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「指輪を買おう」プロジェクト
注:事の発端は超銀のこのお話です
(未読の方はこちらを読んでからどうぞ!)
    「ジュエリーショップで買い物なんて普通だろ?何をびびってる」 普通なら、そういう発言をしそうなのは超銀009なのだが生憎今回はそうではない。 超銀009は歯噛みすると低い声で言った。 「畜生、お前らも行ってみればいいんだ」 「別に行くくらいどうってことないさ。なあ?」 しかし周囲はどんよりとした空気に覆われたままだった。 「ふん。後悔するなよ」 超銀009はニヤリと笑ってみせた。   そんなわけで―― 「ジュエリーショップで指輪を買おう」ミッション発動。  
   
       
          
   
         009の誰かがそう言った。
         何故なら、現在槍玉に上がっているのが誰あろう超銀009なのだから。
         元気なのはひとりだけ――否。二人だろうか。
         「獲物は指輪だ」

    「ジュエリーショップなんて別に怖い場所じゃないだろ」 実際、彼にとって貴金属店は構える場所ではない。 過去何度も買い物をしており、他の買い物と何ら変わるところはないのである。 しかし。  
   
       
          
   
         なにをびびってるんだみっともない、と言い捨ててナインはまっすぐに店の中に入った。
         だから超銀009が何故ああも及び腰になるのか全くわからなかった。普段の彼の偉そうな態度を思い出し、口ほどにもないヤツめなどと優越感に似た思いがよぎる。
         が、しかし。
         店内に足を踏み入れたナインは、いつもと様子が違うのに息を呑んだ。
         なんだ、これは。
         ところで、ナインにとってクリスマスの時期に貴金属店に行くというのは苦行でも何でもない。
         それは慣れているからだ。
         「なんでカップルだらけなんだ……」
         ナインが知っている光景は、男性が単身乗り込んでいるものだった。
         カップルがひしめきあっているなぞ記憶にない。
         なんでだ。
         内緒で買うもんだろう、プレゼントなんだから。
         悲しいことに、ナインが見慣れていたのはクリスマスより約一ヶ月ほど前の光景であった。
         クリスマス直近の休日など知らなかった。
         彼は真面目な男であったから、慌てて買いに走るなどなかったからである。
         「な……」
         しかも何故か冷たい視線を浴び、ナインはたじろいだ。
         カップルの女性の方がいちように憐れみの視線を投げたのである。
         クリスマスの時期に男ひとりで貴金属店に来るなんて彼女に逃げられたのかしら?
         と言われたわけではないけれど、ナインの背に冷たいものが伝った。
         「くっ……」
         ナインはそのまま店を出ると、すぐに電話をかけた。
         「もしもし」
         「あらジョー、どうしたの?」
         「今すぐ出てこれないか」
         「ええっ?だって今、パーティの準備……」
         「待ってるから」
         「え、ジョー、ちょっと待っ」
         通話を切るとナインは空を見た。
         スリーの瞳の色だった。
    「……僕はパス」   他の009がどうか知らないが、新ゼロジョーにとって貴金属店というのは鬼門だった。 他の009につつかれたけれど新ゼロジョーの決意は固い。 「いいんだよ、たくさん持ってるんだから」 嫌そうに言ったところで周りの空気が冷えた感じがし、新ゼロジョーはふと顔を上げた。 「えっ、な……」 目の前には満面に笑みを湛えた新ゼロフランソワーズ。 「なんで」 ここは009だけしかいないはずではなかったか。   それは自分だと新ゼロジョーが気付くまで、あと数秒。  
   
       
          
   
         新ゼロジョーはあっさりと宣言した。
         「このミッションには参加しない」
         そしてソファの上で膝を抱えた。
         できれば近寄りたくない。
         003同伴ならまだしも、単身乗り込むなぞ考えたくもなかった。
         しかも、彼の003は既に指輪はたくさん持っているのである。
         その10割が彼からのプレゼントである(注・新ゼロジョー調べ)。
         そして8割はペアリングであった。
         従って、ジョーにはこれ以上指輪を増やす意味がわからなかった。
         「ねぇ、ジョー」
         「な、なにかな」
         「私、クリスマスに指輪って昔から憧れだったの」
         「へ、へぇ、そうなんだ」
         「ええ。いつか誰かが叶えてくれるんじゃないかしら、って思ってるのよ」
         「ふ、ふうん」
         いつか誰かが。
新ゼロの指輪にまつわるお話はこちら