傘にあたる雨の音が段々激しくなり、気付いた時には滝のように雨が降っていた。
ぼんやり桜を見ている場合ではないとふたりは国道沿いのファミリーレストランに避難した。
フランソワーズの女物の傘では小さすぎて、本格的な雨の前にはその意味を失っていたからだ。

窓際の席に向かい合って座り、ぼんやりと流れる車を眺めている。
窓を伝う幾筋もの水の流れは途切れることがない。

「・・・止まないわね」
「うん。ひどい降りだな」

電車で帰るのは可能だろうか。
何しろ、二人が使う電車は海沿いを走るルートがあるため強風や大雨の時は運休することが多いのだ。車で来なかったことが悔やまれる。

しかも、実はジョーは――雨が大嫌いなのだ。

窓外を見てため息をつくジョーに、フランソワーズは何か彼の気をこちらに向けられないかと考えた。
が、こういう時に限って何も思い浮かばない。

 

「――帰れなくなったらどうしようか」

 

外を見たままジョーがポツリと言う。
困った風ではなく、ただ「どうしようか」という相談のようだった。

「どう、って?」
「ん・・・ここで始発が動くのを待つ?」
「始発、って。終電までまだ随分あるじゃない」
「うん。でも止まってるらしい」

ジョーが手元の携帯電話の液晶画面を示した。
運行情報の文字が見える。ふたりの使う電車は赤い文字で運休と表示されていた。

「嘘でしょ」
「ホント」

 

さあ、どうする?

 

「・・・タクシーで帰るとか」
「みんなそう考えてるよ。今頃、駅は凄い列だろうなぁ」

確かにそうだろう。
行ってもいつ乗れるのかわかったものではない。

「ん・・・でもジョーがいるし」
「僕?」
「ええ。いざとなったら加速して帰ればすぐよ」
「――いいけど、きみ、服が燃えるよ」

黙り込んだフランソワーズにジョーが追い討ちをかける。

「僕は別に構わないけど、博士が見たら卒倒するだろうなぁ。ああそうだ、イワンも確か昼の時間だったはずだ。驚くだろうなぁ。まさかきみがそんな格好で帰ってくるとは思わないだろうな」
「・・・意地悪ね。そんなこと言う口は縫っちゃうわよ?」
「ふふ。だから相談してるんだよ。どうする?って」
「どう、って」
「どこかに泊まる?」
「と・・・」

 

泊まる?

 

ジョーと?

 

「・・・部屋は別々よね?」
「どうして」

「どうして、って」

 

どうして?

 

頬杖をついて自分の反応を面白そうに見ているジョーに、フランソワーズは小さく息をついた。

 

――もう。だから雨って嫌いよ。
ジョーがいつもより意地悪になるんだから――

 

「何か言った?」

 

ジョーの瞳の奥に見えるのは何だろう?
無邪気な顔してその実、彼は・・・

 

「・・・何でもないわ」

 

前言撤回。

やっぱり雨の日は好きになれない。

ジョーが一緒だと特に。

 

いつもよりも扱いにくいジョーを前に、早く雨が止めばいいのにと祈るしかなかった。