<方言概観(その五)>(マタギ語概観(その一)「ア」から「ソ」まで) (平成23-11-1書込み。24-3-1最終修正)(テキスト約94頁) |
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[おことわり]
この篇は、全国の方言の主要なものの中に残る語源不詳または意味不詳の縄文語の意味を解明しようとするシリーズの一として、東北地方に残るマタギ語を解明しようとするものです。
これまで国語篇(その二)で東北方言(庄内語・遠野語)を取り上げ、また地名篇や雑楽篇の各篇などでも随処で方言を取り上げてきましたが、これから全国の方言をくまなく解明しょうとすれば、国語研究所『日本言語地図』 大蔵省印刷局、『日本方言大辞典』小学館、佐藤亮一著『都道府県別全国方言小辞典』三省堂などに拠らなければなりませんが、これらはあまりにも膨大で、これらを対象とすることは時間の余裕から不可能です。そこで、平成21年に、数ある方言辞典や方言集のうちから、収録語数が約1,200語と比較的にコンパクトで、最近普及しつつある電子辞書数種(カシオXD-GP6900、シャープPW-M100、ソニーIC-700Sなど)にも搭載されている江端義夫・加藤正信・本堂寛編『全国方言一覧辞典』学研、1998年を選び、その中に残る縄文語の意味を解明することとし、国語篇(その十四から十七まで)として掲載しました。
しかし、方言に中には主として東北地方に残る中世からの伝統を伝えるマタギと呼ばれる狩猟集団が山中で使用する方言であるマタギ語があり、江戸時代からアイヌ語との関連が取沙汰されています(菅江真澄はその旅行記の中で、北秋田の山村のマタギ言葉には、犬をセタ、水をワッカ、大きいをポロというなどアイヌの単語が多く用いられていると記しています。)ことから、日本語の語源を解明するためには、マタギ語にどれだけのアイヌ語起源の言葉が入っているのかの解明が必要であると考えました。
このマタギ語については、世上多くの報告がなされていますが、まとまったものとしては、太田雄治『マタギ 消えゆく山人の記録』慶友社、1997年の中の「マタギ語事典」(822語収録。以下「事典」といいます。)と板橋義三『マタギ語辞典』現代図書社、2008年(約1,600語(?)収録。以下「辞典」といいます。)があります。両者を比較しますと、事典は筆者の永年にわたる聞き取り調査の集成といういわば第一次資料であるのに対し、辞典は事典をはじめとする多数の研究者の報告の集成といういわば第二次資料という性格を持つものです。また、収録語を比較しますと、例えば「クマ」ではじまる単語が辞典では24語、事典では20語が収録されていますが、辞典の24語中20語は事典と同一で、残りの3語は、「クマノアリ」、「クマノアトカギ」、「クマノオビ」という複合語で、その「アリ」、「アトカギ」、「オビ」は事典に収録されている単語であり、残りの1語は「クマタガ」(日本原産の小型ワシのこと)という一般名詞で必ずしも狭義のマタギ語とは言い得ないものであるというように、マタギ語として他に例を見ないような単語が事典に洩れているケースはあまり多くないと考えられます。
そこで、事典収録の見出し語の「ア」から「ソ」までを国語篇(その十八)、「タ」から「ン」までを国語篇(その十九)に分割し、見出し語によってそれが縄文語であるか、漢語由来の単語であるか(漢字表記によって一目して漢語由来と判断できるものは、改めてその旨を記載することは略します。)、アイヌ語語源の単語(アイヌ語と縄文語の複合語を含む)であるかの解釈を行いました。なお、事典になく、辞典に収録の単語で語源不詳または意味不詳の単語は、「マタギ」をはじめとして必要に応じ解釈を行いました。また、記事中[阿仁]、[仙北]、[雄勝]、[鳥海]、[平鹿]、[岩手]とあるのは、その言葉がよく使われる地方を示します。
この解釈にあたっては、従来アイヌ語語源とされてきたものについても、縄文語にどうしても対応する言葉がないものは別として、縄文語で解釈できるものについては、アイヌ語語源ではなく、縄文語と解すべきものとしました。
なお、この「マタギ」は、「ウマダ(シナノキの樹皮から取る繊維で織られた布)を剥ぐ人(柳田国男)、マダハギの転」、「マタンガー(古代インドの屠殺人)から(南方熊楠)」、アイヌ語の「マタンキ(matanki 狩人)」からなどの説があります。
この「マタギ」は、
「マタ(ン)ギ」、MATANGI(wind,breeze)、「風(を熟知する狩人。マタギ)」(NG音がG音に変化して「マタギ」となった)(地名篇(その八)の山間民俗語彙の130またぎの項または国語篇(その十九)の697マタオニの項を参照してください。)
の転訛と解します。
この解釈からすれば、周辺に関連ないし類似する語彙を全く持たない弧立単語で、単なる「狩人」の意味しかもたないアイヌ語「マタンキ」は、縄文語から輸入された外来語であると考えられます。
縄文語のポリネシア語による解釈は、他の諸篇と同様、原則として、その起源となったと推定される原ポリネシア語から変化したマオリ語(すでに失われた語彙でハワイ語に残るものについてはハワイ語とし、その旨を注記しました)とその意味を英語および日本語によって表記しました。主として使用したマオリ語・ハワイ語の辞典は次の通りです。
(1)H.W.Williams M.A,Dictionary of the Maori Language,seventh edition,1997,GP Publications.
(2)P.M.Ryan,The Reed Dictionary of Modern Maori,1995,TVNZ.
(3)Mary Kawena Pukui and Samuel H.Elbert,Hawaiian Dictionary, revised and enlarged edition,1986,University of Hawaii Press.
目 次
「ア」
001アエメ/002アオ/003アオケラ/004アオシカトリアミ/005アオクビカモ/006アオシシ・カモシシ・クラシシ・ニクシシ/007アオシシノアブラ/008アオシシノツノ/009アオシシノホネタクリ/010アオシシボシ/011アオシシマタギ/012アオナタカブ/013アオノヨドミ/014アオリ/015アカキモ/016アカゲノクマ/017アガラス/018アガリツメ/019アキエジミ・アキエズミ/020アクドアテ/021アクドマキ/022アケビトリ/023アケビノユメ/024アゴ・アゴツリ/025アゴウチシ・ハナザル/026アゴミチ/027アサノイチマイオリ/028アシシキ/029アシブクロ/030アテスコ/031アトガキ/032アトガクシ/033アトドタズネル/034アトロメン/035アド/036アナイレノオミキ/037アナグマ・ササグマ・マミムジナ/038アナジルシ/039アナヅメ・マッカ/040アナドメ/041アナモタズ/042アバラサンマイ/043アブキ/044アブケ/アブケアト/046アブケゲルミ/047アブラト/048アブランケソワカ・アビランケインソワカ/049アマネブテ/050アマブタ/051アミモッコ/052アメカワ・カンジキ/053アモ/054アモスギ/055アリ/056アリカイタメ/057アリシゲ/058アルヂゲ/
「イ」
059イカカブ/060イカジリ/061イカネ/062イカネス/063イグシ/064イグシタテル/065イグスギ/066イケル/067イザナキ/068イシアナ/069イシム/070イタチ・イタズ/071イチゴオトシ/072イチゴハナシ/073イチゴハナレ/074イチノブ/075イヌノカワノコダシ/076イマ/077イミヤマ/078イラカカチョ/079イラカゴ/080イラカヒタギ/081イリカガリ/082イルモノノハジメノヒ/083イワアナ/
「ウ」
084ウ・ウズカイ・ウザオ・スク/085ウエゴツキ/086ウケ/087ウゲ/088ウサギタマ・ウサギタタキ/089ウシノイ/090ウジワカヘダル/091ウチ/092ウチヅミ/093ウツカシ/094ウルフ/
「エ」
095エカネハムシ/096エガケ/097エキシコダテル/098エギレ/099エグイ/100エゲ/101エサヅケ/102エズミカク/103エゾネギ/104エダ・エンダ/105エドホウソ/106エバコ/107エビス/108エビスタマ/109エビスパ/110エムシ/111エリマメ/
「オ」
112オイドリ/113オイノ・オイヌ/114オイノマツリ/115オオガツチオ/116オオナギヤ/117オオノジ/118オオバ/119オオマメ/120オカツサー/121オカツソーダイ/122オカベル/123オカベロナエ/124オクズ/125オクビ/26オコゼ・オコズ/127オシゴ/128オソヲタテル・トウダイヤマ/129オソビキ/130オトシヒラ・オトシマエ/131オトシマエ/132オニカミ/133オハグロ/134オビ/135オモテ/136オリバミ/137オロシマキ/
「カ」
138カエドキ/139カギカケ・ハタテ・カンカケ/140カグマ/141カクライワイ/142カクラサン・カクサマ/143カクラマツリ/144カケ・タカノモドリ/145カケイタ/146カケス/147カケマモリブクロ/148カゴ/149カサゴ/150ガサイレ/151カシモ/152カジリ・カガリ/153カスケワッカ/154カタワ/155カチヨ/156カツグ/157カツケヨ/158カツソーダイ/159カツタチ・クロコ/160カツチオ/161カツチヤマ/162カツツ/163ガツテンホフ/164カテモノイラズ/165カドカク/166カナル/167カネブクロ/168カネモチ/169ガフラ・モンペ/170ガマハバキ/171カモ・デロガモ・カルカモ・アオクビ・マカモ・ヨシカモ・オナガカモ・タカブ・コガモ/172カモシカノアシ/173カモシカノハラワタノミソヅケ/174カラセダキ/175カラデ/176カリバ/177カワウソ/178カワウソノヒモノ/179カワゲタ/180カワタチ/181カワタチノインドウワタシ/182カワタビ/183カワネズミ/184カンジキ/185カンジヨウ/186カンゾウ・カニババ/187カンダチ/188カンダツ/189カンマタギ/
「キ」
190キエシ/191キカワ/192キド/193キヒゲ/194キフギ/195キマメ/196キモ/197キヤシギ/198キヨワカ/199キリクビ/200キリダシ/201キンジモン/
「ク」
202ククリ/203クケアナ/204クサコ/205クサノミ/206クサノミワパス/207クダキ/208クマシシ/209クマノアシ/210クマノアシナラシ/211クマノアシノベラ/212クマノアラシゴ/213クマノイ/214クマノカワノコダシ/215クマノキモ/216クマノシタ/217クマノジユズ/218クマノシヤレコウベ/219クマノスプタギ/220クマノタキリ/221クマノチ・クマノオビ/222クマノニセイ/223クマノノウミソ/224クマノハツサン/225クマノハララゴ/226クマノヒヤクヒロ/227クマノホネ/228クマビラコ/229クラ/230クライシ/231クライドリ・イグレ/232クラガイ/233クラゲヤ/234クラヅキスル/235クラバナシ/236クラマキ/237クラマツク/238クラマツタ/239クラマル/240クロキモ/241クロツペ/242クロマキ/243クワツキ/244クワナカ/
「ケ」
245ケエスキ/246ケサギ/247ケタ/248ケタビ/249ケチ/250ケツカミ/251ケツゾリ/252ケテブクロ/253ケト・ケド・ケート/254ケトバ/255ゲホ/256ケボカイ・ケボカヒ/257ケボケ/258ケボシ/259ケボロギ・ケブルギ/260ケマシ/261ケマツリ/262ケムリカツソウ/263ケラ・ケラナ/264ケラソツカ/265ケンツナ/>266ケンビキツナ/
「コ」
267コウシンコウチュウ/268ゴウヤクイレ/269コオシナリ/270コオリユキ/271コガツチオ/273コギ/273コシマケ/274ゴス/275コダタキ/276コダマネズミ・ヤマネ/277コダマノレツチユ・スギノノレツチユ/278コツダエ/279コトバノケガレ/280コナツポ/281コハンバキ/282コバツケ/283コバヌイハリ/284コバンドリ/285コヒゲ/286コブグマ/287コブクロ/288コベスパ/289コホリ/290コナガイ/291コナギヤ/292コナギヤベラ/293コマイ/294コマガリ/295コマサカリ/296コヨリ/297ゴロ/ 298コロド/
「サ」
>299サイガン/300サカイツツ/301サカサクベ/303サカブ/303サガリツメ/304サキ/305サキヤ/306サキヤマ/307サギ/308サグリ/309サグリアナ/310サグリサキ/311ササグマ・マミムジナ/312ササゴヤ/ 313ササゴリ/314ササネズミ/315ササヒラ/316サジ/317サジトリゴイ・サンジコイ/318サジトル・サジトレ/319サジヨイ/320サスガ/321サゼ/322サタテ・サダテ・サツタテ/323サツタリ/324サチノ/325サチノミ/326サツキヤ/327サツキヤマタギ/328サツクラ・サツチグラ・サツソクラ・サツツクリ/329サツケ・サツナ/330サツソウリ/331サツチ/332サツチオ/333サツツラ/334サツテベラ/335サツピ/336サツピラキ/337サツポ/338サナガラ/339サネ/340サネユキ/341サマ/342サマヅラ/343サマテン/344サミオリ/345サメカワ/346サヨ・サヨウ/347サルノシャレコウベ/ 348サラムスビ/349サルポ/350サワセイゴ/351サワテ/352サワブクロ/353サンカネ/354サンコウヤキ/355サンゴ/356サンジキモ/357サンゾクダマリ/358サンダラゴリ・サンダラボッチ/359サンビクウ/360サンビラキ/361サンベジル/362サンマル/
「シ」
363シアゲイタとヘラ/364シアゲカタ/365ジアナ/366ジエンブクロ/367シオリ/368シカリ/369シガネ/370ジグマ/371シゲノハ/372シコ・シワリ・シツコ/373シコヅキ/374シサベリ/375シシイヌノウマノリ/376シシノクマ/377シシノヨドミツクリ/378シタカリ/379シタキジ・ユラゴ/780シダミ/381シダミホログ/382シヅレ/383シヅレオトシ/384ジドヌ/385シナリ/386シナル・ヒラ/387シネミチ/388シネヤル/389シバウチ/390シバゼメ/391シバリ/392シビ/393ジマギゲル/394シヤイレ・シヤ・シヤコ/395ジヤジヨ/396シヤチノミ/397ジユウニサンジサマ・ジユウニサマ/398ジユウニノモチ/399ジユウニンコヤ/400シヨイキ・モリコ/401シヨウブ/402ジヨウホウ/403シラケ/404シラケザル・クラ/405シリブクロ/406シルベ・シロビ・スルベ/407シロテ/408シロベ/409シンシュイツコン・オカソシトボセ/410シンロ/
「ス」
411スアツツラ/412スイトリ/413スカ/414スガヘル/415スカリ/416スギカンジキ/417スク/418スコル/419スダラガス/420ステボ/421スネ・シネ/422スネタタキ/423スネノソツカ/424スノ/425スノイワイ/426スブクロ/427ズボハズシ/428スマル/
「セ」
429セイフトウ/430セキダ/431セタ・セダ・セコ/432セタキ/433セツタ/434セリコミ/435セリサセル/436セリヌケ/437センゲンフタ/438ゼンブクロ/439センマイウチ/
「ソ」
440ゾーゲ/441ソツカ/442ソデナシ/443ソネエヤ・ダシ/444ソラグチ/445ソラフキ/
「ア」
[雄勝]カモシカの夫婦。「カモシカ」については、雑楽篇(その二)の625しか(鹿)の項のかもしか(羚羊。氈鹿)の解釈を参照してください。
この「アエメ」は、
「アエ・メ」、AE-ME(ae=calm,yes,assent,agree;me=with)、「一緒に(居ることに)・同意している(行動している。カモシカの夫婦)」
の転訛と解します。
006アオシシ(カモシカ)に同じ。
[阿仁・鳥海](1)カモシカ。鳥海地方では、毛皮がケラ(ミノ)に使われるためこう呼ばれています。
(2)また猟の獲物の総称。クマは、クラケラといいます。なお、カモシカは、ウシ科の哺乳類でその肉は美味とされます。「カモシカ」については、雑楽篇(その二)の625しか(鹿)の項のかもしか(羚羊。氈鹿)の解釈を参照してください。
この「アオケラ」は、
「アオ・カイラ(ン)ギ」、AO-KAIRANGI(ao=daytime,take in quantities,be right,be fitting;kairangi=rainbow,anything held in high estimation,wandering)、「(狩猟の対象物として)好ましい・すこぶる評価(価値)が高い(獲物。カモシカ)」(「カイラ(ン)ギ」のAI音がE音に変化し、名詞形のNGI音が脱落して「ケラ」となった)
の転訛と解します。
[雄勝]鷹を捕る網。鷹取網ともいう。
この「アオシカトリアミ」は、
「アオ・チヒ・カハ・ト・リ・アミ」、AO-TIHI-KAHA-TO-RI-AMI(ao=daytime,take in quantities,be right,be fitting;tihi=summit,top,lie in a heap;kaha=strong,rope,edge,ridge of a hill;to=drag;ri=screen,protect,bind;ami=gather,collect)、「満足できる・最高に・強い(鳥(鷹)を)・まとめて・取り・込むもの(鷹取網)」(「チヒ・カハ」のH音が脱落して「シ・カ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・雄勝・鳥海・岩手]首の青いマガモの雄。雌は青くないので、青首とはいわない。
[阿仁・仙北・雄勝・鳥海・岩手]カモシカ。「カモシカ」については、雑楽篇(その二)の625しか(鹿)の項のかもしか(羚羊。氈鹿)の解釈を参照してください。
カモシカの異名としては、ほかに002アオ、イワシカ(岩鹿)、カモシシ、クラシシ、ニクシシがある。
この「アオシシ」、「カモシシ」、「クラシシ」、「ニクシシ」は、
「アオ・チチ」、AO-TITI(ao=daytime,take in quantities,be right,be fitting;titi=go astray)、「(狩猟の対象物として)好ましい・(山中を)徘徊している(動物。カモシカ)」(「チチ」が「シシ」となった)
「カハ・モア・チチ」、KAHA-MOA-TITI(kaha=strong,able,strength;moa=climb;titi=go astray)、「(険しい岩場を)登ることが・できる(動物で)・(山中を)徘徊している(動物。カモシカ)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「モア」の語尾のA音が脱落して「モ」と、「チチ」が「シシ」となった)
「クラ・チチ」、KURA-TITI(kura=red,treasure;titi=go astray)、「(狩猟の対象物として)貴重な・(山中を)徘徊している(動物。カモシカ)」(「チチ」が「シシ」となった)
「ニヒ・ク・チチ」、NIHI-KU-TITI(nihi=move stealthly;ku=silent;titi=go astray)、「静かに・音を立てずに動くもの(肉が取れる動物が)・(山中を)徘徊している(動物。カモシカ)」(「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」と、「チチ」が「シシ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]カモシカの脂。ヒバ(アスナロ)の香りが強くまずい。
[仙北・岩手]カモシカの角。大正の初め頃までカツオ釣りの擬餌餌の材料として珍重された。
[仙北]カモシカの骨を鉈などで叩き割って野菜などと煮込み、髄を出汁としたマタギの鍋料理。
この「(アオシシノ)ホネタクリ」は、
「ホ(ン)ガイ・タクル」、HONGAI-TAKURU(hongai=stay,brace;takuru=thud,thump,knock)、「(家の支柱のように人や動物の身体を)支えるもの(骨)を・叩いて作る(鍋料理)」(「ホ(ン)ガイ」のNG音がN音に、AI音がE音に変化して「ホネ」と、「タクル」が「タクリ」となつた)
の転訛と解します。
[岩手]カモシカの生肉を薄く、細長く切って干したもの。煮て食べると赤痢の特効薬といわれます。
[仙北]カモシカ猟。マタギについては、 マタギの項を参照してください。
[仙北]青菜タカブ。青菜を食べる頃の4月から5月にかけて、北地に帰る時のコガモをいう。全身脂肪の塊といってよいほど脂でまるまると太り、この頃の肉がもっともうまいとされます。
この「(アオナ)タカブ」は、
「タカプ」、TAKAPU(belly,calf of a leg)、「(青菜を食べる頃のまるまると肥った)お腹(なか)(が特徴のコガモ)」(「タカプ」が「タカブ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]カモシカの内臓。
この「(アオノ)ヨドミ」は、
「イオ・ト・ミミ」、IO-TO-MIMI(io=muscle,strand of a rope,strip;to=drag,be pregnant;mimi=urine,stream)、「(口から食べたものを糞として尻へ)押し・流す・長い管(くだ。内臓。またその内容物)」(「イオ」が「ヨ」と、「ト」が「ド」と、「ミミ」の反覆語尾が脱落して「ミ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・雄勝]山の斜面の大木の根にゆるみが生じ、そこにできたクマの穴。また、立木が風のために、土のついたまま根ごと倒され、それによつて自然にできた穴。
この「アオリ」は、
「ア・オリ」、A-ORI(a=the...of,of,belonging to;ori=cause to wave to and fro,sway,move about)、「(大木の根が)動いて(または倒れて)・できたもの(クマの穴)」
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]クマの肺。
この「アカキモ」は、
「ア・カ・キ・マウ」、A-KA-KI-MAU(a=the...of,of,belonging to;ka=take fire,be lighted,burn;ki=full,very;mau=fixed,continuing,expressing feelings of horror or admiration,with passive termination)、「例の・(火が燃えるように)赤い色をした・全く・(人と同じく動物が感ずる恐怖や賛嘆などの)感情や度胸を司る臓器(肝)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)
の転訛と解します。
[仙北・岩手]赤毛のクマ。獰猛なクマとしてマタギの間に知られています。
この「アカゲノ(クマ)」は、
「アカ・(ン)ゲア・(ン)ガウ」、AKA-NGEA-NGAU(aka=anga=face or move in a certain direction,turn to or set about doing anything,aspect,hard outer covering;ngea=very numerous,abundant;ngau=bite,hurt,act upon,attack)、「すこぶる・獰猛な・特徴をもつもの(クマ)」(「(ン)ケア」のNG音がG音に変化し、語尾のA音が脱落して「ゲ」と、「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]火を焚く。火にかける。
この「アガラス」は、
「ア・カ・アラ・ツ」、A-KA-ARA-TU(a=the...of,of,belonging to;ka=take fire,be lighted,burn;ara=rise,raise;tu=stand,fight with,energetic)、「例の・火を付けて・懸命に・燃え上がらせる(しわざ)」(「カ」のA音と「アラ」の語頭のA音が連結して「カラ」から「ガラ」と、「ツ」が「ス」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]上り爪。斜面を上がるときのクマの爪跡(足跡)。クマの爪跡によって、ヲジシ(雄熊)・メジシ(雌熊)の見分けを付けると言います。
[阿仁・仙北]秋エズミ(エズミは嬰児籠をいう)ともいい、秋のクマが冬眠を前に毛を干すため柴を折り曲げて作る場所をいいます。エジミ・エズミは、他にイジコ・エジコ・イズミ・ツグラ・ツブラ・クルミ・フゴともいいます。雑楽篇(その一)の256いじこの項を参照してください。
この「エジミ」、「エズミ」は、
「エ・チ・ミミ」、E-TI-MIMI(e=to denote action in progress or temporary condition;ti=throw,cast;mimi=urine,stream)、「(乳児をそこに)放置して・おしっこをさせて・おく(容器・籠。それに似た熊の休息場所)」(「チ」が「ジ」と、「ミミ」の反覆語尾が脱落して「ミ」となった)
「エ・ツ・ミミ」、E-TU-MIMI(e=to denote action in progress or temporary condition;tu=stand,settle;mimi=urine,stream)、「(乳児をそこに)置いて・おしっこをさせて・おく(容器・籠。それに似た熊の休息場所)」(「ツ」が「ズ」と、「ミミ」の反覆語尾が脱落して「ミ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]はばき(脛巾)の下にはくもの。アクドはカカトの意とされます。カカトの方言については、国語篇(その十四)の040かかと(踵)の項を参照して下さい。
この「アクドアテ」は、
「アク・トウ・アテア」、AKU-TOU-ATEA(aku,akuaku=strong,firm;tou=posteriors,lower end of anything,tail of a bird;atea=clear,free from obstruction,cautious)、「強い・(足の)下の部分(かかと)を・用心深く(保護するためのもの)」(「トウ」が「ト」から「ド」と、「アテア」が「アテ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]アクドアテに同じ。
この「アクドマキ」は、
「アク・トウ・マキ」、AKU-TOU-MAKI(aku,akuaku=strong,firm;tou=posteriors,lower end of anything,tail of a bird;(Hawaii)maki=to roll,fold)、「強い・(足の)下の部分(かかと)を・巻く(保護するためのもの)」(「トウ」が「ト」から「ド」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]ひよ鳥。
この「アケビトリ」は、
「アケ・ピヒ・ト・オリ」、AKE-PIHI-TO-ORI(ake=forthwith,from below,upwards;pihi=cut,split;to=drag,open or shut a door or a window;ori=cause towave to and fro,sway,move about)、「(成熟した果実が)下から上に向かって・裂ける(植物。あけび。あけびを好んで食べる)・あちこちと・行き来する(鳥。ひよ鳥)」(「ピヒ」のH音が脱落して「ピ」から「ビ」となつた)
の転訛と解します。
[仙北]アケビの夢を見ると、次ぎの日必ずクマの猟にあたるといわれます。
[仙北]動物の足跡。[岩手]深雪の路をアゴつり道という。
この「アゴ」、「アゴツリ(道)」は、
「ア(ン)ゴ」、ANGO(gape,be consumed)、「(消耗した)かすれて不明瞭な(もの。動物の足跡)」(NG音がG音に変化して「アゴ」となった)
「ア(ン)ゴ・ツリ」、ANGO-TURI(ango=gape,be consumed;turi=knee)、「(人間の)膝が・(消耗して)がくがくする(深雪の道)」(「ア(ン)ゴ」のNG音がG音に変化して「アゴ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]猿の群れが、群れの跡を消すために、ハナザル(先頭のサル)の足跡を辿って歩くこと。
この「アゴウチシ」、「ハナザル」は、
「ア(ン)ゴ・ウ・チチ」、ANGO-U-TITI(ango=gape,be consumed;u=be firm,be fixed,reach its limit;titi=peg,stick in as a peg etc.,adorn by sticking feathers etc.)、「(猿の群れが先頭の猿の足跡を)辿って歩いて・(足跡を)とことん・不明瞭にする」(「ア(ン)ゴ」のNG音がG音に変化して「アゴ」と、「チチ」が「チシ」となった)
「ハ(ン)ガ・タル」、HANGA-TARU(hanga=head of a tree;taru=shake,overcome)、「(木のてっぺんのように群れの)先頭に立つ・(怒ると人を)震撼させる(動物。猿)」(「ハ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ハナ」と、「タル」が「サル」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]ぬかる雪道。
この「アゴミチ」は、
「ア(ン)ゴ・ミミ・チ」、ANGO-MIMI-TI(ango=gape,be consumed;mimi=urine,stream;ti=throw,cast,overcome)、「(歩くのに)難渋する・(雨が降ると)水が・あふれ出る場所(道)」(「ア(ン)ゴ」のNG音がG音に変化して「アゴ」と、「ミミ」の反覆語尾が脱落して「ミ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]マタギの山狩りの服装。麻の一枚織り。肌着。
[仙北]ワラをすだれ編みにして、カモシカの皮で作った毛足袋の底に敷くもの。足敷。
[阿仁・仙北]足袋。
[仙北]腰につける、カモシカやアナグマの皮で作った敷き皮。
この「アテスコ」は、
「アテア・ツ・コ」、ATEA-TU-KO(atea=clear,free from obstruction,cautious;tu=stand,settle;ko=to give emphasis)、「(地面に)腰を下ろすのを・ちゃんと・用心深く(保護するもの。敷き皮)」(「アテア」が「アテ」と、「ツ」が「ス」となった)
の転訛と解します。
[仙北]冬至の頃の吹雪。クマが冬眠のために穴に入るとき、足跡が消されるように吹雪の前日に穴に入るといいます。同じく春先に穴から出るときも雪の降る前日に出ることもいいます。032アトガクシの項を参照してください。
この「アトガキ」は、
「ア・トウ・(ン)ガキ」、A-TOU-NGAKI(a=the...of,of,belongjng to;tou=anus,lower end of anything,tail of a bird;ngaki=clear off weeds or brushwoods,cultivate,avenge)、「例の・(クマの)足跡を・消し去るもの(冬眠の穴に入った翌日または春先に穴から出た翌日に吹く吹雪)」(「トウ」が「ト」と、「(ン)ガキ」のNG音がG音に変化して「ガキ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]春の土用の頃の吹雪。大きなクマが出るときに、この吹雪が吹くといいます。031アトガキの項を参照してください。
この「アトガクシ」は、
「ア・トウ・(ン)ガク・チ」、A-TOU-NGAKU-TI(a=the...of,of,belongjng to;tou=anus,lower end of anything,tail of a bird;ngaku=strip,shred;ti=throw,cast,overcome)、「例の・(クマの)足跡の・(断片)痕跡を・消し去るもの(春の土用の頃に吹く吹雪)」(「トウ」が「ト」と、「(ン)ガキ」のNG音がG音に変化して「ガキ」となった)
の転訛と解します。
クマの足跡で冬眠の穴を探すこと。
この「(アト)ド(タズネル)」は、
「ト」、TO(drag,open or shut a door or window)、「(クマの足跡に)導かれて(冬眠の穴の入り口を探す)」(「ト」が「ド」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]酒。
この「アトロメン」は、
「ア・トロ・メネ」、A-TORO-MENE(a=the...of,of,belonging to;toro=stretch forth,thrust or impel endways;mene=show wrinkles,confort the face)、「例の・強く・顔をしかめさせるもの(ご法度である酒)」(「メネ」が「メン」となった)
の転訛と解します。
[仙北]野獣の手足。
この「アド」は、
「ア・トウ」、A-TOU(a=the...of,of,belonging to;tou=anus,lower end of anything,tail of a bird)、「例の・(獣の末端である)手足」(「トウ」が「ト」から「ド」となつた)
の転訛と解します。
[阿仁]穴入れの御神酒。シカリ(頭目)の家で、自分達が知っているクマの穴にクマが入ることを祈って、仲間が集まって御神酒をあげ、酒盛りをすること。
[阿仁・仙北・雄勝・鳥海・岩手]学名アナグマ。方言ではササグマ・マミムジナなどと呼びます。
この「アナグマ」、「ササグマ」、「マミムジナ」は、
「アナ・クマ」、ANA-KUMA(ana=cave;(Hawaii)kuma=cracking of the skin between fingersand toes;=hakuma=dark,thick)、「穴を掘ることに長じている・山と山の間(隈)に居る(熊に似た動物。穴熊)」
「タタ・クマ」、TATA-KUMA(tata=near of place or time,suddenly;(Hawaii)kuma=cracking of the skin between fingersand toes;=hakuma=dark,thick)、「(人里の)近くに居る・山と山の間(隈)に居る(熊に似た動物。穴熊)」(「タタ」が「ササ」となった)
「マミ(ン)ガ・ム・チナ」、MAMINGA-MU-TINA(maminga=impose upon,beguile,play pranks with;mu=silent;tina=fixed,fast,firm,satisfied,overcome)、「人を化かす・(びっくりすると死んだように)静かに・固まってしまう(狸寝入りをする動物。狸。狢)」(「マミ(ン)ガ」の名詞形語尾NGA音が脱落して「マミ」と、「チナ」が「ジナ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]穴印。クマの穴を探し当てたとき、忘れないために、穴に向かった木の幹に削り付ける目印。マタギの各組によつて記号が異なります。
[仙北]穴詰め。股木をマッカといい、この股のある木を切って穴の周囲にさし、中へ柴を詰め、冬眠のクマを出さぬようにすること。
この「マッカ」は、
「マカ」、MAKA(throw,put,place)、「(柴を)積み上げる」(「マカ」が「マッカ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]穴止め。クマが穴から出ないように柴を挿し込むこと。039アナヅメの項を参照してください。
[仙北]穴持たず。冬眠しない大クマ。足跡に特徴があり、キバが一本欠けた赤茶色の毛のクマで、人を襲うといわれます。
[阿仁・仙北]肋三枚。クマの胸の三枚目の骨を撃つこと。クマの急所の一つ。
[阿仁]四肢。
この「アブキ」は、
「アプ・キ」、APU-KI(apu=move or be in a flock or crowd;ki=full,very)、「(身体の中で)良く・動くもの(四肢)」(「アプ」が「アブ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]クマの毛。
この「アブケ」は、
「アプ・カイ」、APU-KAI(apu=move or be in a flock or crowd;kai=quantity,anything produced in profusion,thing)、「(身体の中で)密集して・生えているもの(クマの毛)」(「アプ」が「アブ」と、「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]獣の足跡。
この「アブケアト」は、
「アプ・カイ・ア・トウ」、APU-KAI-A-TOU(apu=move or be in a flock or crowd;kai=quantity,anything produced in profusion,thing;a=the...of,of,belongjng to;tou=anus,lower end of anything,tail of a bird)、「例の・(身体の下の)足が・動いて・地面に付けたもの(獣の足跡)」(「アプ」が「アブ」と、「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」と、「トウ」が「ト」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]毛足袋。
この「アブケゲルミ」、「」は、
