国語篇(その十九)

<方言概観(その六)>(マタギ語概観(その二)「タ」から「ン」まで)

(平成23-12-25書込み。25-7-15修正)(テキスト約94頁)


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[おことわり]

 この篇は、全国の方言の主要なものの中に残る語源不詳または意味不詳の縄文語の意味を解明しようとするシリーズの一として、東北地方に残るマタギ語を解明しようとするものです。
 これまで国語篇(その二)で東北方言(庄内語・遠野語)を取り上げ、また地名篇や雑楽篇の各篇などでも随処で方言を取り上げてきましたが、これから全国の方言をくまなく解明しょうとすれば、国語研究所『日本言語地図』 大蔵省印刷局、『日本方言大辞典』小学館、佐藤亮一著『都道府県別全国方言小辞典』三省堂などに拠らなければなりませんが、これらはあまりにも膨大で、これらを対象とすることは時間の余裕から不可能です。そこで、平成21年に、数ある方言辞典や方言集のうちから、収録語数が約1,200語と比較的にコンパクトで、最近普及しつつある電子辞書数種(カシオXD-GP6900、シャープPW-M100、ソニーIC-700Sなど)にも搭載されている江端義夫・加藤正信・本堂寛編『全国方言一覧辞典』学研、1998年を選び、その中に残る縄文語の意味を解明することとし、国語篇(その十四から十七まで)として掲載しました。

 しかし、方言に中には主として東北地方に残る中世からの伝統を伝えるマタギと呼ばれる狩猟集団が山中で使用する方言であるマタギ語があり、江戸時代からアイヌ語との関連が取沙汰されています(菅江真澄はその旅行記の中で、北秋田の山村のマタギ言葉には、犬をセタ、水をワッカ、大きいをポロというなどアイヌの単語が多く用いられていると記しています。)ことから、日本語の語源を解明するためには、マタギ語にどれだけのアイヌ語起源の言葉が入っているのかの解明が必要であると考えました。

 このマタギ語については、世上多くの報告がなされていますが、まとまったものとしては、太田雄治『マタギ 消えゆく山人の記録』慶友社、1997年の中の「マタギ語事典」(822語収録。以下「事典」といいます。)と板橋義三『マタギ語辞典』現代図書社、2008年(約1,600語(?)収録。以下「辞典」といいます。)があります。両者を比較しますと、事典は筆者の永年にわたる聞き取り調査の集成といういわば第一次資料であるのに対し、辞典は事典をはじめとする多数の研究者の報告の集成といういわば第二次資料という性格を持つものです。また、収録語を比較しますと、例えば「クマ」ではじまる単語が辞典では24語、事典では20語が収録されていますが、辞典の24語中20語は事典と同一で、残りの3語は、「クマノアリ」、「クマノアトカギ」、「クマノオビ」という複合語で、その「アリ」、「アトカギ」、「オビ」は事典に収録されている単語であり、残りの1語は「クマタガ」(日本原産の小型ワシのこと)という一般名詞で必ずしも狭義のマタギ語とは言い得ないものであるというように、マタギ語として他に例を見ないような単語が事典に洩れているケースはあまり多くないと考えられます。
 そこで、事典収録の見出し語の「ア」から「ソ」までを国語篇(その十八)、「タ」から「ン」までを国語篇(その十九)に分割し、見出し語によってそれが縄文語であるか、漢語由来の単語であるか(漢字表記によって一目して漢語由来と判断できるものは、改めてその旨を記載することは略します。)、アイヌ語語源の単語(アイヌ語と縄文語の複合語を含む)であるかの解釈を行いました。なお、事典になく、辞典に収録の単語で語源不詳または意味不詳の単語は、「マタギ」をはじめとして必要に応じ解釈を行いました。また、記事中[阿仁]、[仙北]、[雄勝]、[鳥海]、[平鹿]、[岩手]とあるのは、その言葉がよく使われる地方を示します。

 この解釈にあたっては、従来アイヌ語語源とされてきたものについても、縄文語にどうしても対応する言葉がないものは別として、縄文語で解釈できるものについては、アイヌ語語源ではなく、縄文語と解すべきものとしました。
 なお、この「マタギ」は、「ウマダ(シナノキの樹皮から取る繊維で織られた布)を剥ぐ人(柳田国男)、マダハギの転」、「マタンガー(古代インドの屠殺人)から(南方熊楠)」、アイヌ語の「マタンキ(matanki 狩人)」からなどの説があります。
 この「マタギ」は、
  「マタ(ン)ギ」、MATANGI(wind,breeze)、「風(を熟知する狩人。マタギ)」(NG音がG音に変化して「マタギ」となった)(地名篇(その八)の山間民俗語彙の130またぎの項または国語篇(その十九)の697マタオニの項を参照してください。)
の転訛と解します。
 この解釈からすれば、周辺に関連ないし類似する語彙を全く持たない弧立単語で、単なる「狩人」の意味しかもたないアイヌ語「マタンキ」は、縄文語から輸入された外来語であると考えられます。

 縄文語のポリネシア語による解釈は、他の諸篇と同様、原則として、その起源となったと推定される原ポリネシア語から変化したマオリ語(すでに失われた語彙でハワイ語に残るものについてはハワイ語とし、その旨を注記しました)とその意味を英語および日本語によって表記しました。主として使用したマオリ語・ハワイ語の辞典は次の通りです。
 (1)H.W.Williams M.A,Dictionary of the Maori Language,seventh edition,1997,GP Publications.
 (2)P.M.Ryan,The Reed Dictionary of Modern Maori,1995,TVNZ.
 (3)Mary Kawena Pukui and Samuel H.Elbert,Hawaiian Dictionary, revised and enlarged edition,1986,University of Hawaii Press.  

<方言概観(その六)>

<マタギ語概観(その二)「タ」から「ン」まで>

目 次 

「タ」

446イマツ447タカアシ・タカシ448タカス・タガス449タカ・タカツカイ450タカツメ451タカド・タカドウ452タキリ453タケビ454タタク455タタネ456タダタダ457タチ458タチキリ459タチマエ460タヂ461タツキヤ>462タツキリ463タテ・タデ・エグシ464タテヲオサメル465タテクラ466タテノサヤブクロ・マンスケ467タビマタギ468タマイレ469タマヅクリカタ470タマリ471ダマ472タメ

「チ」

473チカタ474チキレ475チヌシ476チム477チムシブクロ478チヨウタン・チヨダン

「ツ」

479ツカノカラ480ツクシ481ツクリ482ツケヤド483ツヅレ484ヅドユキ485ツノコスリ486ツボ487ツマ488ツマゴ489ツマソリ490ツマデ491ツム492ツーム493ツメカジリ

「テ」

494テアカズ495デアイマタギ496テウエ・コテ497テカ498テキナコ・テコナコ499テツカ・テケエシ500テツキヤシ・テツクリケヤ501テトリ503デマキ504テリ505テングノツヅミ506デンエンコ507テントリアミ・バンドリ508テンパトリ

「ト」

509ト510ド511トアト512ドウヒキ513トオミ514ドグスリ515ドグスリツボ516トコメ517トダ518トツツケフクロ・クラゲブクロ519トナリ520トビラ521トマス522トマリバ523トムシビ524トムライノギヨウ525トメギ526トラバサミ527トラボー・ダオボッチ・ウマノツラ528トリキ・トリキシバ・トリコシバ・クロモジ529トル530トロメン531トンネルカワ・トネリカワ・トネリ・トナリ

「ナ」

532ナカトオリ533ナガサ534ナガセ535ナカセゴ536ナガセジル537ナガネ538ナガムシ539ナガラ540ナダレノジユゴン541ナダレヨケノホウ542ナツクマイブクロ543ナビレ544ナベフタノコリ545ナメジリ・ナンツモノ546ナメス

「ニ」

547ニカタブシ548ニクノシオヅケ549ニゲン・ニゲ550ニゴリワツカ551ニッテンホフ552ニナワ・マダ553ニノブッパ

「ヌ」

554ヌツクルミ

「ネ」

555ネアナ556ネジマ557ネダカス558ネジ559ネツボ560ネヅボ561ネヅボラ562ネネヅボ563ネビラ564ネブデ565ネリキ・サピタ・ノリウツギ

「ノ」

566ノジ567ノソグ・ノシヨグ568ノボリマキ569ノボリヤマノカミ570ノロ

「ハ」

571ハカマ572ハクドウネズミ573ハケガシラ

574ハゴ・シギン575ハサミ576ハサコメシ577バセン

578ハダ579ハチガツオリ580ハチネンブクロ・ナイラ581バチヘビ582バツケ583バツケヤ584ハツマタギ585ハテ586ハデフミ587ハナカラ588ハナサレ589ハナザヤ590ハナザル591ハナマジ・ハナマス592ハナレザル593ハム594ハムシ595ハリツツ・ハリ596ハルカガリ597ハルケエンジキ598ハルマタギ599バンドリ600バンドリノホロホロ・バンドリノハラゴ601ハンバキ

「ヒ」

302ヒイカア603ピイ604ヒウチブクロ605ヒカリ606ヒカリサイズ607ヒキオ608ヒダノソツカ609ヒダリ610ヒチン611ヒツツ612ヒツテキ613ヒツパ614ヒツパル615ヒトリマタギ616ヒド617ヒナ618ヒナワツツ619ヒフギ620ヒモトキ621ヒモドシ622ヒヤクイチ623ヒヨケノホウ624ヒラ・ヒラオトシ625ヒラマエ626ヒラマタギ

「フ」

627フカゲ828フカブリ629ブキ630フギダシ631フキリ632フクロ633フグタチワラ634フシメエウチ635フジメル636フタツワリ637フタテ638フッカケ639フツカンジキ640フツケエシ641ブツパ642ブツペエー643フトコロイレ644ブバイ645ブラキストンセン646フルコ647フルコツキ648ブンヌキ649ブンパイ650ブンパカ

「ヘ」

651ヘタ・ヘラ652ヘタリツゲデク653ヘタレ・ヘダリ654ヘダ655ヘダラ656ヘモク657ヘラサテ658ヘラマタギ659ベエヤロ

「ホ」

660ホウムリノホウ661ホゴス662ホシザル663ホシニシン・ニシン664ホツピキ665ホデル666ホドムシモチ667ホドムシル668ホノ669ホーノー670ホノコ671ホリツナリ672ホリバミ673ホロ674ホロアエ・ホロホロ675ホロカチヨ676ホロニツマセイ677ホロビダキ678ホンド679ポツプケ680ボサヤブ681ボトス682ボレル683ボンノハカマイリ

「マ」

684マエカケ685マキ686マキクラ・マキヤマ687マキモノ688マキリ689マクライシ690マグリ・マガリ・カクリ・カツトリ691マケソ692マシカ693マジ694マス695マスケ・マンツケ・マンスケ696マタ697マタオニ・マタギ698マタギイヌ699マタギカシラ700マタギクスリ701マタギノシヨウガツ702マタギノテツポウグミ703マタギノドンブク704マタギノマキ705マタギヤド706マタギボウシ707マタギポッチ・シュロ708マダヌノ・シナノキ709マチト・マチパ・マブサ710マツカ711マツケ712マツチオ・マツオ713マツチ714マツテ715マツパ716マツマイ717マヅ718マトウチ719マブ720ママケドシ・ニダラ・ナダラ721マメ722マモリダマ723マルウチ724マルカケ725マルコ726マルメ727マワリジン

「ミ」

728ミ729ミサゲフクロ730ミジカ731ミズコリ732ミズボシ733ミズワカゼ734ミソユ735ミダミ736ミヅエ737ミナグロ738ミブセ739ミミゴシ

「ム」

740ムカイヤマ741ムカエマツテ742ムキ742ムサシ744ムジナノオツツオ745ムジリ746ムヅル

「メ」

747メアテ・メダテシカリ748メエテ749メクソコブ750メグリワカ751メシニダイ752メシニダラ753メジカ754メンボウマタギ

「モ」

755モチクシ756モツパ757モツパボウシ758モリコ759モロギ760モロケ・カタケ761モロビ762モロミ763モンパ764モンペ

「ヤ」

765ヤウチ766ヤキモチ767ヤクシノコゾウ768ヤクシノフブキ769ヤグラ770ヤゲン771ヤゴリ772ヤジ773ヤマイヌノホコラ774ヤマイミ775ヤマイリ776ヤマウサギノイラカゴヤキ777ヤマサキ778ヤマダチ779ヤマネ780ヤマノアンコ781ヤマノカミノケラ782ヤラエダシ783ヤリヒキ

「ユ」

784ユウギレ785-1ユキ785-2アラネ785-3アメアラネ785-4アマゲヤシ785-5アマネブテ785-6アカゲユキ785-7エキレ785-8オオハバユキ785-9オロシユキ785-10 カンブキ785-11カワカムリユキ785-12カタユキ785-13 ガリ785-14 キヅレ785-15クマノアトガキ785-16ゲホ785-17コオリ785-18コオリユキ785-19コナユキ785-20コザキユキ785-21コオリバナ785-22コナツポ785-23ゴロ785-24サンマル785-25サラサラユキ785-26サネユキ785-27サネユキ785-28シヅデ785-29シトリユキ785-30シヅレ785-31ジド785-32ジドヌ785-33シガ785-34ゼエ785-35ゾーゲ785-36タケユキ785-37ダンゴロ785-38ダオユキ785-39タルシ785-40タロンベ785-41デコンスリミチ785-42デエシコフブキ785-43デンゴ785-44ドビラ785-45ナデ785-46ナキツラユキ785-47ニメリユキ785-48ニガツユキ785-49ネブテユキ785-50ネビラ785-51ネユキ785-52ハデ785-53ハデユキ785-54ハユキ785-55バサバサユキ785-56バカユキ785-57ハダゲユキ785-58ヒラツグ785-59フギ785-60フツコミ785-61フキサセラシ785-62フキダマリ785-63フキドリ785-64-1フキバツコ785-64-2カザバッコ785-65フカゲ785-66フキダナ785-67ボタユキ785-68ボタボタユキ785-69ポタ785-70ボッコ785-71マメノコブキ785-72マブ785-73マブサ785-74ミノムシ785-75ミズワカセ785-76モロユキ785-77モロユキコグ785-78ヤブ785-79ヤクシノフブキ785-80ヤネユキ785-81-1ユキモッコ785-81-2ユキモンコ785-82ユキバンバ785-83ユキコゴリ785-84ワタユキ785-85ワカユキ785-86ワガッタ785-87ワンバ785-88ワシ785-89ワカセ786ユキゴリ787ユキハカマ788ユメアワセ789ユメモライ

「ヨ」

790ヨコクラ791ヨコマキ792ヨゴ・ヨコ・カマヨコ・ノコヨコ793ヨダマタギ794ヨド

795ヨドミ796ヨドミノアジガスル

「リ」

797リョウバ

「レ」

798レツチユウ799レンゲ

「ワ」

800ワカ801ワカゴ802ワカゴヅキ803ワカブタ804ワカムグリ805ワシ・ワンパ806ワシハシゴリ807ワタリグマ808ワッカ809ワッパ810ワップ811ワパカシ812ワラダ813ワラブタ・ワカブク814ワリカンジキ815ワラヘタラ

「ン」

816ンバツギ

<マタギ語概観(その二)「タ」から「ン」まで>

「タ」

446タイマツ

 [阿仁]松明。白樺の皮を樹脂でまるめて作ったものです。

 この「タイマツ」は、

  「タイ・マツ」、TAI-MATU(tai=tide,wave,anger,violence;matu=fat,richness of food)、「(潮流のように)荒々しく燃える・樹脂の多い(木片の束。松明)」

の転訛と解します。

447タカアシ・タカシ

 [阿仁]馬。

 この「タカアシ」、「タカシ」は、

  「タカ・アチ」、TAKA-ATI(taka=turn on a pivot,go or pass round,roam at large;ati=offspring,descendant,clan)、「(地上を)くまなく歩き回る・(身体の子孫。末端)足(を持つ動物。馬)」(「アチ」が「アシ」となった)

  「タカ・チ」、TAKA-TI(taka=turn on a pivot,go or pass round,roam at large;ti=throw,cast,overcome)、「(地上を)くまなく歩き回って・(征服する)走破する(動物。馬)」(「チ」が「シ」となった)

の転訛と解します。

448タカス・タガス

 [阿仁・仙北]大木が自然に洞になっているもの。3メートル以上の高さのところに入り口があり、クマはそこから入って根元で冬眠しているもので、根元に小さい探り穴を掘って、そこから木の棒を押し込んでクマを追い出し、クマが洞をよじ登って上から出るところを銃で射つものです

 この「タカス」、「タガス」は、

  「タカツ」、TAKATU(prepare,get ready,hurried,wiggle)、「(クマが洞穴をよじ登って出るところを)待ち構えて射つ(クマが冬眠している大木の洞穴)」(「タカツ」が「タカス」となった)

  「タ(ン)ガ・ツ」、TANGA-TU(tanga=circumstance or time or place etc. of dashing or striking etc.;tu=stand,settle,fight with,energetic)、「(クマが)冬眠している場所(洞穴)から・無理矢理追い出して捕る(場所。大木の洞穴)」(「タ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「タガ」と、「ツ」が「ス」となった)

の転訛と解します。

449タカ・タカツカイ

 [雄勝]鷹。鷹使い。

 この「タカ」、「タカツカイ」は、

  「タ・アカ」、TA-AKA(ta=the...of,dash,beat,lay;aka=clean off,scrape away)、「素早く舞い降りて・(獲物を)浚ってゆく(鳥。鷹)」(「タ」のA音と「アカ」の語頭のA音が連結して「タカ」となった)

  「タ・アカ・ツ・カイ」、TA-AKA-TU-KAI(ta=the...of,dash,beat,lay;aka=clean off,scrape away;tu=stand,settle,fight with,energetic;kai=fulfil its proper function,have full play)、「素早く舞い降りて・(獲物を)浚ってゆく(鳥。鷹)を・懸命に(操つて)・十分に(鷹にその能力を発揮させ)働かせる(ひと。鷹使い)」(「タ」のA音と「アカ」の語頭のA音が連結して「タカ」となった)

の転訛と解します。

450タカツメ

 [阿仁]鉄の爪があるかんじき。

 この「タカツメ」は、

  「タカ・ツ・マイ」、TAKA-TU-MAI(taka=fasten a fish-hook to a line,thread by which the hook is fastened to the line;tu=stand,settle,fight with,energetic;mai=to indicate direction or motion towards,to indicate such relation to the principal character of the story)、「懸命に・(雪の中を)前進するように・(鉤のような)爪を付けた(かんじき。鉄の爪があるかんじき)」(「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」となった)

の転訛と解します。

451タカド・タカドウ

 [岩手・雄勝]大木の幹の上にある穴。また大木の根元から2メートルないし3メートルぐらいの高さにある穴でやや斜め向きのもの。この穴から幹の上下に空洞が通っている物が多く、クマがいる。

 この「タカド」、「タカドウ」は、

  「タカ・トフ」、TAKA-TOHU(taka=heap,lie in a heap;tohu,totohu=sink)、「高いところに(入り口が)ある・(クマが)落ち込むもの(冬眠する洞穴)」(「トフ」のH音が脱落して「ト」から「ド」と、または「トウ」から「ドウ」となった)

の転訛と解します。

452タキリ

 [阿仁]クマの男根。220クマノタキリと同じです。

 この「タキリ」は、

  「タキリ」、TAKIRI(loosen,free from tapu,start convulsively,rush)、「急にいきり立つもの(男根)」

の転訛と解します。

453タケビ

 [岩手]笹竹の油を抜いて枯らした竹火。灯火として用います。

 この「タケビ」は、

  「タケケ・ピ」、TAKEKE-PI(takeke=denoting exhaustive character of the action indicated.consumed,completely acquired,etc.;(Hawaii)pi=sputtering,smoldering as green wood that burns poorly)、「消耗した(中が空(から)になった植物。竹)が・(パチパチと音を立てて)燃えるもの(竹火)」(「タケケ」の反復語尾が脱落して「タケ」と、「ピ」が「ビ」となった)

の転訛と解します。

454タタク

 [阿仁・仙北・鳥海]鉄砲で撃ったり、463タテ(槍)で突いて獲物を捕ること。

 この「タタク」は、

  「タタ・アク」、TATA-AKU(tata=dash down,beat down,break in pieces by dashing on the ground,strike repeatedly;aku=delay,scrape out,cleanse(akuaku=firm,strong))、「(一発で)綺麗に・仕留める(獲物の捕り方)」または「(槍で)何回も突いて・時間をかける(獲物の捕り方)」(「タタ」の語尾のA音と「アク」の語頭のA音が連結して「タタク」となった)

の転訛と解します。

455タタネ

 [阿仁]餅。

 この「タタネ」は、

  「タタ・ネイ」、TATA-NEI(tata=dash down,beat down,strike repeatedly;nei=to indicate continuance of action)、「繰り返して・(杵で)何回も突いて作るもの(餅)」(「ネイ」が「ネ」となった)

の転訛と解します。

456タダタダ

 [阿仁]クマを捕る。

 この「タダタダ」は、

  「タタ・タタ」、TATA-TATA(tata=dash down,beat down,break in pieces by dashing on the ground,strike repeatedly)、「(クマを)打ち倒して・その場で解体する(クマを捕る)」(「タタ」が「タダ」となった)

の転訛と解します。

457タチ

 [鳥海]皮を剥いでからの儀式。

 この「タチ」は、

  「タハ・アチ」、TAHA-ATI(taha=side,edge;ati=then,beginning)、「(皮を剥いだクマの)脇で・始まるもの(儀式)」(「タハ」のH音が脱落し、その語尾のA音と「アチ」の語頭のA音が連結して「タチ」となった)

の転訛と解します。

458タチキリ

 [雄勝]クマ狩りで一の待ち場所のマタギを補佐する射手マタギ。

 この「タチキリ」は、

  「タハ・チキ・リ」、TAHA-TIKI-RI(taha=side,edge;tiki=fetch,proceed to do anything;ri=screen,protect,bind)、「(クマの行く手を)遮って・捕らえる・(場所の)傍ら(で補佐する者)」(「タハ」のH音が脱落して「タ」となった)

の転訛と解します。

459タチマエ

 [阿仁]クマ狩りの場合の射手。

 この「タチマエ」は、

  「タ・チ・マエ」、TAHA-TI-MAE(ta=dash,beat,lay;ti=throw,cast,overcome;mae=languid,listless,withered,struck with astonishment etc.)、「(クマに)打撃を与え・打ちのめして・くったりとさせる(者。射手)」

の転訛と解します。

460タヂ

 [仙北・鳥海]仙北では金かんじき。鳥海では狩りの待ち場をいう。

 この「タヂ」は、

  「タハ・チ」、TAHA-TI(taha=side,edge;ti=throw,cast,overcome)、(仙北)「(かんじきの輪の)周囲に・(金具が)付けられている(金かんじき)」または(鳥海)「(狩り場の)傍らの・(放り出されている)待機している場所(待ち場)」(「タハ」のH音が脱落して「タ」と、「チ」が「ヂ」となった)

の転訛と解します。

461タツキヤ

 [岩手]カマシカの内臓で胃の付近についている赤肉。

 この「タツキヤ」は、

  「タハ・ツキ・イア」、TAHA-TUKI-IA(taha=side,edge;tuki=pound,attack,piece attached to the body of a canoe to lengthen it;ia=indeed)、「(胃の)そばに・実に・付着しているもの(肉)」(「タハ」のH音が脱落して「タ」と、「イア」が「ヤ」となった)

の転訛と解します。

462タツキリ

 [岩手]クマ狩りで、鉄砲を持っているシカリマタギのいる方向へクマを追い上げるマタギたちをいう。

 この「タツキリ」は、

  「タハ・ツキ・イリ」、TAHA-TUKI-IRI(taha=side,edge;tuki=pound,attack,piece attached to the body of a canoe to lengthen it;iri=iri=be elevated on something,hang,embark on)、「(打撃を与える)鉄砲を撃つ(シカリマタギの)・側の方へ・(クマを舟に乗せるように)追い上げる(マタギたち)」(「タハ」のH音が脱落して「タ」と、「ツキ」の語尾のI音と「イリ」の語頭のI音が連結して「ツキリ」となった)

の転訛と解します。

463タテ・タデ・エグシ

 [阿仁・仙北・鳥海・雄勝・岩手]クマ狩用の槍。会津のマタギは、エグシ(柄串)といいます。

 この「タテ」、「タデ」、「エグシ」は、

  「タタイ」、TATAI(measure,arrange,apply as ornament,stroke with a weapon)、「刺突する武器(槍)」(AI音がE音に変化して「タテ」または「タデ」となった)

  「エ・クフ・チチ」、E-KUHU-TITI(e=to denote action in progress or temporary condition;kuhu=insert,thrust in;titi=peg,comb for sticking in the hair)、「(獲物の体の)中に突き・入れる・棒状のもの(槍)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」から「グ」と、「チチ」の反復語尾が脱落して「チ」から「シ」となつた)

の転訛と解します。

464タテヲオサメル

 [阿仁・仙北]獲物獲りを中止すること。マタギをやめること。

 この「(タテヲ)オサメル」は、

  「アウタ・マイ・ル」、AUTA-MAI-RU(auta=encroach upon,attack;mai=become quiet;ru=shake,scatter)、「(獲物に)襲いかかるのを・奮って・(静かになる)止める(狩りを中止する。またはマタギをやめる)」(「アウタ」のAU音がO音に変化して「オタ」から「オサ」と、「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」となった)

の転訛と解します。

465タテクラ

 [阿仁]獣がよくいる、狭い、しかも高い岩壁のこと。

 この「タテクラ」は、

  「タ・アタエ・クラ」、TA-ATAE-KURA(ta=the...of;atae=great!;kura=red,precious,treasure)、「例の・偉大な・(素晴らしい)岸壁」(「タ」のA音と「アタエ」のAE音がE音に変化した「アテ」の語頭のA音が連結して「タテ」となった)

の転訛と解します。

466タテノサヤブクロ・マンスケ

 [仙北]463タテ(槍)の鞘袋。カモシカので作ったという。クマ用の槍は生臭包丁形で、笹穂形のものはマンスケと称したといいます。

 この「(タテの)サヤブクロ」、「マンスケ」は、

  「タイア・プク・ロ」、TAIA-PUKU-RO(taia=neap of the tide,outer paliside of a stockade;puku=swelling,abdomen,stomach;ro=roto=inside)、「(柵で囲んだ集落の外郭のような)槍の外側を覆う・中が・膨らんでいる(袋。鞘袋)」(「タイア」が「サヤ」と、「プク」が「ブク」となった)

  「マナツ・ケ」、MANATU-KE(manatu=go,proceed,ebb of the tide;ke=different,strange)、「(除々に潮が後退するように)刃が次第に細くなっている・奇妙な(形の槍)」(「マナツ」が「マンス」となった)

の転訛と解します。

467タビマタギ

 [阿仁仙北・鳥海]旅に出て狩猟すること。三十日を単位として寒中から春まで三ヶ月に及ぶことがあります。

 この「タビ(マタギ)」は、

  「タ・アピアピ」、TA-APIAPI(ta=the...of,dash,beat,lay;apiapi=crowded,confined,constricted)、「あらゆる障害の・克服(の作業の連続。旅)」(「タ」のA音と「アピアピ」の反覆語尾が脱落した「アピ」の語頭のA音が連結して「タピ」から「タビ」となった)

の転訛と解します。

468タマイレ

 [岩手]鉄砲の弾入れ。袋をカモシカの皮で作りますが、麻で編んだものやブドウ蔓の皮ほ編んで籠としたものもあります。

 この「(タマ)イレ」は、

  「イ・レイ」、I-REI(i=past tense,from,with,beside,with,by,at;rei=leap,rush,run)、「(弾が)そこに・(走り込む)入るもの(弾入れ)」(「レイ」が「レ」となった)

の転訛と解します。

469タマヅクリカタ

 [岩手]鉄製の弾作り型。坩堝から溶けた鉛を流し込んで鉄砲弾を作るハサミ形のものです。

 この「(タマ)ヅクリカタ」は、

  「ツク・ウリ・カタ」、TUKU-URI-KATA(tuku=catch in a net(tukutuku=a wicker pot for catching crayfish);uri=descendant,relative,race;kata=laugh,opening of shell-fish)、「(溶けた鉛を)流し込む容器の・部類で・(貝のように)上下に口を開くもの」(「ツク」が「ヅク」となり、その語尾のU音と「ウリ」の語頭のU音が連結して「ヅクリ」となった)

の転訛と解します。

470タマリ

 [鳥海]血の液状になっているもの。

 この「タマリ」は、

  「タハ・マ・アリ」、TAHA-MA-ARI(taha=side,spasmodic twitching of the muscles,pass on one side;ma=white,clean(mama=light,not heavy);ari=clear,appearance)、「(痙攣したように)どくどくと流れ出る・(軽い)さらりとした(液状の)・外観を呈するもの(液状の血)」(「タハ」のH音が脱落して「タ」と、「マ」のA音と「アリ」の語頭のA音が連結して「マリ」となった)

の転訛と解します。

471ダマ

 [阿仁]にぎりめし。

 この「ダマ」は、

  「タ・マハ」、TA-MAHA(ta=the...of,dash,beat,lay;maha=gratified,depressed,resigned)、「例の・(両手で飯を)握りしめて作ったもの(握り飯)」(「タ」が「ダ」と、「マハ」のH音が脱落して「マ」となった)

の転訛と解します。

472タメ

 [阿仁]狩り場の左右に控え、ホイホイとわめき立ててクマを追う役。勢子。

 この「タメ」は、

  「タハ・アマイ」、TAHA-AMAI(taha=side,spasmodic twitching of the muscles,pass on one side;amai=swell on the sea,giddy,dizzy)、「(狩り場の)左右の側で・(めまいがするほど)うるさくわめき立てる(役。勢子)」(「タハ」のH音が脱落して「タ」となったその語尾のA音と「アマイ」の語頭のA音が連結し、AI音がE音に変化して「タメ」となった)

の転訛と解します。

「チ」

473チカタ

 [仙北]金具。

 この「チカタ」は、

  「チカ・アタ」、TIKA-ATA(tika=straight,keeping a direct course,just,right;ata=gently,slowly,deliberately)、「きちんと・具合良く動くもの(金具)」(「チカ」の語尾のA音と「アタ」の語頭のA音が連結して「チカタ」となった)

の転訛と解します。

474チキレ

 [仙北]堅雪の裂け目。

 この「チキレ」は、

  「チ・キヒ・レイ」、TI-KIHI-REI(ti=throw,cast;kihi=cut off,strip of branches etc.;rei=leap,rush,run)、「(堅雪の面が)一気に・裂けて・(切断面が)走るもの(裂け目)」(「キヒ」のH音が脱落して「キ」と、「レイ」が「レ」となった)

の転訛と解します。

475チヌシ

 [阿仁・仙北]糞。

 この「チヌシ」は、

  「チ(ン)ゴイ(ン)ゴイ・チ」、TINGOINGOI-TI(tingoingo=tingoungou=protuberance,knob;ti=throw,cast)、「放り出された・瘤のようなもの(糞)」(「チ(ン)ゴイ(ン)ゴイ」の反覆語尾が脱落し、NG音がN音に、OI音がU音に変化して「チヌ」と、「チ」が「シ」となった)

の転訛と解します。

476チム

 [阿仁・仙北]食物。

 この「チム」は、

  「チ・イム」、TI-IMU(ti=throw,cast;imu=earth oven)、「地中の蒸し焼き炉に・(投げ)入れるもの(調理するもの。食物)」(「チ」のI音と「イム」の語頭のI音が連結して「チム」となった)

の転訛と解します。

477チムシブクロ

 [阿仁]胃腸。

 この「チムシブクロ」は、

  「チ・イム・チ・プク・ロ」、TI-IMU-TI-PUKU-RO(ti=throw,cast;imu=earth oven;puku=swelling,abdomen,stomch;ro=roto=inside)、「地中の蒸し焼き炉に・(投げ)入れるもの(調理するもの。食物を)・(放り込む)飲み込む・体の中の・胃(内臓。胃腸)」(「チ」のI音と「イム」の語頭のI音が連結して「チム」と、次ぎの「チ」が「シ」と、「プク」が「ブク」となった)

の転訛と解します。

478チヨウタン・チヨダン

 [仙北・鳥海]偽のクマの胆。

 この「チヨウタン」、「チヨダン」は、

  「チオフ・タ(ン)ガ」、TIOHU-TANGA(tiohu=stoop;tanga=be assembled,row)、「(身を屈めて)恥を忍んで・(異物を)混入した(偽のクマの胆)」(「チオフ」のH音が脱落して「チオウ」から「チヨウ」と、「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「タン」となった)

  「チオホ・タ(ン)ガ」、TIOHO-TANGA(tioho=apprehensive;tanga=be assembled,row)、「心配しながら・(異物を)混入した(偽のクマの胆)」(「チオホ」のH音が脱落して「チオ」から「チヨ」と、「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「ダン」となった)

の転訛と解します。

「ツ」

479ツカノカラ

 [阿仁]汁。

 この「ツカノカラ」は、

  「ツカツカ・(ン)ガウ・カラ」TUKATUKA-NGAU-KARA(tukatuka=start up,proceed forward;ngau=bite,hurt,act upon,attack;kara,kakara=scent,smell,flavour)、、「匂いが・湧き・立つもの(汁)」(「ツカツカ」の反覆語尾が脱落して「ツカ」と、「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」となった)

