読み週記 12月

 

第4週(12/29〜1/4)

 年開け一発目の更新なのに、更新してるページは去年の最後。この辺のキリの悪さはあまり気にしない方向で。もう夜も遅いのでリンクを張り直したりがないから楽でいいなぁ、と思ったり。

 テッド・チャン『あなたの人生の物語』(ハヤカワ文庫)はわかるようなわからないような。すごく難しくてとっつきにくいように思ったり、その「ちょっとずれて」る感じが了解しにくいような面白いような、ストーリーも面白いようなヘンなような。という極めてのっかりにくい作品だった。佳作の作家で今まで発表されたのがこの一冊に収められた短編数編だけである、というのも変わってる。よって評価が難しいんだけど、表題作の「あなたの人生の物語」はいいと思う。あとはストーリー的に多少作りが甘いか。

 久しぶりに文庫の棚で新刊を見つけたジェフリー・アーチャー『運命の息子』(新潮文庫)の上巻。政治家としてのアーチャーはいまどうしてるんでしょうか。
 病院でのある出来事から、互いを知らぬまま育っていく双子が主人公。それぞれの成長が交互に短く区切られて語られていくスタイルがリーダビリティを向上させていて、すいすい読めるあたりは流石。成功と挫折、友情と愛と策略など、大河の定番が詰め込まれた、なんというかアーチャーらしいというべきか。かつて『ケインとアベル』(新潮文庫)に出会ったときの興奮が繰り返されるという程ではないけど、ページを繰らせる楽しさは水準を維持している、という感じか。

 というわけで新しいとしになった。今年こそ一杯読むぞ。

 

第3週(12/15〜12/21)

 今週はやたらと忙しくてへろへろしていたところ、更新をすっかり忘れていたことに気がついた。来週の月曜は祝日じゃないけど、もう気持ちはすっかり冬休みなので更新する気にもなれないし、となると今日を逃すと今年はもう更新しないかも!と思ったので慌てて書くことにする。というか、毎年12月の終わりにはベストを書いてたじゃん!ともう一つ思い出して非常に慌てる。

 忘れた(忘れてないけど)頃にふいに書店に並んで嬉しい、ロバート・B・パーカーの<スペンサーシリーズ>、文庫の最新刊は町を牛耳るマフィア達の暗躍を背景に、様々な「チャンス」への夢を抱える男たち、女達が描かれる『チャンス』(ハヤカワ書房)だ。「いつものような」という意味で楽しめる一冊。要するにスペンサーを読んでいつものメンバーが活躍していつものように喋っていて嬉しい、という感じになっていることを、解説の古山裕樹がきっぱり指摘している点に注目したい。どうやら近い世代の人らしいんだけど、そうだそうだ、と思って読んでしまった。それはそれで楽しんでいるからいいんですが、「やっぱり男はマッチョ」って腰巻きはどうにかならないものか。

 

 と言うわけで今年のベスト。なんだけど、去年に比べてどうも今ひとつ。振り返って読んでみると今年は「今週はなし」っていう週も多かったりして、今ひとつ読書に熱の入っていない年だったのか、それもあってなのか「コレ!」というインパクトのあるベストがない様な気がする。ベストを書こうと思って洗い出してみても、読み終えた時の興奮が甦ってきてドキドキする、なんてこともあんまり無かったような。ふーむ。怠慢なんだろうか。

 といったわけで今年のベスト5は

1.アーシュラ・K・ルグウィン『アースシーの風』(岩波書店)

2.ダン・シモンズ『ハイペリオン 上下』(ハヤカワ文庫)

3.リン・ティルマン『ブックストア ニューヨークで最も愛された書店』(晶文社)

4.いしいしんじ『プラネタリウムのふたご』(講談社)

5.オーソン・スコット・カード『消えた少年達 上下』(ハヤカワ文庫)

 

 なんと色つきですよ奥さん!は去年やったか。

 1位ルグィンの『アースシーの風』については、読み週記のなかではほとんど触れていないことに気が付いてびっくりした。疲れていたのか休みだったのかよくわからないが、ちっとも詳しく感想を書いていないのが不思議。これはもう「ゲド戦記」というシリーズの素晴らしさを賞賛するに尽きる。1〜4は再読であったにも関わらず夢中になってページをめくってしまった。大人の視点でじっくり読みながらも、子どものような気持ちでページを繰ったのは、本の装丁や挿し絵のイメージもあるんだろうけど、そんな気持ちになれる、という意味でも傑作のシリーズだと思う。