「アプ・カイ・(ン)ゲル・フミ」、APU-KAI-NGERU-HUMI(apu=move or be in a flock or crowd;kai=quantity,anything produced in profusion,thing;ngeru,nerungeru=smooth,soft,sleek;humi=abundant,abundance)、「(身体の中で)密集して・生えているもの(毛皮。毛皮で作ったもの)で・たいへん・柔軟で自由に動くもの(毛足袋)」(「アプ」が「アブ」と、「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」と、「(ン)ゲル」のNG音がG音に変化して「ゲル」と、「フミ」のH音が脱落して「ミ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]脂砥。クマの脂とり専門の包丁砥石。
[阿仁・仙北・鳥海・雄勝]阿毘羅吽欠蘇婆訶。マタギ達が山で唱える呪文で、地水火風空を意味するサンスクリット語。修験道を介して梵語の大日如来の真言の呪文として入ったものです。
[仙北]雨と雪が半分半分のもの。
この「アマネブテ」は、
「ア・マネイ・プタイ」、A-MANEI-PUTAI(a=the...of,of,belonging to;manei=reach out to,waver,hesitate;putai=sea foam,spray,misty driving rain)、「例の・霧から雨に変わる気象に・似てさらにそれ以上の状況に達している(雨と雪が半分半分のみぞれ)」(「マネイ」が「マネ」と、「プタイ」のAI音がE音に変化して「ブテ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・鳥海]狩猟の時の編み笠。
この「アマブタ」は、(1)を(2)にかけたもので、
(1)「ア・マハ・プ・タ」、A-MAHA-PU-TA(a=the...of,of,belonging to;maha=gratified,satisfied;pu=tribe.bundle,heap;ta=dash,beat,lay)、「例の・すばらしい・(頭の)上に・載せるもの(編み笠)」(「マハ」のH音が脱落して「マ」と、「プ」が「ブ」となった)
(2)「ア・マプア・タ」、A-MAPUA-TA(a=the...of,of,belonging to;mapua=bearing abundance of fruit,prolific;ta=dash,beat,lay)、「例の・(狩りの)大猟を・もたらす(縁起の良い。編み笠)」(「マプア」が「マブ」となつた)
の転訛と解します。
[仙北]編み畚(もっこ)。山ウサギ・山鳥などを入れて背負う紡績糸の編み袋。
この「アミモッコ」は、
「アミ・モツ・コウ」、AMI-MOTU-KO(ami=gather,collect;motu=severed,separated,broken off;kou=good,suitable)、「ばらばらのものを・ほどよく・まとめるもの(編み袋)」(「モツ」が「モッ」と、「コウ」が「コ」となつた)
の転訛と解します。
[仙北]赤牛の腹皮で作られたカンジキの紐。
この「アメカワ」、「カンジキ」は、
「アマイ・カ・ワ」、AMAI-KA-WHA(amai=swell on the sea,the back part of the head of a Maori axe helve where bound round;ka=take fire,be lighted,burn;wha=be disclosed,get abroad)、「(海の高まりのように肥った牛の)腹の・(身体から)剥がして・乾燥したもの(皮)」(「アマイ」のAI音がE音に変化して「アメ」となった)
「カハ・ナチ・キ」、KAHA-NATI-KI(kaha=strong,able,strength(kahanga=evidence of strength);nati=pinch or contract,fasten raupo thatch on the roof of a house;ki=full,very)、「(雪を踏みしめて)歩くことができる(道具を)・しっかりと・(足に)結びつけるもの(カンジキ)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「ナチ」が「ンチ」から「ンジ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]握り飯。
この「アモ」は、
「ア・マウ」、A-MAU(a=the...of,of,belonging to;mau=food products)、「例の・食料(握り飯)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)
または「アモハ(ン)ガ」、AMOHANGA(stage for storing food(amo=carry on the shoulder))、「貯蔵食糧(握り飯)」(H音および名詞形語尾のNGA音が脱落して「アモ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]枝が広がり、節の多い杉。このような杉は造材費がかかって不経済な老木が多く、秋田・青森・山形では、アモ木と呼んでいるといいます。「スギ」の語源については、雑楽篇(その二)の503すぎ(杉)の項を参照してください。
この「アモ」は、
「ア・マウ」、A-MAU(a=the...of,of,belonging to;mau=fixed,caught,entangled)、「例の・(手間ばかりかかって材木の価格が安いため、人を)困惑させる(杉)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)
の転訛と解します。
[仙北・岩手]クマの掌にできる肉のイボ。
この「アリ」は、
「カリ」、KARI(isolated wood,clump of trees)、「(木の瘤のような)熊の掌のいぼ(のような肉)」(K音が脱落して「アリ」となつた)
の転訛と解します。
[仙北]クマの掌の肉を切り取り、細く刻んで湯煮し、これをクマのあぶらでニンニクを入れていためるマタギ料理。
この「アリカイタメ」は、
「カリ・カイ・タメ」、KARI-KAI-TAME(kari=isolated wood,clump of trees;kai=consume,eat,food,quantity,anything produced in profusion,products;tame=food,eat)、「(木の瘤のような)熊の掌のいぼ(のような肉)を・たっぷりと調理した・食べ物」(「カリ」のK音が脱落して「アリ」となつた)
の転訛と解します。
[鳥海]足袋。毛靴。
この「アリシゲ」は、
「アリ・チ(ン)ゲイ」、ARI-TINGEI(ari=clear,appearance,guise;tingei=unsettled,ready to move)、「(雪の中を)自在に歩けるように・見えるもの(毛足袋。毛靴)」(「チ(ン)ゲイ」のNG音がG音に変化して「チゲ」から「シゲ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]藁靴。
この「アルヂゲ」は、
「アル・チ(ン)ゲイ」、ARU-TINGEI(aru=follow,pursue;tingei=unsettled,ready to move)、「(雪の中を)自在に歩くには・(努力が必要なもの)やや難があるもの(毛足袋。毛くつ)」(「チ(ン)ゲイ」のNG音がG音に変化して「チゲ」から「ヂゲ」となった)
の転訛と解します。
「イ」
[阿仁・仙北]胎児。
この「イカカブ」は、
「イカ・カプ」、IKA-KAPU(ika=victim;kapu=hollow of the hand)、「(掌に載るような)小さい・生け贄(胎児)」(゜カプ」が「カブ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]081イリカガリともいう。クマが穴に入る前に、その付近にひとかじり歯のあとを付けること。仙北地方のマタギは、これを秋カガリ、阿仁マタギはイカジリといいます。081イリカガリの項を参照して下さい。
この「イカジリ」は、
「イ・カチ・イリ」、I-KATI-IRI(i=beside,past tense;kati=bite,nip;iri=be elevated on something,hang)、「(穴の)傍ら(の木)に・噛んだ(跡を)・(上に)付けておく」(「カチ」の語尾のI音と「イリ」の語頭のI音が連結して「カチリ」から「カジリ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]家。
この「イカネ」は、
「イカ・ネヘ」、IKA-NEHE(ika=prized possession;nehe=rafter of a house)、「すばらしい・梁のあるもの(家)」(「ネヘ」のH音が脱落して「ネ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]家に泊まること。
この「イカネス」は、
「イカ・ネヘ・ツ」、IKA-NEHE-TU(ika=prized possession;nehe=rafter of a house;tu=stand,settle)、「すばらしい・梁のあるもの(家)に・泊まる」(「ネヘ」のH音が脱落して「ネ」と、「ツ」が「ス」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]火。燃える木尻。
この「イグシ」は、
「イ・クチ」、I-KUTI(i=ferment,be stirred;kuti=nightmare)、「魔物が・(炎となって)燃え上がるもの(火)」(「クチ」が「グシ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]火箸。会津マタギでは木の火箸をいいます。
この「イグシタテル」は、
「イ・クチ・タタイ・ル」、I-KUTI-TATAI-RU(i=ferment,be stirred;kuti=nightmare;tatai=measure,arrange,set in order;ru=shake,scatter)、「魔物が・(炎を上げて)燃えさかるもの(火)を・奮って・(ほどよく燃えるように)整えるもの(火箸)」(「クチ」が「グシ」と、「タタイ」のAI音がE音に変化して「タテ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]薪。
この「イグスギ」は、
「イ・(ン)グ・ツ(ン)ギ」、I-NGU-TUNGI(i=ferment,be stirred;ngu=ghost,silent,breedy;tungi=set a light to,kindle,burn)、「幽霊が・炎を上げて・燃えさかるもの(薪)」(「(ン)グ」のNG音がG音に変化して「グ」と、「ツ(ン)ギ」のNG音がG音に変化して「ツギ」から「スギ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]死ぬ。
この「イケル」は、
「イケ・ル」、IKE-RU(ike=strike with a hammer or other heavy instrument;ru=shake,scatter)、「勢いよく・金槌(または重い鈍器)でぶん殴る(死ぬ)」
の転訛と解します。
[阿仁]牛・馬。
この「イザナキ」は、
「イ・タ(ン)ガ・キ」、I-TANGA-KI(i=beside,past tense;tanga=be assembled(tangatanga=loose,easy,comfortable);ki=full,very)、「(人の)近くで・結構・安楽に暮らしているもの(牛・馬)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「ザナ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]石穴。石に囲まれた穴。
[阿仁・仙北]休憩。寝る。
この「イシム」は、
「イ・チム」、i-TIMU(i=past tense;timu=ebb,ebbing)、「(気力・活力が)衰え・た(ので休む。寝る)」(「チム」が「シム」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]クマ。
この「イタチ」、「イタズ」は、
「イ・タハ・チ」、I-TAHA-TI(past tense,by,at,with;taha=side,pass on one side,go by;ti=throw,cast,overcome)、「(人里から離れた)山中を・彷徨して・制圧するもの(クマ)」(「タハ」のH音が脱落して「タ」となった)
「イ・タハ・ツ」、I-TAHA-TU(past tense,by,at,with;taha=side,pass on one side,go by;tu=stand,settle,fight with,energetic)、「(人里から離れた)山中を・彷徨して・力を奮って行動するもの(クマ)」(「タハ」のH音が脱落して「タ」と、「ツ」が「ズ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海・雄勝・平賀・岩手]春のイチゴがたくさんある場所で、母グマがメスの子グマをイチゴの実を夢中で食べている間に捨て去ること。072イチゴハナシまたは073イチゴハナレともいいます。
この「イチゴオトシ」は、
「イ・チ(ン)ゴ・アウト・チ」、I-TINGO-AUTO-TI(i=past tense;tingo,tingotingo=speckled;auto=trailing behind,drag out;ti=throw,cast)、「斑点(表面に粒々)が・ある(果実。イチゴがある場所で)・(母グマの後を追う子グマがイチゴを)追っている(間に)・(母グマが子グマを)放り出して立ち去ること」(「チ(ン)ゴ」のNG音がG音に変化して「チゴ」と、「アウト」のAU音がO音に変化して「オト」と、「チ」が「シ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海・雄勝・平賀・岩手]春のイチゴがたくさんある場所で、母グマがメスの子グマをイチゴの実を夢中で食べている間に捨て去ること。071イチゴオトシまたは073イチゴハナレともいいます。
この「イチゴハナシ」は、
「イ・チ(ン)ゴ・パナ・チ」、I-TINGO-PANA-TI(i=past tense;tingo,tingotingo=speckled;pana=thrust or drive away,expel,cause to come or go forth in any way;ti=throw,cast)、「斑点(表面に粒々)が・ある(果実。イチゴがある場所で)・(母グマが子グマを)追いやって・放り出して立ち去ること」(「チ(ン)ゴ」のNG音がG音に変化して「チゴ」と、「パナ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハナ」と、「チ」が「シ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海・雄勝・平賀・岩手]春のイチゴがたくさんある場所で、母グマがメスの子グマをイチゴの実を夢中で食べている間に捨て去ること。071イチゴオトシまたは072イチゴハナシともいいます。
この「イチゴハナレ」は、
「イ・チ(ン)ゴ・パナ・レイ」、I-TINGO-PANA-REI(i=past tense;tingo,tingotingo=speckled;pana=thrust or drive away,expel,cause to come or go forth in any way;rei=leap,rush,run)、「斑点(表面に粒々)が・ある(果実。イチゴがある場所で)・(母グマが子グマを)追いやって・走り去ること」(「チ(ン)ゴ」のNG音がG音に変化して「チゴ」と、「パナ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハナ」と、「レイ」が「レ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]巻狩りで一番最初に獲物を撃つマタギ。
この「イチノブ」は、
「イ・チノ・プ」、I-TINO-PU(past tense,by,at,with,in the act of;tino=essentiality,reality,just,quite;pu=tribe,heap,skilled person)、「全く・重要な役割を担う・高い技能を持った者(マタギ)」(「プ」が「ブ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]犬の皮のコダシ。犬の皮でできている獲物入れ。
この「コダシ」は、
「コタ・チ」、KOTA-TI(kota=open,gape;ti=throw,cast)、「(容れものの口を)開いて・放り込むもの(獲物入れ)」(「コタ」が「コダ」と、「チ」が「シ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海]山。
この「イマ」は、
「イ・マ」、I-MA(i=past tense,by,at,with,in the act of;ma=white,clean,go,come)、「(我々が)いつも・行き来する場所(山)」
の転訛と解します。
[雄勝]なだれの多い山。
この「イミ(ヤマ)」は、
「イ・ミヒ」、I-MIHI(i=past tense,by,at,with,in the act of,belonging to;mihi=sigh for,greet,express discomfort,show itself)、「機嫌が悪いことを示す(なだれを起こす)・ことが多い(山)」(「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]小さい入れ物。
この「イラカカチョ」は、
「ヒラ・カカチ・アウ」、HIRA-KAKATI-AU(hira,hihira=shy,suspicious,go over carefully;kakati=grip,nip,bundle;au=firm,intense)、「そっと・小さく・まとめるもの(小さい入れもの)」(「ヒラ」のH音が脱落して「イラ」と、「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」となり、「カカチ・オ」が「カカチョ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]胎児。
この「イラカゴ」は、
「イ・ラカ・(ン)ガウ」、I-RAKA-NGAU(i=past tense,by,at,with,in the act of,belonging to;raka=be entangled;ngau=bite,hurt,attack)、「始末するのに・困惑する・もの(胎児)」(「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]子供。
この「イラカヒタギ」は、
「イ・ラカ・ヒタ・キ」、I-RAKA-HITA-KI(i=past tense,by,at,with,in the act of,belonging to;raka=be entangled;hita=move convulsively or spasmodically;ki=full,very)、「全く・急に思いがけない動きをするので・困惑する・もの(子供)」(「キ」が「ギ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海]クマが穴に入る前に、その付近にひとかじり歯のあとを付けること。仙北地方のマタギは、これを秋カガリまたは096エガケと、阿仁マタギは、060イカジリともいいます。
この「イリカガリ」は、
「イリ・カカリ」、IRI-KAKARI(iri=be elevated on something,hang;kakari=kari=dig,cleave,wound)、「(穴の傍らの木の上に)噛んだ傷跡を・付けておく」(「カカリ」が「カガリ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]煎るものの初めの日。節分。
[阿仁・仙北・鳥海・雄勝・岩手]自然の岩穴。岩石の洞窟。
「ウ」
[阿仁・仙北]マタギが行う一種の夏の川猟。流れの待ち網に上流からウをもって魚を追って来る。これを「スク」とも呼ぶ。ウは山ぶどうの樹皮を剥いで裂き、これを箒状にまとめ、カラスの羽根、イヌの尾、またはカモシカ、イヌの皮などを用い、539ナガラという竿の先につけたもの。川幅に応じて数を増減する。「ナガラ」については、539ナガラの項を、「スク」については417スクの項を参照して下さい。
この「ウ」、「ウズカイ」、「ウザオ」は、
「ウ」、U(be firm,be fixed,reach the land(whakau=make firm,devote to a purpose,lay down or deposit a twig or tuft of grass in some spot with accompanying incantation to avoid infringement of tapu on first arrival at a place))、「(邪気を祓う)総(ふさ)によって魚を追い込む猟」
「ウ・ツ・カイ」、U-TU-KAI(u=be firm,be fixed,reach the land(whakau=make firm,devote to a purpose,lay down or deposit a twig or tuft of grass in some spot with accompanying incantation to avoid infringement of tapu on first arrival at a place);tu=fight with,energetic;kai=fulfil its proper function,have full play)、「(邪気を祓う)総(ふさ)を・懸命に・動かして魚を追い込む猟」(「ツ」が「ズ」となった)
「ウ・タオ」、U-TAO(u=be firm,be fixed,reach the land(whakau=make firm,devote to a purpose,lay down or deposit a twig or tuft of grass in some spot with accompanying incantation to avoid infringement of tapu on first arrival at a place);tao=spear,about 6ft. long)、「(槍のような)竿に・(邪気を祓う)総(ふさ)を付けたもので魚を追い込む猟」(「サオ」が「ザオ」となった)
「ツク」、TUKU(let go,leave,send,present)、「(魚を網に)追い込む」(「ツク」が「スク」となった)
の転訛と解します。
[仙北]母親のクマが二歳の子グマを連れていること。
この「ウエゴツキ」は、
「ウエ・(ン)ガウ・ツキ」、UE-NGAU-TUKI(ue=push,shove,shake,affect by an incantation;ngau=bite,hurt,act upon,attack;tuki=pound,attack,piece attached to the body of a canoe to lengthen it)、「(子離れのために親が子を)押して・突き放す(年齢に達した子グマを)・(身体に付けて)連れている」(「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]狩り場の受手に位置するマタギ。
この「ウケ」は、
「ウ・ケ」、U-KE(u=be firm,be fixed,reach the land;ke=different,strange,contrariwise,otherwise than one expected)、「(狩り場で追手が追う方向と)反対側に・位置する(マタギ)」
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]クマの二歳子。
この「ウゲ」は、
「ウ・(ン)ガイ」、U-NGAI(u=be firm,be fixed,reach the land;bgai=tribe or clan,to indicate a group of persons)、「(親離れの年齢)二歳に達したグルーブに・属する(子グマ)」(「(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ゲ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]ウサギの骨を生大豆といっしょに金槌でつぶし、栗の大きさに丸めて煮た料理。
この「ウサギタマ」、「ウサギタタキ」は、
「ウタ・ア(ン)ギ・タハ・マハ」、UTA-ANGI-TAHA-MAHA(uta=the land,the inland;angi=free without hindrance,move freely;taha=calabash with a narrow,mouth;maha=gratified,satisfied)、「内陸の地を・自由に動き回る(動物。うさぎ。うさぎを材料とした料理)で・(満足した)丸々とした・瓢箪のような(丸い玉状の)もの」(「ウタ」の語尾のA音と「ア(ン)ギ」の語頭のA音が連結し、NG音がG音に変化して「ウタギ」から「ウサギ」と、「タハ・マハ」のH音が脱落して「タ・マ」となった)
「ウタ・ア(ン)ギ・タタ・キ」、UTA-ANGI-TATA-KI(uta=the land,the inland;angi=free without hindrance,move freely;tata=dash down,beat down,strike repeatedly;ki=full,very)、「内陸の地を・自由に動き回る(動物。うさぎ。うさぎを材料とした料理)で・十分に・叩いて作ったもの」(「ウタ」の語尾のA音と「ア(ン)ギ」の語頭のA音が連結し、NG音がG音に変化して「ウタギ」から「ウサギ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]牛の胃。牛の胃を乾燥したものを削って腹痛の薬としました。
[仙北]小便する。
この「ウジワカヘダル」は、
「ウチ・ワカヘ・タハ・アル」、UTI-WHAKAHE-TAHA-ARU(uti,utiuti=annoy,worry;whakahe=cause to go astray,find fault with,condemn;taha=calabash;aru=follow,pursue)、「思い悩んで・うろうろと・(瓢箪の)溲瓶を・探す(溲瓶に小用を足す)」(「タハ」のH音が脱落して「タ」となり、その語尾のA音と「アル」の語頭のA音が連結して「タル」から「ダル」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]内臓。
この「ウチ」は、
「ウチ」、UTI(=utiuti=annoy,worry)、「(始末するのに)悩むもの(内臓)」
または「ウ・チ」、U-TI(u=be firm,be fixed,reach its limit;ti=throw,cast)、「(利用することも売ることもできないので)捨てることに・決まっているもの(内臓)」(「チヒチヒ」の反覆語尾が脱落し、H音が脱落して「チ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]クマが春になって冬眠の穴から出る前に、何回となく穴の外へ出たり入ったりして足をならすこと。
この「ウチヅミ」は、
「ウチ・ツ・フミ」、UTI-TU-UMI(uti,utiuti=annoy,worry;tu=fight with,energetic;humi=abundant,abundance)、「(冬眠で弱った足を)心配して・何回となく・(懸命に)足慣らしをする」(「ツ」が「ヅ」と、「フミ」のH音が脱落して「ミ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]ご飯をたくこと。
この「ウツカシ」は、
「ウ・ツ・カチ」、U-TU-KATI(u=be firm,be fixed,reach its limit;tu=fight with,energetic;kati=bite,nip(kakati=bite,eat,gnaw))、「(米が)食べられる・状態に達するまで・懸命に加熱する」(「カチ」が「カシ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]うるち(粳米)。
この「うるふ」は、
「ウル・プ」、URU-PU(uru=enter,possess as a familiar spirit,associate oneself with;pu=tribe,bundle,make into a bundle or ball)、「(飯粒が)まとまって・(玉のような)握り飯になるもの(うるち米)」(「プ」のP音がF音を経てH音に変化して「フ」となった)
の転訛と解します。
「エ」
[阿仁]鶏。
この「エカネハムシ」は、
「エ・カネ・ハムチ」、E-KANE-HAMUTI(e=to denote action in progress or temporary condition,expressing surprise,to give emphasis;kane=choke;hamuti=human excrement,privy)、「なんと・人の(排泄物)屁で・窒息してしまうやつ(鶏)」(「ハムチ」が「ハムシ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]081イリカガリに同じ。
この「エガケ」は、
「エ・カカイ」、E-KAKAI(e=to denote action in progress or temporary condition,expressing surprise,to give emphasis;kakai-frequentative)、「(クマが冬眠の前に)かならず・(毎回)反覆して行うこと(穴の前の木に噛み跡を残すこと)」(「カカイ」のAI音がE音に変化して「カケ」から「ガケ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]焚き火すること。
この「エキシコダテル」は、
「エキ・チコ・タタイ・ル」、EKI-TIKO-TATAI-RU(eki,ekieki=high,lofty;tiko=stand out,protrude;tatai=measure,arrange,adorn;ru=shake,agitate,scatter)、「(炎が)高く・燃え上がるのを・調節しながら・(火をかきたてる)焚き火をする」(「チコ」が「シコ」と、「タタイ」のAI音がE音に変化して「タテ」から「ダテ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]雪面の裂け目。
この「エギレ」は、
「エ・キヒ・レイ」、E-KIHI-REI(e=to denote action in progress or temporary condition,expressing surprise,to give emphasis;kihi=cut off,destroy completely;rei=leap,rush,run)、「(なんと)すごい・(雪面の)切れた・断層」(「キヒ」のH音が脱落して「キ」から「ギ」と、「レイ」が「レ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]クマが穴入り近くなって、ヒメコマツの下の樹脂の強い部分を食べること。これによって冬眠中、糞が出ないようにヤニ詰めをするといわれています。
この「エグイ」は、
「エ・クヒ」、E-KUHI(e=to denote action in progress or temporary condition,expressing surprise,to give emphasis;kuhi=insert)、「なんと・(冬眠中糞がでないように)ヤニを腹中に入れる」(「クヒ」のH音が脱落して「クイ」から「グイ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]火。
この「エゲ」は、
「エ・カイ」、E-KAI(e=to denote action in progress or temporary condition,expressing surprise,to give emphasis;kai=consume,eat,food)、「なんと・(燃えて)消耗し尽くすもの(火)」(「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」から「ゲ」となった)
の転訛と解します。
[雄勝]鷹の餌づけ。
この「エサヅケ」は、
「エ・タツ・カイ」、E-TATU-KAI(e=to denote action in progress or temporary condition,expressing surprise,to give emphasis;tatu=reach the bottom,be at ease,be content;kai=consume,eat,food)、「なんと・食べ物に・満足する(餌付け)」(「タツ」が「サヅ」と、「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海・雄勝・岩手]冬眠する前後、穴から遠くない所に、柴などを折り曲げて、クマが毛を干す場所をつくること。エズミについては、019アキエジミ・アキエズミの項を参照してください。
この「エズミカク」は、
「エ・ツ・ミミ・カク」、E-TU-MIMI-KAKU(e=to denote action in progress or temporary condition;tu=stand,settle;mimi=urine,stream;kaku=scrape up,scoop up,bruise,shred)、「(乳児をそこに)置いて・おしっこをさせて・おく(容器・籠。それに似た熊の休息場所を)・(柴を)敷き詰めてつくる」(「ツ」が「ズ」と、「ミミ」の反覆語尾が脱落して「ミ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]蝦夷葱。ギョウジャニンニク。
この「エゾネギ」は、
「エト・ネイ・キヒ」、ETO-NEI-KIHI(eto=lean,attenuated;nei,neinei=stretch forwards;(Hawaii)kihi=edge,tip,sharp point of a leaf)、「肥沃でない土地に生えている・(葉の)先が鋭く尖って・伸びている(葱。ギョウジャニンニク)」(「エト」が「エゾ」と、「ネイ」が「ネ」と、「キヒ」のH音が脱落して「キ」から「ギ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]クマの四肢。
この「エダ」、「エンダ」は、
「エ・タ」、E-TA(e=to denote action in progress or temporary condition;ta=dash,beat,lay)、「(それで人に)打撃を・加えるもの(クマの四肢)」(「タ」が「ダ」となった)
「エ(ン)ガ・タ」、ENGA-TA(enga=anxiety;ta=dash,beat,lay)、「(それで人に)打撃を与えることを・心配するもの(クマの四肢)」(「エ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「エナ」から「エン」と、「タ」が「ダ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]江戸疱瘡。梅毒。
[雄勝]鷹にやる餌を入れる箱。
この「エバコ」は、
「エパ・コ」、EPA-KO(epa=pelt,throw,cast;ko=of place,at,to)、「(鷹の餌を)そこへ・放り込む(箱。餌箱)」(「エパ」が「エバ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・岩手]サル。
この「エビス」は、
「エ・ピヒ・ツ」、E-PIHI-TU(e=to denote action in progress or temporary condition,expressing surprise,to give emphasis;pihi=spring up,begin to grow,shoot,sprout;tu=fight with,energetic)、「(怒ると)顔を真っ赤ににして飛び上がつて・向かってくる・習性がある(動物。猿)」(「ピヒ」のH音が脱落して「ビ」と、「ツ」が「ス」となった)
の転訛と解します。
[仙北]獲物の体内に入っている鉄砲のタマ。
この「エビスタマ」は、
「エ・ピヒ・ツ・タハ・マハ」、E-PIHI-TU-TAHA-MAHA(e=to denote action in progress or temporary condition,expressing surprise,to give emphasis;pihi=spring up,begin to grow,shoot,sprout;tu=fight with,energetic,stand,settle;taha=calabash with a narrow,mouth;maha=gratified,satisfied)、「実に・(鉄砲で)撃たれて・(体内に)止まっている・(満足した)丸々とした・瓢箪のような(丸い玉状の)もの(鉄砲のタマ)」(「ピヒ」のH音が脱落して「ビ」と、「ツ」が「ス」と、「タハ・マハ」のH音が脱落して「タ・マ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]クマのよくいる場所。
この「エビスバ」は、
