雑楽篇(その二)

(平成13-4-15書込み。28-12-15最終修正)(テキスト約195頁)


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<一般語彙>

 

[雑楽篇は収録語彙数が多くなりましたので二つに分割し、
<民俗語彙・方言語彙・歴史語彙>を雑楽篇(その一)に、
<一般語彙>を雑楽篇(その二)に再編成しました。]

   

目 次

 

  4 一般語彙

(1) 身体名

401いら(黒子)402みづら(美豆良)・あげまき(総角。揚巻)403まげ(髷)・わげ(髷)・もとどり(髻)・たぶさ(髻)・びん(鬢)・たぼ(髱)・ちょんまげ(丁髷) かつら(鬘)・かもじ(髢。髪文字)

  (2) 植物名

501さくら(桜)・かにわ(桜皮)502ひのき(桧)503すぎ(杉)504まつ(松)505くすのき(樟)506けやき(欅)・つき(槻)507かし(樫)508くり(栗)・いが(毬)509なら(楢)・どんぐり(団栗)・ははそ(柞、枹)・しだみ(ならの実)510しい(椎)511くぬぎ(櫟、椚)・つるばみ512かしは(柏)513つばき(椿)514くわ(桑)515なめらまつ(滑松)516かや(榧)517かや(茅、萱)518すすき(薄)519あし(葦、蘆、芦、葭)・よし(葦、蘆、芦、葭)520ゆり(百合)521菱(ひし)522ヘゴ(羊歯)523たけ(竹)・ささ(笹。篠)・しの(篠)・たかむな(筍)524やなぎ(柳)・ねこやなぎ(猫柳)・こりやなぎ(杞柳)・やなぎだる(柳樽)525かつら(桂)526もみ(樅)527つが(栂)・とが(栂)528まき(槇)529いちい(櫟。一位)・おんこ(櫟)・きゃらぼく(伽羅木)530いちょう(銀杏)・ぎんなん(銀杏)531くるみ(胡桃)532うるし(漆)・はぜ(黄櫨)533しゅろ(棕櫚)534ひょうたん(瓢箪)・ゆうがお(夕顔)535へちま(糸瓜)・なーべーらー(糸瓜)・たわし(束子)536くず(葛)・かずら(葛)・つた(蔦)・あまずら(甘葛)537あさ(麻)・おのみ(麻実)・おがら(麻幹)・にお(熟麻)・けむし()537-2ちょま(苧麻)・からむし(苧麻)・まお(真苧)・お(苧)・あおそ(青苧)・たに(商布)・さよみ(貲布)538こうぞ(楮)・がんぴ(雁皮)・とりのこ(鳥子紙)・ゆう(木綿)・ぬさ(幣)539わた(棉)540あゐ(藍)541いたどり(虎杖)・たぢ(多遅)・すかんぽ(酸模)・しゃじなっぽー542いね(稲)・おかぼ(陸稲)・かがいね(陸稲)・わせ(早稲)・なかて(中生)・おくて(晩稲)・こめ(米)・うるち(粳)・もち(糯・餅)・しとぎ(粢)・めし(飯)・いひ(飯)・こわ(こわいひ。強飯)・かゆ(粥)・もみ(籾)・もみがら(籾殻)・ぬか(糠)543むぎ(麦)・こな(粉)・すいとん・ほうとう・むぎなは(麦縄。麦索)・うどん(饂飩)・ひやむぎ(冷や麦)・そうめん(素麺)・ふすま(麸)544あわ(粟)545ひえ(稗)546きび(黍)・きみ(黍。古名)・きびだんご(黍団子)547そば(蕎麦)・そばがき(蕎麦掻き)548よもぎ(蓬)・もぐさ(艾)549しそ(紫蘇)550せり(芹)551うど(独活)552たらのき(針桐)・とげ553わさび(山葵)・わさびおろし(山葵卸)554さんしょう(山椒)・はじかみ(椒。古名)555しょうが(生姜。生薑)・はじかみ(薑。古名)・ひねしょうが(古生姜)556みょうが(茗荷)557わらび(蕨)・はな(蕨粉)・ほだ(蕨。方言)・ぜんまい(薇)558たで(蓼)559あかざ(藜)560おおばこ(大葉子。車前草)561ひゆ562だいこん(大根)・おおね(淤富泥。古名)・すずしろ(蘿蔔。古名)・かがみぐさ(鏡草。古名)・たくあんづけ(沢庵漬)・べったらづけ・ふろふき(風呂吹き)・しもつかれ563かぶ(蕪)・かぶら(蕪)・すずな(菘)564さといも(里芋)・やつがしら(八頭)・ずいき(芋茎)565くわい(慈姑)566うり(瓜)・きゅうり(胡瓜)・すいか(西瓜)567なす(茄子)・なすび(茄子)568ねぎ(葱)・き(葱。古名)・ねぶか(根深。古名)・にら(韮)・みら(韮。古名)・にんにく(大蒜)・らっきょう(辣韮)・わけぎ(分葱)・あさつき(浅葱)・のびる(野蒜)・ぎょうじゃにんにく(行者大蒜)569ごぼう(牛蒡)・きたきす(牛蒡。古名)・うまふぶき(牛蒡。古名)・きんぴらごぼう(金平牛蒡)570ふき(蕗)・ふきのとう(蕗薹)571まめ(豆)・いんげん(隠元豆)・ささげ(大角豆)・あずき(小豆)・そらまめ(空豆)・えんどう(豌豆)572こんにゃく(蒟蒻)573うめ(梅)574もも(桃)575かき(柿)・ころがき(枯露柿)・かきしぶ(柿渋)576なし(梨)577みかん(蜜柑)・うんしゅうみかん(温州蜜柑)・たちばな(橘)・からたち(枸橘。枳穀)・くねんぼ(九年母)・きんかん(金柑)・ぽんかん(椪柑)・ぶんたん(文旦)・はっさく(八朔)578ゆず(柚子)・だいだい(橙)・すだち(酸橘)・かぼす(臭橙)・しーくわしゃー(沖縄橘)579あんず(杏)580びわ(枇杷)581いちじく(無花果)・ほろろいし(無花果。古名)582なつめ(棗)583あけび(木通。通草)584はぎ(萩)585れんぎょう(連翹)586やまぶき(山吹)587ふじ(藤)588あじさい(紫陽花)589つつじ(躑躅)・さつき(皐月)590くちなし(梔子)591あせび(馬酔木)・あしび(馬酔木。古名)592しゃくなげ(石楠花)593きく(菊)594あざみ(薊)595たんぽぽ(蒲公英)・ふじな(蒲公英。古名)・たな(蒲公英。古名)596あさがお(朝顔)・ひるがお(昼顔)597ききょう(桔梗)598りんどう(竜胆)599とりかぶと(鳥兜)599-2すみれ(菫)599-3あおい(葵)・あふひ(葵。古名)599-4なでしこ(撫子)・せきちく(石竹)599-5けいとう(鶏頭)・けいとうげ(鶏頭花。異名)599-6あやめ(菖蒲)・かきつばた(杜若)・しょうぶ(菖蒲)599-7しゃが(射干。胡蝶花)・いちはつ(一八。鳶尾)599-8すいせん(水仙)599-9けし(芥子。罌粟)・つがる(津軽。異名)599-10はす(蓮)・はちす(蓮。古名)・つゆきぐさ(露木草。古名)・つまなしぐさ(妻無草。古名)599-11ひつじぐさ(羊草)・こうほね(河骨)599-12をもと(万年青)599-13こけ(苔)599-14おみなえし(女郎花)・をみなへし・をみなべし・をみなめし599-15いちご(苺)・いちびこ(苺)599-16しいな(粃・秕)・しいなせ・しいなし・しいら・しいた599-17ぼけ(木瓜)599-18どくだみ599-19またたび(木天蓼)

  (3) 動物名

a 動物名

601いのしし602ゐ(ゐのしし)603くさいなぎ604かえる605かわず606ひきがえる607がま608びっき609もみ610どんこ611へび(蛇)612へみ(蛇)613くちなわ(朽縄、蛇)614まむし(蝮)615くちばみ(蝮)・たちひ(蝮)・はみ(蝮)616ひらくち(蝮)617あおだいしょう(青大将)618やまかがし(山棟蛇)619かがち(蛇)・やまかがち(蟒蛇)620おろち(大蛇)621うわばみ(大蛇)622はぶ623うま(馬)・青(あお)馬・葦毛(あしげ)馬・当て馬624うし(牛)625しか(鹿)・かもしか(羚羊。氈鹿)・となかい(馴鹿)626くま(熊)・ひぐま(羆)627さる(猿)・ましら(猿)・えて(猿)628いぬ(犬)・野良(のら)犬・おおかみ(狼)629ねこ(猫)・どら猫630ねずみ(鼠)631たぬき(狸)・むじな(狸。東北方言)・金長(きんちょう)狸632きつね(狐)633うさぎ(兎)・をさぎ(兎)634からす(烏)・頭八咫烏(やたのからす)・ひもすどり(烏の異称)635きじ(雉)636にわとり(鶏)・しゃも(軍鶏)・ちゃぼ(矮鶏)・とさか(鶏冠)637うずら(鶉)638はと(鳩)639すずめ(雀)640つばめ(燕)・つばくら(つばくらめ。つばくろ)641かも(鴨)・あひる(家鴨)・おしどり(鴛鴦)642うぐいす(鶯)643わし(鷲)644たか(鷹)645はやぶさ(隼)646とび(鳶)647かささぎ(鵲)・カチガラス648うとう(善知鳥)649あび(阿比)(鳥)・かづく(鳥)650かり(雁)・がん(雁)651つる(鶴)・たづ(田鶴)・たんちょう(丹頂)・まなづる(真鶴)・なべづる(鍋鶴)652かめ(亀)・すっぽん(鼈)・たいまい(玳瑁)653こうもり(蝙蝠)・かはほり・こうぼり654りす(栗鼠)・むささび・ばんどり・もま・ももんが655もぐら(土竜)・ひみず656ひばり(雲雀)657とら(虎)658ひつじ(羊)・やぎ(山羊)・やぎゅう(野牛(山羊の異名))

b 魚貝類名

701たい(鯛)702いか(烏賊)・げそ(烏賊の足)・するめ(鯣)703まんぼう704はまぐり(蛤)705あさり(浅蜊)706たいらぎ707あわび(鮑)708たんら(耽羅)のあわび709さけ(しゃけ。鮭)・すけ(大きな鮭)・イヨボヤ(鮭の方言名)710ます(鱒)・サクラマス710-2クニマス(国鱒)711イクラ・すじこ(筋子)・すずこ(筋子)・はららご(筋子の古名)712やまめ(山女魚)・あまご(甘子)713まぐろ(鮪)・めじ(小型の鮪)・しび(大型の鮪)・はつ(鮪の異名)714くろまぐろ・めばちまぐろ・びんながまぐろ・トロ715まかじき・めかじき716かつを(堅魚)717そうだかつを(宗太鰹)718すずき(鱸)・コッバ(鱸の稚魚)・セイゴ(鱸の幼魚)・フッコ(鱸の幼魚)・オオタロウ(鱸の老成魚)719ぶり(鰤)・モジャコ(稚魚)・ワカシ(ワカナ)・イナダ・ワラサ・フクラギ(ツバス)・ヤズ・ハマチ(ハリマチ)・メジロ720ヒラマサ・カンパチ721ぼら(鯔)・ハク(稚魚)・ゲンブク(稚魚)・キララゴ(稚魚)・オボコ(幼魚)・スバシリ(幼魚)・イナ(幼魚)・トド(老魚)722さば(鯖)723さわら(鰆)724あじ(鯵)・むろあじ(室鯵)・ぜんご(ぜいご。稜鱗)725いわし(鰯)・うるめいわし・キビナゴ・かたくちいわし・シラス(稚魚)・カエリ(幼魚)・アオコ(幼魚)・コバ(小羽)・コベラ・チュウバ(中羽)・オオバ(大羽)726さんま(秋刀魚)・サイラ・サエラ・セイラ727かれい(鰈)・まこがれい(真子鰈)・オヒョウ・ひらめ(鮃)728たら(鱈)・コマイ(氷魚・氷下魚)・すけそうだら(すけとうだら。助宗鱈)・たらこ(鱈子)・めんたいこ(明太子)729にしん(鰊・鯡・春告魚)・かどいわし・数の子730はたはた(鰰)・ブリコ・しょっつる(魚醤)731このしろ(鮗)・シンコ・コハダ・ツナシ732ふぐ(ふく。河豚)・ふくとう・トラフグ・ショウサイフグ・クサフグ733あんこう(鮟鱇)734くじら(鯨)・クジリ(鯨)・いさな(勇魚)・ナガス(長須)鯨・セミ(背美)鯨・コク(克)鯨・ザトウ(座頭)鯨・スナメリ(砂滑)・ゴンドウ(巨頭)鯨・いるか(海豚)・カマイルカ・バンドウイルカ・しゃち(鯱)・サカマタ・オバケ(オバイキ)734-2あざらし(海豹)・あしか(海驢)・とど(海馬)・おっとせい(膃肭臍・せいうち(海象)735さめ(鮫)・フカ(鱶)・ワニ(鰐)・ジンベイ(甚平)サメ・ホオジロ(頬白)サメ・ウバ(姥)サメ・コバン(小判)サメ736うなぎ(鰻)・むなぎ・まむし・あなご(穴子)・はも(鱧)・うつぼ737なまず(鯰)・ゴンズイ・ギギ・ギバチ(義蜂)738こい(鯉)・こひ・マゴイ(野生品種)・ヤマト(大和。養殖品種)739あゆ(鮎)・アイ740ふな(鮒)・マブナ(真鮒)・ヒワラ・ゲンゴロウブナ(源五郎鮒)・ヘラブナ・ナガブナ(長鮒)・ニゴロブナ(煮頃鮒、似五郎鮒)741どじょう(泥鰌)・ホトケドジョウ・アジメドジョウ・シマドジョウ742ドンコ(鈍甲)743ムツゴロウ744なまこ(海鼠)・イリコ(海参)・キンコ(光参)・マナマコ・コノコ・コノワタ745たこ(鮹、章魚)746かに(蟹)・ズワイガニ・マツバガニ蟹・コウバコ(抱卵している雌蟹)・セイコ(抱卵している雌蟹)・ゼンマル(若い雌蟹)・モサ(幼蟹)・ワタ(脱皮後の蟹)・ガザミ・ワタリガニ・モクズガニ747えび(蝦、海老)・クルマエビ(車海老)・イセエビ(伊勢海老)748しゃこ(蝦蛄)749うに(海胆。雲丹)・バフン(馬糞)ウニ・ホヤ(海鞘)750こぶ(こんぶ。昆布)・のり(海苔)・(のり)ひび・もずく(水雲)751いかなご・こうなご(小名子)752かき(牡蠣)・いたぼがき(板甫牡蠣)753しいら(魚偏に暑)754まてがい(馬刀貝)

