嗤いゑびす



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キーパー:11月23日、勤労感謝の日になりました。
村雨:では事前に手配しておいたチケットで、まずは凪島まで行きましょう。
キーパー:朝一番に朱鉤湊町からフェリーに乗り込みます。凪島は釣りのスポットとして有名らしく、ポケットがいっぱいあるベストを着た、いかにも釣り目的という人たちが結構な人数乗っています。だいたい2時間ほどで凪島には到着します。進行方向左から徒島、凪島、常島という並びで、常島が一番小さいです。
村雨:徒島は煙を上げているんですか?
キーパー:噴煙は見えませんが、火口部分に薄っすらと陽炎が立っています。凪島と常島は緑に覆われていて、海上からは森のように見えます。かつては徒島も同様だったため、3つの森があるように見えるために“三杜村”と名づけられたとのことです。
一同:ほほう。
藁池 清キーパー:フェリーは凪島の港に無事入港します。ほとんどの船客は釣り人なので、思い思いの場所へ散っていきます。近くにある漁港に、藁池君のお父さん(藁池清)が皆さんを迎えに来てくれています。(清)「いつも息子がお世話になっております」
村雨:「よろしくお願いいたします~」
キーパー:藁池君からお父さんには話をしておいてくれたらしく、常島には観光的な施設は何もないものですから、藁池君の自宅をベース基地として使ってくれて良いそうです。「何の変哲もないものですが、良かったら見ていってください」ということで、ゑびす祭の見学も問題ないそうです。
泰野教授:「お世話になります」
キーパー:凪島から常島へは船で20分くらいです。漁港周辺に少し平地があるくらいで、こんもりとした森に覆われています。島の中央には“ゑびす山”という山がありまして、その頂上に向かってなだらかに傾斜が昇って行きます。常島の全住民は港周辺の集落で暮らしています。藁池君によると、集落の中で一番の高台に詣り墓とゑびす堂があるそうです。
 まずはベース基地となる藁池君の家に向かうことになりますが、ここで皆さん、〈アイデア〉ロールです(須堂のみ成功)。では須堂さんは気づきますが、田畑もある集落に縦横に水路が走っていることに気づきます。水路には豊富な量の水が流れています。
須堂:「ほう。水路(?)が目につきますね」
泰野教授:島にしては珍しいな……。
村雨:「この水路の水源は?」と清さんに聞いてみます。
キーパー:集落の高台に詣り墓とゑびす堂がありますが、そのゑびす堂の後ろにちょっとした崖があって、そこから湧き水が出ているそうです。その水は張り巡らされた水路によって集落の各家や田畑に運ばれています。昔から、常島は水に不自由したことがないそうです。
村雨:生活用水に使われているってことですか?
キーパー:もちろん飲み水としても使われています。田んぼもあると言いましたが、稲も自給自足できるくらい採れるそうです。雨が降らない年でも、水が枯れたことはないとのことです。
一同:へぇ~。
キーパー:常島の名産は新鮮な魚介類とともに、大根だそうです。大根畑が多いみたいですね。この大根ですが、ゑびす祭までは採らないのが習慣だそうです。
村雨:「一番大根はゑびす様に献上するとか、そういう感じですかね?」
キーパー:(清)「まさにそのとおりです。祭の日には、常島自慢の大根をご馳走しますよ!」皆さん、〈人類学〉ロールをしてください。
泰野教授:OK、OK。成功です。
キーパー:えびす講の日は大根の誕生日で、田の神にそれを奉げる風習があることを思い出します。
一同:ほほう。

ライン

キーパー:集落を進んでいくと、一軒の家で何やらワヤワヤとやっている場面に出くわします。どうやらそこでお葬式が出たみたいです。
村雨:キタ! 「これは……邪魔にならない程度に見学させてもらうべきでは?」
泰野教授:「うん、そうね」
藁池 博キーパー:藁池君がお父さんに「あれ? “網”のところ、お葬式?」と聞きます。するとお父さんが、「ああ、あそこも爺さんがとうとう亡くなっちゃってね。今日が通夜で、明日凪島から和尚さんに来てもらって葬式だ」と話します。皆さん〈アイデア〉ロールをしてください(村雨だけ成功)。その家の表札も「藁池」です。
村雨:「親戚のお宅?」と藁池親子に聞いてみます。
キーパー:この常島は九割くらいが「藁池」という苗字なのだそうです。
村雨:「なるほど。ということは“網”っていうのは網元の家ってこと? 屋号的な?」
キーパー:(藁池)「そうです。うちは道の曲がり角にあるので“角”です」
泰野教授:「ああ、なるほどね」
キーパー:やがて“角”の藁池家に到着します。昔ながらの日本家屋って感じで、だだっ広い部屋に通されます。藁池君のお母さんは通夜の手伝いに出ているようです。
泰野教授:「もし差し支えなければ、我々にも何かお手伝いをさせていただけないでしょうか?」
キーパー:(清)「でも、せっかく調査でこんなところまでいらしたのに……」
泰野教授:「いえ、気を悪くしていただきたくないのですが、これも貴重な体験ですので。差し支えなければ見学というか、参加させていただければ」
キーパー:人手は足りているので特に手伝ってもらうこともないそうなのですが、「“網”のところの爺さんも賑やかなのが好きだったので」ということで許可されそうです。今の時間は昼頃ですので、既に用意してあった昼食をいただいてからでも通夜までは若干時間があります。
村雨:……ゑびす堂へ行ってみませんか?
泰野教授:そうしましょう。