「エ・ピヒ・ツパ」、E-PIHI-TUPA(e=to denote action in progress or temporary condition,expressing surprise,to give emphasis;pihi=spring up,begin to grow,shoot,sprout;tupa=dried up,rough,barren,flat)、「(クマがよく居るのでクマを見つけて)撃つことが・できる・荒れ地(場所)」(「ピヒ」のH音が脱落して「ビ」と、「ツパ」が「スバ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]小刀。
この「エムシ」は、
「エ・ムフ・ウチ」、E-MUHU-UTI(e=to denote action in progress or temporary condition,expressing surprise,to give emphasis;muhu=grope,push one's way through bushes,eyc.;uti=bite)、「藪に入って・(竹木を)切り・倒す(道具・小刀)」(「ムフ」のH音が脱落して「ム」となり、その語尾のU音と「ウチ」の語頭のU音が連結して「ムチ」から「ムシ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]二、三日以上野宿するクマ狩りに携行する煎り豆。
この「エリマメ」は、
「ヘリ・マハ・メハ」、HERI-MAHA-MEHA(heri=carry;maha=many,abundant;meha=apart,separate)、「(クマ狩りに)携行する・多数・(莢から)分離した(穀物。煎り豆)」(「ヘリ」・「マハ」・「メハ」のH音が脱落して「エリ・マ・メ」となつた)
の転訛と解します。
「オ」
[仙北]カモシカやクマを追って捕らえること。
この「オイドリ」は、
「オイ・タウリ」、OI-TAURI(oi=shout,shudder,move continuously,agitate;tauri=band,bind,secure with a fillet)、「叫び声をあげて(獣を追って)・捕らえて縛り上げる」(「タウリ」のAU音がO音に変化して「トリ」から「ドリ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]狼。阿仁地方では、117オオノジともいいます。
この「オイノ」、「オイヌ」は、
「オイ・(ン)ガウ」、OI-NGAU(oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ngau=bite,hurt,attack)、「うなり声をあげて・襲ってくる(動物。狼)」(「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」となった)
「オイ・(ン)グ」、OI-NGU(oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ngu=greedy)、「うなり声をあげて・どん欲に獲物を食べる(動物。狼)」(「(ン)ガウ」のNG音がN音に変化して「ヌ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]オオカミは、畑を荒らすシカ、カモシカ、イノシシなどを捕らえてたべるので、昔は益獣とする思想があり、オオカミを益獣として祭る祭り。
この「オイノマツリ」は、
「オイ・(ン)ガウ・マ・アツ・フリ」、OI-NGAU-MA-ATU-HURI(oi=shout,shudder,move continuously,agitate;ngau=bite,hurt,attack;ma-atu=go,come;huri=turn round,overturn,overflow)、「うなり声をあげて・襲ってくる(動物。狼)の・(人が)集まって・溢れかえるもの(オオカミを祭る祭り)」(「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」と、「マ」のA音と「アツ」の語頭のA音が連結して「マツ」となったその語尾のU音と、「フリ」のH音が脱落して「ウリ」となったその語頭のU音が連結して「マツリ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]飯椀。
この「オオガツチオ」は、
「オホ(ン)ガ・ツ・チオホ」、OHONGA-TU-TIOHO(ohonga=anything which may serve to connect an incantation with the person on whom it is intended to take effect anything which he has touched etc.;tu=stand,settle,fight with,energetic;tioho=apprehensive)、「(人が手を触れたものにまじないの祈りを籠めるために)陰膳を・据えて・(人の)安全を祈るもの(飯椀)」(「オホ(ン)ガ」のH音が脱落し、NG音がG音に変化して「オオガ」と、「チオホ」のH音が脱落して「チオ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]イタヤ材の猟具の大ヘラ。大長柄。長さ118センチが定法とされます。
この「オオナギヤ」は、
「オホ・(ン)ガ(ン)ギ・イア」、OHO-NGANGI-IA(oho=spring up,wake up,arise of feelings;ngangi=cry of distress,noise;ia=indeed,rushing stream)、「気持ちを奮い立たせて・大きな声を上げながら・(獣を)素早く打つもの(大長柄)」(「オホ」のH音が脱落して「オオ」と、「(ン)ガ(ン)ギ」の最初のNG音がN音に、次のNG音がG音に変化して「ナギ」と、「イア」が「ヤ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]狼。113オイノ・オイヌともいいます。
この「オオノジ」は、
「オホ・(ン)ガウ・チ」、、OHO-NGAU-TI(oho=spring up,wake up,arise of feelings;ngau=bite,hurt,attack;ti=throw,cast,overcome)、「(獲物に)飛びかかって・噛みつき・殺す(動物。狼)」(「オホ」のH音が脱落して「オオ」と、「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」と、「チ」が「シ」から「ジ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]ミズバショウ。
この「オオバ」は、
「オホ・ワ」、OHO-WHA(oho=spring up,wake up,arise of feelings;wha=leaf,feather)、「(花が咲いた後)葉が・急に大きくなる(植物。水芭蕉)」(「オホ」のH音が脱落して「オオ」と、「ワ」のWH音がH音に変化して「ハ」から「バ」となった)
または「オホ・パパ」、OHO-PAPA(oho=spring up,wake up,arise of feelings;papa=burst,expload,break off suddenly or shortly)、「(雪解けの後)目を覚ましたように・(花および葉が)急に大きくなる(植物。水芭蕉)」(「オホ」のH音が脱落して「オオ」と、「パパ」の反覆語尾が脱落して「パ」から「バ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]カモシカの胃袋。
この「オオマメ」は、
「オホ・マハ・メハ」、OHO-MAHA-MEHA(oho=start from fear etc.,wake up,arise;maha=many,abundant;meha=apart,separate)、「(立ち上がつた)大きくなった・多数・(莢から)分離した(豆のような。内臓。胃袋)」(「オホ」・「マハ」・「メハ」のH音が脱落して「オオ・マ・メ」となつた)
の転訛と解します。
[鳥海]飯椀。
この「オカツサー」は、
「オ・カハ・ツ・タハ」、O-KAHA-TU-TAHA(o=the...of,of,belonging to;kaha=rope,lashings of a attached sides of a canoe;tu=stand,settle;taha=side,margin,edge)、「例の・(カヌーの波よけ板のような)板が・周囲を・囲んでいるもの(飯椀)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「タハ」のH音が脱落して「タア」から「サー」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]お膳。
この「オカツソーダイ」は、
「オ・カハ・ツ・タウ・タヰ」、O-KAHA-TU-TAU-TAWHI(o=the...of,of,belonging to;kaha=surface,garment;tu=stand,settle;tau=come to rest,settle down,be suitable;tawhi=hold,suppress,food)、「例の・(板の)表面に・食物を・ほどよく・並べるもの(お膳)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」から「ソー」と、「タヰ」が「ダイ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]動物の死(阿仁)。葬いの祭り(仙北)。
この「オカベル」は、
「オ・カハ・パイルア」、O-KAHA-PAIRUA(o=the...of,of,belonging to;kaha=a general term for several charms used when fishing or snaring birds etc.;pairua=nausea,feeling of disgust)、「例の・(狩猟の際の)呪文を唱える行事で・嫌な気分になるもの(動物の死または葬いの祭り)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「パイルア」のAI音がE音に変化し、語尾のA音が脱落して「ペル」から「ベル」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]クマをとったとき、村落で行う祭り。
この「オカベロナエ」は、
「オ・カハ・パイ・ラウ・ナエ」、O-KAHA-PAI-RAU-NAE(o=the...of,of,belonging to;kaha=a general term for several charms used when fishing or snaring birds etc.;pai=good,excellent,suitable,pleasant;rau=hundred,multitude;nae,naenae=failing of breath)、「例の・(狩猟の際の)呪文を唱える行事で・楽しいことが・いっぱいで・思わず息をのむもの(クマをとったとき、村落で行う祭り)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「パイ」のAI音がE音に変化し「ペ」から「ベ」と、「ラウ」のAU音がO音に変化し「ロ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]オコゼ。マタギはこの乾燥した魚を紙に包んで山小屋へ持参し、この魚を山の神様へ供え、豊猟を祈ります。
この「オクズ」は、
「オク・ツ」、OKU-TU((Hawaii)oku=to stand erect,protrude,to wield with vigor,horrified;tu=stand,settle,fight with,energetic)、「恐ろしい・(懸命に)元気に猟ができるようさせてくれるもの(まじないの品)」(「ツ」が「ズ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]三歳以上のクマ。
この「オクビ」は、
「オク・ピ」、OKU-PI((Hawaii)oku=to stand erect,protrude,to wield with vigor,horrified;pi=eye)、「恐ろしい・目をしたもの(三歳以上のクマ)」(「ピ」が「ビ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]山の神に捧げるため、山に入るマタギが必ず持って行った海魚のオコゼの干したもの。
この「オコゼ」、「オコズ」は、
「オ・コテ」、O-KOTE(o=the...of,of,belonging to;kote=crush,a form of incantation for bewitching)、「例の・まじないをかけるために用いる呪物」(「コテ」が「コゼ」となった)
「オ・コツア」、O-KOTUA(o=the...of,of,belonging to;kotua=a class of ill omen,ill luck)、「例の・嫌な予感がするもの」(「コツア」の語尾のA音が脱落して「コズ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]狩の勢子。
この「オシゴ」は、
「オ・チヒ・コ」、O-TIHI-KO(o=the...of,of,belonging to;tihi=sough,moan(tihitihi=make a gentle rustling sound,trifling);ko=addressing girls and males)、「例の・(獣を追い立てる)音を立てる・人々(勢子)」(「チヒ」のH音が脱落して「シ」と、「コ」か「ゴ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]鳥海マタギの山小屋作法の一つで、オソは口笛、口笛を一吹きして、「トウダイ山の神様、きょうも幸をくだされ。」と唱えること。
この「オソヲタテル」、「トウダイヤマ」は、
「オ・タウ・ワウ・タテ・ル」、O-TAU-WAU-TATE-RU(o=the...of,of,belonging to;tau=sing,bark;wau=I,me,make a noise,discuss;tate,tatetate=rattle,make any sharp recurring noise,tick;ru=shake,agitate,scatter)、「例の・私が・(吠えるように)口笛を吹き・奮って・(鋭く繰り返す)呪文を唱える」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ソ」と、「ワウ」のAU音がO音に変化して「ヲ」となった)
「タウタイ・イア・マ」、TAUTAI-IA-MA(tautai=(Hawaii)kaukai=to depend on,one depend on;ia=indeed;ma=white,clean)、「(マタギが)頼りにしている・実に・清らかな(山の。神様)」(「タウタイ」のAU音がOU音に変化して「トウダイ」と、「イア」が「ヤ」となつた)
の転訛と解します。
[阿仁]口笛をふくこと。
この「オソビキ」は、
「オ・タウ・ヒキ」、O-TAU-HIKI(o=the...of,of,belonging to;tau=sing,bark;hiki=lift up,take away,recite the charm hiki(a charm for raising anything from the water or to free the hands from tapu etc.))、「例の・(穢れを祓う)まじないの・(吠えるように吹く)口笛」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ソ」と、「ヒキ」が「ビキ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・岩手]長さ3.7メートル、高さ・幅とも各1.2メートルの木で組み立て、この上に重さ1125キロ以上の石を積み上げてつくる釣り天井式のクマの圧殺装置。
この「オトシヒラ」、「オトシマエ」は、
「アウト・チ・ヒラ」、AUTO-TI-HIRA(auto=trailing behind,slow,drag out;ti=throw,cast,overcome;hira=numerous,abundant,widespread)、「(クマの動きに)引かれて・大量の(石が)・落ちてクマを殺す(装置)」(「アウト」のAU音がO音に変化して「オト」と、「チ」が「シ」となった)
「アウト・チ・マエ」、AUTO-TI-MAE(auto=trailing behind,slow,drag out;ti=throw,cast,overcome;mae=languid,listless,withered,struck with astonishment)、「(クマの動きに)引かれて・びっくりするほど・(大量の石が)落ちてクマを殺す(装置)」(「アウト」のAU音がO音に変化して「オト」と、「チ」が「シ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]山の絶頂から下方へカモシカを追い落とすこと。
この「オトシマエ」は、
「アウト・チ・マエ」、AUTO-TI-MAE(auto=trailing behind,slow,drag out;ti=throw,cast,overcome;mae=languid,listless,withered,struck with astonishment)、「(カモシカの)後ろを追って・びっくりするほど・(高い山の絶頂から下方へ)落とすこと」(「アウト」のAU音がO音に変化して「オト」と、「チ」が「シ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]斧。
この「オニカミ」は、
「オニ・カミ」、ONI-KAMI(oni=move,wriggle;kami=eat)、「(動いて)打撃を加えて・(食べる)破壊する(道具。斧)」
の転訛と解します。
[阿仁]鉄漿。御歯黒。マタギの妻女は、夫が山に入るマエ、オハグロを一切つけず、また男にそれを見せなかったといいます。
この「オハグロ」は、
「オ・パ・ク・ロ」、O-PA-KU-RO(o=the...of,of,belonging to;pa=stockade,fortified place;ku=firm,stiff,thickened;ro=roto=inside)、「例の・(集落の周囲に巡らされた柵のような)歯を・深い(闇の)・中のように(黒く染めるもの。また染めること。お歯黒)」(「パ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハ」と、「ク」が「グ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]クマの子宮。
この「オビ」は、
「オ・ピ」、O-PI(o=the...of,of,belonging to;pi=flow of the tide,source,origin(pihi=spring up,begin to grow,shoot,sprout))、「例の・(クマの子の)発生(するところ。子宮)」(「ピ」が「ビ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]山奥から外を指して表といった。
この「オモテ」は、
「オモ・タエ」、OMO-TAE((Hawaii)omo=lid,cover,plug,cork;tae=arrive,reach,extend to)、「(カバーするもの)外側を・延長したもの(表)」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]クマが枝を折って実を食べること。
この「オリバミ」は、
「ホリ・ハムハム」、HORI-HAMUHAMU(hori=cut,slit;hamuhamu=eat scraps of food)、「(木の枝を)折って・(ばらばらの)実を集めて食べる」(「ホリ」のH音が脱落して「オリ」と、「ハムハム」の反覆語尾が脱落し、語尾のU音がI音に変化して「ハミ」から「バミ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]山の頂きから下に向かってクマを追い落として射止めようとする狩り方で、射手は山の下に待っているクマ巻き狩りのこと。
この「オロシマキ」は、
「オロ・チ・マ・アキ」、ORO-TI-MA-AKI(oro=rumble,sound;ti=throw,cast,overcome;ma=go,come;aki=abut on)、「声や音を・出しながら・(勢子が)相接して・進む(クマなどを追い出す巻き狩り)」(「チ」が「シ」と、「マ」のA音と「アキ」の語頭のA音が連結して「マキ」となった)
の転訛と解します。
「カ」
[鳥海]火をつけること。
この「カエドキ」は、
「カ・エト・オキ」、KA-ETO-OKI(ka=take fire,be lighted,burn;eto=lean,attenuated;(Hawaii)oki=to stop,finish,end)、「火の・勢いが弱くなったのを・(おしまいにする)再び強くする(火をつける)」(「エト」が「エド」となり、その語尾のO音と「オキ」の語頭のO音が連結して「エドキ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]峠の老木の枝に多い鉤をかけたような枝を山の神のカギカケとかハタテといい、山仕事や狩に入る者が鉤のある枝を切ってこれを大木にかけて山の幸を祈ったといいます。また、菅江真澄『雪の道奥』には「カンカケ」とあります。
この(1)「カギカケ」、(2)「ハタテ」、(3)「カンカケ」は、
(1)「カハ・ア(ン)ギ・カケ」、KAHA-ANGI-KAKE(kaha=strong,strength,rope,edge,a general term for several charms used when fishing or snaring birds etc.;angi=free,move freely,something connected with the descent to the subterranean spirit world;kake=ascend,climb upon,be superor to)、「(山での狩りの)無事を祈る・呪文を唱える(ことと言葉の音が通ずる木の枝を)・高木に懸ける」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となり、その語尾のA音と「ア(ン)ギ」のNG音がG音に変化して「アギ」となったその語尾のA音が連結して「カギ」となった)
(2)「パタ・タイ」、PATA-TAI(pata=drop of water etc.,cause,fruit;tai=tide,wave,dash,knock,perform certain ceremonies to remove tapu etc.)、「(吹き流しの)幡(はた)が・風に揺れている(ような高木に懸けられた木の枝)」(「パタ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハタ」と、「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」となった)
(3)((1)と同じ。「ア(ン)ギ」のNG音がG音でなくN音に変化した。)「カハ・ア(ン)ギ・カケ」、KAHA-ANGI-KAKE(kaha=strong,strength,rope,edge,a general term for several charms used when fishing or snaring birds etc.;angi=free,move freely,something connected with the descent to the subterranean spirit world;kake=ascend,climb upon,be superor to)、「(山での狩りの)無事を祈る・呪文を唱える(ことと言葉の音が通ずる木の枝を)・高木に懸ける」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となり、その語尾のA音と「ア(ン)ギ」のNG音がN音に変化して「アニ」となったその語尾のA音が連結して「カニ」から「カン」となった)
の転訛と解します。
[仙北]谷間のゼンマイ。
この「カグマ」は、
「カハ・クマ」、KAHA-KUMA(kaha=a general term for several charms used when fishing or snaring birds etc.,some apparatus in the tuahu(a sacred place consisting of an enclosure containing a mound and marked by the erection of rods or poles);(Hawaii)kuma=cracking of the skin between fingers and toes)、「(手指の間のような)谷間に生えている・(聖地を表示する柱や棒にも似た)ゼンマイ(の茎)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「クマ」が「グマ」となった)
の転訛と解します。
[雄勝]初マタギの参加を祝う儀式。
この「カクライワイ」は、
「カ・クラ・イ・ワヒ」、KA-KURA-I-WAHI(ka=to denote the commencement of a new action or condition;kura=red,ornamented with red feathers,treasure;i=past tense,beside,by reason of;wahi=break,break through,disclose)、「(雛が殻を破るように)一人前のマタギと・なって・新たに・(マタギであることを示す赤い羽根など)表示を付ける(初参加を祝う儀式)」(「ワヒ」のH音が脱落して「ワイ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・雄勝]山の神。
この「カクラサン」、「カクサマ」は、
「カク・ラ・タナ」、KAKU-RA-TANA((Hawaii)kaku=kakuai=to sacrifice food to the gods,to feed the spirits of the dead;ra=there,yonder;tana=his,her)、「あの遠く(山の中)に居る・生け贄の供物を捧げる(ことを要求する)神で・彼の(尊崇すべき)者」(「タナ」が「サン」となった)
「カク・タ・マ」、KAKU-TA-MA((Hawaii)kaku=kakuai=to sacrifice food to the gods,to feed the spirits of the dead;ta=dash,beat,lay;ma=white,clean)、「生け贄の供物を捧げる(ことを要求する)神で・清らかに・座すもの(尊崇すべき対象。様)」(「タ」が「サ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]山の神の祭り。旧暦11月に行われます。
この「カクラマツリ」は、
「カク・ラ・マ・アツ・フリ」、KAKU-RA-MA-ATU-HURI((Hawaii)kaku=kakuai=to sacrifice food to the gods,to feed the spirits of the dead;ma-atu=go,come;huri=turn round,overturn,overflow)、「あの遠く(山の中)に居る・生け贄の供物を捧げる(ことを要求する)神の・(人が)集まって・溢れかえるもの(山の神を祭る祭り)」(「マ」のA音と「アツ」の語頭のA音が連結して「マツ」となったその語尾のU音と、「フリ」のH音が脱落して「ウリ」となったその語頭のU音が連結して「マツリ」となった)
の転訛と解します。
[雄勝]鷹を留める手袋。タカノモドリともいいます。
この「カケ」、「タカノモドリ」は、
「カケ」、KAKE(the stay supporting the perch in a pewa(the perch of a form of bird snare))、「(鳥の)止まり木の支柱(鷹を止める手袋)」
「タ・アカ・ノ・マウ・タウリ」、TA-AKA-NO-MAU-TAURI(ta=the...of,dash,beat,lay;aka=clean off,scrape away;no=of;mau=fixed,continuing,caught;tauri=band,bind,secure with a fillet)、「素早く舞い降りて・(獲物を)浚ってゆく(鳥。鷹)・の・止まる・(人の腕を保護するための布を巻いた)止まり木(に相当するもの。鷹を留める手袋)」(「タ」のA音と「アカ」の語頭のA音が連結して「タカ」と、「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」と、「タウリ」のAU音がO音に変化して「トリ」から「ドリ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]クマの皮を剥いで、それを乾かし張るときの外枠板。
この「カケイタ」は、
「カケ・イタ」、KAKE-ITA(kake=ascend,beat to windward in sailing;ita=tight,fast)、「(クマの皮を)しっかりと張り延ばして・風に当てて乾かすもの(外枠板)」
の転訛と解します。
[鳥海]ワラでツトを作り、鳥の尻尾で荒い網目にし、内側に木の実を撒いておき、小鳥類を捕らえるもの。また、漬け物をいう。
この「カケス」は、
「カケ・ツ」、KAKE-TU(kake=ascend,beat to windward in sailing;tu=stand,settle)、「風に逆らって進もうとしているが・進めないでいる状態にあるもの(脱出しようとしても動けない小鳥のわな。腐敗しない状態の食物。漬け物)」(「ツ」が「ス」となった)
または「カケツ」、KAKETU(half-cock of a gun,used figuratively for remaining quiet or unmoved)、「(半打ちの鉄砲のような)静かに動かない状態のもの(小鳥のわな。漬け物)」(「カケツ」が「カケス」となった)
の転訛と解します。
[岩手]掛守袋。ネルの布で作った袋の中にお守りをいれて、下着の上から肩にかけておく。
この「カケマモリブクロ」は、
「カケ・マ・モリ・プク・ロ」、KAKE-MA-MORI-PUKU-RO(kake=ascend,beat to windward in sailing;ma=white,clean;mori=fondle,caress;puku=swelling,affections,memory,secretry)、「(肩に)懸ける・清らかな・(人を)保護する・秘密のもの(掛守袋)」(「プク」が「ブク」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]鹿。
この「カゴ」は、
「カカウ」、KAKAU(swim)、「(良く)泳ぐ(動物。鹿)」(AU音がO音に変化して「カコ」から「カゴ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]椀蓋のような木皿。
この「カサゴ」は、
「カタ・(ン)ガウ」、KATA-NGAU(kata=laugh,open culum of univulve molluscs;ngau=bite,hurt,attack)、「口を開いた(一枚貝の)貝殻を・(加工した)形を整えたような(食器。椀蓋のような木皿)」(「カタ」が「カサ」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]クマの頭の皮で作ったカバンのような袋。
この「ガサイレ」は、
「(ン)ガタ・イ・レイ」、NGATA-I-REI(ngata=snail,slug,anything small;i=past tense,beside,with,by,at,in;rei=leap,rush,run)、「(小さい)ちょっとした物を・そこに・放り込むもの(物入れ袋)」(「(ン)ガタ」のNG音がG音に変化して「ガタ」から「ガサ」と、「レイ」の語尾のI音が脱落して「レ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]山の下の方。
この「カシモ」は、
「カ・チ・モフ」、KA-TI~MOHU(ka=take fire,be lighted,burn;ti=throw,cast,overcome;mohu=smoulder)、「火を・ (灰や土の)下に埋め・込む(ように。下の方向)」(「チ」ガ「シ」と、「モフ」のH音が脱落して「モ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]クマが樹木の幹を上から下へ向かってかじっている跡をいい、この跡があるとクマはその近くの穴にいるといわれています。阿仁・仙北では「カガリ」・「081イリカガリ」といいます。
この「カジリ」、「カガリ」は、
「カチ・イリ」、KATI-IRI(kati=bite,nip;iri=be elevated on something,hang)、「噛んだ(傷跡を)・(木の上の方に)付ける(傷跡)」(「カチ」のI音と「イリ」の語頭のI音が連結して「カチリ」から「カジリむとなった)
「カカリ」、KAKARI(=kari=dig,cleave,wound)、「噛んだ傷跡」(「カカリ」が「カガリ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]酒。また濁酒。(この「ワッカ」をアイヌ語(wakka 水)と解する説もありますが、他のマタギ語がすべて縄文語であるのに、これだけがアイヌ語というのはあまりにも不自然です。これに対応する縄文語があるかぎりは、縄文語と解すべきものと考えます。)
この「カスケワッカ」は、
[縄文語]「カ・ツ・ケ・ウア・カハ」、KA-TU-KE-UA-KAHA(ka=take fire,be lighted,burn;tu=fight with,energetic;ke=different,strange;ua=rain;kaha=strong,strength,persistency)、「(飲むと)奇妙に・(身体が)躍起になつて・燃えるように暑くなる・まとまった・雨のような(水の様な液体。酒。濁酒)」(「ツ」が「ス」と、「ウア」が「ワッ」と、「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)
または[アイヌ語]「カス・ケ・ワッカ」、(Aynu)KAS(上を越す)-KE(自動詞をつくる)-WAKKA(水)、「(水の)上を越えて・(別のもの)になった・水(酒。濁酒)」
の転訛と解します。
[阿仁]カタワになった雄ザル。
この「カタワ」は、
「カタ・ワ」、KATA-WA(kata=laugh,laugh at;wa=so-and-so)、「笑われ者になっている・野郎」
または「カ・タウア」、KA-TAUA(ka=to introduce a condition;taua,tautaua=inactivity,coward)、「臆病者(または小心者)・となっている奴」(「タウア」が「タワ」となつた)
の転訛と解します。
[阿仁]食器類。
この「カチヨ」は、
「カチ・イオ」、KATI-IO(kati=bite,nip;(Hawaii)io=bundle or food package)、「食物の塊を・(各人に)切り分けて置くもの(食器類)」(「イオ」が「ヨ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]着る。「カツグ」は、国語篇(その十四)の052かぶる(被る)の項を参照してください。
この「カツグ」は、
「カハ・ツ・(ン)グ」、KAHA-TU-NGU(kaha=surface,garment;tu=stand,be erect,settle;ngu=silent)、「衣類(または覆い)を・黙って・持ち上げて(体の上に)置く(着る)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「(ン)グ」のNG音がG音に変化して「グ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]着る。
この「カツケヨ」は、
「カハ・ツ・ケイ・アウ」、KAHA-TU-KEI-AU(kaha=surface,garment;tu=stand,be erect,settle;kei=at,on,in,with,in possession of;au=firm,intense)、「衣類(または覆い)を・体の上に・しっかりと・置く(着る)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」となり、「ケイ・オ」が「ケヨ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]膳。
この「カツソーダイ」は、
「カハ・ツ・タウ・タヰ」、KAHA-TU-TAU-TAWHI(kaha=surface,garment;tu=stand,settle;tau=come to rest,settle down,be suitable;tawhi=hold,suppress,food)、「(板の)表面に・食物を・ほどよく・並べるもの(お膳)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」から「ソー」と、「タヰ」が「ダイ」となった)