c 昆虫名

801とんぼ802あきつ・あきづ803あけず804だんぶり805ちょう・ちょうちょう806てびらこ807かわひらこ808かっぽ809せみ(蝉)810あぶらぜみ(油蝉)811にいにいぜみ812かなかなぜみ(ひぐらしぜみ)813おやぜみ(親蝉)814くまぜみ(熊蝉)815わしわし(蝉)816へぼ(地蜂)・へぼ飯817かいこ(蚕)・まゆ(繭)・まよ(繭。古形)・けご(毛蚕)・さなぎ(蛹)

   (4) 鉱物名

901さば902そうけい903どたん904蛙目(がえろめ)粘土・木節(きぶし)粘土905ヨナ・黒ボク906シラス・赤ホヤ907コラ・ボラ908ジャーガル(土壌)909紅殻(べんがら)

   (5) 機械器具・日用品名

1001たかせぶね1002ちゃぶね1003ごだいりき1004べざいぶね1005せきぶね1006ひらたぶね1007てんとうぶね1008にたりぶね(荷足船)1009ちょきぶね(猪牙船)1010べかぶね1011酒(さけ)・みき(御酒。神酒)・みわ(神酒)・くし(酒の古称)・ささ(酒の古称)・どぶろく(濁酒)・こうじ(糀)・もろみ(諸味)・とうじ(杜氏)1011-2しょうちゅう(焼酎)・あわもり(泡盛)・くうす(古酒)1012大舶(おほつむ)・母廬紀(もろき)船・はし船1013ドンコ舟1014山原(やんばる)船1015サバニ(舟)・ウバ1015-2反子(そりこ)舟/1016榑木(くれき)1017タタラ・鞴(ふいご)・赤目(あこめ)砂鉄・ズク(銑鉄)・真砂(まさ)砂鉄・ケラ(鋼)・カラミ(鉱滓)・ムラゲ(村下)・金屋子(かなやご)神1018長船(おさふね)刀鍛冶・同田貫(どうだぬき)刀鍛冶1019タンコ(桶職人)・バラショケ(笊)1020梁(やな)・比彌沙伎理(ひみさきり)1021柱(はしら)・通し柱(とおしばしら)・管柱(くだばしら)・大黒柱(だいこくばしら)1022屋根(やね)1023瓦(かわら)1024棟(むね)・棟(ぐし)・千木(ちぎ)・梁(はり)1026壁(かべ)・網代(あじろ)壁1027戸(と)・扉(とびら)・蔀戸(しとみど)・妻(つま)入り・平(ひら)入り1028窓(まど)・狭間(はざま)1029襖(ふすま)1030障子(しょうじ)・衝立(ついたて)・屏風(びょうぶ)1031暖簾(のれん)1032床(ゆか)1033簀の子(すのこ)1034畳(たたみ)・円座(えんざ)・藁蓋(わろうだ)1035縁側(えんがわ)1036雁木(がんぎ)1037囲炉裏(ゐろり)・ゆるり・ゆるぎ・いり・ひじろ・じろ1038炉(ろ)・五徳(ごとく)・焜炉(こんろ)・かんてき・七輪(しちりん)1039竈(かまど)・くど・へっつい1040釜(かま)・かなへ・まろかなへ・鍋(なべ)・甑(こしき)・蒸籠(せいろ)・焙烙(ほうろく)1041壺(つぼ)・甕(かめ)・皿(さら)・鉢(はち)・椀(わん)・丼(どんぶり)・銚子(ちょうし)・徳利(とくり)・杯(さかづき)・高坏(たかつき)・箸(はし)1042漏斗(じょうご)・瓢(ふくべ)・瓢(ひさご)・杓子(しゃくし。しゃもじ)・柄杓(ひしゃく)・おけ(桶)・ほかい(行器)・たらい(盥)1043風呂(ふろ)・浴衣(ゆかた)・柘榴口(ざくろぐち)1044剃刀(かみそり)・鋏(はさみ)1045櫛(くし)・鬘(かづら)・髻華(うず)・挿頭(かざし)・簪(かんざし)・笄(こうがい)1046斧(おの)・斧(よき)・鉞(まさかり)・手斧(ちょうな)・鉈(なた)1047鋸(のこぎり)・鋸(のほきり)・大鋸(おが)・鉋(かんな)・鑿(のみ)・鏨(たがね)・錐(きり)・槌(つち)・玄翁(げんのう)1048釘(くぎ)・鎹(かすがい)・楔(くさび)1049はそう(瓦偏に泉)・はんぞう(半挿。楾。はこがまえに也)・たしらか(多志良加。甕)1050べに(紅)・おしろい(白粉)・はふに(白粉)・ぱっちり(襟白粉)・かね(鉄漿)1051ふで(筆)・すずり(硯)・すみ(墨)・かみ(紙)・やたて(矢立)1052すみ(炭・木炭)・まき(薪)・たきぎ(薪)・しば(柴)1053ぞうり(草履)・わらじ(草鞋)・わらんじ(草鞋)・わらんず(草鞋)・わらうず(草鞋)・わらぐつ(藁沓)1054げた(下駄)・せった(雪駄)・はなお(鼻緒)

  (6) その他

1101だんかずら1102まんぼ1103津波(つなみ)・ヨダ(津波)1104得体(えたい)1105得手勝手(えてかって)1106ラーフル(黒板拭き。黒板消し)

 

 

<修正経緯>

<一般語彙>

4 一般語彙

 

(1) 身体名

 

401いら(黒子)

 

 記紀、『万葉集』などに、「郎女(いらつめ)」という呼称が頻繁に、「郎子(いらつこ)」の呼称が少数出てきます。

 この「いら」は、マオリ語の

  「イラ」、IRA(freckle,mole or other natural mark of the skin,variegated,shine)、「黒子(ほくろ)」

の転訛と解します。(「301いらつめ・いらつこ」を参照してください。)

 

402みづら(美豆良)・あげまき(総角。揚巻)

 古墳時代の男子の結髪を「みづら」といいます。古墳時代の人物埴輪を見ますと、長く伸ばした頭髪を左右に分けて両耳の付近で束ね、垂れた髪を輪に巻いて紐で結んでいます。天照大神や神功皇后が武装して「髪を美豆良に纏(ま)いた」(『古事記』)のはこのようなものであり、大陸からの伝来ではなかったかと考えられています。平安時代以降は、主として少年の髪型となりました。

 総角は、古代の子供の髪の結い方で、美豆良の変形とされ、頭髪を左右に分けて頭上に巻き上げて双角状に両輪をつくつたものです。

 「みづら」の語源は、ミミツラ(耳連)の略、マツラ(両鬘)の転、カミツレ(髪連)の義など と、「あげまき」の語源は、アグは髪を結う意で揚げ巻くことから、総角の字は紐の結び方からで上巻の義などとする説があります。

 この「みづら」、「あげまき」は、

  「ミイ・ツラハ」、MII-TURAHA((Hawaii)mii=good-looking;turaha=startled,be separated,keep clear)、「美しく・(頭の両側に)分けた(束ねて巻いた髪。みづら)」(「ミイ」の反復語尾のI音が脱落して「ミ」と、「ツラハ」のH音が脱落して「ツラ」から「ヅラ」となった)

  「ア・(ン)ガイ・マ・アキ」、A-NGAI-MA-AKI(a=the...of;ngai=descendant,clan;ma=for,to be possessed by,to be acted on by;aki=boy,dash,abut on)、「あるもの(髪の結い方)の・一種で・少年に・施されるもの(総角)」(「(ン)ガイ」のNG音がG音に変化して「ゲ」と、「マ」のA音と「アキ」の語頭のA音が連結して「マキ」となった)(紐の結び方の「あげまき(総角)」も同じ語源で「あるもの(紐の結び方)の・一種で・(紐の)端に・施されるもの(総角)」と解します。)

の転訛と解します。

403まげ(髷)・わげ(髷)・もとどり(髻)・たぶさ(髻)・びん(鬢)・たぼ(髱)・ちょんまげ(丁髷)

 髪の結い方として男女ともに最も基本的な髷(まげ)は、長い髪を頭上でまとめて一カ所で束ね(この箇所を髻(もとどり)とも髻(たぶさ)と呼びます。)、その上部を種々の形にたたんだり、折り曲げたりするその部分をいいます。古墳時代の人物埴輪を見ますと、女子は後世の島田髷に似た髷を結っています。髷は、江戸では「まげ」、京では「わげ」といいました(『物類称呼』)。鬢(びん)は、左右側面の髪を、髱(たぼ)は後方へ張り出した髪をいいます。江戸時代、男子の額髪を広く剃り上げ、もとどりを前面に向けて曲げた小さい髷を丁髷といいました。 

 この「まげ」、「わげ」、「もとどり」、「たぶさ」、「びん」、「たぼ」、「ちょん(まげ)」は、

  「マハ・(ン)ガイ」、MAHA-NGAI(maha,mahamaha=liver,seat of affections:ngai=descendant,clan)、「(感情など人の)精神が宿る場・の種類(のもの。まげ)」(「マハ」のH音が脱落して「マ」と、「(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ゲ」となった)

  「ワ(ン)ガイ」、WHANGAI(feed,propitiate,offer ceremonial food to a god)、「神に供えた食物(に見立てた髪。神の保護を願つたものか)」(NG音がG音に、AI音がE音に変化して「ワゲ」となった)

  「モホ・ト・タウリ」、MOHO-TO-TAURI(moho=trouble,stupid(whakamoho=steal softly,waylay,treacherous);to=drag;tauri=band,secure with a fillet)、「(頭髪を)静かに・纏めて・(紙片で)巻き上げた(箇所)」(「モホ」のH音が脱落して「モ」と、「タウリ」のAU音がO音に変化して「トリ」から「ドリ」となった)

  「タプイ・タ」、TAPUI-TA(tapui=set aside,tie in a bundle,lay in a heap;ta=dash,beat,lay)、「(頭髪を)まとめて・(頭上に)置いたもの(たぶさ)」(「タプイ」の語尾のI音が脱落して「タプ」から「タブ」となった)

  「ピネ」、PINE(close together)、「(分けた髪がやがて中央で)纏められる(髪。その箇所。びん)」(「ピネ」が「ピン」から「ビン」となった)

  「タポウ」、TAPOU(bowed down,,downcast)、「後ろに張り出した(髪。たぼ)」(語尾のU音が脱落して「タポ」から「タボ」となった)

  「チオニオニ」、TIONIONI(waggle)、「(小さく)揺れる(まげ)」(反復語尾が脱落して「チオニ」から「チョン」となった)

の転訛と解します。

かつら(鬘)・かもじ(髢。髪文字)

(これは身体の部分ではありませんが、前項に密接に関連する身体の部分を補完するためのものですので、便宜ここに掲載しました。)

