スターライトディナーツアー

 六日目、最後の夜。やっぱり結婚式と組み合わせた旅行だし、また途中までは家族と一緒だったから、せめて二人っきりの最後の夜くらい、浪漫チックに行きたいモノ。この最終日のスターライトディナーツアーは、JTBとの打ち合わせ当初から予定に組み込むつもりでいた。なお、日程等はこんな感じ。オレらが参加した時と大体同じスケジュールになってる。

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 午後6:30。二人で正装し、ホテルのロビーまで降りる。オレは夏物スーツの上下に、黒のTシャツ。きばは濃紺のワンピースに白いボレロ。午前中のショッピングでのラフなポロシャツ姿&サマーセーターにハーフパンツの二人とは思えないほどの盛装(笑)。まぁ、豪州最後の夜だし、浪漫チックに過ごそうという事で。ディナーに行くのにポロシャツもどうかとは思ったし、ましてやTシャツでは断られてしまう。熱帯地方の植生と蒸し暑さの中、ポ○ポト派若しくはギャングのような出で立ちのオレ(*1)。実際問題としては食事の時以外は上着は脱いでいたんだが…ン〜、何度写真を見返してみても、やっぱりアヤシイオッサンなのである(笑)。


(*1)
 迎えに来たバスに乗り込み、高速道路を半時間ほど走って、ディナー会場である"ケワラビーチリゾート"に到着。このリゾートは、その名の通りビーチに面した作りになっていて、全体的な雰囲気から受けた第一印象はは「ジャングルリゾート」。熱帯雨林そのものを活かした感じの庭園と、アボリジニ文化を取り入れたインテリア、自然の景観を活かしたナチュラルな雰囲気の場所だった。太い木組みの建物、庭園と建物内の境界線が存在しないような融和の形など、『これぞリゾート』と思えるような作りで、ノンビリとくつろげる感じが素晴らしかった。(*2)(*3)(*4)
 それにしても、やっぱりケアンズは熱帯であり、熱帯であるからには蒸し暑いのであり、蒸し暑いからにはオレは汗を掻くのである。そらもうバスから降りた途端に大量の湿気で眼鏡が真っ白になるほどの熱帯ッぷり。食事中など、座ってゆっくりと味を楽しんでいる時は良いのだが、少し歩き出したりするだけで汗が、こう、ドバァァァ〜〜〜〜ッと…いやもう、黒い肌着で良かったと思ったよ、マジで。

 この日、実はオレのデジカメじゃなくきばのデジカメで撮影していた。と言うのも、その前までの段階で写真を撮りすぎて、コンパクトフラッシュの容量が無くなってしまったのである。内容を精選しながら何とか空きを作ろうとは努力したが、それでも充分じゃない。そこで、まだ少し余裕のあるきばのデジカメを持っていった。
 しかしオレはあんまりきばのデジカメになれていない。というか、きばのデジカメは少し古いので、スターライトディナーで使うにはかなり厳しいモノがあった。感度は自動増幅になるのでノイズが非常に目立つし、ホールドしづらくてブレてしまった写真が多い。食事内容なども結構ピントがぼけてしまっていたりする。悪しからず。

(*2)

(*3)

(*4)

 食事の内容は前述のスターライトディナーツアーのページにあったのとほぼ同じ。

 前菜としては、オレが海老のグリル(*5)、きばが鶏とロースト野菜のハーブドレッシングかけ。
 メインは、オレが牛フィレステーキ(*6)で、きばは豚フィレ肉(*7)
 そこにデザート(*8)と、紅茶又はコーヒーが付いてきた。

 まぁ何というか、スターライトディナーツアーだからと言って、豪州料理人の方向性が変わるというわけでもないらしく。やっぱり大味な味付け(笑)。でも素材が良いからなのだろう、非常に美味しかった。何より、日本から遠く離れた空の元、二人だけで(勿論他のテーブルには色んな人が居るわけだが、知人は居ないわけで)時間を過ごしているという感覚は果てしなく浪漫チックだ。そんな気分もまた、このディナーを素晴らしいものにしてくれた。



 ん〜、そうだった、きばはミントチョコは駄目な人だった。オレは全くモーマンタイなんだけどねぇ。


(*5)

(*6)

(*7)

(*8)
 我々夫婦の常として、メシを喰う時には拙速を尊び、他の客よりも可及的速やかに食事を終え、且つ食事後に長居はしない(すぐ席を立つ)ということがある。それは例え、時間が変わろうとも場所が変わろうとも、南半球の空の下でも変わらない真実であり、要するに早く食い終わっちゃって暇だったわけである。とりあえずロビーの方に行ってみる。ロビーは黄色みを帯びた照明が、赤みを帯びた木造りの床や天井を仄かに照らし出している。その暖色系と言うよりも赤みを帯びた光が、硝子など嵌め込んでいない、外の空間と直に繋がる廊下の窓越しに見えるライトアップされた熱帯雨林の植生の濃い緑色と鮮やかなコントラストを生み出していた(*4)。ソファに座ったりなどして見るが、格別やることもないし、散歩でもしてみることにした。ちなみに(*1)の写真はその時のもの。