の転訛と解します。

480ツクシ

 [阿仁・仙北]阿仁では長さ30センチくらいの杉皮のついた棒、仙北では木の枝で作った棒をいう。

 この「ツクシ」は、

   「ツク・チ」、TUKU-TI(tuku=let go,leave,put off;ti=throw,cast,overcome)、「(木の幹から)伸び出て・(やがて)切り落とされたもの(木の枝で作った棒)」(「チ」が「シ」となった)

の転訛と解します。

481ツクリ

 [岩手]蔓で編んだ大袋。

 この「ツクリ」は、

  「ツクツク・ウリ」、TUKUTUKU-URI(tukutuku=a wicker pot for catching crayfish;uri=descendant,relative,race)、「(ザリガニを捕る)蔓で編んだ籠の・部類のもの(蔓で編んだ大袋)」(「ツクツク」の反覆語尾が脱落し、その語尾のU音と「ウリ」の語頭のU音が連結して「ツクリ」となった)

の転訛と解します。

482ツケヤド

 [仙北]山兎が跡をくらますために、折り返して輪をつくり、足跡の外へ外れて跳んで行くこと。

 この「ツケヤド」は、

  「ツケ・イア・ト」、TUKE-IA-TO(tuke=elbow,angle,bend,nudge;ia=indeed;to=drag)、「実に・横へ・跳んで行く」(「イア」が「ヤ」と、「ト」が「ド」となった)

の転訛と解します。

483ツヅレ

 [阿仁]マタギが山へ行くときに着る布製の短衣で両脇の下方が裂けているもの。

 この「ツヅレ」は、

  「ツツ・レイ」、TUTU-REI(tutu=hoop for holding open a hand net etc.;rei=breast,chest)、「胸部(の下方)に・空きがある着衣」(「ツツ」が「ツヅ」と、「レイ」が「レ」となった)

の転訛と解します。

484ヅドユキ

 [仙北]樹林中の枝に止まって塊状をなしている春の雪。

 この「ヅドユキ」は、

  「ツ・トウ・ヰウ・キ」、TU-TOU-WHIU-KI(tu=stand,settle;tou=anus,lower end of anything as the point of a whipping top,tail of a bird;whiu=throw,be gathered together;ki=full,very)、「(木の)枝の先に・(止まる)残っている・(大地に)たくさん・(空から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「ツ」が「ズ」と、「トウ」が「ド」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

の転訛と解します。

485ツノコスリ

 [岩手]堅木にカモシカが角を当てて研ぐこと。

 この「ツノコスリ」は、

  「ツ・(ン)ガウ・コ・ツリ」、TU-NGAU-KO-TURI(tu=fight with,energetic;ngau=bite,hurt,attack;ko=a wooden implement for digging or planting;turi=deaf,obstinate)、「荒々しく・攻撃するもの(角を)・執拗に・(鍬を振るうように木に)こすりつける」(「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」と、「ツリ」が「スリ」となった)

の転訛と解します。

486ツボ

 [仙北]クマが春に穴から出てする最初の糞。

 この「ツボ」は、

  「ツポ」、TUPO(ill omen,dank,gruesome)、「(クマにとって)とてもつらいもの」(「ツポ」が「ツボ」となった)

の転訛と解します。

487ツマ

 [仙北]死んだ馬。

 この「ツマ」は、

  「ツ・マエ」、TU-MAE(tu=stand,be placid,settle;mae=languid,listless,struck with astonishment)、「(尻尾を)ぶらんぶらんと振るのを・止めて静かになった(動物。死んだ馬)」(「マエ」の語尾のE音が脱落して「マ」となった)

の転訛と解します。

488ツマゴ

 [仙北]藁の爪皮のついた草鞋。

 この「つまご」は、

  「ツマ・(ン)ガウ」、TUMA-NGAU(tuma=challenge,abscess,any hard swelling in the flesh;ngau=wander,go about)、「堅い膨らみ(爪皮)がある・歩き回るもの(草鞋)」(「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)

の転訛と解します。

489ツマソリ

 [仙北]スキーの原始型。角館町の山橇よりもさらに原始的で、ハナの木を材料として鉈削りのものです。橇の紐は荒縄です。

 この「ツマソリ」は、

  「ツマ・ト・オリ」、TUMA-TO-ORI(tuma=challenge,abscess,any hard swelling in the flesh;to=drag;ori=cause to wave to and fro,sway,move about)、「堅い膨らみ(爪皮)がある・引っ張られるように・滑り回るもの(ツマソリ)」(「ト」のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「トリ」から「ソリ」となった)

の転訛と解します。

490ツマデ

 [鳥海]わらぐつ。

 この「ツマデ」は、

  「ツマ・タエ」、TUMA-TAE(tuma=challenge,abscess,any hard swelling in the flesh;tae=arrive,come,go,proceed to)、「堅い膨らみ(爪皮)がある・行き来するもの(藁靴)」(「タエ」のAE音がE音に変化して「デ」となった)

の転訛と解します。

491ツム

 [阿仁]食うこと。

 この「ツム」は、

  「ツ・ウム」、TU-UMU(tu=fight with,energetic;umu=earth oven)、「地中の蒸し焼き炉(で調理された食物を)・(懸命に格闘する)せっせと食べる」(「ツ」のU音と「ウム」の語頭のU音が連結して「ツム」となった)

の転訛と解します。

492ツーム

 [阿仁]食物。

 この「ツーム」は、

  「ツ・ウム」、TU-UMU(tu=fight with,energetic,stand,settle;umu=earth oven)、「(懸命に格闘する)せっせと食べる・地中の蒸し焼き炉(で調理された食物)」または「地中の蒸し焼き炉に・置かれているもの(蒸し焼き炉で調理された食物)」(「ツ・ウム」が「ツーム」となった)

の転訛と解します。

493ツメカジリ

 [岩手]二歳のクマが爪を幹にかけること。この爪かけ幹の近くに冬眠の穴があり、穴に入る二、三日前に降雪があると、雪上を歩かず、沢を下って足跡を消して穴に入るものだといいます。

 この「ツメカジリ」は、

  「ツ・フメ・カチ・イリ」、TU-HUME-KATI-IRI(tu=stand,settle,fight with,energetic;hume=bring to a point,gather up,tuck up clothes,gird on;kati=leave off,be left in statu quo,bite,nip;iri=be elevated on something,rest upon,hang)、「懸命に・物を抓むもの(爪)で・(幹の)高いところを・引っ掻く」(「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」と、「カチ」が「カジ」となり、その語尾のI音と「イリ」の語頭のI音が連結して「カジリ」となった)

の転訛と解します。

「テ」

494テアカズ

 [鳥海]火箸。

 この「テアカズ」は、

  「テ・アカ・ツ」、TE-AKA-TU(te=the;aka=anga=face or move in a certain direction,turn to,set about,doing anything;tu=fight with,energetic)、「例の・懸命に・(火のついた薪や炭を)扱うもの(火箸)」(「ツ」が「ズ」となった)

の転訛と解します。

495デアイマタギ

 [阿仁]冬に遠い山へ狩りに行くマタギ。

 この「デアイ(マタギ)」は、

  「テ・アイ」、TE-AI(te=the;ai=procreate,beget)、「例の(遠い場所でその場所ごとに)・(子を儲ける)仕事をする(稼ぐ)」(「テ」が「デ」となった)

の転訛と解します。

496テウエ・コテ

 [阿仁]手甲のこと。川内では「コテ」といいます。

 この「テウエ」、「コテ」は、

  「テ・ウエウエ」、TE-UEUE(te=crack;ueue=shake,disturb actually or metaphorically,incite)、「(手指の先が分かれている)手を・(損傷するのを妨害する)保護するもの(手甲)」(「ウエウエ」の反覆語尾が脱落して「ウエ」となった)

  「カウテテ」、KAUTETE(a wooden handle for holding flints for cutting,a piece of wood used in tying up a dog in prevent him from gnawing the rope)、「(犬を繋ぐ綱を保護するための木片のように手を)保護するためのもの(コテ。小手。籠手)」(AU音がO音に変化し、反覆語尾が脱落して「コテ」となった)

の転訛と解します。

497テカ

 [雄勝]鷹を止まらせる手袋。

 この「テカ」は、

  「テ・カハ」、TE-KAHA(te=crack;kaha=rope,edge,ridge of a hill)、「(手指の先が分かれている)手の・(鷹が止まる)端(はし)になるもの(手袋)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)

の転訛と解します。

498テキナコ・テコナコ

 [仙北]蝶。

 この「テキナコ」、「テコナコ」は、

  「テキ・ナコナコ」、TEKI-NAKONAKO(teki=scrape lightly,graze;nakonako=adorn,ornament,shining cuckoo)、「(花を)撫でるように飛ぶ・(着飾った)綺麗な(虫。蝶)」(「ナコナコ」の反覆語尾が脱落して「ナコ」となった)

  「テコ・ナコナコ」、TEKO-NAKONAKO(teko=rock,isolated,standing out;nakonako=adorn,ornament,shining cuckoo)、「(独立して)行方定めずに飛ぶ・(着飾った)綺麗な(虫。蝶)」(「ナコナコ」の反覆語尾が脱落して「ナコ」となった)

の転訛と解します。

499テツカ・テケエシ

 [雄勝]カモシカの皮で作った手袋。手ケエシとも。

 この「テツカ」、「テケエシ」は、

  「テ・ツ・カハ」、TE-TU-KAHA(te=crack:tu=stand,settle,fight with,energetic;kaha=strong,strength,persistency)、「(手指の先が分かれている)手に・強い力が・加わるもの(手袋)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)

  「テケ・エチア」、TEKE-ETIA(teke,whakateke=deal deceitfully;etia=as it were,as if,perhaps,how great!)、「あたかも・人の手ではないかのように思わせるもの(手袋)」(「エチア」の語尾のA音が脱落して「エシ」となった)

の転訛と解します。

500テツキヤシ・テツクリケヤ

 [阿仁・仙北・鳥海・岩手]カモシカの皮で作った手袋。

 この「テツキヤシ」、「テツクリケヤ」は、

  「テ・ツ・キア・チ」、TE-TU-KIA-TI(te=crack:tu=stand,settle,fight with,energetic;kia=to introduce a proposition,to denote wish or purpose or effect;ti=throw,cast,overcome)、「(手指の先が分かれている)手に・(何かを圧倒する)やっつけ・たいという気が・加わるもの(手袋)」(「キア」が「キヤ」と、「チ」が「シ」となった)

  「テ・ツ・クリ・ケ・イア」、TE-TU-KURI-KE-IA(te=crack:tu=stand,settle,fight with,energetic;kuri=dog,any quadruped;ke=different,strange;ia=indeed)、「(手指の先が分かれている)手に・実に・奇妙な・四つ足の獣の(皮が)・付着するもの(手袋)」(「イアむが「ヤ」となった)

の転訛と解します。

501テトリ

 [仙北・阿仁]イタヤ材の291コナギヤ(小長柄)のこと。仙北では山でだけテトリと呼びます。また、柄頭には凹みがあって銃台となります。

 この「テトリ」は、

  「テ・タウ・ウリ」、TE-TAU-URI(te=the,crack;tau=come to rest,settle down;uri=descendant,relative,race)、「例の・(鉄砲を撃つときに鉄砲を)載せる(台の)・部類のもの(銃台として使われる小長柄)」(「タウ」の語尾のU音と「ウリ」の語頭のU音が連結して「タウり」となり、そのAU音がO音に変化して「トリ」となった)

の転訛と解します。

 [仙北・岩手]クマの掌。また、クマの掌の肉。

 この「テノコ」は、

  「テ・ノ・コ」、TE-NO-KO(te=the,crack;no=of,belonging to,on account of,owing to;ko=dig or plant with a ko,a wooden implement for digging or planting)、「(手指の先が分かれている)手の・鍬を振るうのに・使うもの(場所。掌。また掌の肉)」

の転訛と解します。

503デマキ

 [阿仁・仙北]足跡でクマの存在を確かめてから行う巻き狩り。

 この「デマキ」は、

  「テ・マ・アキ」、TE-MA-AKI(te=the,to make a emphatic statement;ma=go,come;aki=abut on)、「例の(足跡でクマの存在を確かめてから行う)・(勢子が)相接して・進む(巻き狩り)」(「テ」が「デ」と、「マ」のA音と「アキ」の語頭のA音が連結して「マキ」となった)

の転訛と解します。

504テリ

 [仙北]クマの腹の内についている脂。

 この「テリ」は、

  「タイリ」、TAIRI(be suspended)、「(腹の内に)垂れ下がるもの(脂)」(AI音がE音に変化して「テリ」となった)

の転訛と解します。

505テングノツヅミ

 [阿仁]天狗の鼓は天気のよい時に聞こえ、吉相とされます。ただし、正直な人の耳だけに入るとされ、山に射るとき、夜更けにそれを効くと山神のお使いだといってお灯明をあげます。

 この「テングノツヅミ」は、

   「テ・(ン)グ・ノ・ツツ・フミ」、TE-NGU-NO-TUTU-HUMI(te=the;ngu=ghost,silent;no=of;tutu=violent,vigorous,summon,assemble:humi=abundant,copious)、「例の・(天狗という怪物または)山の神・の・(たくさんの)連打する・(人を呼び集める)合図の音(天狗の鼓)」(「(ン)グ」が「ング」と、「ツツ」が「ツヅ」となり、その語尾のU音と「フミ」のH音が脱落した「ウミ」の語頭のU音と連結して「ツヅミ」となった)

の転訛と解します。

506デンエンコ

 [仙北]湿る日。また次第に大きくなって転がってくる雪。

 この「デンエンコ」は、

  「テナ・エ(ン)ガ・カウ」、TENA-ENGA-KAU(tena=that,this,there;enga=anxiety(engaenga=overflow);kau=swim,wade,stalk)、「この(湿気が高くて)・(水の中を)泳ぐようだと・心配する(日)」または「この・泳ぐように斜面を転がり落ちる(雪に)・心配する(もの。雪)」(「テナ」が「デン」と、「エ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「エナ」から「エン」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

の転訛と解します。

507テントリアミ・バンドリ

 [雄勝]貂(てん)取り網。この地方では「テン」を「バンドリ」ともいいます。(通常は飛膜を持って滑空する「ムササビ」を「バンドリ」といいます。テンは、むささびのような飛膜はありませんが、敏捷で木登りに長け、樹上から樹上へ数メートル跳ぶことができることから、バンドリと呼んだものでしょう。)

 この「テントリアミ」、「バンドリ」は、

  「テ(ン)ガ・ト・リ・アミ」、TENGA-TO-RI-AMI(tenga=adam!s apple,goitre,distended;to=drag;ri=screen,protect,bind;ami=gather,collect)、「(尾の房毛が長く)膨らんで見える(特徴を持つ動物。貂)を・取り・押さえて・集めるもの(網)」(「テ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「テナ」から「テン」となった)

  「パ(ン)ガ・ト・オリ」、PANGA-TO-ORI(panga=throw,aim a blow at;to=drag,open or shut a door or a window;ori=cause to wave to and fro,sway,move about)、「(風のように飛んできて)獲物を襲う・あちこち・行き来する(鳥のような動物。ばんどり)」(「パ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「パナ」から「バン」と、「ト」のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「トリ」から「ドリ」となった)

の転訛と解します。

508テンパトリ

 [岩手]鉄製のバネと鎖のテンを捕る道具。ここでもテンをバンドリと呼びます。(507テントリアミの項を参照してください。)

 この「テンバトリ」は、

  「テ(ン)ガ・パト・リ」、TENGA-PATO-RI(tenga=adam!s apple,goitre,distended;pato=break,crack,knock;ri=screen,protect,bind)、「(尾の房毛が長く)膨らんで見える(特徴を持つ動物。貂)を・(バネが)はじけて・押さえるもの(捕る道具)」(「テ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「テナ」から「テン」と、「パト」が「バト」となった)

の転訛と解します。

「ト」

509ト

 [仙北]獣の足跡。それで動物の種類と、去った方向、通過時間を知ります。

 この「ト」は、

  「ト」、TO(drag,open or shut a door or a window)、「(重い)足を引きずって行き来する(足跡)」

の転訛と解します。

510ド

 [阿仁・仙北]山兎の足跡。

 この「ド」は、

  「トト」、TOTO(drag a number of object,chip or knock off,chop)、「(軽く)チョンチョンとつけた(足跡)」(「トト」の反覆語尾が脱落して「ト」から「ド」となった)

の転訛と解します。

511トアト

 [仙北]クマの足跡。

 この「トアト」は、

  「トア・ト」、TOA-TO(toa=brave,rough,bravery;to=drag,open or shut a door or a window)、「勇壮と・(重い)足を引きずって行き来する(クマの足跡)」

の転訛と解します。

512ドウヒキ

 [仙北]ボスの大猿で、集団の先頭に立ち、統率して行くサルのこと。

 この「ドウヒキ」は、

  「トフ・ヒキ」、TOHU-HIKI(tohu=mark,company or division of any army,point out;hiki=lift up,carry in the arms,nurse,take away,convey)、「(軍隊の)一団を・移動させる(指導者の猿)」(「トフ」のH音が脱落して「トウ」から「ドウ」となった)

の転訛と解します。

513トオミ

 [仙北]老猿で峯の高い所で見張りしているサル。

 この「トオミ」は、

  「ト・アウミヒ」、TO-AUMIHI(to=the...of,calm,tranquil;aumihi=sigh for,greet)、「静かに・嘆息している(猿)」(「アウミヒ」のAU音がO音に変化し、H音が脱落して「オミ」となった)

の転訛と解します。

514ドグスリ

 [阿仁]火薬。

 この「ドグスリ」は、

  「ト・(ン)グツ(ン)グツ・ウリ」、TO-NGUTUNGUTU-URI(to=the...of,drag;ngutungutu=flame,burn,taste;uri=descendant,relative,race)、「例の・(爆発的に)燃焼する・部類のもの(火薬)」(「ト」が「ド」と、「(ン)グツ(ン)グツ」のNG音がG音に変化し、反覆語尾が脱落して「グツ」から「グス」となり、その語尾のU音と「ウリ」の語頭のU音が連結して「グスリ」となった)

の転訛と解します。

515ドグスリツボ

 [阿仁]火薬の容器。ドグスリ(火薬)は、前出514ドグスリを参照してください。

 この「(ドグスリ)ツボ」は、

   「ツ・パウ」、TU-PAU(tu=stand,settle;pau=consumed,exhausted,denoting the complete or exhaustive character of any action)、「消費するもの(ここでは火薬)を・入れてある(貯蔵・保管する容器。壺)」(「パウ」のAU音がO音に変化して「ポ」から「ボ」となった)

の転訛と解します。

516トコメ

 [岩手]鍋に味噌をいれること。

 この「トコメ」は、

  「トコ・マイ」、TOKO-MAI(toko=begin to move,swell,increase in bulk;mai=sour,fermented,to indicate direction or motion towards)、「(味噌を入れた)汁が膨らんで・煮え立つようになる」(「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」となった)

の転訛と解します。

517トダ

 [阿仁]クマの脂肪。

 この「トダ」は、

  「タウタ(ン)ガ」、TAUTANGA(alighting)、「燃やして灯火とするもの(熊の脂肪)」(AU音がO音に変化し、名詞形語尾のNGA音が脱落して「トタ」から「トダ」となった)

の転訛と解します。

518トツツケフクロ・クラゲブクロ

 [阿仁]一升ビンが入るくらい長いものが入る袋。クラゲ袋のこと。

 この「トツツケ(フクロ)」、「クラゲ(フクロ)」は、

  「ト・ツ・ツケ」、TO-TU-TUKE(to=the...of,drag;tu=stand,settle;tuke=elbow,angle,a measure of length from one elbow to the fingers of the other extended arm)、「例の・(伸ばすと)片方の肘から他方の指の先までの長さが・ある(袋)」

  「ク・ラ(ン)ガイ」、KU-RANGAI(ku=silent,wearied,exhausted;rangai=herd,flock,shoal,company)、「ぶよぶよとした・集団をなすもの(クラゲ)」(「ラ(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ラゲ」となった)

の転訛と解します。

519トナリ

 [仙北・阿仁]ハナの木を材料としたかんじきにつける牛皮の紐。

 この「トナリ」は、

  「ト(ン)ガ・リ」、TONGA-RI(tonga=restrained,suppressed,secret;ri=screen,protect,bind)、「押さえつけて・結ぶもの(かんじきの紐)」(「ト(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「トナ」となった)

の転訛と解します。

520トビラ

 [仙北]山津波。

 この「トビラ」は、

  「ト・ピララ」、TO-PIRARA(to=the...of,drag;pirara=separated,scattered,divided,wide apart,gaping)、「例の・(山が)崩れ落ちる(現象。山津波)」(「ピララ」の反覆語尾が脱落して「ビラ」となつた)

の転訛と解します。

521トマス

 [仙北]サルの集団の本隊より先にやってくる四、五匹のサルのこと。先発隊。

 この「トマス.」は、

  「ト・マツア」、TO-MATUA(to=drag;matua=first,important,large,main body of an army)、「本隊を・引き連れるもの(先発隊)」(「マツア」の語尾のA音が脱落して「マス」となった)

の転訛と解します。

522トマリバ

 [阿仁]泊まり場。

 この「トマリバ」は、

  「トマ・リパ」、TOMA-RIPA(toma=resting place for bones;ripa=ridge,side,edge,the upper side)、「休息する・場所」(「リパ」が「リバ」となった)

の転訛と解します。

523トムシビ

 [岩手]クマの冬眠前、穴の前付近一帯を回って警戒して歩き、足跡を分からなくすること。

 この「トムシビ」は、

  「トムア・チピ」、TOMUA-TIPI(tomua=early,previous;tipi=pare off,dress the surface of timber with an adge,glide,go quickly or smoothly)、「(冬眠に)先立って・(周囲を)せわしなく歩く」(「トムア」の語尾のA音が脱落して「トム」と、「チピ」が「シビ」となった)

の転訛と解します。

524トムライノギヨウ

 [鳥海]獲物を射止めたときに行う「葬の行」の儀式。

 この「トムライノギヨウ」は、

  「ト・ムラ・ヒノ(ン)ガ・(ン)ギオ」、TO-MURA-HINONGA-NGIO(to=the...of,drag,calm;mura=blaze,flame;hinonga=doing,undertaking;ngio=extinguished,faded)、「例の・(火を)燃やす・ことによって・(生命を)消滅させるもの(葬の行)」(「ヒノ(ン)ガ」のH音および名詞形語尾のNGA音が脱落して「イノ」と、「(ン)ギオ」のNG音がG音に変化して「ギヨウ」となった)

の転訛と解します。

525トメギ

 [阿仁]マタギが集まってくるまで、発見したクマ穴からクマがにげないよう木をあてがうこと。

 この「トメギ」は、

  「タウ・メ・キヒ」、TAU-ME-KIHI(tau=string of a garment etc.,bundle;me=if,as if like;kihi=cut off,strip of branches etc.)、「木の枝を・まるで・束のようにする(穴に詰める)()」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」と、「キヒ」のH音が脱落して「キ」から「ギ」となった)

の転訛と解します。

526トラバサミ

 [岩手]クマ落とし用の鉄製のハサミ。

 この「トラバサミ」は、

  「トラ・パ・タミ」、TORA-PA-TAMI(tora=burn,blaze,be erect used of showing warlike feelings;pa=block up,prevent,assault,stockade,weir for catching eels etc.;tami=press down,suppress,smother)、「すこぶる荒々しく(作動する)・(クマを捕らえる)仕掛けで・(強いバネで足などを)挟んで押さえるもの(クマ落とし用の鉄製のハサミ)」(「パ」が「バ」と、「タミ」が「サミ」となった)

の転訛と解します。

527トラボー・ダオボッチ・ウマノツラ

 [平賀]尖った植物性のかぶりもの。ダオボッチともいう。仙北地方でいう馬の面(つら)のこと。

 この「トラボー」、「ダオボッチ」、「ウマノツラ」は、

  「トラ・ポウ」、TORA-POU(tora=burn,blaze,be erect used of showing warlike feelings;pou=post,pole,stake)、「荒々しく見せる・棒のような(高く真っ直ぐな。藁または木の枝で編んだかぶりもの)」(「ポウ」が「ボー」となった)

  「タオ・ポチ」、TAO-POTI(tao=spear about 6ft.long,suport,second in a duel;poti=angle,corner,basket for cooked food)、「手槍のような(高く真っ直ぐな)・(籠のような)木の枝で編んだかぶりもの」(「タオ」が「ダオ」と、「ポチ」が「ボッチ」となった)

  「ム・マエ・ノ・ツラツラ」、MU-MAE-No-TURATURA(mu=silent;mae=languid,listless,struck with astonishment;no=of;turatura=molest,spiteful)、「静かに(黙って)・(尻尾を)ぶらんぶらんと振っている(動物。馬)・の・迷惑なもの(馬がかぶるような長いかぶりもの)」(「ム」のM音が脱落して「ウ」と、「マエ」の語尾のE音が脱落して「マ」となった)

の転訛と解します。

528トリキ・トリキシバ・トリコシバ・クロモジ

 [阿仁・仙北・鳥海]クロモジ(樹種名)のこと。芳香がある樹皮が黒い木で、獲物を山の神に供えるときに用います。256ケボカイのときに、この小枝で逆に撫でたり、獲物の小部分をこの枝に挟んだりして、山の神に供えます。

 この「トリキ」は、

  「タウリ・キヒ」、TAURI-KIHI(tauri=fillet,band,bind,secure with a fillet;kihi=strip of branches,etc.)、「小枝に・(獲物の小片を)挟む(山の神に供える木)」(「タウリ」のAU音がO音に変化して「トリ」と、「キヒ」のH音が脱落して「キ」となった)

  「タウリ・キヒ・チパエ」、TAURI-KIHI-TIPAE(tauri=fillet,band,bind,secure with a fillet;kihi=strip of branches,etc.;tipae=lie to one side,lie across)、「小枝に・(獲物の小片を)挟んで・脇に置く(山の神に供える木)」(「タウリ」のAU音がO音に変化して「トリ」と、「キヒ」のH音が脱落して「キ」と、「チパエ」の語尾のE音が脱落して「シバ」となった)

  「タウリ・カウ・チパエ」、TAURI-KAU-TIPAE(tauri=fillet,band,bind,secure with a fillet;kau=stalk;tipae=lie to one side,lie across)、「(茎)枝に・(獲物の小片を)挟んで・脇に置く(山の神に供える木)」(「タウリ・カウ」のAU音がO音に変化して「トリ・コ」と、「チパエ」の語尾のE音が脱落して「シバ」となった)

  「ク・ロ・マウチ」、KU-RO-MAUTI(ku=firm,stiff,thickened;ro=roto=inside;mauti=grass,weeds,vegetation)、「深い・(闇の中のように)黒い・(草木)灌木の(木。クロモジ)」(「マウチ」のAU音がO音に変化して「モチ」から「モジ」となった)

の転訛と解します。

529トル

 [鳥海]与える。

 この「トル」は、

  「ト・ル」、TO-RU(to=the...of,the one of,used to supply the want of the verb to have;ru=shake,scatter)、「(奮って)思い切って・(欲しいものを)与える」

の転訛と解します。

530トロメン

 [鳥海]水。また流れる水、液体。

 この「トロメン」は、

  「トロ・メネ」、TORO-MENE(toro=stretch forth,creep,thrust or impel endways;mene=be assembled,show wrinkles,contort the face),、「(皺)波を立てながら・流れて行くもの(水。液体)」(「メネ」が「メン」となった)

の転訛と解します。

531トンネルカワ・トネリカワ・トネリ・トナリ

 [仙北・阿仁]牛の背皮で作るかんじきの紐皮。

 この「トンネルカワ」、「トネリカワ」、「トネリ」、「トナリ」は、

  「トヌ・(ン)ゲル・カ・ワ」、TONU-NGERU-KA-WHA(tonu=still,continuously,quite,just;ngeru,ngerungeru=smooth,soft,sleek;ka=take fire,be lighted,burn;wha=be disclosed,get abroad)、「実に・滑らかな・(獣の体から)剥がして・乾燥したもの(皮。牛の背皮で作ったかんじきの紐)」(「トヌ」が「トン」と、「(ン)ゲル」のNG音がN音に変化して「ネル」となった)

  「ト・(ン)ガエ・リ・カ・ワ」、TO-NGAE-RI-KA-WA(to=drag;ngae,ngaengae=heel;ri=screen,protect,bind;ka=take fire,be lighted,burn;wha=be disclosed,get abroad)、「引っ張って・かかとに・結びつける・(獣の体から)剥がして・乾燥したもの(皮。牛の背皮で作ったかんじきの紐)」(「(ン)ガエ」のNG音がG音に、AE音がE音に変化して「ネ」となった)

  「ト・(ン)ガエ・リ」、TO-NGAE-RI(to=drag;ngae,ngaengae=heel;ri=screen,protect,bind)、「引っ張って・かかとに・結びつける(かんじきの紐)」(「(ン)ガエ」のNG音がG音に、AE音がE音に変化して「ネ」となった)

  「ト(ン)ガ・リ」、TONGA-RI(tonga=restrained,suppressed,secret;ri=screen,protect,bind)、「押さえつけて・結ぶもの(かんじきの紐)」(「ト(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「トナ」となった)

の転訛と解します。

「ナ」

532ナカトオリ

 [仙北]中通りといって、食べ物をあさり、集団の列から離れて行くサルを集めてゆく役目のサル。サルの集団の雪跡を辿りながら一列になってついて行くサルでもあります。

 この「ナカトオリ」は、

  「ナカ・ト・オリ」、NAKA-TO-ORI(naka=move in a certain direction;to=drag;ori=cause to wave to and fro,sway,movw about)、「(ふらふらと)動き回る(サルを)・引っ張って・(集団が進む)方向ほ進む(役割のサル)」

の転訛と解します。

533ナガサ

 [阿仁・仙北]山刀。刃渡り28センチ前後で槍の代用としたり、木を伐ったり、皮・肉を切るときに山で使用します。

 この「ナガサ」は、

  「ナ・(ン)ガタ」、NA-NGATA(na=by,belonging to,satisfied,content;ngata=snail,anything small,appeased,satisfied)、「(用途が広くて)重宝する・部類のもの(山刀)」(「(ン)ガタ」のNG音がG音に変化して「ガタ」から「ガサ」となった)

の転訛と解します。

534ナガセ

 [仙北]馬肉。

 この「ナガセ」は、

  「ナ・(ン)ガテ」、NA-NGATE(na=by,belonging to,satisfied,content;ngate=move,shake)、「(食べると活発に動く)元気が出る・部類のもの(馬肉)」(「(ン)ガテ」のNG音がG音に変化して「ガテ」から「ガセ」となった)

の転訛と解します。

535ナカセゴ

 [阿仁・仙北]中勢子。沢勢子(350サワセイゴ)と連絡を十分にとり、山の中腹を横切って獲物を追い出す任務の者。

 この「ナカセゴ」は、

  「ナカ・タイ・(ン)ガウ」、NAKA-TAI-NGAU(naka=move in a certain direction;tai=tide,wave,anger,rage violence;ngau=bite,hurt,attack)、「(山の中腹から銃を持つマタギが待ち構える尾根に向かって獲物を)追って動く・荒々しく・追い立てる(人々。中勢子)」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「セ」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)

の転訛と解します。

536ナガセジル

 [阿仁・仙北・鳥海]長背汁。クマの大骨(背骨)をぶつ切りにし、長く大鍋で湯煮して、味噌、山菜、野菜などを入れたマタギ料理。

 この「ナガセジル」は、

  「ナ・(ン)ガテ・チ・ル」、NA-NGATE-TI-RU(na=by,belonging to,satisfied,content;ngate=move,shake;ti=throw,cast,overcome;ru=shake,scatter)、「(食べると活発に動く)元気が出る・部類のもので・奮つて・(圧倒した。くたくたに)煮込んだもの(クマの背骨の料理)」(「(ン)ガテ」のNG音がG音に変化して「ガテ」から「ガセ」と、「チ」が「ジ」となった)

の転訛と解します。

537ナガネ

 [阿仁]槍。

 この「ナガネ」は、

  「ナ・(ン)ガ(ン)ゲ」、NA-NGANGE(na=by,belonging to,satisfied,content;ngange,ngangengange=pierced,perforated)、「(獲物を)刺し通す・部類のもの(槍)」(「(ン)ガ(ン)ゲ」の最初のNG音がG音に、次のNG音がN音に変化して「ガネ」となった)

の転訛と解します。

538ナガムシ

 [阿仁・仙北]蛇。

 この「ナガムシ」は、

   「(ン)ガ(ン)ガ・ムイ・チ」、NGANGA-MUI-TI(nganga=breathe heavily or with difficulty,make a hoarse or harsh noise or screech as a bird;mui=swarm round,infest,molest;ti=throw,cast,overcome)、「(出会うと)思わず息を呑む・(人に)悩みを・もたらす(動物。蛇)」(「(ン)ガ(ン)ガ」の最初のNG音がN音に、次のNG音がG音に変化して「ナガ」と、「ムイ」が「ム」と、「チ」が「シ」となった)

の転訛と解します。

539ナガラ

 [仙北]長木。この「ナガラ」については、川猟の項(084ウ)を参照してください。

 この「ナガラ」は、

  「(ン)ガ(ン)ガ・ラハ」、NGANGA-RAHA(nganga=nga=satisfied,content;raha=open,extended)、「十分に・長いもの(長い木、竿)」(「(ン)ガ(ン)ガ」の最初のNG音がN音に、次のNG音がG音に変化して「ナガ」と、「ラハ」のH音が脱落して「ラ」となった)

