
キーパー:では廃山荘へ向かうということで。半日の距離ですから、昼には着きますね。社用車で山道を行きますと、道をふさぐように斜めにハマーが停められています。
沢渡:邪魔だな!
キーパー:ここからは徒歩になりますね。しかしハマーがあるということは、近くに錦田がいるのは間違いありません。
沢渡:歩いて先へ進みましょう。
キーパー:さいわい夏なので、軽装でも問題なく登っていけます。手洗岳自体、高山というわけではありませんからね。虫かごと虫取り網を持って、ランニングと短パンと麦わら帽子で問題ありません。サンダル履きでOKです。
沢渡:山をなめすぎだろ(笑)
鈴木:(笑)
沢渡:道は分かりますか?
キーパー:朽ちかけた木の立札がいまだに残っています。「手洗山荘コチラ」みたいな。ただし季節柄、道は鬱蒼と雑草に覆われています。ランニングと短パン、サンダルできたことを後悔するほどです。
沢渡:ジャージに着替えます。
鈴木:(笑)
キーパー:山とはいえ季節は夏なので、汗だくになって草をかき分けながら山道を登ることになります。「自販機あった!」と思って駆け寄ってみると、もちろん電源は入っていません。汚れたショーケースの中に錆びたネクターの缶が傾いて並んでいるのが見えます。
沢渡:蹴り飛ばします。ガァン!
キーパー:ムカデが大量に出てきました(笑) なお、返却口にお釣りの取り忘れもありませんでした。
鈴木:「チッ」
沢渡:見たのかよ(笑)
キーパー:午後二時過ぎくらいでしょうか、廃山荘が見えてきましたよ。山荘と言っても、雪山で登山者が駆け込むような充実した設備があるわけではなくて、売店の二階に団体客を収容できる畳の広間がある、という程度のものです。ハイキング客相手の食事処と言った方が正しいかもしれません。アイスクリーム用の錆びたアイスボックスが店先に置いてあるのが見えます。
沢渡:<追跡>技能で足跡があるかどうかを調べられませんか?
キーパー:なるほど。ロールしてみてください。(沢渡の出目は30で成功)つい最近誰かが通った形跡がありますね。おそらくは一人が、何度か行ったり来たりしています。
沢渡:川はどのあたりを流れているの?
キーパー:かなり下の方です。山荘が川のほとりに建っているわけではありません。かすかに「ザァーーー……」という水が流れる音が聞こえてきます。
鈴木:山荘の様子はどう? 電気がついているとか見える?
キーパー:電気はついていないようですね。足音を忍ばせて山荘に近づいていった二人は<聞き耳>ロールをしてください。(二人とも楽勝で成功)二人とも聞き取れましたが、二人の人物がボソボソと会話する声と、女性のくぐもったうめき声が聞こえてきます。
鈴木:ん?
沢渡:二人の人物と女性……?
キーパー:<聞き耳>技能の1/2で成功した人はいますか?
沢渡:ハイ!
キーパー:沢渡には分りますが、ボソボソとした会話が声音を微妙に変えた一人の人間によるものであるのが分かります。
沢渡:一人二役しているみたいな感じか。内容は聞き取れない? あと、声は錦田の声ですか?
キーパー:まだ遠すぎて、はっきりしません。
沢渡:「いるのは一人二役をしている奴と、もう一人は、もしかしたら被害者だ」
鈴木:「うむ」
沢渡:突入するしかないですかね。殺人事件が起ころうとしているならば、善良な一般市民としては何とかして止めなきゃ。奴がどんな理由でそんなことをやっているのかは分からんが。
鈴木:うん。
沢渡:とにかく、もう少しはっきりと声が聞こえる場所まで近づきます。会話の内容とか、明確に錦田の声だということが分かるまで。山荘の内部が見える場所まで近づけませんかね?
キーパー:良いでしょう。では<忍び歩き>ロールを。
鈴木:ジャリジャリジャリ(※失敗)。
沢渡:ガサガサガサ(※失敗)。
キーパー:あとは向こうの<聞き耳>が成功するかですな(コロコロ……失敗)。ボソボソは途切れることなく続いています。
沢渡:まぁ、バレたらバレたで構わないけどね。
鈴木:うん。
キーパー:山荘の中が見える場所まで移動すると、こちらに背を向けた状態で男がいるのが見えます。あの後ろ姿は、間違いなく錦田でしょう。そして相席用の大きなテーブルの上には縛られた女性が載せられています。
沢渡:他におかしなところはないですか? 沢渡の部屋みたいにナイフがバラバラと落ちているとか?
キーパー:ご明察。ナイフが所狭しと置かれています。隣にあるテーブルの上に置かれていたり、単純に足もとに落とされているものもあります。規則性を持って並べられているというよりも、手の届く範囲に散らかされているといった感じです。その量は、錦田の部屋で見たのと同じくらいあります。
沢渡:マジか……。
キーパー:<アイデア>ロールを振ってください。(二人とも成功)声音を変えて一人二役をやっているのは、間違いなく錦田です。
鈴木:でしょうなぁ。
沢渡:ここまで来れば、内容は聞き取れる?
キーパー:(暗号解読文書を読んだ)鈴木には分りますが、彼はナイフの父に兄弟が話しかけているような設定で、ブツブツと言っています。「ナイフの父ならば、ここを切り裂けばお喜びくださるだろう」、「そうだね、兄さん」といった感じです。
鈴木:ふむ。ますますマズイですなぁ。
沢渡:女性は切られている?
