「イチゴ狩り・その後」

 

 

「あれっ・・・またイチゴ?」

フランソワーズがギルモア邸に帰ってくると、なぜかリビングにはジョーがいた。
我が物顔で新聞なんか読んでいる。

「ジョー?どうしたの?今日、来るって言ってなかったわよね?」

腕に抱えたイチゴのパック。それを落とさないように、動揺を悟られないように。

「・・・言わなくちゃ来てはいけないかい?」
「あっ、ううん。そんなことないわ!ただ、びっくりしたのよ」
「ふうん」

新聞の影からフランソワーズをちらりと見つめ、ジョーはそれを畳んで立ち上がった。

「この前行ったのに、また行ったんだ?――イチゴ狩り」
「ええ。フランソワーズたちが行きたいって言ってたから」
「じゃあ、三人で行ったのかい?」
「そうよ。楽しかったわ」

ジョーが近付いてくると、思わず身体を退いてしまう。
避けているわけではないけれど、今日、彼がここにいると知らなかったから、心の準備ができていなかった。
会いたいけれど、会いたくない――でも、会いたい。だけど。
心中、複雑な思いに囚われ、フランソワーズは更に数歩後退した。

「・・・もしかしてきみ、僕を避けてる?」
「えっ、ううんっ、まさか!そんなはずないわ」
「――そうかな」
「そうよ!」

そのわりには、二人の距離は縮まらない。一定の間隔を保っている。
ジョーが一歩進むとフランソワーズが一歩下がる。
その繰り返し。

「ふうん・・・。もしかして、僕が怖い?」
「えっ!?」

フランソワーズの声が裏返る。

「そそそそんなことはっ・・・」
「ほら。怖がっている」
「ち、違うわっ!!」

頬を真っ赤に染めて一生懸命な顔で言うけれども、身体はやはり退いてしまう。

「――フランソワーズ?」

ジョーの手が伸ばされる。と、その瞬間、ジョーに向かってイチゴが飛んできた。

「知らないっ。ジョーの意地悪っ!!」

床に散らばるイチゴ。それに埋もれ、ただきょとんと目を丸くしているジョーだけが残された。

「・・・いったい、何だ?」