  または「ナ・(ン)ガラ」、NA-NGARA(na=satisfied,content;ngara,ngarangara=anything small,Disphyma australe(a plant))、「(満足する)十分に長い・木(竿)」(「(ン)ガラ」のNG音がG音に変化して「ガラ」となった)

の転訛と解します。

540ナダレノジユゴン

 [仙北・阿仁]雪崩除けの呪言。

 この「ナダレノジュゴン」は、

  「ナ・タレ・(ン)ガウ・チウ・(ン)ゴ(ン)ゴ」、NA-TARE-NGAU-TIU-NGONGO(na=by,belonging to;tare=hang,gasp for breath,be drawn towards,be intent upon;ngau=bite,hurt,attack;tiu=soar,wander,swing,swift;ngongo=waste away,become thin,suck,suck out)、「(雪が宙に浮いて)下に落ちてくる・ようなもの(雪崩)が・(人を)襲うのを・(人を)除けて・消失する(ことを願う呪文)」(「タレ」が「ダレ」と、「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」と、「チウ」が「ジュ」と、「(ン)ゴ(ン)ゴ」の最初のNG音がG音に、次のNG音がN音に変化して「ゴノ」から「ゴン」となった)

の転訛と解します。

541ナダレヨケノホウ

 [仙北・鳥海]雪崩除けの法。

 この「ナダレヨケノホウ」は、

  「ナ・タレ・イ・オケ・(ン)ガウ・ホウ」、NA-TARE-I-OKE-NGAU-HOU(na=by,belonging to;tare=hang,gasp for breath,be drawn towards,be intent upon;i=from,beside,with,by,in the act of;oke=struggle,,wriggle,strive;ngau=bite,hurt,attack;hou=bind,lash together)、「(雪が宙に浮いて)下に落ちてくる・ようなもの(雪崩)が・(人を)襲うのを・必死になって・結びつける(雪崩を起こさないようにする。雪崩除けの呪文)」(「タレ」が「ダレ」と、「イ・オケ」が「ヨケ」と、「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」となった)

の転訛と解します。

542ナツクマイブクロ

 [仙北]夏のクマの胆袋。物を食べる夏のクマは、胆汁を消費するので胆袋は空となります。この空の胆袋に偽物の胆を詰めて偽のクマの胆が作られました。

 この「ナツクマイブクロ」は、

  「ナハ・ツ・クマ・ウイ・プク・ロ」、NAHA-TU-KUMA-UI-PUKU-RO(naha,nahanaha=well arranged,in good order;tu=fight with,energetic;(Hawaii)kuma=cracking of the skin between fingers and toes(=hakuma=dark,thick);ui=disentangle,disengage,unravel;puku=swelling,abdomen,stomach;ro=roto=inside)、「(動植物が)生き生きと・活動する(季節。夏)の・山と山の間(隈)に居る(動物。熊)または黒くて毛深い(動物。熊)の・(胃腸の)悩みを解消する(薬となる臓器の)・中が・膨らんだ(臓器)」(「ナハ」のH音が脱落して「ナ」と、「ウイ」が「ヰ」と、「プク」のP音がF音を経てH音に変化して「フク」となった)

の転訛と解します。

543ナビレ

 [阿仁]熊。

 この「ナビレ」は、

  「ナ・ピレレ」、NA-PIRERE(na=by,belonging to;pirere=fledgling which has left the nest,migrate of birds)、「(巣離れした)一人前になった・部類のもの(熊)」(「ピレレ」の反覆語尾が脱落して「ビレ」となった)

の転訛と解します。

544ナベフタノコリ

 [阿仁]鍋の蓋を頭に当てて上から水を掛けるマタギの刑罰(制裁)。鍋蓋の垢離。

 この「ナベフタノコリ」は、

  「ナ・ハパイ・フ・タ・ノ・コリ」、NA-HAPAI-PU-TA-NO-KORI(na=by,belonging to;hapai=lift up,carry;pu=tribe,bundle,heap,stack;ta=dash,beat,lay;no=of;kori=move,wriggle,bestir oneself,use action in oratory)、「(釜のように竈に固定せず)持ち運ぶ・種類のもの(調理器具。鍋)の・上に・置くもの(蓋)を・(用いて行う過去の反省と将来への覚悟の再確認という)自分自身を奮い立たせる行為」(「ハパイ」の語頭のH音が脱落したA音と「ナ」のA音が連結し、AI音がE音に変化して「ナペ」から「ナベ」となった)

の転訛と解します。

545ナメジリ・ナンツモノ

 [岩手]カモシカの舌、763モンパ(胃)の裏の肉、それに胃袋などを焼いて刻み、さらにカモシカの生の脳味噌を入れて混ぜ、酢味噌をつけて食べるマタギ料理。「なんつもの」ともいい、貝沢マタギの最高の料理とされます。

 この「ナメジリ」、「ナンツモノ」は、

  「ナ・メチ・リ」、NA-MWTI-RI(na=by,belonging to;meti,metimeti=fat;ri=screen,protect,bind)、「(脂っこい)味が豊かなものを・(混ぜた)和えた・種類の(料理)」(「メチ」が「メジ」となった)

  「ナナツ・モノ」、NANATU-MONO(natu,nanatu=scratch,stir up,mix;mono,monomono=odorous)、「(混ぜた)和えた・芳香がするもの(料理)」(「ナナツ」が「ナンツ」となった)

の転訛と解します。

546ナメス

 [阿仁・仙北]なめす。

 この「ナメス」は、

  「ナハ・メア・ツ」、NAHA-MEA-TU(naha,nahanaha=well arranged,in good order;mea=thing,fact,so and so,deal with,make;tu=fight with,energetic)、「(皮を)滑らかにするために・懸命に・処理する(なめす)」(「ナハ」のH音が脱落して「ナ」と、「メア」が「メ」と、「ツ」が「ス」となった)

の転訛と解します。

「ニ」

547ニカタブシ

 [仙北]荷方節。マタギたちが山神祭の日に歌う唄。

 この「ニカタブシ」は、

  「ヌイ・カタ・プ・チ」、NUI-KATA-PU-TI(nui=large,great,many;kata=laugh,laugh at,opening of shellfish;pu=blow gently,pipe;ti=throw,cast)、「大いに・笑って・穏やかに調子よく・(唄を投げかける)歌うもの(唄)」(「ヌイ」が「ニ」と、「プ」が「ブ」と、「チ」が「シ」となった)

の転訛と解します。

548ニクノシオヅケ

 [阿仁]肉の塩漬け。阿仁マタギは、旅に出て遠く新潟、長野方面でもクマ狩りをし、胆は向こうで売り、皮と塩漬けにした肉は持って帰りました。

 この「ニクのシオヅケ」は、

  「ニヒ・ク・ノ・チ・ホ・ツイ・カイ」、NIHI-KU-NO-TI-HO-TUKE(nihi=move stealthly;ku=silent;ti=throw,cast,overcome;ho=put out the lips,shout;tuke=)、「静かに・音を立てずに動くもの(肉)・の・(嘗めると)口を・しかめるもの(塩。その塩を用いた)・香りがある・食物(漬け物。肉の塩漬け)」(「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」と、「チ」ガ「シ」と、「ホ」のH音が脱落シテ「オ」と、「ツイ」が「ツ」と、「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)

の転訛と解します。

549ニゲン・ニゲ

 [仙北]角館町内町の武家に伝わるマタギの山兎糞料理。

 この「ニゲン」、「ニゲ」は、

  「ヌイ・(ン)ゲ(ン)ゲ」、NUI-NGENGE(nui=large,great,many;ngenge=fat)、「たいへん・(脂っこい)味の豊かな(料理)」(「ヌイ」のUI音がI音に変化して「ニ」と、「(ン)ゲ(ン)ゲ」の最初のNG音がG音に、次のNG音がN音に変化して「ゲネ」から「ゲン」となった。また「(ン)ゲ(ン)ゲ」の反覆語尾が脱落し、NG音がG音に変化して「ゲ」となった)

の転訛と解します。

550ニゴリワツカ

 [阿仁]どぶろく。濁酒。(この「ワッカ」をアイヌ語(wakka 水)と解する説もありますが、他のマタギ語がすべて縄文語であるのに、これだけがアイヌ語というのはあまりにも不自然です。これに対応する縄文語があるかぎりは、縄文語と解すべきものと考えます。153カスケワッカの項を参照してください。)

 この「ニゴリワッカ」は、

  [縄文語]「ヌイ・(ン)ゴ(ン)ゴ・オリ・ウア・カハ」、NUI-NGONGO-ORI-UA-KAHA(nui=large,great,many;ngongo=waste away,suck,sick person,invalid,dimple;ori=cause to wave to and fro,sway,move about;ua=rain;kaha=strong,strength,persistency)、「たくさんの・柔らかな粒が・浮遊している・(人を酔わす強い力がある)まとまった・雨のような(水の様な液体。酒。濁酒)」(「ヌイ」のUI音がI音に変化して「ニ」と、「(ン)ゴ(ン)ゴ」のNG音がG音に変化し、反覆語尾が脱落して「ゴ」となり、その語尾のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「ゴリ」と、「ウア」が「ワッ」と、「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)

  または[縄文語+アイヌ語]「ヌイ・(ン)ゴ(ン)ゴ・オリ・ワッカ」、NUI-NGONGO-ORI-WAKKA(nui=large,great,many;ngongo=waste away,suck,sick person,invalid,dimple;ori=cause to wave to and fro,sway,move about;(Aynu)WAKKA(水))、「たくさんの・柔らかな粒が・浮遊している・水(水の様な液体。酒。濁酒)」(「ヌイ」のUI音がI音に変化して「ニ」と、「(ン)ゴ(ン)ゴ」のNG音がG音に変化し、反覆語尾が脱落して「ゴ」となり、その語尾のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「ゴリ」となった)

の転訛と解します。

551ニッテンホフ

 [仙北]マタギの冬山携行食168カネモチで丸形に作る餅を日天子表といいます。

 この「ニッテンホフ」は、

  「ヌイ・テナ・ホフホフ」、NUI-TENA-HOHU(nui=large,great,many;tena=encourage,inviting co-operation or giving encouragement;hohuhohu=sob violently)、「大いに・(飢えに泣く)苦しむ(人々を)・(カネモチを一同で分けて食べることで)元気づけるもの(冬山携行食)」(「ヌイ」のUI音がI音に変化して「ニ」と、「テナ」が「テン」と、「ホフホフ」の反覆語尾が脱落して「ホフ」となった)

の転訛と解します。

552ニナワ・マダ

 [仙北]マダ(シナの木の皮)で作った縄にブドウ蔓を混ぜた丈夫な荷縄のこと。

 この「ニナワ」、「マダ」は、

  「ヌイ・ナハ」、NUI-NAHA(nui=large,great,many;naha=noose for snaring ducks)、「丈夫な・(輪縄)縄(荷縄)」(「ヌイ」のUI音がI音に変化して「ニ」と、「ナハ」が「ナワ」となった)

  「マ・タハ」、MA-TAHA(ma=white,clean,for,by,by means of;taha=side,edge,part)、「(木の縁)皮が・有用な(樹。マダの木の皮)」(「タハ」のH音が脱落して「タ」から「ダ」となった)

の転訛と解します。

553ニノブッパ

 [阿仁]巻き狩りの場所で一のブッパとは、クマの逃げて行きやすい場所で、そこに獲物を一発で仕留める腕利きを配置し、二のブッパはクマが一のブッパに行かず、第二のコースをとった場合の予備として、マタギが待ち構えている場所。

 この「ニノブッパ」は、

  「ニホ・ノ・プツ・パ」、NIHO-NO-PUTU-PA(niho=tooth,thorn,effective force;no=of;putu=lie in a heap,swell,heap;pa=block up,prevent,assault,screen,blockade)、「(有効な力)獲物を仕留める力がある(人)・(の)を・配置しておく・(クマが逃げるのを)防止する場所」(「ニホ」のH音が脱落して「ニ」と、「プツ」が「ブッ」となった)

の転訛と解します。

「ヌ」

554ヌツクルミ

 [阿仁]皮製の足袋。

 この「ヌツクルミ」は、

  「ヌイ・ツク・ルミ」、NUI-TUKU-LUMI(nui=large,great,many;tuku=let go,leave,send,settle down;(Hawaii)lumi=to crowd uncomfortably,to press,room,cell)、「丈夫な・(部屋のような)入れ物に・(足を)突っ込むもの(皮製の足袋)」(「ヌイ」の語尾のI音が脱落して「ヌ」となった)

の転訛と解します。

「ネ」

555ネアナ

 [岩手・雄勝]立木にあるクマの冬眠の穴。大木の根元にできる穴。

 この「ネアナ」は、

  「ナエナエ・アナ」、NAENAE-ANA(naenae=failing of breath;ana=cave)、「(息をひそめる)冬眠する・穴」(「ナエナエ」のAE音がE音に変化し、反覆語尾が脱落して「ネ」となった)

の転訛と解します。

556ネジマ

 [岩手]555ネアナの一番奥をいう。

 この「ネジマ」は、

  「ナエナエ・チヒ・マ」、NAENAE-TIHI-MA(naenae=failing of breath;tihi=summit,top,peak,topknot of hair,lie in a heap;ma=white,clean)、「(息をひそめる)冬眠する・清らかな・草木を敷き詰めた場所」(「ナエナエ」のAE音がE音に変化し、反覆語尾が脱落して「ネ」と、「チヒ」のH音が脱落して「シ」から「ジ」となった)

の転訛と解します。

557ネダカス

 [阿仁・仙北]根高巣。木の空洞で根に口が開いている穴。

 この「ネダカス」は、

  「ナエナエ・タカ・ツ」、NAENAE-TAKA-TU(naenae=failing of breath;taka=heap,lie in a heap;tu=stand,settle)、「(息をひそめる)冬眠する・高い場所に・籠もる(穴)」(「ナエナエ」のAE音がE音に変化し、反覆語尾が脱落して「ネ」と、「タカ」が「ダカ」と、「ツ」が「ス」となった)

の転訛と解します。

558ネジ

 [岩手]穴から出たクマの最初の糞。山兎の毛の固まったような糞。

 この「ネジ」は、

  「ネキ」、NEKI((Hawaii)great bulrush,full,crowded,packed)、「堅く固まった(糞)」(ハワイ語「ネキ」のK音に変化する前のT音に遡って「ネチ」から「ネジ」となった)

の転訛と解します。

559ネツボ

 [阿仁]クマの入っている穴。

 この「ネツボ」は、

  「ナエナエ・ツポホ」、NAENAE-TUPOHO(naenae=failing of breath;taka=heap,lie in a heap;tupoho=consolation)、「(息をひそめる)冬眠する・安らぎの場所(穴)」(「ナエナエ」のAE音がE音に変化し、反覆語尾が脱落して「ネ」と、「ツポホ」のH音が脱落して「ツボ」となつた)

の転訛と解します。

560ネヅボ

 [仙北]カモシカが雪を踏み敷いて寝ている所。

 この「ネヅボ」は、

  「ナエナエ・ツポウ」、NAENAE-TUPOU(naenae=failing of breath;taka=heap,lie in a heap;tupou=bow the head,fall or throw oneself headlong)、「(息をひそめて)眠る・手足を伸ばして横になる場所」(「ナエナエ」のAE音がE音に変化し、反覆語尾が脱落して「ネ」と、「ツポウ」の語尾のU音が脱落して「ツポ」から「ヅボ」となつた)

の転訛と解します。

561ネヅボラ

 [仙北]女性器。

 この「ネヅボラ」は、

  「ネネ・ツ・ポラ」、NENE-TU-PORA(nene=fat,jest,be saucy(whakanene=cause a pleasant sensation,soothe,jest,sport,quarrel);tu=stand,settle;pora=ship,stranger,wonderful person,foreign)、「びっくりするような・甘美なものが・ある」(「ネネ」の反覆語尾が脱落して「ネ」と、「ツ」が「ヅ」と、「ポラ」が「ボラ」となった)

の転訛と解します。

562ネネヅボ

 [阿仁]女性器。

 この「ネネヅボ」は、

  「ネネ・ツ・ポ」、NENE-TU-PO(nene=fat,jest,be saucy(whakanene=cause a pleasant sensation,soothe,jest,sport,quarrel);tu=stand,settle;po=night)、「夜に・甘美なものが・ある」(「ツ」が「ヅ」と、「ポ」が「ボ」となった)

の転訛と解します。

563ネビラ

 [仙北]春雪崩。

 この「ネビラ」は、

  「ネイ・ピララ」、NEI-PIRARA(nei,neinei=stretched forward,reaching out,wagging,vacillating,bobbing up and down;pirara=separated,scattered,divided,wide apart)、「(雪の塊が地表から)剥がれて・押し寄せる(雪崩)」(「ネイ」が「ネ」と、「ピララ」の反覆語尾が脱落して「ビラ」となった)

の転訛と解します。

564ネブデ

 [仙北]雨雪。雨が強くなって雪に変わったもの。風にふわふわ動かない真っ直ぐ降ってくる雪です。

 この「ネブデ」は、

  「ネイ・プタイ」、NEI-PUTAI(nei,neinei=stretched forward,reaching out,wagging,vacillating,bobbing up and down;putai=sea foam,spray,misty driving rain)、「強く降る・(霧のような)雪に変わった雨」(「ネイ」が「ネ」と、「プタイ」のAI音がE音に変化して「ブデ」となった)

の転訛と解します。

565ネリキ・サピタ・ノリウツギ

 [阿仁]かんじきの爪の材料で、サピタ(和名ノリウツギ)をいう。ネリキは、紙漉きの糊をこれから採ることから、糊木の意とする説があります。

 この「ネリキ」、「サピタ」、「ノリウツギ」は、

  「(ン)ゲリ・キヒ」、NGERI-KIHI(ngeri=rhythmic chant with actions,a rough kind of cloak;kihi=cut off,destroy completely,strip of brabches etc.)、「(単調な唄を歌いながら枝条を叩いて)糊を作る・木片(ネリキ)」(「(ン)ゲリ」のNG音がN音に変化して「ネリ」と、「キヒ」のH音が脱落して「キ」となった)

  「タピ・タハ」、TAPI-TAHA(tapi=patch,mend,repair;taha=side,margin,edge,part)、「(紙や木片の)一部分を・修復するもの(糊を作る木。サビタ)」(「タピ」が「サビ」となった)

  「(ン)ゴリ・フツ・(ン)ギア」、NGORI-HUTU-NGIA(ngori=weak,listless;hutu=Ascarina lucida;ngia=seem,appear to be)、「軟らかい・センリョウ(草本の一種)に・似た植物(ノリウツギ)」(「(ン)ゴリ」のNG音がN音に変化して「ノリ」と、「フツ」のH音が脱落して「ウツ」と、「(ン)ギア」のNG音がG音に変化し、語尾のA音が脱落して「ギ」となった)

の転訛と解します。

「ノ」

566ノジ

 [阿仁]山犬。オオカミ。

 この「ノジ」は、

  「(ン)ガウ・ウチ」、NGAU-UTI(ngau=bite,hurt,attack;uti=bite)、「(獲物に)飛びかかって・噛みつくもの(山犬。狼)」(「(ン)ガウ」のNG音がN音に変化し、その語尾のU音と「ウチ」の語頭のU音と連結し、AU音がO音に変化して「ノチ」から「ノジ」となった)

の転訛と解します。

567ノソグ・ノシヨグ

 [仙北]野宿。雪を掘って火を焚き、夜を明かす。また数頭のマタギイヌを抱いて雪穴に寝る場合もいいます。

 この「ノソグ」、「ノショグ」は、

  「(ン)ゴト・(ン)グ」、NGOTO-NGU(ngoto=head,be deep,penetrate,firmly;ngu=silent,moan,groan)、「(雪穴を)掘って・(震えながら)静かに(夜を過ごす)」(「(ン)ゴト」のNG音がN音に変化して「ノト」から「ノソ」と、「(ン)グ」のNG音がG音に変化して「グ」となった)

  「ノチ・アウ・(ン)グ」、NOTI-AU-NGU(noti=pinch or contract as with a band or ligature;au=firm,sound of sleep,intense;ngu=silent,moan,groan)、「(マタギイヌと)抱き合って・静かに・安眠する」(「ノチ」が「ノシ」と、「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」となり、「ノシ・オ」が「ノショ」と、「(ン)グ」のNG音がG音に変化して「グ」となった)

の転訛と解します。

568ノボリマキ

 [阿仁・仙北]射手が尾根で、下から追い上げてきたクマをとる巻き狩り。

 この「ノボリマキ」は、

  「(ン)ガオ・パウ・リ・マ・アキ」、NGAO-PAU-RI-MA-AKI(ngao=alternate ridge and depression as on timber dressed by an adze,trough of the sea;pau=consumed,denoting the complete or exhaustive character of any action;ri=screen,protect,bind;ma=go,come;aki=abut on)、「波を打っている山の尾根で・(クマが逃げるのを)防止する(射殺する)・ことを成し遂げる・(勢子が)相接して・進む(クマなどを追い出す巻き狩り)」(「(ン)ガオ」のNG音がN音に、AO音がO音に変化して「ノ」と、「パウ」のAU音がO音に変化して「ボ」と、「マ」のA音と「アキ」の語頭のA音が連結して「マキ」となった)

の転訛と解します。

569ノボリヤマノカミ

 [鳥海]クマ狩りに向かう時の酒盛り。村のうちの宿を借りて酒宴を開くが、中座にならないうちは決して唄を歌うことはできないとされます。

 この「ノボリヤマノカミ」は、

  「(ン)ガオ・パウ・リ・イア・マノ・カミ」、NGAO-PAU-RI-IA-MANO-KAMI(ngao=alternate ridge and depression as on timber dressed by an adze,trough of the sea;pau=consumed,denoting the complete or exhaustive character of any action;ri=screen,protect,bind;ia=indeed;mano=thousand,indefinitely large number;kami=eat)、「波を打っている山の尾根で・(クマが逃げるのを)防止する(射殺する)・ことを成し遂げ・実に・たくさんの獲物(が得られる)・(ことを願って)飲食する(巻き狩りの前の酒宴)」(「(ン)ガオ」のNG音がN音に、AO音がO音に変化して「ノ」と、「パウ」のAU音がO音に変化して「ボ」と、「イア」が「ヤ」となった)

の転訛と解します。

570ノロ

 [阿仁]カモシカ。

 この「ノロ」は、

  「(ン)ガウ・ラウ」、NGAU-RAU(ngau=wander,go about;rau=hundred,multitude)、「集団で・徘徊する(動物。カモシカ)」(「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」と、「ラウ」のAU音がO音に変化して「ロ」となった)

の転訛と解します。

「ハ」

571ハカマ

 [阿仁・仙北・鳥海]麻布製の袴。現在のニッカズボンのように膨らんだもので、マタギに出るときに着るもの。

 この「ハカマ」は、

  「ハカ・アマ」、HAKA-AMA(haka=deformed;ama=the carved posts supporting the facing boards on the gable of a house)、「(家の破風板を支える)曲がった(柱のように膨らんだ)・形の悪いもの(ハカマ)」(「ハカ」の語尾のA音と「アマ」の語頭のA音が連結して「ハカマ」となった)

の転訛と解します。

572ハクドウネズミ

 [仙北]白鳥。

 この「ハクドウネズミ」は、

  「ハク・トウ・ネイ・ツ・フミ」、HAKU-TOU-NEI-TU-HUMI(haku=complain of,cold;tou=dip into a liquid,wet;nei,neinei=stretch forward,wagging,bobbing up and down;tu=fight with,energetic;humi=abundant,abundance)、「寒さの中で・水に漬かって・多数が(集まって)・精力的に・泳ぎ回る(習性がある動物。白鳥)」(「トウ」が「ドウ」と、「ネイ」の語尾のI音が脱落して「ネ」と、「フミ」のH音が脱落して「ミ」となった)

の転訛と解します。

573ハケガシラ

 [阿仁]クマを解体してから、その頭を初マタギに背負わせること。

 この「ハケガシラ」は、

  「ハケハケア・カハ・チラハ」、HAKEHAKEA-KAHA-TIRAHA(hakehakea=facing one,opposite;kaha=crested grebe;tiraha=bundle)、「(マタギになった者が初めて)対面する・(カイツブリの冠毛のように)飾り立てた・荷物のような(クマの頭)」(「ハケハケア」の反覆語尾の「ハケ」と語尾のA音が脱落して「ハケ」と、「カハ・チラハ」のH音が脱落して「カ・チラ」から「ガシラ」となった)

の転訛と解します。

574ハゴ・シギン

 [阿仁]クマのシギン(歯茎)の肉。

 この「ハゴ」、「シギン」は、

  「パ・(ン)ガオ」、PA-NGAO(pa=stockade,fortified place;ngao=alternate ridge and depression as on timber dressed by an adze,trough of the sea,external corner,projection)、「(柵を巡らした)砦の柵のように並ぶもの(歯。歯が生えている)・(波を打つている山の尾根のような)突起(歯茎。その肉)」(「パ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハ」と、「(ン)ガオ」のNG音がN音に、AO音がO音に変化して「ノ」となった)

  「チ(ン)ギア・ナ」、TINGIA-NA(tingia=ti=throw,cast,overcome;na=used after words and clauses to indicate position near)、「(圧倒する)噛み砕くもの(歯)の・近くにあるもの(歯茎)」(「チ(ン)ギア」のNG音がG音に変化し、語尾のA音が脱落して「チギ」から「シギ」と、「ナ」が「ン」となった)

の転訛と解します。

575ハサミ

 [仙北]捕獣器。罠。

 この「ハサミ」は、

  「ハハ・タミ」、HAHA-TAMI(haha=seek,look for;tami=press down,suppress,smother)、「(捕らえるべきものを)探して(感知すると)・(強い力で)挟み付けるもの(捕獣器。罠)」(「ハハ」の反復語尾が脱落して「ハ」と、「タミ」が「サミ」となった)

の転訛と解します。

576ハサコメシ

 [阿仁]道草を食うこと。

 この「ハサコメシ」は、

  「ハハ・タコ・マイチ」、HAHA-TAKO-MAITI(haha=seek,look for;tako=loose;maiti=small)、「ほんの少し・自由になって・何かを探す(ように決まった道を外れて歩く。道草を食う)」(「ハハ」の反復語尾が脱落して「ハ」と、「タコ」が「サコ」と、「マイチ」のAI音がE音に変化して「メチ」から「メシ」となった)

の転訛と解します。

577バセン

 [阿仁]馬銭という薬。安永5(1776)年当時の秋田県能代で十五匁で四両という高価な薬で、放牧馬の大敵であるオオカミを駆除して効果があったが、処方を創出した人は秘法として処方を公開しなかったと伝えられます。

 この「バセン」は、

  「パタイ(ン)ガ」、PATAINGA(=patai=question,inquire,provoke)、「問題の(薬。秘法として処方不明の薬)」(AI音がE音に、NG音がN音に変化して「パテナ」から「バセン」となった)

の転訛と解します。

578ハダ

 [阿仁]子グマに対する母親グマの意。

 この「ハダ」は、

  「ハハ・アタ」、HAHA-ATA(haha=seek,look for;ata=gently,deliverately,cautiously,quite)、「(常に)優しく・見守る(母親グマ)」(「ハハ」の反復語尾が脱落して「ハ」となり、その語尾のA音と「アタ」の語頭のA音が連結して「ハタ」から「ハダ」と鳴った)

の転訛と解します。

579ハチガツオリ

 [仙北]八月折り。シダミ、ブナの実が八月頃ちょうど食べ頃になり、クマが枝をねじ折って食べること。

 この「(ハチガツ)オリ」、「」は、

  「ホリ」、HORI(cut,slit)、「(枝を切る)折る」(H音が脱落して「オリ」となった)

の転訛と解します。

580ハチネンブクロ・ナイラ

 [阿仁・仙北・岩手]カモシカがほんとうに食物を呑み込む胃袋。これを粟粒くらいに乾燥し、味噌で煮たものは馬のナイラ(腹痛)の薬となり、人間の感冒にも良く効くといわれます。

 この「ハチネンブクロ」、「ナイラ」は、

  「パチ・ネネ・プク・ロ」、PATI-NENE-PUKU-RO(pati=try to obtain by coaxing or flattery etc.;nene=fat,jest(whakanene=cause a pleasant sensation,sooth,jest);puku=swelling,abdomen,stomach;ro=roto=inside)、「(人や馬の)体調の不良を緩和して・気分を浮き浮きさせる・中が・(胃袋のように)膨らんでいる袋」(「パチ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハチ」と、「ネネ」が「ネン」と、「プク」が「ブク」となった)

  「ナイ・ラ」、NAI-RA(nai=nei,neinei=stretched forward,reaching out,wagging;ra,rara=make a continued dull sound,roar)、「(馬が)七転八倒して・唸り声を立てる(馬の腹痛)」

の転訛と解します。

581バチヘビ

 [仙北]形はちょうど木製の槌に似てずんぐりし、尾は短く細く、太さはビール瓶程度の幻のヘビをいう。

 この「バチヘビ」は、

   「パチ・ヘヘ・ピヒ」、PATI-HEHE-PIHI(pati=try to obtain by coaxing or flattery etc.;hehe=gone astray,wrong,not fulfilling requirement;pihi=cut,split,begin to grow)、「(偽りの)幻の・あちこちさまよう・(定期的に)脱皮する(動物。蛇)」(「パチ」が「バチ」と、「ヘヘ」の反復語尾が脱落して「ヘ」と、「ピヒ」の語尾の「ヒ」が脱落して「ピ」となつた)

の転訛と解します。

582バツケ

 [阿仁・岩手]クマの頭。(「バツケ」を「パケ、(Aynu)pake」の転としてアイヌ語源とする説(板橋「辞典」)もありますが、「パケ」が「バケ」に変化することはあっても、よほど強調する必要が無い限り、「バツケ」になることはないと考えます。なお、「辞典」は583バツケヤを収録していません。アイヌ語源では説明できないことによるものでしょうか。)

 この「バツケ」は、

  (縄文語源)「パハ・ツ・カイ」、PAHA-TU-KAI(paha=arrive suddenly,attack;tu=fight with,energetic;kai=food)、「不意に・食べ物に・噛みつくもの(クマの頭)」(「パハ」のH音が脱落して「バ」と、「カイ」のAT音がE音に変化して「ケ」となった)

  (アイヌ語源)「パケ」、PAKE((Aynu)頭、岬頭)、「(クマの)頭」(「パケ」が「バッケ」となった)

の転訛と解します。

583バツケヤ

 [仙北]クマの頭。

 この「バツケヤ」は、

  「パハ・ツ・カイ・イア」、PAHA-TU-KAI-IA(paha=arrive suddenly,attack;tu=fight with,energetic;kai=food;ia=indeed)、「実に・不意に・食べ物に・噛みつくもの(クマの頭)」(「パハ」のH音が脱落して「バ」と、「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」と、「イア」が「ヤ」となった)

の転訛と解します。

584ハツマタギ

 [阿仁・仙北・鳥海]初加のマタギ。マタギについては697マタオニの項を参照してください。

 この「ハツ(マタギ)」は、

  「ハハ・アツア」、HAHA-ATUA(haha=seek,look for;atua=first)、「初めて・(マタギの仕事を)試みる(者)」(「ハハ」の反復語尾が脱落して「ハ」となり、その語尾のA音と「アツア」の語頭のA音が連結して「ハツア」となり、さらにその語尾のA音が脱落して「ハツ」となった)

の転訛と解します。

585ハテ

 [仙北]新雪。

 この「ハテ」は、

  「ハテア」、HATEA(faded,decolourised)、「すぐ消えるもの(新雪)」(語尾のA音が脱落して「ハテ」となった)

の転訛と解します。

586ハデフミ

 [仙北]春三月頃新雪の上に積もる雪を踏むクマ。

 この「ハデフミ」は、

  「ハテア・フ・ウミ」、HATEA-HU-UMI(hatea=faded,decolourised;hu=silent,stealthly;umi=umiki=traverse,go round)、「すぐ消えるもの(新雪)を・そっと(踏んで)・歩いて行く(クマ)」(「ハテア」の語尾のA音が脱落して「ハテ」から「ハデ」と、「フ」のU音と「ウミ」の語頭のU音が連結して「フミ」となった)

の転訛と解します。

587ハナカラ

 [阿仁]豚。

 この「ハナカラ」は、

  「パナ・カラ」、PANA-KARA(pana=thrust or drive away,expell,cause to come or go forth in any way;kara,kakara=scent,smell,flavour)、「(食物の)香り(を追って)・どこまでも突き進むもの(豚)」(「パナ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハナ」となった)

の転訛と解します。

588ハナサレ

 [仙北]群れを離れた一匹の老孤サル。

 この「ハナサレ」は、

  「パナ・タレ」、PANA-TARE(pana=thrust or drive away,expell,cause to come or go forth in any way;tare=hang,gasp for breath,be drawn towards)、「(群れから)追われて・(息をひそめて)孤独でいるもの(老弧サル」(「パナ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハナ」と、「タレ」が「サレ」となった)

の転訛と解します。

589ハナザヤ

 [仙北]カモシカの鼻柱(はなみね)のこと。

 この「ハナザヤ」は、

  )「ハ・アナ・タ・イア」、HA-ANA-TA-IA(ha=breathe;ana=cave;ta=dash,beat,lay,allay;ia=indeed)、「呼吸する・穴(鼻)が・実に・並んでいるところ(鼻柱)」(「ハ」のA音と「アナ」の語頭のA音が連結して「ハナ」と、「タ」が「ザ」と、「イア」が「ヤ」となった)

