僕たちは、それなりに平和でした。つまり逃亡者としては、ということです。
僕らは常に移動し続けました。トムは髪を伸ばし、色を染めて、カラーコンタクトを入れたり、色んな種類のメガネをとっかえひっかえしたりしながら。
元嘱託医のあなたに言うのもこんなことを言うのもあれですが、犯罪を重ねず動き回っていれば、驚くほど見つからないものですね。やっぱりこの国は広い。
そのまま何もなければ、あなたをこんなことに巻き込んだりはしなかったでしょう。
もちろんいつまでも逃げ回ってはいられたはずはなく、いずれは気づかれるか、資金が尽きて動けなくなるか、さもなければ、別の犯罪を始めるか、ともかくロクな未来が待ってたはずもありませんが、あなたはそのニュースを聞いて、僕たちのことを怒るか哀しむかするだけですんだでしょう。
僕の予想では、その両方だと思いますけど。
とにかく、本当にドクターには感謝しています。たぶん、あのモーガン捜査官とケンカになったでしょうね? 申し訳なかったと、僕たちからの謝罪を伝えてもらえれば幸いです。
許してもらえるかどうかはともかくとして。
トムが、頭痛がする、と言い出したのは十一月初めの頃でした。いつまでも起きて来ない上に、ひどく青い顔をしていたので、また悪い夢でも見たのかと訊いてみると、頭が痛くて起き上がれない、と言います。
僕は、風邪かもしれない、と言いながら、頭痛薬を飲ませました。そのときはそれで治まったようでした。
でも、徐々に痛みはひどく、その間隔は短くなっていきました。
と同時に、彼の言動も不安定さが増しました。おおむねは普段通りの彼ですが、ごくたまに、一分でも僕の姿が見えないと不安でたまらなくなるときがあるようで、外出するときはもちろん、狭いモーテルやアパートの中でも僕を探し回ることがあります。ちょうど、一〜二歳の子供が保護者の後をどこまででも追って歩くように。
クリスマスを目前に迎えた頃、僕は、彼の病気について深刻に受け止めなくてはならないと気づいたのです。 |
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