三日目 挙式

 オレは晴れ男である。それは、今まで大抵の「行事」の本番が雨だったことはない(むしろピーカン)という経験が裏打ちしている。無論、あまりに強大な雨男の集団と立ち向かえと言われたら、それはやはり晴れにする自信はないが、しかし自分に関する行事は、大抵の場合晴れる。
 南半球でも、その属性は通用したらしい。朝起きたら、昨日の大嵐が嘘の様な晴天(*1)。雲一つ無い…とまでは言わないが、穏やかないい天気になった。まさに挙式日和と言うべきか。自分で自分の力が恐くなるほどだった。

 挙式は午前中に執り行う。そこで、我々新郎新婦は早めにウェディングエンジェルに移動する。8:40にホテルに迎えが来て、昨日訪れたコロニアルクラブリゾート(*2)に向かった。
 到着すると、早速きばのメイクが始まった。すごい量の化粧道具(*3)。これだけでも圧倒されたが、「じゃぁこれから1時間半ほどかかりますから」と言われて、さらに驚いた。髪の処理に時間がかかるらしい。きばは我妻ながら、見事なストレートの髪の毛をしている。そこで、そのまんま髪をまとめようとしてもすぐに解けてしまうことになるため、まずは髪をカールするところから始まった。その為の早い準備開始である。勿論、その間オレも髪をカールしたり…は、しない。普通に雑誌を読みながら待つ。「新郎さんは散歩とか行って下さっても構いませんよ」とは言われたが、やはりここは懐の深い男性らしく、新婦の準備を見守っていてやろうではないか。待つ。待つ。待つ待つ待つ待つ待つ待つ待つ………


「スンマセン、んじゃお言葉に甘えて散歩行ってきます」


 だって長いんやもん!!女性ってスゴイよなぁ、あんなに時間がかかることをジッと待ってるんだもんなぁ…。まぁ時々電車に乗ったりすると、座席で化粧をして電車に乗ってる時間中に10歳以上若返る人ってのも見かけることがあるしなぁ…いやはや男性にはマネ出来ない(つーかしてどうする)ワザだ。
 そんな事を考えつつ、しばし外で散歩しながら紫外線を風景を楽しむ。外に出ると非常に光線が強いが、その分色々なものがはっきりと見えて面白い。南国の花々も非常に美しい色を見せてくれる(*4)。道の方に出ていくと、ちょうど家族で芝刈り(といっても、芝生ではないのだが)をしている最中だった。多分、朝の早い時間帯で、涼しい時にこういう作業をしないと日中は暑くてやってられないのだろう。

 写真を撮影したりしながら帰ってくると、きばのメイクが終わりかけているようだった。きばは我妻ながら、日常ではほとんど化粧をしない(*5)。したがって、肌が傷んでいようはずもない。メイク担当のきみよさんが何度も「いやー肌が綺麗ですね」と感心していた。まぁ、こういう時の褒め言葉というのは、言葉半分に受け取るのが妥当だとは理解していても、やはり嬉しい(オレが)。ふっふっふ、そうでしょうそうでしょう、ウチのヨメはもともと大して化粧も必要ないんですよ、どーですか見てやって下さいよフッフッフ…と思いながら、部屋に入って行き、メイクの出来具合を見るために近寄ったところ…


ア ノ 、 ス イ マ セ ン 、 ド ナ タ デ ス カ ?


 知らない女性が居る。きばは何処!?きば、何処に行っちゃったの?新婦が疾走失踪?何度かまばたきをしてみる。眉にツバも付けてみよう。よくよく見ると…「き、きば!?」あ、マズい、ちょっと怒ってる…しかし、結婚式用のメイクというのは派手だ派手だとは聞いていたが、ここまで派手ですか。ちょっとビックリ。京劇とまでは言わないが、舞台メイクに近いものがありはしまいか。しかし、見慣れてくるとこれはこれでイイ。改めて惚れ直した…かな?イヤ、ノロケですよ、エエ。

 オレの方も、きばのメイクが終わった辺りから着付けに入った。
 男は楽だ。着るだけ。まずシャツを着る。このシャツが所謂「王子様シャツ」なのだ…胸のところにビラビラが一杯付いている。ちょっと恥ずかしい。カフスボタンを留め終わったら、今度はズボンだ。こういう時に、ベルトなんてのは使わない。サスペンダーで「釣り上げる」。…この状態で挙式すると言われたら、多分オレは逃げていたと思うぞ…はっきり言って、「王子様シャツを着た川釣り師」。ズボンと一体化しているゴム長を履いている気分だった。幅広のネクタイを付けたら、ベストとジャケットをまとめて着る。ジャケットは丈の長いもので燕尾服にも似ているが、襟のところに豪勢な刺繍が施してある。生け花のブローチ付きで、ちょっとだけ照れる。

 そして気づいた。


 この服、あっちい。


 男が楽なんて嘘だよ!!!!ダレだよオーストラリアで挙式なんて計画したの!!ダレだよ今日の天気を晴れにしたヤツ!!オレだよ!!…オレかよ。あう〜〜〜〜〜…ほんっとうに暑いんですけど。汗ダラダラなんですけど。すごいんですけど。ネェ。ネェ。ネェってばネェ........



