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ショーンの住むところはどんな場所なのか、と訊いてみた。
同居を始めて五日目、未だ「チケット」は届かないが、ショーンはだいぶここの生活に慣れて来たようだ。二日酔いがよほど堪えたのだろう、ビールの摂取量は少なくなっていた。朝ブラッドが出て行くときには手を振って見送り、夜はどんなに遅くなっても「おかえり」と迎えてくれる。俳優を目指して実家を出て以来、一人暮らしを続けているので、そういう言葉のやりとりはずいぶん久しぶりだ、とくすぐったいような気持ちになる。
とは言え、ここのところ、仕事のスケジュールが目白押しで、ショーンのことをゆっくり考える暇も余裕もなかった。
今日やっとオフ日になったので、今さらながらに、そんな基本的なことを訊くことが出来たのだ。
ショーンは、何から説明しようかと言うようにちょっと遠くに目を向けて、うん、とひとつうなずいた。
「花が」
「花」
「いたるところに、いろんな花が咲いてて、いい匂いがするんだ。森の中にも建物の中にも泉の中にも」
「水の中にも花が?」
「ちょっと青みがかった白い花が咲く」
夏になると青色が強くなり、冬になると白が目立つというその花のかたちをショーンは懸命に説明してくれようとし、最後には紙とペンを使って図解してくれた。しかし、ショーンには申し訳ないが、そのせいで却ってわかりにくくなったような気がする。神様は、あまり絵心がないようだ。
ただ、花の香に満たされた地、彼が、彼の世界を説明するのに一番に伝えたかったことなのだとそのことだけは腑に落ちた。
猫舌なのか、相変わらずショーンは、ミルクピッチャー入りのコーヒーをふうふうと吹き冷ましている。本人は意に介してないようだが、花の一本もないところでの生活を強制されている彼が不憫に思えた。
ちょっと考えてから、ブラッドはリビングを出ると、こっそり電話を一本かけた。一時間しないうちにドアチャイムが鳴り、大きな花束を手にした花屋の店員が、ご注文の品お届けに参りましたあ、と明るい声で呼ばわった。
どうぞ、と差し出された花々の圧倒的な質量に、ショーンはちょっと目を見開き、ぱちぱちとせわしなくまばたきをした。
「……私に?」
「水の中に咲く花はないけど」
花束は横に置いても、ショーンの三倍くらいの高さがあった。白やピンクや黄色の明るい色が競うように咲き誇っている。ひらひらと目の前で揺れている白い花弁に触れてみた。向こうの世界では見たことがない。でもきれいだ。
ショーンは、甘い香りにうながされるように花弁に鼻先を埋め、ブラッドを見上げてふんわりと微笑した。
「ありがとう」
その彼の笑顔こそが咲きほころぶ花のようだ、とブラッドは思った。
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