11.唾飛ばしの特訓

・この場面の位置
 Aデッキの左舷後部にある電動クレーンの隣。プログラムP6参照。

12.前部大階段

 ローズの命の恩人として夕食に招待されたジャックは、船内で最も壮麗な前部大階段へ足を踏み入れます。 一等客室内部の描写はこれまで小出しにされていましたが、ここで一気に観客に見せ付けます。ジャックと観客の視点を同一化させるという趣向でしょう。ところで、ジャックとローズが天使像を挟んで向き合う様子は、まるで船が二人を祝福しているかのようで実に面白い構図です。それとも、天意に導かれた出会いを象徴しているのでしょうか。

 劇中には登場しませんが、第三煙突と第四煙突の間(やや第四煙突寄り)には後部大階段がありました。基本的な装飾は同じでしたが、各階のロビーが前部大階段より若干狭くなっています。『ジェームズ・キャメロンのタイタニック』P28に後部大階段Aデッキの写真が掲載されています。時計が小振りであることと、天使の手の向きが逆であることが前部との主な相違点です。

・この場面の位置

 第一煙突と第二煙突の間(やや第二煙突寄り)。ボートデッキからEデッキまで続いています(EデッキからFデッキへ降りるための階段も続いていますが、扇形の階段はEデッキまで)。この階段と背中合わせに3機のエレベーターがあります(AデッキからEデッキまで)。

13.一等ダイニング・サロン
 一等船客用大食堂。奥行き35メートル、約500人を収容する。船の一室としては世界最大級の広さ。

・この場面の位置

 Dデッキの中心部(第二煙突から第三煙突のした辺り)。

・重箱ポイント その1

 ここで実在の船客が続々と登場します。ジョン・ジェイコブ・アスター大佐はローズからジャックを紹介され「ボストンのドーソンかね?」と尋ねました。彼は軍人であり、また不動産売買で財を成した、乗客の中で最も裕福な人物で29歳年下の妻(マデリーン・アスター)と旅行中でした。彼の遺体は襟の裏のイニシャルで確認されました。劇中ではモリーに「ヘイ、アスター!」と呼び止められ、にこやかに「やあ、モリー」と答える気さくな人物として描かれています。前部大階段のドームが破れる場面で最期を迎えました。

・重箱ポイント その2

 ジャックが招待されたのは、ダイニングの中で最も大きい12人掛け(劇中では13人掛け)の席です。顔ぶれも虚実入り乱れて実に豪華。以下、人物を簡単に紹介します(プログラムP25参照。ジャックから時計周り)。
・ ジャック・ドーソン
・ ロテス伯爵夫人 
 カナダ旅行の途上で事故に遭遇。
   8号ボートで勇敢に舵柄を握った行動が後に賞賛された。
・ J・ブルース・イスメイ
  彼の事故後のエピソードについては41項を参照
・ アーチボルト・グレーシー大佐
  戦史研究家。沈没直前、海に沈みかけるが、ボートB号に辿り着き生還。
    後に事故の体験記を著す。事故の8か月後に急逝した。
・ レオンティーヌ・ポーリーヌ・オベール(マダム・オベール)
  グッゲンハイムの愛人。ボート9号で生還。
・ ベンジャミン・グッゲンハイム
  鉱山、精練業王。プレイボーイと呼ばれていた。
  「紳士らしく死ぬ」と言って夜会服に着替えたエピソードがある。
・ ダフ・ゴードン夫人
  パリとニューヨークに店を持つ服飾デザイナー。
・ コズモ・ダフ・ゴードン卿
 イギリスの貴族(それほど地位は高くなかったそうですが)。
    夫人とともにボート1号で生還した。
   このボートの定員は40人だが、乗っていたのはわずか12人だった。
・ ルース・デウィット・ブケーター
・ カレドン(キャル)・ホックレー
・ ローズ・デウィット・ブケーター
・ トーマス・アンドリュース

 タイタニック号を建造した、ハーランド・アンド・ウルフ社常務取締役。
    同船の設計主任。
・ マーガレット・ブラウン(モリー・ブラウン)
 デンバー出身の所謂"成り金"。ボート6号で生還。うろたえた船員に代わって
    果敢にボートの指揮を執り、後に「不沈のモリー」と称えられる。

・余談
衝撃の“待ち合わせ”シーン ジャックが密かにローズへ「時計の下で待ってる」と書かれたメモを渡します。前部大階段Aデッキ。踊り場に飾られた時計"名誉と栄光"の前でローズを待つジャック。私は最初にこの場面を見たとき、体中に電気が走ったようなショックを受けました。ディカプリオの後ろ姿のカッコ良さに感激したわけでは有りません。タイタニック・ファンには馴染み深い時計が待ち合わせの目印になったことにショックを受けたのです。 正確に再現された内装もただの背景であれば宝の持ち腐れです。しかし今回の映画化で優れているのは、実在した装飾や備品、果ては積み荷までが登場人物の一人であるかのようにストーリーと密接に関係している点です。それまでジャックとローズにだけ感情移入していたという人も、待ち合わせの場面を境にタイタニック号が愛しい存在に思えてきたのではないでしょうか。 また、この場面は私にとって乗客たちが身近に感じられた瞬間でもありました。タイタニック号の物語は神話となり、同時に事故に関わった人々も神格化されました。しかし彼等とて生身の人間であり、タイタニック号は彼等が生活した場所でした。時計を目印 にした待ち合わせ。目指す相手に一呼吸置いてから近づいて行くローズの仕種。恐らく実際にタイタニック号の中でも見られたかもしれない日常的な光景が描かれたことにより、神話の世界から人々の息遣いや温もりが伝わって来るような気がしました。そして、1500人の大量死の重みを改めて実感することができたのです。

