親愛なるドクター
これまでたくさんの手紙を書いてきましたが、これが最後の手紙になります。
eメールと違って、手紙は手元に残らないので、細かな部分は忘れてしまいますね。きっと僕は恋愛にトチ狂った男がそうであるように、トムのことばかりを書いてきたのでしょう。
あなたが手紙を読みながら、いい加減にしろ、と呟いていたとしても、ちっとも不思議ではありません。
あなたがこれを読む頃には、僕は生きていないはずです。よほどに何か想定外のことが起こるか、臆病風にでも吹かれないかぎり。
もっとも、臆病風、というのも変な話ですが。なぜなら今、僕は死ぬことよりも独りで生き続けることのほうがずっと恐ろしいことに思えるからです。
トミーは昨日亡くなりました。長く痛みと闘っていたのを見てきたので、最後も苦しむのかも知れない、と心配していましたが、ちょっと眠い、とベッドに横になってそのままでした。
彼の呼吸がだんだんに細くなり、やがて完全に止まってしまうまで、僕は彼のことを見ていました。そうする、というのがトムとの約束だったのです。
今は彼の隣でこの手紙を書いていますが、あまりに穏やかな顔をしているので、今にも目を覚ましそうに見えます。
最後に聞いた彼の言葉は「ありがとな」でした。それは、子供にそうするように、僕が彼のふとんをたくし込んでいたことに対しての感謝かもしれないし(彼はそんなふうにかまわれるのが大好きでした)、半ば本能的に自分の死期を悟っていて、別れの挨拶のつもりだったのかもしれません。
別にどちらでもかまわない。僕たちは一緒にいた一年の間に、とてもたくさんの言葉をやりとりしました。そうしないで後悔するのは、二度とごめんでしたから。今思い返しても、彼に伝えそこなったことも、彼から聞きそこなったこともないと思っています。
……ああでも、そういえば、トミーは、最期まで側にいて欲しい、といつも言っていましたが、一緒に逝ってくれ、とは一度も言ってくれませんでした。彼はそういうつまらないところで男らしさにこだわるタイプだったので。
きっと今頃、意地を張らずに言っておけばよかったな、と思ってるに違いありません。トミーは独りぼっちが何より嫌いですから。
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