キーパー:間違いなく切り刻まれている最中ですね。しかし、うめき声が聞こえるということは、まだ生きているのも間違いありません。
沢渡:もう時間的猶予はないみたいね……。「おい、錦田」
キーパー:するとボソボソとした一人芝居の声はピタッと止まって、クルッと顔をこちらに向けます。その顔は錦田のものですが、顔面にはニヤ〜ッという歓喜の笑みが貼り付いています。今まで見たことがないような、無上の幸福を感じている表情です。
沢渡:「こんなところで、何やってんだ?」
キーパー:(錦田)「えっ?」 彼の手の届く範囲に無造作に置かれた刃物が血まみれであることに、今更ながらに気がつきます。実際、彼は両手に包丁とナイフを握っています。
鈴木:「それは……何をやっているんだ!?」
キーパー:(錦田)「ナイフの父に、捧げるのだ」
沢渡:「つまり、今までの殺人も、全部お前の仕業だったってことか?」
キーパー:(錦田)「ナイフの父に、捧げたのだ」
沢渡:「もういい加減にやめないか?」
キーパー:(錦田)「ナイフの父に、捧げるのだ」
鈴木:「しかし、犯人のお前が、なぜ暗号を解かせる手助けなんかさせたんだ?」
キーパー:(錦田)「それに関しては、二人には感謝している。ナイフの父が俺に何をさせたいのかが、ようやく理解できたからな。いや、もしかしたら既に理解していたことを確認しただけだったのかもしれないが」
沢渡:訳が分からない。だって、暗号解読の手助けの依頼に来るよりも前に、二人死んでいたわけだよね? そうなると、下手すると、訳の分からないまま元奥さんを切り刻んでいたことになるよね?
キーパー:そういうことになりますなぁ。
沢渡:なぜ、それを錦田が始めたのかは、分からないというわけか。まぁ、狂人の考えは理解できないか。
鈴木:そうだねぇ。
沢渡:最初の一歩目は何だったのかな? 別れた奥さんに復縁を迫ってこじれて……とかなのかもしれないけど。
鈴木:あり得るねぇ。
沢渡:とりあえず我々が今、ここでやらなくてはならないのは、何とかして奴を抑え込んで、息のある女性を助けることだな。
キーパー:縛られて血まみれの女性は、あなたたちを見ると力を振り絞って「助けて!」と叫びます。例によって、また若い女性ですね。
沢渡:「……とりあえずそのナイフを置いて、こっちに来いや」
キーパー:(錦田)「……邪魔をするなら、お前たちから先に殺してやる」
鈴木:「あっ!」
キーパー:両手に刃物を持った錦田はこちらに向かって走り出します。
沢渡:シャッ!(※自分のナイフを構える仕草)
キーパー:(錦田)「燧石、赤銅、青銅、鉄、鋼! 薄切り、引き裂き、たたき切り、切り落とし、裂いて、割って、切り刻む! あなたはあまねく呼びかける、おお、父よ、汝の剣を手に取る者は汝の王国へいたるだろう!」 錦田は大声でそんなことを叫びながら走って来ます。鈴木には分りますが、これは解読した文書に書かれていたナイフの父に捧げる祈りの言葉の一部ですね。
鈴木:「錦田は任せた! 俺は女性を助ける!」
沢渡:うん、そうだね。前に出て足止めしましょう。武器は何を持っていますか?
キーパー:右手にマインゴーシュです。左手に肉切り包丁を持っています。
沢渡:え? 二刀流ってこと? そんなルールあったっけ?
キーパー:ないです。プレイヤー・キャラクター用にはない。
沢渡:え? え? なに? 何を言っているのか分からない。両手に武器を持っていても、1ラウンドに攻撃できる回数は1回だよね?
キーパー:そうです。プレイヤー・キャラクターはそのルールです。でもSANが0になったキャラクターは限界を突破することができます。
沢渡:なるほど、そう言われると説得力があるような、ないような(※結局納得)。
キーパー:錦田は両手攻撃しますので、ご注意ください。でもまぁ、彼は所詮暗号解読のプロであって肉体派ではないですからね。
【第一ラウンド】
DEXは鈴木(16)、沢渡(12)、錦田(11)。
鈴木は錦田を迂回して女性に近づこうとする。<医学>や<応急手当>が得意な彼なら、女性の命が一刻を争う場合でも適切な処置が取れる。
沢渡は時間を稼ぐ意味でも、また、特に錦田を殺害したいわけでもないので、<ナイフ>を使った受け流しと<回避>ロールに備える。
錦田は二回攻撃(命中率80%)で沢渡を攻撃。マインゴーシュは受け流されたが、肉切り包丁の攻撃が命中して(沢渡の<回避>は失敗)2ダメージを与えた。
【第二ラウンド】
鈴木はテーブルに縛り付けられている女性のもとに到着。
沢渡は悩んだ挙句、前のラウンドと同じく<受け>、<回避>のセット。
第一ラウンドの再放送を見ているかのように錦田のマインゴーシュの攻撃を沢渡が受け流し、肉切り包丁の攻撃が沢渡に2ダメージを与えた。
キーパー:鈴木の背後からは「カキーン! うっ!」、「カキーン! うっ!」という受け流しの音とうめき声がセットで聞こえてきます。
鈴木:(笑)
沢渡:死ぬ! このままだとマジで死ぬ!!
【第三ラウンド】
鈴木は<医学>ロールで女性の応急手当。女性の耐久力が1ポイント回復。女性の命に別状がないことを悟った鈴木は、次のラウンドから沢渡の加勢に回ることにする。
沢渡は鈴木の加勢待ちで再び防御専念。その執念(?)が実り、このラウンドの沢渡は鈴木のマインゴーシュの一撃を受け流し、肉切り包丁の斬撃を回避したのだった。
沢渡:よし! よし! 「助けてーーーーー!」
鈴木:しょうがない、参戦しましょう(笑) 適当に転がっているナイフを拾おう。
|