赤い闇をさまようもの

VII:無数の扉を持つ廃教会

泰野教授:翌日になったら教会へ行きます。トレッキングシューズ、ヘルメット、照明といった結構な装備を整えて。
キーパー:入手した情報を頼りに山の中の道を辿って行くと、やがて建物が見えてきます。それは二階建てですが、いわゆる教会然とした建物ではなく、直方体の味気ない建物です。やがて全景が見えるのですが、その異様さにギョッとします。
一同:ん?
キーパー:正面扉や雨戸には中に入れないように板が打ち付けられていたようですが、それらはすべて壊されて、取り除かれています。スプレーで壁に落書きがされています。そして壁を埋め尽くすかのように、無数の扉が取り付けられています。その様子は、まるで扉の隙間に壁があるかのようです。それは二階も同じで、建物の中から一歩踏み出したら地面に落下してしまうような構造の扉がたくさん取り付けられているのが見て取れます。
新城:ほほう! いわゆる「トマソン」ですな。
百扉教会(略図)キーパー:扉と言いましたがそれは“ドア”だけではなくて、横スライドの引き戸や、シャッターなども見受けられます。這いつくばってくぐらなければならないような、点検口のような背の低い扉もあります。その威容は、見た者が「立ち尽くす」というよりも、「立ち竦む」感じです。
新城:「……混沌としていますね」
泰野教授:「異様ね。何の統一感もない」
須堂:「これは廃墟マニア垂涎の物件ですね」
キーパー:恐らく正面玄関と思われる両開きの扉があるポーチの柱に「百扉教会 神の扉は何人にも開かれている」と書かれています。
新城:それを体現したかのような建物ですな。とりあえず、入りますか。
キーパー:(百扉教会の見取り図を提示)簡単に言うと、中はこんな構造です。外に面した壁以外にも、無数の扉が据えられています。
泰野教授:扉はすべて機能しているの? 開ければ外に出たり、隣に通じていたりする?
キーパー:そういう扉もありますが、開けたら向こう側が壁というものも少なからずあります。蝶番しかついていないものもあります。
新城:全部扉にしてしまうと、建物の構造上、危険ですからね。
一同:確かに。
キーパー:建物の中は瓦礫だらけ、ホコリまみれです。不法侵入者の残していったペットボトルや、スナック菓子の空になった袋などが散乱しています。
白田:とりあえず片っ端から見ていきますか。

 探索者たちはホール → 応接室 → 浴室・便所 → 礼拝堂 → 個室(マリア) → 個室(杉田) → 二階へと歩を進めます。
 応接室と浴室・便所には特に見るべきものはなく、探索者たちは礼拝堂へと向かいます。


礼拝堂
キーパー:この両開きの扉の上には「礼拝堂」と書かれたプレートが掛かっています。この部屋は真っ暗ですね。
新城:懐中電灯をパチッと。
泰野教授:ここに赤いマリア像があるはずだよね。
赤衣聖母キーパー:皆さんは既に八ミリフィルムを見ているので分かりますが、あの映像が撮られたのはここで間違いないことが分かります。礼拝堂内部には倒れた長椅子などがあり、奥には2メートルほどの高さの赤く着色された、しかしその色は薄れ、汚れてしまっている、木造の聖母像があります(※聖母像のイラストを見せる)
一同:ほほう。
キーパー:聖母像の横には、赤色に着色された、木製の扉が取り付けられています。
新城:開くのかな? ガチャっと。
キーパー:扉を開けると、その向こうは漆喰の壁になっています。
新城:おお?
キーパー:扉には「開闢の扉」と刻印された真鍮製のプレートが取り付けられています。
泰野教授:でもどこにも通じていない……。礼拝堂自体はオペラの舞台みたいにはなっていないんだよね? オーケストラは長椅子に無理やり座って演奏していたってことか。楽器の残骸は残っている?
キーパー:残っていません。残っていたものがあれば、警察が押収したのではないかと。
新城:なるほど、現場に残っていた遺留物ですもんね。
須堂:それにしては宝石や八ミリフィルムは良く残っていましたよね。
キーパー:確かにね。それに関してはすごく不思議な気はするね。
新城:聖母像の台座にでも何か横文字で書いてあったりしませんかね?
キーパー:なるほど(鋭い!)。〈目星〉ロールをしてください。(コロコロ……新城は失敗するも、須堂が成功)聖母像の裾の部分に釘で引っ掻いたような感じで、「DESINE FATA DEUM FLECTI SPERARE PRECANDO」とラテン語らしきものが書かれています。
白田:やっと出番だ! 〈ラテン語の読み書き〉で(コロコロ……)25、成功です。
キーパー:「汝の祈祷、神々の定め給う所を動かすべしと望む勿れ(懇願することによって、神々の運命が変えられる(動かされる)ことを希望するな)」という意味です。
新城:内容からすると、キリスト教らしからぬものですね。文字自体は古そうですか?
キーパー:聖母像と同じくらい汚れています。