 「かつら」は、髪の薄い人、短い人などが添え用いた髪をいい、後に髪型を変えるために頭にかぶるようになりました。「かもじ」は婦人用の添え髪をいいます。

 「かつら」の語源は、カミツラ(髪鬘)の略、カミツラナル(髪連)の義などと、「かもじ」の語源は、カミ(髪)に文字を添えた、神事に仕える人が用いる草カヅラのカに文字を添えたなどの説があります。

 この「かつら」、「かもじ」は、

  「カハ・ツラハ」、KAHA-TURAHA(kaha=crested grebe;turaha=startled,be separated,keep clear)、「(カイツブリの冠毛のような)頭髪で・分離した(着脱できるもの。かつら)」(「カハ・ツラハ」のH音が脱落して「カツラ」となった)(髪飾りの「かづら(鬘)」も同じ語源です。後出の1044櫛(くし)の項を参照してください。)

  「カハ・モホ・チ」、KAHA-MOHO-TI(kaha=crested grebe;moho=trouble,stupid(whakamoho=steal softly,waylay,treacherous);ti=throw,overcome)、「(カイツブリの冠毛のような)頭髪で・(病気による脱毛などの)障害を・克服するもの(地毛に代わる仮の髪。かもじ)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「モホ」のH音が脱落して「モ」となつた)

の転訛と解します。

(2) 植物名

 

501さくら(桜)・かにわ(桜皮)

 

 桜は、主として北半球の温帯・暖帯に分布するバラ科サクラ属の樹木で、美しい花が一斉に開化することから、日本の国花として古くから愛されてきました。

 桜は、日本固有種ではなく、中国雲南省、四川省などにも自生し、インドやミャンマーの山岳地帯にも自生しています。朝鮮半島には見られないようです。

 南方系の縄文人は、日本列島到来以前から、桜の美しさを知っていたのではないでしょうか。

 桜の樹皮を古くは「かにわ」といいました。万葉集(6-942)に「…桜皮(かにわ)巻き作れる舟にま梶ぬき…」とあり、倭名抄に「樺 和名、加波、又云、加仁波。今桜皮有之。」とあります。桜皮は丈夫で、樹皮の節が滑りを止めることから、古代は弓の取手や刀の柄に巻かれ、現代でも鉈の柄に巻かれます。また、曲げ物細工の木の接着に用いられるほか、美麗な山桜の皮は器物の表面に張られます。

 この「さくら」、「かにわ」は、マオリ語の

  「タ・クラ」、TA-KURA(ta=the;kura=precious,treasure)、「素晴らしい(宝物のような花を咲かせる木)」

  「カニワ」、KANIWHA(barb of fish-hook etc.,barbed spear,notch,slot)、「横に線状の節(釣り針のかえしまたは突起に似る)がある樹皮(桜の樹皮)」(WH音がH音に変化して「カニハ」ともなった

の転訛と解します。

 

502ひのき(桧)

 

 桧は、日本特産の樹種で、福島県閼伽井(あかい)岳および新潟県苗場山から鹿児島県屋久島までの温帯・暖帯に分布しています。緻密で、加工しやすく、狂いが少なく、特有の芳香と光沢があり、耐久性が高く、世界最高の針葉樹材といわれ、きわめて用途が広いのが特徴です。

 また、『日本書紀』神代巻上・第8段の一書(第5)に「(スサノオが)胸の毛を抜き散らして桧とし・・・桧は以て瑞宮をつくる材とすべしとのたもうた」とあるように、古代から宮殿、神社仏閣の建築材として重用されてきました。

 この「ひのき」は、マオリ語の

  「ヒノヒ・キ」、HINOHI-KI(hinohi=compressed,contracted;ki=full,very)、「非常に(木質が)緻密な(木)」

の転訛(「ヒノヒ」の語尾の「ヒ」が脱落した)と解します。

 なお、類例として、地名篇(その十一)の神奈川県の(10)津久井郡のb桧洞丸(ひのきぼらまる。山岳名)の項を参照して下さい。

 

503すぎ(杉)

 

 杉は、日本で最も重要な林業樹種で、青森県鯵ヶ沢町矢倉山から鹿児島県屋久島まで暖温帯・冷温帯に分布します。有史以来人為的な植栽が行われていますが、屋久島では樹齢2〜4000年のものが発見されています。

 『日本書紀』神代巻上・第8段の一書(第5)に「(スサノオが)ひげを抜き散らして杉とし・・・杉と樟は以て浮寶(うくたから。船)とすべしとのたもうた」とあるように、古代から造船用材、一般建築材、日用品など汎用材として重用されてきました。

 また、杉は、まっすぐ伸びる目立つ木であったところから、古くから神を祭る神聖な木、神の宿る木とされてきました。神社の杉の小枝や苗を持ち帰ってそれが根付くと神の加護があった印しとしたり、杉の小枝を魔除けや安産のお守りとする風習もあります。

 とくに、例えば1200年にわたり、ほぼ忠実に古式を守り続けている東大寺二月堂修二会(お水取り)に欠くことのできない松明(たいまつ)は、その燃焼材として松材ではなく杉葉が使用されています。おそらくもっとも古くは一般の住居でも照明は杉の枝を燃やしていたのではないでしょうか(松明(たいまつ)については、おって別途解説します)。

 この「すぎ」は、マオリ語の

  「ツ(ン)ギ」、TUNGI(set a light to,kindle,burn)、「(その葉または葉の付いた枝が)灯りをともす(のに好適な木)」

の転訛(NG音がG音に変化して「ツギ」から「スギ」となった)と解します。

 

504まつ(松)

 

 松は、赤道圏低地を除く北半球に広く分布する常緑針葉樹で、ほとんどは高木性です。木部には樹脂分を含み、耐水性が高く、橋梁、杭などの土木、建築、造船、木工用材のほか、薪、木炭(製鉄、鍛冶、一般用)、照明(松明(たいまつ)については、おって別途解説します)などに広く使用されてきました。

 松は、長寿のシンボルとして、また節操高いもの、おめでたいものとして、新年や慶事の飾り物とする風習がありますが、これらは古代中国思想の影響によるもので、かならずしも日本列島固有の思想ではなかったようです。

 この「まつ」は、マオリ語の

  「マツ」、MATU(fat,richness of food)、「油分が多い(木)」

の転訛と解します。

 

505くすのき(樟)

 

 樟は、関東地方以南、四国、九州から台湾、中国南部、インドシナに分布するクスノキ科の常緑樹の大木で、庭園、神社仏閣によく植えられます。

 葉をはじめ、樹体全体に樟脳を含み、芳香があります。木材は、樟脳を含むため、耐朽性、耐虫害性が極めて高いのが特徴で、大材が得られやすく、加工も容易なため、古くは丸木舟から、社寺建築、仏像彫刻、家具、欄間、器具等広く使用されています。

 『日本書紀』神代巻上・第8段の一書(第5)に「(スサノオの)眉の毛が樟になる・・・(スサノオは)杉と樟は以て浮寶(うくたから。船)とすべしとのたもうた」とあります。

 この「くすのき」は、マオリ語の

  「クツ・(ン)ガウ・キ」、KUTU-NGAU-KI(kutu=louse,vermin of any kind infesting human beings;ngau=bite,hurt,attack;ki=full,very)、「害虫をしっかり退治する(害虫を全く寄せ付けない木)」

の転訛(「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して、「ノ」となった)と解します。

 

506けやき(欅)・つき(槻)

 

 本州から九州、東アジアの山地に生えるニレ科の落葉高木で、高さ30メートルにも達します。材は強く、狂いがなく、木理が美しく、建築、船舶、車両、機械、楽器、彫刻など広く賞用されます。古くは「つき(槻)」ともいわれました。

 この「けやき」は、「ケヤ(ケヤケシ(他と著しく異なること)と同源。木理に基づく名か)・キ(木)」の意とする説があります(『広辞苑』第4版)。

 この「けやき」、「つき」は、マオリ語の

  「カイ・イア・キ」、KAI-IA-KI(kai=quantity,anything produced in profusion;ia=indeed,current;ki=full,very)、「実に大木になる(木))」または「実に大量の葉をつける(木)」(「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)

  「ツキ」、TUKI(pound,attack(tutuki=reach the farthest limit,extend))、「(極限に達する)これ以上ないという大木(の木)」

の転訛と解します。

 

507かし(樫)

 

 ブナ科コナラ属のうち、常緑のものの総称で、関東では多くはシラカシ、名古屋近辺ではウラジロガシ、関西ではアラカシを指します。本州宮城県以南から九州に自生し、材は硬く重く、船舶、車両、器具、木型、農具、大工道具など広く賞用されます。

 この「かし」は、「イカシ(厳し)の上略形」、「カタシ(堅し)の中略形」とする説があります。

 この「かし」は、マオリ語の

  「カハ・チ」、KAHA-TI(kaha=strong,strength;ti=stick)、「頑丈な柄・棒(になる木)」(「カハ」の語尾のH音が脱落して「カ」となった)

の転訛と解します。

 

508くり(栗)・いが(毬)

 

 ブナ科の落葉高木で、高さ50メートル、直径1.5メートルに達するものもあります。6月ごろ花穂を出し、独特の匂いがある淡黄色の細花を付けます。果実は、堅果で長い刺のある「いが」に包まれ、熟すると裂開し、食用に供されます。材は、耐久・耐湿性が高く、建築、とくに家屋の土台、鉄道の枕木、櫓、車、運動具、盆、椀、シイタケ原木などに用いられます。

 この「くり」は、マオリ語の

  「クリ」、KURI(=kurikuri=fusty,evil smelling)、「(花に)悪臭がある(木)」

  または「ク・フリ」、KU-HURI(ku=silent(whakakuku=beach a canoe);huri=seed)、「静かな(貯蔵する)種子(=栗実。またはその実をつける木)」(「ク」と「フリ」の語頭のH音が脱落した「ウリ」が結合して「クリ」となった)

の転訛と解します。

 

 なお、栗の「いが(毬)」の「いが」は、マオリ語の

  「ヒ(ン)ガ」、HINGA(fall from an erect position,be killed,be overcome with astonishment or fear)、「高いところ(木の上)から落ちてきた(もの)」(H音が脱落し、NG音がG音に変化して「イガ」となった)

の転訛と解します。

 この単語(be overcome with astonishment or fear、驚きで打ちのめされる)は、古語の「ひが(僻)」(「ひがごと(僻事、僻言。行為者の力の不足や偏りなどがもとで犯す間違い=『岩波古語辞典』による)」などの)の語源です。

 

509なら(楢)・どんぐり(団栗)・ははそ(柞、枹)・しだみ(ならの実)

 

 ブナ科のコナラ・ミズナラなどの総称です。コナラは、日本全土の山野に生える落葉高木で、果実は長楕円形のどんぐり(団栗)です。ミズナラは、日本全土の山地に生える落葉高木で、コナラよりも大きい団栗を産します。共に材は、建築、器具、造船、薪炭などに用いられます。

 コナラは、古くは「ははそ(柞、枹)」ともいいました。また、飛騨地方など中部山岳地帯ではナラの実を「しだみ」といいました。

 この「なら」は、マオリ語の

  「(ン)ガラ」、NGARA(snarl)、「文句を言う(木の筋が入り組んでいて真っ直ぐでない、真っ直ぐに割って用材にできない木)」(NG音がN音に変化して「ナラ」となった)

  または「(ン)ガラ(ン)ガラ」、NGARANGARA(anything small)、「小さな実(「どんぐり」をつける木)」(NG音がN音に変化して「ナラナラ」となり、反復語尾が脱落して「ナラ」となった)

の転訛と解します。

 

 なお、「どんぐり」は、マオリ語の

  「トヌ・ク・フリ」、TONU-KU-HURI(tonu=(denoting continuance)still,continually,quite,just;ku=silent(whakakuku=beach a canoe);huri=seed)、「ずっと(長期に)貯蔵する種子(団栗)」(「トヌ」の語尾のU音が脱落して「トン」に、「ク」と「フリ」の語頭のH音が脱落した「ウリ」が結合して「クリ」となった)

  または「タウ(ン)ガ・ク・フリ」、TAUNGA-KU-HURI(tanga=become familiarised,become domesticated;ku=silent(whakakuku=beach a canoe);huri=seed)、「親密な(日常ありふれた)貯蔵する種子(団栗)」(「タウ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がN音に変化して「トナ」から「トン」に、「ク」と「フリ」の語頭のH音が脱落した「ウリ」が結合して「クリ」となった)

の転訛と解します。

 

 さらに、古名の「ははそ」、ナラの実の「しだみ」は、マオリ語の

  「ハハ・タウ」、HAHA-TAU(haha=savoury,luscious;tau=come to rest,float,lie steeping water)、「水に漬けておくと美味になる(団栗。その生る木)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ソ」となつた)

  「チ・タミ」、TI-TAMI(ti=squeak,tingle;tami=food)、「(渋が残つて口が)しびれる食べ物(団栗)」

の転訛と解します。

 

510しい(椎)

 

