「ザ・ベスト・オブ・ロス・カルカス」(TKF-2826)

*木下 尊惇氏 解説より一部抜粋

 カルカスの各時代における新しさ・・・彼等は20年近くも新しくあり続けた。
 ゴンサロのインスピレーションであり、ウリーセスの好奇心であった試みが、いつしか彼等の伝統となり、やがてそれはボリビア・フォルクローレの伝統となり、今やボリビア音楽の大きな一角を形成するようになったのだ。

 音楽を表現するための手段、演奏方法の確立にも、彼等は理想に対して決して妥協することはなかった。当時流行していたコンフント形式の合奏で、当然のように使用され、何の疑いもなく取り入れられていた民族楽器そのものを見つめ直し、それぞれの役割分担を明確にして、必要に応じて改良を加えたり、さらには新たな奏法をも開発して、しだいにカルカスのサウンドを完成に近づけていったのである。

 AMOR/愛・・・・彼等はじつに多くの愛の歌を残している。悲しく切ない、穏やかで幸せな、強く激しい、優しく、儚く、しかし必ず美しい、純粋な愛の気持ちが、常に彼等の心の中で、新たな創作のエネルギーの源として、そっと出番を待っている。たとえば女性にいだく愛情を、祖国に対する愛国心と、すっとひとつに重ねてみる。するとそこには時間と空間を超越した、愛の力が生まれて来る。切なさも、激しさも、優しさも、儚さも、そして悲しささえも、きっと幸せのためのプロセスに違いない・・・。

ウリーセスは21世紀を見ることなく他界した。「僕は病気知らずでねえ・・・」彼の言葉を思い出す。カルカスは間違いなくボリビア・フォルクローレを動かした。いや、ボリビアの文化を動かしたのである。彼等の魅力を語り合えば、賛辞の言葉は尽きることがないだろう。しかし今はそれよりも、彼等の意志を繋げてゆくことが、私達の使命なのではないだろうか。伝統の鎖を絶やさないためにも、そして、未来永劫に愛する心を忘れないためにも・・・。