「プレゼント」

 

 

 

フランソワーズのプレゼントを捜すのは楽しい。
いつも必ず素敵な笑顔をくれるから。

ナインはそんなスリーの笑顔を思い浮かべ、思わずスキップしそうになるのを抑えて歩いた。
ただプレゼントを選ぶというだけの行為がこんなに楽しいものだなんて思わなかった。
義理や義務で用意するものは、なんでもいいやと無難なものを選んでいたし、そんな適当であっても面倒だった。
だから自分はプレゼントを選ぶという行為に向いてないに違いないと思っていたのだ。

しかしそれはただの思い込みだった。

――旅行はどこに行くかではなく誰と行くのかが問題である。
――食事は何を食べるのかではなく誰と食べるのかが問題である。

よく言われていることだけれど、今は身に沁みてわかる。

プレゼントを選ぶという行為は誰へのプレゼントなのかというのが問題なのである――

ナインはそんなことを延々と考えている自分に苦笑した。


まったく僕は、片時もフランソワーズのことを考えるのをやめないのか。

それでは正義の戦士としてどうなのだろうか。
いざという時に判断が鈍りはしないだろうか。
それを言うなら、正義の戦士に恋人や大事なひとはいなくていいのかもしれない。
大事なひとがいるとひとは弱くなる。自分以外に守りたいと思うひとが増えたらそのぶん弱点が増えることに他ならない。ドラマや映画でよくあるではないか。家族や恋人を人質にとられて云々というのが。
それを観てよく思ったものだ。自分が危険な任務についているのなら、そういうものをつくらなければいいのだと。
映画のなかの主人公はそういうものをつくってしまったのが弱さに繋がった。自覚が足りないのだ。正義の戦士としての。だから自分は絶対にそういう愚は犯さない。そう思っていたのだけれど。

いざ、大事なものができて弱くなったのかというと――それは違った。
むしろ強くなったように思う。
大事なものができたら、それを守るために更に強くなればいい。

ナインはそう思ったし、そのために鍛錬もしてきている。
もともとスリーは攫われやすいから、人質になる危険性は常にある。が、それも解決した。
何が一番大事なのか考えなくてもわかるからだ。
スリーの命が危険な時に何を捨てるべきなのかは明らかだ。自分の命などどうでもいい。スリーが助かるなら惜しくもない。だから自分には弱くなる要因などないし、以前の自分と比べてかなり強くなった。覚悟ができたと言ってもいいかもしれない。

だから大丈夫だ。
フランソワーズのことを考えていても僕はじゅうぶんに強くいられる。
ほら、こうして女性ばかりのファンシーショップに入るのも全く平気だ。

きっと彼女へのプレゼントよとあちこちで囁かれても怯まない。事実だからだ。

そう、僕はフランソワーズという彼女へのプレゼントを選んでいるんだ。どうだ、いいだろう?
凄く楽しいんだぞこれ。


ナインの頭のなかにはスリーしかいなかった。

 


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