の転訛と解します。

590ハナザル

 [仙北・阿仁]サルの集団の先頭に立って統率して歩くボスザルのこと。

 この「ハナ(ザル)」は、

  「パナ」、PANA(thrust or drive away,expell,cause to come or go forth in any way)、「(集団を追い立てて)突き進むもの(統率者であるサル)」(「パナ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハナ」となった)

の転訛と解します。

591ハナマジ・ハナマス

 [阿仁・仙北]サル群の指導者。

 この「ハナマジ」、「ハナマス」は、

  「パナ・マ・アチ」、PANA-MA-ATI(pana=thrust or drive away,expell,cause to come or go forth in any way;ma=white,clean;ati=beginning)、「(集団を追い立てて)突き進む・実に・第一人者(統率者であるサル)」(「パナ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハナ」と、「マ」のA音と「アチ」の語頭のA音が連結して「マチ」から「マジ」となった)

  「パナ・マツ」、PANA-MATU(pana=thrust or drive away,expell,cause to come or go forth in any way;matu=fat,richness of food,gist or kernel of a matter)、「(集団を追い立てて)突き進む・核をなすもの(統率者であるサル)」(「パナ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハナ」と、゜マツ」が「マス」となった)

の転訛と解します。

592ハナレザル

 [鳥海]雄ザルで仲間に外されたサル。

 この「ハナレ(ザル)」は、

  「パナ・レヘ」、PANA-REHE(pana=thrust or drive away,expell,cause to come or go forth in any way;rehe=wrinkled,wizened,stunted,puny)、「(群れから)追われて・元気をなくしているもの(離れサル」(「パナ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハナ」と、「レヘ」のH音が脱落して「レ」となった)

の転訛と解します。

593ハム

 [仙北]クマが地上のものを食うこと。

 この「ハム」は、

  「ハムハム」、HAMUHAMU(eat scraps of food(hamu=gather things that are thinly scattered,glean))、「(地上に散らばっている木の実などを集めて)食べる」(反覆語尾が脱落して「ハム」となった)

の転訛と解します。

594ハムシ

 [阿仁・仙北・鳥海]山鳥。

 この「ハムシ」は、

  「パ・ムム・チ」、PA-MUMU-TI(pa=touch,reach,strike,operate on;mumu=baffling,boisterous wind;ti=throw,cast)、「(雄が繁殖期に両翼を地上に)打ち付けて・騒がしい音を・立てる(俗に「母衣(ほろ)を打つ」習性がある。山鳥)」(「パ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハ」と、「ムム」の反覆語尾が脱落して「ム」と、「チ」が「シ」となった)

の転訛と解します。

595ハリツツ・ハリ

 [雄勝・阿仁・仙北・岩手]針筒と針。

 この「ハリツツ」、「ハリ」は、

  「ハリ・ツツ」、HARI-TUTU(hari=carry,bear;tutu=hoop for holding open a hand net,etc.(whakatutu=fasten a net to a hoop for the purpose of catching certain kinds of fish,hold open a basket,etc.))、「(糸を)運ぶもの(道具。針)を・保持するもの(針筒)」

   「ハリ」、HARI(carry,bear)、「(糸を)運ぶもの(道具。針)」

の転訛と解します。

596ハルカガリ

 [仙北]春になって冬眠の穴から出たクマが枯れ木をかじってつける印。

 この「ハルカガリ」は、

  「ハ・ル・カカリ」、HA-RU-KAKARI(ha=breath;ru=shake,agitate,scatter,earthquake;kakari=fight,notch(kari=dig,cleave,wound))、「(万物が)息を・吹き返す(春)に・(冬眠から覚めたクマが枯れ木を)かじって刻み目をつけたもの(印)」(「カカリ」が「カガリ」となった)

の転訛と解します。

597ハルケエンジキ

 [仙北]イタヤ材で作った割りかんじき。「かんじき」については184カンジキの項を参照してください。

 この「ハルケエンジキ」は、

  「ハ・ルケ・アイ(ン)ガ・チキ」、HA-RUKE-AINGA-TIKI(ha=breath,what!;ruke=throw,cast forth,be cast;ainga=violence,driving force;tiki=fetch,proceed to do anything)、「何と・(雪の中を)進む力を・放出して・前進する(道具)」(「アイ(ン)ガ」のAI音がE音に、NG音がN音に変化して「エナ」から「エン」と、「チキ」が「ジキ」となった)

の転訛と解します。

598ハルマタギ

 [阿仁]春マタギ。春の狩猟で、期間二十日から三十日くらい。または春のクマ狩りのこと。マタギについては697マタオニの項を参照してください。

599バンドリ

 [阿仁・仙北・鳥海・雄勝・岩手]ムササビ。「ムササビ」については雑楽篇(その二)の654りす(栗鼠)の項を参照してください。

 この「バンドリ」は、

  「パ(ン)ガ・ト・オリ」、PANGA-TO-ORI(panga=throw,aim a blow at;to=drag,open or shut a door or a window;ori=cause to wave to and fro,sway,move about)、「(風のように飛んできて)獲物を襲う・あちこち・行き来する(鳥のような動物。ばんどり)」(「パ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「パナ」から「バン」と、「ト」のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「トリ」から「ドリ」となった)

の転訛と解します。

600バンドリノホロホロ・バンドリノハラゴ

 [仙北]ホロホロは、ムササビ料理の一つ。大腸の糞をしごいてよく洗い、ぶつ切りにして酒粕を混ぜた味噌で煮たものといいます。また、バンドリノハラゴは、ムササビの胎児で産前産後に良い食べ物としてこの地方で婦人が喜んで食べるといいます。

 この「(バンドリノ)ホロホロ」、「(バンドリノ)ハラゴ」は、

  「ホロホロ」、HOROHORO(remove ceremonial restrictions,etc.,be shattered)、「(大腸の糞を)取り出して粉砕する(調理する)」

   「ハラ・(ン)ガウ」、HARA-NGAU(hara=excess above a round number(harahara=abundance);ngau=bite,hurt,act upon,attack)、「(豊かな)腹から・取り出して処理したもの(胎児)」(「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)

の転訛と解します。

601ハンバキ

 [阿仁・仙北・鳥海]脛巾のこと。マタギ独特の服装の一つ。

 この「ハンバキ」は、

  「ハ(ン)ガ・パキ」、HANGA-PAKI(hanga=make,fashion,work,practice,habit;paki=kilt,apron,clothing)、「仕事をする際に付ける・布を縫い合わせたもの(脛巾)」(「ハ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ハナ」から「ハン」ト、「パキ」が「バキ」となった)

の転訛と解します。

「ヒ」

302ヒイカア

 [阿仁]老人。

 この「ヒイカア」は、

  「ヒヒ・カハ」、HIHI-KAHA(hihi=pull up,draw up;kaha=strong,strength,persistency)、「長い期間をかけて・高い地位に登った者(老人)」(「ヒヒ」の語尾のH音が脱落して「ヒイ」と、「カハ」のH音が脱落して「カア」となった)

の転訛と解します。

603ピイ

 [阿仁]肉。

 この「ピイ」は、

  「ピヒ」、PIHI(spring up,begin to grow,shoot,sprout)、「(食べると)元気が出るもの(肉)」(H音が脱落して「ピイ」となった)

の転訛と解します。

604ヒウチブクロ

 [阿仁]クマの掌の皮で作る火打ち袋。

 この「ヒウチブクロ」は、

  「ヒウ・チ・プク・ロ」、HIU-TI-PUKU-RO((Hawaii)hiu=to throw or fling violently,to get into action as play or sport;ti=throw,cast,squeek,make a sharp inarticulate sound;puku=swelling,abdomen,stomach;ro=roto=inside)、「(燧石と石または燧石と燧金を)強く打ち合わせて・(カチカチと)鋭い音を出す(道具を納める)・中が・(胃袋のような)膨らんでいる袋」(「プク」が「ブク」となった)

の転訛と解します。

605ヒカリ

 [阿仁・仙北]金銭。

 この「ヒカリ」は、

  「ヒカ・アリ」、HIKA-ARI(hika=rub violently,kindle fire by friction;ari=clear,visible,appearance)、「(火がついたように)光を放つ・外観を呈するもの(金銭)」(「ヒカ」の語尾のA音と「アリ」の語頭のA音が連結して「ヒカリ」となった)

  または「ヒカカ・アリ」、HIKAKA-ARI(hikaka=rash,brisk,malicious,anger;ari=clear,visible,appearance)、「意地悪く・振る舞うもの(金銭)」(「ヒカカ」の反覆語尾が脱落して「ヒカ」となり、その語尾のA音と「アリ」の語頭のA音が連結して「ヒカリ」となった)

の転訛と解します。

606ヒカリサイズ

 [阿仁]銭がないこと。「ヒカリ(金銭)」については605ヒカリの項を参照してください。

 この「(ヒカリ)サイズ」は、

  「タイツ」、TAITU(be hindered,be intermitted,take up,lift)、「(手許から)取り上げられた(状態)」(「タイツ」が「サイズ」となった)

の転訛と解します。

607ヒキオ

 [阿仁]かんじきに使用する牛皮の紐。

 この「ヒキオ」は、

  「ピキ・アウ」、PIKI-AU(piki=frizzled,pressed close together(whakapiki=tie up together);au=firm,intense)、「しっかりと・結ぶもの(牛皮の紐)」(「ピキ」のP音がF音を経てH音に変化して「ヒキ」と、「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」となった)

の転訛と解します。

608ヒダノソツカ

 [阿仁]犬の皮。

 この「ヒダノソツカ」は、

  「ヒヒ・タ・(ン)ゴト・ツカハ」、HIHI-TA-NGOTO-TUKAHA(hihi=ray of the sun;ta=dash,beat,lay;ngoto=be deep,penetrate,firmly;tukaha=strenuous,vigorous,hasty)、「日の光で・しっかりと・乾燥した・とても強い(犬の皮)」(「ヒヒ」の反覆語尾が脱落して「ヒ」と、「タ」が「ダ」と、「(ン)ゴト」のNG音がN音に変化して「ノト」から「ノソ」と、「ツカハ」のH音が脱落して「ツカ」となった)

の転訛と解します。

609ヒダリ

 [阿仁・仙北]クマの血。

 この「ヒダリ」は、

  「ヒタ・アリ」、HITA-ARI(hita=move convulsively or spasmodically;ari=clear,visible,appearance)、「間欠的に噴出する・様相を呈するもの(クマの血)」(「ヒタ」の語尾のA音と「アリ」の語頭のA音が連結して「ヒタリ」から「ヒダリ」となった)

の転訛と解します。

610ヒチン

 [阿仁]射手の獣を仕留めた者は、獲物の頭をもらう。かならず574ハゴ(歯茎)の肉を刺した串(ヒチン)を報償として与えることになっています。

 この「ヒチン」は、

  「ヒ・チ(ン)ガ」、HI-TINGA(hi=raise,rise;tinga=likely)、「(獲物を仕留めた栄誉を)称揚する・のに適当なもの(報償たるハゴを刺した串)」(「チ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「チナ」から「チン」となった)

の転訛と解します。

611ヒツツ

 [阿仁]火筒。火縄銃を入れる筒。

 この「ヒツツ」は、

  「ヒ・ツツ」、HI-TUTU(hi=make a hissing noise;tutu=hoop for holding open a hand net,etc.(whakatutu=fasten a net to a hoop for the purpose of catching certain kinds of fish,hold open a basket,etc.))、「(シューシューという)鋭い音を出す火縄を用いる銃(火縄銃)を・保持するもの(火筒)」

  または「アヒ・ツツ」、AHI-TUTU(ahi=fire;tutu=hoop for holding open a hand net,etc.(whakatutu=fasten a net to a hoop for the purpose of catching certain kinds of fish,hold open a basket,etc.))、「(火を噴くもの)火縄銃を・保持するもの(火筒)」(「アヒ」の語頭のA音が脱落して「ヒ」となった)

の転訛と解します。

612ヒツテキ

 [鳥海]杓子。

 この「ヒツテキ」は、

  「ヒ・ツ・テキ」、HI-TU-TEKI(hi=raise,rise;tu=stand,settle,fight with,energetic;teki=scrape lightly,graze,drift)、「掬い・上げて・注ぎ置くもの(杓子)」

の転訛と解します。

613ヒツパ

 [阿仁]とった獲物を平等に分配すること。クマの一の矢を当てたマタギは頭の皮をもらい、他のマタギたちは平等に分けるが、カモシカはすべて平等に分けます。

 この「ヒツパ」は、

  「ヒ・ツパ」、HI-TUPA(hi=raise,rise;tupa=rough,hard,barren,flat,level)、「平等に・進上する(分配する)」

の転訛と解します。

614ヒツパル

 [阿仁]酒をのむこと。

 この「ヒツパル」は、

  「ヒ・ツ・パル」、HI-TU-PARU(hi=raise,rise;tu=stand,settle,fight with,energetic;paru=sultry,hot,dull)、「(気分が)高揚して・どんどん・(身体が)熱くなる(酒を飲む)」

の転訛と解します。

615ヒトリマタギ

 [阿仁・仙北]一人でクマの穴を狙って槍で突いてクマ狩りをすること。マタギについては697マタオニの項を参照してください。

 この「ヒトリ(マタギ)」は、

  「ヒ・ト・オリ」、HI-TO-ORI(hi=raise,rise;to=drag,open or shut a door or a window;ori=cause to wave to and fro,sway,move about)、「(ふらっと)現れて・(人の家、狩り小屋、クマの穴を)訪れ・そこらを歩き回る(マタギ)」(「ト」のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「トリ」となった)

の転訛と解します。

616ヒド

 [阿仁・仙北・鳥海]山襞(やまひだ)のこと。山の凹みをいう。

 この「ヒド」は、

  「ヒ・トフ」、HI-TOHU(hi=raise,rise;tohu,totohu=sink)、「(山の斜面が)膨らみ・凹んでいる場所(山襞)」(「トフ」のH音が脱落して「ト」から「ド」となった)

の転訛と解します。

617ヒナ

 [阿仁]クマの穴の発見者や、射止めたマタギに与える報賞の現物。クマの頭とか、爪や皮を狩りの解散祝いの時にあたえたものです。

 この「ヒナ」は、

  「ヒ・ナ」、HI-NA(hi=raise,rise;na=by,belonging to,by reason of)、「(獲物を仕留めた栄誉を)称揚する・ためのもの(報償物)」

の転訛と解します。

618ヒナワツツ

 [岩手]火縄筒。火縄の材料は桧の中皮を縄にしたもので、竹製の火縄筒に火縄穴から十二本の火縄が出ています。

 この「ヒナワツツ」は、

  「ヒ・ナハ・ツツ」、HI-NAHA-TUTU(hi=make a hissing noise;naha=noose for snaring ducks;tutu=hoop for holding open a hand net,etc.(whakatutu=fasten a net to a hoop for the purpose of catching certain kinds of fish,hold open a basket,etc.))、「(シューシューという)鋭い音を出す・縄(火縄)を・保持するもの(針筒)」(「ナハ」が「ナワ」となった)

  または「アヒ・ナハ・ツツ」、AHI-NAHA-TUTU(ahi=fire;naha=noose for snaring ducks;tutu=hoop for holding open a hand net,etc.(whakatutu=fasten a net to a hoop for the purpose of catching certain kinds of fish,hold open a basket,etc.))、「火を噴く・縄(火縄)を・保持するもの(針筒)」(「アヒ」の語頭のA音が脱落して「ヒ」と、「ナハ」が「ナワ」となった)

の転訛と解します。

619ヒフギ

 [阿仁]口笛。

 この「ヒフギ」は、

  「ヒ・プ・(ン)ギア」、HI-PU-NGI(hi=raise,rise;pu=blow gently,pipe,flute;ngia=seem,appear to be)、「高らかに・笛を吹くように・口笛を吹く」(「プ」のP音がF音を経てH音に変化して「フ」と、「(ン)ギア」のNG音がG音に変化し、語尾のA音が脱落して「ギ」となった)

の転訛と解します。

620ヒモトキ

 [仙北]紐解き。お産。

 この「ヒモトキ」は、

  「ヒ・マウ・トキ」、HI-MAU-TOKI(hi=raise,rise;mau=carry,bring,taken up,lay hold of;toki=fetch)、「(胎児が)頭を出して・取り上げて・(産婦から)離す(お産)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)

の転訛と解します。

621ヒモドシ

 [阿仁]火戻し(の法)。マタギは郷里で狩りに不都合な出来事、死火、産火などがあつたときは、獲物を捕らえることができず、鉄砲を撃っても当たらないと信じていたので、その予感があるときは、火戻し法といって唱えごとをしました。623ヒヨケノホウに同じです。

 この「ヒモドシ」は、

  「ヒ・マウ・トチ」、HI-MAU-TOTI(hi=raise,rise;mau=carry,bring,taken up,lay hold of,fixed,continuing,caught,entangled;toti=limp,halt)、「(狩りの障害が)現れるのを・止めて・そのままにする(ための呪言を唱える)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」と、「トチ」が「ドシ」となった)

の転訛と解します。

622ヒヤクイチ

 [阿仁]百一。地犬百頭のうち九十九頭を犠牲にして、最後に猟犬として選りすぐった一頭のマタギ犬のこと。

 この「ヒヤクイチ」は、

  「ヒ・アク(ン)ガ・イチ」、HI-AKUNGA-ITI(hi=raise,rise;akunga=rank and file;iti=small,diminutive or unimportant thing)、「桁が・高くなった(数。百)のうち・(僅かな)少ない数の(選ばれた猟犬)」(「アク(ン)ガ」の語尾のNGA音が脱落して「ヒ・アク」から「ヒャク」となった)

の転訛と解します。

623ヒヨケノホウ

 [仙北]火除けの法。もし産火の者がマタギの仲間に入っていると、クマに向かっても鉄砲が鳴らない、クマに弾が当たっても死なない、誰かが怪我をするなどのことが起きるので、これを除ける呪言を唱えるものです。621ヒモドシに同じです。

 この「ヒヨケノホウ」は、

  「ヒオイ・カイ・ノ・ホウ」、HIOI-KAI-NO-HOU(hioi=shake(whakahioi=shake,disturb);kai=fulfil its proper function,have full play;no=of;hou=enter,force downwards or under,persist)、「(狩りの障害が起こるのを)防ぎ・抑圧する・ための・(呪言が)十分に効く(ような呪言を唱える)」(「ヒオイ」の語尾のI音が脱落して「ヒオ」から「ヒヨ」と、「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)

の転訛と解します。

624ヒラ・ヒラオトシ

 [仙北]クマが通る道の木を払って、上に屋根のように作り、岩石をたくさん載せ、細い棒を細工してこれに触れると、潰れるように仕掛けをする釣天井式動物圧殺装置。130オトシヒラ・オトシマエに同じ。

 この「ヒラ」、「ヒラオトシ」は、

  「ヒラ」、HIRA(numerous,abundant,widespread)、「(クマの動きに引かれて)大量の(石が落ちてクマを殺す装置)」

  「ヒラ・アウト・チ」、HIRA-AUTO-TI(hira=numerous,abundant,widespread;auto=trailing behind,slow,drag out;ti=throw,cast,overcome)、「大量の(石が)・(クマの動きに)引かれて・落ちてクマを殺す(装置)」(「アウト」のAU音がO音に変化して「オト」と、「チ」が「シ」となった)

の転訛と解します。

625ヒラマエ

 [仙北]斜面。

 この「ヒラマエ」は、

  「ヒラ・マエ」、HIRA-MAE(hira=numerous,abundant,widespread;mae=languid,withered)、「広く広がった・なだらかな場所(斜面)」

の転訛と解します。

626ヒラマタギ

 [仙北]里マタキのこと。与太マタギで、平野では山鳥や狸を捕るくらいのろくなマタギでない者。マタギについては697マタオニの項を参照してください。

 この「ヒラ(マタギ)」は、

  「ヒラ」、HIRA(=hihira=shy,suspicious)、「(本物かどうか)疑わしい者(ひらマタギ)」

の転訛と解します。

「フ」

627フカゲ

 [阿仁・仙北]雪庇。

 この「フカゲ」は、

  「フカ・(ン)ゲヘ」、HUKA-NGEHE(huka=foam,frost,snow,trouble;ngehe=soft,yielding,lazy,calm)、「(軟らかい)崩れやすい・雪(雪庇)」(「(ン)ゲヘ」のNG音がG音に変化し、H音が脱落して「ゲ」となった)

の転訛と解します。

828フカブリ

 [阿仁・仙北]土を被っている木の穴。

 この「フカブリ」は、

  「フカ・プリ」、HUKA-PURI(huka=foam,frost,snow,trouble(hukahuka=foam,lock of hair,hanging in shreds);puri=puru=plug,cork,stuff up)、「(穴に雪や土が)被さって・(栓をしたように)詰まっている」

の転訛と解します。

629ブキ

 [岩手]猿。

 この「ブキ」は、

  「プ・キ」、PU-KI(pu=tribe,bundle,heap,skilled person;ki=full,very)、「たいへん・利口な(動物。猿)」(「プ」が「ブ」となった)

の転訛と解します。

630フギダシ

 [阿仁]雪庇。

 この「フギダシ」は、

  「フ(ン)グイ・タハ・チ」、HUGUI-TAHA-TI(hugui=the top of the digging pole;taha=side,margin,edge;ti=throw,cast)、「掘り棒の先のように・縁が・迫り出ているもの(雪庇)」(「フ(ン)グイ」のNG音がG音に、UI音がI音に変化して「フギ」と、「タハ」のH音が脱落して「ダ」と、「チ」が「シ」となった)

の転訛と解します。

631フキリ

 [仙北]雪庇の切れている部分。

 この「フキリ」は、

  「フフ・キリ」、HUHU-KIRI(huhu=strip off an outer covering,make bare,wasted away,cat's cradle;kiri=skin,bark)、「(綾取りをしたように突然)雪の(皮膚)庇が・(剥がされて)無くなっている(場所)」(「フフ」の反覆語尾が脱落して「フ」となった)

の転訛と解します。

632フクロ

 [雄勝]狩り場でクマを包囲した状態をいう。

 この「フクロ」は、

  「プク・ロ」、PUKU-RO(puku=swelling,abdomen,stomach;ro=roto=inside)、「(胃袋のように)膨らんでいる(場所の)・中に(クマが囲い込まれた状態)」(「プク」のP音がF音を経てH音に変化して「フク」となった)

の転訛と解します。

633フグタチワラ

 [仙北]夏に茂っている藪。

 この「フグタチワラ」は、

  「フ(ン)グイ・タ・アチ・ワラ」、HUNGUI-TA-ATI-WHARA(hugui=the top of the digging pole;ta=dash,beat,lay,allay;ati=descendant,clan;whara=a plant,a pad of raupo leaves used as caulking in a canoe)、「掘り棒の先のような(太い幹が)・伸びている・(カヌーのコーキング(水漏れ防止)材に使われる)葦の・仲間(の茂った草原。藪)」(「フグイ」のNG音がG音に、UI音がU音に変化して「フグ」と、「タ」のA音と「アチ」の語頭のA音が連結して「タチ」となった)

の転訛と解します。

634フシメエウチ

 [仙北]山兎がマタギを発見する前に、マタギが山兎を発見し、藪の下に穴を掘って入っているウサギへ、風下から接近して撃つこと。

 この「フシメエウチ」は、

  「フチ・メイ・ウチ」、HUTI-MEI-UTI(huti=hoist,haul up,pull out of the ground;mei=according to,judging by;uti=bite)、「(気が付いていない獲物の前に突然)立ち上がり・そして・(獲物を)撃つ」(「フチ」が「フシ」と、「メイ」が「メエ」となった)

の転訛と解します。

635フジメル

 [阿仁]止めた。

 この「フジメル」は、

  「フチ・メイ・ル」、HUTI-MEI-RU(huti=hoist,haul up,pull out of the ground;mei=according to,judging by;ru=shake,scatter)、「(魚を)釣り上げ・そして・放り出した」(「フチ」が「フジ」と、「メイ」が「メ」となった)

の転訛と解します。

636フタツワリ

 [仙北]丸太の先を尖らして、クマのいる穴の入り口の内側に刺し、クマ穴を二分するように丸太を横にしてもう一方を付近の大木に縛り、穴の中からクマが棒の上下から首だけでるようにすること。首をだしたところを射止めます。

 この「フタツワリ」は、

  「プタ・ツ・ワハ・リ」、PUTA-TU-WAHA-RI(puta=opening,hole;tu=stand,settle;waha=mouth,entrance,carry on the back,raise up;ri=screen,protect,bind)、「(クマの穴の)入り口に・障害物が・設けて・ある」(「プタ」のP音がF音を経てH音に変化して「フタ」と、「ワハ」のH音が脱落して「ワ」となった))

の転訛と解します。

637フタテ

 [岩手]大木が倒れ曲がった下にできたクマの冬眠穴。

 この「フタテ」は、

  「プタ・テ」、PUTA-TE(puta=opening,hole;te=crack)、「(割れ目)隙間だらけの・入り口(をもつ穴)」(「プタ」のP音がF音を経てH音に変化して「フタ」となった)

  または「プタイタイ」、PUTAITAI(of poor quality,shabby)、「(みすぼらしい)粗末な(冬眠穴)」(P音がF音を経てH音に、最初のAI音がA音に、次のAI音がE音に変化して「フタテ」となった)

の転訛と解します。

638フッカケ

 [仙北]春になって岳の尾根にかぶさっている雪。

 この「フッカケ」は、

  「フ・ツ・カカイ」、HU-TU-KAKAI(hu=promontry,hill,still,silent,at rest;tu=stand,settle;kakai=frequentative)、「(春になっても)依然として・残っている・(何回となく)降り積もった(雪)」(「ツ」が「ッ」と、「カカイ」のAI音がE音に変化して「カケ」となった)

の転訛と解します。

639フツカンジキ

 [仙北]小鳥、雉などを捕らえる罠。

 この「フツカンジキ」は、

  「フツ・カ(ン)ガ・チキ」、HUTU-KANGA-TIKI(hutu=a fishing net made of flax;kanga=curse,abuse,execrate;tiki=fetch,proceed to do anything)、「(麻糸の)網で・(小鳥や雉などが)呪文を唱えたように(すいすいと)・(前進する)網にかかるもの(罠)」(「カ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「カナ」から「カン」と、「チキ」が「ジキ」となった)

の転訛と解します。

640フツケエシ

 [雄勝]断崖の上部、稜線の土が崩れて木や柴や草根が、網の目のようにからんで上から垂れかぶさり、洞穴状になったもの。

 この「フツケエシ」は、

  「フツ・ケ・エチ」、、HUTU-KE-ETI(hutu=a fishing net made of flax;ke=diffrent,strange;eti=shrink,recoil)、「(木や草の根が垂れ下った)網状のものが・異様に・縮まっている(洞穴状になっている)」(「エチ」が「エシ」となった)

の転訛と解します。

641ブツパ

 [阿仁・仙北]射手の配置用語。553ニノブッパの項を参照してください。

 この「ブッパ」は、

  「プツ・パ」、PUTU-PA(putu=lie in a heap,swell,heap;pa=block up,prevent,assault,screen,blockade)、「(射手を高いところに)配置しておく・(クマが逃げるのを)防止する場所」(「プツ」が「ブッ」となった)

の転訛と解します。

642ブツペエー

 [鳥海]ヘラ。

 この「ブツペエー」は、

  「プツ・パエ」、PUTU-PAE(putu=lie in a heap,swell,heap;pae=horizen,any transverse beam,perch)、「(先が)膨らんでいる・(止まり木のような)棒」(「プツ」が「ブツ」と、「パエ」のAE音がE音に変化して「ペー」となった)

の転訛と解します。

643フトコロイレ

 [阿仁]常に首にかけている食料袋。また疲労したとき、取り出して食べる袋。

 この「フトコロイレ」は、

  「プトイ・コロ・イ・レイ」、PUTOI-KORO-I-REI(putoi=tie in a bunch,adorn with a bunch of anything,draw a garment over the head;koro=desire,intend;i=past tense,beside,with,by,at,in,upon;rei=leap,rush,run)、「(頭)首にかける・その中に・(走り込む)入れる・(空腹や疲労したときに)欲しいもの(を入れる袋)」(「プトイ」のP音がF音を経てH音に変化し、語尾のI音が脱落して「フト」と、「レイ」が「レ」となった)

の転訛と解します。

644ブバイ

 [鳥海]ヘラ。

 この「ブバイ」は、

  「プ(ン)ガ・パイ」、PUNGA-PAI(punga=lump,swelling;pai=good,excellent,suitable)、「程よく・膨らんだもの(ヘラ)」(「プ(ン)ガ」の名詞形語尾のNGA音が脱落して「ブ」と、「パイ」が「バイ」となった)

の転訛と解します。

645ブラキストンセン

 [阿仁・仙北・岩手]津軽海峡を境として、北の北海道にはツキノワグマ、カモシカ、キジ、ヤマドリ、モグラはをらず、南の本州以南にはヒグマ、クロテン、ナキウサギ、エゾライチョウは見られない。文久年間(1801〜3)函館に滞在した英国の大尉ブラキストンの提唱になる陸産動物分布の境界線。

646フルコ

 [仙北]母グマについている二頭の子グマのうち、体の大きい方の子グマ。

 この「フルコ」は、

  「フ・ルイ・コ」、HU-RUI-KO(hu=silent;rui=shake down as fruit from the tree,cause to fall in drops,scatter;ko=addressing males and females)、「静かに(揺らさなくとも)・果物が木から落ちる(状態にある。古い。年を経た)・(クマ)子」(「ルイ」の語尾のI音が脱落して「ル」となった)

の転訛と解します。

647フルコツキ

 [阿仁]冬眠から覚め、一番先に穴から出る大グマ。

 この「フルコツキ」は、

  「フ・ルイ・コ・ツツキ」、HU-RUI-KO-TUTUKI(hu=silent;rui=shake down as fruit from the tree,cause to fall in drops,scatter;ko=addressing males and females;tutuki=reach the farthest limit ,extend)、「静かに(揺らさなくとも)・果物が木から落ちる(状態にある。古い)・最も長く年を経た・クマ」(「ルイ」の語尾のI音が脱落して「ル」と、「ツツキ」の反覆語頭が脱落して「ツキ」となった)

の転訛と解します。

648ブンヌキ

 [阿仁・仙北・鳥海]山の狩り小屋での盛り切り飯。または山におけるマタギの制裁で、若勢子が山の掟を破って一食減じられること。

 この「ブンヌキ」は、

  「プニ・ヌ・キ」、PUNI-NU-KI(puni=stopped,blocked,filled up,place of encampment,company of persons;(Hawaii)nu=to cough,to roar as wind,groaning,moaning;ki=full,very)、「食事の制限(または抜き)という・深い・悲しみ」または「狩り小屋での・深い・悲しみ」(「プニ」が「ブン」となった)

の転訛と解します。

649ブンパイ

 [阿仁]分配。射止めた獲物の分配。

 この「ブンパイ」は、

  「プニ・パイ」、PUNI-PAI(puni=stopped,blocked,filled up,place of encampment,company of persons;pai=good,excellent,suitable)、「実に公平に・(欲求を)満たす(分配する)」(「プニ」が「ブン」と、「パイ」が「バイ」となった)

の転訛と解します。

650ブンパカ

 [阿仁]山中に滞在中、食料が吹雪のために不足した場合、マタギたちが持っている食料を全員から集め、等分に分けてたべること。

 この「ブンパカ」は、

  「プニ・パカ」、PUNI-PAKA(puni=stopped,blocked,filled up,place of encampment,company of persons;paka=dried,dried provision,cook)、「仲間の・貯蔵食糧(による対応)」(「プニ」が「ブン」となった)

の転訛と解します。

「ヘ」

651ヘタ・ヘラ

 [阿仁・仙北・鳥海]女性。

 この「ヘタ」、「ヘラ」は、

  「ハエ・タ」、HAE-TA(hae=slit,tear,cherish envy or kealousy,cause pain;ta=dash,beat,lay)、「割れ目が・ある者(女性)」または「嫉妬・する者(女性)」(「ハエ」のAE音がE音に変化して「ヘ」となった)

  「ハエ・ラ」、HAE-RA(hae=slit,tear,cherish envy or kealousy,cause pain;ra=wed(rara=make a continued dull sound,roar))、「割れ目が・身に付いている者(女性)」または「嫉妬が・身に付いている者(女性)」(「ハエ」のAE音がE音に変化して「ヘ」となった)

の転訛と解します。

652ヘタリツゲデク

 [阿仁]逃げたクマを追う。

 この「ヘタリツゲデク」は、

  「ヘ・タリ・ツ・(ン)ゲテ・ク」、HE-TARI-TU-NGETE-KU(he=wrong,mistaken,in trouble or difficulty;tari=carry,bring,urge,incite;tu=fight with,energetic;ngete,whakangete=urge on a horse;ku=silent)、「(クマを逃がすという)失敗をしたので・あわてて・懸命に・音をたてないように・(勢子たちを)せき立てる(逃げたクマを追う)」(「(ン)ゲテ」のNG音がG音に変化して「ゲデ」となった)

の転訛と解します。

653ヘタレ・ヘダリ

 [仙北・阿仁・鳥海・岩手]血または液体。

 この「ヘタレ」、「ヘダリ」は、

  「ヘ・タレ」、HE-TARE(he=wrong,mistaken,in trouble or difficulty;tare=hang,gasp for breath,be drawn towards)、「ためらいながら・間欠的に噴出するもの(血または液体)」

