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キーパー:6月中旬のまだそれほど暑くはないけどムシムシするような日。正午前に、皆さんは分木駅に降り立ちました。時間通りに、錆の浮いた中古の白いハイエースに乗って、伊武が皆さんを迎えに現れます。(伊武)「皆さ~ん!」 新城:「あ、どうも~!」……様子はどうですか? キーパー:特に痩せちゃった、というようなことはなく、思っていたより快活です。 一同:ほう。 ![]() 新城:同乗者が亡くなってしまうような事故でしたからなぁ。 キーパー:(伊武)「いきなり連絡を絶ってしまって申し訳ありませんでした。あの時はショックで何もかもがどうでも良くなってしまって、整理がつかないまま引越しをしてしまったのです」 新城:「お察しします。あの事故については我々も大きなショックを受けましたので。ましてや伊武さんご自身ともなれば」 佐村:「こうして普通に話せているということは、立ち直ったのか?」 キーパー:(伊武)「まぁ、立ち話も何ですし。ちょうどお昼時ですから、食事でもしながら近況をお話ししましょう」ということで、駅前にある唯一のファミレスである「リゼルポット分木店」へ入ります。ここの勘定は伊武が持つので、何でも頼んで良いそうです。ファミレスなのでたかが知れていますが。伊武はサラダボウルだけ注文します。 佐村:肩を強く叩いて「ちゃんと食えよ!」 キーパー:(伊武)「佐村さんはキツイなぁ。でも、相変わらず胡散くさそうで安心しました」 一同:(笑) キーパー:食事をしながら近況を話します。分木山(わくのきやま)というそれほど高くはない山が近くにあるのですが、伊武は現在、その山を少し登った所にある古民家を借りて暮らしているそうです。 佐村:「ほう。そういうの今、結構流行だからねぇ」 キーパー:(伊武)「全然リフォームもされていないんだけど、僕1人で暮らすくらいなら、何とかなるもんですよ」 新城:「なぜ、こちらの村に?」 キーパー:(伊武)「知っての通り、僕は植物学を専門としているからね。僕にとっては天国のような環境だよ」 佐村:「山中で植物に囲まれているなら、植物学者としては本望か」 キーパー:(伊武)「まだ住居の整理もついていない状況なので、皆さんをお泊めするわけにもいかなくて。でも駅前にあるビジネス・ホテルを手配してあるので、宿泊はそちらを利用してください」 佐村:「気が利いているじゃねーか」 新城:「お気遣いありがとうございます」 キーパー:(伊武)「見ての通り、分木村っていうのは何もないところでね。民俗学的には分木神社(わくのきじんじゃ)の御神木のクスノキくらいしか見どころがないんだ。宮司の盛屋さんていう人が顔見知りなので、僕の名前を出してくれれば簡単な案内をしてくれると思うよ」 新城:「それは是非とも見てみたいですね」 佐村:「そうだな」 キーパー:(伊武)「……それと、メールにも書いたのですが、成実のことはもう少し時間がかかると思います。でも一両日中には会わせることができると思います」 新城:「ほほう……?」 佐村:「何を言って――」と言いそうになります。 新城:脇腹に三沢光晴ばりのエルボーを叩きこんで黙らせます。 キーパー:以後は、なんだか気詰まりになりながらもモソモソと食事を終えます。時間は午後1時くらいですかね。 キーパー:(伊武)「では、家にご案内しましょう。狭い車ですが乗ってください」伊武邸は駅前から車で20分ほどの距離だそうです。山道を車で登って20分ですから、なかなかの道のりですね。分木山は森に覆われていて、道は木々の間を縫っていく感じです。やがて舗装された道を外れて未舗装の道を入っていくと、伊武邸と思しき家屋が見えてきます。 新城:「こちらですか」 ![]() 一同:おおう。 キーパー:(伊武)「いやぁ、お恥ずかしい。もっと落ち着いたらリフォーム業者を入れたりしようとは考えているのですが……」 新城:「不便はないんですか?」 キーパー:(伊武)「まぁ、不便ではあるけど、暮らしているのは僕1人だから」 新城:「ま、まぁ……確かにそうですね……」 キーパー:車から皆さんを下ろすと、伊武は「どうぞ、汚い所ですが」と言って、ガタガタと建付けの悪くなっている引き戸を力ずくで開けて、屋内に招き入れます。入口すぐに土間があって、連結した居間があって、という感じですね。 須堂:土間……(笑) キーパー:(伊武)「コーヒーでも淹れますので」と言うと、土間に置かれたテーブルの上にあるコーヒーメーカーを操作し始めます。 佐村:「おお、スマンね」 キーパー:(伊武)「使っているのはキッチン代わりの土間と、書斎兼寝室の居間くらいでしてね。他の部屋は使っていないので、部屋自体は豊富にあるんですけれど、人を泊められる状態ではないんですよ」 新城:「なるほど(苦笑)。雨漏りは大丈夫ですか?」 キーパー:(伊武)「とりあえずこの土間と居間は大丈夫みたい。木々に覆われているので、少しは雨を遮ってくれるんだ」 新城:「それでは、日当たりもあまり良くないのでは?」 キーパー:確かに、結構薄暗い感じですね。 佐村:「飯はどうしているんだい?」 キーパー:(伊武)「実は山の幸が豊富な場所でしてね。自給自足とまではいきませんが、米などを買ってくれば、それなりに何とかなりますよ」 新城:植物学の知識とかが、そういう部分でも活きてくるっていうね(笑) キーパー:そうこうしている内にコーヒーが出来上がったんですが……(伊武)「あ! 良く考えたら、人数分のコーヒーカップがないな……」マグカップは彼用のものが1つあるだけです。 佐村:「お前は山頭火か……」 キーパー:(伊武)「良ければ、これで……」と言って、茶碗とかお椀をテーブルの上に並べます。 新城:「ああ、良いですよ。家では丼でコーヒー飲んでいますので」お椀でコーヒーをいただきながら「今、お仕事とかはどうしているんですか?」 キーパー:(伊武)「古民家に住む条件で分木村から補助が出るのと、後は貯蓄を取り崩しながらやっているよ。また追々とは思っているんだけど、今は研究と言えるほどのことはしていない」 新城:「なるほど」 キーパー:ここで皆さん、INTロールを。(コロコロ……佐村と須藤が成功)2人は気づきますが、ここには伊武1人しか住んでいないでしょうね。メールにあった、古田成実の存在は、ほぼ感じられません。 須堂:そんな感じですね。マグカップも1個だし。 キーパー:その後は特に話すこともなく、気詰まりな雰囲気の中、コーヒーを啜る時間が過ぎて行きます。 新城:「じゃ、じゃあ、そろそろ……」(笑) キーパー:30分もすると「駅前まで送っていきますよ」と伊武も立ち上がります。15時頃には分木駅前のビジネス・ホテル前にハイエースで戻って来ます。(伊武)「ホテルに話は通してありますので、どうぞごゆっくり。また、明日の10時頃にこちらに来ますので……」と言うと、運転席から手を振って伊武は分木山の方へ車で走り去ります。
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