非時香果


境辻トンネル

キーパー:列車は白凰線を進んでいくのですが、途中で線内最長の「境辻トンネル」に入ります。ここで〈歴史〉〈人類学〉どちらかでロールを。(コロコロ……須堂が〈歴史〉で成功)このトンネルが貫く山は白凰市と鬼別郡の境になっていて、その頂は「境辻峠」と呼ばれています。“境”というのは分かります。白凰市と鬼別郡の境ですから。“辻”は十字路を意味します。峠には細い県道が通っていて、頂の部分は切通しになっています。
須堂:ということは、およそ十字路ではないですね。
キーパー:はい。なので“境”はともかく、“辻”の意味は分からないと昔から言われています。この地名について、以前、SPHFでも話題になったことがあります。
須堂:そんなことをつらつらと述べます。
村雨:「境も辻も異界へつながる入口であると言われますからなぁ」などと言いながら『橘』を気にします。
キーパー:すると、色が黄色くなっています。
村雨:「ああっ! 三宅さん、コレ!?」
キーパー:するとガタっと音を立てて守子も立ち上がります。(守子)「な……まさか!」皆さん〈アイデア〉ロールを。(全員成功)境辻峠の由来を話し始めた時にトンネルに入ったんですけれども、確かに境辻トンネルは最長ですが、言っても白凰線の中での話です。なので、もう通過できてもおかしくないはずですが、未だにトンネルの中を走っています。
村雨:電車は走っているわけですよね? ガタンガタンという音と感触はある?
キーパー:走っています。窓の外に目をやると、照明が見えなくなっていることに気が付きます。
白田:真っ暗なんですね? 電車からの光以外は無し?
キーパー:無し。
村雨:添乗員さんたちもいますよね? 「何かおかしくないですか?」
キーパー:アテンダントたちも若干ざわざわし始めています。(添乗員)「そうですね。本当ならもうトンネルから出ていないとおかしいはずなのですが……」
白田:「実は、何かのイベントだったりということは……?」
村雨:「トンネル内でスイッチバックを繰り返しているとか?」(笑)
キーパー:(添乗員)「そ、そのようなことは……」と、このような場面では欲しくないリアクションが返ってきます。トンネルに入ってから既に10分ほど経過しますが、一向に通過する気配はありません。〈聞き耳〉ロールを。(須堂が成功)窓の外から声が聞こえてきます。テープを早回ししているような「キュルキュルキュルキュル……」という感じの声で、何を言っているのかは聞き取れません。
須堂:「窓の外から……声が聞こえませんか?」
キーパー:(守子)「確かに聞こえます。窓の外から――」と言っていると、外から「バン!」と真っ白いものが窓に張り付いてきます。白茶けて膨らんだ顔をしていて、頭に比べて不釣合に小さい芋虫のような身体がついていて、そこから赤ん坊のような指をそなえた無数の小さい手が生えています。白目を剥いてこちらをうかがいながら、窓を小突いたりかきむしったりしています。SANチェックです。
須堂村雨:(コロコロ)成功です(正気度を1ポイント喪失)。
白田:(コロコロ)失敗です(3ポイント喪失)。
キーパー:やがてそれは風に流されるようにして窓から剥がれて、後ろの闇の中へフッ……と消えていきます……。
村雨:「何じゃ、ありゃーーーっ!」
キーパー:といったところで、ぶつんッ! と車内の照明が落ちます。しかし真っ暗にはなりません。真っ赤な光が放たれています。
須堂:……『橘』から?
キーパー:『橘』からです。夜の学校で消火栓のアレが点灯している感じですね。
白田:電車は走っているんですね?
キーパー:電車は走っています。ここで再び〈聞き耳〉ロールになります。(コロコロ……須堂と白田が成功)成功した人には音が聞こえてきます。「カラン、カラン」聞こえた人は〈歴史〉ロールを。(コロコロ……須堂が成功)成功した人には、それが復元された銅鐸の音色に似ていることが分かります。
須堂:銅鐸!?
キーパー:続いて鈍い殴打音と「ぐぼっ」という音が聞こえてきます。「ぐぼっ」というのは、どうやら声のようですね。それはバー・カウンターの方から聞こえました。
村雨:……音の方へ向かいます。
キーパー:ついさっきまで、普通にバー・カウンターにはバーテンダーがいたんですけども、その姿が見えなくなっています。バー・カウンター周辺には何かの液体が飛び散っています。バー・カウンターの中を覗くってことで良いですか?
村雨:もちろんです、覗きます。
キーパー:バーテンダーが血まみれで倒れています。
白田:息をしているんですか?
村雨:「大丈夫か!?」と言ってカウンターを乗り越えます。
キーパー:バーテンダーは即死しています。頭が何かでばっくりと割られています。
村雨:「……死んでる!」と全員に知らせます。
キーパーSANチェックです(白田が2ポイント、村雨が1ポイント正気度喪失)。ここで〈目星〉ロールになります。(コロコロ……須堂と村雨が成功)突然のことで凍り付いたラウンジの中で、アテンダントのすぐ脇にぼんやりと、例えていうなら水に浮いている油膜みたいな、虹彩色をしたおぼろげなヒト型のものが見えます。それは右手に、風車のような四つの羽根がついたものを持っているんですけれども、それが回る度に「カラン、カラン」と音を立てています。次の瞬間、守子が叫びます。「逃げて!!」