赤い闇をさまようもの

VIII:晒される暗い真実

泰野教授:翌日から『教導の書』と『闇について』を読んでみますけど。とりあえず私は『教導の書』を読んでみたいです。
新城:教会で気づいた建物の魔術的法則について〈オカルト〉関連で調べてみます。
白田:じゃあ『闇について』を読みましょうか。
須堂:では今更ですが、八ミリフィルムのオペラと荒井雅也が遺したmp3ファイルの整合性を確かめるという地味な作業でもしておきます。

 上記の分担の下、各自作業に入ります。
 新城は〈オカルト〉ロールに失敗し、法則性について確固たるものを掴むことはできませんでした。
 須堂のオペラの楽曲調査は〈芸術:音楽〉は失敗したものの〈アイデア〉の1/2ロールに成功したため、八ミリフィルムに映っていたオペラには数名のコーラス担当がいること、オーケストラの構成(管楽器、弦楽器、打楽器が数名)が朧ながらに判明しました(なお、荒井雅也の作成したファイルはフルオーケストラの構成になっていました)。

白田:『闇について』を読みます。〈日本語の読み書き〉ロールは成功。
キーパー:おそらくはこれもオペラの台本と楽譜なのでしょうが、明らかに未完成で、冊子の後半は五線譜だけが書かれた白紙の状態です。演劇の場面を切り取った断片的なメモが順不同で書きなぐられていたり、楽曲の一部がこれも順不同で書かれていたりしています。
新城:創作ノート的なものか?
須堂:思いついたシーンを書き留めた感じですね。
キーパー:「扉、開かば」の前のシーンなのか、後のシーンなのか、そもそも「扉、開かば」と同じ幕なのかすら分かりません。
一同:う~ん?
キーパー:5ページ目からは「真の赤い闇の領域について」という、何かに関する説明文らしきものが、突然書き始められています。

 『闇について』に記されていた「真の赤い闇の領域」についての説明文の概要は以下の通りです。

 真の赤い闇の領域はすべての空間の“縦方向に一単位”ずれた場所にあり、赤く輝くトラペゾヘドロン、赤い光、オペラ「扉、開かば」を組み合わせることで出現させることができる。
 真の赤い闇の領域はマーテル・ルブルム
(※赤い聖母)という存在が支配する空間であり、「空間」とは強固に結び付いているが、「時間」とはまったく結び付いていない。
 真の赤い闇の領域は一方通行の性質を持ち、出口というものを持たない。しかし、領域“内”にいる者が領域“外”から領域を破壊することによって脱出は可能である。しかし、前述の通り領域には出口が存在しないため、これは不可能である。
 ただし、領域内から外へ脱出する何らかの魔術的な手段があれば、領域を破壊することもできるかもしれない。領域“外”から領域“内”へ赤以外の色(自然光でも良い)を持ち込めば、真の赤い闇の領域は破壊され、領域に囚われていた者を残し、マーテル・ルブルムは退散する。

キーパー:『闇について』を斜め読みした白田は、その意味不明さの中にも恐怖を感じ取ったので、正気度1ポイント減らしておいてください。
白田:確実に! 狂気が! 近づいている!

キーパー:次は『教導の書』でしたよね。〈日本語の読み書き〉ロールをしてください(コロコロ……泰野教授のロールは成功)。内容は赤衣聖母教会の運営日誌ですね。

 教祖・杉田敏明は夢のお告げにより教団を立ち上げたが、最初は全く信者が集まらず、一人黙々と百扉教会に扉を取り付けていた。
 しかし1974年12月24日、百扉教会の礼拝堂にあった赤い扉(=「開闢の扉」)から聖母マリアが出現し、サングイス・クリスティと、信者の増やし方や教会の建設方針といった新たなお告げを杉田にもたらした。受肉した聖母マリアは赤木マリアとして、以後の教団運営に大きな影響力を持つに至る。
 教団の運営費用を得るために3名の資産家を、杉田の性的欲求を満たすために数名の女性信者を、雑用係として若い男性信者を入信させるなど、赤木マリアの打ち出す方針は極めて俗なものであった。
 やがて杉田と女性信者のふしだらな関係に不満を持った他の信者を黙らせるために、杉田は《マーテル・ルブルムの祈り》という儀式を執り行うと記している。赤木マリアの助力で杉田は“扉を持つ選ばれしもの”となり、赤い闇の領域に捕らわれた者たちを劇的に救い出してみせるという計画を立てる。