 ブナ科の常緑高木で、通常ツブラジイ(コジイ)とその変種スダジイ(イタジイ)をいい、前者は関東南部から九州に、後者は東北地方南部から九州に分布します。実は先の尖つた卵円形で、そのまま食用とし、特に炒ると栗に似た甘味があってたいへん美味です。

 この「しい」は、マオリ語の

  「チヒ」、TIHI(summit,top,lie in a heap)、「最高の(他の団栗のようにアク抜きをする必要のない、そのままで美味な木の実。またはその実をつける木)」(H音が脱落して「チイ」から「シイ」となった)

の転訛と解します。

 

511くぬぎ(櫟、椚)・つるばみ

 本州から九州、東アジアの山地に生えるブナ科の落葉高木で、果実は「おかめどんぐり」ともいい、大きく約2センチメートルの球形で、「いが」に包まれます。材は、堅重で、摩擦に強く、下駄の歯や車両、薪炭、シイタケ原木等に用いられます。実は古くは染料としました。

 古くは「つるばみ」といいました。

 この「くぬぎ」は、「国木(くにき)」の意とする説があります。

 この「くぬぎ」、「つるばみ」は、マオリ語の

  「クフ・ヌイ・(ン)ギア」、KUHU-NUI-NGIA(kuhu=insert,conceal,cooking shed;nui=large,big,many;ngia=seem,appear to be)、「(いがに)入って大きく見える(団栗。それを産する木)」(「クフ」のH音が脱落して「クウ」から「ク」と、「ヌイ」の語尾の「イ」が脱落して「ヌ」と、「(ン)ギア」のNG音がG音に変化し、語尾の「ア」が脱落して「ギ」となつた)

  「ツル・パ・アミ」、TURU-PA-AMI(turu=post,pole;pa=touch,reach,strike;ami=gather,collect)、「長い棒で叩いて(落として)集める(団栗。それを産する木)」(「パ」の語尾のA音と「アミ」の語頭のA音が連結して「パミ」から「バミ」となった)

の転訛と解します。

 

512かしは(柏)

 かしは(柏)は、ブナ科の落葉木で、葉は大型で長く(10-30cm)広く(6-18cm)、冬に枯れても落葉しない特性を持ち、古くから食物を盛り、包み、あるいは蒸す等の調理の際に食物を包むのに使われました。

 この語源は、(1)カタシハ(堅葉)から、(2)カシキハ(炊葉)から、(3)ケシキハ(食敷葉)から、(4)神餞をもるカシコハ(賢葉)からなどの説があります。

 また、古くは食物を盛るために柏の葉を竹串などで綴じて作った器を「くぼて(窪手)」といいました。

 さらに、古代朝廷で食膳の調理に当たった人々を「膳・膳夫(かしはで)」と呼びました。

 この「かしは」、「くぼて」、「かしはで」は、

  「カチ・ワ」、KATI-WHA(kati=be left in statu quo,well,enough;wha=leaf,feather)、「葉が・(枯れても木に)残る(木。柏)」または「(食物を載せたり包んだりするの)好適な・葉(を持つ木。柏)」

  「クフ・ポテテ」、KUHU-POTETE(kuhu=thrust in,insert;potete=tie up,gather together,a bag or receptacle tied up at the mouth)、「(柏の葉に竹串などを)突き刺して・綴じ合わせた(食器)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」と、「ポテテ」の反復語尾が脱落して「ポテ」から「ボテ」となった)

  「カ・チ・ハテペ」、KA-TI-HATEPE(ka=take fire,burn;ti=throw,cast;hatepe=cutoff,proceed in an orderly manner)、「(食材を)キチンと処理して(切り刻んで)・火に・かける(料理する、調理に長けた。部族)」(「ハテペ」の語尾の「ペ」が脱落した)(古典篇(その六)の208F1大彦(おほびこ)命の項を参照してください。)

の転訛と解します。

 

513つばき(椿)

 つばき(椿)は、日本の花木を代表する樹木です。東アジアに固有で、日本、朝鮮半島、中国に分布します。日本列島の黒潮が洗う岬や海岸の丘陵にはほとんどあるといってもよく、本州の北限は青森県夏泊半島椿山です。

 『和名抄』は、「豆波木(つばき)」と訓じます。

 この語源は、(1)古語ツバ(光沢のあるさま)から、(2)ツヤハキ(艶葉木)の義、(3)アツハキ(厚葉木)の義、(4)ツヨキ葉の木の義、(5)テルハキ(光葉木)の義、(6)朝鮮語ツンバク(冬柏)から、(7)葉が変わらないツバキ(寿葉木)の義などとする説があります。

 なお、東北地方の海岸の椿の自生地は椿山などと呼ばれて神聖視されています。

 また、『日本書紀』景行紀にはツバキで作った槌で土蜘蛛を討伐したとあり、東北地方のイタコはかってツバキの槌を呪具としていたといいます。

 さらに、平安時代には正月に宮廷で作られた邪気をはらう卯杖(うづえ)や卯槌にもツバキが用いられました。

 この「つばき」は、

  「ツパ・キ」、TUPA-KI(tupa=dried up,barren,flat;ki=full,very)、「非常に・乾燥した(場所にも生育する木)」

  または「ツ・パキ」、TU-PAKI(tu=stand,settle,fight with,energetic;paki,papaki=slap,strike together,cliff against which the waves beat)、「波がうち寄せる崖(の上)に・生えている(木)」もしくは「荒々しく・打ちのめす(武器(槌)。それを作る木)」(古典篇(その八)の212H3速津(はやつ)媛の項を参照してください。)

の転訛と解します。

 

514くわ(桑)

 くわ(桑)は、葉は養蚕に用い、材は諸種の用に、樹皮の繊維は布、ロープ、紙を製造しました。『魏志倭人伝』には倭国はすでに桑を植えて蚕を飼い、絹布を織っていたとあります。

 『和名抄』は、「久波(くは)」と訓じます。

 この語源は、(1)コハ(蚕葉)の転、(2)クフハ(喰葉)の約転、(3)コクウハ(蚕喰葉)の義、(4)クハ(飼葉)の義などの説があります。

 この「くわ」は、

  「クハ」、KUHA(gasp,ragged,fragment)、「(蚕が)食べることを切望する(植物)」

の転訛と解します。

 ちなみに、農具の「くわ(鍬)」は、

  「クフ・フア」、KUHU-HUA(kuhu=thrust in,insert;hua=lever,raise with a lever)、「(地中に)深く打ち込んで・(梃子を使うように土くれを地上に)持ち上げるもの(耕す道具。鍬)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」と、「フア」のH音が脱落して「ウア」から「ワ」となった)

の転訛と解します。

 

515なめらまつ(滑松)

 中国山地の中の山口県徳地(とくぢ)町の山林は、かつて鎌倉時代に東大寺大仏殿再建のために長さ13丈に及ぶ棟材をはじめとする大量の用材を供給しました。今もこの地方で産する滑松(なめらまつ)は、長大・良質で、皇居新宮殿の正庁である松の間の壁材に使用されました。

 この「なめら」は、

  「ナ・マイラ(ン)ガ」、NA-MAIRANGA(na=belonging to;mairanga=raise,erevate)、「ほんとうに・高く伸びた(松)」(「マイラ(ン)ガ」のAI音がE音に変化し、語尾のNGA音が脱落して「メラ」となった。名詞形のNGA音はしばしば脱落します。)

の転訛と解します。

(「まつ(松)」については前出の504まつ(松)の項を参照してください。)

 

516かや(榧)

 かや(榧)は、イチイ科の常緑高木で、種子は食用となり、また油分を多く含み、良質の油が採れます。葉は蚊遣りに用いられ、材は有用で、特に碁盤材として著名です。

 語源は、(1)カヘの転、(2)カヤリ(蚊遣り)に焚く木から、(3)カエ(香枝)の義、(4)実が落ちるとそのカヘ(替)として後の実があるからなどの説があります。

 この「かや」は、

  「カ・イア」、KA-IA(ka=take fire,be lighted,burn;ia=indeed,current)、「(火を点けると)実によく・燃える(種子。その実を付ける植物。榧)」

  または「カイ・イア」、KAI-IA(kai=food,eat;ia=indeed,current)、「実に・食べられる(種子。その実を付ける植物。榧)」(「カイ」の語尾のI音が「イア」の語頭のI音と連結して「カヤ」となった)

の転訛と解します。

 

517かや(茅、萱)

 かや(茅、萱)は、屋根を葺くのに用いられるススキ、チガヤ、スゲなどのイネ科、カヤツリグサ科の大型草本の総称です。

 『和名抄』は、萱を「加夜(かや)」と訓じます。

 語源は、(1)カリヤ(刈屋。刈って屋根を葺くもの)の約、(2)カヤ(上屋。その葺料)、(3)「チ(強い)・カヤ」の約、(4)カオヤ(草祖)の約、(5)カリヤク(刈焼。カヤを刈った後翌年良質のカヤを得るために茅野を焼く)の約などの説があります。

 この「かや」は、

  「カ・イア」、KA-IA(ka=take fire,be lighted,burn;ia=indeed,current)、「(火を点けると)実によく(波のように)・燃え広がる(植物。茅)」または「実に・(毎年良質のカヤを得るために茅野を)焼く(必要がある。植物。茅)」

の転訛と解します。

 

518すすき(薄)

 すすき(薄)は、尾花の名で秋の七草に数えられるイネ科の多年草で、群生し、屋根の葺料や家畜の飼料となり、炭俵を編み、また十五夜の月見にススキ(花穂)を供えました。

 この「すすき」は、

  「ツツキ」、TUTUKI(reach the farthest limit,be finished,be completed)、「成長しきった(花穂を出した。茅)」

の転訛と解します。

 なお、魚の「すずき(鱸)」については後出の718すずき(鱸)の項を参照してください。

 

519あし(葦、蘆、芦、葭)・よし(葦、蘆、芦、葭)

 あし(葦、蘆、芦、葭)は、各地の水辺に自生するイネ科の多年草で、大群落を形成し、若芽は食用に、茎は屋根の葺料、葭簀(よしず)材、製紙原料に、根茎は薬用になります。別名をよし(葦、蘆、芦、葭)といい、アシが「悪し」に通ずるのを嫌ってヨシとなつたとする説があります。別名が多く、「難波の芦(あし)は伊勢の浜荻(はまをぎ)」(『菟玖波集』)といわれるほどです。

 「あし」の語源は、(1)初めの意のハシの義、天地開闢のとき初めに出現した神をウマシアシカビヒコヂの神といい、国土を葦原の国といった神話に基づく、(2)水辺の浅い岸に生える草であるからアサ(浅)の転、(3)まだ田となっていないアラシ(荒)の転、(4)アシ(編繁。弥繁)の義などの説があります。

 「よし」の語源は、(1)アシが「悪し」に通ずるのを忌んで反対語の「ヨシ(善)」とした、(2)ヨシ(弥繁)の義、(3)ヨハアシ(弱葦)の義などの説があります。

 この「あし」、「よし」は、

  「ア・チ」、A-TI(a=the...of,belonging to,drive,urge;ti=throw,cast,overcome)、「(水辺を)占領している・植物(葦)」

  「イオ・チ」、IO-TI(io=muscle,line,spur,lock of hair,tough,hard;ti=throw,cast,overcome)、「(水辺を)占領している・(茎が)堅い(植物。葦)」

の転訛と解します。

 

520ゆり(百合)

 ゆり(百合)は、ユリ科ユリ属の植物の総称で、古くから花は鑑賞用に、鱗茎は食用、薬用に供されてきました。

 語源は、(1)ユル(揺る)の転、(2)ユスリ(揺すり)の転、(3)イクルリ(生瑠璃)の反、(4)ヤヘククリネ(八重括根)の義(球根の鱗片が何重にも重なるところから「百合」の字があてられた)などとする説があります。

 この「ゆり」は、

  「イフ・リ」、IHU-RI(ihu=nose,bow of a canoe etc.;ri=screen,protect,bind)、「カヌーの舳先のような(反り返った)花弁が・集まった(花を付ける植物。百合)」(「イフ」のH音が脱落して「ユ」となった)

の転訛と解します。

 

521菱(ひし)

 菱(ひし)は、.春に前年池の水底に落ちた果実から芽を出して細い茎を伸ばし、夏に水面に菱状三角形の葉を放射状に広げ、水面を覆う一年生の水草で、果実は食用とされました。

 『和名抄』は、「比之(ひし)」と訓じます。

 語源は、(1)ヒシ(緊)の義で鋭棘があるから、(2)ヒシゲ(四角が歪んでいる)から、(3)「ヒ(刀)・シ(助詞)」から、(4)ヒレ(鰭)に通ずるか、(5)ハリサシミ(針刺実)の義などの説があります。 

 この「ひし」は、

  「ヒ・チ」、HI-TI(hi=raise,rise;ti=throw,cast)、「(春に発芽して水中から水面へ茎を)高く・伸ばす(植物。菱。その実)」

の転訛と解します。(地名篇(その二十一)の鹿児島県の(4)菱苅(ひしかり)郡の項を参照してください。)

 

