ワクワクの木



6:ワクワクの木



キーパー:裏庭らしきスペースはあるんですけれど、家庭菜園が作られているような様子もなく、雑草が鬱蒼と茂っていて、林がすぐ傍まで迫ってきています。
須堂:踏み分け道みたいなものはないかなぁ、と探してみます。
佐村:その変な女が生えてきたっていう所に通っているはずなんで……。
キーパー:何かを探すにはもちろん〈目星〉です。(コロコロ……3人とも成功)木々の間を抜けていく細い道があるのを見つけます。少し先で急激に斜面を登っていくようです。伊武が踏み固めて、足掛かりのようなものができています。
新城:ということは、山を登っている感じなんですね。登って行きますか。
キーパー:しばらく登っていくと、斜面に張り付くようにして平らになった、細長い棚畑のような場所に出ます。そこに一本の木が生えていて、その前に、パーカーのフードを被ってあなたたちに背を向けて立っている伊武がいます。
新城:おお?
キーパー:で、その木なのですが――

 イチジクの木に似ているが、それとは違うものであるのは一目瞭然だ。木には実が生っており、その重みで首こうべを垂れるようにしなっている。木から黒い髪の毛でぶら下がっているのは女だ。いや、人間の女の姿形をした実が、黒い髪の毛のような蔓でぶら下がるように生っているのだ。滑らかな女の裸身のような実のへたの部分には、目を閉じた古田成実の顔がついていた。


キーパー:ということで、木からぶら下がっている古田成実のような実を見た人は正気度ロールです。
須堂:(コロコロ……)成功です。ぎょっとした。
佐村:(コロコロ……)失敗(2ポイント喪失)。
新城:(コロコロ……)失敗(1ポイント喪失)。
キーパー:実のぶら下がるイチジクのような木を見て、〈オカルト〉〈歴史〉〈自然〉〈科学(植物学)〉のいずれかの技能ロールをしてください。(須堂と佐村が〈歴史〉でそれぞれイクストリームとハードで成功)では2人は知っていますが、これって「ワクワクの木」によく似ています。

ワクワクの木
 ワクワクの国に生えるという人間の女性の形をした実をつける木。最初は椰子の実に似た果実が生り、その実から若い女の足先が生え始め、やがて女性の全身が形成され、髪の毛で木からぶら下がる。実が落ちる時の「ワクワク」という叫び声は凶兆とされる。
 ワクワクの国がどこにあるのかは定かではないが、ワクワク=倭国であるという説もある。

キーパー:なお、「ワクワクの木」というのは既存の実在する伝説です。ググれば見つかります(※ググってみよう!)。
 皆さんが来たことに気づいた伊武は、フードを目深にかぶった頭をわずかにこちらに向けると、「さあ、成実! みんなが来てくれたよ!」と実に語りかけます。すると実の目がゆっくりと開いて、あなたたちを見つめます。その姿は、あなたたちの知る生前の古田成実そのものです。それに気づいた皆さんは正気度ロールを。
一同:(コロコロ……)成功!(※正気度ポイント喪失なし)
ワクワクの実キーパー:実は成実の声でやおら「ワークワーク」と叫んだ後、ボトリと地面に落ちます。
一同:「……!」
キーパー:伊武は「成美!」と叫ぶと落ちた実を拾い上げて抱きかかえ、揺すります。しかし木から落ちた実はその声に反応することなく、目を開けたままぐったりとして反応を見せません。伊武は「神の元へ連れて行けば……連れて行かないと……」と呟くと、実を抱えて急な山の斜面を登り始めます。
新城:とりあえず、後を追います!
キーパー:伊武は右足を引きずりながら斜面を登っていきますが、登り慣れているのか、異常にスイスイと登っていきます。まるで野生動物のように斜面を苦にしていない感じです。追うなら〈登攀〉技能の対抗ロールですね。皆さんは初めての、そして不慣れな山の斜面を登っていくということで、ペナルティ・ダイスが1個課されます。(伊武の〈登攀〉技能ロール……コロコロ……)なお、伊武はイクストリーム成功しているので、クリティカルしたら教えてください。
一同:ははは……(※全員失敗)
キーパー:引き留める声を一顧だにせず、実を抱えた伊武は鬱蒼とした斜面を信じられないスピードで登っていって、姿を消してしまいました。
佐村:完全に見失ってしまいましたね。
新城:おそらく、行先は奥宮だろうな。となると、ハイエースを借りちゃって、行ってみるしかないか……。



キーパー:伊武に振り切られた皆さんは一度棚畑まで戻って来ました。すると下から登ってきたらしき盛屋がひょいっと棚畑に姿を見せます。(盛屋)「アレ!? 実がありませんね。もう落ちちゃいました?」
佐村:「……お前、全部知っていたのか!?」
須堂:種はこの人からもらったって書いてあったからね。「あー、実は先ほど落ちて……」
新城:「伊武さんはそれを持って、“神のところへ行かなければ”と言って、登って行っちゃったんですけれど……」
キーパー:(盛屋)「あ、そうなんですか。じゃあ、さっき戻ってくる時に車の窓から見えたのは、山を登っていく伊武さんだったのかもしれないな。何かを抱えているようだったし。奥宮へ向かって行ったようだったけど……」
佐村:「お前、親父から種のことについて何か聞いていなかったのか!?」
キーパー:(盛屋)「いやぁ、まったく。奥宮に収められていた種だったんですけどね、アレ。植物の種っぽかったので、専門家に育ててみてもらおうかと……」
一同:なるほどね(苦笑)
新城:「経過についても聞いていましたか?」
キーパー:(盛屋)「たまに見せてもらっていましたけど、何か、変な、不気味な実でしたよねぇ。でも何て言うか、こう……オモシロイじゃないですか?」
佐村:(笑)
キーパー:(盛屋)「伊武さんも知らない木だってことでしたけど、なんだか途中から、実が知人に似てきたって話でしたので、もしかして育てる人によって形の違う実が生ったりするんでしょうかね。なんか、こう……オモシロくないですか?」
新城:「……とりあえず、奥宮へ向かっていると思うんですけど?」
キーパー:(盛屋)「あ、じゃあ、行きます? 乗せて行きますけど?」
一同:「是非!」
キーパー:では真っ赤なヴェルファイアに乗ってくねくねと曲がる山道を登って行くのですが、道の両脇に立ち並ぶ樹々が息づくように「う゛ぁん……う゛ぁぁん……」と燐光を放っていることに気づきます。ということで正気度ロールを。
一同:(コロコロ……)成功!(※全員成功で正気度ポイント喪失なし)
キーパー:盛屋もそれに気づいて声を上ずらせます。「スゴイ、こんなこと初めてだ……! これから何が起きるんだ? 起こっちゃうんだ?」それは聞きようによっては歓喜の声にも聞こえます。
新城:助手席に座った私はバックミラー越しに「これガチっすよね?」という視線を送ります(笑)
須堂:うん(苦笑)
キーパー:10分ほどで車は分木山の山頂近くにある15m×15mくらいの空き地に到着します。ヴェルファイアが余裕をもって方向転換できるくらいの広さはありますね。お祭りの時に数名の人間が集まって祭祀をするには十分です。
新城:ふむ。
キーパー:空き地の地面からは巨岩が露出していて、その側面に2m×2mくらいの洞穴が開いています。洞穴の入り口の前には、駅前の神社から見えた石の鳥居が立っているんですけど、その表面は苔に覆われていて、全体的に緑色になっています。空き地を取り囲む樹々はリズミカルに燐光を放っています。まるで山が息をしているかのように――



戻る 表紙へ 次へ
架空都市計画へ戻る