キーパー:この「“扉を持つ選ばれしもの”となり――」の記述は昭和57年8月14日のものです。つまり、全教団員が忽然と姿を消した前日と思われる日付です。『教導の書』はここで終わっています。
泰野教授:ふ~む。だいたい何が起こったかは分かった感じかな。でも読んでいる途中で失敗した〈アイデア〉ロールが気になるな。
キーパー:『教導の書』を斜め読みした先生は、その支離滅裂で不気味な内容を知ったことにより、正気度1D2ポイント減らしておいてください(※1ポイント喪失しました)


泰野教授:翌日に情報を持ち寄るということで。
新城:結局、魔術的な手段で「出口」を作らなくてはならないわけですよね。
泰野教授:この教祖もそれを使って劇的に救い出して云々……というつもりだったんだろうけど、上手く行かなかったんだろうね。
新城:もしくは不測の事態でも起こったか。
泰野教授:とりあえず、我々の目的である荒井雅也も、どうやら同じ儀式をして“向こう”に行ってしまったのは間違いないと思うので、彼を救い出そうとするならば確実に“向こう”に行かなくてはならないよね。でも、同じ場所にはつながらないんだっけ?
須堂:違います。同じ場所にしかつながらないんです。
泰野教授:あ、そうか。じゃあ、同じことをやってみて、彼を救い出すことができれば我々の目的は達成。
新城:あとは「出口」を作る術なんですよ。入って、出てきた者にしか壊すことはできないという性質を持っている「入口」しかない領域に、内部から魔術的な手段で「出口」を作らなくてはならないわけです。
泰野教授:そんな単純なことで良いんだっけ?
新城:いえ、まったく単純じゃないですよ。「出口」を作る手段がないわけですから。
須堂:中にいて且つ外にいる者ならそれができるわけですよね?
新城:いや、「入口」しかない領域から“出てこなければならない”ってこと。その手段が必要なんだよ。それができれば目張りを外して赤の領域を破壊できる。我々に今、早急に必要なものっていうのは、“如何にして出口を作るか”、その手段ですよね。
キーパー:(新城は頼りになるなぁ)
泰野教授:その手段か。でも、赤木マリアは実際に出てきたわけだよね?
新城:そもそも赤木マリアっていうのが、いったい何者なのかっていうね。漆喰の壁の向こうから出てきた彼女が何なんでしょうねっていうね。
泰野教授:結局、今のところ領域から出てきた者はいないってことか。
須堂:あの教会を出る時の取っ手の感覚っていうのは、「出口」を作るようなものなんでしょうか?
新城:おそらく。
須堂:失踪前日に行われたっていう“扉を持つ選ばれしもの”になるっていう儀式、それはどうですか?
新城:それが「出口」を手に入れる手段なのかもしれない、ひょっとしたら。
泰野教授:その“扉を持つ選ばれしもの”になれば良いんだ……それでも教祖は失敗したけどね。
新城:それに関して今得ている情報から推測できることは二つ。“扉を持つ選ばれしもの”になって信者全員と“向こう”に行ったけど、何らかの不測の事態が起きて、力を行使する前にそれが不可能になってしまった。もう一つは、儀式が不完全だった、ガセを掴まされていたっていう可能性もありますよね。
泰野教授:何かが起きて、全員が帰ってこられない事態になった……。
新城:もし仮に我々が教会を出ようとした時に得たあの取っ手の感触が“扉を持つ選ばれしもの”になる儀式的なものであったと仮定すると、理論上、間違いがなければ、戻って来られます。それで得られた「出てこられる力」が、荒井雅也の部屋にある領域でも通用するのかって話ですよね。
泰野教授:でも、教会を出る時の言葉って、誰にでも聞こえたはずだよね?
新城:それはラテン語ですから、意味が分からなければどうしようもないですよ。今回、我々はラテン語のエキスパート(※=白田)を連れて行ったので、分かりましたが。
泰野教授:“把手なくして闇を抜けること叶わじ”なわけだから、アレは必要なんだろうね。それを得れば、「出口」を作って出ることができるのかな? まぁ、そうなんだろうね。取っ手を得てから、荒井雅也の部屋に用意されている赤い闇に行く儀式を執り行って、彼が行ったのと同じ赤い闇の領域に行って、把手で闇を抜けるっていう算段か。
新城:戻ってきたら、領域を外から破壊できますよね。
白田:教会で儀式を執り行って教祖を連れ戻して訳を聞くとか。
須堂:いや、我々のミッションとして、教会の教祖を連れ戻すことには何の意味もないですよ。
新城:もし教会にある領域に行って、その先で教祖がいなかったり、死んでいたりしたら意味がないし、そもそも俺らだって戻って来られない可能性もある訳でしょ。
白田:じゃあ教会に行って取っ手を手に入れないと先へ進めないってことなのでは。
新城:今手に入れた情報の中で考えるとね。
キーパー:皆さん、メタ的にアドバイスしますと、教会で見つけた新たな書物を読む時に何度かロールに失敗していますよね? そこを復習してみない手はないと思うのですが。
須堂:じゃあ、明日は私が『闇について』を読んでみましょう。新城さんは『教導の書』をお願いできませんか?
新城:読んでみましょうか。
須堂:あ、部屋に残されていた赤いmp3プレーヤーに、荒井雅也の残したファイルから「door_music.mp3」(※=オペラ「扉、開かば」の演奏部分だけのファイル)を保存しておきます。どうやらこれは使うことになりそうなので。


