夏恋。2 〜冬の二人〜 8
 狭い場所を開かれるのには肉体的にも、心理的にも抵抗があった。ジャレッドの指は長くて、信じられないほど奥までを暴かれてしまう。
 甘ったるい苺のジェル(買ったとき、香りについてまでは考えなかった)が滴になるほど塗りたくった手で触られたから、最初に感じたのは違和感だけで痛みはなかった。するりと抵抗なく根元まで収まった指が、そろそろと内部を探るのがわかっていたたまれない。力を抜こうとすると逆に余計な力が入って、ジャレッドの指を締め付けてしまう。
 そのたびに、ジャレッドは動きをとめて、なだめるようにジェンセンにキスをしたり、空いてるほうの手で、今は力をなくしているジェンセン自身に触れたりした。
 そうしてごくごく慎重に指の腹で内壁をひっかくようにしながら、ジェンセンの中を探っていく。むろん、ジャレッドが何を探しているのかくらい、ジェンセンだって知っていた。
「あ、…………!」
 腹側の奥、ジャレッドの指先がちょうど触れるあたりの場所を何度か弄られているうちに、ジェンセンは、それまでとは違う感覚が腰から湧き上がって来るのを感じた。
 初めは、明確なものではなかったそれは、何度も擦られるうち、不意に確かな快楽としてジェンセンに声をあげさせた。
「ジャレ……!」
 反射的に起き上がろうとした身体を、そっと押さえつけて、ジャレッドは同じ場所を強く掻く。ああ、と咽喉を喘がせて、ジェンセンは白い脚の先までを緊張させた。下肢の間から聞くに堪えない水音がして、なのに、耳をふさぐどころか、聴覚から犯されて頭の中まで蕩けてしまいそうだ。
「……よかった……ここだね……」
 差し入れられた指が浅く前後に動く。そのたび、入り口の辺りを指の節に刺激されて、ジェンセンは、あ、あ、と短い声をあげた。
 そうして、狭い直腸を少しずつ押し広げ、苺フレーバーのジェルを塗り足し塗り足し、ジャレッドは根気良く愛撫を続けた挙句に、そろりと二本目の指を挿入した。まだ指先だけだったけれど、それでも、それまでの倍の太さだ。ジェンセンは反射的に息を飲んで、異物を押し出そうと身体を強張らせた。
「あ、……く……っ……」
 無意識に衝撃を逃そうとして、ジャレッドの首筋を抱いていた手が強く爪を立てる。遠慮のない力は血が滲むほどの強さだったが、ジャレッドは顔色ひとつ変えずに、大丈夫だよ、と年上の恋人に言い聞かせ続けた。
「──大丈夫……先生、力抜いて……入るから……ほら、」
「や、」
「大丈夫……ね……?」
 徐々に理性のたがが緩み始めたジェンセンは、考えることを放棄して、脊髄反射的に耳元の囁きに従おうとした。そうでないと、色々な感情がせめぎ合って、呼吸さえできなくなりそうだったからだ。
「ジャレ…………、ジャレ、あ、俺……、こんな、………」
 感じている。痛み、ではない何か──これまで知っているどんな種類の快楽とも異なるそれ。後ろに触れられているだけなのに、ジェンセンの雄は立ち上がってかたちを変え始めていた。はあ、はあ、と湿った呼吸がジャレッドの頬をくすぐった。
「先生──息を吐いて、力入れないで。……痛くないよ、ほら大丈夫、俺を見て」
 言われたとおり、ジェンセンは年下の恋人をまっすぐに見上げた。さっきは怯えをはらんでいた緑色の双眸が、今は熱っぽく潤んで焦点を緩ませている。
 ぞっとするほど幼い一途さでジャレッドを見つめながらも、身体は淫靡な悦びにぐずぐずと甘く崩れ落ちそうだ。
「……先生……い、痛くはない? 気持ち悪くは?」
「ない……気持ち、いい……」
 差し込んだ指を律動のような動きで出し入れされて感じるのは、いくばくかの違和感と、それを上回る圧倒的な快感だった。出入りのたびに、ジャレッドの指先が前立腺をかすめていき、ジェンセンは内側から感じる新しい快楽に、魚のように身をよじらせた。
 三本に増やされた指が引き抜かれて、いよいよジャレッド自身がジェンセンの秘所に押し当てられたとき、入れるよ、と興奮に言葉を詰まらせながら最後の確認をしたジャレッドに、ジェンセンは言葉もなく、ただがくがくと首を振って応えた。
