ワクワクの木



4:分木神社



キーパー:ホテルには15時からチェックインできます。(ホテル従業員)「伊武様から承っております。いらっしゃいませ」
佐村:「ああ、よろしく」この辺りでの伊武の評判でも聞いてみたいのですが?
キーパー:ああ、なるほど。ここはそんなに大きな村ではなく転入者も少ないので、新顔の学者先生が来たということで伊武のことは知っているようです。(従業員)「ただ、自然にご興味があるということで、ご自宅のほうにいることが多いみたいですね。駅周辺には週に何度か買い物に来るくらいです。もちろん、当ホテルに宿泊されたことはありません」
新城:はいはいはい。
キーパー:(従業員)「分木神社に宮司がいるんですけど――」と、ここで口ごもります。「――宮司と仲が良いみたいですよ」
新城:ん? 宮司のほうに何かあるのかな、ひょっとして?
佐村:「宮司と組んで、何か評判の悪いことをしているわけじゃないんだろう?」
キーパー:評判の悪いことをする規模すらないからね、この村は。(従業員)「学者先生ですので、分木神社の縁起とかにも興味がおありなのでしょうかねぇ。分木神社の主祭神は木の神様ですから」
新城:ほう?
キーパー:(従業員)「先生と宮司は年齢も近いですし、話が合うのかもしれません」
新城:なるほど。とりあえず荷物を預けて、と。まだそんなに遅くはないんですよね?
キーパー:15時過ぎた頃ですね。
佐村:「じゃあ、神社にでも行って、宮司に会ってみるかい?」
新城:「御神木も立派だということでしたしね」
須堂:「行ってみましょうか。神社はどちらに?」
キーパー:(従業員)「あそこです」ホテルのロビーから鳥居が見えます。
一同:凄く近い!