個室(マリア)
キーパー:この部屋には、人が居住していたと思しき家具の残骸があります。机とか、棚、ベッドとかですね。ここで〈人類学〉技能を振ってみましょうか。
新城:(コロコロ……)成功!
泰野教授:(コロコロ……)失敗。
キーパー:ポンコツ教授の面目躍如ですな(笑)
泰野教授:「んあ゙?」
新城:「きょ、教授! こ、これは……!」
泰野教授:「んあ゙?」
『闇について』キーパー:新城にはこの部屋の家具の配置とか雰囲気などから、かつては女性が使っていた部屋なのではないかと推測できます。残された家具の残骸の量から見て、おそらくは個室だったのでしょう。
新城:女性の個室だったということですか。比較的重要な人物の部屋だったのかもしれないな。棚には本があったりしますか?
キーパー:調べてみるなら、自動的に分かります。本があります。その本は『扉、開かば』と同じ装丁で、赤い五線譜に黒で音符が書かれているものです。これも恐らくオペラの台本なのでしょう。タイトルは『A proposito di oscurità』、日本語で『闇について』と併記されています。
新城:ほうほう。
キーパー:パラパラっとめくってみると分かりますが、最初の方の10ページくらいに何かが書かれている以外は白紙です。この状態で装丁されています。
新城:これは回収して、後で良く調べてみる必要がありそうですな。

個室(杉田)
キーパー:ここも隣の部屋と似た構造です。机、棚、ベッドの残骸が残っています。
新城:使っていた人の性別は分かりますか?
キーパー〈人類学〉技能ロールをどうぞ。先生も汚名返上の機会です。
新城:(コロコロ……)成功!
泰野教授:(コロコロ……)失敗。「もちろん私には分っているけれど、新城君、分かるわね?」
白田:(コロコロ……)34! 成功。「先生、僕にも分かりました!」
泰野教授:「さ、さすがね! その通りよ! ……この二人は早く潰さなきゃ」
一同:(笑)
キーパー:この部屋を使っていたのは、おそらく男性だろうということが新城と白田には分かります。
白田:そうすると、教祖の部屋だったんでしょうかねぇ?
新城:この部屋には何がありそうですか?
キーパー:机の上に、一冊のノートが置かれています。ノートにはマジックで大きく手書きで『教導の書』と書いてあります。汚れ方やよれ方は荒井雅也の部屋にあった『扉、開かば』と同程度です。
新城:パラパラっと中を見てみます。
キーパー:おそらく、これは日誌でしょう。日付が書いてあって、その日にあったことが書き連ねられています。初めの日付は昭和49年ですね。かなりびっしりと書いてあるので、内容精査には腰を落ち着けて解読する必要があるでしょう。
新城:「これも持って帰りましょうか」
泰野教授:「うん、そうしましょう」
新城:次は二階へ行ってみますか。

 二階は居住区域として使われていたらしく、反り返った畳や壊れた家具が残されていました。白田の活躍でもう一冊『扉、開かば』を発見しますが、それ以外は特に目ぼしいものはありませんでした。

