「目隠し」

 

 

「だーれだっ」


軽やかな声と共に遮られる視界。

僕は、目隠しをしてきた相手が誰なのかすぐにわかったけれど、ここはわからないふりをする。

黙って少し考え込むふり。

大体、この遊びにはかなりの無理がある。
目隠しをするほうとされたほうは共に知り合いでなければならないし、しかも声を聞き分けられるくらいの親密度が必要とされる。
従って、自ずと答えは出る。考えるまでもない。
僕にこんなことができるのはフランソワーズかセブンしかおらず、しかもこの声は女性なのだから。

でもすぐに答えるつもりはない。

わからないふり。

考え込むふり。


待ち合わせに遅れたのはきみのほうだし、本を読んでいたのに邪魔をされたわけだから僕には怒る権利もある。
だから、即答しなくてもいいよね?フランソワーズ。


「だーれだっ?」


もう一度、問われる。


「さあ…誰かな」


僕は、一回目のだーれだより少しだけ不安そうなだーれだに苦笑する。
待ち合わせに数分遅れたくらいでとやかく言うつもりはないけれど、それでも心配していたんだ。

だから、もう少し不安にさせていてもいいよね?

次のだーれだには答えてあげるからさ。

 

 

なんて、構えていたけれど。

 

ほんのちょっとだけ揺れた目隠しに動揺したのは僕のほうだった。


「…フランソワーズ」


気付いたら口にしていた。ずっと待っていたひとの名を。


「あたり」


耳元にふんわり触れた唇がそっと囁いた。

 

 

 

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