新城:『教導の書』、行きます。〈日本語の読み書き〉は成功(忘れないうちにロールして、正気度2ポイント失いました)。
キーパー:内容は活動日誌でしたね。信者の集め方とか、教会の建設方針などが記されています。では、ここで泰野先生が失敗した〈アイデア〉ロールをしてください。
新城:(コロコロ)成功でーす。
キーパー:では続いて、〈クトゥルフ神話〉ロール〈オカルト〉の1/2ロールをしてください。
新城:おお、マジか!? 〈オカルト〉の1/230%! (コロコロ……)20!
一同:おおお!
キーパー:これはもっと深く研究しなくては何とも言えませんが、この日誌の信者の集め方と、教会の建設方針の記述そのものが呪文になっていることに気づきます。
新城:「……おおお、マジで!?」
キーパー:さらに新城は百扉教会でその構造に魔術的法則があることに気づいていますので悟ります。あの教会をグルリと一周見て回ることで、《百扉回廊》という呪文がかかります。ノート一冊分に伸長されて、断続的に記載されていますが、この記述を理解・統合することで《百扉回廊》という呪文が使えるようになるのでしょう。
新城:「……なるほど」
キーパー《百扉回廊》という呪文の正確な内容は研究してみないと分かりませんが、それは何らかの代償を払った儀式を通して取っ手を手に入れるものらしいです。そうすることによって取っ手を得た者は、次元の狭間にある「百扉回廊」という領域を出入りすることができるようになります。真の赤い闇の領域とは別の異次元ですね。
新城:「……これか」
キーパー《百扉回廊》の儀式を執行すると両手に、目に見えないドアの取っ手の感覚を得ることができます。右手の取っ手は百扉回廊へ入るための入口を開けるものです。左手の取っ手は回廊から出るために使う取っ手です。
新城:「……ふむふむ。ふむふむ」
キーパー:どうやら百扉教会というのは、この呪文《百扉回廊》を物質化し、固定化したもののようです。つまり、百扉教会という建物自体が《百扉回廊》という呪文なのです。
須堂:建物内を廻ること自体が詠唱だということなんですね。
新城:最後に扉から出る時に、「取っ手を得る資格を得たけど、どうする?」って聞いてくるわけか。
泰野教授:ここで取っ手を手に入れて、それを持って真の赤い闇の領域に行けば、その中で取っ手を使える、と。
キーパー:日誌に戻りますと、教祖・杉田はこの《百扉回廊》で取っ手を手に入れたと言っているのでしょう。

