「夜空」
年に一度の逢瀬が終わる。 ついさっき帰ってきたばかりである。 しかし。 ――僕たちはうまくやれたのだろうか? もしかしたら、明日はもう――会えなくなるかもしれないのに。 自分たちの運命を思えば、あながち大袈裟なことではなかった。 途端に不安になった。 いまここにこうしているのが彼女を思う最後だったとしたら? 踵を返したところで、携帯電話が鳴った。 気付いたのだ。 ナインの口元に笑みが浮かぶ。 僕たちはどうやら修行が足りないようだとナインは空に向かって呟いた。
果たして彼らはうまくいったのだろうか――
ナインはぼうっと夜空を見つめていた。
今年は昨年と違って、スリーと「二人だけで」七夕祭りに行った。
晴れたせいか、人出が凄かったけれど意外に疲労感はない。
一年に一度しか逢えない彼らと比べてどうだったのだろうか。
いつでも逢えるということに甘えてないだろうか。
「また明日ね。おやすみなさい」
そう言って小さく手を振ったスリー。その笑顔の可愛らしさが胸に残っている。
その彼女に、もう――会えないとしたら?
――フランソワーズ・・・!
いますぐギルモア邸に行って、抱き締めて攫ってきてしまおうか。
少しくらい怒られたって構うもんか。
リビングに置いたままだったのを思い出し、慌てて掴むと相手を確かめもせず耳にあてた。
「・・・ジョー?まだ起きてるわよね?」
「ああ。起きてるよ、フランソワーズ」
さっき別れたばかりなのに。
しかも、自分の想いが伝わったかのようなタイミングの電話。
「・・・どうした?」
けれども、黙ったままのスリー。ナインは優しく問う。
「フランソワーズ?」
「・・・・忘れちゃったの」
「何を?」
何か忘れてきただろうか?
「ん・・・おやすみのキスするの」
「え?」
「だって、ジョーったらあっという間に帰っちゃうんだもの」
「そんな事言ったって」
そんなに素早く帰ったわけではない――と、思う。が、あるいはそうではなかったかもしれない。
ぐずぐずしていると、時間に比例して離れ難くなってしまうから。
「どうしよう?」
困ったようなスリーの声。
いいよ、そんなの別に――と言いかけて、ナインは黙った。
彼女が電話をかけてきた本当の理由に。
先刻までのどこか憂えた表情は払拭されていた。
「――うん。それは大変だ。今から忘れ物を受け取りに行くよ」
「本当?」
「ああ。・・・コーヒー淹れて待っていて」
「わかったわ!」
弾んだ声のスリーに苦笑して電話を切った。
――素直に寂しいって言えないのは一緒だな。