ファーネスに囁くものたち


5

GM:キャッスルリッグからケズィックに戻って、夜が明けたら南への旅の開始です。南への旅には、ジャック・パーソンズが同行します。道の状態がかなり悪いので、1日に10㎞進むのが精一杯です。(パーソンズ)「とりあえず、まずはウィスバーン・ウォーターまで行ってみよう。そこまで行けば、野宿せずに済む」
エドガー:そこまで行って、情報を集めましょう。
GM:道路は両側に山がそびえる谷底を進んだり、湖に沿って進んだりもします。夕暮れ時にウィスバーン・ウォーターの南端を見下ろす小高い丘の上にある、小さな集落に到着します。皆さんが村に近づいて行くと、村の雨戸がバタバタと閉められて、余所者は歓迎されない雰囲気です。
エドワード:え? 我々はただの旅人ですよ?

 宿は石造りの低い建物で、灰色のスレート屋根が掛かっている。かつては壁が白く塗られていたが、年月とともにペンキが剥げ落ち、泡立ち、全体的にみすぼらしく、手入れが行き届いていないように見える。宿の看板は、湖からの冷たい風に吹かれて、わずかに軋みながら寂しげに揺れている――看板には山羊のような巻き角と切れ長の目を持つが、動物にしては鼻面が短く、人間にしては長すぎる奇妙な黒いクリーチャーの顔が描かれている。裏手は広大な暗い森になっている。宿は暗く、雨戸が閉まっている――しかし、2階の雨戸越しに漏れている光が、誰かが中にいることを示している。ドアの前に立つと、湖から冷たい雨のカーテンが吹き込み、夜風に乗って狼たちの遠吠えが聞こえてくる。


コニストンまでの地図GM:(パーソンズ)「ここが今夜の宿、黒山羊亭です」
エドガー:「なんだか歓迎されていない雰囲気ですが……」
GM:(パーソンズ)「余所者を恐れているのでしょう……前回来た時はこのようなことはなったのだがなぁ」パーソンズが入口扉をドンドンと叩きますが、中からの応答はありません。
エドワード:あれ? 明かりは点いているってことだったよね?
GM:すると、2階の窓が開いて、無精ひげを生やした痩せた男が、手にしたドンダーバスを皆さんに向けて大声を上げます。「お前らみたいなのはお断り――」と言いかけた後、「――ん? 一体何者だ?」と続けます。
エドガー:「我々は怪しい者ではありません! パーソンズさんの知り合いのものです!」
GM:男は銃を下ろすと、ランタンを持ってきて上から皆さんを照らします。(宿の主)「目を見せてみろ!」
エドガー:? 何だか分からないけど見せます。
GM:皆さん4人を順番にランタンで照らしながら、彼は目を覗き込みます。続いて「今度は、主の祈りを唱えろ――1人ずつだぞ」と要求します。キリスト教徒なら誰でもできることですので〈知識(地域)〉ロールにファンブルしなければOKです。
一同:「キリスト万歳!」(※全員成功)
GM:宿の屋内でドタドタと階段を下りる音がしたかと思うと、入口の扉がバタンと開きます。(宿の主)「奴らじゃなかったのか……。さあ、寒いだろう、中に入ってくれ」
エドワード:「やれやれ」
GM:彼の目は充血して、髭も剃っておらず、非常に神経質そうに見えます。(宿の主)「大騒ぎしてすまない――でも、念のためなんだ。この3晩、ずっとひどかったから」皆さんは宿の談話室に案内されますが、その場の惨状が目に飛び込んできます。
エドガー:惨状?
GM:家具は打ち壊されて、タンカードやこぼれたビールの水溜りが床を覆っています。宿の主は首を横に振りながら「散らかっていて申し訳ない――片づけようと思ったんだけど、疲れすぎていて――夢が……夢が次々に……」
エドワード:……夢?
GM:突然、彼は我に返ると「暖炉に火をつけよう、食事もしたいだろう?」と言ってキッチンへ向かいます。パーソンズが「すまんな、バート」と声を掛けます。宿の主の名はバーソロミュー・ブリュースターだそうです。
エドガー:談話室の様子を見ますけれど、血痕とかはない感じ?
GM:血痕はありません。食べ散らかされている感じです。皿や杯が散乱している感じからして、獣が入り込んだというわけではないのでしょう。
エドワード:おとなしく主人が戻って来るのを待って、話を聞いてみるしかないのでは?
エドガー:主人もそうだし、村の怯え方も異常だよね。主人が戻って来るのを待つ間、許される範囲で部屋の片づけをしておきます。せめて自分たちが食事をできるようなスペースを確保します。
GM:戻ってきたバーソロミューは「ああ、すまんな。片づけておいてくれたのか」と言って、完璧な味つけの野菜とマトンのシチューを出してくれます。椅子に座って食事をしながら、「実は――」ということでバーソロミューの方から話してくれます。

