GM:地下霊廟から出ると、村の方向からジョシュアが走って来ます。(ジョシュア)「ああ! こちらにいらっしゃいましたか! 敷地内に、今、狼藉者がいます!!」
エドワード:「は?」
GM:(ジョシュア)「羊が1頭死んでいるのが見つかりました。家畜泥棒のしわざではないでしょうか? 昨日、リディエートの者たちに聞いたのですが、近隣の村で同じような事件が起きています。スタッフやナイフで武装した、ジプシーらしき悪党3、4人を目撃した者がいるそうです」
エドガー:「羊が死んでいたというのはどのあたり?」
GM:(ジョシュア)「こちらです。案内します」
羊が殺された現場はシャードリー村から30ヤードほど離れた草むらで、殺害方法は刃物で喉を掻き切るというものでした。周囲の草は踏み荒らされていて、複数の足跡が廃礼拝堂のある方向へと続いています。冒険者たちは足跡を追って、来たばかりの礼拝堂の方へ戻って行きます。

GM:廃礼拝堂の前を通り過ぎたところで、〈知覚〉ロールをお願いします(エドガーとジョンが、隠れている襲撃者たちの〈隠密〉との対抗判定に勝利)。すると不意討ちはなく、前方の木の陰に5人の人影が身を潜めていることに気づきます。
ジョン:どんな奴らですか?
GM:その辺にいそうな風体の人間です。知らない顔の男ばかりなので、シャードリー村の住人ではないことは確かで、風体からジプシーでもない感じです。鎧は着用していませんが、ピストルを持ち、ダガーを腰に差しています。ジョシュアは「ヒッ……」と小さく悲鳴を上げて、物陰に隠れます。
5人の謎の襲撃者たちが、冒険者たちを襲います。次々に接近してきてピストルを撃った後、武器をダガーに持ち替えて迫る襲撃者たちは、少なくとも見た目通りの田舎者ではなさそうです。
冒険者たちもかなり負傷しましたが、どうにか勝利は収めました。
GM:襲撃者たちの身体を調べてみると、それぞれに古い金貨が1枚ずつ見つかります。300年くらい前に使われていたものです。明らかに家畜泥棒には見えません。物陰から出てきたジョシュアは「な、何だ、これは……一体……」と甚だしく動揺しています。「私の一家もこの地に住んで長いのですが、このような話は初めてですよ」
エドガー:「見覚えはないか?」
GM:ジョシュアは倒れている襲撃者の1人を指さして、「フォームビー街道沿いで見かけたことがあります」と言います。
ジョン:襲撃者たちの手を見てみますけど、クワなどを使っている農民の手ですか?
GM:農民に特有の手をしている者もいます。それも全員ではなくて、おそらく町で働く職人もいるのでしょう。
エドガー:つまり、専門の殺し屋ではない?
GM:いえ、おそらくプロの殺し屋です。そのような連携が見られました。ジョンは〈知識(クトゥルー神話)〉をロールして良いよ。
ジョン:成功です。
GM:すると分かるけど、彼らはおそらく“協会(アソシエーション)”派閥の構成員でしょう(※“協会”は神話系組織に雇われる殺し屋集団)。
エドガー:そのような奴らが……。
GM:とりあえず、道端に5つの死体を転がしておくわけにはいかないので、ジョシュアが村から人を見繕って後始末をします。
“協会”の襲撃者たちとの戦闘で負傷した冒険者たちは丘へ行く計画を変更し、館に戻って傷の治療をすることにします。
GM:館に近づいていくと、食事の準備の匂いが漂ってきます。ウィリアムは食堂で心配そうな顔をしながら皆さんを待っていました。「何か大変なことが起こったと聞いたが、無事か?」
エドガー:襲撃者について報告しましょう。ウィリアムの様子はどうですか?
GM:相変わらずです。青白い顔がなおさら白くなっています。皆さんが戻ってきたのを見てリゼットが「フォームビーの当局に報告へ行っていただいたらどうでしょうか?」とウィリアムに提案しますが、ジョシュアが「いや、それはお客様方に頼むべきことではない。私の方から、使いを1人派遣しておこう」と言います。そう言われると、リゼットは拘泥することなく引き下がります。
エドガー:……どういう意図のある遣り取りなんだろう? 儀式を執り行なうのに俺たちが邪魔だから遠ざけたいのか、それとも生け贄として留めておきたいのか?
