次の言い訳


「今日は良くがんばったね。」

 ここに来てから数時間。
 後ろ手に縛る縄以外が、ようやくほどかれた。


「すっかり汗まみれじゃないか。家に帰ったら、ゆっくりと休むといい。」

 膝と足首がひどく痛む。
 長時間無理な姿勢で縛られていたせいで、すぐに立ち上がる力が無い。


「最後の君の姿、かわいかったよ。」

 視線の先に映る太ももの縄の跡。
 鞭で打たれた腫れによる痛みが、急に増した気がする。


「好きだな、あの表情。また見せてくれよ。」

 ひたすら涙が溢れ出る。
 苦痛から開放されたことで、頭の中は放心状態のまま、今は何も考えることが出来ない。


「明日も学校があるんだろ、遅刻しないようにな。」

 部屋の隅に押しやられた制服と学生カバン。
 床に散らばる縄を片付けながら、男は先程までとは全く違う、柔らかい口調で話し続ける。


「次は部活の無い曜日にしよう。そのほうが時間がたっぷりと取れるからね。」

 体中に残る傷跡。簡単には消えぬ傷跡。
 学校からの帰路、自転車で転んだという言い訳は、次はもう使えない。

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