「額をこつん」 A
「で?君の言う映画やドラマのような…というのは、具体的にはどういうものなのかな」 何も言わないスリーにナインはふふんと笑った。 そんなこと。 「し、知らないわ」 だんだんナインの顔が近付いてきて――スリーはぎゅっと目をつむった。 「フランソワーズ?」 顔を真っ赤にして、ナインの胸を力いっぱい押し遣っているスリー。 「――なんて、ね」 そしてナインはそんなスリーが大好きなのである。 だから、きょとんと戸惑った風のスリーを見られてナインとしては大満足であった。 キスを拒んだのに何故か上機嫌のナイン。 スリーはしばらく戸惑うことになった。
ミッションが終わり日を改めて再び超高層ホテルにチェックインしたふたり。
先日と変わらぬ美しい夜景が眼下に広がっている。
「え…と」
スリーは目を窓外に向けたまま頑なにナインのほうを見ようとはしない。
――だって、ジョーは知ってるはずだもの。
ミッション中に、今度は映画やドラマみたいなことをしようと自分から言ったのだ。
だから知らないはずはない。
ナインはこうして自分をからかうのが好きなのだ。たぶん。
「映画やドラマではどうするんだったかなぁ。…摩天楼を背景にして?」
そう言うとナインはスリーを窓によりかからせ顔を近づけた。
「――君はどうしたい?」
「えっ…」
「何をしたい?」
「そ、」
「ふうん?」
「ま、待って。やっぱりイヤ」
「うん?」
「だって、恥ずかしい…もの」
「恥ずかしい?」
「こんな、外から丸見えじゃない」
「外には何もないぞ」
「で、でも」
そんな彼女の額にナインはこつんと額をつけた。
「えっ…ジョー?」
映画やドラマのように摩天楼を背景にしたラブシーン。
それを実行するのはナインとしては抵抗が無かったが、おそらく途中でスリーが挫けるだろうことは想定内であった。きっと彼女は恥ずかしさに負ける。そう踏んでいた。