の転訛と解します。
[平賀]マタギハカマ(ズボン)。クロコという黒染めです。
この「カツタチ」、「クロコ」は、
「カハ・ツ・タ・アチ」、KAHA-TU-TA-ATI(kaha=surface,garment;tu=stand,settle;ta=dash,beat,lay;ati=offspring,descendant,clan)、「上着に・(子供のような)足(の部分)が・飛び出して・付いているもの」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「タ」のA音が「アチ」の語頭のA音と連結して「タチ」となった)
「クロア・カウ」、KULOA-KAU((Hawaii)kuloa=name of the lengthly ceremonies on the night;kau=alone,bare,only)、「夜も更けた(漆黒の闇のような)・ただ一色の」(「クロア」の語尾のA音が脱落して「クロ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]椀。
この「カツチオ」は、
「カハ・ツ・チ・アウ」、KAHA-TU-TI-AU(kaha=surface,garment;tu=stand,settle;ti=throw,cast;au=firm,intense)、「(膳の)表面に・しっかりと・投げだして・置くもの(椀)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「アウ」のAU音がOU音に変化して「オ」となった)
の転訛と解します。
[雄勝]奥山。鷹の狩り場。
この「カツチヤマ」は、
「カツア・チ・イア・マ」、KATUA-TI-IA-MA(katua=fyll-grown or adult of animals,full-grown animal or bird;ti=throw,cast,overcome;ia=indeed,ma=white,clean)、「成獣や成鳥を・狩る・実に・清らかな場所(山。奥山。鷹の狩り場)」(「カツア」の語尾のA音が脱落して「カツ」と、「イア」が「ヤ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]山奥。
この「カツツ」は、
「カツア・ツ」、KATUA-TU(katua=fyll-grown or adult of animals,full-grown animal or bird;tu=stand,settle)、「成獣や成鳥が・居る場所(奥山)」(「カツア」の語尾のA音が脱落して「カツ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]マタギが山に携行する食糧。168カネモチという餅で、月天子表といい、楕円形に作ります。
この「ガツテンホフ」は、
「(ン)ガツ・テ(ン)ガ・パウフ」、NGATU-TENGA-PAUHU(ngatu=crushed,mashed;tenga=goitre,distended;pauhu=slip,put off,adjourn)、「(米を)粉にして・膨らまして(餅に作り)・(長期間にわたって)食い延ばす(食糧)」(「(ン)ガツ」のNG音がG音に変化して「ガツ」と、「テ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「テナ」から「テン」と、「パウフ」のP音がF音を経てH音に、AU音がO音に変化して「ホフ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]濁酒。また、満腹すること。
この「カテモノイラズ」は、
「カ・アテテ・モノ・ヒラ・ツ」、KA-ATETE-MONO-HIRA-TU(ka=take fire,be lighted,burn;atete=oppose,treat roughly,insult,devastate;mono,monomono=odorous,odour;hira=numerous,abundant,great;tu=stand,settle)、「(加熱)調理した・粗末な・芳香のある(食物が)・大量に・ある(食物はいらない。転じて濁酒。また満腹の意)」(「カ」のA音と「アテテ」の語頭のA音が連結し、反復語尾が脱落して「カテ」と、「ヒラ」のH音が脱落して「イラ」と、「ツ」が「ズ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]小長柄で雪をかき寄せること。また、山を横に下がってくる時、小長柄で積雪の深さを探つて下りてくること。
この「カドカク」は、
「カト・カク」、KATO-KAKU(kato=pluck,break off;kaku=scrape up,scoop up,bruise)、「(雪を)さらい・かきのける」(「カト」が「カド」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]分かった。
この「カナル」は、
「カハ・(ン)ガルル」、KAHA-NGARURU(kaha=strong,strength,persistency;ngaruru=surfeited,affected with headache)、「強く・感動した(心に刻んだ)(分かった)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「(ン)ガルル」のNG音がN音に変化し、反覆語尾が脱落して「ナル」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]銭(ぜに)袋。
[阿仁・仙北]マタギたちが長期にわたって、冬山のクマ狩りに出動するとき、必ず持参する米製の非常食糧の一つ。仙北では163ガツテンホフともいいます。
この「カネモチ」は、
「カネヘ・マウ・チ」、KANEHE-MAU-TI(kanehe=trifle,desire,affection,yearning,fond;mau=food product,fixed,continuing,confined,constrained;ti=throw,cast,overcome)、「お気に入りの(なくてはならない)・(搗いた結果穀粒が圧縮されて)餅に・なる(穀物。餅)」(「カネヘ」のH音が脱落して「カネ」と、「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]狩にはく山袴。モンペの下の下口が紐でくくるようになっています。
この「ガフラ」、「モンペ」は、
「(ン)ガフ・ラ」、NGAHU-RA(ngahu=point,promontory;ra=wed)、「尖端を・結ぶもの(山袴)」(「(ン)ガフ」のNG音がG音に変化して「ガフ」となった)
「モネ・パイ」、MONE-PAI(mone,monemone=smooth,bare,without appendages;pai=good,excellent,suitable)、「(滑らかに)自由に(動けて)・すばらしいもの」(「モネ」が「モン」と、「パイ」のAI音がE音に変化して「ペ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]ガマ(蒲)で作った脛当。
この「ガマハバキ」は、
「(ン)ガ・マハ・パパ・キ」、NGA-MA-PAPA-KI(nga=satisfied,breathe;maha=many,abundant;papa=anything broad and flat and hard(papanga=site,layer);ki=full,very)、「(蒲団の綿として)好適な(ものを)・大量に(産する植物。蒲で作った)・十分に・(脛を)覆うもの(脛当)」(「(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「ガ」と、「マハ」のH音が脱落して「マ」と、「パパ」の最初のP音がF音を経てH音に変化して「ハバキ」となった)
の転訛と解します。
171カモ・デロガモ・カルカモ・アオクビ・マカモ・ヨシカモ・オナガカモ・タカブ・コガモ
[阿仁・仙北・雄勝]秋田県内に渡来し、生息するカモの総称。カモの種類には、デロガモ(カルカモ)、青クビ(マカモ)、ヨシカモ、オナガカモ、タカブ(コガモ)などがあります。
この「カモ」、「デロ(ガモ)」、「カル(カモ)」、「アオクビ」、「マ(カモ)」、「ヨシ(カモ)」、「オナガ(カモ)」、「タカブ」、「コ(ガモ))」は、
「カハ・マウ」、KAHA-MAU(kaha=strong,persistency;mau=fixed,continuing,caught,entangled,expressing feelings of horror or admiration)、「(繁殖期に)力強く(長時間)・求愛行動を行う(鳥)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)
「タイロ」、TAIRO(thicket,obstructions)、「(水辺の)草むらや葭原に巣をつくる(カモ)」(AI音がE音に変化して「テロ」から「デロ」となった)
「カ・アル」、KA-ARU(ka=to denote the commencement of a new action or condition,to introduce a condition;aru=follow,pursue)、「(親カモの)後を(子ガモが)必死でついて行く習性がある(カモ)」(「カ」のA音と「アル」の語頭のA音が連結して「カル」となった)
「アオ・クフ・ピ」、AO-KUHU-PI(ao=daytime,cloud;kuhu=thrust in,insert;pi=eye)、「眼球が・挿入されているもの(首・頸)が・(昼間の空の)青い色をした(カモ)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」となった)
「マハ」、MAHA(many,abundant,malority)、「(カモ類の中で)多数を占める種類の(カモ)」(H音が脱落して「マ」となった)
「イオ・チ」、IO-TI(io=muscle,line,spur,lock of hair,tough,hard;ti=throw,cast,overcome)、「(水辺を)占領している・(茎が)堅い(植物。葭。葭の中に巣をつくるカモ)」(「イオ」が「ヨ」と、「チ」が「シ」となった)
「オ・ナ・アカ」、O-NA-AKA(o=the...of,of,belonging to;na=by,belonging to,by reason of,by way of;aka=long and thin roots of trees or plants)、「例の・(草木の根の)長いのに・似て長い(尾羽根をもつカモ)」(「ナ」のA音と「アカ」の語頭のA音が連結して゜ナカ」から「ナガ」となった)
「タカ・プ」、TAKA-PU(taka=heap,lie in a heap;pu=tribe,bundle,heap)、「(身が危険な場合以外は水中に潜らない)常に高い所に居る(習性がある)・種類の(カモ)」(「プ」が「ブ」となった)
「カウ」、KAU(swim,wade)、「(身が危険な場合以外は水中に潜らない)泳いでばかりいる(習性がある。カモ)」(AU音がO音に変化して「コ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]氈鹿の足。解体のときカモシカの足首を乾燥して保存し、削って煎じて飲むと神経痛に効くとされます。
[阿仁]氈鹿の腹わたの味噌漬。味噌をつくるとき、カモシカの腹わたをよく洗って、味噌桶の底に袋に入れて二、三年間漬け込んだもので、珍味とされます。
[阿仁]怠け者。
この「カラセダキ」は、
「カラテテ・タキ」、KARATETE-TAKI(karatete=proud,angry;taki=take to one side,take out of the way)、「何かに夢中になって・(それを自慢する)本業をかえりみない(なまけもの)」(「カラテテ」の反覆語尾が脱落して「カラテ」から「カラセ」と、「タキ」が「ダキ」となった)
の転訛と解します。
[雄勝]狩猟でない山入りの際に鷹が緊張状態に入ること。
この「カラデ」は、
「カラテテ」、KARATETE(proud,angry)、「(タカが他の鳥類に対して身構える)緊張する」(反覆語尾が脱落して「カラテ」から「カラデ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・雄勝]狩り場。
この「カリバ」は、
「カリ・パ」、KARI-PA(kari=dig,cleave,rush along violently;pa=stockade,fortified place,anything used to close or block an open space)、「狩り場する・囲い込まれた場所(狩り場)」(「パ」が「バ」となった)
の転訛と解します。
[仙北・阿仁]獺。明治初期まで、奥羽山脈の諸河川でもしばしば見うけられましたが、昭和16年を最後に発見されていません。
この「カワウソ」は、
「カワ・ウ・タウ」、KAWA-U-TAU(kawa=reaf of rocks,channel,passage between rocks and shoals;u=be fixed,be firm;tau=come to rest,float,lie steeping in water)、「岩場や浅瀬のある水路に・住み・(捕らえた魚を一定の)休息場所で食べる(動物。かわうそ)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ソ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]獺の干物。カワウソの皮と臓物を取って乾燥し、砕いて黒焼きにして粉にして飲むと万病に効くといわれていました。
[阿仁]クマの皮を張り付けて乾燥する道具。
この「カワゲタ」は、
「カ・ワ・(ン)ガイ・タ」、KA-WHA-NGAI-TA(ka=take fire,be lighted,burn;wha=be disclosed,get abroad;ngai=tow,refuse in dressing flax;ta=dash,beat,cut,lay)、「(クマの)剥いだ皮を・引っ張って・(枠に)留めて・乾燥する(道具)」(「(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ゲ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海・雄勝]クマを解体すること。
この「カワタチ」は、
「カワ・タハ・チ」、KAWA-TAHA-TI(kawa=unpleasant to the taste,protected by the ceremonies of kawa,a class of incantation or ceremonies of connection with a new house or canoe or the birth of a child or a battle etc.;taha=side,margin,part,portion;ti=throw,cast,overcome)、「呪文を唱える特別の儀式で・(獲物を)解体して部分に・分ける(際に行うもの)」(「タハ」のH音が脱落して「タ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]皮絶ちの引導渡し。獲物の皮を剥ぐ儀式。毛祭り。また256ケボカイともいいます。
[岩手]カモシカの皮で作った足袋。
この「カワタビ」は、
「カ・ワ・タピ」、、KA-WHA-TAPI(ka=take fire,be lighted,burn;wha=be disclosed,get abroad;tapi=apply as dressings to a wound)、「(カモシカの)皮を剥いで・乾燥したもの(で作った)・(足を)保護するもの(足袋)」(「タピ」が「タビ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]川の中にいるネズミ。その皮で耳当てをこしらえ、狩猟するとき山に持って行って耳を覆っていると、よく物音が聞こえると言います。
この「カワネズミ」は、
「カワ・ネイ・ツ・フミ」、KAWA-NEI-TU-HUMI(kawa=reaf of rocks,channel,passage between rocks and shoals;nei,neinei=stretch forward,wagging,bobbing up and down;tu=fight with,energetic;humi=abundant,abundance)、「川( 岩場や浅瀬のある水路)に住む・多数が(集まって)・精力的に・はね回る(習性がある。動物)」(「ネイ」の語尾のI音が脱落して「ネ」と、「フミ」のH音が脱落して「ミ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・雄勝・岩手]雪の上を歩くときに埋まらないように工夫された履き物。
この「カンジキ」は、
「カ(ン)ガ・チキ」、KANGA-TIKI(kanga=curse,abuse,execrate;tiki=fetch,proceed to do anything)、「(雪の中を)呪文を唱えたように(すいすいと)・前進する(道具)」(「カ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「カナ」から「カン」と、「チキ」が「ジキ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]木の棒。
この「カンジヨウ」は、
「カ(ン)ガ・チホウ」、KANGA-TIHOU(kanga=curse,abuse,execrate;tihou=an implement used for cultivating)、「耕作用の穴掘り棒を・(狩猟用に)転用した棒」(「カ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「カナ」から「カン」と、「チホウ」のH音が脱落して「チオウ」かせ「ジヨウ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]甘草(かんぞう)。マタギは、山に行ったとき、甘草を採り、その根を乾燥し、赤ん坊が生まれたとき、これを含ませると「カニババ」という黒い糞を出す。母体内にいたときの胎毒だといつて必ず用いるといいます。
この「カニババ」は、
「カニニヒ・パパ」、KANINIHI-PAPA(kaninihi=steep;papa=burst,expload,break off suddenly or shortly)、「湿った・(産後に赤子の体内から)噴出したもの」(「カニニヒ」のH音および反覆語尾の「ニ」が脱落して「カニ」と、「パパ」が「ババ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]皮を剥ぐこと。
この「カンダチ」は、
「カ(ン)ガ・タハ・チ」、KANGA-TAHA-TI(kanga=curse,abuse,execrate;taha=side,margin,part,portion;ti=throw,cast,overcome)、「呪文を唱えて・(獲物を)解体して部分に・分ける(際に行う儀式)」(「カ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「カナ」から「カン」と、「タハ」のH音が脱落して「タ」から「ダ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海・岩手]カモシカが寒中岩場にいること。カンダチともいいます。
この「カンダツ」、「カンダチ」は、
「カナ・タ・アツ」、KANA-TA-ATU(kana=stare wildly,bewitch;ta=dash,beat,lay;atu=to indicate a direction or motion onwards)、「前方を・じっと見つめて・立っている」(「カナ」が「カン」と、「タ」のA音と「アツ」の語頭のA音が連結して「タツ」から「ダツ」となった)
「カナ・タ・チヒ」、KANA-TA-TIHI(kana=stare wildly,bewitch;ta=dash,beat,lay;tihi=top,summit,lie in a heap)、「(遠くを)じっと見つめて・高い場所に・立っている」(「カナ」が「カン」と、「チヒ」のH音が脱落して「チ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]寒中に二十日間から三十日間くらい狩猟をすること。
この「(寒)マタギ」は、
「マタ(ン)ギ」、MATANGI(wind,breeze)、「風(を熟知する狩人。マタギ)」(NG音がG音に変化して「マタギ」となった)(地名篇(その八)の山間民俗語彙の130またぎの項を参照してください。)
の転訛と解します。
「キ」
[仙北]硅化木。
この「キエシ」は、
「キヒ・エチ」、KIHI-ETI(kihi=strip of branches,etc.;eti=shrink,recoil)、「枝葉(を茂らせているもの。木)が・縮んだ(硬化したもの。硅化木)」(「キヒ」のH音が脱落して「キ」と、「エチ」が「エシ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]アオシシの一枚皮。
この「キカワ」は、
「キ・カ・ワ」、KI-KA-WHA(ki=full,very;ka=take fire,be lighted,burn;wha=be disclosed,get abroad)、「完全な(カモシカ一頭分の)・皮を剥いで・乾燥したもの」
の転訛と解します。
[阿仁]家。
この「キド」は、
「キ・タウ」、KI-TAU(ki=full,very;tau=come to rest,float,settle down,be suitable)、「十分に・満足して休息できる場所(家)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ド」となった)
の転訛と解します。
[仙北]木髭。194キフギと同じ。仙北マタギの山での食べ物。山で食糧不足のとき煮て食べる。木につくコケのようなもので、草ノリともいう。海ノリと味は同じといわれます。
この「キヒゲ」は、
「キヒ・(ン)ガイ」、KIHI-NGAI(kihi=cut off,strip of branches etc.;ngai=dried leaves of bulrush or flax etc.,tow,refuse in dressing flax)、「樹の枝(などに付いている)・枯れ草のようなもの(草ノリ)」(「(ン)ガイ」のAI音がE音に変化して「ゲ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]193キヒゲと同じ。
この「キフギ」は、
「キフキフ・(ン)ガイ」、KIHUKIHU-NGAI(kihukihu=fringe,thrums of a cloak;ngai=dried leaves of bulrush or flax etc.,tow,refuse in dressing flax)、「樹幹や樹枝の周縁(に付いている)・枯れ草のようなもの(草ノリ)」(「キフキフ」の反覆語尾が脱落して「キフ」と、「(ン)ガイ」のAI音がE音に変化して「ゲ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]クマの腎臓。
この「キマメ」は、
「キヒ・マハ・メハ」、KIHI-MAHA-MEHA(kihi=cut off,strip of branches etc.;maha=many,abundant;meha=apart,separate)、「(樹の枝についているように)脊柱の両側についている・多数・(莢から)分離した(穀物。豆のような形をした臓器。腎臓)」(「キヒ」・「マハ」・「メハ」のH音が脱落して「キマメ」となつた)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]クマとカモシカの肝。
この「キモ」は、
「キ・マウ」、KI-MAU(ki=full,very;mau=fixed,continuing,expressing feelings of horror or admiration,with passive termination)、「全く・(人と同じく動物が感ずる恐怖や賛嘆などの)感情や度胸を司る臓器(肝)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]杖をかねた雪かき。阿仁・仙北マタギの小長柄のこと。
この「キヤシギ」は、
「キヒ・イア・チキ」、KIHI-IA-TIKI(kihi=cut off,strip of branches etc.;ia=indeed;tiki=fetch,proceed to do anything)、「(木の枝の)杖で・実に・(雪をかいて)前進するもの」(「キヒ」のH音が脱落して「キ」と、「イア」ガ「ヤ」と、「チキ」が「シギ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]清酒。(この「ワカ」をアイヌ語(ワッカ wakka 水)と解する説もありますが、他のマタギ語がすべて縄文語であるのに、これだけがアイヌ語というのはあまりにも不自然です。これに対応する縄文語があるかぎりは、縄文語と解すべきものと考えます。153カスケワッカの項を参照してください。)
この「キヨワカ」は、
[縄文語]「キ・イホ・ウア・カハ」、KI-IHO-UA-KAHA(ki=full,very;iho=up above,from above;ua=rain;kaha=strong,strength,persistency)、「まとまった・雨のような(水の様な液体)の・はるかに・高級なもの(酒。濁酒)」(「イホ」のH音が脱落して「イオ」となり、「キ・イオ」が「キヨ」と、「ウア」が「ワ」と、「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)
[縄文語とアイヌ語の複合語]「キ・イホ・ワッカ」、KI-IHO-WAKKA(ki=full,very;iho=up above,from above;(Aynu)wakka=water)、「はるかに・高級な・水(酒。濁酒)」(「イホ」のH音が脱落して「イオ」となり、「キ・イオ」が「キヨ」と、「ワッカ」が「ワカ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]クマの首を正面からではなく、側面からヤリで突くこと。
この「キリクビ」は、
「キヒ・リ・クフ・ピ」、KIHI-RI-KUPI(kihi=cut off,destroy completely;ri=screen.protect,bind;kuhu=thrust in,insert;pi=eye)、「眼(球)が・挿入されているもの(首)を・切り・離す」(「キヒ」」のH音が脱落して「キ」と、「クフ」のH音が脱落して「ク」と、「ピ」が「ビ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海・雄勝・平賀・岩手]獲物解体用の小刀。槍の刃部を利用してつくります。
この「キリダシ」は、
「キヒ・リ・タハ・アチ」、KIHI-RI-TAHA-ATI(kihi=cut off,destroy completely;ri=screen.protect,bind;taha=side,edge;ati=offspring,descendant)、「切り・離す(のに用いる)・(子供の)小さい・刃のあるもの(小刀)」(「キヒ」」のH音が脱落して「キ」と、「タハ」のH音が脱落して「タ」から「ダ」となったその語尾のA音と「アチ」の語頭のA音が連結して「ダチ」から「ダシ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁仙北]禁じ物。マタギが山中で言ってはならない言葉。「女に関する言葉」、「殺す、死ぬに関する言葉」で、これを犯すと厳重な罰がありました。
この「キンジモン」は、
「キノ・チ・モノ」、KINO-TIHI-MONO(kino=evil,bad,badly behaved,hate;ti=throw,cast,overcome;mono=plug,disable by means of incantations,an incantation to disable an enemy)、「(禁止されている言葉を話すという)悪い振る舞いは・獲物が獲れなくなる呪文を・唱えることだ(禁じ物)」(「キノ」が「キン」と、「チ」が「ジ」と、「モノ」が「モン」となった)
の転訛と解します。
「ク」
[鳥海]山袴。
この「ククリ」は、
「クク・フリ」、KUKU-HURI(kuku=nip,draw together,close;huri=turn round,overturn,revolve)、「(袴の裾を)紐で巻いて・締めるもの(山袴)」(「クク」の語尾のU音と、「フリ」のH音が脱落して「ウリ」となつたその語頭のU音が連結して「ククリ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]樹の空洞の場合、幹の側面に開ける穴。この穴から鉄砲で中のクマを狙います。
この「クケアナ」は、
「クフ・ケ・アナ」、KUHU-KE-ANA(kuhu=thrust in,insert;ke=different,strange,extraordinary;ana=cave)、「(幹の側面に)開ける・特別な・穴」(「クフ」のH音が脱落して「ク」となった)
の転訛と解します。
[仙北]臭気の特に強い、しかも小さいムジナ。
この「クサコ」は、
「クタイタイ・カウ(コ)」、KUTATAI-KAU(kutaitai=of a disagreement taste;kau=alone,bare,only(ko=descend))、「ただただ・臭い匂いの(小さな動物。ムジナ)」(「クタイタイ」の反覆語尾が脱落し、さらに語尾のI音が脱落して「クタ」から「クサ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)(「カウ」の変化した「コ」が、変化しない「コ」に意味を合わせてかけたものでしょう。)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海]草の実。米または植物性食物の総称。
この「クサノミ」は、
「クタ・ノ・ムイ」、KUTA-NO-MUI(kuta=a rush,bulrush;no=of;mui=swarm round,infest(muimui=anything small or diminutive))、「(蒲など)稲の仲間・の・(小さな種が)集まったもの(米。稗など)」(「クタ」が「クサ」と、「ムイ」のUI音がI音に変化して「ミ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]炊事すること。
この「クサノミワパス」は、
「クタ・ノ・ムイ・ワ・パツ」、KUTA-NO-MUI-WA-PATU(kuta=a rush,bulrush;no=of;mui=swarm round,infest(muimui=anything small or diminutive);wa=so-and-so;patu=beat,kill,pound fern root etc.)、「(蒲など)稲の仲間・の・(小さな種が)集まったもの(米。稗など)を・誰かが・(シダの根を叩いて食物を調理するように)炊く(炊事をする)」(「クタ」が「クサ」と、「ムイ」のUI音がI音に変化して「ミ」と、「パツ」が「パス」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]味噌。
この「クダキ」は、
「クタ・アキ」、KUTA-AKI(kuta=a rush,bulrush;aki=dask,beat,pound)、「(蒲など)稲の仲間(の植物性の食物)を・叩いたもの(味噌)」(「クタ」が「クダ」となり、その語尾のA音と「アキ」の語頭のA音が連結して「クダキ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海・阿仁・仙北・岩手・雄勝]クマ。
この「クマシシ」は、
「クマ・チチ」、KUMA-TITI((Hawaii)kuma=cracking of the skin between fingers and toes;titi=go astray)、「山の尾根と尾根の間(に住む)・(山中を)徘徊している(動物。クマ)」(「チチ」が「シシ」となった)
または「クママ・チチ」、KUMAMA-TITI(kumama=desire,long for;titi=go astray)、「(狩猟の対象物として)熱望してやまない・(山中を)徘徊している(動物。クマ)」(「クママ」の反覆語尾が脱落して「クマ」と、「チチ」が「シシ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]熊の足。クマを解体したとき、足の骨を乾燥して保存し、削つて煎じて飲むと、下痢止めと神経痛に効くとされます。
この「(クマノ)アシ」は、
「アチ」、ATI(offspring,descendant,clan)、「(身体の)末端(足)」(「アチ」が「アシ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]春にクマが穴から出て、エズミ(毛干し場所)(102エズミカクの項を参照してください。)に入りながら、足慣らしをする約一週間をいいます。
この「(クマノ)アシナラシ」は、
「アチ・(ン)ガラフ・チ」、ATI-NGARAHU-TI(ati=offspring,descendant,clan;ngarahu=war dance,prudence,take counsel,deliberate;ti=throw,cast)、「(身体の)末端(足)の・(戦いの前の踊りのように)慎重に準備運動を・行う」(「アチ」が「アシ」と、「(ン)ガラフ」のNG音がN音に変化し、H音が脱落して「ナラ」と、「チ」が「シ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]熊の足の甲。クマを解体するとき、足のベラ(足の甲)を乾燥保存しておき、ホルモン剤として削って飲むといいます。
この「(クマノ)アシノベラ」は、
「アチ・ノ・ペラ」、ATI-NO-PERA(ati=offspring,descendant,clan;no=of;pera=grease,blubber)、「(身体の)末端(足)・の・脂(脂肪)」(「アチ」が「アシ」と、「ペラ」が「ベラ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]アナグマ。
この「(クマノ)アラシゴ」は、
「アラ・チ・コ」、ARA-TI-KO(ara=way,path;ti=throw,cast;ko=descend)、「(巣穴から森の中の採食場へ放射状に通ずる)通路を・作る(習性がある)・(クマの)子(のような動物。アナグマ)」(「チ」が「シ」と、「コ」が「ゴ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海・岩手]熊の胆。胃腸薬として貴重な地位を占めます。
この「(クマノ)イ」は、
「ウイ」、UI(disentangle,disengage,unravel)、「(胃腸の)悩みを解消する(薬)」(「ウイ」が「ヰ」となった)
の転訛と解します。
[平賀]クマの皮で作った獲物入れ。075イヌノカワノコダシの項を参照してください。
この「(クマノカワノ)コダシ」は、
「コタ・チ」、KOTA-TI(kota=open,gape;ti=throw,cast)、「(容れものの口を)開いて・放り込むもの(獲物入れ)」(「コタ」が「コダ」と、「チ」が「シ」となった)
の転訛と解します。
[岩手・仙北]クマの肝臓。干して保存し、焼いたり、煮たりして食べる。また、乾燥して保存した肝を削って飲むと万病の薬ともいいます。196キモの項を参照してください。
この「(クマノ)キモ」は、
「キ・マウ」、KI-MAU(ki=full,very;mau=fixed,continuing,expressing feelings of horror or admiration,with passive termination)、「全く・(人と同じく動物が感ずる恐怖や賛嘆などの)感情や度胸を司る臓器(肝)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]熊の舌。
この「(クマ・ノ)シタ」は、
「チ・タハ」、TI-TAHA(ti=throw,cast;taha=side,margin,edge)、「端を・(口の外へ)出すもの(舌)」(「チ」が「シ」と、「タハ」のH音が脱落して「タ」となった)
の転訛と解します。
[仙北・雄勝]熊の数珠。冬眠中の穴の中でとれたクマの直腸を糞が詰まつたまま約25センチくらい切りとり、焚き火で燻製にしたもので、その形が数珠に似るからでしょう。下痢の特効薬、また産婦の後腹痛みに効くといわれます。
この「(クマノ)ジユズ」は、
「チウ・ツ」、TIU-TU(tiu=soar,swing,sway to and fro;tu=fight with,energetuic)、「懸命に・まさぐるもの(小さな珠を多数糸に貫いたもの。数珠)」(「チウ」が「ジュ」と、「ツ」が「ズ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]熊の髑髏。クマの頭蓋骨を乾燥したもの。頭痛の薬として黒焼きにして飲みます。脳みそは、頭の薬として煮てたべます。
この「(クマノ)シヤレコウベ」は、