  「ヘ・タリ」、HE-TARI(he=wrong,mistaken,in trouble or difficulty;tari=carry,bring,urge,incite)、「ためらいながら・急かれるように噴出するもの(血または液体)」(「タリ」が「ダリ」となった)

の転訛と解します。

654ヘダ

 [阿仁]犬。

 この「ヘダ」は、

  「クイ・タ」、HEI-TA(hei=go towatds,turn towards,be requited;ta=dash,beat,lay)、「(飼い主から)受けた恩を・返すもの(犬)」(「ヘイ」が「ヘ」と、「タ」が「ダ」となった)

の転訛と解します。

655ヘダラ

 [鳥海]布。足に巻くもの。

 この「ヘダラ」は、

  「ハエ・タラ」、HAE-TARA(hae=slit,tear,cherish envy or kealousy,cause pain;tara=loosen,separate)、「引き裂かれて・ばらばらになったもの(足に巻く布)」(「ハエ」のAE音がE音に変化して「ヘ」と、「タラ」が「ダラ」となった)

の転訛と解します。

656ヘモク

 [阿仁]剥ぐこと。

 この「ヘモク」は、

  「ハエ・モク」、HAE-MOKU(hae=slit,tear,cherish envy or kealousy,cause pain;moku=few,little)、「すこしだけ・剥ぐ」(「ハエ」のAE音がE音に変化して「ヘ」となった)

の転訛と解します。

657ヘラサテ

 [阿仁]女性の性器。

 この「ヘラサテ」は、

  「ハエ・ラ」、HAE-RA-TATAI(hae=slit,tear,cherish envy or kealousy,cause pain;ra=wed(rara=make a continued dull sound,roar);tatai=measure,arrange,set in order,adorn)、「割れ目に・付いている・道具(女性の性器)」(「ハエ」のAE音がE音に変化して「ヘ」と、「タタイ」のAI音がE音に変化して「タテ」から「サテ」となった)

の転訛と解します。

658ヘラマタギ

 [阿仁]006アオシシ(カモシカ)を290コナガイ(小長柄)で叩いて捕るマタギのこと。マタギについては697マタオニの項を参照してください。

 この「ヘラ(マタギ)」は、

  「ヘラ」、HELA((Hawaii)to spread as the arms)、「(腕を伸ばす)腕の代わりとなるもの(道具)」(「ヘラ」が「ベラ」となった)

の転訛と解します。

659ベエヤロ

 [仙北]ウバユリ(姥百合)。

 この「ベエヤロ」は、

  「ペ・イア・ラウ」、PE-IA-RAU(pe=crushed,soft;ia=indeed;rau=leaf)、「(開花時に)実に・葉(歯にかけた)が・なくなる植物(姥百合)」(「ペ」が「ベエ」と、「イア」が「ヤ」と、「ラウ」のAU音がO音に変化して「ロ」となった)

の転訛と解します。

「ホ」

660ホウムリノホウ

 [鳥海]葬りの法。

 この「ホウムリノホウ」は、

  「ハウ・ムリ・ノ・ホウ」、HAU-MURI-NO-HOU(hau=wind,breath,dew;muri=breeze,sigh,grieve;no=of;hou=bind,lash together)、「悲嘆の・息をする・のに・(付きものの)決まり」(「ハウ」のAU音がOU音に変化して「ホウ」となった)

の転訛と解します。

661ホゴス

 [仙北]クマを解体すること。

 この「ホゴス」は、

  「ハウ・(ン)ガウ・ツ」、HAU-NGAU-TU(hau=strike,smite,deal blow to,act energetically;ngau=bite,hurt,attack;tu=fight with,energetic)、「勢いよく・懸命に・(クマの体を)切り刻む(解体する)」(「ハウ」「ハウ」のAU音がO音に変化して「ホ」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」と、「ツ」が「ス」となった)

の転訛と解します。

662ホシザル

 [仙北]干し笊。クマの胆を作るときに使う金網または鉄製の簀の子。

 この「ホシザル」は、

  「ハウ・チ・タル」、HAU-TI-TARU(hau=wind,breath,dew;ti=throw,cast;taru=shake,overcome)、「風に・当てて(乾燥して)・振るう(ゴミを除去する)もの(笊)」(「ハウ」のAU音がO音に変化して「ホ」と、「チ」が「シ」と、「タル」が「ザル」となった)

の転訛と解します。

663ホシニシン・ニシン

 [仙北]穴から出て初めてするクマの糞。

 この「ホシニシン」、「ニシン」は、

  「ホホ・チ・ニヒ・チナ」、HOHO-TI-NIHI-TINA(hoho=drop,trickle,speak angrily;ti=throw,cast;nihi=move stealthly;tina=fixed,fast,firm,constipated)、「(粒を)落とし・出す・ゆっくりと(出てくる)・堅い(便秘の糞)」(「ホホ」の反覆語尾が脱落して「ホ」と、「チ」が「シ」と、「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」と、「チナ」が「シン」となった)

  「ニヒ・チナ」、NIHI-TINA(nihi=move stealthly;tina=fixed,fast,firm,constipated)、「ゆっくりと(出てくる)・堅い(便秘の糞)」(「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」と、「チナ」が「シン」となった)

の転訛と解します。

664ホツピキ

 [仙北]宝引き。

 この「ホツピキ」は、

  「ホツ・ピキ」、HOTU-PIKI(hotu=sob,sigh,desire eagerly,chafe with animosity;piki=climb,ascend,plume for the head)、「(頭飾り)栄冠(を得ること)を・切望する(行事)」

の転訛と解します。

665ホデル

 [鳥海]降る。

 この「ホデル」は、

  「ハウテア・ル」、HAUTEA-RU(hautea=scattered about,separated;ru=shake,scatter)、「奮って・ばらまく(降る)」(「ハウテア」のAU音がO音に変化し、語尾のA音が脱落して「ホデ」となった)

の転訛と解します。

666ホドムシモチ

 [岩手]そば粉二分の一、米三分の一の割でこね、味噌で味付けし、火の熾きの上に置いて乾し、さらに火灰の中で蒸したマタギの携行食。阿仁・仙北の168カネモチと同じ。

 この「ホドムシモチ」は、

  「ホト・ムフ・チ・マウ・チ」、HOTO-MUHU-TI-MAU-TI(hoto=join,begin,be apprehensive,suspicious;muhu=stupid,untaught,grope,feel after etc.;ti=throw,cast,overcome;mau=food product,fixed,continuing,confined,constrained;ti=throw,cast,overcome)、「(何種類かの食材を)集めて(または注意深く)・変わった方法で・調理して・(穀粒が圧縮されて)餅に・なった(穀物。餅)」(「ホト」が「ホド」と、「ムフ」のH音が脱落して「ム」と、「チ」が「シ」と、「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)

の転訛と解します。

667ホドムシル

 [阿仁・仙北]火箸。

 この「ホドムシル」は、

  「ホト・ムフ・チ・ル」、HOTO-MUHU-TI-RU(hoto=join,begin,be apprehensive,suspicious;muhu=stupid,untaught,grope,feel after etc.;ti=throw,cast,overcome;ru=shake,scatter)、「注意深く・探りながら・奮って・(火を)扱う」(「ホト」が「ホド」と、「ムフ」のH音が脱落して「ム」と、「チ」が「シ」となった)

の転訛と解します。

668ホノ

 [岩手]小さい子供。(「ホノ(かもしかの小さい子)」の語を収録し、アイヌ語源(pono小さい)とする説(板橋「辞典」)がありますが、「pono→poro大きい、pone→pon小さい」(知里真志保『地名アイヌ語小辞典』)で誤りと考えます。)

 この「ホノ」は、

  「ホノ」、HONO(assembly,company,retinue,following)、「(親に)くっついて歩く者(小さい子供)」

の転訛と解します。

669ホーノー

 [岩手]山で連絡するときの叫び声。

 この「ホーノー」は、

  「ホノ」、HONO(be on the point of,proceed to do,go on)、「ここにいるぞ!」または「これからいくぞ!」など。

の転訛と解します。

670ホノコ

 [岩手・鳥海]カモシカの当歳子。由利では二歳子をいう。

 この「ホノコ」は、

  「ホノ・コ」、HONO-KO(hono=be on the point of,proceed to do,go on;ko=addressing males and females)、「集団で行動する・子たち」

の転訛と解します。

671ホリツナリ

 [阿仁]山に所持して行く細引き縄。

 この「ホリツナリ」は、

  「ホリリ・ツ・(ン)ガリ」、HORIRI-TU-NGARI(horiri=energetic;tu=stand,settle;ngari=annoyance,greatness,power)、「強さが・あって・(精力的)万能の(縄)」(「ホリリ」の反覆語尾が脱落して「ホリ」と、「(ン)ガリ」のNG音がN音に変化して「ナリ」となった)

の転訛と解します。

672ホリバミ

 [仙北]クマが食べ物をあさること。またクマが食べ散らかした場所。

 この「ホリバミ」は、

  「ホリリ・パ・ミヒ」、HORIRI-PA-MIHI(horiri=energetic;pa=touch,reach,operate on,block up,prevent,assault;mihi=sigh for,greet,express discomfort,show itsself)、「(クマが)精力的に・思うさま・(襲う)食べあさる」(「ホリリ」の反覆語尾が脱落して「ホリ」と、「パ」ガ「バ」と、「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となった)

  「ホリ・パ・ミヒ」、HORI-PA-MIHI(hori=cut,slit,be gone by;pa=touch,reach,operate on,block up,prevent,assault;mihi=sigh for,greet,express discomfort,show itsself)、「(クマが)思うさま・(襲う)食べあさって・退散した(場所)」(「パ」ガ「バ」と、「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となった)

の転訛と解します。

673ホロ

 [阿仁]沢山。(これをアイヌ語源とする説がありますが、下記のようにマオリ語源にもハワイ語源にも同音同意義の単語が存在しますので、アイヌ語源とすることはできません。)

 この「ホロ」は、

  (マオリ語源)「ハウロア」、HAUROA(height,length,long)、「(長い)大きい」(AU音がO音に変化し、語尾のA音が脱落して「ホロ」となった)

  (ハワイ語源)「ポロ」、POLO((Hawaii)large,thick,plump)、「大きい、厚い、太い、たくさん」(P音がF音を経てH音に変化して「ホロ」となった)

  (アイヌ語源)「ポロ」、PORO((Aynu)大きい、大きくなる、多い)(P音がF音を経てH音に変化して「ホロ」となった)

の転訛と解します。

674ホロアエ・ホロホロ

 [仙北]山兎の小腸の糞を煎りあげて食べるマタギ料理。生保内、鳥海などでは、413スカといいます。

 この「ホロアエ」、「ホロホロ」は、

  「ホロ・アエア」、HORO-AEA(horo=fall in fragment,dro off or out as a number of small articles;aea=it were better)、「粒々になつた・良い状態のもの(料理)」(「アエア」の語尾のA音が脱落して「アエ」となった)

  「ホロホロ」、HOROHORO(remove ceremonial restrictions etc. from an article,be shuttered)、「粉々の状態にした(調理下料理)」

の転訛と解します。

675ホロカチヨ

 [仙北]大きい器物。(この語の「ホロ」のみを抜き出し、「カチヨ」の意味を無視して、アイヌ語源(poro大きい)とする説(板橋「辞典」)がありますが、誤りと考えます。)

 この「ホロカチヨ」は、

  「ポロ・カカチ・オ」、POLO-KAKATI-O((Hawaii)polo=large,thick,plump;kakati=tie in bundles,bundle;o=find room,be capable of being contained or enclosed)、「大きい・(中に)物が入れられる・荷物(容器。器物)」(「ポロ」のP音がF音を経てH音に変化して「ホロ」と、「カカチ」の反覆語頭が脱落して「カチ」となり、「カチ・オ」が「カチヨ」となった)

の転訛と解します。

676ホロニツマセイ

 [阿仁]おごる。

 この「ホロニツマセイ」は、

  「ポロ・ニヒ・ツマ・テイ」、POLO-NIHI-TUMA-TEI((Hawaii)polo=large,thick,plump;nihi=move stealthly;tuma=challenge(whakatuma=defiance);tei=high,tall,summit,top)、「たいへん・ゆっくりと(重々しい動作で)・最高に・傲慢に振る舞う(おごる)」(「ポロ」のP音がF音を経てH音に変化して「ホロ」と、「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」と、「テイ」が「セイ」となった)

の転訛と解します。

677ホロビダキ

 [阿仁]大人。(この語の「ホロ」のみを抜き出し、「ビダキ」の意味を無視して、アイヌ語源(poro大きい)とする説(板橋「辞典」)がありますが、誤りと考えます。)

 この「ホロビダキ」は、

  「ポロ・ピ・タキ」、POLO-PI-TAKI((Hawaii)polo=large,thick,plump;pi=young of birds;taki=track,lead,challenge)、「(若鳥)若者が・たくさん・(挑戦)経験を積んだ者(大人)」(「ポロ」のP音がF音を経てH音に変化して「ホロ」と、「ピ」が「ビ」と、「タキ」が「ダキ」となった)

の転訛と解します。

678ホンド

 [仙北]野生の芋、ほど芋。

 この「ホンド」は、

  「ホノ・ト」、HONO-TO(hono=assembly,company,retinue,following;to=drag,haul)、「引っ張ると・(地中から)連なって出てくる(野生の芋。ほど芋)」(「ホノ」が「ホン」と、「ト」が「ド」となった)

の転訛と解します。

679ポツプケ

 [仙北]カモシカの両頬の毛。

 この「ポツプケ」は、

  「ポ・ツプ・ケ」、PO-TUPU-KE(po,popo=crowd round,throng;tupu=grow,increase,begin,be firmly fixed;ke=different,strange)、「異様に・伸びて・密集しているもの(両頬の毛)」

  または「ポ・ツプケ」、PO-TUPUKE(po,popo=crowd round,thong;tupuke=earth up crops,etc.)、「野生の稲のように・密集して生えているもの(両頬の毛)」

の転訛と解します。

680ボサヤブ

 [仙北]雪が消えて一番に茂る草藪。

 この「ボサヤブ」は、

  「ポ・タ・イア・プ」、PO-TA-IA-PU(po,popo=crowd round,throng;ta=dash,beat,lay;ia=indeed;pu=tribe,bunch,heap,stack)、「密集して・生えている・実に・塊のような(藪)」(「ポ」が「ボ」と、「タ」が「サ」と、「イア」が「ヤ」と、「プ」か「ブ」となった)

の転訛と解します。

681ボトス

 [鳥海]人に物を渡すこと。

 この「ボトス」は、

  「パウ・ホト・ツ」、PAU-HOTO-TU(pau=consumed,exhausted,finished;hoto=join;tu=stand,settle,serve,send)、「送った(物が)・(先方と)合体し・終わる(人に物を渡す)」(「パウ」のAU音がO音に変化して「ポ」から「ボ」となり、その語尾のO音と「ホト」のH音が脱落して「オト」となったその語頭のO音が連結して「ボト」と、「ツ」が「ス」となった)

の転訛と解します。

682ボレル

 [鳥海]酔うこと。また大きいこと。

 この「ボレル」は、

  「ポライ・ル」、PORAI-RU(porai=get out of the way;ru=shake,scatter)、「(通常の行動の道)枠を外れて・(平常)心を失う(酔うこと)」または「奮って・(通常の)枠を外れた(大きいこと)」(「ポライ」のAI音がE音に変化して「ポレ」から「ボレ」となった)

の転訛と解します。

683ボンノハカマイリ

 [阿仁]盆の墓参り。盆の十三日の晩に墓参りに行くとオオカミが出るという言い伝えがあり、十四日の朝に墓参りに行くといいます。

 この「ボンノハカマイリ」は、

  「ポノ・ノ・ハカ・マ・イリ」、PONO-NO-HAKA-MA-IRI(pono=light upon,come upon,fall in one's way;haka=deformed;ma=white,clean;iri=a spell to influence or attract or render visible one at a distance)、「(故人の霊に)出会う・(の)という・(遺体が土に)変化する場所(墓)で・清らかな・(故人を目前に見ることができる)呪文を唱える(行事)」(「ポノ」が「ボン」となった)

の転訛と解します。

「マ」

684マエカケ

 [阿仁・仙北]前掛け。麻布製。

 この「マエカケ」は、

  「マヘ・カカイ」、MAHE-KAKAI(mahe=ma hea(ma=white,clean;hea=multitude,majority);kakai=frequentative(kai=fulfil its proper function,have full play))、「清らかでいろいろの・役に立つもの(布。前掛け)」(「マヘ」のH音が脱落して「マエ」と、「カカイ」のAI音がE音に変化して「カケ」となった)

の転訛と解します。

685マキ

 [仙北]巻き狩り。一月三日に若いマタギを集めて裏山の比較的平地で山兎一羽が二羽を捕る遊びが行われます。

 この「マキ」は、

  「マ・アキ」、MA-AKI(ma=go,come;aki=abut on)、「(勢子が)相接して・進む(猪、鹿などを追い出す)」(「マ」のA音と「アキ」の語頭のA音が連結して「マキ」となった)

の転訛と解します。

686マキクラ・マキヤマ

 [阿仁・仙北・鳥海・雄勝・岩手]マタギが共同でクマを巻き狩りすること。

 この「マキクラ」、「マキヤマ」は、

   「マ・アキ・ク・ウラ(ン)ガ」、MA-AKI-KU-URANGA(ma=go,come;aki=abut on;ku=silent,wearied,exhausted;uranga=act or circumstance of becoming firm)、「(勢子が)相接して・進む(猪、鹿などを追い出す狩りで)・骨が折れる・次第に(包囲網を)狭めて行くもの」(「マ」のA音と「アキ」の語頭のA音が連結して「マキ」と、「ク」のU音と「ウラ(ン)ガ」の語頭のU音が連結し、名詞形語尾のNGA音が脱落して「クラ」となった)

   「マ・アキ・イア・マハ」、MA-AKI(ma=go,come;aki=abut on;ia=indeed;maha=many,abundance,majority)、「(勢子が)相接して・進む(猪、鹿などを追い出す狩りで)・実に・大規模なもの」(「マ」のA音と「アキ」の語頭のA音が連結して「マキ」となった)

の転訛と解します。

687マキモノ

 [阿仁・仙北・鳥海・雄勝・岩手]マタギにはいくつかの流派があり、それぞれの由来を記した秘巻をもっていた。その秘巻のこと。

 この「まきもの」は、

   「マハ・アキ・モノア」、MAHA-AKI-MONOA(maha=many,abundance;aki=abut on;monoa=admire,desire)、「(竹簡・木簡が)多数・相接して綴じられている(書物)で・尊重されるもの(巻物)」(「マハ」のH音が脱落し、その語尾のA音と「アキ」の語頭のA音が連結して「マキ」と、「モノア」の語尾のA音が脱落して「モノ」となった)

の転訛と解します。

688マキリ

 [阿仁・仙北]小刀。(これをアイヌ語源とする説がありますが、下記のようにマオリ語源にも同音同意義の単語が存在しますので、アイヌ語源とすることはできません。)

 この「マキリ」は、

  (マオリ語源)「マ・キヒ・リリ」、MA-KIHI-RI(ma=white,clean;kihi=cut off;riri=be angry,fight,weapon)、「清らかな(小さい)・(人または物を)荒々しく・切る(武器。小刀)」(「キヒ」のH音が脱落して「キ」と、「リリ」の反覆語尾が脱落して「リ」となつた)

  (アイヌ語源)「マキリ」、MAKIRI((Aynu)小刀)

の転訛と解します。

689マクライシ

 [仙北]枕石。クマが冬眠中に枕に使っているといわれる石。クマが体を隠すためとか、穴への風よけの石ともいわれます。

 この「マクライシ」は、

  「マクク・ウラ(ン)ガ・イチ」、MAKUKU-URANGA-ITI(makuku=indolent,inactive;uranga=act or circumstance of becoming firm)、「(怠惰に)何もせずに・(頭を)固定する(枕。枕として利用する)・(岩に比較して小さい)石」(「マクク」の反覆語尾が脱落して「マク」となり、その語尾のU音と「ウラ(ン)ガ」の語頭のU音が連結し、名詞形語尾のNGA音が脱落して「マクラ」と、「イチ」が「イシ」となった)

の転訛と解します。

690マグリ・マガリ・カクリ・カツトリ

 [仙北]杓子。越後マタギは「マガリ」、津軽マタギは「カクリ」、十和田マタギは「カツトリ」といって飯杓子の意です。

 この「マグリ」、「マガリ」、「カクリ」、「カツトリ」は、

  「マ・(ン)グ(ン)グ・リヒ」、MA-NGUNGU-RIHI(ma=white,clean;ngungu=eat greedy,gnaw;rihi=flat)、「清らかな・(噛み切る)掬い取る・平たいもの(杓子)」(「(ン)グ(ン)グ」のNG音がG音に変化し、反覆語尾が脱落して「グ」と、「リヒ」のH音が脱落して「リ」となった)

  「マ(ン)ガ・リヒ」、MANGA-RIHI(manga=remains of food after a meal;rihi=flat)、「(鍋、釜に)残った(飯を・(掻き取る)平たいもの(杓子)」(「マ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「マガ」と、「リヒ」のH音が脱落して「リ」となった)

  「カク・リヒ」、KAKU-RIHI(kaku=scrape up,scoop up;rihi=flat)、「(飯を)掻き取る・平たいもの(杓子)」(「リヒ」のH音が脱落して「リ」となった)

  「カ・ツ・ト・リヒ」、KA-TU-TO-RIHI(ka=take fire,be lighted,burn;tu=stand,settle,fight with,energetic;to=drag,haul;rihi=flat)、「強く・(火を受けた)焦げた(飯を)・掻き取る・平たいもの(杓子)」(「リヒ」のH音が脱落して「リ」となった)

の転訛と解します。

691マケソ

 [鳥海]鍋。

 この「マケソ」は、

  「マカイ・トウ」、MAKAI-TOU(makai:(Maori)tunutunu(=broil) makai=keep eating portions of food while it is cooking,(Hawaii)makai=inspect,spy;tou=dip into a liquid,kindle,set on fire)、「火にかけて・(食物を)調理するもの(鍋)」(「マカイ」のAI音がE音に変化して「マケ」と、「トウ」が「ト」から「ソ」となった)

の転訛と解します。

692マシカ

 [仙北]クマの毛足袋。うち前肢の皮の足袋をいいます。

 この「マシカ」は、

  「マチカ」、MATIKA(stand,assume an errect position,upright)、「(クマが)立ち上がった(方の足(前肢)の皮の足袋)」(「マチカ」が「マシカ」となった)

の転訛と解します。

693マジ

 [阿仁・仙北・鳥海]クマの巻き狩りで鉄砲を持っているマタギをいう。また、阿仁・由利、鳥海では穴から出たときのクマの糞をいいます。

 この「マジ」は、

  「マチア」、MATIA(spear,drive in stakes with a maul)、「(槍やヘラなどクマを仕留める道具)鉄砲を持つ者(マタギ)」(語尾のA音が脱落して「マチ」から「マジ」となった)

  「マチ」、MATI(surfeited)、「(冬眠のために)飽食したもの(が糞となって出てきたもの。糞)」(「マチ」が「マジ」となった)

の転訛と解します。

694マス

 [仙北]猿。

 この「マス」は、

  「マハ・ツ」、MAHA-TU(maha=many,abundance;maha,mahamaha=liver seat of emotions;tu=fight with,energetic)、「激しく挑みかかってくる・本性を持つもの(動物。猿)」(「マハ」のH音が脱落して「マ」と、「ツ」が「ス」となった)

の転訛と解します。

695マスケ・マンツケ・マンスケ

 [阿仁・仙北・岩手]山刀。また槍(463タテ)をも指します。

 この「マスケ」、「マンツケ」、「マンスケ」は、

  「マハ・ツ・カイ」、MAHA-TU-KAI(maha,mahamaha=liver seat of emotions;tu=stand,settle,fight with,energetic;kai=fulfil its proper function,have full play)、「(山刀が)十分に役に立つように・心が・込められているもの(山刀)」(「マハ」のH音が脱落して「マ」と、「ツ」が「ス」と、「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)

  「マナ・ツ・カイ」、MANA-TU-KAI(mana=authority,power,psychic force;tu=stand,settle,fight with,energetic;kai=fulfil its proper function,have full play)、「(山刀が)十分に役に立つように・霊力が・込められているもの(山刀)」(「マナ」が「マン」と、場合により「ツ」が「ス」と、「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)

の転訛と解します。

696マタ

 [岩手]血。

 この「マタ」は、

  「マタ」、MATA(raw,unripe,green,fresh as water)、「(新鮮な液体の)血」

の転訛と解します。

697マタオニ・マタギ

 [阿仁]又鬼。昔空海がマタギの祖先万三郎に「お前は人間に害する悪鬼を退治する者、すなわち『鬼のまた鬼』である。よって「マタオニ」と呼ぶべし。」といったという伝説があります。
 この「マタギ」は、「ウマダ(シナノキの樹皮から取る繊維で織られた布)を剥ぐ人(柳田国男)、マダハギの転」、「マタンガー(古代インドの屠殺人)から(南方熊楠)」、アイヌ語の「マタンキ(狩人)」からなどの説があります。

この「マタオニ」、「マタギ」は、

  「マ・アタ・オ・ヌイ」、MA-ATA-O-NUI(ma=white,clean;ata=true;o=the...of;nui=large,great,many,superior)、「(清らかな)正真・正銘の・例の・巨大で卓越した者(鬼)」(「マ」のA音と「アタ」の語頭のA音が連結して「マタ」と、「ヌイ」のUI音がI音に変化して「ニ」となった)

  「マタ(ン)ギ」、MATANGI(wind,breeze)、「風(を熟知する狩人。マタギ)」(NG音がG音に変化して「マタギ」となった)(地名篇(その八)の山間民俗語彙の130またぎの項を参照してください。)

の転訛と解します。

698マタギイヌ

 [阿仁・仙北・岩手]マタギがかつて育成した小型の猟犬。現在天然記念物に指定されている大型の秋田犬は大正の末頃に育成されたもので猟犬には向いていません。マタギについては697マタオニの項を参照してください。

 この「(マタギ)イヌ」は、

  「イ・ヌイ」、I-NUI(i=ferment,be stirred;nui=large,many)、「たくさんの(子犬が)・湧いて出るように産まれる(動物。犬)」(「ヌイ」の語尾のI音が脱落して「ヌ」となった)

の転訛と解します。

699マタギカシラ

 [鳥海]マタギの頭目。国語篇(その十八)の368シカリの項および415スカリの項を参照してください。また、マタギについては697マタオニの項を参照してください。

 この「(マタギ)カシラ」は、

  「カハ・チラ」、KAHA-TIRA(kaha=strong,able,strength,persistency;tira=file of men,fin of fish,mast of canoe)、「(カヌーのマストのように)力強く・(集団を)統率する者(頭)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「チラ」が「シラ」となった)

の転訛と解します。

700マタギクスリ

 [阿仁・仙北・鳥海・雄勝・岩手]マタギが射止めた動物から造り出す薬のこと。マタギについては697マタオニの項を参照してください。

 この「(マタギ)クスリ」は、

  「ク・ツリ」、KU-TURI(ku=silent,wearied,exhausted;turi=deaf,obstinate(whakaturi=love token,propitiate))、「静かに・(病状を)根気強く緩和するもの(薬)」(「ツリ」が「スリ」となった)

の転訛と解します。

701マタギノシヨウガツ

 [仙北]マタギの正月。マタギについては697マタオニの項を参照してください。

 この「(マタギノ)シヨウガツ」は、

  「チオフ・(ン)ガ・ツ」、TIOHU-NGA-TU(tiohu=stoop;nga=satisfied,content;tu=stand,settle)、「(かがむ)仕事を休んで・(満足)楽しみが・ある(時期。月)」(「チオフ」のNG音がG音に変化し、H音が脱落して「チオウ」から「ショウ」と、「(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「ガ」となった)

の転訛と解します。

702マタギノテツポウグミ

 [阿仁]マタギの鉄砲組。元治元(1864)年佐竹藩は阿仁銅山巡視の折荒瀬村のマタギが訓練が行き届いているとして頭に名字帯刀を許し、大砲車を引く役として鉄砲方加勢組総勢四十一名を組織したといいます。マタギについては697マタオニの項を参照してください。

 この「(マタギノテツポウ)グミ」は、

  「クミ」、KUMI(a measure of ten fathoms)、「(組織を分ける)単位(組)」

の転訛と解します。

703マタギノドンブク

 [仙北]マタギの上衣で綿入れの短衣。マタギについては697マタオニの項を参照してください。

 この「(マタギノ)ドンブク」は、

  「トヌ・プク」、TONU-PUKU(tonu=still,continuity,quite,just,only;puku=swelling)、「全く・肥っている(ように見える。上衣)」(「トヌ」が「ドン」と、「プク」が「ブク」となった)

の転訛と解します。

704マタギノマキ

 [阿仁]マタギの血統をいいます。マタギについては697マタオニの項を参照してください。

 この「(マタギノ)マキ」は、

  「マ(ン)ガ・キ」、MANGA-KI(manga=branch of a river or a tree;ki=full,very)、「分家を・たくさん抱えている(血族集団。血統)」(「マ(ン)ガ」の名詞形語尾のNGA音が脱落して「マ」となった)

の転訛と解します。

705マタギヤド

 [阿仁・仙北・鳥海・岩手]マタギが遠い山に毎年狩猟に行って止まる定宿。マタギについては697マタオニの項を参照してください。

 この「(マタギ)ヤド」は、

   「イア・タウ」、IA-TAU(ia=indeed;tau=come to rest,settle down)、「実に・休息をする(泊まる場所)」(「イア」が「ヤ」と、「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ド」となつた)

の転訛と解します。

706マタギボウシ

 [鳥海]マタギ帽子。白木綿か763モンパ(織物名)で兜のように作り冠ります。マタギについては697マタオニの項を参照してください。

 この「(マタギ)ボウシ」は、

  「ポウ・チ」、POU-TIHI(pou=pole,stick in,fasten to a stick,elevate upon poles;tihi=summit,top)、「(頭の)てっぺんに・載せるもの(帽子)」(「ポウ」が「ボウ」と、「チヒ」のH音が脱落して「チ」カラ「シ」となった)

の転訛と解します。

707マタギボッチ・シュロ

 [鳥海・平賀]マタギの冠物(帽子)。棕櫚(しゅろ)またはフランネルで作ります。マタギについては697マタオニの項を参照してください。

 この「(マタギ)ボッチ」、「シュロ」は、

  「ポポチ」、POPOTI(surround)、「(頭の上を)取り囲むもの(帽子)」(反覆語頭が脱落して「ポチ」から「ボッチ」となった)

  「チウ・ロ」、TIU-RO(tiu=soar,wander,sway to and fro;ro=roto=inside)、「(樹皮の繊維が)内側で・(層をなして)交互に向きを変えている(樹木。しゅろ)」(「チウ」が「シュ」となった)

の転訛と解します。

708マダヌノ・シナノキ

 [鳥海]マダ布。シナの木の繊維の織物で、強く粗く水に強い。

 この「マダ」、「シナノキ」は、

  「マタ」、MATA(raw,unripe,green,fresh)、「粗い(布)」(「マタ」が「マダ」となった)

  「チナ・ノ・キヒ」、TINA-NO-KIHI(tina=fixed,hard,firm,satisfied;no=of,from,belonging to;kihi=cut off,strip of branches etc)、「木(の枝条)から・堅い(繊維が)・採れる部類の植物(シナノキ)」(「チナ」が「シナ」と、「キヒ」のH音が脱落して「キ」となった)

の転訛と解します。

709マチト・マチパ・マブサ

 [雄勝]クマ狩り山の待ち場所。

 この「マチト」、「マチバ」、「マブサ」は、

  「マチア・ト」、MATIA-TO(matia=rest,cease;to=drag,haul)、「(クマが誘導されて)追い立てられてくるまで・(休息する)待ち受ける場所」(「マチア」の語尾のA音が脱落して「マチ」となった)

  「マチア・パ」、MATIA-PA(matia=rest,cease;pa=block,prevent,stockade,blockade)、「(クマが追い立てられてくるまで休息する)待ち受ける・(クマの逃走を)防止する場所」(「マチア」の語尾のA音が脱落して「マチ」と、「パ」が「バ」となった)

  「マプ・タ」、MAPU-TA(mapu=whiz,shout,flow freely;ta=dash,beat,lay)、「(水が低きに流れるようにクマが)あちこち方向を変えて逃げ回るのを・(襲って)射止める場所」(「マプ」が「マブ」と、「タ」が「サ」となった)

の転訛と解します。

710マツカ

 [阿仁・仙北・鳥海]股木。木の股。

 この「マツカ」は、

  「マハ(ン)ガ・ツカツカ」、MAHANGA-TUKATUKA(mahanga=twins;tukatuka=start up,proceed forward)、「(木の)双子が・伸びている(木が二股になっている。股木)」(「マハ(ン)ガ」のH音および名詞形語尾のNGA音が脱落して「マ」と、「ツカツカ」の反覆語尾が脱落して「ツカ」となった)

の転訛と解します。

711マツケ

 [岩手]鉈。

 この「マツケ」は、

  「マツ・カイ」、MATU-KAI(matu=cut,cut in pieces;kai=fulfil its proper functuin,have full play)、「切る・(機能を)十分に果たすもの(道具。鉈)」(「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)