522ヘゴ(羊歯)

 鹿児島県屋久島の山中には、木生のシダ(羊歯)が目立ち、丈の高いシダは「ヘゴ」と呼ばれます(九州南部ではシダ類を総称して「ヘゴ」と呼んでいます)。

 この「ヘゴ」は、

  「ヘ(ン)ゴ」、HENGO(break wind)、「風を遮る(植物)」(NG音がG音に変化して「ヘゴ」となった)

の転訛と解します。

523たけ(竹)・ささ(笹。篠)・しの(篠)・たかむな(筍)

 「たけ(竹)」は、通常イネ科に分類される単子葉植物で、稈が木質、中空の節を持ち、多年生で主として地下茎で無性的に繁殖します。日本では一般に大型のものを「たけ(竹)」、小型のものを「ささ(笹」)、ささのうち大型のものを「しの(篠)」または「しのだけ(篠竹)」といいます。また、モウソウチク、マダケ、ネマガリダケなどの若芽である竹の子(筍)は食用とされます。筍の古名を「たかむな(たかんな)」といいました。竹は東南アジアに多く、古来人の生活のあらゆる面で利用されてきました。 

 「たけ」の語源については、「高い」の転、「丈」で「長」の意、唐音「チク」・呉音「ツク・トク」の転など、「たかむな(たかんな)」の語源については、タカメナ(竹芽菜)の転、タカノナ(竹菜)の約、タカナ(竹菜)の義、タカは竹、ムナは皮を剥いた中の義、タケメネ(竹芽根)の義、竹苗の義、タケミネ(竹蜷)の義などの説があります。

 この「たけ」、「ささ」、「しの」、「たかむな」は、

  「タケケ」、TAKEKE(denoting exhaustive character of the action indicated.consumed,completely acquired,etc.)、「消耗した(中が空(から)になった植物。竹)」(反復語尾が脱落して「タケ」となった)

  「タタ」、TATA(near of place or time(tatanga=proximity,nearness))、「密生する(植物。笹、篠)」(「タタ」が「ササ」となった)

  「チ(ン)ゴ(ン)ゴ」、TINGONGO(cause to shrink,shrivel)、「(全体が)縮んだように小さい(竹)」(NG音がN音に変化し、反復語尾が脱落して「チノ」から「シノ」となった)または「チノヒ」、TINOHI(put heated stones upon food laid to cook in a earth-oven)、「(地面に掘った蒸し焼き穴で)食物の上にかぶせてその上に焼けた石を載せるための植物(篠竹)」(H音が脱落して「チノ」から「シノ」となった)

  「タカ・ムナ」、TAKA-MUNA(taka=heap,heap up,collect into heaps;muna=secret,beloved,darling)、「ひそかに(いつのまにか)・高くなるもの(竹の若芽。筍)」

の転訛と解します。

524やなぎ(柳)・ねこやなぎ(猫柳)・こりやなぎ(杞柳)・やなぎだる(柳樽)

 柳は、湿つた場所を好むヤナギ科の落葉性の高木または低木で、早春に葉に先立って花を付け、その代表とされるしだれ柳は枝が下に垂れ下がる性質があります。猫柳は、川辺に多く、よく分枝する低木で、早春に銀白色の目立つ花を付けます。杞柳(行李柳)は、ヤナギ科の落葉灌木で、湿地に栽培され、長さ2メートルほどの新条の皮を剥ぎ取ったものを漂白して柳行李の材料とします。

 また、柳樽は、胴と柄が長く、朱漆で塗った祝い事用の酒樽で、柳は酒の意とか、もと柳の白木で作るとかの説がありますが、「柳」とは全く関係がありません。

 「やなぎ」の語源は、古く矢を作ったヤノキの転、成長が早いイヤナガ(弥長)の略転、イトナガキの転、柔らかく撓う木からなどの説があります。

 この「やなぎ」、「ねこやなぎ」、「こり(やなぎ)」、「やなぎだる」は、

  「イア・ナ・ア(ン)ギ」、IA-NA-ANGI(ia=indeed;na=by,by way of,belonging to;angi=free,move freely,float)、「実に・(枝を風に)流れるように靡かせる・部類の(樹木。やなぎ)」(「ナ」のA音と「ア(ン)ギ」の語頭のA音が連結し、NG音がG音に変化して「ナギ」となった)

  「ネイ・コヒ・イア・ナ・ア(ン)ギ」、NEI-KOHI-IA-NA-ANGI(nei=to denote proximity to,to indicate continuance of action:kohi=collect,gather together;ia=indeed;na=by,by way of,belonging to;angi=free,move freely,float)、「(花が)密に・集まった(枝を持つ)・実に・(枝を風に)流れるように靡かせる・部類の(樹木。ねこやなぎ)」(「ネイ」の語尾のI音が脱落して「ネ」と、「コヒ」のH音が脱落して「コイ」となり、その語尾のI音と「イア」の語頭のI音が連結して「コヤ」と、「ナ」のA音と「ア(ン)ギ」の語頭のA音が連結し、NG音がG音に変化して「ナギ」となった)

  「コフリ」、KOHURI(sapling)、「若木(の枝を利用する柳。杞柳)」(H音が脱落して「コウリ」から「コリ」となつた)

  「イア・ナ・(ン)ギタ・ル」、IA-NA-NGITA-RU(ia=indeed;na=satisfied,content;ngita=bring,carry;ru=shake,agitate)、「実に・満足すべき(綺麗に作られた)・振り回しながら(誇示しながら)・持ち運ぶ(儀礼用の酒樽。柳樽)」(「(ン)ギタ」のNG音がG音に変化して「ギタ」となった)

の転訛と解します。

525かつら(桂)

 桂は、山地の渓谷に多いカツラ科の落葉高木で、樹皮は暗灰色で縦に割れ目があつて剥がれやすい性質があります。

 「かつら」の語源は、カヅ(香出)ラから、カ(香)ツラ(円。つぶら)から、香りが連なって絶えないところからなどの説があります。

 この「かつら」は、

  「カハ・ツラハ」、KAHA-TURAHA(kaha=rope,edge,ridge of a hill,a garment;turaha=spread out)、「樹皮が・(縦に)剥がれやすい(樹木。かつら)」(「カハ・ツラハ」のH音が脱落して「カツラ」となつた)

の転訛と解します。

526もみ(樅)

 樅は、直立した幹に広円錐形の樹冠をもつ端正な樹形のマツ科の常緑高木です。

 「もみ」の語源は、風に揉み合うから、モエギ(萌黄)がミゴト(見事)だから、実がモロク散る義、オミノキ(臣木)の転などの説があります。

 この「もみ」は、

  「マウ・ミイ」、MAU-MII(mau=fixed,established,retained;(Hawaii)mii=god-looking)、「端正な(樹形で)・直立している(樹木。もみ)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モミ」となつた)

の転訛と解します。

527つが(栂)・とが(栂)

 栂(つが。とが)は、西日本の山地に多いマツ科の常緑高木で、赤褐色の樹皮が亀甲状に裂ける性質があります。

 この「つが」、「とが」は、

  「ツ(ン)ガ」、TUNGA(wound,circumstance etc. of being wounded)、「(樹皮が裂けやすい)傷が付きやすい性質の(樹木。つが)」

  「ト(ン)ガ」、TONGA(blemish on the skin or wart etc.)、「(皮膚)樹皮に傷がある(樹木。とが)」(NG音がG音に変化して「トガ」となった)

の転訛と解します。

528まき(槇)

 槇の代表である高野槇(こうやまき)は、スギ科の常緑高木で、端正な樹形をもち、赤褐色の樹皮が細長く裂け、厚い片となつて剥けます。

 「まき」の語源は、

 この「まき」は、マキ(真木)の義、ウマキ(美木)の約、マルキ(円木)の約、メハリキ(芽張木)の義などの説があります。

  「マハキ」、MAHAKI(cutaneous disease,sick,loose)、「皮膚病にかかっている(樹木。まき)」(H音が脱落して「マキ」となった)

の転訛と解します。
 (なお、「まき」と同音の「牧(まき)」、巻狩りの「巻(まき)」、書物の「巻(まき)」、同一の血族集団をさす「巻(まき。まけ。まく)」は、雑楽篇(その一)の354牧(まき)の項を、「薪(まき)」については雑楽篇(その二)の1052すみ(炭・木炭)の項を参照してください。)

529いちい(櫟。一位)・おんこ(櫟)・きゃらぼく(伽羅木)

 櫟は、寒地の山林に自生し、高さ20メートルに達するイチイ科の常緑針葉樹で、「あららぎ」または「おんこ」(北海道・東北地方)ともいいます。材は堅く木目が美しいので、家屋の飾り材、家具、彫刻、鉛筆材などに重用されます。イチイの変種の伽羅木は、日本海側の秋田県鳥海山から鳥取県大山までの高山に横に枝を伸ばした匍匐性の高さ1〜2メートルの樹形の美しい低木として自生します。

 「いちい」の語源は、衣冠束帯の高官が持つ笏(しゃく)を飛騨位山産のイチイで作るので「一位」をあてたとする説があります。

 この「いちい」、「おんこ」、「きゃらぼく」は、

  「イ・チヒ」、I-TIHI(i=past tense,from,beside,in comparison with,at;tihi=summit,top,lie in a heap)、「(木のなかで)最高の・格付けがされる(樹木。いちい)」(「チヒ」のH音が脱落して「チイ」となった)

(別名「あららぎ」については、入門篇(その二)の2の(5)のdあららぎの項または古典篇(その八)の219H1闘鷄(ツゲ)国造の項を参照してください。)

  「オ(ン)ゲ・コ」、ONGE-KO(onge=scarce,rare,treasure;ko=to give emphasis)、「宝のような(価値がある)・すごい木」(「オ(ン)ゲ」のNG音がN音に変化して「オネ」から「オン」となった)

  「キ・アラ・パウク」、KI-ARA-PAUKU(ki=full,very;ara=rise,be awake;pauku=swelling)、「(眠りから)覚めて・十分に・(横に)枝を伸ばしたような(木)」(「パウク」のAU音がO音に変化して「ポク」から「ボク」となつた)(なお、香木の伽羅(きゃら)は「キ・アラ」、KI-ARA(ki=full,very;(Hawaii)ara=fragrant,perfumed)、「強く・香る(木)」の転訛と解します。)

の転訛と解します。

530いちょう(銀杏)・ぎんなん(銀杏)

 銀杏は、イチョウ科の高さ30メートルに達する落葉高木で、中国原産、日本へは古く渡来し、古木にはしばしば乳といわれる大きな気根が垂れます。雌雄異株で、種子をぎんなんといい、その外種皮は肉質で黄褐色、悪臭があり、内種皮は白色、中身を食用とします。

 「いちょう」の語源は、銀杏を唐音でインキャウがイキャウとなり、イチャウに転じた、アフキャク(鴨脚)の宋音を日本僧がヤーチャウと聞き、イチャウに転じた、イチエフ(一葉)の意、葉の形からイ(寝)ねたる蝶の意などと、「ぎんなん」の語源は、ギンキャウ(銀杏)の宋音ギンアンの転、ギンアンズ(銀杏子)の略、キミアマ(黄子甘)の義とする説があります。
 銀杏(樹木)の日本への渡来の時期は諸説あつて不明ですが、文献に初出するのは室町時代(『下学集』(1444)樹木の部に銀杏の音をイチャウ、ギンキャウと振り、別名鴨脚、音をアフキャクと振ります)で、ギンキャウは日本における慣用音、中国の唐宋音はギンアン、鴨脚の宋音はヤーチャウで、いずれも音が離れており、イチョウに転訛したとは考えられません。他の外国渡来の名称と同様、外国名と音が同じか、またはそれと似た音の縄文語で、そのものの特徴を表現した名称をつけたものが「いちょう(樹木)」、「ぎんなん(果実)」となったと考えられます。

 この@「いちょう」、A「ぎんなん」は、

  @「イ・チホ」、I-TIHO(i=past tense,beside,with,in possession of;tiho=soft,flacid)、「やわらかに(ゆっくりと)羽ばたいて飛ぶ蝶(の羽根)に似た葉を・もつ木(銀杏。いちょう)」(「チホ」のH音が脱落して「チオ」から「チョウ」となった)(ちょう(蝶)については、805ちょう・ちょうちょう(蝶)の項を参照してください。)
  または「イチ・アウ」、ITI-AU(iti=small;au=gall,smoke,dog's bark(auau=disagreeable,disgusting))、「小さな・悪臭を放つ(果実を付ける木。銀杏。いちょう)」(「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」となり、「イチ・オ」から「イチョウ」となった)

  (秋田県・新潟県の一部では、「えっちょう」といいますが、これは「エ・チホ」、E-TIHO(e=by,of the agent,to give emphasis;tiho=soft,placid)、「実に・やわらかに(ゆっくりと)羽ばたいて飛ぶ蝶(の羽根)に似た葉(をもつ木。銀杏。いちょう)」(「エが「エッ」と、「チホ」のH音が脱落して「チオ」から「チョウ」となった)
  または「エチ・アウ」、ETI-AU(eti=shrink,recoil;au=gall,smoke,dog's bark(auau=disagreeable,disgusting))、「(落果が)しなびて・悪臭を放つ(木。いちょう)」の転訛と解します。)

