「夢で会いましょう」
〜お題もの「恋にありがちな20の出来事」から「夢までをも侵される」より〜

 

私はさっきから何度目かの溜め息をついた。
いい加減にしないと、そろそろ溜め息の海で溺れそうだ。

わかっているのだけど、でも・・・


傍らに置いた携帯電話を指先で撫でる。

いっこうに鳴らない電話。

着信しないメール。


・・・当たり前よね。出していないんだから。


返事を待っているわけではなく、ただかかってくるのを期待している。
それだけのこと。

なんて消極的で後ろ向きなのだろう。

こんなの全然、私らしくない。

 

 

 

 

ジョーと最後に会ってからどのくらい経っただろう?

ともかく、恋しくなるくらいには離れているのは確かだった。


声が聞きたい。

会いたい。


でも。


私たちは、お互いに納得した上で一緒にいないことを選んだ大人の恋人同士だった。
お互いの仕事や生活を尊重しようとそう決めた。
だから、わがままを言うわけにはいかなかったし、弱音を吐くなんてもってのほか。

それに、恋しさを我慢することにももう慣れたわ。


慣れたはず、だったのだけど。


繰り返し夢に出てくるなんてずるい。
何か言いたそうな顔をするくせに何も言わないなんてずるい。

そんな夢を私に見させてどうするつもり?

きっとジョーは、私から電話をさせようとしてる。
だから私の夢のなかにまで出てくるんだわ。

 

私は今日も夜中に目を覚ましていた。

ジョーの夢。

本当にもう、いい加減にして欲しい。
私は軽く頭を振って、たったいま見た夢の名残を追い出した。

傍らに置いた携帯電話は、無言のまま。

・・・日本はいま何時だろう?

ジョーは今頃何をしているのだろう。

電話の表面は冷たくて、いくら待っても電話もメールもこないよと言っているようだった。
だから自分からかけなさいと誘惑する。


・・・どうしようか。


素直に、会いたいのと言えばいいのだろうけれど、それはなんだか悔しい。
悔しいから、こうして鳴らない電話を見つめ続け、溜め息を繰り返している。


・・・ジョーのばか。

電話くらいくれたっていいじゃない。

用事なんて、なくてもいいんだから。


鳴らない電話。


夜は長い。

再び目を閉じても、またジョーの夢を見るだろう。
そういうところは容赦ないひとだから。
ひとの夢で主演を張るのも連続何日目かしら。


溜め息をつくと、目を閉じた。

 

しばらくして聞こえてきた着信音は、夢なのか現実なのか。
うとうとしている脳裏にジョーの顔が浮かぶ。何か言っているみたいだけど聞こえない。
夢のなかでもじれったいひと。

 

ねえ、ジョー。

会いたいよ、って言ってくれたら、そうしたら私はきっと・・・

 

 

 

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