二人でやって来た七夕祭り。 でも今は一緒にいない。 離れ離れ。
星は、見えるようで見えなくて、とても遠かった。 まだ街の灯が届く範囲だから、空も薄明るい。既に夜10時を過ぎているのに真っ暗ではなかった。 スリーは立ち上がると暗い場所を探した。 路地裏。 公園の隅。 いずれも真っ暗だったが、それはそれで、そこへ行くのは賢明なのかどうかと迷った。
そう思うことにして、もう一度腰を降ろした。
自分の思う道を進むナイン。 正義を信じるナイン。 いつでも、弱きを助け強きを倒すナイン。 でも、それは全部彼の優しく大きな心で裏打ちされている。 包容力があって。 誰にでも優しくて。 分け隔てなくて。 きっと誰もが憧れる。そんな男なのだ。
恋人。
でも。
スリーはふと目を伏せた。 どうにも自信がないのだ。 いつも大切に大事に扱ってくれるナイン。優しく見つめられると、自分は彼に思われていると信じてしまうけれど、だけど本当にそうなのだろうか。 だって彼は本当に――凄いひとなのだから。 自分のように、すぐ落ち込んでしまう人間には合わないのではないだろうか。現に今だって、こうしてひとりで待っているのが不安になって要らぬことを考えてしまっている。必要以上に卑屈になることはないはずなのに、なんだか――もうナインと会えないのではないかと思ってみたりしている。 自分の元にあの009が還ってくるのだろうか。 お待たせ、なんて言ったりするのだろうか。 自分はこんな――何もできないちっぽけな存在なのに。
見えない星空の下で、スリーはひとりだった。
「お待たせ」
声が降ってきて、スリーは顔を上げた。 「・・・終わったの?」 手を伸ばされる。 そして――そのままナインの胸におでこをつけた。 「えっ、フランソワーズ?なに?どうかした?」 しかし、スリーは答えない。ただ無言でナインの胸に額をつけている。 「フランソワーズ?」
星に嫉妬して。 009を必要とするひとたち全てにやきもちを妬いて。 挙句の果てには、自分を彼が好きになるはずなどないと勝手に思って卑屈になっていた。 なんて勝手なんだろう。
『世界が平和でありますように』
そう、いつでもさっきみたいに――彼の腕を押して、彼の背中を押して、送り出さなくてはいけない。 だから、自分はここで彼を信じて送り出す。 世界平和を願う前に、まず自分が強くならなければ。
心配そうなナインの声。 「いやだな。僕のこと心配していたのかい?――バカだなぁ。僕に何かあるわけないだろ?」 ナインの手がそっとスリーの背中に回される。抱き締めるのではなく、抱き寄せる。 「それとも、もう戻ってこないかもしれないなんて考えてたのかな?」 ナインがスリーの頬を両手で挟み、そうっと上向かせた。 「そんなわけないだろ?僕は世界の平和を守る009だけど、こういう小さい平和を守るのも実は得意なんだ」 そして額と額をくっつけた。 「それにね。フランソワーズが平和だと僕も平和になれるんだ」 凄いだろ、と笑った。
――お星様。 七夕の、お星様。
世界が平和でありますように。
そんな日々が続きますように。 そう願ったのだった。
彼を笑って送り出せる勇気を持てるように――強くなろう。
世界が平和でありますように。
もう少しだけ、一緒にいさせてください。
世界が平和でありますように。
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