「チ・アレ・コウ・ペ」、TI-ARE-KOU-PE(ti=throw,cast,overcome;are=open;kou=knob,end,stump,protuberance;pe=crushed,soft,suppurating)、「(身体から切り離されて)打ち・捨てられ・(肉が)腐り果てた・(身体の)頂上の骨(髑髏)」(「チ」が「シ」となり、「シ・アレ」が「シャレ」と、「ペ」が「ベ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]仙北マタギのクマノジュズと同じ。
この「(クマノ)スプタギ」は、
「ツプ・タ(ン)ギ」、TUPU-TANGI(tupu=grow,be firmly fixed;tangi=cry,weep,lamentation)、「悲痛な(声を上げて死んだ熊が遺した)・とても固いもの」(「ツプ」が「スプ」と、「タ(ン)ギ」のNG音がG音に変化して「タギ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]クマの男根。乾燥したものを粉にして飲むとホルモン剤になるといいます。
この「(クマノ)タキリ」は、
「タキリ」、TAKIRI(loosen,free from tapu,start convulsively,rush)、「急にいきり立つもの(男根)」
の転訛と解します。
[仙北・阿仁]熊の血。
この「(クマノ)チ」は、
「チ・イ」、TI-I(ti=throw,cast,overcome;i=ferment,be stirred)、「(征服される)殺されると・噴き出すもの(血)」(「チ」のI音と「イ」のI音が連結して「チ」となつた)
の転訛と解します。
[鳥海・阿仁・仙北]熊の偽胆。クマノイの偽物。
この「(クマノ)ニセイ」は、
「ニヒ・タエ・ウイ」、NIHI-TAE-UI(nihi=move stealthly,timidity;tae=arrive,extend to,touch of feelings,proceed to;ui=disentangle,disengage,unravel)、「(偽物を扱うことに気が引けて)おずおずと・行動する・(胃腸の)悩みを解消する(偽胆)」(「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」と、「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」と、「ウイ」が「ヰ」となった)
の転訛と解します。
[仙北・鳥海・岩手]熊の脳味噌。脳は漢語です。
この「(クマノノウ)ミソ」は、
「ミイ・タウ」、MII-TAU((Hawaii)mii=attractive,good-looking;tau=come to rest,settle down,be suitable)、「きれいな・(寝かして作ったもの)味噌に似たもの」(「ミイ」が「ミ」と、「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ソ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]熊の流産。
この「(クマノ)ハツサン」は、
「ハ・ツタ(ン)ガタ(ン)ガ」、HA-TUTANGATANGA(ha=what!;tutangatanga=cut into portion,loose)、「何と・(体内から胎児を)放した(流産した)」(「ツタ(ン)ガタ(ン)ガ」の反覆語尾が脱落して「ツタ(ン)ガ」となり、NG音がN音に変化して「ツタナ」から「ツサン」となった)
の転訛と解します。
[仙北]熊の腹子。子を宿している母グマをいいますが、クマはとられることを事前に察知すると、早産して、その子を母グマが食べてしまうといわれます。
この「(クマノ)ハララゴ」は、
「パララ・(ン)ガウ」、PARARA-NGAU(parara=sudden and violent gust of wind,moan as the sea;ngau=bite,hurt,attack)、「(危機を察知した母グマが)荒れ狂って・(胎児を)食べてしまう(習性をもつ母グマ)」(「パララ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハララ」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]熊の百尋。クマの腸。乾燥し、一尺単位で切り売りし、産婦の腹帯にすると安産するといわれます。(「ひゃくひろ」は、「はらわた(腸)」の京都、大阪などの方言です。国語篇(その十六)の169はらわたの項を参照してください。)
この「(クマノ)ヒャクヒロ」は、
「ヒ・アク(ン)ガ・ヒラウ」、HI-AKUNGA-HIRAU(hi=raise,rise;akunga=rank and file;hirau=entangled,place the hand open)、「人が手を広げた長さ(尋)が・(人の手指で数えられる数=十の)桁が・高くなった長さ(百尋)のあるもの(腸)」(「アク(ン)ガ」の名詞形語尾のNGA音が脱落して「アク」となり、「ヒ・アク」が「ヒャク」と、「ヒラウ」のAU音がO音に変化して「ヒロ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]熊の骨。クマの骨をすりつぶして粉にし、酢または酒で練り合わせて、打撲傷の薬にしたり、焼いて飲むと血圧頭痛の薬になるといわれます。
この「(クマノ)ホネ」は、
「ホ(ン)ガイ」、HONGAI(stay,brace)、「(家の支柱のように人の身体を)支えるもの(骨)」(NG音がN音に、AI音がE音に変化して「ホネ」となつた)
の転訛と解します。
[岩手]クマ陥し(仕掛け。装置)。縄をかけて落とし入れることを「びら」といい、その仕掛けまたは装置を「びらこ」とよびます。ここでは二階に材木を積み上げ柴を掛けて置き、一階に置いた餌につられてクマが乗ると、二階の材木が崩れ落ちてクマが下敷きになる仕掛けです。
この「(クマ)びらこ」は、
「ピララ・(ン)ガウ」、PIRARA-NGAU(pirara=separated,scattered;ngau=bite,hurt,attack)、「(積み上げた材木が)雪崩落ちて・(クマを)殺す(仕掛け。装置)」(「ピララ」の反覆語尾が脱落して「ビラ」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海・雄勝・岩手]岩場。崖。
この「クラ」は、
「ク・ラ(ン)ガ」、KU-RANGA(ku=silent,wearied,exhausted;ranga=raise,pull up,ridge of a hill)、「(身がすくんで)言葉を失うような・(山の上の)高い場所(岩場、崖)」(「ラ(ン)ガ」の名詞形語尾のNGA音が脱落して「ラ」となった)
の転訛と解します。
231クライドリに同じ。
この「クライシ」は、
「ク・ラヒ・チ」、KU-RAHI-TI(ku=silent,wearied,exhausted;rahi=great,abundant;ti=throw,cast,overcome)、「たいへん・痛めつけられて・消耗する(儀式)」(「ラヒ」のH音が脱落して「ライ」と、「チ」が「シ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]マタギが一人前になるために行う成年式。年少の新参者が陰茎に紐で「イグレ」と呼ぶ火のついたホダを結んで吊し、長時間左右に振り、苦しむ様を山神様に見せて喜ばせるものといいます。
この「クライドリ」、「イグレ」は、
「ク・ラヒ・タウリ」、KU-RAHI-TAURI(ku=silent,wearied,exhausted;rahi=great,abundant;tauri=fillet,band,bind)、「紐を使う・たいへん・消耗する(儀式)」(「ラヒ」のH音が脱落して「ライ」と、「タウリ」のAU音がO音に変化して「トリ」から「ドリ」となった)
「イ・クレクレ」、I-KUREKURE(i=ferment,be stirred of the feelings,past tense;kurekure=blow of flies,pleased,glad(kure=cry like a seagull))、「(山神様を)喜ばせる・ためのもの」(「クレクレ」の反覆語尾が脱落して「クレ」から「グレ」となった)
の転訛と解します。
[仙北・鳥海]233クラゲヤに同じ。
この「クラガイ」は、
「ク・ラ(ン)ガイ」、KU-RANGAI(ku,kuku=firm,stiff;rangai=herd,flock,shoal,company)、「びっしりと・(一まとめに)詰め込む(袋。背負い袋)」(「ラ(ン)ガイ」のNG音がG音に変化して「ラガイ」となった)
の転訛と解します。
[仙北・鳥海]マタギの背負い袋。木綿が麻袋のヒモのついた三角袋。
この「クラゲヤ」は、
「ク・ラ(ン)ガイ・イア」、KU-RANGAI-IA(ku,kuku=firm,stiff;rangai=herd,flock,shoal,company;ia=indeed)、「実に・びっしりと・(一まとめに)詰め込む(袋。背負い袋)」(「ラ(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ラゲ」と、「イア」が「ヤ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]クマが雪の落ちた嶮岨な場所にいること。
この「クラヅキスル」は、
「ク・ラ(ン)ガ・ツツキ・ツル」、KU-RANGA-TUTUKI-TURU(ku=silent,wearied,exhausted;ranga=raise,pull up,ridge of a hill;tutuki=reach the farthest limit,be finished;turu=last a short time)、「(身がすくんで)言葉を失うような・(山の上の)最も離れた・高い場所(岩場、崖)に・居る」(「ラ(ン)ガ」の名詞形語尾のNGA音が脱落して「ラ」と、「ツツキ」の反覆語頭が脱落して「ツキ」から「ヅキ」と、「ツル」が「スル」となった)
の転訛と解します。
[雄勝]狩り完了の意。
この「クラバナシ」は、
「ク・ラパ・ナチ」、KU-RAPA-NATI((ku=silent,wearied,exhausted;rapa=seek,look for;nati=pinch,restrain)、「(狩りに)疲れ果てて・(獲物を)追い求めるのを・抑止する」(「ラパ」カセ「ラバ」と、「ナチ」が「ナシ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]二歳以上のクマ。
この「クラマキ」は、
「クラ・マハ・キ」、KURA-MAHA-KI(kura=red feathers,precious,treasure;maha=many,majority;ki=full,very)、「(二歳以上のクマの)殆どは・実に・(宝物のような)貴重な価値がある(クマ)」(「マハ」のH音が脱落して「マ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]来た。
この「クラマツク」は、
「ク・ラ(ン)ガ・マツ・ク」、KU-RANGA-MATU-KU(ku=silent,wearied,exhausted;ranga=raise,pull up,ridge of a hill;matu=ma atu=go,come;ku=silent)、「(身がすくんで)言葉を失うような・(山の上の)高い場所(岩場、崖)を・静かに・(過ぎて)やって来た」(「ラ(ン)ガ」の名詞形語尾のNGA音が脱落して「ラ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]来た。
この「クラマツタ」は、
「ク・ラ(ン)ガ・マツ・タ」、KU-RANGA-MATU-TA(ku=silent,wearied,exhausted;ranga=raise,pull up,ridge of a hill;matu=ma atu=go,come;ta=dash,beat,lay)、「(身がすくんで)言葉を失うような・(山の上の)高い場所(岩場、崖)を・猛然と・(過ぎて)やって来た」(「ラ(ン)ガ」の名詞形語尾のNGA音が脱落して「ラ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]山を横に歩く。
この「クラマル」は、
「ク・ラ(ン)ガ・マ・アル」、KU-RANGA-MA-ARU(ku=silent,wearied,exhausted;ranga=raise,pull up,ridge of a hill;ma,mama=light not heavy,unencumbered,so quick;aru=follow,pursue)、「(身がすくんで)言葉を失うような・(山の上の)高い場所(岩場、崖)を・軽々と(横に向かって。垂直に登るなら軽々とは歩けない)・伝って歩く(山を横に歩く)」(「ラ(ン)ガ」の名詞形語尾のNGA音が脱落して「ラ」と、「マ」のA音と「アル」の語頭のA音が連結して「マル」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]熊の肺臓。
この「クロキモ」は、
「ク・ロ・キ・マウ」、KU-RO-KI-MAU(ku=firm,stiff,thickened;ro=roto=inside;ki=full,very;mau=fixed,continuing,expressing feelings of horror or admiration,with passive termination)、「深い・(ものの)中のような(闇の中のような。黒い)・全く・(人と同じく動物が感ずる恐怖や賛嘆などの)感情や度胸を司る臓器(肝)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]鉄製器具の総称。鍋。
この「クロツペ」は、
「ク・ロ・ツ・パイ」、KU-RO-TU-PAI(ku=firm,stiff,thickened;ro=roto=inside;tu=fight with,energetic;pai=good,excellent,suitable)、「深い・(ものの)中のような(闇の中のような。黒い色をした)・懸命に・良い仕事をするもの(鉄製の器具。鍋など)」(「パイ」のAI音がE音に変化して「ペ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]クマがいるかどうか確認しないで行う巻き狩り。
この「クロマキ」は、
「ク・ロ・マ・アキ」、KU-RO-MA-AKI(ku=firm,stiff,thickened;ro=roto=inside;ma=go,come;aki=abut on)、「深い・(ものの)中のような(闇の中のような。獲物がいるかどうか分からない状況の下で)・(勢子が)相接して・進む(クマなどを追い出す巻き狩り)」(「マ」のA音と「アキ」の語頭のA音が連結して「マキ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]化け物。
この「クワツキ」は、
「クハ・ツキ」、KUHA-TUKI(kuha=gasp;tuki=pound,beat,attck)、「息が止まる(ほどの)・攻撃を受ける(化け物)」(「クハ」が「クワ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]飯。
この「クワナカ」は、
「クワハ・ナカ」、KUWAHA-NAKA(kuwaha=mouth,entrance;naka=move ina certain direction)、「口を・動かす(食べる。もの。飯)」(「クワハ」のH音が脱落して「クワ」となった)
の転訛と解します。
「ケ」
[阿仁・岩手]雪篦と狩り小屋でのまな板を兼ねるもの。
この「ケエスキ」は、
「ケイ・ツキ」、KEI-TUKI(kei=at,with,like,as,to;tuki=pound,beat,attck)、「(雪を)かくもの(雪かき板、雪篦)に・似たもの」(「ケイ」が「ケエ」と、「ツキ」が「スキ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]小さい獲物は背負って帰るが、大きいものはその場で皮を剥ぎ、剥ぎ終わると「ケサギ」の儀式を行います。「サギ」は「ケボケ」ともいい、この儀式を行うことを「256ケボカイ」するといいます。256ケボカイの項を参照してください。
この「ケサギ」は、
「ケ・タ(ン)ギ」、KE-TANGI(ke=strange,different;tangi=sound,cry,weep,mourn,lamentation)、「一風変わった・(獲物を殺したことを)嘆く(儀式)」(「タ(ン)ギ」のNG音がG音に変化して「タキ」から「サギ」となった)
または「カイ・タ(ン)ギ」、KAI-TANGI(kai=eat,food,fulfil its proper function,have full play;tangi=sound,cry,weep,mourn,lamentation)、「(クマやカモシカなどの動物が人間のために肉や毛皮などを供給するという)使命を果たして死んだことを・嘆き悲しむ(とともにその霊魂を鄭重にあの世へ送る。儀式)」(「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」と、「タ(ン)ギ」のNG音がG音に変化して「タキ」から「サギ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]鶏。
この「ケタ」は、
「ケ・タハ」、KE-TAHA(ke=strange,different;taha=side,edge,go by)、「(定時に時を告げる)変わった(鳥で)・(家の)そばを走りまわるもの(にわとり)」(「タハ」のH音が脱落して「タ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海・雄勝・岩手]毛足袋。
「カイタ・タピ」、、KAITA-TAPI(kaita=large,of superior quality;tapi=apply as dressings to a wound)、「(カモシカの)皮を剥いで・乾燥したもの(で作った)・(足を)保護するもの(足袋)」(「カイタ」のAI音がE音に変化して「ケタ」となり、「ケタ」の語尾の「タ」音と「タピ」が「タビ」となったその語頭の「タ」音が連結して「ケタビ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]山羊。
この「ケチ」は、
「ケ・チ」、KE-TI(ke=different,strange;ti=throw,cast)、「(肉や毛だけでなく)変わったもの(乳)を・供給する(動物。山羊)」
の転訛と解します。
[仙北・岩手]四肢の間に毛が生えている痩せたクマ。このクマの胆は小さいとされます。
この「ケツカミ」は、
「ケ・ツ・カカ・アミ」、KE-TU-KAKA-AMI(ke=different,strange;tu=stand,settle;kaka=fibre,single hair;ami=gather,collect)、「奇妙なことに・(四肢の間に)毛が・まとまつて・生えている(クマ)」(「カカ」が「カ」となり、そのA音と「アミ」の語頭のA音が連結して「カミ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]尻で雪の上を滑ること。
この「ケツゾリ」は、
「ケ・ツ・ト・オリ」、KE-TU-TO-ORI(ke=different,strange;tu=stand,settle;to=drag,haul;ori=cause to wave to and fro,sway,move about)、「変わった・(尻を直に雪の上に置く)座り方で・滑って・動く」(「ト」のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「トリ」から「ゾリ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]カモシカの皮で作った毛手袋。
この「ケテ(ブクロ)」は、
「ケ・テ」、KE-TE(ke=different,strange;te=crack)、「変わった・(先が分かれて指になっている)手の(入る袋。手袋)」
の転訛と解します。
[阿仁]狩り小屋または穴。ケートは同じく山小屋。
この「ケト」、「ケド」、「ケート」は、
「ケ・タウ」、KE-TAU((ke=different,strange;tau=come to rest,settle down(taunga=resting place))、「変わった・休息場所(狩り小屋。穴。山小屋)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」と、また「ド」と、または「ケト」が「ケート」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]狩り小屋のあった場所。
この「ケトバ」は、
「ケ・タウ・パ」、KE-TAU-PA((ke=different,strange;tau=come to rest,settle down(taunga=resting place);pa=be struck)、「変わった・休息場所(狩り小屋。穴。山小屋)で・すでに壊されたもの(かつて狩り小屋があった場所)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」と、「パ」が「バ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]方言でおでこの意。
この「ゲホ」は、
「(ン)ガイ・パウ」、NGAI-PAU(ngai=tribe or clan;pau=consumed,exhausted,denoting the complete or exhaustive character of any action)、「皺が刻まれている・ような部分(おでこ)」(「(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ゲ」と、「パウ」のP音がF音を経てH音に、AU音がO音に変化して「ホ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海]マタギが獲物を取った後に皮を剥ぐ儀式。257ケボケおよび246ケサギも同じです。246ケサギの項を参照してください。
この「ケボカヒ」は、
「ケ・ポ・カヒ」、KE-PO-KAHI(ke=strange,different;po=popo=soothe,anoint;kahi=chief,perform some part of the PURE(a ceremony for removing TAPU) and other ceremonies)、「一風変わった・(クマやカモシカなど)動物の霊を慰め、けがれを清めるための・儀式」(「ポ」が「ボ」となった。また「カヒ」のH音が脱落して「カイ」となった。さらに「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)
または「カイ・ポ・カヒ」、KAI-PO-KAHI(kai=eat,food,fulfil its proper function,have full play;po=popo=soothe,anoint;kahi=chief,perform some part of the PURE(a ceremony for removing TAPU) and other ceremonies)、「(動物が人間のために肉や毛皮などを供給するという)使命を果たして死んだ・(クマやカモシカなど)動物の霊を慰め、けがれを清めるための・儀式」(「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」と、「ポ」が「ボ」となった。また「カヒ」のH音が脱落して「カイ」となった。さらに「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]256ケボカイに同じ。
[阿仁]馬の毛で作った帽子。
この「ケボシ」は、
「ケ・ポウ・チ」、KE-POU-TI(ke=strange,different;pou=pole,erect a stake,elevate upon poles,establish:ti=throw,cast)、「変わった・(身体の尖端の頭の)上に載せて・置くもの」(「ポウ」が「ボ」と、「チ」が「シ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]阿仁地方で「天狗倒し」といわれる深山で突然起こる暴風の吹き荒れるような音響。
この「ケボロギ」、「ケブルギ」は、
「ケ・ポロ・(ン)ギア」、KE-PORO-NGIA(ke=strange,different;poro=butt end,cut short,strike down by witchcraft;ngia=seem,appear to be)、「異様な・魔法で打ちのめされた・ように思われる(深山で突然起こる暴風の吹き荒れるような音響。天狗倒し)」(「ポロ」が「ボロ」と、「(ン)ギア」のNG音がG音に変化し、語尾のA音が脱落して「ギ」となった)
「ケ・プル・(ン)ギア」、KE-PURU-NGIA(ke=strange,different;puru=puri=sacred,pertaining to ancient lore;ngia=seem,appear to be)、「異様な・古くから語り伝えられる伝説・のように思われる(深山で突然起こる暴風の吹き荒れるような音響。天狗倒し)」(「プル」が「ブル」と、「(ン)ギア」のNG音がG音に変化し、語尾のA音が脱落して「ギ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]クマの子宮袋。
この「ケマシ」は、
「ケ・マチ」、KE-MATI(ke=strange,different;mati=surfeited)、「異様に・飽満した(子宮袋)」(「マチ」が「マシ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]毛祭り。クマをとると猟の神、山の神に感謝の意を示す儀式。
この「ケマツリ」は、
「ケ・マツ・ウリ」、KE-MATU-URI(ke=strange,different;matu=ma atu=go,come;uri=descendant,relative,dark,deep in colour)、「一風変わった・一族が・集まる(祭り)」または「一風変わった・暗闇の中(夜間)に・集まる(祭り)」(「マツ」の語尾のU音が「ウリ」の語頭のU音と連結して「マツリ」となった)
または「カイ・マツ・ウリ」、KAI-MATU-URI(kai=eat,food,fulfil its proper function,have full play;po=popo=soothe,anoint;matu=ma atu=go,come;uri=descendant,relative,dark,deep in colour)、「(動物が人間のために肉や毛皮などを供給するという)使命を果たして死んだ(ことにより猟の神、山の神に感謝して)・一族が・集まる(祭り)」または「(動物が人間のために肉や毛皮などを供給するという)使命を果たして死んだ(ことにより猟の神、山の神に感謝して)・暗闇の中(夜間)に・集まる(祭り)」(「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」と、「マツ」の語尾のU音が「ウリ」の語頭のU音と連結して「マツリ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]たばこ。
この「ケムリカツソウ」は、
「ケ・ムリ・カ・ツ・タウ」、KE-MURI-KA-TU-TAU(ke=strange,different;muri=breeze,sigh;ka=take fire,be lighted,burn;tu=stand,settle;tau=come to rest,settle down,be suitable)、「休息のために・座って・火をつける(と)・変わった・微風(煙。その煙が出てくるもの。煙草)」(「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」から「ソウ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海・岩手]カモシカ。
この「ケラ」、「ケラナ」は、
「カイ・ラ」、KAI-RA(kai=eat,food,fulfil its proper function,have full play;ra=there,yonder)、「あの・(我らの)食料(である動物。カモシカ)」(「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となつた)
「カイ・ラ(ン)ガ」、KAI-RANGA(kai=eat,food,fulfil its proper function,have full play;ranga=raise,ridge of a hill,company of persons,shoal of fish)、「(我らの)食料(の)・群れ(である動物。カモシカ)」(「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」と、「ラ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ラナ」となつた)
の転訛と解します。
[阿仁]皮足袋。またはカモシカの皮。
この「ケラソツカ」は、
「カイ・ラト・ツカハ」、KAI-RATO-TUKAHA(kai=eat,food,fulfil its proper function,have full play;rato=be served or provided,be distributed;tukaha=strenuous,vigorous,passionate)、「食料(のみならずいろいろのものを供給してくれる)動物から・恵まれた・強力なもの(皮足袋。カモシカの皮)」(「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」と、「ラト」が「ラソ」と、「ツカハ」のH音が脱落して「ツカ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]山から落とす仕掛けのワラ綱。
この「ケンツナ」は、
「カイ(ン)ガ・ツツ(ン)ガ」、KAINGA-TUTUNGA(kainga=field of operation,scope of work;tutunga=circumstance etc. of tutu;tutu=move with vigour,summon,assemble)、「仕掛けの場所に用いられる・(たくさんの)縄が集合したもの(ケン綱)」(「カイ(ン)ガ」のAI音がE音に、NG音がN音に変化して「ケナ」から「ケン」と、「ツツ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ツツナ」から「ツナ」となつた)
の転訛と解します。
[岩手]犬引き綱。マダ(しなのき科)皮の縄で、長さ133センチとされます。
この「ケンビキツナ」は、
「カイ(ン)ガ・ピキ・ツツ(ン)ガ」、KAINGA-PIKI-TUTUNGA(kainga=field of operation,scope of work;piki=frizzled,pressed close together;tutunga=circumstance etc. of tutu;tutu=move with vigour,summon,assemble)、「狩猟の場所に用いられる・(犬を)手許から離さないための・(たくさんの)縄が集合したもの(ケン引き綱)」(「カイ(ン)ガ」のAI音がE音に、NG音がN音に変化して「ケナ」から「ケン」と、「ピキ」が「ビキ」と、「ツツ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ツツナ」から「ツナ」となつた)
の転訛と解します。
「コ」
[阿仁]庚申講中。マタギは部落で隔月に庚申祭りをおこなう。庚申(こうしん。かのえさる)は漢語由来です。
この「(コウシン)コウチュウ」は、
「コウ・チウ」、KOU-TIU(kou=knob,stump,bunch of feathers,knot;tiu=soar,wander,swing,sway)、「(特定の目的で)結合した集団で・順番で行事を行うもの(講中)」(「チウ」が「チュウ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]合薬入れ。鉄砲の火薬入れ。
この「ゴウヤクイレ」は、
「(ン)ガウ・イア・アク・イ・レイ」、NGAU-IA-AKU-I-REI(ngau=bite,hurt,attack;ia=indeed;aku=delay,scrape out,cleanse;i=by,from,with,at,in;rei=leap,rush,run)、「実に・(一瞬に物を)吹き・飛ばすもの(火薬)を・そこに・放り込むもの」(「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がOU音に変化して「ゴウ」と、「イア」のA音と「アク」の語頭のA音が連結して「ヤク」と、「レイ」が「レ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]帯。
この「コオシナリ」は、
「カウ・アウ・チナ・リ」、KAU-AU-TINA-RI(kau=alone,bare,only;au=firm,intense;tina=fixed,firm,satisfied;ri=screen,protect,bind)、「ただ・しっかりと・固く・結ぶもの(帯)」(「カウ・アウ」のAU音がO音に変化して「コ・オ」と、「チナ」が「シナ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]氷雪。気温が低く凍り付くような寒い日に降る雪。
この「コオリユキ」は、
「カウ・ハウ・リ・ヰウ・キ」、KAU-HAU-RI-WHIU-KI(kau=alone,only(whakakau=come gradually into view or appear);(Hawaii)hau=cool,ice,frost;ri=screen,protect,bind);whiu=throw,be gathered together;ki=full,very)、「徐々に姿を見せる・板(衝立)のような・氷のような(冷たい)・(大地に)たくさん・(空から投げ出されて)降り積むもの(氷雪)」(「カウ・ハウ」のAU音がO音に変化して「コ・ホ」となり、「ホ」のH音が脱落して「オ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となつた)
の転訛と解します。
[鳥海]汁椀。
この「コガツチオ」は、
「カウ・(ン)ガツ・チ・ホウ」、KAU-NGATU-TIHOU(kau=alone,bare,only;ngatu=crushed,mashed;ti=throw,cast;hou=dedicate or initiate a person etc.,establish by rites)、「ひたすら・どろどろにした(汁を)・注いで・(人に鄭重に)差し出すもの(汁椀)」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」と、「(ン)ガツ」のNG音がG音に変化して「ガツ」と、「ホウ」のH音が脱落して「オ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]上衣。
この「コギ」は、
「コ(ン)ギオ」、KONGIO(be shriveelled up)、「(寒さに)震え上がった(ときに着るもの。上衣)」(NG音がGに変化し、語尾のO音が脱落して「コギ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]カモシカ。
この「コシマケ」は、
「コチ・マケ」、KOTI-MAKE(koti=divide,interrupt,cut across the path;make=ma ake=go,come)、「(山中の)決まった小径を・行き来する(習性があるもの。カモシカ)」(「コチ」が「コシ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・鳥海]かんじき。
この「ゴス」は、
「(ン)ゴツ」、NGOTU(=ngotungotu=firebrand,half-burnt stick)、「(燃えさし)火にあぶって曲げた木の輪(かんじき)」(NG音がG音に変化して「ゴツ」から「ゴス」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]携行用の雪篦。
この「コダタキ」は、
「コタ・タキ」、KOTA-TAKI(kota=cockle shell,anything to scrape or cut with;taki=track,lead,stick in)、「(雪を)かき分けて・(杖を突いて)歩く(ためのもの。雪篦)」(「コタ」が「コダ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]冬眠する動物で、ヤマネともいう。マタギの伝承によれば、マタギに遭遇した山の神の使いと信じられているヤマネがみるみる膨れ上がって大きな音を立てて破裂したり、またはその跳ねる音が鉄砲のような音として聞こえたときは、山の神が不機嫌になっているとして、猟を止めて下山したといいます。
