赤い闇をさまようもの

II:里芋と共に来る

キーパー:皆さんが白凰民俗資料保存協会の事務所に集まっている所、扉をノックして冴えない風貌の中年男性が入って来ます。「あのぅ、こちら白凰民俗資料保存協会の事務所でしょうか?」
須堂:「はい、その通りです。どういったご用件でしょうか?」
荒井雅也キーパー:(中年男性)「ああ、では間違いないのですね。私は荒井潔と申します。荒井雅也の父親です。息子がお世話になっております」 荒井雅也は協会のボランティア会員です(※荒井雅也のイラストを見せる)
一同:ほうほう。
キーパー:(荒井潔)「実は、雅也のことについてお聞きしたいことがありまして、お邪魔させていただきました」そう言って彼は手土産として紙袋に入った何かを差し出します。
白田:「おお、これは!」(※ひったくるように手を出す)
キーパー:中には里芋が入っています。荒井潔は里芋農家です。「うちの畑で採れたものです。良かったらどうぞ」
新城:荒井雅也さんはいくつくらいですか? 最近、顔を出していますか?
キーパー:28歳の彼はフリーで電子音楽作成を生業としています。ここ何ヶ月か、協会の活動には顔を見せていませんね。
須堂:「荒井さんにはボーカロイドの使い方を教えてもらって、お世話になっていました」
キーパー:(荒井潔)「はあ、ぼ、ぼおかろいど、ですか?」里芋農家の潔にはまったく通じていませんな(笑)
一同:(笑)
キーパー:(荒井潔)「私は隣県に住んでおるのですが、三ヶ月ほど前から息子の雅也と連絡が取れなくなっておりまして、行方を捜しているのです」
泰野教授:協会に来なくなったのは三ヶ月前くらいから?
キーパー:いいえ、もう少し前からですね。で、雅也自身は白凰市にあるマンションに住んでいますので、潔はそこへ行ってみたそうです。管理人さんに訳を話して、一緒に部屋へ入ってもらいました。しかし、雅也はいませんでした。もちろん、腐乱死体で発見されたというようなこともありません。滞納していた家賃、光熱費等は潔が清算したそうです。
一同:ふむふむ。
キーパー:(荒井潔)「当然、行方不明ということで警察に相談しましたが、緊急性のある事件としては取り扱ってくれませんでした」
泰野教授:まぁね。
キーパー:警察の所見ですと、争った形跡とか、血痕のような事件性のあるものは見つからなかったそうです。(荒井潔)「息子のスマートフォンにあった連絡先を片っ端から当たったのですが、手がかりは掴めませんで……」
泰野教授:スマホは家にあったんだ?
キーパー:スマホと家の鍵は部屋の中で見つかったそうです。
泰野教授:へぇ~。密室じゃん。それはちょっと異常だな。
白田:「で、具体的には我々にはどういうご用件で?」
キーパー:(荒井潔)「雅也の行きそうな場所とか、他にも何でも良いので居所の手がかりになりそうなこととか、ご存じないでしょうか? 息子が自らの意思で失踪しているとは、どうしても考えられんのです」
泰野教授:我々は特に雅也君と個人的に親しかったわけじゃないんでしょ?
キーパー:そうですね。彼の実家が里芋農家だったってことも初めて知りました。
新城:つまり、俺らの間で心当たりはないってことですよね? 「申し訳ないのですが、心当たりと言えそうなものはありませんね」
キーパー:(荒井潔)「そうですか……。厚かましいお願いなのですが、雅也の部屋を見て、何か手がかりになりそうなものがないか、一緒に探してはいただけないでしょうか? なにぶん、白凰市には伝手がないので、お力を貸していただけたら、と」
新城:なるほど。まぁ、個人的には前のめりで協力しようという気持ちです。
キーパー:(荒井潔)「息子が一人前になったら、この腕時計を譲ろうと思っていたんですよ……」(※新城の「大切なもの」は父親が遺した腕時計)
新城:「……! 失礼!」と言って、トイレに入って水の流れる音で誤魔化しながら号泣します(笑)
泰野教授:「どうしたのかしら、彼?」(笑)
一同:(笑)
新城:目を赤くして戻って来て、「分かりました! そういう事情では警察もあまり積極的に動いてくれないでしょうから、僕らにできることがあれば!」
キーパー:というわけで、皆さんは雅也の部屋へ行くことになりました。彼の部屋まではバスで行ける距離です。


前へ 表紙へ 次へ