  A「(ン)ギ(ン)ギオ・(ン)ガ(ン)ガ」、NGINGIO-NGANGA(ngingio=withered,shrivelled,wrinkled;nganga=stone of fruit,core of a boil)、「果肉が腐って無くなった・(いちようの)種子(ぎんなん)」(「(ン)ギ(ン)ギオ」の最初のNG音がG音に、次のNG音がN音に変化して「ギニオ」から「ギン」と、「(ン)ガ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ナナ」から「ナン」となった)

の転訛と解します。

531くるみ(胡桃)

 胡桃は、種子を食用とするクルミ科の落葉高木で高さ約20メートルに達し、材は種々の器材に用い、樹皮は染料とし、種子は食用また搾油用とします。

 「くるみ」の語源は、呉国から渡来したクレミ(呉実)の転、クロミ(黒実)の転、殻が堅いコルミ(凝実)の転、殻の中に屈曲した実があるクルミ(屈実)の義、コモリミ(籠実)の義、殻が実を包むクルム(包)の義などとする説があります。

 この「くるみ」は、

  「クル・ウミイ」、KURU-UMII(kuru=strike with the fist,pound;(Hawaii)umii=to clamp,pinch)、「拳骨で割る(ように石などで殻を割って)・(堅殻の中に)密封されている(中身を取り出す植物。胡桃)」(「クル」の語尾のU音と「ウミイ」の語頭のU音が連結し、反復語尾のI音が脱落して「クルミ」となった)

の転訛と解します。

532うるし(漆)・はぜ(黄櫨)

 漆は、ウルシ科の落葉高木、高さ7〜10メートルに達し、樹皮から漆汁を採取して塗料とします。中央アジア原産で奈良時代以前に中国を経て日本に渡来し、広く各地で栽培されています。

 黄櫨は、ウルシ科の落葉高木で、室町時代に木蝋・蝋燭の製法とともに中国から渡来し、琉球から九州、本土へと栽培が広がり、果実から木蝋を採取するようになり、やがて野生化したといわれます。秋には特に美しく紅葉します。古くから自生する山櫨(やまはぜ)からも木蝋が採れます。

 「うるし」の語源は、ウルシル(潤汁)の略、潤の義、ウルシ(潤為)の義、ヌルシル(塗汁)の転、ウルハシの略などの説があります。

 この「うるし」、「はぜ」は、

  「ウル・チ」、URU-TI(uru=be anxious;ti=throw,overcome)、「(皮膚が害される)かぶれることが・心配な(木。うるし)」

  「ハテア」、HATEA(faded,discolourised,whitened)、「(美しく変色する)紅葉する(木。黄櫨)」または「(実が)白く熟する(その実から木蝋を採取する木。黄櫨)」(語尾のA音が脱落して「ハテ」から「ハゼ」となった)

の転訛と解します。

533しゅろ(棕櫚)

 棕櫚は、ヤシ科の常緑喬木で、幹は高さ6メートル余、円柱状で直立、枝はなく棕櫚皮という黒褐色の繊毛のある古い葉鞘で包まれ、幹端に掌状に深裂した葉を叢生します。幹材は床柱等に、樹皮の繊維は、縄、刷毛、箒の材料とし、葉は晒して草履表、帽子、敷物などの材料とします。

 「しゅろ」の語源は、棕櫚の唐音ジュロからとする説があります。

 この「しゅろ」は、

  「チウ・ロ」、TIU-RO(tiu=soar,wander,sway to and fro;ro=roto=inside)、「(樹皮の繊維が)内側で・(層をなして)交互に向きを変えている(樹木。しゅろ)」

の転訛と解します。

534ひょうたん(瓢箪)・ゆうがお(夕顔)

 瓢箪は、古くは「へうたん」と表記され、ウリ科の一年草、ユウガオの変種で中凹みのひょうたん形の果実は古くから乾燥させて食器や容器として利用されてきました。世界でもっとも古い栽培植物の一つです。夕顔は、古くは「ゆうがほ」と表記され、ウリ科の一年草、蔓性、夏の夕方に花を開いて翌朝しぼむところから「夕顔」の名がつけられました。その丸い偏楕円形の果実は、かんぴょうの原料や乾燥させて容器として利用されます。なお、容器としての「瓢(ふくべ)」、「瓢(ひさご)」については、後出の 瓢(ふくべ)および瓢(ひさご)の項を参照してください。

 この「へうたん」、「ゆうがほ」は、

  「ヘウ・タハ(ン)ガ」、HEU-TAHANGA(heu=separate,pull asunder;tahanga=naked,empty)、「(果実の中身を)掻き出して・空にする(植物)」(「タハ(ン)ガ」のH音が脱落し、NG音がN音に変化して「タアナ」から「タン」となった)

  「イ・ウフ・(ン)ガハウ」、I-UHU-NGAHAU(i=past tense,beside,at;uhu=perform certain ceremonies over the bones of the dead to remove tapu;ngahau=brisk,hearty)、「(死者を弔う・時刻の)夕方(から)・元気な(花。夕顔)」(「ウフ」のH音が脱落して「ウウ」となり、その前の「イ」と連結して「ユウ」と、「(ン)ガハウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ガホ」から「ガオ」となった)(縄文時代から葬儀・埋葬は夜に行うのが通例であつたようで、この伝統は最近まで天皇家に引き継がれていました。)(また、ちなみに「ばん(晩)」は、「パナ」、PANA(thrust or drive away,cause to come or go forth in any way)、「(太陽が地下に)追いやられた(沈んだ時刻。晩)」(語尾のA音が脱落して「パン」から「バン」となつた)の転訛と解します。)

の転訛と解します。

535へちま(糸瓜)・なーべーらー(糸瓜)・たわし(束子)

 糸瓜は、熱帯アジア原産のウリ科の一年草で、日本へは江戸時代の初期に渡来したとされ、円筒形の若い果実は食用に、熟した果実を水に漬けて腐らせ皮と果肉を取り去つて残った繊維の束をヘチマの「たわし」とし、また茎から採る水を化粧水としました。沖縄では、へちまを「なーべーらー」と呼び、野菜として一般に利用しています。

 「へちま」の語源は、漢名トウリ(糸瓜)の「ト」がいろはの「ヘ」と「チ」の間にあるから、ヘスジミ(綜筋実)の義と、「たわし(古くは「たはし」)」の語源は、タバネタモノの意、モチタワラシベ(持ち手藁)の約とする説があります。

 この「へちま」、「なーべーらー」、「たわし」は、

  「ヘ・エチ・マハ」、HE-ETI-MAHA(he=strange,different;eti=shrink,recoil;maha=satisfied,depressed,resigned)、「押すと・縮む・奇妙なもの(へちま。ヘチマのたわし。その原料の植物)」(「ヘ」のE音と「エチ」の語頭のE音が連結して「ヘチ」と、「マハ」のH音が脱落して「マ」となった)

  「ナ・パエラ(ン)ギ」、NA-PAERANGI(na=by,belonging to,indicate parentage or descent;paerangi=coming from a distance)、「遠い国から入ってきた・種類の(野菜。植物)」(「パエラ(ン)ギ」のAE音がE音に変化し、語尾のNGI音が脱落して「ペラ」から「ベーラー」となった)

  「タワチ」、TAWHATI(ebb,die(poetical),valley(tawha=calabash;ti=throw,overcome))、「(ヘチマやヒョウタンの果実が)腐って残ったもの」

の転訛と解します。

536くず(葛)・かずら(葛)・つた(蔦)・あまずら(甘葛)

 葛(くず)は、マメ科の蔓性多年草で、各地の山野に自生し、蔓の長さは10メートル以上に達します。肥大した芋状の根から葛粉を採るほか、干したものは葛根として漢方薬になり、蔓で行李などを編み、また繊維にして葛布を織ります。1930年代に北米に土壌浸食防止用として日本から導入された葛は、そのあまりに強い繁殖力のために短期間で害草化しました。

 葛(かずら)は、蔓草(つるくさ)の総称で、「くず」をはじめ、「つた(蔦)」や、藤蔓などを含みます。

 蔦は、山野に自生するブドウ科の落葉蔓性木本植物で、円形吸盤のついた巻きひげで他の物に吸着し、絡んで成長します。緑葉・紅葉ともに美麗です。

 平安時代に甘味料とした「甘葛(あまずら)」はツタ類(アマチャヅルなど)の樹液を濃縮したものかとされます。

 「くず」の語源は、吉野の国栖(くず)のものを最良としたから、クズカズラ(国栖葛)の略、根を粉にして用いるので細屑の義、スイカズラの上下略、コス(粉為)の転、クルスジ(繰筋)の転などと、「かずら」の語源は、カ(助語)・ツラ(蔓の転)から、カ(髪)・ツラ(長く続くもの)から、カカリツラナル(掛連)義、カラミツル(絡蔓)義などと、「つた」の語源は、ツタウ(伝う)の義、ツクツナ(付綱)の反、物を結いつなぐものとして用いたのでツナ(綱)の義、ツタヒハヒ(伝這)の義などとする説があります。

 この「くず」、「がずら」、「つた」、「あまずら」は、

  「クフ・ウツ」、KUHU-UTU(kuhu=thrust in,insert,conceal;utu=dip into for the purpose of filling)、「(山野に)入り込んで・(地表を)くまなく覆う(植物。くず)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」となり、そのU音と「ウツ」の語頭のU音が連結して「クツ」から「クズ」となった)

  「カハ・ツラ(ン)ガ」、KAHA-TURANGA(kaha=rope,rope on the edge of a seine,noose,strong;turanga=in disorder,perplexed,circumstance etc. of standing)、「(乱雑に)絡み合う・綱(のような蔓性の植物)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「ツラ(ン)ガ」の語尾のNGA音が脱落して「ツラ」から「ズラ」となつた)(桶の箍(たが)の意の「かずら」も同じ語源で「(桶を強力に)固定する・縄(箍)」の意と考えられますが、建築で基壇や縁石などを指す「かずら」については後出の1101だんかずら(段葛)の項を参照してください。)

  「ツイ・タ」、TUI-TA(tui=pierce,thread on a string,lace,put the hand or arm through a loop;ta=dash,beat,lay)、「(他の物に)絡みついて・(勢い良く)伸びる(または害を与える植物。蔦)」(「ツイ」のI音が脱落して「ツ」となった)

  「ア・マハ・ツラハ」、A-MAHA-TURAHA(a=the...of,belonging to;maha=gratified,satisfied;turaha=startled,frightened)、「実に・びっくりするほど(甘くて)・満足するもの(甘葛)」(「マハ・ツラハ」のH音が脱落して「マ・ツラ」から「マズラ」となった)

の転訛と解します。

537あさ(麻)・おのみ(麻実)・おがら(麻幹)・にお(熟麻)・けむし()

 麻は、クワ科の一年草で、急速に成長し、高さ1〜3メートルに達します。古来から重要な繊維植物です。その実は「おのみ」、皮を剥いだ茎は「おがら」と呼ばれます。

 延喜式主計上の中男作物に「熟麻(にを)(けむし)各二斤」とあります。熟麻は、「よく煮た胡麻」(小学館『日本国語大辞典』)とありますが、文脈等からみて「精選した麻の繊維」と解すべきでしょう。は「麻の雄株の古称」(小学館『日本国語大辞典』)とあり、「未精選の麻の繊維」と解すべきでしょう。

 「あさ」の語源は、ア(接頭語)・サ(麻の原語)、アヲソ(青麻)の約転、浅の意、アヲサキ(青割)の転、麻は薄いもので朝着たことから、アザナフの義、マヲに対する語、イトタネグサ(糸種草)の義、アラサヤ(粗清)の意などの説があります。

 この「あさ」、「お(のみ)」、「おがら」、「にお」、「けむし」は、

  「ア・タ」、A-TA(a=belonging to;ta=dash,lay)、「(草丈が)急速に伸びる・種類の(植物。あさ)」

  「アウ」、AU(firm,intense)、「密に締まった(種子)」(AU音がO音に変化して「オ」となった)

  「アウ(ン)ガ・ラ」、AUNGA-RA(aunha=not including;ra,rara=twig,small branch,expose to the heat of fire,dry)、「中空の・(乾燥した)小枝(麻幹)」(「アウ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がG音に変化して「オガ」となった)

  「ニオ」、NIO((Hawaii)highest point,pinnacle,to reach the summit)、「最高の(精選した。麻の繊維)」(この「熟麻(にお)」の語源は、刈稲を円錐形に高く積み上げた「堆(にお)」の語源と同じと解します。また、かいつぶりの古語「鳰(にお」)については、地名篇(その三)の滋賀県の(2)琵琶湖の項を参照してください。)