エドワード:いや、我々を逃がしたいというリゼットの思いやりなのでは?(笑)
エドガー:同じものを聞いているのに、解釈が違う(笑)
GM:夕食の準備が整います。食堂には皆さんに加えてウィリアムがいて、リゼットとレベッカが給仕を担当します。ジョシュアはフォームビーへの報告の手配でもしているのか、あれから姿を見せていません。食事が始まったところで、皆さん-40%で〈知覚〉ロールをしてください(全員失敗。誰も食中酒のワインの味の変化に気づきませんでした)。続いて〈回復力〉ロールをしてください(※ワインに混ぜられた睡眠薬の強度との対抗判定。ジョンだけは薬に抵抗しました)。ジョン以外のキャラクターは、ウィリアムも含めて、食事が進むとクタクタとテーブルに突っ伏して寝入ってしまいます。
ジョン:「だ、旦那?」
GM:すると、ジョシュアが銃を持った6人のならず者を引き連れて食堂の扉を開けて入ってきます。(ジョシュア)「あ゛? なんだ、まだ1人眠っていないじゃないか」銃を構えたならず者が6人いますが、ジョンは抵抗するならチャレンジは可能です。
ジョン:「おお、ひでぇ話だ」とつぶやいて両手を上げます。
GM:ジョシュアは「もっと強い、特性の薬をお見舞いするぜ」と言うと目くばせをし、ならず者の1人が銃のグリップでジョンの首筋を一撃して昏倒させます。(コロコロ……)2ダメージを受けてください(※冒険者たちは知らないことですが、廃礼拝堂前で襲ってきた襲撃者たちと食堂に現れたならず者たちは、昨日ジョシュアが雨の中をリディエートに行って手配した“協会”の構成員たちでした)。
GM:いろいろあって眠らされた皆さんですが、やがて覚醒します。そこは窓のない狭いスペースで一方の壁には鉄格子がはめられています。おそらく、地下室にあった牢屋ですね。
エドガー:ああ、なるほどね。牢屋に入れられているのは誰?
GM:皆さんとヴァレリィの4人です。ウィリアムはいません。牢屋の床にはカビの生えた藁が散らばっていて、格子の向こう側には樽をテーブル代わりにして椅子に座っている2人の男がいます。使用人としてちょいちょい顔を見せていた村人です。顔が似ているので、双子でしょう。2人は樽の上にろうそくを立てて、酒を飲みながらトランプ遊びをしています。樽の上にはピストルが置かれているのが見えます。彼らの背後に箱が置かれていて、その上に皆さんの装備品が積まれています。
エドガー:我々の状態はどんな感じですか? 縛られているとか?
GM:拘束はされておらず、単純に武装解除されて牢屋に放り込まれている状態です。
エドワード:2人組に声をかけてみます。「おい! 何の目的があってこんなことをしたんだ!?」
GM:チラリと皆さんの方へ目を向けます。(男1)「お前たちには後で“もっと楽しいこと”があるから閉じ込めておくようにと、先代様からのご命令だ」
エドワード:「……ということは、やはり先代は生きているのか?」
GM:(男1)「そう、先代様は生きている」(男2)「いやいや、先々代様じゃないか?」(男1)「それを言うなら、むしろ初代当主様だろ(笑)」と彼らは冗談を言い合って爆笑します。
エドガー:「……なるほどね」
GM:(男1)「ウィリアム坊ちゃんに必要な処置がされた後、お前たちは始末される。坊ちゃんには上手い使いみちがあるから、その点については心配するな(笑)」
ジョン:もうその点については隠さないのか。
GM:しばらくするとジョシュアがピストルを手に、階段を下りてきます。彼の背後にはフードをかぶった2人の男がいます。(ジョシュア)「お前たちは本当にタイミングの悪い時に来てくれたよ。もう少し遅れていれば楽しい休暇になったかもしれないのに、まあ、タイミングが悪かった自分たちを呪ってくれ。お前たちには“犠牲者”ってものになってもらう。それもウィリアム坊ちゃんの始末が終わってからのことだ」
エドガー:「先代様っていうのは今はどこにいるんだ? 俺たちは会わせてもらえないのか?」
GM:(ジョシュア)「先代様はムシムシ山のてっぺんの黒い石で儀式の準備をされている。お前たちが会えるとしたら……ウィリアム坊ちゃんの姿をしたマスター・エドガーになるだろうよ」
エドガー:「お前たちは何代にもわたってマスター・エドガーに仕えてきたというわけか」
GM:(ジョシュア)「俺の爺さんも、その爺さんもそうだったのだろうよ」
エドガー:なるほど。それは興味深い。ところで、後ろにいるフードをかぶった2人組というのはどんな感じ?
 GM:男たちはフードを脱いで顔をさらします。エドガーとエドワード、そしてヴァレリィには見覚えのある顔です。コニストンの事件のときに遭遇した取り替え子(チェンジリング)のウィリアム・ド・マンカスターと従者のプレストン・ラドリーです。
エドガー:え!? まさか、まさかの?