 『ハイペリオン』は、物語のスケールや組み立ての面白さ、など、要素が一杯詰まっているが、ベストとして上位に上げたいのはあのソル・ワイントラウブと娘のレイチェルのエピソードに尽きる。あれほど切なく、胸を打つ物語も多くはないはずだ。

 『ブックストア ニューヨークで最も愛された書店』は今年読んだノンフィクションでは一番。読後感がどう、とかミーハー心を煽る部分がどう、とか考えなくもないが、何よりもあれほど理想的な夢のような書店が出てくるというだけでいいではないか。

 去年に続きランクインのいしいしんじ『プラネタリウムのふたご』だが、よく考えてみると今年は新しい日本人作家をほとんど発掘していない。そんなところからも今年の読書の不充実ぶりがうかがえてならない。いしいしんじは俺の中でかなりお気に入りの作家になったような気がする。ポイントに評価が集中する点で『ハイペリオン』の感想と近いが『プラネタリウムのふたご』のラストにおける泣き男が全てだ。

 5位にあげているけど、カードをあげるのはどうもずるいというか新味がない気がして今ひとつ気が引ける。しかも感想を書いたときはさほど評価してなかったんじゃないかと思う。あらためて一年を振り返って自分の中で再評価していることに気付いたんだけど、この辺もどうもしっくりこないなぁ。

 

 というわけでとにかく今年は読む面では良くなかった。全般的にその方向でエネルギーが低下してるんじゃないかと思うんだけど、じゃあそのエネルギーをどこに使ってるのかと言うとなんとも言えないあたりがどうなんだ、俺。と非常に反省の読み週記でした。

 

 

第2週(12/8〜12/14)

 今年の冬はどうやらちゃんと寒いらしい。寒い冬になって直面せざるを得ないのが、家の暖房器具が軒並み故障しているという事実。とくにコタツが壊れたのが痛い。こうも寒いと布団の中だけが幸せな時間で、久しぶりに布団の中で暖まりながらの読書の悦びを思い出したような気がする。

 ポール・オースター『ムーン・パレス』(新潮文庫)は、モラトリアムっぽい、理屈っぽい若者が謎の多い老人や一人の女性との出会いなどを経て、自らの血のルーツを見つけていく物語。劇中劇の様な物語を含め、メインのストーリーの中で様々なストーリーが重ねられていって、アイディア、物語が山盛り。オースターの「話を語る」欲求が満開、という風情でオースターの独特の怪しげな世界観の中にいながらも比較的わかりやすい飲み込みやすい話じゃないかと思う。ちょっと違うとは思うけど、ダン・シモンズ『ハイペリオン』(ハヤカワ文庫)にあるような、ストーリーの玉手箱的な雰囲気がオースターらしい形で実現しているように思う。主人公に共感することも多いけど、同時にあんまり好きになれない瞬間も多い。

 川上弘美『光ってみえるもの、あれは』(中央公論新社)は未婚の母と祖母と3人で暮らしている少年が主人公の家族小説/青春小説。読んでいて凄く辛かったのは、なにかそこで表されている感性みたいな物に自分が乗り切れないことだ。なんかあんまり良いと思えない、というのが素直な感想で、それはこちらの感性が鈍ってしまったのかなんなのかよくわからなくて不安になってしまった。登場する子ども達の感覚に突いていけなかったり、そもそも文章を形作る語彙に今ひとつ乗り切れないと感じたりすることが多々あって、自分がすっかり鈍くなったんじゃないか、とか、すっかりおじさんになっちゃったんじゃないか、と思って心配になってしまった。

 寒い中、布団で本を読むのは実に楽しい体験だけど、暖房器具が故障しまくっている、という現実から目をそらしている場合じゃないよな、と日々思う。

 

第1週(12/1〜12/7)

 わっはっはっ。記念すべき12月の第一週は読んだ本なしだ!どうだ、凄いだろう。と自棄になる12月。
 全ては先週に続いて魔夜峰央『パタリロ』(白泉社)のせいである。いや、あながちそうとも言えないんだけど、このさいそのせいにすることにする。なんとなく一冊一冊ちらほらと読んでいるつもりが、折からの眠さやらエネルギー不足に負けて、本を読む気力もなくダラダラと次の巻、次の巻と重ねてしまうのだ。なんと言うことだ。
 電車の中での読書もあまりはかどらないので、余計に読書量が減っている気がする。どうして行き帰りの電車は微妙に座れないくらいに混んでいるのか。
 と回りじゅうに文句を言っても始まらない。久しぶりに書店に言ったら久しぶりに面白そうな本を見つけたりして購入熱が涌いてきたので、そろそろまた読み始めそうな予感がする。