の転訛と解します。

712マツチオ・マツオ

 [鳥海]鍋。

 この「マツチオ」、「マツオ」は、

  「マツ・チハオ」、MATU-TIHAO(matu=fat,richness of food;tihao=surround)、「美味(な食べ物)を・(取り囲む)容れるもの(鍋)」(「チハオ」のH音が脱落して「チオ」となった)

  「マツ・ハオ」、、MATU-HAO(matu=fat,richness of food;hao=draw a net etc. round anything,enclose,grasp greedily)、「美味(な食べ物)を・(取り囲む)容れるもの(鍋)」(「ハオ」のH音が脱落して「オ」となった)

の転訛と解します。

713マツチ

 [阿仁]鍋。

 この「マツチ」は、

  「マツ・チ」、、MATU-TI(matu=fat,richness of food;ti=throw,cast)、「美味(な食べ物)を・(放り込む)容れるもの(鍋)」

の転訛と解します。

714マツテ

 [阿仁・仙北]クマの巻き狩りで向こうの斜面に待ち、向かって合図する者。

 この「マツテ」は、

  「マ・ツタイ」、MA-TUTAI(ma=for,to emphasise,to be acted on by,by means of,in cinsequence of;tutai=watch,spysentry,scout)、「合図する・見張り番」(「ツタイ」のAI音がE音に変化して「ツテ」となった)

の転訛と解します。

715マツパ

 [仙北]クマの巻き狩りで五人配置される場所。

 この「マツパ」は、

  「マツア・パ」、MATUA-PA(matua=first,important,main body of an army;pa=block up,prevent,stockade,blockade)、「(巻き狩りで重要な)マタギの主力を配置する・(クマの逃走を)防止する場所」(「マツア」の語尾のA音が脱落して「マツ」となった)

の転訛と解します。

716マツマイ

 [阿仁]銃を持って待ち構える者。

 この「マツマイ」は、

  「マツア・マイ」、MATUA-MAI(matua=first,important,large,main body of an army;mai=become quiet,to indicate direction or motion towards)、「静かに待ち構える・(射撃の)第一人者」(「マツア」の語尾のA音が脱落して「マツ」となった)

の転訛と解します。

717マヅ

 [仙北]クマが春穴から出て、物を食べ、最初に出す糞。

 この「マヅ」は、

  「マツア」、MATUA(first,important,large,main body of an army)、「(クマが春穴から出て)最初(に出せすもの。糞)」(語尾のA音が脱落して「マツ」から「マヅ」となった)

の転訛と解します。

718マトウチ

 [阿仁]的射ち。的射ちは上手だが、猟は下手とか、その反対のマタギも居る。山神堂で前の晩から徹夜で酒盛りをし、白餅を供え、四月八日に的射ちを競う。

 この「マトウチ」は、

  「マタウ・ウチ」、MATAU-UTI(matau=know,feel certain of(whakamatau=teach,make trial of);uti=bite)、「(射撃の腕を知るために)試しに行う・射撃」(「マタウ」のAU音がO音に変化して「マト」となった)

の転訛と解します。

719マブ

 [仙北]雪庇。

 この「マブ」は、

  「マプ」、MAPU(flow freely)、「(自由に流れる)何時何処が崩れ落ちるか予想がつかないもの(雪庇)」(「マプ」が「マブ」となった)

の転訛と解します。

720ママケドシ・ニダラ・ナダラ

 [仙北]藁製の長方形の運搬具。「ニダラ」または「ナダラ」とも呼びます。

 この「ママケドシ」、「ニダラ」、「ナダラ」は、

  「ママケ・ト・オチ」、MAMAKE-TO-OTI(mamake=make=ma ake=go,come;to=drag,haul;oti=finished,gone or come for good)、「(それを)引っ張って・行き来する(運搬する)・のに好適なもの(運搬具)」(「ト」のO音と「オチ」の語頭のO音が連結して「トチ」から「ドシ」となった)

  「ニヒ・タラ」、NIHI-TARA(nihi=move stealthly;tara=loosen,brisk)、「元気よく・ゆっくりと動く(運搬具)」(「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」と、「タラ」が「ダラ」となった)

  「ナ・タラ」、NA-TARA(na=by,acted on in any way by,belonging to;tara=loosen,brisk)、「元気よく(動く)・部類のもの(運搬具)」(「タラ」が「ダラ」となった)

の転訛と解します。

721マメ

 [阿仁・仙北]クマ・カモシカの腎臓。

 この「マメ」は、

  「マハ(ン)ガ・メ」、MAHANGA-ME(mahanga=twins;me=if,as if,like)、「双子の・(臓器の)ようなもの(腎臓)」(「マハ(ン)ガ」のH音および名詞形語尾のNGA音が脱落して「マ」となった)

の転訛と解します。

722マモリダマ

 [鳥海]護り弾。ただの弾だが、長年身に付けておくことで霊力が付くといい、山中で不思議にあったとき、これを口に入れて噛み、錦の布に包んで(無ければ木の葉でもよいという)射ち放すといいます。

 この「マモリダマ」は、

  「マ・マウリ・タマ」、MA-MAYRI-TAMA(ma=white,clean;mauri=life principle,talisman,a material symbol of the hidden principle protecting vitality,mana;tama=son,man,emotion,desire,strong feeling)、「清らかな・命を守る魔除けの・霊力があるもの(護り弾)」(「マウリ」のAU音がO音に変化して「モリ」と、「タマ」が「ダマ」となった)

の転訛と解します。

723マルウチ

 [雄勝]山で即座に作る812ワラダ(藁製の古い狩猟具。これを空に向けて投げると、鷹の飛ぶような音がするので、山兎などはすくんでしまうという)の一種。

 この「マルウチ」は、

  「マル・ウチ」、MARU-UTI(maru=power,authority,shadow,shield,mark;uti=bite)、「影(鷹の羽音に似た音)で・(獲物に)打撃を加えるもの(狩猟具)」

の転訛と解します。

724マルカケ

 [鳥海]山兎の猟具。丸い輪のもの。

 この「マルカケ」は、

  「マル・カケ」、MARU-KAKE(maru=power,authority,shadow,shield,mark;kake=ascend,beat to windward in sailing,be superior to)、「(空に)投げ上げられた・影(鷹の羽音に似た音を出す狩猟具)」

の転訛と解します。

725マルコ

 [岩手]野獣(クマ、カモシカ)類を皮付きのまま一頭で売ること。

 この「マルコ」は、

  「マル・カオ」、MARU-KAO(maru=power,authority,shadow,shield,mark;kao=assembled,collected together)、「(皮という)遮蔽物を・付けたままのもの(皮付きのまま一頭で売ること)」(「カオ」のAO音がO音に変化して「コ」となった)

の転訛と解します。

726マルメ

 [阿仁]獲物を獲ること。

 この「マルメ」は、

  「マル・メ」、MARU-ME(maru=bruised,killed,cooked;me=if,as if,like)、「(獲物を)殺した・ような」

の転訛と解します

727マワリジシ

 [仙北]回って歩くクマ。

 この「マワリジン」は、

  「マハ・アリ・チチ」、MAHA-ARI-TITI(maha=many,abundance;ari=clear,visible,appearance;titi=go astray)、「たくさん(の地域で)・(歩き回る)姿が目撃されている・放浪する(クマ)」(「マハ」の語尾のA音と「アリ」の語頭のA音が連結して「マワリ」と、「チチ」が「ジシ」となった)

の転訛と解します。

「ミ」

728ミ

 [仙北]肉。

 この「ミ」は、

  「ミヒ」、MIHI(sigh for,greet,commend,compliment,praise,thank)、「賞賛される贈り物(肉)」(H音が脱落して「ミ」となった)

  または「ミキ」、MIKI((Hawaii)to eat poi or other food by putting the fingers into it,to eat in a hurry)、「飛びついて食べる(美味な食物。肉)」(K音が脱落して「ミ」となった)(このハワイ語源の解釈は、Lorrin Andrews,A dictionary of the Hawaiian Language,Charles E. Tuttle Company,2000によりました。)

の転訛と解します。

729ミサゲフクロ

 [仙北]背負う袋。

 この「ミサゲ(フクロ)」は、

  「ミイ・タ(ン)ゲヘ」、MII-TANGEHE((Hawaii)mii=short of umii=to pinch,clasp;tangehe=soft,pliant)、「(肩を締め付ける)背負う・(柔らかな)だらんと垂れている(袋)」(「ミイ」が「ミ」と、「タ(ン)ゲヘ」のNG音がG音に変化し、H音が脱落して「タゲ」から「サゲ」となった)

の転訛と解します。

730ミジカ

 [岩手・仙北]木綿の上衣としてマタギが着る胴衣のこと。

 この「ミジカ」は、

  「ミイ・チカ」、MII-TIKA((Hawaii)mii=short of umii=to pinch,clasp;tikanga=rule,custom,habit,anything normal or usual)、「(胴体を)締め付ける・日常(使用する)着るもの(木綿の胴衣)」(「ミイ」ガ「ミ」と、「チカ」が「ジカ」となった)

の転訛と解します。

731ミズコリ

 [阿仁]水垢離。

 この「ミズコリ」は、

  「ミミ・ツ・コリ」、MIMI-TU-KORI(mimi=urine,stream;tu=stand,settle;kori=move,wriggle,bestir oneself,use action in oratory)、「水の流れが・静止したもの(水。その水をかぶって)・(自分を奮い立たせる)垢離をとる(水垢離)」(「ミミ」の反覆語尾が脱落して「ミ」と、「ツ」が「ズ」となった)

の転訛と解します。

732ミズボシ

 [仙北]分水嶺。

 この「ミズボシ」は、

  「ミミ・ツ・ポチ」、MIMI-TU-POTI(mimi=urine,stream;tu=stand,settle;poti=angle,corner)、「水の流れが・角張った所に・ある(そこで流れが分かれる場所。分水嶺)」(「ミミ」の反覆語尾が脱落して「ミ」と、「ツ」が「ズ」と、「ポチ」が「ボシ」となった)

の転訛と解します。

733ミズワカゼ

 [仙北]寒過ぎの水っぽい雪崩。

 この「ミズワカゼ」は、

  「ミミ・ツ・ウアカハ・タイ」、MIMI-TU-UAKAHA-TAI(mimi=urine,stream;tu=stand,settle;uakaha=vigorous,strenuous,difficult;tai=tide,wave,anger,violence)、「水の流れが・静止したもの(水。その水が多い)・すさまじく強い・(雪の)奔流(雪崩)」(「ミミ」の反覆語尾が脱落して「ミ」と、「ツ」が「ズ」と、「ウアカハ」のH音が脱落して「ワカ」と、「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」が「ゼ」となった)

の転訛と解します。

734ミソユ

 [阿仁]山で米が不足したときに飲む味噌湯のこと。

 この「ミソユ」は、

  「ミイ・タウ・イ・ウ」、MII-TAU-I-U((Hawaii)mii=attractive,good-looking;tau=come to rest,settle down,be suitable;i=ferment,turn sour;u=bite,gnaw,be firm,be fixed,reach its limit)、「(魅力的な)美味な・(寝かして作ったもの)味噌(を入れた)・泡とともに湧き出すのが・頂点に達している(沸騰する。湯)」(「ミイ」が「ミ」と、「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ソ」と、「イ」と「ウ」が連結して「ユ」となった)

の転訛と解します。

735ミダミ

 [鳥海]糞。

 この「ミダミ」は、

  「ミイ・タミ」、MII-TAMI((Hawaii)mii=short of umii=to pinch,clasp;tami=press down,repress,smother)、「(体から)絞って・押し出すもの(糞)」(「ミイ」ガ「ミ」と、「タミ」が「ダミ」となった)

の転訛と解します。

736ミヅエ

 [仙北]当歳と三歳の子連れの親子グマをいう。

 この「ミズエ」は、

  「ミイ・ツアイ」、MII-TUAI((Hawaii)mii=short of umii=to pinch,clasp;tuai=thin,lean)、「(母グマに)しがみつく(当歳子)と・寄りかかる(三歳子)(を連れた親子グマ)」(「ミイ」ガ「ミ」と、「ツアイ」のAI音がE音に変化して「ツエ」から「ヅエ」となった)

の転訛と解します。

737ミナグロ

 [阿仁・仙北]全身が真っ黒で月ノ輪のないクマ。山の神の使いと考えられ、怖れられていました。

 この「ミナグロ」は、

  「ミナ・ク・ロ」、MINA-KU-RO(mina=desire,feel incantation for;(Hawaii)mina=to regret,be sorry,to prize greatly,value greatly;ku=firm,stiff,thickened;ro=roto=inside)、「怖れ尊ぶ・深い・(ものの)中(闇の中。黒いもの)(全身真っ黒なクマ)」(「ク」が「グ」となった)

の転訛と解します。

738ミブセ

 [阿仁]かんじきの爪の幅で、指三本並べた幅。

 この「ミブセ」は、

  「ミツツ・プテテ」、MITUTU-PUTETE(mitutu=three;putete=tie or knot as a bag or cloth etc.,stunted)、「三(本の指を)・密着して並べた(幅の)」(「ミツツ」が「ミ」と、「プテテ」の反覆語尾が脱落して「プテ」から「ブセ」となった)

の転訛と解します。
 上記の「ミツツ(三)」は、「アミ・クク」、AMI-KUKU((Hawaii)a hula step with hip revolutions;like the ami-kahela except that the revolutions are smaller and faster and in groups of three)、「(腰を小さく)三回振る(フラダンスの動作。三回、三つ)」(原ポリネシア語の「アミ・ツツ」の語頭のA音が脱落して縄文語では「ミ・ツツ」から「ミッツ」と、ハワイ語ではT音がK音に変化して「「アミ・クク」となつたと解します。

739ミミゴシ

 [阿仁]耳越し。山小屋で鍋、釜の上から飯を盛ると、獣がつる渡りしてうまく獲れないといわれます。獣が耳越しになって、木や雪、岩片がじゃまになること、獣がものの陰になって獲れなくなること。

 この「ミミゴシ」は、

  「ミミ(ン)ゴ・コチ」、MIMINGO-KOTI(mimingo=shrivelled up;koti=cut in two,divide,interrupt,cut off,so cut across the path of any one)、「(頭が)捻じられてできたもの(耳)が・遮断する」(「ミミ(ン)ゴ」の語尾のNGO音が脱落して「ミミ」と、「コチ」が「ゴシ」となった)

の転訛と解します。

「ム」

740ムカイヤマ

 [阿仁]クマ狩りでクマを追う勢子たちを向山という。

 この「ムカイヤマ」は、

  「ムフ・カイ・イア・マ」、MUHU-KAI-IA-MA(muhu=grope,feel after,push one's way through bushes etc.;kai=fulfil its proper function,have full play;ia=indeed;ma=white,clean)、「実に・清らかな場所(山)へ・藪を分け入って・与えられた役(クマを追い立てる)をこなす人々(勢子)」(「ムフ」のH音が脱落して「ム」と、「イア」が「ヤ」となった)

の転訛と解します。

741ムカエマツテ

 [阿仁]クマ狩りの全体行動を合図する見張り役。ほとんどは、368シカリが兼ねます。

 この「ムカエマツテ」は、

  「ムフ・カエアエア・マツ・タイ」、MUHU-KAEAEA-MATU-TE(muhu=grope,feel after,push one's way through bushes etc.;kaeaea=act like a hawk,look rapaciously,wander,roll as the eye );matu=ma atu=go,come;te=to make an emphatic statement)、「勢子やクマが・行ったり来たりするのを・鵜の目鷹の目で見張り・状況を把握する人(全体の見張り役)」(「ムフ」のH音が脱落して「ム」と、「カエアエア」の反覆語尾および語尾のA音が脱落して「カエ」となった)

の転訛と解します。

742ムキ

 [阿仁]肝。

 この「ムキ」は、

  「ム・キ」、MU-KI(mu=silent;ki=full,very)、「全く・(静かな)傷みを感じない臓器(肝臓)」

の転訛と解します。

742ムサシ

 [阿仁]大杯。

 この「ムサシ」は、

  「ムフ・タ・アチ」、MUHU-TA-ATI(muhu=stupid,untaught,incorrect;ta=dash,beat,lay,scoop for bailing a canoe;ati=descendant,clan)、「途方もない(大きい)・(カヌーのあか水を掬い取る)杓子の・部類に属するもの(大杯)」(「ムフ」のH音が脱落して「ム」と、「タ」のA音と「アチ」の語頭のA音と連結して「タチ」から「サシ」となった)

の転訛と解します。

744ムジナノオツツオ

 [仙北]柴や木で組み立てて、それにおびき寄せてムジナを捕らえる猟の道具。「ムジナ」については、雑楽篇(その二)の631たぬき(狸)の項を参照してください。

 この「ムジナノオツツオ」は、

   「ム・チナ・ノ・オ・ツツ・アウ」、MU-TINA-NO-O-TUTU-AU(mu=silent;tina=fixed,fast,firm,satisfied,overcome;no=of;o=the...of;tutu=a tree at which birds are taken by the mutu anare;au=firm,intense)、「(びっくりすると死んだように)静かに・固まってしまう(狸寝入りをする動物。狸。むじな(狸の東北方言))を・(捕らえるため)の・例の・緻密な・罠の仕掛け(道具)」(「チナ」が「ジナ」と、「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」となった)

の転訛と解します。

745ムジリ

 [岩手]皮胴衣のこと。カモシカのなめし皮で作り、襟だけは木綿です。

 この「ムジリ」は、

  「ムム・チ・リ」、MUMU-TI-RI(mumu=baffling,boisterous wind,valliant warrior;ti=throw,cast,overcome;ri=screen,protect,bind)、「(厳しい寒さの)烈風に対して・保護を・加えるもの(皮胴衣)」(「ムム」の反覆語尾が脱落して「ム」と、「チ」が「ジ」となった)

の転訛と解します。

746ムヅル

 [阿仁]帰ること。またはクマをとること。

 この「ムヅル」は、

  「ムツ・ウル」、MUTU-URU(mutu=brought to an end,left off,cropped,cut short;uru=enter,associate oneself with,reach the place)、「最後の(目的地に)・到達する(帰る)」(「ムツ」の語尾のU音と「ウル」の語頭のU音が連結して「ムツル」から「ムヅル」となった)

  または「ムム・ツ・ル」、MUMU-TU-RU(mumu=baffling,boisterous wind,valliant warrior;tu=fight with,energetic;ru=shake,scatter)、「(勇敢な戦士である)マタギが・奮って・懸命に(クマと)闘う(クマを捕る)」(「ムム」の反覆語尾が脱落して「ム」と、「ツ」が「ヅ」となった)

の転訛と解します。

「メ」

747メアテ・メダテシカリ

 [阿仁・仙北・雄勝・岩手]阿仁・仙北ではマタギ山小屋生活の頭をいう。東成瀬では686マキクラの総指揮者をいう。岩手貝沢ではクマ狩りのとき、山の上にいて、クマの逃げてゆく方向を知らせるマタギをいう。福島県檜枝岐では、これをメダテシカリ(「シカリ」については、368シカリの項を参照してください。)と、山形県小国では777ヤマサキという。

 この「メアテ」、「メダテ(シカリ)」は、

  「メ・アテア」、ME-ATEA(me=if,as if,like;atea=clear,free from obstruction,out of the way,cautious)、「(何者にも妨げられること無く)ひたすら注意している・ような者」(「アテア」の語尾のA音が脱落して「アテ」となった)

  「メ・タタイ」、ME-TATAI(me=if,as if,like;tatai=measure,arrange,set in order)、「(すべてを)整理し指揮する・ような者」(「タタイ」のAI音がE音に変化して「タテ」から「ダテ」となった)

の転訛と解します。

748メエテ

 [鳥海]前手。クマ狩りのとき、クマを追いやる方向の重要位置に配置する鉄砲をもった者。

 この「メエテ」は、

  「メ・エテ」、ME-ETE(me=if,as if,like;ete=thicken in cooking)、「(クマを捕る作戦の)備えを厳重にする・ような者」

の転訛と解します。

749メクソコブ

 [仙北]カモシカの目の下にある丸い小さい穴のこと。

 この「メクソコブ」は、

  「メメ・ク・ト・コブ」、MEME-KU-TO-KOPU(meme=mei(judging by) me(thing)=eye;ku=silent;to=drag,haul;kopu=full,filled up,blistered)、「目(の下)に・溜まっている(脂を)・静かに・引き出してくるもの(小さい穴)」(「メメ」の反覆語尾が脱落して「メ」と、「ト」が「ソ」と、「コプ」が「コブ」となった)

の転訛と解します。

750メグリワカ

 [仙北]濁酒。(以下のように「メグリ」に相当する語は、縄文語にはあっても、アイヌ語には見出せません。また、「ワカ」が「ワッカ」に変化することはあっても、「ワッカ」が「ワカ」に変化することは不自然で、従ってこの「ワカ」はアイヌ語源ではなく、縄文語源と解すべきもの考えます。なお、153カスケワッカの項および550ニゴリワツカの項を参照してください。)

 この「メグリワカ」は、

  (縄文語源)「メ・(ン)グ・ウリ・ウア・カハ」、ME-NGU-URI-UA-KAHA(me=if,as if,like;ngu=some marine animalcula,silent;uri=descendant,relative,race;ua=rain;kaha=strong,strength,persistency)、「まるで・海の微小動物の・仲間(が浮遊しているような)・(人を酔わす強い力がある)まとまった・雨のような(水の様な液体。酒。濁酒)」(「(ン)グ」のNG音がG音に変化して「グ」となり、その語尾のU音と「ウリ」の語頭のU音が連結して「グリ」と、「ウア」が「ワ」と、「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)

  (縄文語+アイヌ語源)「メ・(ン)グ・ウリ・ワッカ」、ME-NGU-URI-WAKKA(me=if,as if,like;ngu=some marine animalcula,silent;uri=descendant,relative,race;(Aynu)wakka=water)、「まるで・海の微小動物の・仲間(が浮遊しているような)・(人を酔わす強い力がある)水(酒。濁酒)」(「(ン)グ」のNG音がG音に変化して「グ」となり、その語尾のU音と「ウリ」の語頭のU音が連結して「グリ」と、「ワッカ」が「ワカ」となった)

の転訛と解します。

751メシニダイ

 [鳥海]藁で作った飯入れ。

 この「メシニダイ」は、

  「マエ・エチ・ヌイ・タヒ」、MAE-ETI-NUI-TAHI(mae=languid,listless,withered;eti=shrink,recoil;nui=large,many;tahi=one,unique,together)、「水が(後退して)すっかり無くなって・軟らかくなった(炊きあがった。飯)を・大量に・(一緒に)まとめたもの(飯入れ)」(「マエ」のAE音がE音に変化し、そのE音が「エチ」の語頭のE音と連結して「メチ」から「メシ」と、「ヌイ」が「ニ」と、「タヒ」のH音が脱落して「タイ」から「ダイ」となった)

の転訛と解します。

752メシニダラ

 [鳥海]藁製の飯荷俵で、飯入れ。

 この「メシニダラ」は、

  「マエ・エチ・ヌイ・タ・アラ」、MAE-ETI-NUI-TA-ARA(mae=languid,listless,withered;eti=shrink,recoil;nui=large,many;ta=dash,beat,lay;ara=way,path,means of conveyance)、「水が(後退して)すっかり無くなって・軟らかくなった(炊きあがった。飯)を・大量に・(置いて)入れて・運ぶためのもの(飯入れ)」(「マエ」のAE音がE音に変化し、そのE音が「エチ」の語頭のE音と連結して「メチ」から「メシ」と、「ヌイ」が「ニ」と、「タ」のA音ト「アラ」の語頭のA音が連結して「タラ」から「ダラ」となった)

の転訛と解します。

753メジカ

 [仙北]雌クマ。

 この「メジカ」は、

  「メチメチ・カハ」、METIMETI-KAHA(metimeti=fat;kaha=strong,strength,persistency)、「ずっと(長期間にわたって)・肥っている(雌クマ)」(「メチメチ」の反覆語尾が脱落して「メチ」から「メジ」と、「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)

の転訛と解します。

754メンボウマタギ

 [阿仁]マタギとして立派でないもの。この地方には「626ヒラマタギ」の呼称がなく、「めん棒又鬼」の名がありました。マタギについては697マタオニの項を参照してください。

 この「メンボウ(マタギ)」は、

  「メネ・ポウ」、MENE-POU(mene=be assembled,show wrinkles,contort the face;pou=pole,support,establishconsumed)、「疲れたと・顔をしかめる(やる気がない。マタギ)」(「メネ」が「メン」と、「ポウ」が「ボウ」となった)

の転訛と解します。

「モ」

755モチクシ

 [阿仁・仙北・鳥海・岩手]クマを捕ったときの祭事。

 この「モチクシ」は、

  「マウ・チ・クチ」、MAU-TI-KUTI(mau=food product,carry,fixed,continuing,caught;ti=throw,cast;kuti=contract,pinch)、「獲物を・(解体して)串に刺して・(山の神に)捧げる(祭事)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」と、「クチ」が「クシ」となった)

の転訛と解します。

756モツパ

 [岩手]マタギの冠り物。

 この「モツパ」は、

  「モ・ツ・パ」、MO-TU-PA(mo=for,for the benefit of,for the use of;tu=stand,settle;pa=block up,prevent,blow as the wind)、「(頭を)保護する・ために・載せるもの(冠り物)」

の転訛と解します。

757モツパボウシ

 [雄勝]真綿の冠り物。

 この「モツパボウシ」は、

  「モ・ツ・パ・ポウ・チ」、MO-TU-PA-POU-TI(mo=for,for the benefit of,for the use of;tu=stand,settle;pa=block up,prevent,blow as the wind;pou=pole,support,establish,consumed;ti=throw,cast)、「(頭を)保護する・ために・載せる・(頭の)高いところに・置くもの(冠り物)」(「ポウ」が「ボウ」となった)

の転訛と解します。

758モリコ

 [雄勝・平賀]獲物を下げて背負う用具。

 この「モリコ」は、

  「モリ・カウ」、MORI-KAU(mori=fondle,caress;kau=stalk,alone,bare,only)、「(肩に)優しい・(棒を組んだ)背負い用具」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

の転訛と解します。

759モロギ

 [阿仁]樫の木。灯明には、この木を炉の火に熱してつけるといい、他の木では汚れるといいます。

 この「モロギ」は、

  「モロキ」、MOROKI(continuing)、「永続する(木)」(「モロキ」が「モロギ」となった)

の転訛と解します。

760モロケ・カタケ

 [阿仁・仙北・鳥海]鷹の年齢をいう。鷹の三歳をモロケ(双毛)、二歳をカタケ(片毛)というもの。

 この「モロケ」、「カタケ」は、

  「マウ・ラウ・カイ」、MAU-RAU-KAI(mau=food product,carry,fixed,continuing,caught;rau=hundred,multitude;kai=fulfil its proper functuin,have full play)、「(獲物を)捕らえるのが・(百回)多数におよぶ・熟練した(鷹)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」と、「ラウ」のAU音がO音に変化して「ロ」と、「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)

  「カハ・タ・カイ」、KAHA-TA-KAI(kaha=strong,strength,persistency;ta=dash,beat,lay;kai=fulfil its proper functuin,have full play)、「力強く・襲う・十分能力がある(鷹)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)

の転訛と解します。

761モロビ

 [阿仁]和名オオシラビソ。別名トドマツ。神聖な木とされ、この枝をマタギ小屋へ持参し、神の拝む時など、マタギの儀式に使用する。

 この「モロビ」は、

  「モロヒロヒ」、MOROHIROHI(=marohirohi=strong,brave,hard)、「勇気(を授ける。木)」(反覆語尾が脱落して「モロヒ」から「モロビ」となった)

の転訛と解します。

762モロミ

 [阿仁・仙北]濁酒。

 この「モロミ」は、

  「マウ・ロミ」、MAU-ROMI(mau=food product,carry,fixed,continuing,caught;romi=squeeze,seize,grasp,crush,engulf)、「飲酒の・虜(とりこ)になるもの(濁酒)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)

の転訛と解します。

763モンパ

 [仙北・岩手]反芻動物のカモシカの第一胃のこと。この胃は別名580ハチネンブクロといい、この内壁がモンパ(紋羽)という織物に似ていることによる。

 この「モンパ」は、

  「マウヌ・パ」、MAUNU-PA(maunu=come out,be loosened,be taken off as clothes,etc.;pa=block up,prevent,screen,fat covering the inwards of animals)、「毛羽立つている・(野獣の皮膚下の)脂肪層のような(布)」(「マウヌ」のAU音がO音に変化して「モヌ」から「モン」となった)

の転訛と解します。

764モンペ

 [仙北]鹿の皮で作ったモンペ。169ガフラの項を参照して下さい。

 この「モンペ」は、

  「モネ・パイ」、MONE-PAI(mone,monemone=smooth,bare,without appendages;pai=good,excellent,suitable)、「(滑らかに)自由に(動けて)・すばらしいもの」(「モネ」が「モン」と、「パイ」のAI音がE音に変化して「ペ」となった)

の転訛と解します。

「ヤ」

765ヤウチ

 [阿仁・仙北]仲間。

 この「ヤウチ」は、

  「イア・アウ・チ」、IA-AU-TI(ia=indeed;au=firm,intense;ti=throw,cast)、「実に・近いところに・居る人々(仲間)」(「イア」のA音が「アウ」のA音と連結して「イアウ」から「ヤウ」となった)

の転訛と解します。

766ヤキモチ

 [岩手]餅粉と米粉を味噌味でこね、ほど火(灰の火)で焼いて作るマタギの携行食。阿仁、仙北の168カネモチと同じ。

 この「ヤキモチ」は、

  「イア・アキ・マウ・チ」、IA-AKI-MAU-TI(ia=indeed;aki=dash,beat,abut on;mau=food product,fixed,continuing,confined,constrained;ti=throw,cast,overcome)、「実に・叩いて(作った)・(叩いた結果穀粒が圧縮されて)餅に・なる(穀物。餅)」(「イア」のA音が「アキ」のA音と連結して「イアキ」から「ヤキ」と、「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)

の転訛と解します。

767ヤクシノコゾウ

 [仙北]薬師岳の小像のこと。角館の白岩広之内の佐藤久左右衛門家の祖先は有名なマタギで、永正二年二月の頃に、村の東の奥羽山脈の秀峰白岩岳の山頂で発見し、以来そこに薬師を祀り、山の名も白岩岳のなかの薬師岳といわれるようになったといわれます。

 この「ヤクシノコゾウ」は、

  「イア・クチ・ノ・コト・アウ」、IA-KUTI-NO-KOTO-AU(ia=indeed;kuti=draw tightly together,contract,pinch;no=of;koto=sob,make a low sound,squeak;au=firm,intense)、「実に・(山体が圧縮されたような)険しい(山)・の(で発見された)・小さな・(雪に埋もれて)泣いていたもの(小像)」(「イア」が「ヤ」と、「クチ」が「クシ」と、「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」となり、「コト・オ」が「コゾウ」となった))

の転訛と解します。

768ヤクシノフブキ

 [仙北]薬師の吹雪。白岩薬師岳に旧暦十二月八日ごろ吹く吹雪のこと。

 この「ヤクシノフブキ」は、

  「イア・クチ・ノ・フフキ」、IA-KUTI-NO-HUHUKI(ia=indeed;kuti=draw tightly together,contract,pinch;no=of;huhuki=huki=transfix,stick in,avenge death etc.,applied to spring tide)、「実に・(山体が圧縮されたような)険しい(山)・の(に吹く)・(自然が人に対して行う死に至る報復)吹雪」(「イア」が「ヤ」と、「クチ」が「クシ」と、「フフキ」が「フブキ」となった))

の転訛と解します。

769ヤグラ

 [阿仁・仙北・鳥海]大木の股になっているところに、クマが枝を折ってつくるクマの居場所。クマは、ここで木の実を枝をしごいて食べる。

 この「ヤグラ」は、

  「イア・(ン)グ・ウラ(ン)ガ」、IA-NGU-URANGA(ia=indeed;ngu=silent,greedy;uranga=act or circumstance etc. of becoming firm,place etc. of arrival)、「実に・静かに・落ち着く(食事などをする)場所」(「イア」が「ヤ」と、「(ン)グ」のNG音がG音に変化して「グ」となり、その語尾のU音と「ウラ(ン)ガ」の名詞形語尾が脱落した語頭のU音が連結して「グラ」となった)

の転訛と解します。

770ヤゲン

 [阿仁・仙北・鳥海・雄勝・岩手]薬研。マタギたちが、動物の骨などを砕いて粉薬をつくる道具。

 この「ヤゲン」は、

  「イア・(ン)ゲ(ン)ゲ」、IA-NGENGE(ia=indeed;ngenge=weary,tired,weariness,exhaustion)、「実に(すっかり)・(消耗する)粉にするもの(薬研)」(「イア」が「ヤ」と、「(ン)ゲ(ン)ゲ」の最初のNG音がG音に、次のNG音がN音に変化して「ゲネ」から「ゲン」となった)

の転訛と解します。

771ヤゴリ

 [仙北・岩手](女性語)動物の固まった血。

 この「ヤゴリ」は、

  「イ・ア(ン)ゴ・リ」、I-ANGO-RI(i=past tense;ango=be open,be consumed;ri=screen,protect,bind)、「空気にさらされて(消耗して)・(結合し)固ま・った(血)」(「ア(ン)ゴ」のNG音がG音に変化して「アゴ」となり、「イ・アゴ」が「ヤゴ」となった)

の転訛と解します。

772ヤジ

 [鳥海]クマの血の塊。

 この「ヤジ」は、

  「イア・チ」、IA-TI(ia=indeed,each,very;ti=throw,cast)、「実に(大きい)・(放り出された)流れて固まった(血の塊)」(「イア」が「ヤ」と、「チ」が「ジ」となった)

