「一緒ならそれすらも楽しい」
〜お題もの「恋にありがちな20の出来事」より〜

 

 

君は僕が守る。


そう言ったのはあなただけど、それ以来私の胸には疑問がひとつ。


だったら、あなたのことは――誰が守るの?

 

 

***

 

 

「別に、僕は自分の事は自分で守るさ」


そのくらいできる甘くみるなとナインは言う。

確かにそのくらいできるだろう。009なら簡単に。
実際、数々の事件でも彼はそうしてきたのだし。きっとこれから先もそうしてゆくのだろう。
誰の力も借りずに。自分の力だけで。

自慢げに言ってコーヒーを飲むナイン。

私は彼の隣に座って、いつものようにその横顔を見つめていた。


いつもと同じ朝。

いつもと同じギルモア邸。

いつもと同じコーヒー。

いつもと同じ光景。


でも。


「――いつか無理なときがくるわ」

「えっ?」


ナインの目がこちらを見る。


「なんだって?」
「いつか、ひとりではどうにもならないときがくる。その時、あなたはどうするの」
「どう、って・・・」


コーヒーをひとくち飲む間、静寂が訪れる。


「――その時はみんなに助けを求めるさ、もちろん。僕たちはチームなんだから」
「嘘ばっかり」
「嘘じゃないよ。本当に助けを求めるさ」


ナインは笑ってカップを置いた。
そのまま深く座り直して、天井を見た。


「僕たちはひとりだけじゃ何もできない。だから、無理なときはちゃんと助けを求める。そうでなければ強いなんて言えない。そうだろう?」
「――そうね」

でも私が言っているのは、そういう意味じゃない。


あなたは私を守ると言った。
その意味はおそらく――誰かに任せるということではないだろう。
私が窮地に陥っているとき、ナインは私を守ることに専念しているだろうから、きっと彼は隙だらけだ。
そんな彼は誰に守ってもらえばいいのだろう?

あるいは。

私が彼に守ってもらうことを拒めば――全て解決しないだろうか?
窮地に陥っても、私はナインに助けを求めない。

ううん。

それでもナインは勝手に助けようとするだろうから、私はそれを全身全霊を使って拒絶しなくてはならない。助けてナインなんて絶対に言わない。私は平気よとも言わない。嘘だと絶対にばれるから。
だからもしも、そういう状況になったら私は――何も言わないのが一番いいのだろう。
何も異常なことは起きていないのだと。
そうすればナインは私を気にすることもないし、私は彼を危険に晒さなくてすむ。

でもたぶん一番いい方法は、私がそんな状況に決して陥ったりしないことだろう。
簡単に攫われたりしないように。ナインの足手まといにならないように。

あるいは。

私がナインと一緒にいなければいいだけのことかもしれない。
そうすれば、ナインが私を守って自身を危険に晒すこともなくなるのだから。


「フランソワーズ?」

黙り込んだ私を不思議に思ったのか、ナインの顔が近くから私を覗き込んだ。

「あ、ううん。なんでもないわ」
「そう?」
「ええ」

ナインは一瞬険しい瞳になったけれど、それでも無言で再びソファにもたれた。

「ジョー、おかわりは?」
「うん。頼む」

私はトレイを持って立ち上がった。

「――フランソワーズ」
「なあに?」
「妙なことを考えたら怒るよ」
「あら、妙なことってなにかしら」

ナインの目が私を見る。
射るような――強い視線で。

「――憶えているんだな。君を守るのは僕だ」

だけど、それは。

「そして僕は僕自身のこともちゃんと守ることができる。だから心配はしなくていい」

――自信過剰。

「それに・・・」

ふっとナインの目が優しくなる。

「一緒に捕まるならそれはそれで楽しいかもしれないからさ。無理はしないよ」
「まあ、ジョーったらそんな事言って!」
「本当さ。君を逃がすために僕が身を挺すると思ったら大間違いさ。いよいよどうしようもなくなったら一緒に捕まって脱出プランを考える。そのほうが安心だし、それに」

ナインは少し笑うと目を閉じた。

「君をひとりで逃がしたら、今度はそのあとひとりでどうしているのかずっと心配しなくちゃいけないからね。
そんなのはゴメンさ」

 

 

 

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