「アコガレのひと」

 

 

フランソワーズの最近のブームは、どうやらF1パイロットのデータ集めらしい。
先日、サーキットに連れて行った時に火がついたようだった。

僕としては非常に気になるところだ。

なぜならフランソワーズは、集めたそれを絶対に見せてはくれないのだから。
どんなに頼んでも、なだめすかしても、泣き落としても甘えてもダメだった。

だから僕は、ふん、そんなの本当は興味ないさ、と言うしかなかった。
そうすれば、フランソワーズは慌てて見せようとするに違いないと踏んだのだ。

だがしかし。

フランソワーズはにっこり笑って

「良かったわ。興味ないのね」

と嬉しそうに言った。

「どうせ中身は僕のデータなんだろ。知ってるぞ」
「あら、違うわよ?」

なぬ?

「やだわ、ジョーったら」

くすくす笑うフランソワーズ。

可愛いなあ。可愛いんだけど・・・いったい誰のデータを集めているんだろう。
僕以外の誰か他の野郎のファンになって、そいつの写真やら記事やらを後生大事に・・・

「・・・フランソワーズ」
「なあに?」
「やっぱり見せろ」
「いやよ」
「見せろよ」
「いや」
「・・・フランソワーズ」
「もうっ。やっぱりジョーったらやきもちやいてるんじゃない。素直じゃないんだから」

僕はかっと顔が熱くなったから、それを誤魔化すようにフランソワーズの手首を掴んだ。
そのままソファに押し倒して、そして。

「・・・ジョー?」

脅えたような蒼い瞳。
・・・違う、こんなつもりじゃ・・・

僕の動揺に気付いたのか、フランソワーズの瞳から脅えが消えた。

「・・・だって『ハリケーンジョー』のファンなんだもの。しょうがないでしょう?」
「・・・え?」
「凄くかっこよかったんだもの」

頬を染めて、瞳を輝かせて。

「ええと、フランソワーズ、それってつまり僕・・・」
「違うわ。『ハリケーンジョー』とジョーは違うもの」

何が?

「アコガレのひとなの。『ハリケーンジョー』は」

・・・アコガレのひと?

「だから遠くでみてるの」

こんなに近くにいるのに?

「あの、フランソワーズ」

「だって、違うもの。アコガレの人と、・・・好きな人は」