GM:(ド・マンカスター)「先日はお前たちを始末し損ねたが、エドガー卿の罠にかかったと聞いて我らも参上したというわけだ。エドガー卿への義理もあるのでここでお前たちを始末することはしないが、此度の儀式が終わり、エドガー卿が新たな肉体を得た後に行なわれる“もっと楽しいこと”とやらで、我らの復讐も成就するであろうよ」
前回(※「ファーネスに囁くものたち」)決着をつけられなかったので、ド・マンカスターとラドリーが再登場です。彼らを倒せば、冒険者たちはボーナス成長ポイントを得られます。シナリオの主たる黒幕を倒しつつ(メイン・クエスト)、機会を見て、彼らとは継続的に対決していくことになるでしょう(サブ・クエスト)。
GM:(ド・マンカスター)「我が手でお前たちに止めを刺せないのは残念ではあるが、どうやらコニストンの仇は、ここシャードリーで討てそうだ。エドガー卿が新たな肉体を得たなら、協力して、再度シュブ=ニグラス神の招来準備を整えることとなろう」ここで派閥が“新たなる使命”であるジョンは正義の意志判定(※成功すると、派閥のへの忠誠心で気持ちが高ぶり、敵対派閥へ討論を仕掛けてしまう)をしてください。
ジョン:(コロコロ……)失敗です。
GM:なるほど、じゃあ、皆さんはジョシュアとド・マンカスターに嘲られるものの、別に食って掛かるようなこともありません(笑)。イモを引いて嘲笑されました。
一同:(苦笑)
GM:拍子抜けした顔をしてジョシュアが「もう良いでしょう。黒い石へ向かいましょう。ガストン、お前も来い」と言って、ド・マンカスターとラドリー、見張りの片割れ(男1=ガストン)を伴って立ち去ります。見張りは1人減って、顔に傷のある双子の片割れが残ります。
エドガー:……チャンス!
見張りが男2(=トム)だけになったので、冒険者たちに脱出のチャンスが到来します。トムはあまり賢いキャラクターではないものの(INT4)、“捕虜を牢屋から出さないようにする”という単純な命令は理解しています。
プレイヤーたちの創意工夫で牢屋からの脱出を図るイベントの始まりです。
- チャレンジ1:エドワードが言葉巧みにトムを鉄格子近くまでおびき寄せ、(ジョンの協力を得た)エドガーが格子の隙間から手を伸ばしてトムの腰に下がった牢屋の鍵をかすめ取ろうとしますが、トムの意外な俊敏性の前に策略は失敗します。激高したトムは牢屋の中に向けてピストルを発砲しますが、幸いなことに、盲撃ちの弾は誰にも命中しませんでした。
- チャレンジ2:「最後の晩餐にワインを飲みたい」という冒険者たちに、トムは自分の飲みかけのボトルをさし入れます。冒険者たちはワインの瓶を手に入れます。
- チャレンジ3:トムは酔って眠ってしまいます。冒険者たちはワインの瓶を割ってシャベル代わりにし、基部を掘って鉄格子の棒を外そうと試みます。如何に音を立てずに作業できるか(〈隠密〉技能)の勝負となりますが、何とヴァレリィが〈隠密〉60%を持っているため(NPCに頼るのは不本意ながらも、背に腹は代えられず)彼女に望みを託します。ヴァレリィは(一度はロールに失敗したものの、ヒーロー・ポイントを使った再ロールによって)作業を完遂し、鉄棒を1本外して人ひとりが通り抜けられる程度の隙間を作りました。
GM:とんでもなく大きな物音を立てない限り泥酔したトムは目を覚ましませんので、皆さんは牢屋から脱出して装備品を取り戻すことができます。
エドガー:トムは猿轡をはめて縛り上げたあげく、牢屋の奥に転がしておきます。
GM:階段を上がって館の1階に入っても、ひと気はまったくありません。
エドガー:なるほど。そうすると、やっぱり村人総出の儀式なんでしょうね。我々の目的を確認しておきたいんですけど、ウィリアムを助け出すことが第一目標で良いんだよね?
ジョン:私は派閥が“新たなる使命”なので、シャードリーとド・マンカスターとラドリーを倒して儀式を完全に失敗させることが目標になります。ウィリアムについては、まあ、二の次です(笑)
GM:ジョンにしてみれば、「シュブ=ニグラス教団の儀式を阻むついでにウィリアムを助ける」感じになりますね。別に利益は相反しないので、目指すところは同じです。
ジョン:ウィリアムを助けて「さあ、逃げるぞ!」と言われても、私がそうする可能性は低いということです。
GM:無人の館から出ると、もう日はとっぷりと暮れています。ムシムシ山の方角を見ると、その頂上に放電が見えます。地面から空に向かって稲妻が走っています。“セントエルモの火”のようなもので照らされているあの場所で、儀式が行なわれているのでしょう。明かりの中に数名の人影が見えますので、何者かが複数いるのは確実です。
エドガー:館から丘に向かって走りますけど、村に人影はない?
GM:ありません。窓に明かりも見えません。
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