リビングに散らかった雑誌や新聞を片付けていたフランソワーズは、ジョーの声に手を止めた。 振り返ると、付けっ放しだったテレビの画面にジョーが映っていた。 ・・・コマーシャル? けれど、普段目にする類のものとは違っていた。 「・・・・」 思わずテレビの前に座ってしまう。 『あなたの大切なひとのために、検診を受けましょう』 『日本の女性は20人にひとりが乳がんになると言われています。けれども、早期発見、早期治療により十分に治る病気なのです』 『検診は市が行っています。検査自体は痛くはありません』 『けれども、毎日自分でできる方法があります。また、パートナーによる発見も実は多いのです』 『不安はひとりで抱えていても何も解決しません』 『何より、大事な自分自身のために。あなたの大切なひとのために』 乳癌検診推進月間である10月のピンクリボンキャンペーンだった。 そして、終わりかと思ったら続きがあった。 『あなたの大切なひとが、ひとりで不安を抱えていたらどうしますか?』 カメラがジョーの顔をアップにしていく。 『あなたの大切なひとは、心の中ではあなたの隣にいるはずです。あなたは一人ではありません』 最後に、やっと少し微笑む。 そして、ジョーの顔にピンクリボンキャンペーンとテロップが入り、次のコマーシャルが始まった。
フランソワーズも微笑んでいた。 台本通りに話しているのは、わかっているけど。 ねぇ、ジョー? あなたの心に私は居る? とは、思うものの。 昨日見送ったばかりなのに。 そんな自分に苦笑して立ち上がる。 ダメね。遠征のたびにそんな事を言っていたら、ジョーを困らせてしまう。 彼方に思いを馳せ、蒼い空を見つめた。 |