この「コダマネズミ」、「ヤマネ」は、
「コタハ・マハ・ネイ・ツ・フミ」、KOTAHA-MAHA-NEI-TU-HUMI(kotaha=sling for throwing stones,sideways,askance;maha=many,abundance;nei,neinei=stretch forward,wagging,bobbing up and down;tu=fight with,energetic;humi=abundant,abundance)、「極めて・怪しい(動物)で・多数が(集まって)・精力的に・はね回る(習性がある動物のネズミに似た動物。コダマネズミ)」または「(投石器で石を投げるような)鉄砲を撃つたような・大きな音を立てる(動物)で・多数が(集まって)・精力的に・はね回る(習性がある動物のネズミに似た動物。コダマネズミ)」(「コタ」が「コダ」と、「ネイ」の語尾のI音が脱落して「ネ」と、「ツ」が「ズ」と、「フミ」のH音が脱落して「ミ」となった)
「イア・マネヘネヘ」、IA-MANEHENEHE(ia=indeed;manehenehe=querulous,peevish)、「実に(山の神の使いとして)・不満を示すもの(動物。ヤマネ)」(「マネヘネヘ」の反覆語尾が脱落し、H音が脱落して「マネ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]昔小屋掛けしていた小玉のレツチユ(「連中」かとされています。)は142カクラサン(山神様)(142カクラサンの項を参照してください。)のお産のための宿を求められたが怪しいとして断り、杉野のレツチユはみずきの柴で床を作って泊め、カクラサンはそこで十二人の子を産んだといいます。その後杉野のレツチユはカクラサンが教えた山、日にクマの大群を見つけて大猟を得、小玉のレツチユはクマを見つけられずにヤマネの大群に出会って往生したという話が残っています。
この「コダマノレツチユ」、「スギノノレツチユ」は、
「コタハ・マハ・(ン)ガウ・レレ・ツ・チウ」、KOTAHA-MAHA-NGAU-RERE-TU-TIU(kotaha=sling for throwing stones,sideways,askance;maha=many,abundance;ngau=bite,hurt,act upon,attack;rere=flow,rush,leap,come in srowds or numbers;tu=stand,settle,fight with,energetic;tiu=soar,wander,swing,sway)、「極めて・怪しい(女)として・待遇をした(山の神を泊めなかった)・(ヤマネの)大群に遭遇して・懸命に対応した・山中を放浪する集団」(「コタハ」のH音が脱落して「コダ」と、「マハ」のH音が脱落して「マ」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ノ」と、「レレ」の反覆語尾が脱落して「レ」と、「チウ」が「チユ」となった)
「ツ(ン)ギ・ノホ・(ン)ガウ・レレ・ツ・チウ」、TUNGI-NOHO-NGAU-RERE-TU-TIU(tungi=set a light to,kindle,burn;noho=sit,stay,settle;ngau=bite,hurt,act upon;rere=flow,rush,leap,come in srowds or numbers;tu=stand,settle;tiu=soar,wander,swing,sway)、「(暖かく)火を燃やして・(山の神を)泊める・待遇をした・(クマの)大群に遭遇して・懸命に狩りをした・山中を放浪する集団」(「ツ(ン)ギ」のNG音がG音に変化して「ツギ」から「スギ」と、「ノホ」のH音が脱落して「ノ」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ノ」と、「レレ」の反覆語尾が脱落して「レ」と、「チウ」が「チユ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]箸または火箸。
この「コツダエ」は、
「カウ・ツ・タエ」、KAU-TU-TAE(kau=alone,bare,only;tu=fight with,energetic;tae=arrive,reach,extend to,touch,be taken)、「ただ・懸命に・(食物や火を)扱うもの(箸。火箸)」(「カウ」「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」と、「タエ」が「ダエ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]山入り中のマタギは、言葉の汚れに対して厳重で、里の言葉を使うことが絶対にできない掟があり、もしも破った場合にはミズゴリ(水垢離)などの制裁を受けました。
この「コトバノケガレ」は、
「コト・ハ・ノ・ケ・(ン)ガレ」、KOTO-HA-NO-KE-NGARE(koto=sob,make a low sound;ha=breath,sound tone of voice,tenor of a speech;no=of;ke=different,strange;ngare=family,multitude,send,urge)、「低い声で・話す(ことば)・の異様な・部類(に属する使い方。恥ずべきまたは困惑する言葉(汚れ))」(「ハ」が「バ」と、「(ン)ガレ」のNG音がG音に変化して「ガレ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]粉雪。
この「コナツポ」は、
「コ(ン)ガコ(ン)ガ・ツポウ」、KONGAKONGA-TUPOU(kongakonga=crumbled into fragment,fragment;tupou=bow the head,dive,rush of current)、「(穀粒を砕いた)粉末のような(雪)が・激しく降る(粉雪)」(「コ(ン)ガコ(ン)ガ」のNG音がN音に変化し、反復語尾が脱落して「コナ」と、「ツポウ」が「ツポ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]糸で刺した布製のもので、毛足袋の中に入れる敷物。
この「コハンバキ」は、
「コハ(ン)ガ・パキ」、KOHANGA-PAKI(kohanga=nest,birthplace,fort;paki=kilt,apron,clothing)、「(足の巣である)足袋(の中に入れる)・糸で刺した布(中敷)」(「コハ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「コハナ」から「コハン」と、「パキ」が「バキ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]クマの皮を乾かすために皮を張ること。
この「コバツケ」は、
「コパ・ツケ」、KOPA-TUKE(kopa=numbed,stiff,congealed,set;tuke=elbow,angle)、「(曲がった角がある)枠に・(クマの皮を)固定する(張る)」(「コパ」が「コバ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]クマの皮を張るときに使用する針。コバ縫い針。
この「コバヌイハリ」は、
「コパ・ヌイ・ハリ」、KOPA-NUI-HARI(kopa=numbed,stiff,congealed,set;nui=large,many,important;pari=carry,bear)、「(クマの皮を)固定する(張るのに用いる)・重要な・(糸を)運ぶ(道具。針)」(「コパ」が「コバ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]白鳥。
この「コバンドリ」は、
「コパ(ン)ガ・ト・オリ」、KOPANGA-TO-ORI(kopa,kopanga=pass by,fly away;to=the...of,drag,open or shut a door or a window,up to,as high as;ori=sway,move about)、「(季節によつて)飛び去ってしまう・境界を越えて・行き来するもの(渡り鳥。白鳥)」(「コパ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「コパナ」から「コバン」と、「ト」のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「トリ」から「ドリ」となつた)
の転訛と解します。
[仙北]下顎の白いクマ。このようなクマには肝がないといわれています。
この「コヒゲ」は、
「コヒ・(ン)ガイ」、KOHI-NGAI(kohi=wasting sickness,consumption,emaciate;ngai=tribe or clan)、「衰弱しきつた・部類の(クマ。下顎の白いクマ)」(「(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ゲ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・岩手]奥羽山脈には昔から北海道のヒグマのように大きく、すばしっこくてマタギの名人でも仕留めることのできない足にコブのあるクマが生息すると云います。
この「コブ(クマ)」は、
「コプ」、KOPU(belly,calf of the leg)、「(足の)ふくらはぎに特徴がある(肥大している。クマ)」(「コプ」が「コブ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]クマの小腸。乾燥してお産のお守りにします。
この「コブクロ」、「」は、
「コフク・ロ」、KOHUKU-RO(kohuku=unfinished;ro=roto=inside)、「(クマの身体の)中にある・(止まらない)どこまでも出てくるもの(小腸)」(「コフク」が「コブク」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]カモシカの寝たり遊んだりする所。
この「コベスパ」は、
「コペ・スパ」、KOPE-TUPA(kope=in a soft mass,pulpy,pliable;tupa=dried up,rough,flat)、「軟らかい苔で覆われた・平らな(場所)」(「コペ」が「コベ」と、「ツパ」が「スパ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]雪。
この「コホリ」は、
「カウ・ハウ・リ」、KAU-HAU-RI(kau=alone,only(whakakau=come gradually into view or appear);(Hawaii)hau=cool,ice,frost;ri=screen,protect,bind)、「徐々に姿を見せる・霜が・集まったようなもの(雪)」(「カウ・ハウ」のAU音がO音に変化して「コ・ホ」となつた)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・岩手]小長柄。イタヤ材で作られたヘラ。カモシカを叩いた猟具。長さ84センチが定法とされていました。291コナギヤ、292コナギヤベラも同じです。岩手では326サツキヤと呼びます。
この「コナガイ」は、
「コ(ン)ガコ(ン)ガ・(ン)ガイ」、KONGAKONGA-NGAI(kongakonga=crumbled into fragment,fragment;ngai=tribe or clan)、「(カモシカを)砕く(道具の)・部類に属する(道具)」(「コ(ン)ガコ(ン)ガ」のNG音がN音に変化し、反復語尾が脱落して「コナ」と、「(ン)ガイ」のNG音がG音に変化して「ガイ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]290コナガイに同じ。
この「コナギヤ」は、
「コ(ン)ガコ(ン)ガ・(ン)ギア」、KONGAKONGA-NGIA(kongakonga=crumbled into fragment,fragment;ngia=seem,appear to be)、「(カモシカを)砕く(道具の)・ように見えるもの(道具)」(「コ(ン)ガコ(ン)ガ」のNG音がN音に変化し、反復語尾が脱落して「コナ」と、「(ン)ギア」のNG音がG音に変化して「ギア」から「ギヤ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]290コナガイに同じ。
この「(コナギヤ)ベラ」は、
「ヘラ」、HELA((Hawaii)to spread as the arms)、「(腕を伸ばす)腕の代わりとなるもの(道具)」(「ヘラ」が「ベラ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]マタギの組頭に対する組員を小前といいます。または小人ともいいます。世襲とされます。
この「コマイ」は、
「コマエ」、KOMAE(shrunk,blighted,withered)、「(組頭の前で)小さくなっている者(小前)」(「コマエ」の語尾のE音がI音に変化して「コマイ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]煙管。
この「コマガリ」は、
「コ・マ(ン)ガリ」、KO-MANGARI(ko=to give emphasis;mangari=luck,fortune)、「ひとときの・至福をもたらすもの(煙管)」(「マ(ン)ガリ」のNG音がG音に変化して「マガリ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]小鉞。
この「コマサカリ」は、
「カウ・マタ・カリ」、KAU-MATA-KARI(kau=alone,bare,only,not at all;mata=just,spell;kari=dig,cleave,rush along violently)、「ちょっと・正に・(荒々しく)切り裂く(道具。鉞)」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」と、「マタ」が「マサ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]皮剥ぎ用の小刀。
この「コヨリ」は、
「コイヒ・オリ」、KOIHI-ORI(koihi=split;ori=cause to wave to and fro,sway,move)、「(あちこちと)動いて・(皮を)剥ぐもの(小刀)」(「コイヒ」のH音が脱落して「コイ」となり、「コイ・オリ」が「コヨリ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]斜面を転がり拡大する雪塊。寒中にこれがあると翌日は吹雪になるといいます。
この「ゴロ」は、
「(ン)ガウ・ラウ」、NGAU-RAU(ngau=wander,go about;rau=catch as in a net,gather into a basket etc.,embarrassed)、「(雪塊が)転がって・どんどん大きくなる(現象)」(「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」と、「ラウ」のAU音がO音に変化して「ロ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]子のついていないクマ。
この「コロド」は、
「コロコロ・ト」、KOROKORO-TO(korokoro=loose,slack;to=drag)、「(子を)引き連れることから・解放された(クマ)」(「コロコロ」の反覆語尾が脱落して「コロ」と、「ト」が「ド」となった)
の転訛と解します。
「サ」
[鳥海]雨。
この「サイガン」は、
「タイ・(ン)ガナ」、TAI-NGANA(tai=tide,wave,rage;ngana=be eagerly intent,obstinate,strong)、「激しい・(潮流)水流(篠つく・雨)」(「タイ」が「サイ」と、「(ン)ガナ」のNG音がG音に変化して「ガナ」から「ガン」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]堺筒。堺で作られた象嵌のある立派だが頗る危なかしい細工の鉄砲。大正の終わりごろに村田銃に代わったといいます。
この「サカイツツ」は、
「タ・カイ・ツツ」、TA-KAI-TUTU(ta=the,lay;kai=reach,arrive at;tutu=hoop for holding open a net a hand net,hold open a basket etc.)、「(摂津・和泉・河内三国の境界の果てのところまで)到達した場所(堺で作られた)・(丸い)筒状のもの(鉄砲)」(「タ」が「サ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]薪を根の方から燃すこと。阿仁マタギはこれを忌み嫌いました。
この「サカサクベ」は、
「タカ・タ・クペ」、TAKA-TA-KUHU-PE(taka=fall off,fall away,turn on a pivot,go or pass round;ta=stand,settle;kuhu=thrust in,insert;pe=crushed,mashed,soft)、「(薪の根を上に)逆さに・して・(火の)中に入れて・(粉に)灰にする(燃す)」(「タカ」が「サカ」と、「タ」が「サ」と、「クフ」のH音が脱落して「ク」と、「ペ」が「ベ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]山神のお告げ。お告げ声。
この「サカブ」は、
「タカ・アプ」、TAKA-APU(taka=fall off,fall away;apu=bark as a dog)、「()()」(「タカ」が「サカ」となり、その語尾のA音と「アプ」の語頭のA音が連結して「サカプ」から「サカブ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]クマの爪跡でつけた下がり爪。斜面を降るときの足跡。018アガリツメの項を参照してください。
この「サガリツメ」は、
「タ・(ン)ガリ・ツ・マイクク」、TA-NGARI-TU-MAIKUKU(ta=dash,beat,overcome,lay;ngari=annoyance,disturbance,greatness,power;tu=fight with,energetic;maikuku=nail of a finger or toe)、「()()」(「タ」が「サ」と、「(ン)ガリ」のNG音がG音に変化して「ガリ」と、「マイクク」のAI音がE音に変化し、語尾の「クク」が脱落して「メ」となった)
「ア・(ン)ガリ・ツ・マイクク」、A-NGARI-TU-MAIKUKU(a=drive,urge,compel;ngari=annoyance,disturbance,greatness,power;tu=fight with,energetic;maikuku=nail of a finger or toe)、「()()」(「(ン)ガリ」のNG音がG音に変化して「ガリ」と、「マイクク」のAI音がE音に変化し、語尾の「クク」が脱落して「メ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]岩壁の裂け。
この「サキ」は、
「タ・キ」、TA-KI(ta=dash,beat,lay;ki=full,very)、「たくさんの・打撃が加えられた(結果できた裂け目)」(「タ」が「サ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]第一弾を当てた人。
この「サキヤ」は、
「タ・アキ・イア」、TA-AKI-IA(ta=the...of;aki=dash,beat,pound;ia=indeed)、「例の(特に讃えられるべき)・実に・(第一弾を)当てた(打ち込んだ。人)」(「タ」のA音と「アキ」の語頭のA音が連結して「タキ」から「サキ」と、「イア」が「ヤ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]サルの指導者で、群れの先頭をきってくるサルのこと。591ハナマシと同じ。
この「サキヤマ」は、
「タキ・イ・アマ」、TAKI-I-AMA(taki=track,lead,bring along,begin or continue speech;i=past tense,from,beside,with,at;ama=outrigger of a canoe)、「(カヌーの外部)浮子のように・(集団の外に一人離れて)先頭に立って・(集団を)率いて行く(指導者)」(「タキ」が「サキ」と、「イ・アマ」が「ヤマ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・岩手]味噌。味噌汁。
この「サギ」は、
「タ・ア(ン)ギ」、TA-ANGI(ta=the...of,dash,beat,lay;angi=light air,fragment,smell)、「例の・(良い)においがするもの(味噌。味噌汁)」(「タ」が「サ」となり、そのA音と「ア(ン)ギ」の語頭のA音が連結して「サギ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]クマの肋骨についているうまい肉。また雪をラッセルすること。
この「サグリ」は、
「タ・(ン)グ(ン)グ・ウリ」、TA-NGUNGU-URI(ta=the...of,dash,beat,lay;ngungu=eat greedy,gnaw;uri=offspring,descendant,relative,race)、「例の・がつがつと食べる・部類の(肉。肋骨についているうまい肉)」または「例の・(雪の中から脱出しようと)躍起になってあたりを掻き除ける・部類の(行動。ラッセル)」(「タ」が「サ」と、「(ン)グ(ン)グ」のNG音がG音に変化し、反覆語尾が脱落して「グ」となり、そのU音と「ウリ」の語頭のU音が連結して「グリ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]大木などの洞穴のクマをさぐる方法。
この「さぐりあな」は、
「タ・(ン)グ(ン)グ・ウリ・アナ」、TA-NGUNGU-URI-ANA(ta=the...of,dash,beat,lay;ngungu=eat greedy,gnaw;uri=offspring,descendant,relative,race;ana=cave)、「例の・(その中にクマがいるかどうかを調べようと)穴を・削ってみる・部類の(行動。方法)」(「タ」が「サ」と、「(ン)グ(ン)グ」のNG音がG音に変化し、反覆語尾が脱落して「グ」となり、そのU音と「ウリ」の語頭のU音が連結して「グリ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]カモシカの胸毛。サグルは雪などを掻き分ける意味の方言とされます。
この「サグリサキ」は、
「タ・(ン)グ(ン)グ・ウリ・タキ」、TA-NGUNGU-URI-TAKI(ta=the...of,dash,beat,lay;ngungu=eat greedy,gnaw;uri=offspring,descendant,relative,race;taki=track,lead,bring along,begin or continue speech)、「例の・(雪の中を前進しようと)躍起になってあたりを掻き除ける・先に立つ・部類のもの(胸毛)」(「タ」が「サ」と、「(ン)グ(ン)グ」のNG音がG音に変化し、反覆語尾が脱落して「グ」となり、そのU音と「ウリ」の語頭のU音が連結して「グリ」と、「タキ」が「サキ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]アナグマ。穴の下に笹を敷いて冬眠するからと解されています。マミムジナともいいます。
この「ササ(グマ)」、「マミムジナ」は、
「タタ」、TATA(near of place or time(tatanga=proximity,nearness))、「密生する(植物。笹を敷いて冬眠する動物)」(「タタ」が「ササ」となった)
「マミ(ン)ガ・ム・チナ」、MAMINGA-MU-TINA(maminga=beguil,pretend,mysterious;mu=silent;tina=fixed,fast,firm,satisfied,overcome)、「(びっくりすると死んだように)静かに・固まってしまう(狸寝入りをする動物。狸またはむじな)と・誤解させる動物(穴熊)」(「マミ(ン)ガ」の名詞形語尾のNGA音が脱落して「マミ」と、「チナ」が「ジナ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]笹小屋。夏は箕皮はぎ(ヤスの木の皮)、冬は狩猟のために、雨露を凌ぐ程度の小屋を建てます。
この「ササゴヤ」は、
「タタ・(ン)ゴイ・イア」、TATA-NGOI-IA(tata=near of place or time(tatanga=proximity,nearness);ngoi=creep,crawl;ia=indeed)、「密生する(植物。笹を葺いた)・実に・やっと潜り込める程度の(小屋)」(「タタ」が「ササ」と、「(ン)ゴイ」のNG音がG音に変化し、その語尾のI音が「イア」の語頭のI音と連結して「ゴイア」から「ゴヤ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]マタギが山の禁制を破ったときの制裁の一つ。水に浸した笹の葉で頭からパラパラと水をかけるもの。
この「ササゴリ」は、
「タタ・(ン)ゴリ」、TATA-NGORI(tata=near of place or time(tatanga=proximity,nearness);ngori=weak,listless)、「密生する(植物。笹の葉)・(水に浸した笹の葉を振って)優しく水を掛ける)」(「タタ」が「ササ」と、「(ン)ゴリ」のNG音がG音に変化して「ゴリ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]冬眠動物ヤマネのこと。阿仁・仙北マタギのいう276コダマネズミと同じ。
この「ササネズミ」は、
「タタ・ネイ・ツ・フミ」、TATA-NEI-TU-HUMI(tata=near of place or time(tatanga=proximity,nearness);nei,neinei=stretch forward,wagging,bobbing up and down;tu=fight with,energetic;humi=abundant,abundance)、「密生する(植物。笹を冬眠する洞・地中に敷く)・多数が(集まって)・精力的に・はね回る(習性がある動物のネズミに似た動物)」(「ネイ」の語尾のI音が脱落して「ネ」と、「ツ」が「ズ」と、「フミ」のH音が脱落して「ミ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・岩手]山の傾斜を新しい雪が走る雪崩のこと。
この「ササヒラ」は、
「タタ・ヒラ」、TATA-HIRA(tata=suddenly;hira=numerous,great,multitude,widespead)、「突然・大量の(雪が走り落ちて来る。雪崩)」(「タタ」が「ササ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]恐ろしい。
この「サジ」は、
「タ・チ」、TA-TI(ta=dash,beat,lay;ti=throw,cast,overcome)、「打撃を受けて・(圧倒される)殺される目に遭う(恐ろしい)」(「タ」が「サ」と、「チ」が「ジ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]クマが死ぬ断末魔の声。サンジコイともいいます。
この「サジトリゴイ」、「サンジコイ」は、
「タ・チ・トリ・コエ」、TA-TI-TORI-KOE(ta=dash,beat,lay;ti=throw,cast,overcome;tori=cut;koe=scream,cry as a bird,squeak)、「(クマが)打撃を受け・切られて・(圧倒される)殺される(際に発する)・悲鳴(断末魔の声)」(「タ」が「サ」と、「チ」が「ジ」と、「コエ」のE音がI音に変化して「コイ」となった)
「タ(ン)ガ・チ・コエ」、TANGA-TI-KOE(tanga=circumstance or time or place of dashing or striking etc.;ti=throw,cast,overcome;koe=scream,cry as a bird,squeak)、「(クマが)打撃を受けて・(圧倒される)殺される(際に発する)・悲鳴(断末魔の声)」(「タ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「タナ」から「サン」と、「チ」が「ジ」と、「コエ」のE音がI音に変化して「コイ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]死ぬ。
この「サジトル」、「サジトレ」は、
「タ・チ・ト・ル」、TA-TI-TO-RU(ta=dash,beat,lay;ti=throw,cast,overcome;to=drag;ru=agitate,scatter,shake)、「打撃を受けて・(圧倒される)殺される・ところへ引っ張って・行かれる(死ぬ)」(「タ」が「サ」と、「チ」が「ジ」となった)
「タ・チ・ト・レイ」、TA-TI-TO-REI(ta=dash,beat,lay;ti=throw,cast,overcome;to=drag;rei=leap,rush,run)、「打撃を受けて・(圧倒される)殺される・ところへ引っ張って・行かれる(死ぬ)」(「タ」が「サ」と、「チ」が「ジ」と、「レイ」が「レ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]クマがとれたときの合図の声。
この「サジョイ」は、
「タ・チ・オイ」、TA-TI-OI((ta=dash,beat,lay;ti=throw,cast,overcome;oi=shout)、「(クマに)打撃を与えて・(圧倒した)殺したと・叫ぶ」(「タ」が「サ」と、「チ」が「ジ」と、「ジ・オイ」が「ジョイ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]先の尖った刃物。
この「サスガ」は、
「タ・ツ(ン)ガ」、TA-TUNGA(the...of,dash,beat,lay;tunga=wound,circumstance etc. of being wound)、「例の・(人などを)傷つけるもの(先の尖った刃物)」(「タ」が「サ」と、「ツ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「ツガ」から「スガ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]不潔な。
この「サゼ」は、
「タテ」、TATE(=tatetate=rattle,make any sharp recurring noise,loose,slack)、「だらしがなく無精な」(「タテ」が「サゼ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]男根。「サッタテ」は『菅江真澄遊覧記』および鈴木牧之『北越雪譜』に収録されたマタギ語です。
この「サタテ」、「サダテ」、「サッタテ」は、
「タタ・タイ」、TATA-TAI(tata=near of place or time,suddenly;tai=tide,wave,anger,rage,violence)、「すぐに・いきり立つもの(男根)」(「タタ」が「サタ」、「サダ」または「サッタ」と、「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]322サタテに同じ。
この「サッタリ」は、
「タタ・アリ」、TATA-ARI(tata=near of place or time,suddenly;ari=clear,visible,white,appearance,guise)、「すぐに・(いきり立つ)外観を見せるもの(男根)」(「タタ」が「サッタ」となり、その語尾のA音と「アリ」の語頭のA音が連結して「サッタリ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]男根。睾丸。
この「サチノ」は、
「タ・チノ」、TA-TINO(ta=the...of,dash,beat,lay;tino=essenciality,self,reality,exact,quite,very)、「例の・(男性の)重要なもの」(「タ」が「サ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]獣の肉。
この「サチノミ」は、
「タ・チノ・ミヒ」、TA-TINO-MIHI(ta=the...of,dash,beat,lay;tino=essenciality,self,reality,exact,quite,very;mihi=sigh for,greet,compliment,praise,show itself)、「例の・(獣の)重要な・賞賛されるもの(肉)」(「タ」が「サ」と、「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]イタヤ材の小長柄。
この「サツキヤ」は、
「タ・ツキ・イア」、TA-TUKI-IA(ta=the...of,dash,beat,lay;tuki=pound,butt,attack;ia=indeed)、「例の・実に・(カモシカなどに)打撃を加えるもの(小長柄)」(「タ」が「サ」と、「イア」が「ヤ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]クマ狩りの下手なマタギ。
この「サツキヤ(マタギ)」、「」は、
「タ・ツキ・イア」、TA-TUKI-IA(ta=the...of,dash,beat,lay;tuki=pound,butt,attack;ia=indeed)、「例の・実に・(カモシカなどに)打撃を加えるもの(小長柄に依存するマタギ)」(「タ」が「サ」と、「イア」が「ヤ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]唄。
この「サツクラ」、「サツチグラ」、「サツソクラ」、「サツツクリ」は、
「タツ・クラ」、TATU-KURA(tatu=reach the bottom,be at ease,consent;kura=red feathers,treasure,knowledge of incantation and other valuable lore)、「(唄うと)いい気持ちになる・民謡(唄)」(「タツ」が「サツ」となった)
「タツ・チ・クラ」、TATU-TI-KURA(tatu=reach the bottom,be at ease,consent;ti=throw,cast;kura=red feathers,treasure,knowledge of incantation and other valuable lore)、「唄うと・いい気持ちになる・民謡(唄)」(「タツ」が「サツ」と、「クラ」が「グラ」となった)
「タツ・ト・クラ」、TATU-TO-KURA(tatu=reach the bottom,be at ease,consent;to=drag,haul;kura=red feathers,treasure,knowledge of incantation and other valuable lore)、「引っ張って唄うと・いい気持ちになる・民謡(唄)」(「タツ」が「サツ」と、「ト」が「ソ」となった)
「タツ・ツク・ウリ」、TATU-TIKU-URI(tatu=reach the bottom,be at ease,consent;tuku=let go,leave,send,present;uri=descendant,ralative,race)、「(皆に贈り物)唄って聞かせると・いい気持ちになる・部類のもの(民謡。唄)」(「タツ」が「サツ」と、「クラ」が「グラ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]汁。
この「サツケ」、「サツナ」は、
「タツ・カイ」、TATU-KAI(tatu=reach the bottom,be at ease,consent;kai=eat,drink,food)、「(食べると)いい気持ちになる・食物(汁)」(「タツ」が「サツ」と、「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)
「タツ・ナ」、TATU-NA(tatu=reach the bottom,be at ease,consent;na=by,belonging to,by way of)、「(食べると)いい気持ちになる・種類のもの(汁)」(「タツ」が「サツ」と、「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]顔。
この「サツソウリ」は、
「タツ・タウ・リ」、TATU-TAU-RI(tatu=reach the bottom,be at ease,consent;tau=come to rest,settle down,be suitable;ri=screen,protect,bind)、「食べると・いい気持ちになるもの(汁)」(「タツ」が「サツ」と、「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」から「ソウ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]汁。