 なお、須堂は『闇について』の復習に挑みましたが、ロールに失敗して成果を得られませんでした。

須堂:さて、新城さんのおかげでやることは決まったから、やはり取っ手を手に入れるために教会へ行く?
白田:“資格を得る”わけですね。
須堂:これはコストを支払えば得られそうですから、全員がチャレンジしても良いかもしれませんね。
新城:その安心が得られるだけでもかなり違うよね。
泰野教授:とりあえず、翌日になったら取っ手をいただきに出かけましょうか。


キーパー:翌日になって、半日かけて百扉教会まで来ました。慎重に建物を一周して、梁の上に「把手なくして闇を抜けること叶わじ;求めよ、さらば与えられん」のラテン語を見ながら、皆さんは外へ出ようとします。すると頭の中に「ダテ・エト・ダビトゥル・ウォービース」の声が聞こえます。
白田:「与えよ、さらば与えられん」
キーパー:全員、“与える”わけですか?
一同:与えます。
キーパー:では代償として1D6ポイント正気度を失います。
泰野教授:(コロコロ……)くぉー、くぉーっ! 先生の面目躍如って感じだよ! 6ポイント失います。
須堂3ポイント! 一時的狂気にはならない!
白田5ポイント……。
新城 5ポイント(笑)
キーパー5ポイント以上失った人は〈アイデア〉ロールです。(コロコロ……全員成功(笑))代償に宇宙的恐怖の一端を垣間見た先生と白田には〈クトゥルフ神話〉技能5%、新城にはさらに1%を差し上げます。
白田:宇宙の謎が少し分かって来ました……。
キーパー:正気を保った須堂には分かるけど、ガチャっと正面玄関の扉から教会の外に出ると、何故か君は自分が建物の正面ではなく、側面に無秩序についていた扉の一つから外に出てきたことを理解する。そして、君からは見えない教会建物の向こう側から、他の3人の凄まじい絶叫が上がるのを耳にする。
泰野教授新城白田:「「「うわおおおおおーーーーーっ!」」」
須堂建次須堂:何があったのかと反射的に正面玄関の方へ行きます。
キーパー:しかし、そこには誰もいない。3人の声は、どうやら君のいたのとは反対の側面、あるいは建物の裏手から上がっているようだ。
須堂:(笑) 慌てて声のする方へと回ってみます。
キーパー:恐慌状態の3人の姿を次々と目撃することになるね。まぁ、差し迫った危険があるシーンではないので、しばらくすると3人も正気に戻ることで良いでしょう。ちなみに、正面玄関から出てきたはずなのに、別の側面扉や裏口から出てきたことを悟った皆さんは正気度ロールです。
須堂:ここで正気度ロールなのか(笑)(※白田が1ポイント喪失しました)
キーパー:皆さんは意識すると両手に不可視の取っ手の感触を握れることに気づきます。これで皆さんは「把手なくして闇を抜けること叶わじ」の課題をクリアしたことになります。教祖・杉田の言っていた“扉を持つ選ばれしもの”になったというわけです。代償はデカかったですけどね(笑)
一同:ホントに(笑)
泰野教授:今日はここで強制終了でしょう(笑)


夕会キーパー:これで手がかりはほぼ出揃いました。今後の方針をお聞かせください。
泰野教授:「じゃあ、焼き肉屋で作戦会議ね!」
新城:「白ホルモンと黒ホルモンを3つずつ!」
泰野教授:「単純に考えると、荒井君の家に行って、mp3とかを利用して儀式を行って、領域へ行けばきっと彼がいるから、取っ手を使って帰って来て、領域を壊して、彼を救う」
新城:「流れとしてはそれですね」
泰野教授:「余計なことをしないと仮定すればね。教会にある領域に捕らわれた人たちを放っておいて良いのかと、ちょっと考えなくもないけど」
新城:「もう余計なことを考えている余裕はないですよ」
泰野教授:「……そうよね。所詮、知らない人たちだし」
新城:「こうなると、オペラを歌うのは我々が……?」
泰野教授:「それはこの後、カラオケで練習しましょう」
一同:(笑)


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