  「ケム・チ」、KEMU-TI((Hawaii)kemu=to absorb,consume;ti=throw,cast)、「(麻の繊維に付いたかすなどを除去する)精選を・放棄した(粗いままの。麻の繊維)」

の転訛と解します。

537-2ちょま(苧麻)・からむし(苧麻)・まお(真苧)・お(苧)・あおそ(青苧)・たに(商布)・さよみ(貲布)

 苧麻(ちょま)は、イラクサ科の多年草で、茎は直立し、高さ1〜2mに達します。気温,湿度ともに高い気候を好み,日本中部以南の低山地や平地にも広く野生し、栽培することもあり、古来麻と並んで重要な繊維植物でした。収穫は夏場を中心に年に2〜3回茎を刈り取り、水に漬けたのち茎から皮を剥ぎ取り、精製して糸とし、古代から織つて布としてきました。和名を苧麻(からむし)、真苧(まお)または苧(お)と称します。また茎から剥いだ粗繊維を通常青苧(あおそ)と称します(繊維の色から赤苧(あかそ)、白苧(しろそ)と呼ばれる種類の苧麻もありました)。

 「からむし」の語源は、@繊維をとるのに幹(から)すなわち茎を水に浸したのち、むしろをかけて蒸すところから、Aカラは唐で、舶来の改良した物の意、ムシは朝鮮語のmosiまたはアイヌ語のmose(オオバイラクサ)からかとする説があります。

 古代律令制下で交易雑物として中央に貢進された商布(しょうふ。(和訓)たに)は、庸の布が1段が2丈8尺に対し商布は1段が2丈6尺、銭に換算する場合庸布1段が170〜200文、商布1段が125文と低く、品質・用途にも差があったようです。また、貲布(さよみ)は、もとはシナノキの皮の繊維で織った布をいい、のち律令制下の調布の一種で、粗く織った麻布をいいました。

 この「からむし」、「まお」、「お」、「あおそ」、「たに」、「さよみ」は、

  「カラム・チ」、KARAMU-TI(karamu=a shrub(Coprosma robsta etc.),peka puhou(peka=branch of a tree,a flax cape;puhou=a shrub,a girdle made of tutu leaves);ti=throw,cast)、「自生している・叢生(の植物。苧麻)」(注:Coprosmaは、アカネ科の植物のラテン名のようです。アカネ、ヤエムグラなどがこの科に属します。)

  「マ・アウ」、MA-AU(ma=white,pale,clean;au=string,cord)、「白っぽい・糸(繊維。その繊維を採る植物)」(「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」となった)

  「アウ」、AU(string,cord)、「糸(繊維。その繊維を採る植物)」(AU音がO音に変化して「オ」となった)

  「アオ・ト」AO-TO(ao=daytime as opposed to night;to=stem of bulrush or maize etc.)、、「(夜明けから日暮れまでの空の色のように)さまざまの濃淡の色がある・(苧麻の)茎(の繊維)」

  「タ・アニ」、TA-ANI(ta=the...of;ani,aniani=disparage,belittle)、「(丈が短くて)蔑まれる・もの(調布よりも評価か低い。布)」(「タ」のA音と「アニ」の語頭のA音が連結して「タニ」となった)

  「タ・イオ・オミ」、TA-IO-OMI(ta=the...of;io=strand of a rope,warp(vertical threads in weaving);(Hawaii)omi=to wither,droop)、「(布の)縦糸が・(弱くなつた)数が少ない・種類の布(貲布)」(「イオ」のO音と「オミ」の語頭のO音が連結して「ヨミ」となった)

の転訛と解します。

538こうぞ(楮)・がんぴ(雁皮)・とりのこ(鳥子紙)・ゆう(木綿)・ぬさ(幣)

 楮は、クワ科の落葉低木で、高さ2〜10メートル、樹皮の繊維を和紙の原料とします。

 雁皮は、ジンチョウゲ科の落葉低木で、高さ2メートル、極めて強靱な繊維をもつ和紙の原料植物で、古くは「かにひ」といい、楮紙よりも光沢があり、虫害に強く、保存性の高い雁皮紙が作られます。また、雁皮に楮と三椏を混ぜて漉いた平滑・緻密で光沢がある紙を鳥子紙といいます。

 なお、和紙原料ではありませんが、古代律令制度において、楮の皮を蒸して水に浸し、裂いて白くさらした糸を神事の榊に幣(ぬさ)として結びつけたものや、冠や頭に鬘(かずら)としてかけたものを「木綿(ゆう)」といいました。

 「こうぞ」の語源は、カミソ(紙麻)の音便、穀桑の別音クソまたはクウソからとする説があります。

 「ゆう」の語源は、ユフサ(斎麻)の略、ユは白い意味の古語、またユフは結の義、古くはイフ(楮)の皮を用いたところから、祭祀に用いたところからユヲ(斎褸)の転か、湯で垢穢を洗う意などの説が、また、「ぬさ」の語源は、ネギフサ(祈総)の略転、ヌキアサ(抜麻)の略転、ヌはなよらかに垂れる物の意、サはソ(麻)に通ずる、物を木にぬいつけて下げるところからヌイサゲの略、ユフアサ(結麻)の略などの説があります。

 この「こうぞ」、「がんぴ(かにひ)」、「とりのこ」、「ゆう」、「ぬさ」は、

  「カウト」、KAUTO(rub,press,knead)、「(樹皮を)叩く(紙を作る原料の植物)」(AU音がOU音に変化して「コウト」から「コウゾ」となつた)

  「(ン)ガ(ン)ガ・ピ」、NGANGA-PI(nganga=stone of fruit,dregs,refuse;pi=flow of the tide,soaked))、「水に浸して・どろどろにする(紙を作る原料の植物)」(「(ン)ガ(ン)ガ」の最初のNG音がG音に、次のNG音がN音に変化して「ガナ」から「ガン」となった)または「カニ・ピ」、KANI-PI(kani=rub backwards and forwards,sew;pi=flow of the tide,soaked)、「水に浸して・(叩き)練る(紙を作る原料の植物)」(「カニ」が「カン」から「ガン」と、「ピ」のP音がF音を経てH音に変化して「ヒ」となつた)

  「トリノ・コ」、TORINO-KO(torino=twisted,flowing or gliding smoothly,be wafted;ko=to give emphasis)、「すばらしく・滑らかな(紙)」

  「イ・ウフ」、I(past tense,at,upon,with)-UHU(perform certain ceremonies over the bones of the dead to remove tapu)、「(旅行の安全、死者の冥福等を祈る)お祓いなどの神事(に用いる)・(木綿の糸を榊などに)結びつけたもの」(「イ」のI音と「ウフ」の語頭のU音が連結して「ユフ」となり、H音が脱落して「ユウ」となった)

  「ヌイ・タ」、NUI(large,many)-TA(dash,beat,lay)、「たくさんの(麻、木綿の糸や紙片を)・結びつけたもの(幣)」(「ヌイ」のUI音がU音に変化して「ヌ」と、「タ」が「サ」となった)

の転訛と解します。

539わた(棉)

 綿(木綿)は、アオイ科ワタ属の一年草で、種子の表面につく白色の毛状繊維(綿花)を紡績原料とし、種子を搾油原料とします。日本には古来ワタはなく、初めて栽培されたのは桓武天皇の延暦18年とされますが、経済的栽培は16世紀に入ってからとされます。

 なお、棉(木綿)がなかった古代においては、律令制度において「綿」とは繭をほぐして作る絹綿(真綿)を、「木綿(ゆう)」とは楮の皮を蒸して水に浸し、裂いて白くさらした糸を神事の榊に幣(ぬさ)として結びつけたものや、冠や頭に鬘(かずら)としてかけたものを意味していた(538こうぞ(楮)の項を参照してください)。

 「わた」の語源は、衣類の中に詰めるところからワタ(腸)の義、アタタカの略転、仁徳天皇から百済の帰化人が製した絹綿が肌に柔らかであったのでハタ(秦)姓を賜ったところから、サンスクリットのバダラまたはヴァダラの略、ワ(ヤハラカ)・タ(アタタカ)からなどの説があります。

 この「わた」は、

  「ワワタ」、WAWATA(finely divided,having many intersticks,loosely woven or plated)、「ふわふわの(花を付ける植物。その花。わた。棉、綿)」(反復語頭の「ワ」が脱落して「ワタ」となつた)

の転訛と解します。

540あゐ(藍)

 藍は、タデ科の一年草で、高さ80センチメートル、古くから葉や茎は染料原料に用いられました。日本へは飛鳥時代に伝えられたとされます。

 「あゐ」の語源は、アヲイロ(青色)の略、アヲ(青)の転、アヲヰ(青居)の義、アヰ(天居)の義などの説があります。

 この「あゐ」は、

  「アヰ」、AWHI(embrace,sit on eggs as a hen)、「(葉を)堆積して発酵させる(藍(染料)を作る原料の植物。あゐ)」

の転訛と解します。(なお、「くれない(紅)」の語源を「呉(くれ)の藍(あゐ)」とする説がありますが、枕詞の「くれなゐ(紅)の」の項を参照してください。)

541いたどり(虎杖)・たぢ(多遅)・すかんぽ(酸模)

 虎杖は、タデ科の多年草で、高さ1〜2メートル、山野や路傍に叢生し、若い茎はやや酸味があり食用とし、葉は乾燥して煙草の代用とします。古名を「たぢ(多遅)」といい(反正天皇の諡号多遅比瑞歯別(タヂヒノミツハワケ)天皇の由来とされますが、これは誤伝です。古典篇(その八)の218A瑞歯別(ミツハワケ)尊の項を参照してください。)、また「すかんぽ(酸模)」の別名があり、岡山県方言に「しゃじなっぽー」があります。

 「いたどり」の語源は、表皮から糸状のものをとることからイトドリ(糸取)の転、根を薬とすることからイタドリ(痛取)の意などの説があります。

 この「いたどり」、「たぢ」、「すかんぽ」、「しゃじなっぽー」は、

  「イ・タタウ・リ」、I-TATAU-RI(i=past tense,beside;tatau=tie with a cord,repeat one by one;ri=screen,bond,protect)、「(紐で縛ったような)叢(くさむら)と・なつて・(道を)遮る(植物。いたどり)」(「タタウ」のAU音がO音に変化して「タト」から「タド」となつた)

  「タハチチ」、TAHATITI(peg,wedge used to tighten anything)、「びっしりと密生した(植物)」(H音が脱落し、反復語尾が脱落して「タアチ」から「タヂ」となつた)

  「ツ・カ(ン)ガ・ポポ」、TU-KANGA-POPO(tu=stand,settle;kanga=ka=take fire,be lighted,burn;popo=rotten,anything rotten or decayed)、「(火が燃えるように)赤みを・帯びて・(腐つたように)酸っぱい(植物)」(「カ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「カナ」から「カン」と、「ポポ」の反復語尾が脱落して「ポ」となった)

  「チア・チナ・ツポウ」、TIA-TINA-TUPOU(tia=abdomen,stmach;tina=fixed,firm,exhausted,constipated;tupou=bow the head,steep(tupoupou=serious illness))、「(食べると)腹が・重篤な・便秘になる(植物)」(「チア」が「シャ」と、「チナ」が「ジナ」と、「ツポウ」が「ッポー」となった)

の転訛と解します。

542いね(稲)・おかぼ(陸稲)・かがいね(陸稲)・わせ(早稲)・なかて(中生)・おくて(晩稲)・こめ(米)・うるち(粳)・もち(糯・餅)・しとぎ(粢)・めし(飯)・いひ(飯)・こわ(こわいひ。強飯)・かゆ(粥)・もみ(籾)・もみがら(籾殻)・ぬか(糠)

 稲は、イネ科イネ属の一年草で、小麦・とうもろこしと並ぶ世界の三大穀物の一つで、その穀粒の米は、世界でもっとも多くの人々の主要な食糧となっています。野生の稲が栽培化されたのは1万数千年前の中国南部とみられ、日本には縄文時代後期に渡来したと考えられます。主として水田で栽培されますが、畑で栽培される陸稲(おかぼ。古く「はかがいね」とも呼ばれました。)もあり、炊いて粘り気の無い粳米と粘り気があって餅にすることができる糯米があります。また、生育時期の早晩によって早稲、中生、晩稲の品種があります。

 餅は、神饌として、また正月、節句や祝い事の際に糯米を蒸して臼で搗いて作られました。粢は、古く神饌として作られた餅で、米(粳・糯)を水ですりつぶしたものを蒸して作り、後に米粉を蒸して作りました。米に水を加えて火にかけ、水が残るものが粥、水が無くなったものが飯(めし)ですが、古くは米を蒸すのが一般で「いひ(飯)」とも「こわ(強飯)」ともいい、これに対して水を加えて柔らかく炊いた飯を「ひめいひ(姫飯)」といいました。

