赤い闇をさまようもの

III:荒井雅也の部屋の種々様々

荒井雅也の部屋キーパー:(荒井潔)「どうぞお入りください」部屋の鍵は荒井潔が持っています。部屋の間取りはこんな感じです(※部屋の見取り図を見せる)
一同:ふむふむ。
キーパー:(荒井潔)「雅也がいつ帰ってくるか分かりませんし、正直、私もどこから手を付けて良いか分からないので、部屋の中はほぼ手つかずのままです」 潔は息子がひょっこり帰ってくるかもしれないと思って、この部屋に泊まっているそうです。ダイニングルームの端に簡易マットレスと寝袋が置かれています。
一同:なるほど。
キーパー:さて、一見しておかしい点があります。それはダイニングルームの端に乱雑に積み重ねられた、家具類です。本来、リビングルームにありそうなテーブルとかテレビとか、パソコンとか電子音楽制作機器類がゴチャゴチャと積まれています。
泰野教授:「……ということは?」と言ってリビングルームに通じる扉を開けてみましょう。
キーパー:(荒井潔)「……驚かないでください」
一同:……ゴクリ。
キーパー:リビングに通じる戸は横にスライドさせるタイプの引き戸なのですが、立て付けが悪いのか、ガタガタと開きにくい感じです。それでも開けると、中は真っ暗です。
須堂:真っ暗? まだ夜じゃないですよね?
キーパー:潔がパチリと電気のスイッチを点けると、部屋の中が真っ赤であることが分かります。
一同:「おお!?」
キーパー:血の赤ではなく、もっと鮮やかな赤です。
泰野教授:目がチカチカする感じ?
キーパー:そうです。赤い樹脂製のシートで天井から床まで部屋全体を覆って、ご丁寧に目張りをしてまで完全に外光を遮断しています。振り返ってみると、引き戸にも目張りがされていたのでしょう、近くに無理やり剥がされた赤色のテープが丸められています。(荒井潔)「入った時にはリビングの内側から目張りがされておりまして。管理人さんと力を合わせて無理やり戸を開けたのです」
白田:「中には誰もいなかったんですか?」
キーパー:(荒井潔)「まさか、最悪の事態が――と管理人さんと肝を冷やしましたが、腐乱死体などなく、ただ、無人の部屋が内側から目張りされていました」
一同:「……」
キーパー:リビングルームの天井からは裸電球が下がっています。電球は通常の物が取り付けられていますが、部屋に入った時には赤く塗られた電球が付けられていたそうです。目に悪いので潔が取り替えました。
新城:ということは、何もかもが真っ赤だったってことですよね。
キーパー:そうです。中にいた人には、赤しか見えなかったことでしょう。
一同:「なんだ、これ……」
キーパー:これを見た警察も「確かにオカシイ」と言ったそうですが、昨今オカシイ人は結構いるので、取り合ってくれなかったそうです。部屋の中を目張りして赤くするのは犯罪行為ではないですからね。
泰野教授:まあ、死体があったわけでもないしね。
白田:部屋の中には他には何もないですか?
キーパー:リビングルームの真ん中には赤色の丸い小さなテーブルが置かれていて、その上に手のひらに乗るくらいの赤く塗装された木箱とmp3プレーヤーが置かれています。
新城:なるほど。木箱の中身は?
宝石キーパー:中には半透明の、鉱石っぽいピンポン玉大の赤い宝石が入っています。
泰野教授:宝石はカットしてあるの? 天然鉱石ではない感じ?
キーパー:人の手は入っている感じですね。箱を開けたのは新城でしたっけ? 〈アイデア〉ロールをしてみてください。
新城:(コロコロ)……成功です。
キーパー:リビングルームには裸電球が灯っていますので、自分の影が赤い樹脂製の床に映し出されます。しかし宝石は半透明の赤のはずなのに、まったくその影らしきものが映っていないことに気づきます。
泰野教授:完全に光を通してしまっている?
新城:ほほう! はいはいはいはい。「これ、おかしくないですか、先生?」
泰野教授:「この部屋が赤いからじゃないかしら、目の錯覚的な?」
新城:ダイニングルームに出て確認してみましょう。どうでしょう?
キーパー:同じですね。宝石はその影を生じさせません。
泰野教授:「……これは? 光が一切屈折しない?」
キーパー〈地質学〉ロールをしてください。(コロコロ……全員失敗)こういう鉱石があるのかどうかはよく分かりません。
新城:「これって何なんだろう? 科学的に見てどうなんですかね?」
mp3プレーヤー泰野教授:う~ん。技能ロールに失敗しちゃっているから宝石についてはこれ以上は専門家がいないと。他にはmp3プレーヤーがあったよね? これってすぐに聞けるタイプ?
キーパー:聞けますが、放電しちゃっているので、充電が必要ですね。充電ケーブルはダイニングに積み重ねられた家具の中から見つかるでしょう。
泰野教授:探して充電しましょう。ケーブル挿しこめば充電しながらでも聞けるよね。ポチッと。
キーパー:再生ボタンを押しても、何も聞こえてきません。
泰野教授:そもそも、データは入っているのか?
キーパー:door.mp3というファイルが保存されているようです。ファイルが壊れているのか、どうやら再生できないようです。
泰野教授:「ファイルが壊れているのか。でもファイルがあるっていうことは、他のパソコンに移してデコーダーに通すとかして、聞くこともできるかな?」
DTMパソコン白田:ダイニングにあるパソコンを起動することはできませんか?
キーパー:なるほど。組み立てて設置しましょう。
泰野教授:白田君と二人でパソコンを簡単に組み直して、電源を入れます。「ちょっと、ちょっと」と須堂君を呼んで操作をさせます。
須堂:まずは最終ログイン日と最後に更新されているファイルを確認します。
キーパー:三ヶ月くらい前で、mp3ファイル群です。
須堂:それらのファイルがあるフォルダを探してみますが。
キーパー〈図書館〉ロールをどうぞ。(コロコロ……成功)doorというフォルダがあって、そこにmp3が複数保存されているのを発見します。しかし〈図書館〉技能の使用は時間を要するものなので、他の方々は違う箇所を調べた方が効率的でしょう。