の転訛と解します。

773ヤマイヌノホコラ

 [阿仁・仙北]オオカミを祀った社。

 この「(ヤマイヌノ)ホコラ」は、

  「ハウ・コラ」、HAU-KORA(hau=famous,illustrious,resound,be published abroad,be heard;kora=small fragment,speck,person of no account)、「有名な・小さなもの(社)」(「ハウ」のAU音がO音に変化して「ホ」となった)

の転訛と解します。

774ヤマイミ

 [阿仁]山忌み。山で咳、あくび、放歌を慎み、放しを低声ですること。

 この「(ヤマ)イミ」は、

  「イ・ミヒ」、I-MIHI(i=from,beside,be reason of,for want of,with;mihi=sigh for,greet,commend,compliment,acknowledge an obligation)、「(山の神に)敬意を表する・ために(慎む行動)」(「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となった)

の転訛と解します。

775ヤマイリ

 [阿仁・仙北]マタギが狩猟のため山に入り生活すること。山入りにあたっては、ヤマイリの儀式を行う。

 この「(ヤマ)イリ」は、

  「イリ」、IRI(be elevated on something,rest upon,hang)、「(山に)登る」

の転訛と解します。

776ヤマウサギノイラカゴヤキ

 [阿仁]山兎は六月頃子をはらむが、マタギ間では、この山兎を射止めたマタギがイラカゴ(胎児)わ食べる権利を持つ。この串焼きは美味で、強精剤になるといいます。

 この「(ヤマウサギノ)イラカゴヤキ」は、

  「イラ・カカウ・イア・(ン)ギハ」、IRA-KAKAU-IA-NGIHA(ira=life principal(whakaira tangata=conceive,become pregnant);kakau=swim,stalk of a plant(whakakau=come gradually into view,appear,rise of heavenly bodies);ia=indeed;ngiha=burn,fire)、「生命の・始まり(胎児)を・よく・焼いたもの」(「カカウ」のAU音がO音に変化して「カコ」から「カゴ」と、「イア」が「ヤ」と、「(ン)ギハ」のNG音がG音に変化し、H音が脱落して「ギ」から「キ」となった)

の転訛と解します。

777ヤマサキ

 [鳥海]山先。領主が山に来れば必ず道案内をするマタギで、ふだんは山の見張りをしていた。747メアテの項を参照してください。

 この「(ヤマ)サキ」は、

  「タキ」、TAKI(track,lead,bring alongbegin or continue a speech)、「(仲間を)統率する者」(「タキ」が「サキ」となった)

の転訛と解します。

778ヤマダチ

 [阿仁・仙北・鳥海]マタギが秘蔵する巻物に「山立由来記」とあるところから、この「山立」はマタギたちの旧名で狩人を指すと解する説かあります。秋田マタギは、「山立」を狩りをすることとしています。

 この「ヤマダチ」は、

  「イア・マ・タハ・アチ」、IA-MA-TAHA-ATI(ia=indeed;ma=white,clean;taha=side,edge,pass on one side,go by;ati=offspring,descendant,clan)、「実に・清らかな場所(山)を・(狩猟のために)巡行する者の・子孫たち」(「イア」が「ヤ」と、「タハ」のH音が脱落して「タ」となり、そのA音と「アチ」の語頭のA音が連結して「タチ」から「ダチ」となった)

の転訛と解します。

779ヤマネ

 [阿仁・仙北]276コダマネズミのこと。マタギの伝承によれば、マタギに遭遇した山の神の使いと信じられているヤマネがみるみる膨れ上がって大きな音を立てて破裂したり、またはその跳ねる音が鉄砲のような音として聞こえたときは、山の神が不機嫌になっているとして、猟を止めて下山したといいます。276コダマネズミの項を参照して下さい。

 この「ヤマネ」は、

  「イア・マネヘネヘ」、IA-MANEHENEHE(ia=indeed;manehenehe=querulous,peevish)、「実に(山の神の使いとして)・不満を示すもの(動物。ヤマネ)」(「マネヘネヘ」の反覆語尾が脱落し、H音が脱落して「マネ」となった)

の転訛と解します。

780ヤマノアンコ

 [阿仁・仙北・鳥海・雄勝]猿。

 この「(ヤマノ)アンコ」は、

  「ア(ン)ギ・カウ」、ANGI-KAU(angi=free,without hindrance,move freely;kau=multitude,company)、「集団で・自由に動き回るもの(猿)」(「ア(ン)ギ」のNG音がN音に変化して「アニ」から「アン」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

の転訛と解します。

781ヤマノカミノケラ

 [仙北]山神祭のときに作る山の神様の御幣のこと。普通の御幣の上にさらに半紙一枚を格子目のように刻んでつけるものをいいます。

 この「(ヤマノカミノ)ケラ」は、

  「ケラケラ」、KERAKERA(fond,offensive,nauseous,anything rotten and putrid)、「(山の神様の)お好みのもの()」(反覆語尾が脱落して「ケラ」となった)(格子目は魚の鱗を模したもので、この半紙は山の神の好物のオコゼ(124オクズ)を模したものかと考えられます。)

の転訛と解します。

782ヤラエダシ

 [阿仁]春に071イチゴオトシで捨ててきた二歳クマが、旧十二月ごろ、冬眠の場所を探してやってくるのを、親クマは自分の冬眠している穴に入れず、その子グマを追い出すこと。

 この「ヤラエダシ」は、

  「イア・ラエ・タ・アチアチ」、IA-RAE-TA-ATIATI(ia=indeed;rae=forehead,temple,promontry;ta=dash,beat,lay;atiati=drive away)、「実に・(親グマが)頭で・(捨てた子クマを)押して・突き出す」(「イア」が「ヤ」と、「タ」のA音と「アチアチ」の反覆語尾が脱落して「アチ」となったその語頭のA音が連結して「タチ」から「ダシ」となった)

の転訛と解します。

783ヤリヒキ

 [仙北]キツネを仕掛け弓で獲る猟法。弓矢に槍をつけて、餌を引っ張ると槍が刺さるようにしたもの。オオカミを獲る仕掛け弓もあった。

 この「ヤリヒキ」は、

  「イア・リリ・ピヒ・イキ」、IA-RIRI-PIHI-IKI(ia=indeed,current,rushing stream;riri=be angry,combat,weapon:pihi=spring up,begin to grow,shoot,sprout;iki=consume,sweep away,clear off)、「奔流のように動く・武器(槍)が・(餌を引くと)跳ね上がって・薙いで行くもの(仕掛け弓)」(「イア」が「ヤ」と、「リリ」の反覆語尾が脱落して「リ」と、「ピヒ」のP音がF音を経てH音に変化し、反覆語尾のH音が脱落して「ヒ」となり、そのI音と「イキ」の語頭のI音が連結して「ヒキ」となった)

の転訛と解します。

「ユ」

784ユウギレ

 [岩手]土の裂け目。クマは雪中のこの裂け目の中で冬眠することもある。

 この「ユウギレ」は、

  「ヰウ・(ン)ギア・レヘ」、WHIU-NGIA-REHE(whiu=throw,place,be gathered together;ngia=seem,appear to be;rehe=wrinkle,fold in the skin)、「(大地に天から投げ出されて)降り積むもの(雪)の・皺に・見える場所(裂け目)」(「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」と、「(ン)ギア」のNG音がG音に変化し、語尾のA音が脱落して「ギ」と、「レヘ」のH音が脱落して「レ」となった)

のと転訛と解します。

785ユキ・アラネ・アメアラネ・アマゲヤシ・アマネブテ・アカゲユキ・エキレ・オオハバユキ・オロシユキ・カンブキ・カワカムリユキ・カタユキ・ガリ・キヅレ・クマノアトガキ・ゲホ・コオリ・コオリユキ・コナユキ・コザキユキ・コオリバナ・コナツポ・ゴロ・サンマル・サラサラユキ・サネユキ・ザネユキ・シヅデ・シトリユキ・シヅレ・ジド・ジドヌ・シガ・ゼエ・ゾーゲ・タケユキ・ダンゴロ・ダオユキ・タルシ・タロンベ・デコンスリミチ・デエシコフブキ・デンゴ・ドビラ・ナデ・ナキツラユキ・ニメリユキ・ニガツユキ・ネブテユキ・ネビラ・ネユキ・ハデ・ハデユキ・ハユキ・バサバサユキ・バカユキ・ハダゲユキ・ヒラツグ・フギ・フツコミ・フキサセラシ・フキダマリ・フキドリ・フキバツコ・カザバッコ・フカゲ・フキダナ・ボタユキ・ボタボタユキ・ポタ・ボッコ・マメノコブキ・マブ・マブサ・ミノムシ・ミズワカセ・モロユキ・モロユキコグ・ヤブ・ヤクシノフブキ・ヤネユキ・ユキモッコ・ユキモンコ・ユキバンバ・ユキコゴリ・ワタユキ・ワカユキ・ワガッタ・ワンバ・ワシ・ワカセ

[阿仁・仙北・鳥海・雄勝・平鹿]さまざまの雪の名。

1 ユキ 雪。

2 アラネ 霰。

3 アメアラネ 雨霰。雨と霰の混じったもの。

4 アマゲヤシ 雨が雪に降り変わること。

5 アマネブテ 雨と雪が半分半分。

6 アカゲユキ 毎年三月頃満蒙方面の砂塵が西風に運ばれ日本海を越えてくる赤い雪のこと。

7 エキレ 春頃の雪の裂け目

8 オオハバユキ 幅広の雪、ボタボタ雪に似たもの。

9 オロシユキ 屋根から下ろした雪。

10 カンブキ 寒中の吹雪のこと。

11 カワカムリユキ クラストのことで、積雪の表面が日差しで融解し、それが夜の寒さで凍結し、それを繰り返して堅い厚い殻となったもので、堅雪、殻雪をいう。

12 カタユキ 堅雪。三月近く、昼解けて夜中、ことに夜明け方に表面が堅く凍ったもの。

13 ガリ 橇の表面に凍り付くもの。

14 キヅレ 樹枝にかぶさっている雪。

15 クマノアトガキ 冬至頃の吹雪。クマは穴入りする時、足跡を見つけられぬよう、吹雪がくるのを予知して、その前日に入る。春出る時も同じ。031アトガキと同じ。

16 ゲホ 雪庇。ゲホはおでこのこと。255ゲホと同じ。

17 コオリ 普通の雪のこと。ユキは行きに通じ、獲物を逃がすことに通じるので忌む。 

18 コオリユキ 雪。凍った軽い雪で、88ワシ(雪崩)を起こし易い。

19 コナユキ 粉雪。よく乾いた雪で、滑っても転んでも雪煙が立つ。

20 コザキユキ コザキすなわち砕け米のような粉末状のもの。ただし、粉雪のような半透明ではなく、チョークのような不透明色。

21 コオリバナ 氷花。樹氷。

22 コナツポ 粉雪。280コナツポと同じ。

23 ゴロ 斜面を転がり、拡大する雪塊。寒中にこれがあると、翌日は吹雪。297ゴロと同じ。

24 サンマル 霰のマタギ言葉。362サンマルと同じ。

25 サラサラユキ さらさらの雪。

26 サネユキ 12堅雪に同じ。340サネユキと同じ。

27 サネユキ ザラメ雪。

28 シヅデ ふわっとした雪。

29 シトリユキ 湿雪。

30 シヅレ 樹皮から雪幕となって落ちる雪。382シヅレと同じ。

31 ジド 樹木や枝に大きな塊になって引っかかっている雪塊。それが安定を失い雪面に落ちる音から出た名とする説があります。

32 ジドヌ 31ジドに同じ。384ジドヌと同じ。

33 シガ 張った氷。つらら。

34 ゼエ 流氷。

35 ゾーゲ 中層の雪のことで、砂糖のザラメのような雪。440ゾーゲと同じ。

36 タケユキ 岳雪。遠望する高い山の雪のこと。

37 ダンゴロ 斜面の上から渦巻き状に拡大し、転落するもの。晴天、あるいは雨模様に多く生じます。

38 ダオユキ 赤い雪のこと。ダオは、トキ(朱鷺)という昔日本にたくさん棲息した鳥で、白鷺に似て羽毛は白く、翼と尾羽は朱鷺色(淡紅色)、顔と足が赤いのが特徴です。

39 タルシ ツララのこと。

40 タロンベ ツララのこと。

41 デコンスリミチ 大根おろしの感じがするグヂャグヂャした雪路。

42 デエシコフブキ 大師講の日に、きまって襲来する吹雪。大師コは大勢の子供を育てるため、村の衆や稲を盗んで行く。その足跡をくらます吹雪と説明する所もあるといいます。

43 デンゴ 37ダンゴロと同じ。

44 ドビラ ヒラ(雪崩)に土石が混ずる山津波。520トビラと同じ。

45 ナデ 雪崩。

46 ナキツラユキ 泣き面雪。春近くの雪で、橇の非常に曳き難い雪。

47 ニメリユキ 湿雪。

48 ニガツユキ 二月雪。26サネ雪に同じ。

49 ネブテユキ 雨雪。564ネブデと同じ。

50 ネビラ 四月頃の湿気を帯びた雪崩。563ネビラと同じ。また、44ドビラと同じ意味もある。

51 ネユキ 根雪。26サネ雪が流れて、その下に寒中降った雪の残ったもので、非常に堅い雪面となる。また、雪の降りがけに使用する言葉で、降った雪がとけないで根となることから、こういわれます。

52 ハデ 堅雪の上へ、サラリと降る乾いた軽雪。季節に関係なくいう。585ハテと同じ。

53 ハデユキ 上に同じ。

54 ハユキ 寒中の軽い雪。

55 バサバサユキ バサバサ雪。乾いた雪。

56 バカユキ 馬鹿雪。三日も四日も降り続く雪。

57 ハダゲユキ ハダゲルは掻く意。雪路の両側に高く除け積まれた雪。

58 ヒラツグ 雪崩れること。

59 フギ 吹雪。

60 フツコミ 吹き込みの意で、足跡や雪路に吹雪がいっぱい詰まること。

61 フキサセラシ 60フツコミに同じ。

62 フキダマリ 60フツコミに同じ。

63 フキドリ 吹雪の中での凍死。

64-1 フキバツコ 吹雪のヒュウヒュウと鳴る音。

64-2 カザバッコ 雨戸や軒の隙間から洩れる風の音。

65 フカゲ 雪庇。

66 フキダナ 吹き棚。65フカゲに同じ。。

67 ボタユキ ボタボタ降る意とも牡丹雪とも解される。

68 ボタボタユキ 67ボタ雪に同じ。

69 ポタ 31ジドに同じ。落ちる音から。

70 ボッコ 下駄の歯やスキーの底に付着する雪。

71 マメノコブキ 豆の粉ブキ。20コザキ雪の吹雪。「フギ花」という所もある。

72 マブ 雪庇。719マブと同じ

73 マブサ 72マブと同じ。

74 ミノムシ 蓑虫。酷く凍る朝など田圃へ橇曳きに出ると、馬のツラというかぶり物の先にキラキラ輝く光体が付着して、それを払うとハラハラと散る。雪の細粒か、霜の現象と考えられる。

75 ミズワカセ 水ワカセ。寒過ぎの水っぽい雪崩。ワカセは、89ワカセに同じ。

76 モロユキ 深雪。

77 モロユキコグ 深雪をぬかって歩くこと。

78 ヤブ 深雪。

79 ヤクシノフブキ 旧暦十二月八日の吹雪。768ヤクシノフブキと同じ。

80 ヤネユキ 屋根雪。屋根に現在積もっている雪ではなく、かつて屋根に在った雪の意で9オロシユキに同じ。

81-1 ユキモッコ 雪モッコ。雪モンコ(化け物)の意か。子供を怖がらすのに「雪モッコが来た」などという。

81-2 ユキモンコ 雪モンコ(化け物)

82 ユキバンバ 雪婆。81ユキモッコに同じ。

83 ユキコゴリ 雪コゴリ。雪の凍ること。

84 ワタユキ 棉雪。

85 ワカユキ 若雪。十二月から正月頃までの雪。

86 ワガッタ 春近くなってから吹雪くこと。「若返った」の意か。

87 ワンバ 寒中急に来る雪崩で、上層雪の走るもの。

88 ワシ 52ハデの雪崩れるもの。人の声や咳払いでも起こる。人は圧死というよりるむしろ窒息死する。

89 ワカセ 寒中の雪崩。88ワシに同じ。

 これらは、

1  「ヰウ・キ」、WHIU-KI(whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

2  「アライ・ネイ」、ARAI-NEI(arai=screen,block up,obstruct;nei=to denote proximity to or connection with the speaker)、「(それが降ると)身近に・周囲に衝立ができたように(身動きがつかなくなるもの。霰)」(「アライ」の語尾のI音が脱落して「アラ」と、「ネイ」が「ネ」となった)

3  「アワ・マエ・アライ・ネイ」、AWHA-MAE=ARAI-NEI(awha=storm,rain;mae=languid,listless,withered;arai=screen,block up,obstruct;nei=to denote proximity to or connection with the speaker)、「元気のない・雨(が混じった)・(それが降ると)身近に・周囲に衝立ができたように(身動きがつかなくなるもの。霰)」(「アワ」のWH音が脱落して「ア」と、「マエ」のAE音がE音に変化して「メ」と、「アライ」の語尾のI音が脱落して「アラ」と、「ネイ」が「ネ」となった)

4  「アワ・マ(ン)ガイ・イ・アチ」、AWHA-MANGAI-I-ATI(awha=storm,rain;mangai=slow,moving heavily;i=past tense,from,beside,by,at;ati=descendant,offspring,clan)、「雨が・次第に・(その子孫の)雪に・変わった」(「アワ」のWH音が脱落して「ア」と、「マ(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「マゲ」と、「イ・アチ」が「ヤチ」から「ヤシ」となった)

5  「アワ・マネイ・プテテ」、AWHA-MANEI-PUTETE(awha=storm,rain;manei=reach out to,waver,hesitate,vacillate;putete=tie or knot,stunted)、「雨が・躊躇しながら・(雪に)変わって行く」(「アワ」のWH音が脱落して「ア」と、「マネイ」の語尾のI音が脱落して「マネ」と、「プテテ」の反覆語尾が脱落して「ブテ」となった)

6  「ア・カ・(ン)ガイ・ヰウ・キ」、A-KA-NGAI-WHIU-KI(a=the...of,of,belonging to;ka=take fire,be lighted,burn;ngai=tribe or clan;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「例の・(火が燃えるように)赤い色をした・部類の・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ゲ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

7  「エ・キヒ・レイ」、E-KIHI-REI(e=to denote action in progress or temporary condition;kihi=cut off,destroy completely;rei=swampy ground,peat,wet)、「(春になって)融けかけた雪面が・(切れる)裂けて・行く(裂け目)」(「キヒ」のH音が脱落シテ「キ」と、「レイ」が「レ」となった)

8  「オ・オハ・アパ・ヰウ・キ」、O-OHA-APA-WHIU-KI(o=the...of;oha=generous,abundant;apa=fold,layer;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「例の・多数・(折りたたんだような)幅広の・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「オハ」の語尾のA音と「アパ」の語頭のA音が連結して「オハバ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

9  「アウロロ・チ・ヰウ・キ」、AURORO-TI-WHIU-KI(auroro=slope,incline;ti=throw,cast;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(傾斜がある)屋根から・(放り落とされた)下ろした・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「アウロロ」のAU音がO音に変化し、反覆語尾が脱落して「オロ」と、「チ」が「シ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

10  「カ(ン)ガ・プ・キヒ」、KANA-PU-KIHI(kanga=curse,abuse,execrate;pu=blow gently,pipe;kihi=cut off,destroy completely)、「災難にあったような・暴れまくる・(風)吹雪」(「カ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「カナ」から「カン」と、「プ」が「ブ」と、「キヒ」のH音が脱落して「キ」となった)

11  「カハ・カムリ・ヰウ・キ」、KAHA-KAMURI-WHIU-KI(kamuri=cooking shed;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(強い)堅い・(料理用の外郭のような)外側の・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「カハ」が「カワ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

12  「カハ・タハ・ヰウ・キ」、KAHA-TAHA-WHIU-KI(のWH音が脱落してkaha=strong,strength;taha=side,margin,edge;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(強い)堅い・外側の・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「タハ」のH音が脱落して「タ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

13  「(ン)ガリ」、NGARI(annoyance,disturbance,greatness)、「(外側に凍り付いて橇の運行を)邪魔するもの」(NG音がG音に変化して「ガリ」となった)

14  「キヒ・ツ・レア」、KIHI-TU-REA(kihi=strip of branches etc.;tu=stand,settle;rea=spring up,grow,multiply,numerous)、「木の枝に・(雪が)積もって・成長したもの」(「キヒ」のH音が脱落して「キ」と、「ツ」が「ヅ」と、「レア」の語尾のA音が脱落して「レ」となった)

15  「(クマ・ノ・)ア・トウ・(ン)ガキ」、A-TOU-NGAKI(a=the...of,of,belongjng to;tou=anus,lower end of anything,tail of a bird;ngaki=clear off weeds or brushwoods,cultivate,avenge)、「例の・(クマの)足跡を・消し去るもの(冬眠の穴に入った翌日または春先に穴から出た翌日に吹く吹雪)」(「トウ」が「ト」と、「(ン)ガキ」のNG音がG音に変化して「ガキ」となった)

16  「(ン)ガイ・パウ」、NGAI-PAU(ngai=tribe or clan;pau=consumed,exhausted,denoting the complete or exhaustive character of any action)、「皺が刻まれている・ような部分(おでこ)」(「(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ゲ」と、「パウ」のP音がF音を経てH音に、AU音がO音に変化して「ホ」となった)

17  「カウ・ハウ・リ」、KAU-HAU-RI(kau=alone,only(whakakau=come gradually into view or appear,rise of heavenly bodies);(Hawaii)hau=cool,ice,frost;ri=screen,protect,bind)、「次第に姿を見せる・板(衝立)のような・氷」(「カウ・ハウ」のAU音がO音に変化して「コ・ホ」となり、さらに「ホ」のH音が脱落して「オ」となった)

18  「カウ・ハウ・リ・ヰウ・キ」、KAU-HAU-RI-WHIU-KI(kau=alone,only(whakakau=come gradually into view or appear,rise of heavenly bodies);(Hawaii)hau=cool,ice,frost;ri=screen,protect,bind;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「次第に姿を見せる・板(衝立)のような・氷(が混じる)・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「カウ・ハウ」のAU音がO音に変化して「コ・ホ」となり、さらに「ホ」のH音が脱落して「オ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

19  「コ(ン)ガコ(ン)ガ・ヰウ・キ」、KONGAKONGA-WHIU-KI(kongakonga=crumbled into fragment,fragment;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(穀粒を砕いた)粉末のような・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪。粉雪)」(「コ(ン)ガコ(ン)ガ」のNG音がN音に変化し、反復語尾が脱落して「コナ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

20  「コタ・キ・ヰウ・キ」、KOTA-KI-WHIU-KI(kota=anything to scrape or cut with,sawdust,fragments of charcoal from burnt brush;ki=full,very;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(鋸屑のように)細い・(刻み砕かれた)粉のような・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「コタ」が「コザ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

21  「カウ・ハウ・リ・ハナ」、KAU-HAU-RI-HANA(kau=alone,only(whakakau=come gradually into view or appear,rise of heavenly bodies);(Hawaii)hau=cool,ice,frost;ri=screen,protect,bind;hana=shine,glow)、「次第に姿を見せる・板(衝立)のような・氷の・(光り輝く)花」(「カウ・ハウ」のAU音がO音に変化して「コ・ホ」となり、さらに「ホ」のH音が脱落して「オ」と、「ハナ」が「バナ」となった)

22  「コ(ン)ガコ(ン)ガ・ツポウ」、KONGAKONGA-TUPOU(kongakonga=crumbled into fragment,fragment;tupou=bow the head,dive,rush of current)、「(穀粒を砕いた)粉末のような(雪)が・激しく降る(粉雪)」(「コ(ン)ガコ(ン)ガ」のNG音がN音に変化し、反復語尾が脱落して「コナ」と、「ツポウ」が「ツポ」となった)

23  「(ン)ガウ・ラウ」、NGAU-RAU(ngau=wander,go about;rau=catch as in a net,gather into a basket etc.,embarrassed)、「(雪塊が)転がって・どんどん大きくなる(現象。その雪)」(「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」と、「ラウ」のAU音がO音に変化して「ロ」となった)

24  「タ(ン)ガ・マ・ルイ」、TANGA-MA-RUI(tanga=be assembled,row,tier;ma=white,clean;rui=shake.scatter,cause to fall in drops)、「清らかな・列をなして・落ちて来る粒(霰)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サン」と、「ルイ」の語尾のI音が脱落して「ル」となった)

25  「タラタラ・ヰウ・キ」、TARATARA-WHIU-KI(taratara=scatter about;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(一片一片が)ばらばらの(さらさらの)・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「タラタラ」が「サラサラ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

26  「タネ・ヰウ・キ」、TANE-WHIU-KI(tane=male,showing manly qualities,husband,eructate after food;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(食事の後の)げっぷをするように雪崩を起こすことがある・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪。根雪の上に積もった雪)」(「タネ」が「サネ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

27  「タラ・メ・ヰウ・キ」、TARA-ME-WHIU-KI(tara=loosen,separate,brisk;me=if,as if,like;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(一片一片が)ばらばらの・ような(さらさらした)・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「タラ」が「ザラ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

28  「チ・ツ・タエ」、TI-TU-TAE(ti=throw,cast;tu=stand,settle;tae=filth,excrement,flakes of cloud or mist)、「降って・積もる・霧の粒のようなもの(ふわっとした雪)」(「チ」が「シ」と、「ツ」が「ヅ」と、「タエ」のAE音がE音に変化して「デ」となった)

29  「チ・タウ・リ・ヰウ・キ」、TI-TAU-RI-WHIU-KI(ti=throw,cast;tau=come to rest,lie steeping in water;ri=screen,bind;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(水に)浸け・られて・水分を含んだ・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「チ」が「シ」と、「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

30  「チ・ツレ」、TI-TULE(ti=throw,cast;(Futuna)tule=bend,bow)、「垂れ下がつた(雪が)・離れて落ちる」(「チ」が「シ」と、「ツレ」が「ヅレ」となった)

31  「チ・タウ」、TI-TAU(ti=throw,cast;tau=come to rest,settle down)、「(木の枝などに)放り出されて・休んでいる(塊の雪)」(「チ」が「ジ」と、「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ド」となった)

32  「チ・タウ・ヌイ」、TI-TAU-NUI(ti=throw,cast;tau=come to rest,settle down;nui=big,many)、「(木の枝などに)放り出されて・休んでいる・大きな(塊の雪)」(「チ」が「ジ」と、「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ド」と、「ヌイ」が「ヌ」となった)

33  「チ・ヒ(ン)ガ」、TI-HINGA(ti=throw,cast;hinga=fall from a errect position,lean,be overcome)、「高いところから下へ伸びて・きたもの(氷柱)」(「チ」が「シ」と、「ヒ(ン)ガ」のH音が脱落し、NG音がG音に変化して「カ」となった)

34  「タエ」、TAE(arrive,come,go,proceed to,be overcome)、「流れゆくもの(流氷)」(「タエ」のT音がS音に、AE音がE音に変化して「セ」から「ゼエ」となった)

35  「タウ・(ン)ガイ」、TAU-NGAI(tau=come to rest,float,settle down;ngai=tribe or clan)、「(下層と上層の間で)ゆつくりと休んでいる・部類の(雪)」(「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」から「ゾー」と、「(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ゲ」となった)

36  「タケ・ヰウ・キ」、TAKE-WHIU-KI(take=stump,base of a hill etc.;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「高い山(岳)に・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

37  「タ(ン)ガ・(ン)ガウ・ラウ」、TANGA-NGAU-RAU(tanga=be assembled,row,company;ngau=wander,go about;rau=catch as in a net,gather into a basket etc.,embarrassed)、「列をなして・(雪塊が)転がって・どんどん大きくなる(現象。その雪)」(「タ(ン)ガ」ののNG音がN音に変化して「タナ」から「ダン」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」と、「ラウ」のAU音がO音に変化して「ロ」となった)

38  「タオ・ヰウ・キ」、TAO-WHIU-KI(tao,tatao=bleed at the nose;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(鼻から出血したように)赤い・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「タオ」が「ダオ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

39   「タルア・チ」、TARUA-TI(tarua=by and by;ti=throw,cast)、「だんだんと・垂れ下がったもの(氷柱)」(「タルア」の語尾のA音が脱落して「タル」と、「チ」が「シ」となった)

40  「タロ・ノペ」、TARO-NOPE(taro=a plant cultivated for food;nope=constricted)、「しなびた・タロ芋のようなもの(氷柱)」(「ノペ」が「ンベ」となった)

41  「テコ・ナツ・リ・ミ・チ」、TEKO-NATU-RI-MI-TI(teko=rock,isilated,standing out;natu=scratch,mix,tear out;ri=screen,protect,bind;mi=river,stream;ti=throw,cast,overcome)、「(突出した)とんでもなく・引っ掻かれて(グジャグジャで)・(通るのに)難渋する・水が(川のように流れて)・平らにした(跡のような。道)」(「テコ」が「デコ」と、「ナツ」が「ンス」となった)

42  「タイ・チコ・フ・プ・キ」、TAI-TIKO-HU-PU-KI(tai=tide,wave,anger,violence;tiko=stand out,protrude;hu=resound,make any inarticulate sound;pu=blow gentry,pipe;ki=full,very)、「とんでもなく・荒れ狂う・音を立てて・吹きすさぶもの(吹雪)」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「デエ」と、「チコ」が「シコ」と、「プ」が「ブ」となった)

43  「タイ・ネイ・(ン)ガウ」、TAI-NEI-NGAU(tai=tide,wave,anger,violence;nei,neinei=stretched forward,wagging,vacu\ilating,bobbing up and down;ngau=wander,go about)、「荒れ狂ったように・跳ね上がりながら・転がる(雪塊)」(「タイ」のAI音がE音に変化して「デ」と、「ネイ」が「ネ」カラ「ン」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)

44  「ト・ピララ」、TO-PIRARA(to=the...of,drag;pirara=separated,scattered,divided,wide apart,gaping)、「例の・(山が)崩れ落ちる(現象。山津波)」(「ト」が「ド」と、「ピララ」の反覆語尾が脱落して「ビラ」となつた)

45  「ナ・タエ」、NA-TAE(na=by,belonging to,by reason of;tae=arrive,come,go,proceed to,be overcome)、「(何もかも強く)押し流す・部類のもの(雪崩)」(「タエ」のAE音がE音に変化して「デ」となった)

46  「ナキ・ツラ・ヰウ・キ」、NAKI-TURA-WHIU-KI(naki=glide,move with an even motion;tura,turatura=molest,spiteful;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(橇を)滑らせるのに・難渋する・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

47  「ニヒ・メ・リ・ヰウ・キ」、NIHI-ME-RI-WHIU-KI(nihi=steep,move stealthly;me=if,as if,like;ri=screen,protect,bind;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(水に)浸した・ように・水分を含んだ・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

48  「ニヒ・(ン)ガツ・ヰウ・キ」、NIHI-NGATU-WHIU-KI(nihi=steep,move stealthly;ngatu=crushed,mashed;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(凍った雪を水に)浸して・粉砕したような・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」と、「(ン)ガツ」のNG音がG音に変化して「ガツ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

49  「ネイ・プタイ・ヰウ・キ」、NEI-PUTAI-WHIU-KI(nei,neinei=stretched forward,reaching out,wagging,vacillating,bobbing up and down;putai=sea foam,spray,misty driving rain;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「強く降る・(霧のような)雨から(雪に)変わった・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「ネイ」が「ネ」と、「プタイ」のAI音がE音に変化して「プテ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

50  「ネイ・ピララ」、NEI-PIRARA(nei,neinei=stretched forward,reaching out,wagging,vacillating,bobbing up and down;pirara=separated,scattered,divided,wide apart)、「(雪の塊が地表から)剥がれて・跳ねながら押し寄せる(雪崩)」(「ネイ」が「ネ」と、「ピララ」の反覆語尾が脱落して「ビラ」となった)

51  「ネイ・ヰウ・キ」、NEI-WHIU-KI(nei,neinei=stretched forward,reaching out,wagging,vacillating,bobbing up and down;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(草木が大地に根を張るように雪が)大地にしっかりと定着する・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「ネイ」が「ネ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

52  「ハテア」、HATEA(faded,decolourised)、「(すぐに)消失する(雪)」(語尾のA音が脱落して「ハデ」となった)

53  「ハテア・ヰウ・キ」、HATEA-WHIU-KI(hatea=faded,decolourised;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(すぐに)消失する・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「ハテア」の語尾のA音が脱落して「ハデ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

54  「ハハ・ヰウ・キ」、HAHA-WHIU-KI(haha=savoury,desolate,deserted,leaning,inclined;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「降った雪が(砂漠となる)すぐに消失する・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「ハハ」の反覆語尾が脱落して「ハ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

55  「パタ・パタ・ヰウ・キ」、PATA-PATA-WHIU-KI(pata=drop of water etc.,seed or grain as of maize etc.;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(乾いた)穀物が・(乾いた)音をたてて 降るような・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「パタ」が「バサ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

