ワクワクの木



2:吉報と悲報



キーパー:さて、話は去年の秋に遡ります。國史院大学の理学部で植物学を専攻している助教の伊武貫(いぶ・いずる、35歳)と、会社員の古田成実(ふるだ・なるみ、28歳)は白凰民俗資料保存協会(SPHF)の会員で、皆さんの顔見知りです。2人は来年の6月に結婚を予定していて、SPHFの事務所にいる皆さんのところへ婚約の挨拶に来ました。
新城:ほうほう。
キーパー:皆さんはかつて、伊武や古田と一緒にチームを組んで公益活動として「白凰市の樹木信仰」という調査を実施しました。その調査をきっかけとして、この2人は交際を始めて愛を育みました。なお、「白凰市の樹木信仰」については冊子なども作って、皆さん自宅に5冊くらいずつノルマで持っています。
新城:謝礼と称して現物支給されちゃったんですね(笑)
キーパー:(伊武)「あの時のチーム活動が僕たちの出会いのきっかけとなりましたので、チームを組んでくれた皆さんを、来年の僕たちの結婚式に招待したいと思いまして。ご出席願えないでしょうか?」
新城:「おお、もちろん喜んで! おめでとうございます!」
古田成実キーパー:(古田)「後日、正式に招待状を出させていただきますので、お返事お待ちしてます」
佐村:「分かったぜ、おめでとさん」
キーパー:事務所で同席していた他の協会員たちからも口々に「おめでとう」を言われる2人でした。
 で、後日、車両に同乗中に2人が交通事故に遭って、古田成実が死んだという知らせが入ります。
新城:あら!?
キーパー:(会員)「古田さん、亡くなったらしいぜ」
新城:「……マジかよ」
佐村:「残念だなぁ……」
キーパー:(会員)「来年、結婚するっていう2人だったのになぁ」
新城:「ふ~む」
キーパー:伊武のほうは重傷を負ったものの、命に別状はなかったそうです。もらい事故だったらしく、彼らに過失はなかったそうです。しかしその後、伊武はショックを受けて大学を辞め、白凰市からも去り、協会に顔を見せなくなってしまいました。ということがあったのが、前年の秋です。



キーパー:5月下旬のある日、消息不明だった伊武から短いメールが届きます。

伊武からのメール

 分木村というのは、鬼別郡にある小さな村です。ここで皆さん、INTロールをしてみてください。(コロコロ……新城はイクストリーム成功、須堂はハード成功、佐村はレギュラー成功)では佐村以外は気づきますが、古田成実が死んでいるという事実を別としても、最後の「その頃には、きっと成実も喜べると思います」という部分には違和感を覚えます。
新城:うん、そうだよね。「最後のこの部分は、何かおかしいですよね」と指摘しておきます。
佐村:「奴もとうとう気が触れちまったか……」
新城:「よっぽどショックだったのかなぁ」という話にはなりそうですよね。連絡先とかは……?
キーパー:住所等が書かれていますし、メールで連絡することはできます。追伸で「現在電話は故障中です」と書かれています。
新城:「ではせっかくの招待ですし、予定を繰り合わせて行ってみますか」
佐村:「いつ頃行く?」
キーパー:6月中旬頃に皆さんの予定が合わせられそうです。
新城:「この3人の都合がつきそうなので、一度遊びに行きたいんですけど大丈夫でしょうか?」と返信します。
キーパー:「お待ちしています」と返信が来ます。決めた日付の正午に「JR分木駅前で待合わせましょう」ということになります。

 鬼別郡分木村は白凰市から車で2時間ほど、電車でも同じくらいかかる距離にあります。風情があるほど鄙びてはいなくて、当然白凰市のように活気があるわけでもないという、中途半端に退屈な村です。目を引く観光資源があるわけでもない、ちょっと行くのに不便な辺鄙な場所です。


新城:なるほど。では行くに当たって、最初にもらったメールの内容には「ん?」という個所があったにせよ、「デリケートな部分に関してはあまりこちらから突っ込まないようにした方が良いんじゃないか」と年長者の2人に相談しておきます。
佐村:「適当なお菓子を持って行って、線香あげさせてもらうって感じか?」
新城:「いや、そうではなくて。“きっと成実も喜べると思います”ということは、生きていると思っちゃっている可能性もあるわけじゃないですか」
佐村:「穿ちすぎじゃないの?」
新城:「でも、そこはあまり刺激しない方が良いんじゃないかと。このことについて全力で否定しちゃったりすると、症状が悪化しちゃう恐れがあるから」
須堂:「メンタルを病んでいる場合、その部分はそっとしておくのが一番じゃないかと」
佐村:「酒でも持って行って、泣き言を聞いてやれば良いんじゃないの?」
須堂:「泣き言を聞く時期はもう終わっているような気が……」
新城:うんうん。



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