 バーソロミューの経営する黒山羊亭に、3日前から取り替え子が集まって来て、好き放題飲み食いを始めたそうです。彼らは自分たちのことを“千匹の仔山羊”と呼び、酔っぱらっては「“コニストンの老人”に乾杯!」、「千匹の子供を随えし森の黒山羊に乾杯!」と大声を上げ続けました。3日目(つまり昨日)には宿に入りきらない取り替え子が外でキャンプを始め、完全に宿を占拠してしまいました。
 バーソロミューは宿の維持を諦め、自室にこもって、彼らの饗宴の声を聞いていました。その間、彼は湖が湧き上がってくる恐ろしい夢を見続けました。
 今朝、取り替え子たちは何の前触れもなく、大挙して南へと向かって行ったそうです。


エドワード:何か取り替え子たちのイベントでもあるんだろうかね……?
エドガー:我々の探している鉱夫たちはここを通過しましたか?
GM:(バーソロミュー)「ああ、確かに南の鉱山へ向かう鉱夫の集団を見かけた。その内の何人かはうちに泊まっていったよ。彼らを率いていたのは、コニストン銅山のニコルソン監督だったな」
エドガー:ここまでの足取りは追えましたね。
エドワード:うん。
GM:(バーソロミュー)「明日の朝食は食べるかい? 食べるなら今晩の内に支度はしておくが、午前10時までには出ていってくれ。俺は午前10時になったらここを後にして、北へ行くつもりだ。故郷のランカスターに帰るか、スコットランドに行くのも良いな……」

ライン

GM:皆さんには2階の部屋があてがわれます。(バーソロミュー)「すまないが、ベッドメイクは各自で頼むよ」ベッドに入って就寝しますが、真夜中に異変に気づきます。

 2階にいるのに、部屋に水が打ち寄せる音が聞こえる。ベッドから起き上がると、足首の上まである冷たい水に足を踏み入れ、飛沫が上がる。窓際まで歩いていくと、湖が夜の内に増水し、2階の窓枠のすぐ下まで来ているのが見える。湖の上で、月明かりに照らされた何かが渦を巻き、身もだえしている――巨大で、触手のような、しかし良く分からない何かだ。水かさは急速に増している。窓を開けようとしたが、開かない。寝室のドアを開けると、階段の上まで水が上がってきているのが見える。今は腰のあたりまで来ているが、すぐに首までくる。頭を天井にぶつけながらも泳ごうとするが、水かさは増すばかりで、最後の空気も絶たれてしまう。肺が破裂しそうになりながら、君は黒い水の中に潜っていく。何かが君の脚をかすめ、そのまま引きずり込まれる。最後の空気が泡となって肺から出ていき、君は気を失う――しかしその前に、何列にも並んだ歯が、君の足をかじっているのを感じる……。


エドガー・マクドナルドエドガー:ヤバイ!
GM:再びハッと目を覚ますと、破れたカーテンを透かして朝の光が部屋に差し込んでいます。ただの夢でした。しかし、湖水の臭いが部屋に充満し、皆さんはずぶ濡れになっていて、まるで風呂に入ったかのように肌がふやけていることに気づきます。
エドガー:バーソロミューも悪夢のことを言っていたよね……。
エドワード:実際に濡れている、と。
GM:もちろん、このような恐ろしい夢を見たなら、正気度判定です(全員失敗。エドワードが5ポイント、エドガーが6ポイント失いました。大惨事)
エドガー:「恐ろしい夢を見た……」
GM:(パーソンズ)「おお、皆も見たのか。バートは大丈夫だろうか?」ということで揃って1階に降りてバーソロミューの部屋の扉をたたいても、応答がありません。扉は施錠されています。
エドガー:急を要しますので、扉を壊して開けます。
GM:扉を壊して入室すると、バーソロミューがベッドに横たわっているのが見えます。扉が破られたのに、彼はピクリともしません。
エドワード:……触ってみますけど?
GM:彼はずぶ濡れになっていて、肩をゆするとゴボッと水を吐き出します。彼は死んでいます。ここで〈知覚〉ロールをお願いします(エドガーが成功)。彼の身体の輪郭に沿って布団が盛り上がっていますが、脚があるべきところが膨らんでいません。
エドガー:そういえば、夢の中で足をガブガブされていたなぁ……。
GM:脊髄反射的にエドガーが布団をめくってしまうと――
エドガー:いや、そんなことしませんけど(笑)
GM:――哀れな男のナイトシャツがズタズタに引き裂かれ、身体は大きな吸盤の跡で覆われ、脚は膝のすぐ下で噛みちぎられていることが分かりますので、正気度判定をお願いします(全員失敗。エドガーが5ポイント、エドワードが2ポイントを失いました)
エドガー:またしても大惨事!
エドワード〈応急手当〉、お願い!(※ヴァレリィが〈応急手当〉に成功して、仲間の正気度を回復させました)
GM:恐ろしい夢を見たと思ったら、それが現実を侵食してきていたという映画的な二重のショックを受けて震え上がります。
エドガー:とりあえず、バーソロミューの遺体の埋葬を村人たちに依頼して、我々は先へ進みましょう。