「あ………ッ、…はぁ、……あ、あ………!」
 ぐ、と熱の塊が押し入る瞬間、衝撃の反動でジェンセンの爪がジャレッドの背を裂いた。けれど、長い前戯ですっかり解きほぐされたそこは、覚悟ほどの抵抗も見せずにずるりと恋人の猛りを受け入れた。
「ふ、あ、…………っ?」
「──わかる? ちょっとだけ、だけど……入った……」
「……っ、ジャレ、……ジャレ、ああ……!」
 怖い、と言いながらも、ジェンセンは恋人の身体を抱き寄せた。怖い、この行為に、違和感より痛みより、かすかな快楽や期待を感じている自分が。
「怖くないよ、全然、大丈夫、先生、怖くないから。……感じて、先生、」
 俺を感じて。
「ジャレッド……あぁ、熱い……!」
「……う、ん、……俺も……、」
 びくびくと震える脚を抱え上げて、ジャレッドは猛々しい本能に逆らいながら、恋人を傷つけないよう細心の注意を払ってゆっくり自身を飲み込ませていく。開かれることに慣れていないジェンセンの内部は、そうまでして気をつけても、押し入る異物を押しのけようとしてびくりと引き攣り、その度に、ジェンセンとジャレッドと、その双方に息を飲ませた。
 しかしそれも、後から思えばわずかのことだ。繰り返し名前を呼ぶ声音や、吹きだした汗や零れる涙をぬぐい去る指の動き、昂ぶる神経に息を荒げながらも労りを隠さない目の色、そうしたものを与えられるセックスに、ジェンセンは咽喉を喘がせながら、少しずつ身体が馴染んでいくのを感じていた。
 そうして、どれほどかの時間が経った後。
「は、い……った」
「あ……嘘……、」
 もう誰も知らない身体の最奥までを明け渡して、ジェンセンはどこか呆然と恋人を見上げる。すでに痛みは遠い感覚だった。ただ、もう、誰一人、何ひとつ入り込めないほどに繋がっているという事実があるだけだ。二人の身体に挟まれたジェンセン自身は、半ば堅く張りつめて、彼が確かに感じていることを証明していた。
 ジャレッドのほうもシャワーでも浴びたかのように汗まみれだ。熱さばかりではない、きっと苦痛からの冷汗や脂汗もあるだろう。指先に感じるぬめりが赤い色をしていることに、ジェンセンはようやく気がついた。
「……ごめ、……お前の、背中……、」
「いいよ……ね、それより、あの、動いても……?」
 この先はともかく、今は背中の傷より、この状態で放置されるほうが辛い。待ちかねるように軽く揺さぶられ、ジェンセンは甘い声で鳴いた。
 ジャレッドは乱暴ではなかったが、若いだけに彼の理性が保ったのもそこまでだった。動いてもいい、と言われた後は、ひたすらにジェンセンの奥を目指して律動を始める。引き抜かれ、また押し入られる動きの落差と、その都度、ジャレッドの猛りに押しつぶされる前立腺からの刺激に、ジェンセンは翻弄されるままに揺すられて、悲鳴とも嬌声ともつかぬ甲高い声をあげ続けた。
「あ──、はぁ、ッあ、──ん、ジャレ…………!」
「……先生、……ジェンセン……!」
 ジェンセン、ジェンセン、と中を犯されながら甘ったれた声で名前を呼ばれ、そのことにどうしようもなく感じ入ったジェンセンは、おそるおそる、しかしやがて大胆に、ジャレッドの動きに会わせて腰を蠢かせた。
 奥へ行くほど強くなる締付けは、ジャレッドのためというより、おそらくジェンセン自身が快感を求めた結果で、けれどもちろんそれは、彼の中にいる恋人にも、眩むほどの快楽を与える。
 過ぎたエクスタシーにあられもなく乱れ、涙を流し続けるジェンセンを抱きしめ、彼に口づけて、すっかり立ち上がった彼自身を扱いてやりながら、ジャレッドは一心に臨界点を目指した。
「あ─────、あ、ッ! ジャレ……っ、もう、……ダメだ、俺……!」
「……ん、俺も……っ!」
 限界、と呻いた途端、ジャレッドの手の中でジェンセンのものが弾けた。とろりと熱い感触とともに、ジェンセンの内部が強く締まる。元々直前だったジャレッドは、その刺激に耐えられず、薄いラバー越しにジェンセンの中へと精を放った。
   
2010.12.25