この「サツチ」は、
「タツ・チ」、TATU-TI(tatu=reach the bottom,be at ease,consent;ti=throw,cast)、「(食べると)いい気持ちを・(外に出す)になるもの(汁)」(「タツ」が「サツ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]塩。
この「サツチオ」は、
「タツ・チ・ホ」、TATU-TI-HO(tatu=reach the bottom,be at ease,consent;ti=throw,cast;ho=put out the lips,shout)、「(食べると)いい気持ちになるもので・(嘗めると)口を・しかめるもの(塩)」(「タツ」が「サツ」と、「ホ」のH音が脱落して「オ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]塩。
この「サツツラ」は、
「タツ・ツラ」、TATU-TURA(tatu=reach the bottom,be at ease,consent;tura,turatura=molest,spiteful)、「(食べると)いい気持ちになるもので・(嘗めると)悩ますもの(塩)」(「タツ」が「サツ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]雪篦の一種。351サワテに同じ。マタギだけでなく、一般の人もこの雪篦を用いています。
この「サツテベラ」は、
「タ・ツテ・ヘラ」、TA-TUTE(ta=the...of,dash,beat,lay;tute=shove,push;(Hawaii)hela=to spread as the arms)、「例の・(雪を)掘り動かす・(腕を伸ばす)腕の代わりとなるもの(道具。雪篦)」(「タ」が「サ」と、「ヘラ」が「ベラ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]火。
この「サツピ」は、
「タ・ツヒ」、TA-TUHI(ta=the...of,dash,beat,lay;tuhi=draw,redden,glow,shine)、「例の・真っ赤に輝くもの(火)」(「タ」が「サ」と、「ツヒ」が「ツピ」となつた)
または「タ・ツ・アヒ」、TA-TU-AHI(ta=the...of,dash,beat,lay;tu=fight with,energetic;ahi=fire)、「例の・懸命に(擦って)起こす・火」(「タ」が「サ」と、「アヒ」の語頭のA音が脱落して「ヒ」から「ピ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]談話。
この「サツピラキ」は、
「タツ・ピピ・ラキ」、TATU-PIPI-RAKI(tatu=reach the bottom,be at ease,consent;pipi=not matured,yielding,chirp,squeak;raki=green leaves etc. on which the food is laid in a native oven)、「(緑の木の葉に包んだ)さまざまな料理のような・頂点に達した・おしゃべり(談話)」(「タツ」が「サツ」と、「ピピ」の反覆語尾が脱落して「ピ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]山小屋で腑分けをするとき、骨を刻んで煮ること。オオマメ(心臓)、キマメ(腎臓)は串にさし、火にあぶり、山神に供えます。
この「サツポ」は、
「タツ・パウ」、TATU-PAU(tatu=reach the bottom,be at ease,consent;pau=consumed,exhausted,denoting the complete or exhaustive character of any action)、「(骨まで)徹底的に煮るという・頂点に達した(料理)」(「タツ」が「サツ」と、「パウ」のAU音がO音に変化しテ「ポ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]木材の管流しをいう。
この「サナガラ」は、
「タ(ン)ガ・(ン)ガラ」、TANGA-NGARA(tanga=be assembled,row,tier;ngara=snarl)、「(木材を流す管状の)流路を連ねて・大きな音を出す(木材を流して行く。管流し)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サナ」と、「(ン)ガラ」のNG音がG音に変化して「ガラ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]猿。
この「サネ」は、
「タネ」、TANE(male,showing manly qualities,husband,eructate after food)、「人間に近い(性質を見せる)もの(猿)」
の転訛と解します。
[仙北]最下層の雪を根雪といい、中層の雪をサネユキという。
この「サネ(ユキ)」は、
「タネ」、TANE(male,showing manly qualities,husband,eructate after food)、「(食事の後の)げっぷをするように雪崩を起こすことがある(雪。根雪の上に積もった雪)」
の転訛と解します。
[仙北]断崖。
この「サマ」は、
「タハ・マ」、TAHA-MA(taha=side,edge,part;ma=white,clean)、「清らかな・(山の縁)断崖」(「タハ」のH音が脱落して「タ」から「サ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]しらふの顔。
この「サマヅラ」は、
「タマ・ツラハ」、TAMA-TURAHA(tama=son,man,emotion,desire,strong feeling;turaha=keep away,keep clear,open,wide)、「(強い意志を示した)きりっとした・(解放した)隠し立てのない(顔。しらふ)」(「タマ」が「サマ」と、「ツラハ」のH音が脱落して「ツラ」から「ヅラ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]共同の猟場。
この「サマテン」は、
「タ・マ・テナ」、TA-MA-TENA(ta=the...of,dash,beat,lay;ma=white,clean;tena=encourage,urge forward,inviting co-operation or giving encouragement)、「例の・清らかな・共同利用の場所(猟場)」(「タ」が「サ」と、「テナ」が「テン」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]クマがナラ、ブナの実を食べるとき、手でその木の枝を折って次々と後に枝を集めること。
この「サミオリ」は、
「タミ・オリ」、TAMI-ORI(tami=press down,supress,smother,food;ori=cause to wave to and fro,sway,move about)、「(木の実のついた枝を)折って・食べるためにあちこち動き回る(習性)」(「タミ」が「サミ」となった)
の転訛と解します。
[仙北・阿仁]鮫皮。
この「サメカワ」は、
「タ・マイ・カ・ワワ」、TA-MAI-KA-WAWA(ta=the...of,dash,beat,lay;mai=to indicate direction or motion towards or character in ralation to,to indicate such relation to the principal character of the story;ka=take fire,be lighted,burn;wawa=be scattered,be separated)、「(突進するように)泳ぎ続ける・習性がある(魚。鮫)・(体から)剥がして・乾燥したもの(皮。鮫皮)」(「タ」が「サ」と、「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」と、「ワワ」の反覆語尾が脱落して「ワ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]クマの舌。
この「サヨ」、「サヨウ」は、
「タヒ・アウ」、TAHI-AU(sweep,trim or smooth timber with an axe;au=firm,intense)、「しっかりと・(蜂蜜などを)舐めるもの(舌)」(「タヒ」のH音が脱落して「タイ」から「サイ」と、「アウ」のAU音がO音またはOU音に変化して「オ」または「オウ」となり、「サイ・オ」から「サヨ」、「サイ・オウ」から「サヨウ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]サルの頭蓋骨を乾燥し、黒焼きにして、寝小便の子に飲ませると効くといわれます。
この「サルノシャレコウベ」は、
「タル・ノ・チ・アレ・コウ・ペ」、TARU-NO-TI-ARE-KOU-PE(taru=shake,overcome;no=of;ti=throw,cast,overcome;are=open;kou=knob,stump,protuberance;pe=crushed,mashed,soft)、「(相手を)震撼させる(動物。猿)・の・野・晒しにして・(肉がなくなった)骨だけになった・頭蓋骨」(「タル」が「サル」と、「チ・アレ」が「シャレ」と、「ペ」が「ベ」となった)「チ・アレ・コウ・ペ」、TI-ARE-KOU-PE(ti=throw,cast,overcome;are=open;kou=knob,end,stump,protuberance;pe=crushed,soft,suppurating)、「(身体から切り離されて)打ち・捨てられ・(肉が)腐り果てた・(身体の)頂上の骨(髑髏)」(「チ」が「シ」となり、「シ・アレ」が「シャレ」と、「ペ」が「ベ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]百宅マタギが獲物の肉を神に供えるときに使うワラの皿。菅江真澄『奥の手ぶり』の中に十二月十二日の山の神の祭りに供える容器としてでてきます。
この「サラムスビ」は、
「タラ・ムツ・ピヒ」、TARA-MUTU-PIHI(tara=loosen,separate;mutu=brought to an end,left off,cropped,having the end cut off,come or gone without exception,completed;pihi=cut,split)、「(食物を)個々に分配する(容器。皿)で・(獲物の皮・肉などを切り分ける)解体の・最後の仕上げとして切り取られたもの(肉を神に供えるもの)」(「タラ」が「サラ」と、「ムツ」が「ムス」と、「ピヒ」のH音が脱落して「ピ」から「ビ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]サルが口の中に食べたものを入れ、頬に食いだめすること。
この「サルポ」は、
「タル・ポア」、TARU-POA(taru=shake,overcome;poa=food,bait)、「(相手を)震撼させる(動物。猿)の・食べ物(の食べ方)」(「タル」が「サル」と、「ポア」の語尾のA音が脱落して「ポ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]沢勢子。クマ狩りのとき下勢子ともいい、沢に沿うとか川に沿うとか、クマの追い出しの任務につく勢子。
この「サワセイゴ」は、
「タワ・タイ・(ン)ガウ」、TAWHA-TAI-NGAU(tawha=burst open,crack;tai=tide,wave,anger,rage violence;ngau=bite,hurt,attack)、「(山の割れ目)沢(に沿って)・荒々しく・追い立てる(人々。沢勢子)」(「タワ」が「サワ」と、「タイ」のAI音がEI音に変化して「テイ」から「セイ」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]柄をヘラに斜に差し込んでいるスコップの原始型の雪篦。長さ40センチくらい。334サツテベラともいいます。
この「サワテ」は、
「タ・ワタイ」、TA-WHATAI(ta=the...of,dash,beat,lay;whatai=stretch out the neck,gaze intently)、「例の・(ヘラの)頸を伸ばしたもの(雪篦。サワテ)」(「タ」が「サ」と、「ワタイ」のAI音がE音に変化して「ワテ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]雪。
この「サワブクロ」は、
「タワ・プク・ラウ」、TAWHA-PUKU-RAU(tawha=burst open,crack;puku=swelling,abdomen,entrails;rau=catch in the net,entangle,gather into a basket)、「(山の割れ目)沢の・膨らみに・しこたま溜め込むもの(雪)」(「タワ」が「サワ」と、「プク」が「ブク」と、「ラウ」のAU音がO音に変化して「ロ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]楯(たて)。楯(たて)については、国語篇(その十九)の463タテの項を参照してください。
この「サンカネ」は、
「タネ・カネヘ」、TANE-KANEHE(tane=male,showing manly qualities,husband;kanehe=desire,affection,regretful,yearning)、「(男らしい)勇気を見せつけたいと・切望しているもの(クマを仆す槍)」(「タネ」が「サン」と、「カネヘ」のH音が脱落して「カネ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海・岩手]テン・イタチ・サルまたは山ウサギの頭を焼いた粉薬で脳病の薬とされます。
この「サンコウヤキ」は、
「タ(ン)ガ・コウ・イア・キヒ」、TANGA-KOU-IA-KIHI(tanga=be assembled,row,division;kou=knob,stump,protuberance;ia=indeed;kihi=cut off,destroy completely)、「(テン・イタチ・サルまたは山ウサギの)頭蓋骨を・まとめて・実に・(完全に殺す)焼いたもの」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サン」と、「イア」が「ヤ」と、「キヒ」のH音が脱落して「キ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海・岩手]塩。または子を受胎しているメスのカモシカ。
この「サンゴ」は、
「タ(ン)ガ・(ン)ガウ」、TANGA-NGAU(tanga=be assembled,row,company;ngau=wander,go about,raise a cry,make a disturbance)、「塩っぱさや辛さが複合して・悲鳴を上げるもの(塩)」または「(胎児と)合体して・(山中を)徘徊するもの(メスのカモシカ)」(「タ(ン)ガ」」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サン」と、「(ン)ガウ」」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]山神肝。クマの肝臓十二片を串に刺して焼き、皿に盛り、山上に供える。その後全員でこれを食べます。
この「サンジキモ」は、
「タ(ン)ギ・チ・キ・マウ」、TANGI-TI-KI-MAU(tangi=sound,weep,moarn,lamentation;ti=throw,cast;ki=full,very;mau=fixed,continuing,expressing feelings of horror or admiration,with passive termination)、「(クマの霊魂を送り、次ぎの豊猟を願う)まじないの言葉を・かけた・全く・(人と同じく動物が感ずる恐怖や賛嘆などの)感情や度胸を司る臓器(肝)」(「タ(ン)ギ」のNG音がN音に変化して「タニ」から「サン」と、「チ」が「ジ」と、「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]初マタギを迎える儀式。
この「サンゾクダマリ」は、
「タネ・ト・ク・タマ・アリ」、TANE-TO-KU-TAMA-ARI(tane=male,showing manly qualities,husband;to=drag,open or shut a door or a window;ku=silent;tama=son,man,emotion,desire,strong feeling;ari=clear,visible,white,appearance)、「(男らしさ)勇気をみせるように・静かに・行動し・強い意志を・明らかにする(行動で証明する儀式)」(「タネ」が「サン」と、「ト」が「ゾ」と、「タマ」の語尾のA音と「アリ」の語頭のA音が連結して「タマリ」から「ダマリ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]マタギが山の禁制を破って受ける私刑。368シカリの指揮の下、雪上にサンダラボッチ(桟俵)一枚を敷いた上に裸体で座らせ、もう一枚のサンダラボッチを頭上に載せ、ワッパ(飯器)で水を三十三回かけるものです。
この「サンダラゴリ」、「サンダラボッチ」は、
「タ(ン)ガ・タラ・(ン)ガウ・リリ」、TANGA-TARA-NGAU-RIRI(tanga=be assembled,row;tara=loosen,separate;ngau=bite,hurt,act upon,attack;riri=be angry,quarrel,combat)、「(俵の両端に)重ねる・(食物を)個々に分配する(皿のようなもの(桟俵)を用いた制裁で)・非難しながら・(制裁を加える)桟俵の上から水を掛ける(制裁の方法)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サン」と、「タラ」が「ダラ」と、「(ン)ゴリ」のNG音がG音に変化して「ゴリ」となった)
「タ(ン)ガ・タラ・ポチ」、TANGA-TARA-POTI(tanga=be assembled,row;tara=loosen,separate;poti=angle,corner)、「(俵の両端に)重ねる・(食物を)個々に分配する(皿のようなものを)・(俵の両)端(に置くもの。桟俵)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サン」と、「タラ」が「ダラ」と、「ポチ」が「ボッチ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]お産をして一週間目の家に行き、食物を食べること。
この「サンビクウ」は、
「タ(ン)ガ・ピヒ・クフ」、TANGA-PIHI-KUHU(tanga=be assembled,row,company of persons;pihi=spring up,begin to grow;kuhu=insert,conceal,join a company)、「(産後一週間後に)起き上って・仲間入りをした(人を囲む)・仲間の集い」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サン」と、「ピヒ」のH音が脱落して「ビ」と、「クフ」のH音が脱落して「クウ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]種子類を蒔いてから三十三日目をいう。
この「サンビラキ」は、
「タヌ・ピヒ・ラキ」、TANU-PIHI-RAKI(tanu=bury,plant,smother with;pihi=spring up,begin to grow;raki=green leaves etc.)、「埋めた(種子が)・緑の葉を・伸ばして生育を始める(日)」(「タヌ」が「サン」と、「ピヒ」のH音が脱落して「ビ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]クマの腸を入れた汁。(この「サンベ」をアイヌ語(サンペ sampe 心臓、胃、肝)と解する説もありますが、この材料は腸で心臓や胃、肝ではなく、また、他のマタギ語がすべて縄文語であるのに、これだけがアイヌ語というのはあまりにも不自然です。これに対応する縄文語があるかぎりは、縄文語と解すべきものと考えます。)
この「サンベジル」は、
[縄文語]「タ(ン)ガ・ペ・チ・ル」、TANGA-PE-TI-RU(tanga=be assembled,row,tier;pe=crushed,mashed,soft;ti=throw,cast,overcome;(Hawaii)lu=to scatter,to drip as water)、「(列のような)長い腸を・細断した(煮た)・(水のように)滴り・落ちるもの(料理。汁)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サン」と、「ペ」が「ベ」と、「チ」が「ジ」となつた)
[縄文語とアイヌ語の複合語]「サンペ・チ・ル」、SAMPE-TI-RU((Aynu)sampe=心臓、胃、肝;ti=throw,cast,overcome;(Hawaii)lu=to scatter,to drip as water)、「心臓(または胃、肝)を煮た・(水のように)滴り・落ちるもの(料理。汁)」(「サンペ」が「サンベ」と、「チ」が「ジ」となつた)
の転訛と解します。
[仙北]霰。
この「サンマル」は、
「タ(ン)ガ・マ・ルイ」、TANGA-MA-RUI(tanga=be assembled,row,tier;ma=white,clean;rui=shake.scatter,cause to fall in drops)、「清らかな・列をなして・落ちて来る粒(霰)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サン」と、「ルイ」の語尾のI音が脱落して「ル」となった)
の転訛と解します。
「シ」
[阿仁]クマの胆を干して作るときに使用する仕上板と篦。
この「シアゲイタ」、「ヘラ」は、
「チア・(ン)ガイ・イ・タハ」、TIA-NGAI-I-TAHA(tia-stick in,adorn by sticking in feathers,persistency;ngai=tribe or clan;i=past tense,from,beside,with,by,at;taha=side,margin,edge)、「(形を整えて)長期保管が可能な製品にする・ためのもの(道具)の・(木の板の)面を・利用するもの」(「チア」が「シア」と、「(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ゲ」と、「タハ」のH音が脱落して「タ」となった)
「ハエ・ラ」、HAE-RA(hae=slit,tear,cut,split;ra,rara=twig,small branch)、「(クマの胆を板や他のものから)離す・(のに用いる小枝)棒(へら)」(「ハエ」のAE音がE音に変化して「ヘ」となった)
の転訛と解します。
[雄勝]クマの胆を作るときの仕上型。
この「シアゲカタ」は、
「チア・(ン)ガイ・カタ」、TIA-NGAI-KATA(tia=stick in,adorn by sticking in feathers,persistency;ngai=tribe or clan;kata=laugh,opening of shellfish)、「(形を整えて)長期保管が可能な製品にする・ためのもの(道具)で・(開いた貝のように)上下二面を利用するもの」(「チア」が「シア」と、「(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ゲ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]地面にあるクマ穴。
この「ジアナ」は、
「チ・アナ」、TI-ANA(ti=throw,cast,overcome;ana=cave)、「地面に(放り出された)うち捨てられた・穴」(「チ」が「ジ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]山にカネ餅や煎り豆を入れて持って行く袋。
この「ジエン(ブクロ)」は、
「チエ(ン)ガ」、TIENGA(a flax basket for holding karaka berries while cooking in the earth-oven)、「(カラカベリーの実を入れる)植物製の(籠。袋)」(NG音がN音に変化して「チエナ」から「ジエン」となった)
「」、、「()()」()
の転訛と解します。
[岩手]344サミオリに同じ。
この「シオリ」は、
「チ・オリ」、TI-ORI(ti=throw,cast,overcome;ori=cause to wave to and fro,sway,move about)、「(木の実のついた枝を)折って・食べるためにあちこち動き回る(習性)」(「チ」が「シ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海・雄勝・岩手]シカリ(マタギの指導者)。415スカリともいう。
この「シカリ」は、
「チカ・リ、TIKA-RI(tika=straight,direct,just,fair;ri=protect,bind)、「正しい狩猟の方法を・身に付けている指導者(または正しい方法で・仲間を保護する指導者)」(「チカ」が「シカ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]ウサギ。
この「シガネ」は、
「チ(ン)ガ・ネイ」、TINGA-NEI(tinga=likely;nei,neinei=stretched forward,reaching out,wagging)、「(体を)思い切り伸ばして飛び跳ねる・ような(動物。兎)」(「チ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「チガ」から「シガ」と、「ネイ」が「ネ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海・雄勝・岩手]地熊。その土地の山々にいて、遠くの山々に出歩かないクマ。
この「ジグマ」は、
「チア」、TIA(stick in,adorn by sticking in feathers,persistency)、「(その土地に)永続している(クマ)」(語尾のI音が脱落して「ジ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]重野流(派)。三つあるマタギの作法流儀(小玉流、重野流、青葉流)の一つ。
この「シゲノハ」は、
「チ(ン)ゲイ・ノ・ハ」、TINGEI-NO-HA(tingei=unsettled,ready to move;no=of;ha=breath,sound or tone of voice)、「一箇所に定住しない(山々を渡って歩く)マタギ・の・(呪文を唱える際の)声の出し方(流儀)」(「チ(ン)ゲイ」のNG音がG音に、語尾のI音が脱落して「チゲ」から「シゲ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]かんじきの後の輪の名称。
この「シコ」、「シワリ」、「シツコ」は、
「チ・カウ」、TI-KAU(ti=throw,cast,overcome;kau=swim,wade)、「(雪を)はね除け・(雪の中を泳ぐように)歩く(ためのもの)」(「チ」が「シ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)
「チワ・リ」、TIWA-RI(tiwa=tiwha=patch,spot,adorn with rings of shell;ri=screen,protect,bind)、「(かんじきに)装着した・(飾り輪のような)輪」(「チワ」が「シワ」となった)
「チ・ツ・カウ」、TI-TU-KAU(ti=throw,cast,overcome;tu=fight with,energetic;kau=swim,wade)、「(雪を)はね除け・懸命に・(雪の中を泳ぐように)歩く(ためのもの)」(「チ」が「シ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]クマの腰骨の肉で非常に美味とされます。
この「シコヅキ」は、
「チコ・ツツキ」、TIKO-TUTUKI(tiko=settled upon as by frost,stand out,protrude;tutuki=reach the farthest limit,extend,be completed)、「(腰骨に)張り付いている・極限に達している(美味な)」(゜チコ」が「シコ」と、「ツツキ」の反覆語頭が脱落して「ヅキ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]クマの胆を乾燥すると生胆に対し四分の三以下に減ることをいいます。
この「シサベリ」は、
「チタハ・イリ」、TITAHA-IRI(titaha=lean to one side,decline as the sun,pass on one side,vary from;iri=be elevated on something,rest upon,hang)、「(クマの胆を放置して)乾燥して・減量した(量)」(「チタハ」の語尾のA音と「イリ」の語頭のI音が連結してE音に変化して「チタヘリ」から「シサベリ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]カモシカを追う狩りのうまい地犬(マタギ犬)が、カモシカの背に馬乗りになって噛みつくこと。
この「シシ(イヌノウマノリ)」は、
「チチ」、TITI(=ti=squeak,make a sharp inarticulate sound,tingle)、「鋭い声で吠える(追い立てる)(犬)」(「チチ」が「シシ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]クマのこと。クマシシという地域もあります。
この「シシノ(クマ)」は、
「チチ・(ン)ガウ」、TITI-NGAU(ti,titi=squeak,make a sharp inarticulate sound,tingle;ngau=bite,hurt,attack)、「鋭い声で咆吼し・襲ってくる(クマ)」(「チチ」が「シシ」と、「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]カモシカの臓物の塩辛。
この「シシノヨドミツクリ」は、
「チチ・ノ・イオ・ト・ミミ」、TITI-NO-IO-TO-MIMI-TU-KURI(titi-go astray;no=of;io=muscle,strand of a rope,strip;to=drag,be pregnant;mimi=urine,stream;tu=stand,settle;kuri,kurikuri=fusty,evil smelling)、「(山中を)徘徊する(動物。カモシカ)・の・(口から食べたものを糞として尻へ)押し・流す・長い管(くだ。内臓。またその内容物。それを材料として作った)・嫌な臭いの・するもの(塩辛)」(「チチ」が「シシ」と、「イオ」が「ヨ」と、「ト」が「ド」と、「ミミ」の反覆語尾が脱落して「ミ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]狩りの勢子。
この「シタカリ」は、
「チタカ・リ」、TITAKA-RI(titaka=wobble,move about irregularly;ri=screen,protect,bind)、「ゆらゆらと揺れる・衝立のような(列をなした人々。勢子)」(「チタカ」が「シタカ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]角館では「スクミ雉射ち」という。十二月から一月の新雪の頃雉射ちに出て、雉が居ると足を止めたり視線を合わせないようにして、鉄砲を持ったままユラゴ(体を揺さぶる)して歩き回り、その調子が合ったところで射ち放し、それに命中してもユラゴしながら次の雉を射つという方法をとるものです。
この「シタキジ」は、
「チタハ・キ・チ」、TITAHA-KI-TI(titaha=lean to one side,decline as the sun,pass on one side,vary from;ki=say,tell,call,full,very;ti=throw,cast,overcome)、「(鋭い声で周囲に)言葉を・投げかける(鳥。雉)の・傍らを通り過ぎる(猟法)」(「チタハ」のH音が脱落して「シタ」と、「「チ」が「ジ」となった)
「イ・ウラ(ン)ガ・(ン)ガウ」、I-URANGA-NGAU(i=past tense,from,beside,with,by,at,along;uranga=act or circumstance etc. of becoming firm,place of arrival;ngau=wander,go about)、「体の・動きを徐々に止めながら・歩き回る()()」(「イ」のI音と「ウラ(ン)ガ」の語頭のU音が連結し、名詞形語尾のNGA音が脱落して「ユラ」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)
の転訛と解します。
[仙北・鳥海]糞。大便。
この「シダミ」は、
「チ・タミ」、TI-TAMI(ti=throw,cast;tami=press down,suppress,smother)、「力んで・放出するもの(糞。大便)()」(「チ」が「シ」と、「タミ」が「ダミ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]大便すること。
この「シダミホログ」は、
「チ・タミ・ホロ・(ン)グ」、TI-TAMI-HORO-NGU(ti=throw,cast;tami=press down,suppress,smother;horo=fall in fragments,drop off or out;ngu=silent,greedy,moan)、「力んで・放出するもの(糞。大便)を・するすると・落とす(大便をする)」(「チ」が「シ」と、「タミ」が「ダミ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]樹から雪幕となって落ちる雪のこと。
この「シヅレ」は、
「チ・ツレ」、TI-TULE(ti=throw,cast;(Futuna)tule=bend,bow)、「垂れ下がつた(雪が)・離れて落ちる」(「チ」が「シ」と、「ツレ」が「ヅレ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]木々にかかっている樹氷を落とす風をいう。
この「シヅレオトシ」は、
「チ・ツレ・アウト・チ」、TI-TULE-AUTO-TI(ti=throw,cast;(Futuna)tule=bend,bow;auto=trailing behind,slow,drag out,protract;ti=throw,cast)、「垂れ下がつた(雪で)・離れて落ちるものが・(風に)引っ張られて・落ちる(その風)」(「チ」が「シ」と、「ツレ」が「ヅレ」と、「アウト」のAU音がO音に変化して「オト」と、「チ」が「シ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]樹木の枝や股に大きくかたまりとなって残っている雪。
この「ジドヌ」は、
「チ・タウ・ヌイ」、TI-TAU-NUI(ti=throw,cast;tau=come to rest,settle down;nui=big,many)、「(木の枝などに)放り出されて・休んでいる・大きな(塊の雪)」(「チ」が「ジ」と、「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ド」と、「ヌイ」が「ヌ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]麻縄。長さほぼ四尺ぐらいのもの。
この「シナリ」は、
「チ・(ン)ガリ」、TI-NGARI(ti=throw,cast;ngari=engari=it is better,but,on the contrary)、「ちょうど・頃合いの(使い勝手のよい長さの。麻縄)」(「チ」が「シ」と、「(ン)ガリ」のNG音がN音に変化して「ナリ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]ヒラ(山腹斜面)を横切って行くことで、主に積雪の斜面を横切ることをいう。
この「シナル」、「ヒラ」は、
「チ・(ン)ガル」、TI-NGARU(ti=throw,cast,overcome;ngaru=wave of the sea,corrugation)、「波のような(積雪面を)・乗り越えて行く」(「チ」が「シ」と、「(ン)ガル」のNG音がN音に変化して「ナル」となった)
「ヒラ」、HIRA(numerous,great,multitude,widespread)、「広く開けた場所(山腹斜面)」
の転訛と解します。
[仙北]山腹斜面の積雪につけた道。
この「シネミチ」は、