泰野教授:須堂君がパソコンを調べている間に、部屋の他の個所を調べておきましょう。
キーパー:ダイニングテーブルの上に泥とほこりにまみれた小冊子が置いてあります。
新城:何の冊子でしょう?
『扉、開かば』キーパー:おそらく、オペラの台本・楽譜でしょう。表紙にはタイトルが『扉、開かば』と日本語で、『Se la porta è aperta』とイタリア語で併記されています。
泰野教授〈芸術:音楽〉技能でそれを知っているか判定しても良いですか?
キーパー:どうぞ。(コロコロ……失敗)少なくとも聞いたことのないタイトルですね。内容自体は日本語で書かれていますので読めます。
新城:パラパラと中身を読んでみます。
キーパー(『扉、開かば』の資料を渡す)演劇パートの一部抜粋です。オーケストラ部分の楽譜も添えられています。真紅の線譜に、黒でコードが書かれています。
泰野教授:「ふ~む」
新城:「イミフ」
白田:「イミフ」
キーパー:どうやらこの台本で一幕らしいですね。でも、おそらくこの前後に何幕かあって、そこから一幕を切り取ってきた感じです。内容は新王国にたどり着いて新たなやり方で民を治めようとするアルマンド王と、かつてのやり方を復活させようとする王弟ピエトロ、王妹マリア、賢者たちの対立、そしてピエトロによるアルマンド王殺害を描いたものです。アルマンド王殺害後にピエトロは新王国で最も高い塔の屋上に神々に見えるように篝火を灯します。それを描いた一幕ですね。
泰野教授:「mp3は、このオペラを録音したものなのかもしれないわね」 本は泥まみれなんだよね?
キーパー:はい。明らかに新品の本とは違います。汚れて、水を含んでヨレヨレになっています。
新城:「彼の失踪と何らかの関りがあるのかもしれないですね。このオペラがどういうものなのかを調べてみた方が良いな」
白田:スマホでタイトルをググってみますけど。
キーパー:少なくともオペラとしてはヒットしませんね。
泰野教授:「よほどマイナーなのかしら?」
新城:「公式に発表されたものではないのかもしれません」