キーパー:そろそろ夕方5時くらいだとしましょうか。
新城:これで一通りですかね。じゃあ戻りますか。そろそろ暗くなる頃ですし。
キーパー:一階に戻って建物から出る、と。その前に皆さん〈オカルト〉ロールを。
新城:(コロコロ……)01! 成功!
キーパー:新城には分かりますが、この一見無秩序な構造の建物は、何らかの魔術的法則性に従って建てられていることに気づきます。
新城:前回(※「今宵、星降らぬ流星の夜に」参照)もそうですが、紋様とかのモヤモヤしたものにビビっと来るキャラクターです(笑) 「……先生、この建物の扉の配置なのですが」と「気付いていますよね?」的な期待を込めた目で見つめます。
泰野教授:「……まぁ、大体あなたが思っている通りよ」
一同:(笑)
新城:「一見デタラメに並んでいるように思える無数の扉なんですが、何らかの法則性があるという気がするんですけど」
須堂:魔術的法則?
泰野教授:何だろう?

声
キーパー:ではいよいよ正面扉から外に出ようとします。
白田:何か声が聞こえるということでしたよね。
キーパー:まずは〈目星〉ロールをしてください。(コロコロ……泰野教授と須堂が成功)二人には、入ってきた時は特に振り返らなかったために気づかなかったのですが、正面扉の上の梁に釘で引っ掻いたような筆跡でラテン語らしきものが書かれているのに気づきます。
泰野教授:「あ、アレ!」と注意を喚起します。
白田学白田:キラリーン☆! 〈ラテン語の読み書き〉……(コロコロ)……成功。
キーパー「SI VOS NON HABENT MANUBRIO INFIXUM, ET NON HABETIS DE TENEBRIS VOS; PETITE, ET DABITUR VOBIS」と書かれています。これは「把手なくして闇を抜けること叶わじ;求めよ、さらば与えられん」という意味です。
泰野教授:! 「扉、開かば」の台詞だ!
須堂:マリアの台詞ですね。
キーパー:さて、教会から出ようとすると、両手を取っ手に掛けたような感触を、ふと、得ます。取っ手の感触は握るタイプのドアノブとは限らずに、レバー式のものでも構いませんし、障子の引手やシャッターの手掛かり、自動車のサイドドアの取っ手等でも構いません。
一同:「ん?」(※それぞれに取っ手を握る仕草)
キーパー:そして、全員の頭の中に「ダテ・エト・ダビトゥル・ウォービース」という声が響きます。もしかすると、これが怪談にあった「出ようとすると必ず聞こえる声」なのかもしれません。
白田〈ラテン語の読み書き〉……(コロコロ)……成功。
キーパー:これは「与えよ、さらば与えられん(DATE ET DABITUR VOBIS)」という意味です。ここで皆さん〈アイデア〉ロールをしてください。(コロコロ……全員成功)おそらく、この声には「代償を伴う深遠な意味」が含まれていることを悟ります。それでも両手に感じた取っ手の感触を掴もうとするか、決めてください。
泰野教授:代償を伴う深遠な意味……。
キーパー:梁の上には何て書いてありましたっけ?
須堂:「求めよ、さらば与えられん」
キーパー:で、さっき聞こえた声の意味は?
須堂:「与えよ、さらば与えられん」
泰野教授:でも、把手がなければ闇は抜けられないんだから……。
新城:ガッと掴んでみましょう!
須堂:いや、せっかくここで『闇について』とか『教導の書』を見つけたのですから、それを斜め読みするなどして調査してからでも遅くはないんじゃないですかね? その方が正気の行動ではないでしょうか?(笑)
白田:そうか。まだ文献を精査してないですからね。
泰野教授:なるほど! 確かに、ちょっと安易だな。勢いで行きそうになった(笑)
一同:今回は止めておきます。
キーパー:分かりました(さすがに慎重だな……)。では皆さんは正面扉から出て、ポーチへと出てきました。
新城:教会から出た後に、頭の中の声の意味を白田君から説明を受けるんでしょうな。
白田:「与えよ、さらば与えられん」
泰野教授:「なるほど……いやいや、分かっていたけどね」
一同:(笑)


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