「チネイ・ミ・チ」、TINEI-MI-TI(tinei=put out,quench,extinguish,destroy;mi=river,stream;ti=throw,cast,overcome)、「(通つた後の積雪や風などで)跡が消える・水が(川のように流れて)・平らにした(跡のような。道)」(「チネイ」の語尾のI音が脱落して「チネ」から「シネ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]クマ狩りのとき、クマのいる山手を絡むこと。
この「シネヤル」は、
「チネイ・アル」、TINEI-ARU(tinei=put out,quench,extinguish,destroy;aru=follow,pursue)、「(クマの)消えた(足跡を)・追って行く」(「チネイ」が「シネイ」となり、その語尾のI音と「アル」の語頭のA音が連結して「ヤ」となり、「シネヤル」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]鉈。
この「シバウチ」は、
「ヒパ・ウチ」、HIPA-UTI(hipa=pass,exceed in length(whakahipahipa=irregular,of different lengths or heights);uti=bite)、「(大小長短)さまざまの(枝条。柴)を・(噛み切る)叩き切るもの(鉈)」((PPN)SIPA「シパ」のS音がH音に変化して「ヒパ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]柴攻め。マタギがクマ穴を発見すると、入り口に焚き火をしておいて、生の雑柴を伐り集め、これをクマに差し伸べる。するとクマは次々と柴を抱き込んで、ついに暴れても穴から出られないほど雑柴を抱く。そこをタテ(槍)でついて捕らえる。
この「シバゼメ」は、
「ヒパ・タイ・メ」、HIPA-TAI-ME(hipa=pass,exceed in length(whakahipahipa=irregular,of different lengths or heights);tai=tide,wave,anger,rage,violence;me=if,as if,like)、「(大小長短)さまざまの(枝条。柴)を(用いて)・(相手に対し)荒れ狂った・ような行動をとる(柴攻め)」((PPN)SIPA「シパ」のS音がH音に変化して「ヒパ」と、「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「ゼ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]両側崖の狭い所。
この「シバリ」は、
「チ・パリ」、TI-PARI(ti=throw,cast;pari=cliff,precipice)、「崖(の中)に・放り出されている(場所)」(「チ」ガ「シ」と、「パリ」が「バリ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]死の穢れ。死忌。
この「シビ」は、
「チヒ」、TIHI(sough,moan of the wind)、「(海・風・木などのうなり、悲しげな音)死の穢れ」(「チヒ」が「シビ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]自在鉤を釣り上げること。
この「ジマギゲル」は、
「チ・マキ・(ン)ゲル」、TI-MAKI-NGERU(ti=throw,cast;maki=a prefix giving the force that an action is done spontaneousely,on impulse,or for one's own benefit;ngeru,ngerungeru=smooth,soft,sleek)、「急に・スムースに・(物事を)行う(自在鉤を動かす)」(「チ」が「ジ」と、「マキ」が「マギ」と、「(ン)ゲル」のNG音がG音に変化して「ゲル」となった)
の転訛と解します。
[岩手・仙北]お菜入れ。沢内では「シヤ」といい、仙北でもおかずを「シヤコ」といいます。
この「シヤイレ」、「シヤ」、「シヤコ」は、
「チア・イ・レイ」、TIA-I-REI(tia=stick in,adorn by sticking in feathers;i=past tense,from,with,beside,with,by,at;rei=leap,rush,run)、「(食物に花を添えるような)お菜が・そこに・(走り込む)入るもの(お菜入れ)」(「チア」が「シャ」と、「レイ」が「レ」となった)
「チア(ン)ガ」、TIANGA(a flax basket for holding karaka berries while cooking in the earth-oven)、「(調理用の籠)お菜入れ」(名詞形語尾のNGA音が脱落して「シャ」となった)
「チア(ン)ガ・カウ」、TIANGA-KAU(tianga=a flax basket for holding karaka berries while cooking in the earth-oven;kau=alone,bare,empty,only)、「空の・(調理用の籠)お菜入れ(容器)」(「チア(ン)ガ」の名詞形語尾のNGA音が脱落して「シャ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]集まること。
この「ジヤジヨ」は、
「チア・チオ」、TIA-TIO(tia=stick in,adorn by sticking in feathers;tio=cry,call)、「(人の)名を呼びながら・(杖を突いて)集まる」(「チア」が「ジャ」と、「チオ」が「ジョ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]幸の身という意で獣の肉をいうが、普通はクマの肉を指す。
この「シヤチノミ」は、
「チア・チノ・ミイ」、TIA-TINO-MII(tia=stick in,adorn by sticking in feathers;tino=essentiality,self,reality,exact,quite,very;(Hawaii)mii=attractive,good-looking)、「綺麗で・実に・魅力的なもの(獣肉。クマの肉)」(「チア」が「シャ」と、「ミイ」が「ミ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海]十二山神様・十二様。山の神の呼称。
[仙北]十二の餅。猟に行く人は正月に十二餅を供える。春にそれを持って行くと怪我がないといわれています。女性は絶対にたべてはならないとされます。
[阿仁]十人小屋。マタギは、十二の数字を嫌い、小屋には十二人入らないのが決まりです。もしも十二人のときは、木の人形一体をを置き、十三人いることにします。山の神が十二人の子を産んだという産忌からです。
[雄勝・鳥海]獲物下げのこと。山ウサギを捕って下げるときによく使うもので、穴を開けて綱をつけた細い板を背中に背負うものです。モリコともいいます。
この「シヨイキ」、「モリコ」は、
「チホイ・キ」、TIHOI-KI(tihoi=diverge,wander,insert such divergent threads in woof of a cloak etc.;ki=full,very)、「(獲物を縛る)分岐した綱を・たくさん付けた(獲物下げ)」(「チホイ」のH音が脱落して「チオイ」から「ショイ」となった)
「モリ・カウ」、MORI-KAU(mori=fondle,caress;kau=alone,bare,empty,only)、「(獲物を)大事に扱う・空の道具(獲物下げ)」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]巻き狩りを終わり、クマをとったことを仲間に知らせるために叫ぶ言葉。
この「チオ・プ」は、
「チオ・プ」、TIO-PU(tio=cry,call;pu=blow gently,pipe,flute(whakapu=make a long continuous wail or sound,howl as a dog))、「長く穏やかに・叫ぶ」(「チオ」が「ショウ」と、「プ」が「ブ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]尾根の近くをいう。
この「ジヨウホウ」は、
「チ・ハウハウ」、TI-HAUHAU(ti=throw,cast,overcome;hauhau=cool,coolness)、「寒さに・打ちひしがれる場所(尾根の近く)」(「チ」が「ジ」と、「ハウハウ」の語頭のH音が脱落し、AU音がOU音に変化して「オウホウ」となり、「ジ・オウホウ」から「ジョウホウ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]白色の雪の傾斜面。
この「シラケ」は、
「チヒ・ラケ」、TIHI-RAKE(tihi=summit,lie in a heap;rake=bare,barren)、「(一面の雪の)広漠とした・高い場所に居る(雪の傾斜面)」(「チヒ」のH音が脱落しテ「チ」から「シ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]庄内山の屏風と呼ばれるクラ(崖)にいた何年たつたか分からない全身白毛の大猿のこと。
この「シラケ(ザル)」、「クラ」は、
「チヒ・ラケ」、TIHI-RAKE(tihi=summit,lie in a heap;rake=bare,barren)、「荒涼とした・(屏風の崖の)高い場所に居る(猿)」(「チヒ」のH音が脱落しテ「チ」から「シ」となった)
「クラエ」、KURAE(project,be prominent,headland)、「突出した(高所。断崖)」(語尾のE音が脱落し手「クラ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]麻布の背負い袋。233クラゲヤに同じ。
この「シリブクロ」は、
「チリ(ブクロ)」、TIRI(throw or place one by one,scatter,stack)、「一つづつ(中に)入れる(袋)」(「チリ」が「シリ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]火縄銃。
この「シルベ」、「シロビ」、「スルベ」は、
「チ・ル・パエ」、TI-RU-PAE(ti=throw,cast,overcome;ru=shake,scatter,quiver;pae=lie across,be thrown down,kill or snare birds)「震動して・(弾を)発射して・(獲物を)射殺するもの(火縄銃)」(「チ」が「シ」と、「パエ」のAE音がE音に変化して「ベ」となった)
「チ・ロ・ピヒ」、TI-RO-PIHI(ti=throw,cast,overcome;ro=go,=roto=inside;pihi=spring up,begin to grow,shoot)「(弾を)発・射して・(獲物を)射殺するもの(火縄銃)」(「チ」が「シ」と、「ピヒ」のH音が脱落して「ビ」となった)
の転訛と解します。
「ツ・ル・パエ」、TU-RU-PAE(tu=fight with,energetic;ru=shake,scatter,quiver;pae=lie across,be thrown down,kill or snare birds)「懸命に・震動して・(獲物を)射殺するもの(火縄銃)」(「チ」が「シ」と、「パエ」のAE音がE音に変化して「ベ」となった)
[雄勝]雪崩後に雪が消えて土の出た斜面をいう。
この「シロテ」は、
「チ・ラウ・テ」、TI-RAU-TE(ti=throw,cast,overcome;rau=project,extend;te=crack)、「(雪面の中の割れ目)露出した地面が・現れ・投げ出されているところ」(「チ」が「シ」と、「ラウ」のAU音がO音に変化して「ロ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]風。
この「シロベ」は、
「チ・ラウ・パエ(ン)ガ」、TI-RAU-PAENGA(ti=throw,cast,overcome;rau=catch as in a net,entangle,confused;paenga=place where anything is laid on one side or across,boundary)、「(獲物が)どこにいるか(の判断)に・迷いを・与えるもの(風)」(「チ」が「シ」と、「ラウ」のAU音がO音に変化して「ロ」と、「パエ(ン)ガ」」のAE音がE音に変化し、名詞形語尾のNGA音が脱落して「ベ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]神酒一献。鳥海マタギの山神祭りの食事作法の言葉で、まず古参のマタギが「神酒を一献」というと、若いマタギが谷川から汲んできた清水を毒味の意味で先に飲み、そして「おかそしとぼせ」といい、皆が飯椀を出し、谷川の水を酌してもらい、「再盞酌く」といって二杯目を注ぎ、三盞の時に骨などを煮た汁が料理として出され、七盞、九盞と杯を重ねて祭りを終えます。
この「シンシュイツコン」、「オカソシボトセ」は、
「チノ・チウ・イツ・コナ」、TINO-TIU-ITU-KONA(tino=essentiality,self,reality,exact,very;tiu=soar,wander,swing;itu=side;kona=to difuse,spread abroad)、「極めて重要な(儀式の)・(清水を)回して・周囲に・広める(広汎な人々に飲ませる。儀式)」(「チノ」が「シン」と、「チウ」が「シュ」と、「コナ」ガ「コン」となった)
「オ・カハ・トチ・ポト・テ」、O-KAHA-TOTI-POTO-TE(o=the...of;kaha=rope,boundary,edge;toti=limp,halt;poto=short,denoting the exhaustive character of an action etc. showing that all the things spoken of have been dealt with;te=particle used with verbs to make an emphatic statement)、「例の(清水を入れた容器の)・縁を・(傾けるのを)止めて・少し・だけ(注ぐ)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「トチ」が「ソシ」と、「ポト」が「ボト」と、「テ」が「セ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]皮を剥いだ丸太。
この「シンロ」は、
「チナ・アロ」、TINA-ARO(tina=fixed,satisfied,exhausted,overcome;aro=front,face,desire)、「表面の・皮を剥いだ(丸太)」(「チナ」の語尾のA音と「アロ」の語頭のA音が連結して「チナロ」から「シンロ」となった)
の転訛と解します。
「ス」
[阿仁]顔。
この「スアツツラ」は、
「ツ・アツ・ツラ」、TU-ATU-TURAHA(tu=stand,settle;atu=to indicate a direction or motion onwards,to indicate reciprocated action;tura,turatura=molest,spitefull)、「度重なる・悩みが・そこに宿るもの(顔)」(「ツ」が「ス」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]耳。
この「スイトリ」は、
「ツイ・タウリ」、TUI-TAURI(tui=pierce,thread on a string,lace,sew;tauri=fillet,band,bind)、「(そこに)穴を開けて・(飾りの輪を)付けるもの(耳)」(「ツイ」が「スイ」と、「タウリ」のAU音がO音に変化して「トリ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]山ウサギの腸に詰まっている糞。これをスカと呼んで食べます。
この「スカ」は、
「ツカハ」、TUKAHA(strenuous,vigorous,passionate)、「精力的(になる。薬)」(H音が脱落して「ツカ」から「スカ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]汚れる。
この「スガヘル」は、
「ツ(ン)ガ・ヘル」、TUNGA-HERU(tunga=circumstance or time etc. of standing,foundation;heru=wheru=wipe the anus after evacuation,inactive,weary)、「用便の跡にお尻をなでた・ような状態になる(汚れる)」(「ツ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「ツガ」から「スガ」となった)
の転訛と解します。
[仙北・阿仁]猟に明るい年功者で、猟の際の指導者。シカリともいう。彼の役目は、猟の始めににあたって命令を下し、各マタギの役割を決め、獲物がが完全に手中に入り、撃ち留めた瞬間に、「シヨウブ」と三回叫び仲間に知らせることにあります。
この「スカリ」は、
「ツカハ・リ、TUKAHA-RI(tukaha=strenuous,vigorous,passionate;ri=protect,bind)、「多大な勇気と努力を・身に付けている指導者)」(「ツカハ」のH音が脱落して「ツカ」から「スカ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]杉かんじき。昔安倍貞任は鴉の年の生まれ(?)で、昼は杉のかんじきを履いて飛び歩いたので八幡太郎義家はどうしても討てなかったが、貞任の娘と恋仲になり姫から貞任が鴉の生まれで夜は何も見えないことを聞き、夜襲してようやく討伐した。だから杉のかんじき(かんじきについては184カンジキの項を参照してください。)は履くものではないと伝えられています。
この「スギ(カンジキ)」は、
「ツ(ン)ギ」、TUNGI(set a light to,kindle,burn)、「(その葉または葉の付いた枝が)灯りをともす(のに好適な木)」(NG音がG音に変化して「ツギ」から「スギ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]戸沢マタギの夏の沢漁法。澱んだところに遊んでいる雑魚(イワナ・ヤマベ・クキ)を川の下手に網を張り、上流から084ウで追い込んで捕るもの。084ウ・ウズカイ・ウザオ・スクの項を参照してください。
この「スク」は、
「ツク」、TUKU(let go,leave,send,present)、「(魚を網に)追い込む」(「ツク」が「スク」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]休憩。寝る。
この「スコル」は、
「ツ・カウ・ルル」、TU-KAU-RURU(tu=stand,settle,fight with,energetic;kau=kau o te kanohi=pupil of the eye;ruru=tie together,enclose,draw closer together)、「ひたすら・瞳を・閉じようとする(寝る。休憩)」(「ツ」が「ス」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」と、「ルル」の反覆語尾が脱落して「ル」となった)
の転訛と解します。
[仙北]水を切ること。
この「スダラガス」は、
「ツ・タラ・(ン)ガツ」、TU-TARA-NGATU(tu=stand,settle,fight with,energetic;tara=loosen,separate,brisk;ngatu=crushed,mashed)、「懸命に・粉々にして・(水分を)分離する(水を切る)」(「ツ」が「ス」と、「タラ」が「ダラ」と、「(ン)ガツ」のNG音がG音に変化し「ガツ」から「ガス」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]擂り粉木。
この「ステボ」は、
「ツテ・ポウ」、TUTE-POU(tute=shove,push,nudge;pou=post,pole,stake)、「こね回す・棒(擂り粉木)」(「ツテ」が「ステ」と、「ポウ」が「ボ」となつた)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北・鳥海]猿。津軽マタギは、「シネ」と呼びます。
この「スネ」、「シネ」は、
「ツ・ネイネイ」、TU-NEINEI(tu=stand,settle,fight with,energetic;neinei=stretched forward,reaching out,wagging,vacillating,bobbing up and down)、「懸命に・はしゃぎ回っている(動物。猿)」(「ツ」が「ス」と、「ネイネイ」の反覆語尾が脱落して「ネイ」から「ネ」となった)
「チネイネイ」、TINEINEI(unsettled,ready to move,confused,disordered)、「(一箇所に落ち着かない)常に移動する(習性がある動物。猿)」(反覆語尾が脱落して「チネイ」から「シネ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]脛叩き。カモシカの足を326サツキヤ(小長柄)で叩いてとること。
この「スネタタキ」は、
「ツ・ネヘ・タタ・キ」、TU-NEHE-TATA-KI(tu=stand,settle;nehe=rafter of a house;tata=dash down,beat down,strike repeatedly;ki=full,very)、「屋根の垂木に・相当するもの(カモシカの足の脛)を・(動けなくなるまで)十分に・叩きのめす」(「ツ」が「ス」と、「ネヘ」のH音が脱落して「ネ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]猿の皮。「スネ」は421スネ(猿)と同じです。
この「(スネノ)ソツカ」は、
「ト・ツ・カ」、TO-TU-KA(to=drag;tu=stand,settle,fight with,energetic;ka=take fire,be lighted,burn)、「(体から)剥いで・火にあてて・乾燥したもの(猿の皮)」(「ト」が「ソ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]マタギの基地となる山小屋。
この「スノ」は、
「ツ・(ン)ガウ」、TU-NGAU(tu=stand,settle;ngau=wander,go about)、「(そこに)住み・(猟に)出歩くところ(山小屋)」(「ツ」が「ス」と、「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]マタギが狩りに出かけるとき朝に行う儀式の一つ。「スノ」は、424スノと同じです。
この「(スノ)イワイ」は、
「イ・ワイ」、I-WHAI(i=past tense,from,beside,with,by;whai=follow,pursue,perform an incantation or rite)、「(獲物の追跡が成功するように)呪文を・唱える(儀式)」
の転訛と解します。
[鳥海]マミ(アナグマ)の皮(水に濡れないと言われます)で作った銃挿。前に鉄砲を抱くように下げていて、いつでも撃てるようにしたもの。
この「スブクロ」は、
「ツ・プク・ロ」、TU-PUKU-RO(tu=stand,settle;puku=swelling,abdomen;ro=roto=inside)、「(膨らんだ)袋の・中に・(銃を入れて)保持するもの(銃挿)」(「ツ」ガ「ス」と、「プク」が「ブク」となった)
の転訛と解します。
[仙北]クマが冬眠から覚めてする最初の糞のこと。
この「ズボハズシ」は、
「ツ・ポハツ・チ」、TU-POHATU-TI(tu=fight with,energetic;pohatu=stone;ti=throw,cast)、「懸命になつて・(石のように固い)糞を・出す」(「ツ」が「ズ」と、「ポハツ」が「ボハズ」と、「チ」が「シ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]寝る。
この「スマル」は、
「ツ・マル」、TU-MARU(tu=stand,settle,fight with,energetic;maru=gentle,easy,calm)、「ひたすら・静かになろうとする(寝る)」(「ツ」が「ス」となった)
の転訛と解します。
「セ」
[仙北]整婦湯。マタギが作って全国に売り歩いた婦人病の煎じ薬。
この「セイフトウ」は、
「テ・イプイプ・タウ」、TE-IPUIPU-TAU(te=the...of;ipuipu=hollow,sore,ulcerated;tau=come to rest,settle down,be suitable,be comely)、「例の・(婦人病の)傷みを・和らげる(薬)」(「テ」が「セ」と、「イプイプ」のP音がF音を経てH音に変化し、反覆語尾が脱落して「イフ」と、「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]@主人。またはA若いマタギ。さらにB里の人という意味で使うマタギもあります。
この「セキダ」は、
@「テ・キタ」、TE-KITA(te=the...of;kita=tightly,fast,intensely,brightly)、「例の・しっかりした(人間。主人)」(「テ」ガ「セ」と、「キタ」が「キダ」となった)
A「テ・キタキタ」、TE-KITAKITA(te=the...of;kitakita=anything very small)、「例の・小さな(人間。若いマタギ)」(「テ」ガ「セ」と、「キタキタ」の反覆語尾が脱落して「キタ」から「キダ」となった)
B「テキ・タ」、TEKI-TA(teki=outer fence of a stockade;ta=dash,beat,lay)、「(集落の外側の垣根の内側に住む(内側の垣根の中に住むのは集落の首長階級の人々))普通の人が住む場所に・住む(人間。里の人)」(「テキ」ガ「セキ」と、「タ」が「ダ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]セタ・セダは犬。セコは犬とともに獲物を追い立てる人々である勢子の意。(この「セタ」をアイヌ語(セタ seta 犬)と解する説もありますが、他のマタギ語がすべて縄文語であるのに、これだけがアイヌ語というのはあまりにも不自然です。そもそもこの「セタ・セダ」は、一般名刺の「セコ(勢子)」と対応する縄文語であり、アイヌ語と解さなければならない理由はないと考えます。なお、マタギ語には、「セコ(勢子)の他の特別の名称として127オシゴ、350サワセイゴ、378シタカリ、434セリコミ、472タメおよび535ナカセイゴがあります。)
この「セタ」、「セダ」、「セコ」は、
[縄文語]「テ・タ」、TE-TA(the...of;ta=dash,beat,lay)、「例の・(獲物に)襲いかかる動物(犬)」(「テ」が「セ」と、また「タ」が「ダ」となった)または「タイ・タ」、TAI-TA(tai=tide,wave,anger,rage,violent;ta=dash,beat,lay)、「荒々しく・(獲物に)襲いかかる動物(犬)」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「セ」と、また「タ」が「ダ」となった)
[アイヌ語]「セタ」、SETA((Aynu)dog)、「犬」(また「セタ」が「セダ」となった)
[縄文語]「テ・コ」、TE-KO(the...of;ko=sing,resound,shout)、「例の・(獲物を追い立てるために)叫び声をあげる(人々。勢子)」(「テ」が「セ」となった)または「タイ・コ」、TAI-KO(tai=tide,wave,anger,rage,violent;ko=sing,resound,shout)、「荒々しく・(獲物を追い立てるために)叫び声をあげる(人々。勢子)」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「セ」となった) <
の転訛と解します。
[阿仁]里の人。
この「セタキ」は、
「テ・タハキ」、TE-TAHAKI(te=the...of;tahaki=one side,the shore regarded from the water)、「例の・(マタギとは異なる)側の(人間。里の人)」(「テ」が「セ」と、「タハキ」のH音が脱落して「タキ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]犬の肉。
この「セツタ」は、
「テ・ツタ(ン)ガ」、TE-TUTANGA(te=the...of;tutanga=portion,division)、「例の(犬の)・部分(肉)」(「テ」が「セ」と、「ツタ(ン)ガ」の名詞形語尾のNGA音が脱落して「ツタ」となった)
または「タイ・ツタ(ン)ガ」、TAI-TUTANGA(tai=tide,wave,anger,rage,violent;tutanga=portion,division)、「荒々しい(犬の)・部分(肉)」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「セ」と、「ツタ(ン)ガ」の名詞形語尾のNGA音が脱落して「ツタ」となった)
の転訛と解します。
[雄勝]勢子。
この「セリコミ」は、
「テ・リコ・ミイ」、TE-RIKO-MII(te=the...of;riko=wane;(Hawaii)mii=clasp,attractive,good-looking)、「例の(狩りの)・綺麗な・三日月のような(形をして獲物を追って行くもの。勢子)」(「テ」が「セ」と、「ミイ」が「ミ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]穴に埋める。
この「セリサセル」は、
「タイリ・タタイ・ル」、TAIRI-TATAI-RU(tairi=be suspended,block up;tatai=measure,arrange,adorn,be ranged in order;ru=shake,scatter)、「宙に浮いているもの(落ち着いていないもの)を・奮るって・きちんと落ち着くようにする(穴に埋める)」(「タイリ」のAI音がE音に変化して「テリ」から「セリ」と、「タタイ」のAI音がE音に変化して「タテ」から「サセ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]人の気配を感じてクマが逃げること。
この「セリヌケ」は、
「タイリ・ヌケ」、TAIRI-NUKE(tairi=be suspended,block up;nuke=crooked,humped)、「(何か浮動するもの)気配を・嫌って行動した(逃げた)」(「タイリ」のAI音がE音に変化して「テリ」から「セリ」となった)
の転訛と解します。
[鳥海]カモシカの胃袋のわきにある内臓の一つ。小刀で中をきれいに掻き取り、小刀の先に刺して山神さまにあげてから塩をつけて食べます。
この「センゲンフタ」は、
「テナ・(ン)ゲネ・プタ」、TENA-NGENE-PUTA(tena=that,this,there;ngene=wrinkle,fold,fat;puta=opening,move from one place to nother,pass through)、「あの・肥つた(塊で)・(山神さまへの供物からマタギへと)移動するもの」(「テナ」が「セン」と、「(ン)ゲネ」のNG音がG音に変化して「ゲネ」から「ゲン」と、「プタ」のP音がF音を経てH音に変化して「フタ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]食料などを入れる背負い袋。
この「ゼン(ブクロ)」は、
「テナ」、TENA(that,this,there)、「あの(背負い袋)」(「テナ」が「ゼン」となった)
の転訛と解します。
[岩手]山でクマを解体したときに行う儀式の一つ。その左手の皮と右足の皮を三回合わせる儀式。
この「センマイウチ」は、
「テネ・マイ・ウチ」、TENE-MAI-UTI(tene=be importunate;mai=to indicate direction or motion towards;uti=bite)、「しつこく(丹念に三回も)・(クマの手足を)動かして・打ち合わせる(儀式)」(「テネ」が「セン」となった)
の転訛と解します。
「ソ」
[仙北]山の中層の雪のこと。
この「ゾーゲ」は、
「タウ・(ン)ガイ」、TAU-NGAI(tau=come to rest,float,settle down;ngai=tribe or clan)、「(下層と上層の間で)ゆつくりと休んでいる・部類の(雪)」(「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」から「ゾー」と、「(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ゲ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁・仙北]皮。
この「ソツカ」は、
「ト・ツ・カ」、TO-TU-KA(to=drag;tu=stand,settle,fight with,energetic;ka=take fire,be lighted,burn)、「(獣の体から)引き剥がして・じっくりと・日に当てて乾かしたもの(皮)」(「ト」が「ソ」となった)
の転訛と解します。
[岩手]クマやカモシカの皮で作って着る袖無しのこと。
この「ソデナシ」は、
「ト・テ・ナ・チ」、TO-TE-NA-TI(to=drag;te=crack;na=by,belonging to;ti=throw,cast,overcome)、「(先に裂け目(指)があるもの)手(の部分を)・引っ張って・投げ・捨てたようなもの(上衣の一種。袖無し)」(「ト」が「ソ」と、「テ」が「デ」と、「チ」が「シ」となった)
の転訛と解します。
[仙北]カイコ(蚕)を入れる器物(ダシ)のこと。
この「ソネエヤ」、「ダシ」は、
「トナエ・アイア」、TONAE-AIA(tonae-a small basket for the food;aia=kaitoa=it is good,it serves one right,etc.)、「良質の・(蚕を入れる)籠」(「トナエ」のAE音がE音に変化して「トネ」から「ソネ」と、「アイア」のAI音がEI音に変化し、その語尾のI音と最終語尾のA音が連結して「エヤ」となった)
「タ・アチ」、TA-ATI(ta=dash,beat,lay;ati=descendant,clan)、「(蚕を置く)入れる・部類のもの(容器)」(「タ」のA音と「アチ」の語頭のA音が連結して「タチ」から「ダシ」となった)
の転訛と解します。
[阿仁]クマの住む大木の根。
この「ソラグチ」は、
「タウラ(ン)ガ・(ン)グ・チ」、TAURANGA-NGU-TI(tauranga=resting place,anchorage for canoes;ngu=silent,dumb;ti=throw,cast)、「静まり・かえっている・(クマの)休息場所」(「タウラ(ン)ガ」のAU音がO音に変化し、名詞形語尾のNGA音が脱落して「トラ」カラ「ソラ」と、「(ン)グ」のNG音がG音に変化して「グ」となった)
の転訛と解します。
[雄勝]高洞に似て穴口が上を向き、雪や雨が入る穴で、たいてい下部の横にも穴がある。もしくは斜めに生えた木で根本にクマが隠れる条件が備わっているもの。
この「ソラフキ」は、
「タウラ(ン)ガ・フキフキ」、TAURANGA-HUKIHUKI(tauranga=resting place,anchorage for canoes;hukihuki=disoderly,unfinished,incomplete)、「不完全な・(クマの)休息場所」(「タウラ(ン)ガ」のAU音がO音に変化し、名詞形語尾のNGA音が脱落して「トラ」カラ「ソラ」と、「フキフキ」の反覆語尾が脱落して「フキ」となった)
の転訛と解します。
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1 平成23年12月25日
016アカゲノクマの項のアカゲノクマの解釈を追加し、276コダマネズミの項のコダマネズミおよびヤマネの解釈、277コダマノレツチユの項のコダマノレツチユおよびスギノノレツチユの解釈並びに358サンダラゴリの項のサンダラゴリの解釈を修正しました。
2 平成24年3月1日
431セタ・セダの項のアイヌ語源の評価の一部を修正し、セコ(勢子)の解釈を追加しました。
国語篇(その十八)終り
U R L: http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/
タイトル: 夢間草廬(むけんのこや) ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源 作 者: 井上政行(夢間) Eメール: muken@iris.dti.ne.jp ご 注 意: 本ホームページの内容を論文等に引用される場合は、出典を明記してください。 http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/timei05.htm,date of access:05/08/01 など) このHPの内容をそのまま、または編集してファイル、電子出版または出版物として 許可なく販売することを禁じます。 Copyright(c)2011 Masayuki Inoue All right reserved |