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「……ショーン?」
呼びかけた声が、くあ、とあくび混じりだったのは、アパートに着くまでタクシーの中で眠っていたからだ。今日のメインはCM撮りだったが、これが思ったよりも伸びてしまい、おかげで後のスケジュールがものすごくタイトなことになった。途中で仕事の順番も時間もごちゃごちゃになって、ストップウォッチを片手に持ったマネージャーにせかされるまま、とにかく目先のことを片付けるので精一杯だった。
なので、実は、最後の取材が終わるまで、新しい同居人のことはころっと忘れていた。慌てて携帯の履歴を確認したが、自宅からの連絡は入ってなかった。特に問題はなかったか、もしかして、例の「チケット」とやらが送られてきて、無事帰ることができたのか、どちらかだろう。
部屋の明かりはついているが、返事はない。テレビも消えているようだ。
やっぱり帰っちゃったんだろうか、と、思いながらリビングに足を踏み入れたところで、ブラッドは、疲労も眠気も全部忘れて相好を崩した。あやうく大声で笑い出すところだった。
テーブルの上には口の開いたバドワイザーの缶(ただし、まだ中身はたっぷり残っていそうだ)と、ショーンがビールを飲むときに使ったのだろう小さなグラス。そして、ソファの上にはテレビのリモコンと、その隣で行き倒れの人間のようにうつぶせになって眠っているちいさな神様がいた。
たぶん、眠気が限界に来たところで、とりあえずテレビだけは消さないと、と思ったのだろう。それで、こんな格好になってるわけだ。
ショーンは、酔っ払いらしく、ぐうぐうとかすかな鼾までかいて、すっかり夢の中だ。眠る必要はない、と言っていたのに、やっぱりアルコールが入ると、通常のようにはいかないのだろうか。試しにビールの缶を持ち上げてみると、半分ちょっとくらいの量が残っていた。そのあたりが、神様の酒量の上限らしい。
そっと手のひらにすくい上げても、気づいたふうもなく眠りこけている。その柔らかな重みに、今朝、眠気に負けて、彼を路上に放り出したりしなかった自分を誉めてやりたい、とブラッドは胸の裡で自画自賛した。
翌朝、ブラッドが目を覚ますと、ショーンはあのサイズでもわかるほど青い顔をして、うんうんうなりながら、ベッド代わりのクッションの上をごろごろしていた。
明らかに二日酔いだ。
うっかり笑ってしまったブラッドは、恨みがましい目でにらまれた後、どこからか飛んで来た本の角で頭を打った。
「痛っ!」
「……ひとの不幸を笑うからだ」
「こっちの世界じゃ、それは『不幸』じゃなくて、自業自得って言うんだけどね」
「今度は本棚ごとぶつけて欲しいのか」
「いや、それはさすがに死ぬから。──野菜ジュース用意するよ。てきめん効果があるってわけじゃないけど、まあまあ効くよ」
どうせアルコールが抜けるまではどうしようもないのだ。ブラッドの示した停戦条件に、ショーンはちょっと考えてから、和平を受け入れることにした。
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