泰野教授:そんなこんなで須堂君がパソコンを調べ終わるくらいかな? door.mp3はどうもこのオペラ関連っぽいよね。
須堂:こちらの調査は終わりましたでしょうか?
フォルダ構成キーパー:そうだね。door_music、door_actというフォルダがあって、door_musicフォルダの中にそれぞれのオーケストラの楽器パートのmp3がずらりと並んでいて、door_actフォルダの中には四人の配役のmp3が保存されています。オーケストラと歌唱部分のファイルを個別に統合したのがdoor_music.mp3とdoor_act.mp3となります。そしてその二つのファイルを統合したのがdoor.mp3なのでしょう。最上位フォルダの中にそれがあります。
泰野教授:それを聴いてみれば話が早いわけでしょ。再生してみます。
キーパー:「ファイルを再生できません。この形式はサポートされていません」的なメッセージが表示されて、再生できません。
泰野教授:「ダメか……」 door_music.mp3は?
キーパー:オーケストラ演奏された陰鬱なオペラの曲が再生されます。
新城:door_act.mp3の方を再生すると……?
キーパー:「ファイルを再生できません。この形式はサポートされていません」のメッセージを吐き出します。
新城:個別に再生しようとしても駄目ですか?
キーパー:door_actフォルダ内のファイルはすべて壊れているっぽいですね。再生されません。door_musicフォルダのファイルはどれも正常です。
白田:じゃあ、演劇部分を作れば良いわけですね。
新城:そうなんだけど忘れてはいけないのは、そもそも我々の目的はオペラを上演することじゃなくて、荒井雅也の行方を突き止めることだからね。
白田:そうでした(笑)
須堂:演劇パートのファイルのサイズはそれなりにありますか?
キーパー:そうだね、それなりのサイズがあります。おそらく、台本にある部分は完成させたのでしょう。ただ、再生できないというだけで。
新城:少なくとも、姿をくらます直前まで、door.mp3制作に心血を注いでいたんだなってことは分かったわけですよね。やはりこのオペラについて、調査は必要になって来るのではないかと。
泰野教授:あとは宝石だよね。非常に珍しいものであるのは間違いないわけだし。これは専門家の所へ持ち込むくらいしかないよね。なんか突拍子もない代物だから、正体が分かれば逆に何かの突破口となるかもしれない。


キーパー:(荒井潔)「ところで皆さん、雅也と親しかった“タケ”という人物について心当たりはありませんか?」
一同:「タケ?」
新城:「いや、ちょっとピンとこないですね」
泰野教授:「それはスマホの連絡先に入っていたとかで?」
キーパー:(荒井潔)「スマホの最後の着信履歴が登録名“タケ”という人物からだったので」
泰野教授:「その番号へはおかけになりました?」
キーパー:(荒井潔)「“おかけになった電話番号への通話は、お繋ぎできません”とのことでした」 着信拒否されている場合のメッセージですね。
泰野教授:この人が何かを知っていそうな雰囲気はあるけどな~。
キーパー:(荒井潔)「お知り合いではありませんか……。この“タケ”さんが息子と最後に話をした人だと思うのですが……」と言って潔は積み上げられた荷物の中をごそごそと探し始めます。
新城:そういうことなら、お手伝いしましょう。
泰野教授:私も手伝います。
キーパー〈目星〉ロールをしてください。(コロコロ……泰野教授が成功)積み上げられた荷物の中にあった鞄の中から、「内山設備工業 武ノ内猛」と書かれた一枚の名刺を見つけます。
泰野教授:露骨に“タケ”だな(笑)
キーパー:名刺の裏には携帯電話の番号らしき数字が走り書きされています。その番号は、雅也のスマホの履歴に残されていた番号と一致します。
泰野教授:「間違いないわね」
新城:この内山設備工業へ電話してみますか。ピポパポパッと。
キーパー:(事務員)「はい、内山設備工業です」
新城:「あ、もしもし、すいませんが武ノ内さんはいらっしゃいますでしょうか」
キーパー:(事務員)「申し訳ございません。武ノ内は一身上の都合で退職しております」
新城:「え!? そうなんですか!? いつくらいのことですか?」
キーパー:(事務員)「三ヶ月ほど前です」
新城:「……分かりました。どうもありがとうございました」ピッと。
泰野教授:そうか。辞めているのか。


夕会新城:とりあえず、オペラと宝石について調べてみますか。手分けしますか?
泰野教授:私に工学部とかの知り合いはいませんか?
キーパー〈幸運〉ロールに成功したらいることにしましょう。
泰野教授:(コロコロ……)43、成功、いる。というわけで、「その知り合いの所へ宝石を持って行ってみるわ」
新城:「了解しました。じゃあ、僕はオペラの方を調べてみます」 というか、まず『扉、開かば』を読んでみましょう。
泰野教授:「よろしくね」
白田:図書館でオペラの調査をします。
須堂:人海戦術で私も図書館を手伝いましょう。
キーパー:宝石と『扉、開かば』の持ち出しは潔が許可してくれます。なんにせよ、調査の開始は翌日からになります。
新城:そうですよね。じゃあ、明日からの調査に向けて、恒例の焼き肉屋に行って解散します(笑)


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