14.本当のパーティー(三等ジェネラル・ルーム)

 ローズは三等船室のパーティーで、心の底から開放感に浸ります。バンドのなかでバグパイプを演奏していたのは、実在の人物ユージン・パトリック・ダリーがモデルで、三等船客のために演奏したというのは実話だそうです。彼は、ボート13号(若しくは15号)で生還しています。他のメンバーに特定のモデルはいません。 

・この場面の位置

 ジャックがベンチに寝転んでタバコを吸っていた場所の一階下。船の中心線に沿って仕切りがあり、右舷側にジェネラル・ルーム、左舷側に喫煙室がありました。部屋の外にバーがあるので、酒類はそこで調達できたのだと思います。この部屋は船尾の凹甲板から段差無しで続いていますが、劇中では船底のイメージを強調するためか、出入り口に階段が作られています。

15.一等喫煙室

紫煙の中で、政治談義とお世辞の言い合いをする男達。
 ジョージ王朝風にデザインされており、壁にはマホガニー材が使用されています。アーサー・ライアソン他、一等船客の男性数人がこの部屋で最期の時間を過ごしました。

・この場面の位置

Aデッキ最後部。第四煙突の下。


16.朝の礼拝

4月14日午前10時30分、一等ダイニング・サロンで日曜日の礼拝が行われ、出席者は航海の無事を祈りました。 わざとらしいテロップで日付を表示しなくても、この場面があれば事故当日である事を知ることができるわけです。

・重箱ポイント

前部大階段Dデッキで朝の挨拶を交わすジャックとアンドリュース。この時アンドリュースはノートに何やらメモをとっていました。彼は8人の助手と共に新造船の問題箇所の点検を行っていました。その結果は第三の姉妹船ブリタニック号の建造に生かされたに違いありません。しかしブリタニック号は1916年にドイツ軍の攻撃により沈没してしまいました。

17.独楽で遊ぶ男の子

ラブジョイに追い返されたジャックは、一等船客の帽子とコートを盗んで再びローズに近付こうとします。

・この場面の位置

Aデッキの最後部にある後部マストの根元辺り。

・重箱ポイント その1

クイーンズ・タウンで下船した牧師志望の青年フランシス・M・ブラウンは、タイタニック号と乗客の様子を撮影した貴重な写真を遺しています。この場面は彼が撮影した写真の中の一枚を完全に再現したものです。 独楽を回していたのはロバート・ダグラス・スペッデン(当時6歳)で、父親のフレデリックが側で見守っています。スペッデン一家とその使用人はボート3号で生還することができましたが、3年後にダグラスは自動車事故で死亡してしまいました。

・重箱ポイント その2
フレデリックは今回の映画化の歴史考証を担当したドン・リンチによって演じられています。つまり、この場面には二つの楽屋落ちが用意されていた訳です。

18.救命ボートの数

ローズは「ボートの数が足りないのでは?」と疑問を抱きます。 ボートの総数は20隻。定員は合計で1178人(全乗客、乗組員の約半数)でした。以下はその内訳です。
・非常用ボート(1号、2号)定員40人
・救命ボート(3号〜16号)定員65人
・折畳み式ボート(A号〜D号)定員47人
英国通商委員会の規定は、船の総トン数を基準にして搭載するボートの数を決めるというものでした。タイタニック号には規定で定められた数より多くのボートが乗せられていました。初期案では全員を救助するのに十分な数のボートを乗せる事になっていたのですが、最終的にその案はデッキの美観を損なうという理由で却下されました。

19.体操室

一等船客に変装したジャックはローズを体操室へ引っ張り込み、彼のローズへの想いを打ち明けます。 この部屋には電動馬、電動ラクダ、静止自転車、ローイングマシン(船漕ぎ運動)等が設置されており、専属のインストラクター、T・W・マコーリー(死亡)がそれらの使用法を乗客に指導しました。グレーシー大佐(13項参照)はこの部屋を好んで利用していました。

・この場面の位置

ボートデッキの右舷側。第二煙突の横。

20.一等ラウンジ

ジャックの愛情を拒んだローズは、作法通りにお茶を飲む少女を見詰めながら物思いに耽ります。

・この場面の位置

Aデッキの中央部。第二煙突と第三煙突の間。
・重箱ポイント
カメラが天井のシャンデリアから乗客へパン・ダウンするカットは、ミニチュア・セットに乗客を合成して作られています。

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