キーパー:分木神社に行きますと、鳥居があって、その脇に主祭神などが書かれた看板があります。主祭神は久久能智神(くくのちのかみ)、木の神です。創建は1200年頃と書かれています。
新城:ほほう。なかなか由緒のある……。
キーパー:社殿の裏にある御神木(クスノキ)は樹齢が500年などということも書かれています。
新城:十分、御神木ですよね。石段を登ってたどり着く感じですか?
キーパー:石段という程のものじゃないですね。10段も登ればすぐに境内です。境内には社殿があって、その裏にクスノキがどぉーん! と立っています。幹に注連縄が回されて、紙垂が垂れている感じですね。あとは社務所っぽい建物と手水舎くらいかな。
新城:とりあえず参拝しますか。二礼二拍手一礼。本殿はどんな感じですか? あまり立派じゃないのかな?
キーパー:歴史の重みというよりは、「結構新しいな」って感じですね。おそらく建て替えているのでしょう。築800年ではないようです。
新城:ちょっとブラっとすれば、一通り見て回れる感じでしょうね。参拝を終えたら御神木を見に行ってみましょうか。
佐村:「おお、デケェなぁ」
キーパー:御神木を見上げていると、社務所のほうから「どうも、ご苦労様です~」と声をかけてくる神職がいます(イラストを見せる)。
佐村:盛屋さんでしたっけ?
新城:思っていたより若いですね。
キーパー:おそらく30代前半くらいでしょう。
佐村:「お~、伊武が世話になっているんだってなぁ」
新城:「我々は伊武さんの知り合いでして……」と話をします。
キーパー:(盛屋)「うわぁ、あなたたちですね!? 伊武さんから聞いていますよ! 民俗学がご趣味なんですよね? どうぞゆっくり見て行ってください。うわぁ、いいなぁ! 都会から来られたんですよね!?」
佐村:「ここから見れば、どこだって都会だろうけどな。わっはっはっ」
キーパー:(盛屋)「そうですよね! どうぞ、こちらへ。お茶でもいかがです?」と言って社務所へ誘ってくれて、麦茶を出してくれます。
佐村:「おお、スマンな。ところで、伊武とは楽しくやれているかい?」
キーパー:(盛屋)「最初の頃は伊武さんも足繁く通ってくれていたんですけどね。正直言ってウチもそんなに見どころが多いわけでもありませんから。クスノキにはしばらく興味を持ってくれていたみたいですけど、最近は買い物ついでに顔を出してくれることもある程度ですね。あ、お菓子もどうぞ」
佐村:「悪ぃなぁ」(ばりばり、ぼりぼり)
キーパー:(盛屋)「この分木神社ですが、分木山の山頂に奥宮がありましてね。見えますか?」と神社の裏手にある山の山頂を指さすと、薄っすらと鳥居らしきものが、木々の間から見えます。
新城:「ほう! はいはい、見えますね!」(前のめり)
キーパー:(盛屋)「奥宮ですが珍しい造りになっていまして、洞窟の中に社殿があるんですよ」実際、珍しいですが、皆無ではありません。
新城:宮崎の鵜戸神宮とかそうですよね。
キーパー:もちろんあれほど立派なものではなくて、狭い洞窟内に祠みたいな社が置かれているだけです。分木神社の主祭神である久久能智神が祀られているのは、奥宮のほうです。
新城:なるほど。今いる場所のほうが拝殿というか、摂社みたいなもんなのか。「これは珍しい構成かもしれないですね」
キーパー:(盛屋)「奥宮は祭祀の時以外は関係者以外立入禁止になっています。私は年に何度か祭祀を行なっていますし、洞窟には扉がついていないため、土や落ち葉が入り込むので、定期的に掃除に入ったりしていますが」
須堂:「管理が大変ですね」
キーパー:(盛屋)「防犯カメラとかは取り付けていないんですけど、興味があったとしても、絶対に奥宮には入らないでくださいね」
一同:「……」
キーパー:(盛屋)「誰も見ていなかったとしても、絶対に入らないでください」
一同:「……」
キーパー:(盛屋)「皆さん、民俗学に興味があるということですし、珍しいとは思うんですけれども、絶対に中には入らないでください」
一同:「はあ」
キーパー:(盛屋)「皆さんの良心にお任せしますけれども、実は、防犯カメラとかは付いていません」
一同:(爆笑)
新城:これはアレか? 「押すなよ、押すなよ!」ってやつか?
佐村:「あんたの立ち会いの下ってわけにはいかねぇのかい?」
キーパー:祭りの時には宮司立ち会いの下、村人が入ることはあるそうですが特に今はその時期ではないそうです。
佐村:(ヒソヒソ)「明日、伊武が来たら車で行ってみようぜ」
新城:(ヒソヒソ)「う~ん。興味はあるけど、無許可ってことになると話が違いますからね」



 夕方まで分木神社にいた一行は盛屋和一に別れを告げて神社を辞し、駅前の焼き鳥屋で食事をとることにします。話し好きの焼き鳥屋の大将によると、盛屋和一は大学卒業後、父親(先代宮司)のコネで分木村役場に勤務していましたが、先代が急死した 2 年前から宮司を継いでいるとのこと。村役場時代から仕事には不真面目であり、現在も頻繁にパチンコ屋で姿が見かけられるということです。祭事に熱心ではなく、村人たちからの尊敬を集められてはいないことが分かりました。


ねぎまキーパー:(焼き鳥屋の大将)「若宮司も可哀想って言えば、可哀想さ。修行も何にもしないまま、先代の見よう見まねで祭事を取り仕切らなきゃならないんだからな。しかも、きっと、祭事に興味もないんだろうよ」
佐村:「神社に通っているのは伊武だけなのかい?」
キーパー:(大将)「伊武先生も信仰で通っているわけじゃないからな。そういえば、宮司に連れられて、伊武先生が店に一度来たことがあるよ」
新城:「そうなんですか!」
キーパー:(大将)「特に痛飲するわけでもなく、若宮司がへべれけになって管を巻くのを笑って見ていたって感じだったな」
一同:(笑)
佐村:「山の上に奥宮があるっていうけど、大将は入ったことはあるのかい?」
キーパー:(大将)「俺はないけど、祭りの時には何人かの世話人の年寄りたちが若宮司と一緒に入るって聞くよ。もっとも、今では祭りは世話人がほとんどを取り仕切っているって話だね。世話人が段取り付けて、若宮司は祓い串を振ってたどたどしく祝詞をあげてくれれば上出来なんだろうさ」
新城:「……なるほど」



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