←Back Next→

(*1)

(*2)
(*3)


(*4)
(*5)

 ウェディングエンジェルの前には、すでに迎えが来ていた。デラックスリムジン(*6)。通常パッケージには含まれていない車なんだが、これに関してはオレが強く推してオプションで付けた。何せこの先、リムジンなんてものに乗る機会がそうそうあるとは思えない。せっかくだから思う存分楽しみたい…その考えは正解だった。

 どうしよう、ムッチャクチャ楽しい(笑)。

 いやぁ、リムジンっていいわ。別にシャンペンのサービスがあるとか綺麗なコンパニオンのネーチャンが座ってるとかじゃないけど、何か楽しい。しかも教会が街中にあるからリムジンが普通の市道を通っていくのだが、通行人の目を引きまくる。勿論中にはウェディングドレスを着たきばが座っているわけで、いやはや移動時から半分お祭りの様な気分だ。これから挙式をする人、是非デラックスリムジンでするべし。楽しさが違ってくる。


 教会は、「トレードウィンズ・チャペル・バイ・ザ・シー(*7)」で行った。トレードウインズ・エスプラネードホテル内に2000年4月に建てられたチャペル。ホテル自体はそうそう大したものではないが、教会はとても綺麗で可愛い。何よりも、ケアンズでは数少ない、『祭壇から海の見える教会』なのだ。実は、これはこだわった部分だった。楽しみながらも、ロマンチックに演出したい。今回、旅程も挙式も全てを計画したオレとしては、きばをビックリさせたかったというのもあったのだ。

 教会では、家族が先に待っていた。着いたら、まず神父さんへの挨拶…と思いきや、とりあえず写真の撮影から。やはり折角のリムジンだからということらしい(*8)。ひとしきり写真を撮った後、神父さんや教会スタッフとの挨拶を行った(*9)。まず驚いたのは、神父さんが女性だったこと。てっきり男性の神父さんだとばかり思っていたが、逆に女性であるだけに物腰も柔らかく、非常に明るく接して頂いたのでとてもリラックス出来た。オルガン奏者や協会のオーナーとも挨拶をする。そして、式を撮影してくれるカメラマンとの挨拶。ハワイでもそうだったが海外挙式の場合、教会内での写真…特に式中の写真は家族は撮っちゃダメというケースが多い。やはり、それは「セレモニー」だから、ということらしい。そこで、家族以外の人間…専門のカメラマンがつくことになる。彼の名は。


Mr.SIMON.


…え〜と、しもやんこんなトコロまで来たの…?これは、嘘でも妄想でもない事実である。カメラマンのさいむんさんと挨拶をしたら、神父さんとの打ち合わせ、そして挙式開始。


 まずは、オレとウチの父親が先に教会に入った。そして、きばがバージンロードをお義父さんと歩いてくるのを待つ。きばをお義父さんから預かり、セレモニーが始まった。
 セレモニーの詳細は省こう。基本的には普通の教会でのウェディングと変わりはないはず。心配をしていた英語での誓いも難なくクリアした。前日からの疲れの所為かオレの指が少しむくんでいたらしく、きばが指輪を通すのに多少苦労していたが、問題は無く。その指輪は今、左手の薬指に輝いている。永遠の愛をリングに誓い、キスをした。…時にウチの家族よ、何でキスの時笑ってたの…?小一時間ほど理由問いつめてもイイかな?

 式は、厳粛かつ楽しく執り行われた。一言で言うと、「楽しかった。」感動した…というのもあるが、むしろとても楽しかったし、同じ一生忘れない思い出になるのなら、こんな風に楽しく、みんなで感動を分かち合える様な形がベストなんじゃないか、と思う。式の後のフラワーシャワーやシャンペンのコルクキャッチ、乾杯など(*10)、いずれもとても楽しく、また家族の温かさに包まれる感じがして素晴らしいものだった。記念撮影で、色んなポーズを撮らされたのはちょっと恥ずかしかったが…(笑)。


 そうそう。フラワーシャワーの中を新郎新婦が通り過ぎた(*11)後、新婦のドレスに付いていた花びらの枚数が「これから生まれる赤ちゃんの数だ」と言われたんだが。イヤ、多分ウェディングエンジェルならではの小粋なジョーク(?)ってヤツだろうとは思う。しかし…


11枚付いてたんですが。


そうですか、そんなに生みますか、子供。きば〜、頑張ってね〜。三人くらいならオレの腹で産んであげても良くってよ?




(*6)




(*7)

(*8)

(*9)

(*10)





(*10)

 挙式後は、オレ達のリムジンの後を同行者の送迎車が着いてくる形で、皆でホテルに戻り、記念撮影を行った。ケアンズインターナショナルの吹き抜けになっているロビーに立つクリスマスツリーをバックにしての写真(*12)で、とても気に入っている。
 部屋でスーツとドレスを脱ぎ、そこまで一緒に来てくれたヘレンに手渡し、ひとまずお別れする。
 後日、ヘレンはまたアルバムを渡しに来てくれたのだが、本当に色々とお世話になったと感じる。彼女達のサポート…挙式自体のサポートは言うまでもないことだが、メンタル部分で非常に助けてもらった。ウェディングエンジェルの皆さん、本当に有り難う。素晴らしい人々の集まる、素晴らしい会社だと思う。今度ケアンズに行くことがあったら、絶対に遊びに行く。とても幸せな一日だった。



 その後、きばは微妙に不幸だった様だ。

 一向にバスルームから出てこないので、何をしているのかな〜と思って見に行くと、そこにはタヌキ状態のきばが居た。目の周りが必要以上に黒い(笑)。強力に付着しているマスカラが、一回や二回のクレンジングでは落ちないのだ。むき〜〜〜〜〜〜っ、となりながら顔を洗いつつけるきばを見て、「やっぱ化粧って大変なんだな…」と、改めて感じた挙式後だった。

(*13)



 …ナニ!?どうしてもウェディングドレスともっと拡大して見たい!?しゃぁないなぁ…ホレ。


click here!!


←Back


(*12)

(*13)