嗤いゑびす



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キーパー:翌朝になると村の人たちは「良く寝たな~」というだけで、予想通り誰1人として昨晩のことを口にしません。えびす講は先祖を祀る祭ですから、確かに先祖を祀る祭でしたよね、という話です。
泰野教授:う~ん、それに異論はないんだけど(笑)
須堂:両墓制も、極めて特殊ですが、両墓制でしたという結論ですね。埋め墓はないけども。
泰野教授:「色々なことが分かったけど……困ったなぁ」
村雨:「先生的には困りましたけど、島の人間は誰も困っていませんな」
泰野教授:「……うん。困っていない。確かに誰も困っていない」

キーパー:こうして皆さんは当初の予定通り祭をすべて見届けて、帰路に就いたのでした。

ライン

日下部 麻希

 日下部麻希の鼻梁の上の眼鏡レンズが、ノートパソコンの液晶画面の光を反射して白く光っている。表示されていた未発表報告ファイルから目を外すと、麻希は右手で目頭を揉む。このファイルもまた、未発表のまま封印され、忘れ去られていくのだろう。いなくなった須堂建次の事情と同じように。
 きっとこれからも、麻希が知るか否かに関わらず、このような事件は繰り返されていく。
 そういう街なのだ。白凰市ここは。