司祭のミイラから首飾りを手に入れていたら+5%
・「偉大なるディープワン」のPC一人につき+2%
・儀式を執り行う司祭が消費するマジックポイント5ポイントにつき+1%
・儀式に参加するPC(司祭除く)が捧げるマジックポイント10ポイントにつき+1%

 成功率を算出したら、司祭であるPCのプレイヤーがダイスを振って、儀式の成否を判定します。

 儀式が成功すると、深海から“父なる”ダゴン神が姿を現し、シュミントン村が再び聖地となる事を祝福します。村民の中にはダゴン神を見て正気を失う者もいるでしょうが、その圧倒的に禍々しい姿に絶望し、完全に教団に平伏します。PCは1D10ポイントの正気度を獲得します。

 もしも儀式に失敗した場合は、村民たちは暴動を起こします。PCたちの何人かが村民に捕まり、殺される事になるでしょう(具体的なロール処理は各キーパーに任せます)。
 また、教団に引き入れた村民の人数が25人未満だった場合、シュミントン村の奪還は失敗した事になります。ダゴン神より夢のお告げがあり、シュミントン村を壊滅させてから引き上げてくるよう指示されます。<忘却の波>によってシュミントン村を丸ごと押し流してしまっても良いし、深海の短剣を使って“葬送の津波”を呼び寄せても良いでしょう。



7.シナリオ進行上の注意点

 本シナリオは少し特殊な「プレイヤー企画型」のシナリオです。
 キーパーはミッション目的(教団を組織して村の支配権を取り戻し、ダゴン招来の儀式を成功させる)と舞台(シュミントン村)をPC一行に提示します。プレイヤーは舞台の中でミッション達成のための方策を企画・立案・実行して、キーパーはその結果を判定します。

 自動発生するイベントが数少ないため、プレイヤーには能動的な行動が求められ、キーパーには高いアドリブ能力が求められます。発生するイベントを予め増やしておけば、キーパーの負担は減るでしょう。
 シュミントン村の村民(NPC)50名の名前とちょっとした注釈をつけたリストを用意してあるので、それを見てキーパーは村民の相関図を把握しておく必要があります。もちろん、50名の村民全員を登場させる必要はありません。PCのとる行動によって、必要に応じて適当なNPCを選んで登場させれば良いのです。
 NPCリストをプリントアウトして、プレイヤーに渡してあげると良いでしょう。

 このシナリオは一行のリーダーが「儀式を執り行う」と宣言するまで続けられます。際限なくプレイする事も可能ですが、「(実時間で)4時間後に儀式を始めてもらいます」等と予めプレイヤーに告げておくと良いかもしれません。こうする事によってセッション終了時間を管理でき、参加者全員が緊張感を持ってプレイに臨めるはずです。もちろん、4時間経過前に準備が整えば、その時点で儀式を始めて構いません




このシナリオのプレイ・レポートです