 このリゾートは、ビーチに接しているだけあり、海からの水と川の水が混じり合ったラグーンがリゾート内に形成されている。レストランを離れ、きばと二人で熱帯雨林の中の遊歩道を歩く内にそのラグーンに行き着いた。夜ともなるとあまり人が来ないのか、レストランの方からの喧噪も遠くなり、ビーチに打ち寄せる波の音、熱帯雨林のさざめき以外に聞こえる音もなく、静かなイイ雰囲気だった。二人で川辺などを色んな話をしながらそぞろ歩く。ある意味、一番今回の旅行で浪漫チックな瞬間だった。

写真がなかったので、
ネットからちょっと拝借
(夜じゃないけど)


 そろそろ良い時間になったかな…と思い、レストランの方に帰ると、向こうからツアコンの人が走ってきて、「あぁ、良かった!!」と溜息をつく。どうやら探されていたらしい(笑)。そんなに長いこと席を外していたのか…自分達にはそんな感覚はないんだけれど。実際問題、そんなに遅刻をしたわけではないらしい。2分か3分程度だとのこと。ただ、一応全員揃わないとツアーの次の場所に行けないのだから、探していたらしいのだが…?

 さて、ようやく全員が揃ったと言うことで、ガイドさんに率いられてみんなで庭園の中を移動していく。て言うか、大体先刻通ったコースと同じである。先程オレらが向かったのはラグーンの方、今度はビーチの方に向かっていることを除けば。それにしても暗い。ラグーンの方は、まだ途切れ途切れに灯りもあったが、ビーチの方には全く灯りもなく、懐中電灯を持ってこいと言われたのが成る程理解出来る。ウチは小さめのLEDライトを持参していたので全く足元に不安はなかったが、他のツアー客…新婚夫婦と思しき者が一組、おばちゃんの団体が一組居たが、この新婚夫婦が懐中電灯を持ってなかったらしく、「うわっ」「きゃぁぁぁん、怖いいぃぃ」と大はしゃぎ。ていうかそれが狙いか。『○○子、オレが守ってやらなくっちゃ』『これで××男さんのハートはワシ掴みよウッシャッシャ』と、それが狙いかキサマら。そこへすかさず割り込むオバチャン達。


 「ホレ大丈夫かアンタら、アタシらの懐中電灯貸したげるから持っとき。」


やったぜオバチャン、悪意はないのに大迷惑、グッジョブ。すかさずガイドが一言、


 「気を付けてね〜ラグーンの方に行くとワニが居ますからね〜」








…え!?ワニ?


聞いてないよ聞いてないよ聞いてないよって言うかもう少し早く言えよ。先刻ワシラさんざラグーンの方行きまくりましたってばさ。ていうかもしかして、だから「あぁ、良かった!!」なの?「戻ってきて良かった」?「食べられてなくて良かった」?そういうことは早く言うておこうや、早メシ早○ソは日本人のお家芸よ?


 ビーチに出てみると、降り注ぐような星空…って程ではなかった、残念ながら。少し曇っていたので、あまりよく見えなかったのである。風、ごっつキツいし。本当に晴れ渡っていたら、それはもうきらびやかなと言うほどの星空だという話なのだが…まぁ、オーストラリアは確かに日本よりは空気綺麗だろうなぁ、とは思う。国土の割に人は少ないしね。オゾンが破壊されまくってて大気圏薄そうだし。美しい夜空の下、波の音を聞きながら星を眺めながら寄り添っているのはとても楽しかったし、幸せだった。でも、雲間から見える星の光とか見てても、河毛の方が綺麗に見える気がするのだが…?面積の割に人、少ないしね。ほっとけ。

 あまりに見えない&あまりの風にパンフレットが吹っ飛ぶ事態続出の為、早々に星空観測は終了。若干の「んだよこれでスターライトディナーツアーと言えるのかよ」との不満を持ちつつも、仕方無くバスに乗り込んだ。



 バスに乗り込み移動している間、オレは少なからず不機嫌だった。確かにメシは美味かった。リゾートの雰囲気も良かった。でも、一人頭120豪ドルを支払ってのツアーがこれで終了かと思うと、それならケアンズ近郊でメシ食ってても問題無いじゃん、と。ちょっとム〜〜〜ッとしてたわけだ。そうこうしている内に、バスは高速道路を降りて街中に入っていく。何だ何だ、どこへ連れて行かれるのだ…と思っていると、窓の外を光が流れ始めた。