56  「パカハ・ヰウ・キ」、PAKAHA-WHIU-KI(pakaha=violent,severe,firm,bold;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(三日も四日も降り続く)とんでもなく猛烈な・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「パカハ」のH音が脱落して「バカ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

57  「ハハ・タ(ン)ガイ・ヰウ・キ」、HAHA-TANGAI-WHIU-KI(haha=savoury,desolate,deserted,leaning,inclined;tangai=bark,peel;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「路に積もった雪を(皮を剥ぐように)除雪して・路の側に(傾ける)積み上げて置く・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「ハハ」の反覆語尾が脱落して「ハ」と、「タ(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「タゲ」から「ダゲ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

58  「ヒラ・ツ・(ン)グ(ン)グ」、HIRA-TU-NGUNGU(hira=numerous,abundant,great,multitude;tu=fight with,energetic;ngungu=eat greedy,gnaw)、「途方もなく大量の(雪が)・猛然と・襲ってくる(雪崩が来る)」(「(ン)グ(ン)グ」のNG音がG音に変化し、反覆語尾が脱落して「グ」となった)

59  「フキ」、HUKI(transfix,stick in,avenge death etc.)、「(自然が人に対して行う)死に至る報復(吹雪)」(「フキ」が「フギ」となった)

60  「フ・ツ・カウ・ミミ」、HU-TU-KAU-MIMI(hu=swamp,hollow,natural depression in the ground;tu=stand,settle,fight with,energetic;kau=alone,bare,only;mimi=make water,urine,stream)、「(湿地帯や穴など)雪路や足跡などが・ひたすら・懸命に・(出水するように)吹雪で埋まって行く」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」と、「ミミ」の反覆語尾が脱落して「ミ」となった)

61  「フキ・タタイ・ラハ・チ」、HUKI-TATAI-RATI(huki=transfix,stick in,avenge death etc.,applied to spring tide;tatai=measure,arrange,set in order,adorn;raha=open,extended;ti=throw,cast)、「(春の大潮のように)いつのまにか雪が深く・降り積もり・どんどん・高さを増して行く」(「タタイ」のAI音がE音に変化して「タテ」から「サセ」と、「ラハ」のH音が脱落して「ラ」となった)

62  「フキ・タ・マハ・リ」、HUKI-TA-MAHA-RUI(huki=transfix,stick in,avenge death etc.,applied to spring tide;ta=dash,beat,lay;maha=many,abundant;ri=screen,protect,bind)、「(春の大潮のように)いつのまにか雪が深く・積もって・大きな・障害となる」(「タ」が「ダ」と、「マハ」のH音が脱落して「マ」となった)

63  「フキ・ト・オリ」、HUKI-TO-ORI((huki=transfix,stick in,avenge death etc.,applied to spring tide;to=drag;ori=cause to wave to and fro,sway,move about)、「(吹雪の中を)放浪した・あげくに・(何の報いか)死に至る」(「ト」のO音が「オリ」の語頭のO音と連結して「トリ」から「ドリ」となった)

64-1  「フキ・パツ・カウ」、HUKI-PATU-KAU(huki=transfix,stick in,avenge death etc.,applied to spring tide;patu=strike,beat,ill treat in any way;kau=alone,bare,only)、「(自然が人に対して行う死に至る報復)吹雪が・ひたすら・(家屋を)打ちつける音」(「パツ」が「バッ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)
64-2  「カタ・パツ・カウ」、KATA-PATU-KAU(kata=laugh,cry of a bird etc.,opening of shell-fish;patu=strike,beat,ill treat in any way;kau=alone,bare,only)、「風が・ひたすら・(家屋を)打ちつける音」(「カタ」が「カザ」と、「パツ」が「バッ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

65  「フカ・(ン)ゲヘ」、HUKA-NGEHE(huka=foam,frost,snow,cold;ngehe=soft,yielding,lazy,calm)、「軟らかい(人の重みを支えられない)・雪(雪庇)」(「(ン)ゲヘ」のNG音がG音に変化し、H音が脱落して「ゲ」となった)

66  「フキ・タ(ン)ガ」、HUKI-TANGA(huki=transfix,stick in,avenge death etc.,applied to spring tide;tanga,tatanga=alert,prompt,,ready,complaint)、「(自然が人に対して行う)死に至る報復が・(用意されている)今にも起こるかも知れない場所(雪庇)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」となった)

67  「ポタポタ・ヰウ・キ」、POTAPOTA-WHIU-KI(potapota=broken to pieces;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「パラパラの(粒または塊になって)・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「ポタポタ」の反覆語尾が脱落して「ボタ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

68  「ポタポタ・ヰウ・キ」、POTAPOTA-WHIU-KI(potapota=broken to pieces;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「パラパラの(粒または塊になって)・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「ポタポタ」が「ボタボタ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

69  「ポタ」、POTA(broken,small,fragment)、「パラパラの(粒または塊)になっている(雪)」(「ポタ」が「ボタ」となった)

70  「ポ・コフ」、PO-KOHU(po,popo=crowd round,throng;kohu,kohukohu=seawood,curse)、「呪文をかけられたように・(下駄の歯やスキーの底に)まとわりついた(離れない雪)」(「ポ」が「ボッ」と、「コフ」のH音が脱落して「コ」となった)

71   「ママエ・(ン)ガウ・コフ・フキ」、MAMAE-NGAU-KOHU-HUKI(mamae=pain,feel pain or distress of body or mind;ngau=bite,hurt,attack,wander,raise a cry;kohu,kohukohu=seawood,curse;huki=transfix,stick in,avenge death etc.,applied to spring tide)、「呪文をかけられたように・襲われて・心身を痛めつけられる・(自然が人に対して行う死に至る報復)吹雪」(「ママエ」のAE音がE音に変化して「マメ」と、「コフ」のH音が脱落して「コ」と、「フキ」が「ブキ」となつた)

72  「マプ」、MAPU(flow freely)、「(自由に流れる)何時何処が崩れ落ちるか予想がつかないもの(雪庇)」(「マプ」が「マブ」となった)

73  「マプ・タ」、MAPU-TA(mapu=flow freely;ta=dash,beat,lay)、「(自由に流れる)何時何処が崩れ落ちるか予想がつかないもの(雪庇)が・在る」(「マプ」が「マブ」と、「タ」が「サ」となった)

74  「ミ(ン)ゴミ(ン)ゴ・ムイ・チ」、MINGOMINGO-MUI-TI(mingomingo=crisped,frizzled;mui=swarm round,infest,molest;ti=throw,cast)、「シャキシャキしたもので・(帽子などに)まとわりついたものが・払い落とされたもの(雪の細粒など)」(「ミ(ン)ゴミ(ン)ゴ」のNG音がN音に変化し、反覆語尾が脱落して「ミノ」と、て「ムイ」が「ム」と、「チ」が「シ」となった)

75  「ミミ・ツ・ウアカハ・タイ」、MIMI-TU-UAKAHA-TAI(mimi=urine,stream;tu=stand,settle;uakaha=vigorous,strenuous,diffcult;tai=tide,wave,anger,violence)、「水(分)を・(大量に)含んでいる・荒々しく強い・雪の流れ(雪崩)」(「ミミ」の反覆語尾が脱落して「ミ」と、「ツ」が「ズ」と、「ウアカハ」のH音が脱落して「ワカ」と、「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

76  「モロヒロヒ・ヰウ・キ」、MOROHIROHI-WHIU-KI(morohirohi=marohi,marohirohi=strong,brave,hard,propose;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(強い)深い・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「モロヒロヒ」の反覆語尾およびH音が脱落して「モロ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

77  「モロヒロヒ・ヰウ・キ・カウ・(ン)グ」、MOROHIROHI-WHIU-KI-KAU-NGU(morohirohi=marohi,marohirohi=strong,brave,hard,propose;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very;kau=swim,wadeswim or wade across;ngu=silent,greedy,moan)、「(強い)深い・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)を・うめき声をあげながら・泳ぐように歩いて行く」(「モロヒロヒ」の反覆語尾およびH音が脱落して「モロ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」と、「(ン)グ」のNG音がG音に変化して「グ」となった)

78  「イア・プ」、IA-PU(ia=indeed;pu=tribe,bunch,heap,stack)、「実に・(雪の積み重なり)深い(雪)」(「イア」が「ヤ」と、「プ」が「ブ」となった)

79  「イア・クチ・ノ・フフキ」、IA-KUTI-NO-HUHUKI(ia=indeed;kuti=draw tightly together,contract,pinch;no=of;huhuki=huki=transfix,stick in,avenge death etc.,applied to spring tide)、「実に・(山体が圧縮されたような)険しい(山)・の(に吹く)・(自然が人に対して行う死に至る報復)吹雪」(「イア」が「ヤ」と、「クチ」が「クシ」と、「フフキ」が「フブキ」となった)

80   「イ・アネアネ・ヰウ・キ」、I-ANEANE-WHIU-KI(i=past tense,beside;aneane=sharp;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「(鋭く)尖って・いるもの(屋根。そこにあった)・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「アネアネ」の反復語尾が脱落して「アネ」となり、「イ」のI音と「アネ」の語頭のA音が連結して「ヤネ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

81-1  「ヰウ・キ・モツ・コフ」、WHIU-KI-MOTU-KOHU(whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very;motu=cold;kohu,kohukohu=seawood,curse)、「(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪の)・呪文を唱えて・(人を)冷たくする(殺す化け物)」(「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」と、「モツ」が「モッ」と、「コフ」のH音が脱落して「コ」となった)

81-2  「ヰウ・キ・モノ・コフ」、WHIU-KI-MONO-KOHU(whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very;mono=plug,caulk,disable by means of incantations;kohu,kohukohu=seawood,curse)、「(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪の)・呪文を唱えて・(人を)窒息させる(殺す化け物)」(「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」と、「モノ」が「モン」と、「コフ」のH音が脱落して「コ」となった)

82  「ヰウ・キ・パ(ン)ガ・パパ」、WHIU-KI-PANGA-PAPA(whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very;panga=pa=block up,prevent,assault;papa=father,brother of father or mother,elders)、「(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪の)・(人を)襲う・(年長の)婆さん(化け物)」(「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」と、「パ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「パナ」から「バン」と、「パパ」の反覆語尾が脱落して「バ」となった)

83  「ヰウ・キ・カウカウ・ハウ・リ」、WHIU-KI-KAUKAU-HAU-RI(whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very;kaukau=kau=alone,only(whakakau=come gradually into view or appear,rise of heavenly bodies);(Hawaii)hau=cool,ice,frost;ri=screen,protect,bind)、「(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪が)・次第に姿を見せる・板(衝立)のような・氷になる(凍る)」(「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」と、「カウカウ」のAU音がO音に変化して「ココ」から「コゴ」と、「ハウ」のH音が脱落し、AU音がO音に変化して「オ」となり、「コゴ」の語尾のO音と「オ」のO音が連結して「コゴ」となった)

84  

81  「ワワタ・ヰウ・キ」、WAWATA-WHIU-KI(wawata=finely divided,having many intersticks,loosely woven or plated;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「ふわふわの(花を付ける植物の)棉のような・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「ワワタ」の反復語頭が脱落して「ワタ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

85  「ワ・カハ・ヰウ・キ」、WHA-KAHA-WHIU-KI(wha=leaf,flake,feather;kaha=strong,strength,persistency;whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very)、「雪(片)が・強い(溶けにくい)・(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

86  「ウア(ン)ガ・ツ・タハ」、UANGA-TU-TAHA(uanga=act or circumstance etc. of becoming firm,place etc. of arrival;tu=fight with,energetic;taha=side,edge,pass on one side,go by)、「(雪が)荒れ狂って・通り過ぎる(吹雪が)・激しくなる(状態)」(「ウア(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「ワガ」と、「ツ」が「ッ」と、「タハ」のH音が脱落して「タ」となった)

87  「ワナ(ン)ガ・パハ」、WANANGA-PAHA(wananga=threatening,act in a threatening or blustering manner;paha=arrive suddenly,attack)、「突然襲ってくる・激しい打撃(雪崩)」(「ワナ(ン)ガ」の名詞形語尾のNGA音が脱落して「ワナ」から「ワン」と、「パハ」のH音が脱落して「バ」となった)

88  「ワチ」、WHATI(be broken off short,be bent at an angle,be interrupted,flow,ebb)、「(雪が)流れて破壊する(雪崩)」(「ワチ」が「ワシ」となった)

89  「ウアカハ・タイ」、UAKAHA-TAI(uakaha=vigorous,strenuous,diffcult;tai=tide,wave,anger,violence)、「荒々しく強い・雪の流れ(雪崩)」(「ウアカハ」のH音が脱落して「ワカ」と、「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

の転訛と解します。

786ユキゴリ

 [仙北]マタギが山の禁制を破ったときの制裁。358サンダラゴリに比して軽い制裁で、裸体で雪の中を転がされるもの。

 この「ユキゴリ」は、

  「ヰウ・キ・(ン)ガウ・リリ」、WHIU-KI-NGAU-RIRI(whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very;ngau=bite,hurt,act upon,attack;riri=be angry,quarrel,combat)、「(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪の中を)・非難しながら・(制裁を加える)雪の上を裸体で転がす(制裁の方法)」(「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」と、「リリ」の反覆語尾が脱落して「リ」となった)

の転訛と解します。

787ユキハカマ

 [仙北]マタギ袴または雪袴ともいう。裏地には全部バンドリ(ムササビ)の腹皮を縫い付けるもの。

 この「ユキハカマ」は、

  「ヰウ・キ・ハカ・アマ」、WHIU-KI-HAKA-AMA(whiu=throw,place,be gathered together;ki=full,very;haka=deformed;ama=the carved posts supporting the facing boards on the gable of a house)、「(大地に)たくさん・(天から投げ出されて)降り積むもの(雪の中で着用する)・(家の破風板を支える)曲がった(柱のように膨らんだ)・形の悪いもの(袴)」(「ヰウ」のWH音が脱落して「イウ」から「ユ」と、「ハカ」の語尾のA音と「アマ」の語頭のA音が連結して「ハカマ」となった)

の転訛と解します。

788ユメアワセ

 [阿仁]山小屋で朝食後、皆で前夜に見た夢を語り合うこと。死んだ馬、死人を見た夢は良い夢、もし死人に手をかけた夢をむみるとその日は必ず豊猟とされます。

 この「ユメアワセ」は、

  「イ・ウメ・ア・ワタイ」、I-UME-A-WHATAI(i=past tense,from,beside,with,by,at;(Hawaii)ume=to draw,attract,entice;a=drive,urge,compel;whatai=stretch out the neck,gaze intently)、「(既に経験した)前夜に見た・(魅力的なもの)夢を・(強制して)話させて・(凝視する)じっくりと検討する(夢合わせ)」(「イ・ウメ」が「ユメ」と、「ワタイ」のAI音がE音に変化して「ワテ」から「ワセ」となった)

の転訛と解します。

789ユメモライ

 [仙北]夢を貰うこと。前夜妻があけびの夢を見たとしたら、夫が見たことにして貰い受ける。するとその日必ず豊猟となるといいます。

 この「ユメモライ」は、

  「イ・ウメ・マウ・ラヒ」、I-UME-MAU-RAHI(i=past tense,from,beside,with,by,at;(Hawaii)ume=to draw,attract,entice;mau=carry,bring,take up,lay hold of;rahi=great,abundant,numerous)、「(既に経験した)前夜に見た・(魅力的なもの)夢を・たくさん・自分のものにする(夢貰い)」(「イ・ウメ」が「ユメ」と、「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」と、「ラヒ」のH音が脱落して「ライ」となった)

の転訛と解します。

「ヨ」

790ヨコクラ

 [阿仁]広い岩壁をいう。

 この「ヨコクラ」は、

  「イホ・カウ・クラエ」、IHO-KAU-KURAE(iho=up,above,to intensify kau;kau=swim,wade across;kurae=project,be promient)、「横切つて・進んでいる・突出したもの(広い岩壁)」(「イホ」のH音が脱落して「イオ」から「ヨ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」と、「クラエ」の語尾のE音が脱落して「クラ」となった)

の転訛と解します。

791ヨコマキ

 [阿仁・仙北]射手が山の中腹の方に待っていて、山腹を横にクマを走らせる追い方。

 この「ヨコマキ」は、

  「イホ・カウ・マ・アキ」、IHO-KAU-MA-AKI(iho=up,above,to intensify kau;kau=swim,wade across;ma=go,come;aki=abut on)、「横切つて・進んでいる・(勢子が)相接して・進む(猪、鹿などを追い出す狩り)」(「イホ」のH音が脱落して「イオ」から「ヨ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」と、「マ」のA音と「アキ」の語頭のA音が連結して「マキ」となった)

の転訛と解します。

792ヨゴ・ヨコ・カマヨコ・ノコヨコ

 [阿仁]鉈または鉋をいう。青森・南津軽マタギは、鎌を「カマヨコ」、鋸を「ノコヨコ」という。

 この「ヨゴ」、「ヨコ」は、

  「イホ・(ン)ガウ」、IHO-NGAU(iho=up,above,downwards,to intensify ngau;ngau=bite,hurt,act upon,attack)、「(木などを)叩き・切るもの(鉈)」または「(木などを)削り・落とすもの(鉋)」(「イホ」のH音が脱落して「イオ」から「ヨ」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)

  「イホ・ココ」、IHO-KOKO(iho=up,above,downwards,to intensify koko;koko=dig or plant with a ko,dig up,thrust)、「(木などを押したり突いたりする)叩き・切る(鉈)」または「(木などを押したり突いたりする)削り・落とすもの(鉋)」(「イホ」のH音が脱落して「イオ」から「ヨ」と、「ココ」の反覆語尾が脱落して「コ」となった)

  「カハ・アマ・イホ・ココ」、KAHA-AMA-IHO-KOKO(kaha=strong,strength;ama=the curved posts supporting the maihi or a whare;iho=up,above,downwards,to intensify ngau;koko=dig or plant with a ko,dig up,thrust)、「強く・曲がっているもの(鎌)で・(稲株などを)引いて・切るもの(鎌)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となり、その語尾のA音と「アマ」の語頭のA音が連結して「カマ」と、「イホ」のH音が脱落して「イオ」から「ヨ」と、「ココ」の反覆語尾が脱落して「コ」となった)

  「(ン)ガウ・カウ・イホ・ココ」、NGAU-KAU-IHO-KOKO(ngau=bite,hurt,act upon,attack;kau=alone,bare,only;iho=up,above,downwards,to intensify ngau;koko=dig or plant with a ko,dig up,thrust)、「ひたすら(前方へ)・切り進むもの(鋸)で・(木などを押したり突いたりする)切り・落とすもの(鋸)」(「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」と、「イホ」のH音が脱落して「イオ」から「ヨ」と、「ココ」の反覆語尾が脱落して「コ」となった)

の転訛と解します。

793ヨダマタギ

 [阿仁]平野で山鳥やムジナを獲る程度の626ヒラマタギ(素人狩人)をいう。マタギについては697マタオニの項を参照してください。

 この「ヨダ(マタギ)」は、

  「イ・オタ」、I-OTA(i=past tense,from,beside,with,by,at;ota=unripe,uncooked,refuse)、「熟練して・いない(マタギ)」(「イ・オタ」が「ヨタ」から「ヨダ」となった)

の転訛と解します。

794ヨド

 [仙北]山の凹地。

 この「ヨド」は、

  「イホ・タウ」、IHO-TAU(iho=up,above,downwards,to intensify tau;tau=come to rest,fall of blows,be suitable)、「(地面が)下降・している場所(凹地)」(「イホ」のH音が脱落して「イオ」から「ヨ」と、「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ド」となった)

の転訛と解します。

795ヨドミ

 [阿仁・仙北]カモシカの臓腑または小腸。また、クマが冬眠を終えて穴から出ての最初の糞。013アオノヨドミの項を参照してください。

 この「ヨドミ」は、

  「イオ・ト・ミミ」、IO-TO-MIMI(io=muscle,strand of a rope,strip;to=drag,be pregnant;mimi=urine,stream)、「(口から食べたものを糞として尻へ)押し・流す・長い管(くだ。内臓。またその内容物)」(「イオ」が「ヨ」と、「ト」が「ド」と、「ミミ」の反覆語尾が脱落して「ミ」となった)

の転訛と解します。

796ヨドミノアジガスル

 [仙北]カモシカのヨドミを格別にうまいものとしているため、ほかの食べ物でも、うんとうまいものを食べたとき「ヨドミの味がする」と表現します。

「リ」

797リョウバ

 [阿仁・仙北]猟場。

 この「リョウバ」は、

  「リリ・オフ・パ」、RIRI-OHU-PA(riri=be angry,quarrel,combat,fight;ohu=be set in great numbers,surround;pa=block up,prevent,assault,anything used to close or block an open space)、「(クマ、カモシカなどの野獣を)包囲して・殺す・限られた地域(猟場)」(「リリ」の反覆語尾が脱落して「リ」と、「オフ」のH音が脱落して「オウ」となり、「リ・オウ」が「リョウ」と、「パ」が「バ」となった)

の転訛と解します。

「レ」

798レツチユウ

 [阿仁]連中のこと。マタギの狩りの伝統的団体。277コダマノレツチユは七人組で、山の神のお産を助けなかったことから不運に見舞われたという伝説にちなみ、七人組は作らぬといいます。

 この「レツチユウ」は、

  「レレ・ツ・チウ」、RERE-TU-TIU(rere=flow,rush,leap,come in srowds or numbers;tu=stand,settle,fight with,energetic;tiu=soar,wander,swing,sway)、「(ヤマネの)大群に遭遇して・懸命に対応した・山中を放浪する集団」(「レレ」の反覆語尾が脱落して「レ」と、「チウ」が「チユウ」となった)

の転訛と解します。

799レンゲ

 [鳥海]肝臓。

 この「レンゲ」は、

  「レ(ン)ガ・(ン)ゲヘ」、RENGA-NGEHE(renga=fine particle,scattered about,discoloured,yellow;ngehe=soft,yielding,calm)、「柔らかで・黄色の(内臓。肝臓)」(「レ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「レナ」から「レン」と、「(ン)ゲヘ」のNG音がG音に変化し、H音が脱落して「ゲ」となった)

の転訛と解します。

「ワ」

800ワカ

 [仙北]雨。

 この「ワカ」は、

  「ウア・カハ」、UA-KAHA(ua=rain;kaha=strong,strength,persistency)、「まとまった・雨(雨)」(「ウア」が「ワ」と、「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)

の転訛と解します。

(注)これをアイヌ語源とし、「ワッカ」、WAKKA((Aynu)water)、「(飲料水)水」(「ワッカ」が「ワカ」となった?)と考えるのは無理があると考えます。アイヌ語には「ワカ」(かえって。なおさら)の語があり、「水」の意味の「ワッカ」を「ワカ」と変えて「雨」の意味で使うのは不自然に過ぎます。また、日本語で「ワカ」を「ワッカ」と変えることはあっても、「ワッカ」を「ワカ」と変えることは極めて稀、かつ不自然であろうと思われます。

801ワカゴ

 [阿仁]当歳クマ。

 この「ワカゴ」は、

  「ウアカハ・カウ」、UAKAHA-KAU(uakaha=vigorous,strenuous,difficult;kau=swim,wade,swim or wade across)、「元気に・あちこち動き回るもの(当歳クマ)」(「ウアカハ」のH音が脱落して「ワカ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」カラ「ゴ」となった)

の転訛と解します。

802ワカゴヅキ

 [仙北]母クマが当歳の子グマを連れていること。

 この「ワカゴヅキ」は、

  「ウアカハ・カウ・ツツキ」、UAKAHA-KAU-TUTUKI(uakaha=vigorous,strenuous,difficult;kau=swim,wade,swim or wade across;;tutuki=reach the farthest limit,be finished;turu=last a short time)、「元気に・あちこち動き回るもの(当歳クマ)を・(それ以上離れてはいけない)近さの限度に置く(母グマ)」(「ウアカハ」のH音が脱落して「ワカ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」カラ「ゴ」と、「ツツキ」の反覆語頭が脱落して「ツキ」から「ヅキ」となった)

の転訛と解します。

803ワカブタ

 [阿仁]笠。813ワラブタの項を参照してください。(この語をアイヌ語源(ワッカ・フタ、WAKKA(水)-FUTA(蓋))とする説(板橋「辞典」)がありますが、「ワカ」については800ワカのとおりマオリ語源と解すべきものと考えますし、「ブタ」についてはアイヌ語の「フタ、FUTA(蓋)」は日本語源である(中川裕『アイヌ語千歳方言辞典』草風館、1995年)とされています。)

 この「ワカブタ」は、

  「ウア・アカ・プタ」、UA-AKA-PUTA(ua=rain;aka=clean off,scrape away;puta=opening,move from one place to another,pass through)、「雨が・(笠の上を)拭って・流れ落ちるもの(笠)」(「ウア」が「ワ」となり、そのA音が「アカ」の語頭のA音と連結して「ワカ」と、「プタ」が「ブタ」となった)

の転訛と解します。

804ワカムグリ

 [阿仁・仙北]魚。

 この「ワカムグリ」は、

  「ウアカハ・ムク・フリ」、UAKAHA-MUKU-HURI(uakaha=vigorous,strenuous,difficult;muku=wipe,rub,smear:huri=turn round,grind,revolve)、「元気に・(拭うように)動き・回るもの(魚)」(「ウアカハ」のH音が脱落して「ワカ」と、「ムク」が「ムグ」と、「フリ」のH音が脱落して「ウリ」となり、「ムグ」の語尾のU音と「ウリ」の語頭のU音が連結して「ムグリ」となった)

の転訛と解します。

805ワシ・ワンパ

 [阿仁・仙北・鳥海・雄勝・岩手]上層新雪の雪崩。音もなく急にやってくる。

 この「ワシ」、「ワンバ」は、

  「ワチ」、WHATI(be broken off short,break of the sea,turn and go away,come quickly,flow)、「急にやつてくるもの(新雪雪崩)」(「ワチ」が「ワシ」となった)

  「ワナ・パ」、WHANA-PA(whana=recoil,rush,be thrown out suddenly,impel;pa=block up,prevent,assault,blockade)、「突然に・襲ってくるもの(新雪雪崩)」(「ワナ」が「ワン」と、「パ」が「バ」となった)

の転訛と解します。

806ワシハシゴリ

 [阿仁]雪崩があること。

 この「ワシハシゴリ」は、

  「ワチ・パチ・(ン)ガウ・オリ」、WHATI-PATI-NGAU-ORI(whati=be broken off short,break of the sea,turn and go away,come quickly,flow;pati=ooze,spurt,aplash(patinga=flowing of the tide);ngau=bite,hurt,act upon,attack;ori=come to wave to and fro,sway,move about)、「急にやつてくる・あちこちと動きながら・打撃を加える・(水の)流れのようなもの(新雪雪崩)」(「ワチ」が「ワシ」と、「パチ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハチ」から「ハシ」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となり、そのO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「ゴリ」となった)

の転訛と解します。

807ワタリグマ

 [阿仁・仙北・岩手]山から山へ旅を続け、痩せている年寄りクマ。

 この「ワタリ(グマ)」は、

  「ワ・タリ」、WHA-TARI(wha=be disclosed,get abroad;tari=carry,bring)、「広域にわたって・流浪する(クマ)」

の転訛と解します。

808ワッカ

 [阿仁・仙北]水。または酒水類を飲むこと。(「事典」は「ワツカ」としますが、「ワッカ」の誤植と解します。)マタギ語には、153カスケワッカ(濁酒)550ニゴリワツカ(濁酒)の語がある一方、198キヨワカ(清酒)750メグリワカ(濁酒)の語が存し、803ワカブタ(笠)804ワカムグリ(魚)の語も存します。「ワカ」が強調語として「ワッカ」になることはあっても、「ワッカ」が「ワカ」になることは考え難いことから、この「ワッカ」はマオリ語源であると考えます。(800ワカの項の(注)を参照してください。)

 この「ワッカ」は、

  (マオリ語源)「ウア・カハ」、UA-KAHA(ua=rain;kaha=strong,strength,persistency)、「まとまった・雨(雨)」(「ウア」が「ワ」から「ワッ」と、「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)
  または「ウア・ツ・ウカ」、UA-TU-UKA(ua=rain;tu=stand,settle;uka=firm,be fixed)、「雨が・溜ま・ったもの(水)」(「ウア」が「ワ」と、「ツ」のU音と「ウカ」の語頭のU音が連結して「ッカ」となった)

  (アイヌ語源)「ワッカ」、WAKKA((Aynu)water)、「(飲用水)水」(「ワッカ」が「ワツカ」となった?)

の転訛と解します。

809ワッパ

 [阿仁・仙北・雄勝・平賀]飯器。飯入れ。弁当入れのこと。

 この「ワッパ」は、

  「ワツ・ウパ」、WHATU-UPA(whatu=weave garments or baskets etc.;upa=fixed,settled,at rest,satisfied)、「(木条、竹条などで)編んだ(組み上げた)・満足すべきもの(飯器)」(「ワツ」の語尾のU音と「ウパ」の語頭のU音が連結して「ワツパ」となった)

の転訛と解します。

810ワップ

 [阿仁]自分の分け前のこと。獲物のあった晩に、貰った獲物の肉と飯を一杯必ず食うこと。

 この「ワップ」は、

  「ワハ・ツプ」、WAHA-TUPU(mouth,voice,carry on the back,raise up(wahanga=load,burden);tupu=grow,begin,be firmly fixed,social position,own)、「(仲間の中で確定した)自分の(取得すべき分の)・(荷物)獲物」または「(自分の)口に(入れるべき分として)・確定した(獲物)」(「ワハ」のH音が脱落して「ワ」と、「ツプ」が「ップ」となった)

の転訛と解します。

811ワパカシ

 [阿仁・仙北]煮ること。

 この「ワパカシ」は、

  「ワ・パカ・チ」、WA-PAKA-TI(wa=so-and-so;paka=dried,baked,cook;ti=throw,cast,overcome)、「何かを・調理して・提供する(煮る)」(「チ」が「シ」となった)

の転訛と解します。

812ワラダ

 [阿仁・仙北・鳥海・雄勝・岩手]藁製の山兎の狩猟具。723マルウチの項を参照してください。

 この「ワラダ」は、

  「ワラ・タ」、WHARA-TA(whara=a plant,possibly applied to any plant with ensiform leaves;ta=dash,beat,lay)、「(葉が剣先状の植物)藁(製の狩猟具)を・放り投げるもの」(「タ」が「ダ」となった)

の転訛と解します。

813ワラブタ・ワカブク

 [仙北]笠。803ワカブタの項を参照して下さい。

 この「ワラブタ」、「ワカブク」は、

  「ワラ・プタ」、WHARA-PUTA(whara=a plant,possibly applied to any plant with ensiform leaves;puta=opening,move from one place to another,pass through)、「(葉が剣先状の植物)藁(製の笠の上)を・流れ落ちるもの」(「プタ」が「ブタ」となった)

  「ウア・アカ・プク」、UA-AKA-PUKU(ua=rain;aka=clean off,scrape away;puku=swelling,abdomen)、「雨が・(その上を)拭って(流れ落ちる)・膨らんだ形のもの(笠)」(「ウア」が「ワ」となり、そのA音が「アカ」の語頭のA音と連結して「ワカ」と、「プク」が「ブク」となった)

の転訛と解します。

814ワリカンジキ

 [阿仁・仙北]春のカタ雪でも滑らぬよう、木を割って作るもの。カンジキについては、184カンジキの項を参照してください。

 この「ワリ(カンジキ)」は、

  「ワハ・リ」、WAHA-RI(waha=carry on the bacK,raise;ri=screen,protect,bind)、「(体重を支えるカンジキの)底面に・((断面が三角の)割木を)結びつけたもの(ワリカンジキ)」(「ワハ」のH音が脱落して「ワ」となった)

の転訛と解します。

815ワラヘタラ

 [鳥海]藁でかかとに巻き付けるもの。

 この「ワラヘタラ」は、

  「ワラ・ヘイ・タラ」、WHARA-HEI-TARA(whara=a plant,possibly applied to any plant with ensiform leaves;hei=tie round the neck,be bound or entangled,an ornament for the neck;tara=side wall of a house)、「(葉が剣先状の植物)藁を・(足首)かかとの両側に・巻き付けるもの」(「ヘイ」が「ヘ」となった)

の転訛と解します。

「ン」

816ンバツギ

 [仙北]姥継の意。山にある大きな葉の草で、着物にあてて手で押さえると不思議によく接着します。

 この「ンバツギ」は、

  「ナ・パハ・ツ・(ン)ギア」、NA-PAHA-TU-NGIA(na=satisfied,content,by,belonging to;paha=arrive suddenly,attack;tu=stand,settle;ngia=seem,appear to be)、「たいへん良く・すぐに・くっつく・ように見えるもの(植物。姥継)」(「ナ」が「ン」と、「パハ」のH音が脱落して「バ」と、゜「(ン)ギア」のNG音がG音に変化し、語尾のA音が脱落して「ギ」となった)

の転訛と解します。

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<修正経緯>

1 平成24年3月1日

 808ワッカのアイヌ語源の評価の一部およびワッカの解釈の一部を修正しました。

2 平成25年7月15日

 498テキナコの項のテコナコの解釈の一部を修正しました。

国語篇(その十九)終り


U R L:  http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/
タイトル:  夢間草廬(むけんのこや)
       ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源
作  者:  井上政行(夢間)
Eメール:  muken@iris.dti.ne.jp
ご 注 意:  本ホームページの内容を論文等に引用される場合は、出典を明記してください。
(記載例  出典:ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/timei05.htm,date of access:05/08/01 など)
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