 光の正体はすぐに分かった。名前は覚えていないのだが、ケワラビーチリゾートからケアンズまでの間のある街で、各家庭がそれぞれに意匠を凝らしたライトアップを行っているのである(*9)。何せもうすぐクリスマス。確かにケアンズの街中やショッピングセンターの中、ホテルもクリスマス一色だった。南半球は真夏のクリスマスだ。だから少し、北半球とも楽しみ方が違ってくる。ちなみにサンタはアロハ姿である。この地域の家庭が、数年前からこうしてクリスマス時期にはライトアップを行い、それを競うようになって、どんどんグレードアップしてきたんだとか。バスは、コンテストの優勝者の家の前に止まった。
 さすがにコンテスト優勝家、他とはレベルの違う電飾の量&凝りようである。我々のバス以外にも色んな車が来ており、その前で記念撮影などをしていた。しかし、真夏にこれだけの電飾、熱くはないのか…?さらにどれだけ電気代がかかるんだ…?と、数々の疑問が頭をよぎる。まぁ、それはさておきオレらも記念撮影。こんな時、マイカメラでないことが非常にツラい。何枚か撮ってみたが、結局最も良い写真は夜景モード付きの「写ルンです・Night&Day」だった。さすがにISO1600はコンパクトデジカメでは太刀打ちできないわけで…尤もオレのデジカメなら長時間露光が出来た(ただし三脚がなかったから一緒かも知れない)ので勝負は分からなかったが。もっと大量に記憶媒体を用意しておくんだったと後悔したが、使い捨てカメラとは言え、非常時の撮影用に一台持っておくと、いざというときに頼りになるんだなぁ…と、ちょっと見直した。高機能シリーズはなかなか面白いラインナップだと思う。ちなみに、写ルンですの画像は非公開。本人が写っちゃってるんで(笑)。


 このライトアップを見ただけで、もう十分オレの不満は解消されていた。「スターライト」の代替と呼ぶには少しインパクトが弱いと感じたものの、これもまた「地上の星」。晴れ男のオレとしては、名前負けする結果だなぁ…とワケの分からんことを考えつつ、帰途に着いていた…と思っていた。
 しかし、何だか、どんどんバスが「登ってる」。市街地を離れ、山の方へとつづら折りの山道を登っていく。何だこれは。こんなものは聞いていないぞ。すわ、集団拉致!?


『日本人新婚夫婦二組(+オバチャン)、旅先での悲劇!!
    豪州で拉致され、市中引き回しの上剥製に!!』



などという展開を0.02秒だけ思ってしまったり。オレのアホな心配はさておき、バスはどんどん山の上へと登っていく。
 辿り着いたのは、ケアンズ市内が一望できる、小高い丘の上だった。バスから降り、展望台から市内を臨むと、そこに光の海…空には見られなかった"星"が、一面に瞬いていた(*10)。皆、一様に無言。展望台のすぐ眼下には高速道路が走り、それに沿うようにパラパラと高台に家が建っている。その家々の明かりや街灯の光がポツポツと見えるところから始まり、徐々に視線を地平線に向けていくと、整然と区画されたまっすぐな道路が、その街灯に照らし出されてケアンズの市街へと収斂していく。少しずつ光が集まり始め、ケアンズ市街はその光の上に浮いているかのように、強い光を発しまさに"光の海"の様に見えた。
 この大地に輝く星々の一つ一つに家庭があり、そこで人々が思い思いの暮らしをし、生活を立てているのだ…と思うと、感慨も深い。我々は今日、地上から空の星々を見上げることは出来なかったが、もしかしたら、別の星の別の生命が、その地上から我々の地球を見ているのかも(惑星だろうがヴォケ、というツッコミは無しよ)知れないし、どんどんズームアップできる望遠鏡があったら、地上の光も我々の姿も確認できるのじゃないだろうか…そんな感傷すら湧いてきた。写真を何枚か撮ってみたが、すぐに諦めた。もはやカメラの性能云々の話じゃない。この光景を、カメラで切り取るなんて不可能だ。そのくらい美しく、感動的で、雄大かつ遠大な景色だった。このツアーを選んで、良かった。これ以上の浪漫チックが存在、するかよ。そう思った。横を見ると、先刻騒いでいた新婚夫婦も、二人でウットリと眺めていた。我々夫婦も、暫しその光景に酔いしれ、イイ雰囲気になっていたのだ。










 オバチャン達の、嬌声が聞こえるまでは。


  オバチャンA:「いや〜綺麗やワァ、でも春日井の夜景と変わらんなぁ〜」

  オバチャンB:「ホンマやなぁ〜、ていうか明日にはもう日本かいな〜なんやツマランわぁ」

  オバチャンA:「家帰ったら、オッサンのメシ作らなアカンしなぁ」

  オバチャンC:「ホンマホンマ、ロマンティックさの欠片もないなぁ〜うはははは」









オマエやぁー!!ロマンティックさぶち壊しとんのはオマエらやぁぁー!!


 ちょっとだけ哀しくなってしまった最後の夜。でも、同時に嬉しかった。最後の最後のツアーまで、こんなにネタネタしいだなんて(笑)。少し、日本が恋しくなってた部分もあったからね。日本人のオバチャンパワー炸裂、ちょっと懐かしかったりってのもホンネだったかも。最初から最後まで、思う存分楽しめた豪州だった。


(*9)


(*10)


 ホテルに帰り、帰国準備をしながら、きばと今回の旅行について色々話をした。振り返ってみると、長いようであっという間の旅程だった。もう少し、居たいかな。でも、きっとまた来ようね。そんな話をしながら、豪州最後の夜は更けていった。



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