 穀粒に外皮(籾殻)のついたままのものを籾、籾摺りをして籾殻を取り除いたものを玄米、搗いて表皮を取り除いたものを精米、分離された表皮・胚芽を糠といいます。

 「いね」の語源は、イヒネ(飯寝)の約、イヒネ(飯米)の意、イノチノネ(命根)の略、イキネ(生根。息根)の約、イツクシナヘ(美苗)の約、イ(出)・ネ(タネ(種)のネ)などと、「わせ」の語源は、ハシシネ(疾稲)の約転、ワシリイネ(走稲)の義、ハヤシネ(早稲)の義などと、「おくて」の語源は、オクテ(奥手)の義、オクテ(遅出)の義、オクレトル(後取る)の義とする説があります。

 「こめ」の語源は、コミ(小実)の転、ニコミ(柔実)の略転、コモミ(藁実)の転、その形からコメ(籠目)の義、籾の中にコモル(籠)ところから、コメ(小米)の義、コメ(好米)の義などと、「うるち」の語源は、古名ウルシネの略転、ウルハシイネの略転、サンスクリツトのウリヒの転訛、南方語のブラス(またはブラチ)の転訛と、「もち」の語源は、糯米を蒸してつくるからムシ(蒸)の義、保存に耐えるタモチ(保)の義、モチイヒ(持飯・携飯)の義、マロツキ(円月)の反などと、「しとぎ」の語源は、米を白くなるまでとぐところからシロトギ(白磨)の略、シラトギ(白研)の義、シネトギ(洗米)の義、スリトコカシの反、シトネル(湿練)の義と、「めし」の語源は、キコシメスの略転、メス(召)の転、メシモノの意、メシ(食)の義、ウマシの略転などと、「いひ」の語源は、イ(接頭語)・ヒ(胎芽)から、イ(発語)・ヒ(良)の義、イヒ(息霊)の義、イミヒ(忌火)の義、ユイ(湯稲)の転などと、「かゆ」の語源は、ケユ(食湯)の転、コユ(濃湯)の転、カシギユ(炊湯)の転、カタユル(形緩)の反などと、「もみ」の語源は、モユルミ(萌実)の義、コモミ(藁実)の上略、ミヲマキ(実巻)の反、モミ(最実)の義、マルミ(円実)の義、モミ(揉)の義などと、「ぬか」の語源は、ヌケカハ(脱皮)の義、ヌグカハの反、コメのヌケガラ(脱殻)の義とする説があります。

 この「いね」、「おかぼ」、「かが(いね)」、「わせ」、「なかて」、「おくて」、「こめ」、「うるち」、「もち」、「しとぎ」、「めし」、「いひ」、「こわ(いひ)」、「ひめ(いひ)」、「かゆ」、「もみ」、「もみがら」、「ぬか」は、

  「イネ」、INE(compare,measure;(Hawaii)to pry)、「(他の作物または他の稲の品種と)比較検討する(常にその土地に適した作物または品種を探しているもの。稲)」

  「オカカ・アポ」、OKAKA-APO(okaka=feel a longing,be eager;apo=gather together,heap up)、「(収穫が少なく不安定なのでいつも)たくさんの収穫を・願っている(作物。陸稲)」(「オカカ」の反復語尾が脱落し、その語尾のA音と「アポ」の語頭のA音が連結して「オカポ」から「オカボ」となった)

  「カ(ン)ガ」、KANGA(curse,abuse,execrate;=ka=take fire,burn)、「(収穫が少なく不安定で)呪われている(ような作物。陸稲)」または「(水利がないため地表が)焼ける(ように暑くなって作物がよくできない土地。その土地に栽培される作物)」(NG音がG音に変化して「カガ」となった)

  「ワ・タエ」、WA-TAE(wa=definite space,be far advanced;tae=arrive,come,reach)、「(他の品種よりも)先に・成熟する(品種)」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

  「ナ・アカ・タエ」、NA-AKA-TAE(na=belonging to;(Hawaii)aka=carefully,slowly;tae=arrive,come,reach)、「どちらかといえば・(他の品種よりも)ゆっくりと・成熟する(品種)」(「ナ」のA音と「アカ」の語頭のA音が連結して「ナカ」と、「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」となった)

  「オク・タエ」、OKU-TAE((Hawaii)oku=young stage of goat-fish smaller than the ahuluhulu stage;tae=arrive,come,reach)、「(他の品種と比較して稚魚の段階にある)生育が格段に遅く・成熟する(品種)」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」となった)

  「コメ」、KOME(move the jaw as in eating,eat,food)、「食料(であるもの。米)」または「コマエ」、KOMAE(shrunk,blighted,withered)、「(しぼんだ)乾燥した(米)」(AE音がE音に変化して「コメ」となった)

  「ウ・ルイ・チ」、U-RUI-TI(u=be firm,be fixed,reach its limit;rui=shake,scatter;ti=throw,cast,overcome)、「最後まで・(餅にならずに穀粒が)ばらばらの・ままである(穀物。その種類。うるち)」(「ルイ」の語尾のI音が脱落して「ル」となった)

  「マウ・チ」、MAU-TI(mau=food product,fixed,continuing,confined,constrained;ti=throw,cast,overcome)、「(搗いた結果穀粒が圧縮されて)餅に・なる(穀物。その種類。もち)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)

  「チト(ン)ギ」、TITONGI(peck at,nibble(titoki=chop))、「(米を細かく食い切る)摺り下ろす(しとぎ)」(NG音がG音に変化して「チトギ」から「シトギ」となった)

  「マエ・エチ」、MAE-ETI(mae=languid,listless,withered;eti=shrink,recoil)、「水が(後退して)すっかり無くなって・軟らかくなった(炊きあがった。飯)」(「マエ」のAE音がE音に変化し、そのE音が「エチ」の語頭のE音と連結して「メチ」から「メシ」となった)

  「イヒ」、IHI(split,divide,separate)、「(水を入れた器と米を入れた器を)分離して調理した(蒸した。飯)」(H音が脱落して「イイ」となった)

  「コワ」、KOWHA(split open,take out of the shell,split)、「(水を入れた器と米を入れた器を)分離して調理した(蒸した。飯)」または「コハ」、KOHA(respect,present,gift)、「贈り物(である強飯)」

  「ヒ・マエ」、HI-MAE(hi=raise,rise;mae=languid,listless,withered)、「(嵩が)増えて・柔らかい(炊きあがつた。飯)」(「マエ」のAE音がE音に変化して「メ」となった)

  「カイ・ウ(ン)ガ」、KAI-UNGA(kai=eat,food;unga=act or circumstance of becoming firm(u=be firm,be fixed,reach its limit))、「(液体の状態から)固くなり始めた状態の・食べ物(カユ)」(「カイ」のI音と「ウ(ン)ガ」の語頭のU音が連結し、語尾のNGA音が脱落(名詞形の語尾のNGA音はしばしば脱落します。)して「カユ」となった)

  「モミ」、MOMI(suck,swallow up)、「(膨れあがる)嵩がはる(米。籾)」(籾は長期保管が可能ですが、玄米の2倍以上の容積があります。)

  「モミ・(ン)ガオラ」、MOMI-NGAORA(momi=suck,swallow up;ngaora=burst open as flowers)、「嵩がはる・(花が咲くように)開いた(表皮。籾殻)」(「(ン)ガオラ」のNG音がG音に、AO音がA音に変化して「ガラ」となった)または「モミ・(ン)ガラ」、MOMI-NGARA(momi=suck,swallow up;ngara=snarl)、「嵩がはると・文句が出る(始末に困るもの。表皮。籾殻)」(「(ン)ガラ」のNG音がG音に変化して「ガラ」となった)

  「ヌク・ウカ」、NUKU-UKA(nuku=wide extent,move(nukunuku=remove);uka=hard,firm,be fixed)、「剥ぎ取った・硬い(玄米の表皮。糠)」(「ヌク」のK音が脱落し、その語尾のU音と「ウカ」の語頭のU音が連結して「ヌカ」となった)

の転訛と解します。

543むぎ(麦)・こな(粉)・すいとん・ほうとう・むぎなは(麦縄。麦索)・うどん(饂飩)・ひやむぎ(冷や麦)・そうめん(素麺)・ふすま(麸)

 麦は、穀粒が小さい小麦(こむぎ)、穀粒が大きい大麦(おおむぎ)などの重要な食用穀物を生産する麦類の総称でイネ科の一、二年草です。小麦は、主として粉として食用に供され、すいとん、ほうとう、むぎなは(うどん、切り麦の古名)、うどん、切り麦、冷や麦、素麺などに加工され、大麦は、主として押し麦、挽き割り麦として食用に供されてきました。小麦を製粉したかすは、麸といい、飼料となります。

 「むぎ」の語源は、他の穀類に比して幾度も皮を搗き剥くところからムキ(剥)の転、ムキノギの略、ムクカチの反、冬雪中に萌え出すところからモエキ(萌草)の約、ムレノギ(群芒)の略などと、「うどん」の語源は、奈良時代に唐から伝えられ、熱く煮てたべるところから漢語ウンドン(饂飩)の約と、「そうめん」の語源は、サクメン(索麺)の音転、索麺と書くべきところを誤って素麺と書いたからと、「ふすま」の語源は、麦のフスマ(被衾)の義、フスマ(麸為間)の義とする説があります。

 この「むぎ」、「こな」、「すいとん」、「ほうとう」、「(むぎ)なは」、「うどん」、「ひや(むぎ)」、「そうめん」、「ふすま」は、

  「ムフ・(ン)ギア」、MUHU-NGIA(muhu=grope,overgrown with vegetation;ngia=seem,appear to be)、「(分蘖が旺盛で)繁茂する・ように見える(作物。むぎ)」(「ムフ」のH音が脱落して「ム」と、「(ン)ギア」のNG音がG音に変化し、語尾のA音が脱落して「ギ」となった)

  「コ(ン)ガコ(ン)ガ」、KONGAKONGA(crumbled into fragment,fragment)、「(穀粒を砕いた)粉末(粉)」(NG音がN音に変化し、反復語尾が脱落して「コナ」となった)

  「ツ・ウイ・ト(ン)ガ」、TU-UI-TONGA(tu=stand,settle;ui=disentangle,ralax or loosen a noose;tonga=blemish on the skin,wart,etc.,restrained,suppressed)、「(小麦粉を圧縮した)捏ねたものが・ばらばらに・(汁の中に)入っている(料理。すいとん)」または「瘤(こぶ)を・切り離したようなものが・(汁の中に)入っている(料理。すいとん)」(「ツ」のU音と「ウイ」の語頭のU音が連結して「ツイ」から「スイ」と、「ト(ン)ガ」」のNG音がN音に変化して「トナ」から「トン」となつた)

  「ホウ・トウ」、HOU-TOU(hou=bind,lash together;tou=dip into a liquid,wet)、「(いろいろな食べ物を)まとめて一緒に・汁の中に入れた(料理。ほうとう)」

  「ナハ」、NAHA(noose for snaring ducks)、「(鴨を捕らえる輪)縄状の(麺。麦縄)」

  「ウ(ン)ガ・ト(ン)ガ」、UNGA-TONGA(unga=u=be firm,be fixed,reach its limit;tonga=blemish on the skin,wart,etc.,restrained,suppressed)、「(小麦粉を圧縮した)捏ねたものを・(その極限まで処理した)延ばして縄状にした(麺。うどん)」(「ウ(ン)ガ・ト(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ウナ・トナ」から「ウントン」となり、「ウドン」となつた)

  「ヒヒ・イア」、HIHI-IA(hihi=ray of the sun,feelers of crayfish,any long slender appendages;ia=indeed)、「(小麦粉から作った)実に・細長い(麺。冷や麦)」(「ヒヒ」のH音が脱落して「ヒ」となった)

  「タウ・メ(ン)ゲ」、TAU-MENGE(tau=string of a garment etc.;menge=shrivelled,withered,wrinkled)、「糸のように細い・(しなびる)乾燥した(素麺)」(「タウ」のAU音がOU音に変化して「ソウ」と、「メ(ン)ゲ」のNG音がN音に変化して「メネ」から「メン」となった)(素麺については、国語篇(その二十一)の1464そうめんの項を参照してください。)

  「プツ・ウマ(ン)ガ」、PUTU-UMANGA(putu=lie in a heap,lie one upon another,swell,increase(putuputu=close together,closely woven etc.);umanga=pursuit,custom,habituated)、「(製粉に伴って見掛けの容量が)膨れ上がる・ことが通常であるもの(麩。正しくは麦扁に皮)」(「プツ」のP音がF音を経てH音に変化して「フツ」から「フス」となり、その語尾のU音と「ウマ(ン)ガ」の語頭のU音が連結し、語尾のNGA音が脱落して「フスマ」となつた)(麸については後出の1029襖(ふすま)の項を参照してください。)

の転訛と解します。

544あわ(粟)

 粟は、古くは五穀の一つに数えられる重要な食料とされてきた小さい穀粒が多数付いた長大な房が垂れ下がるイネ科の夏作の一年草ですが、最近の日本ではあまり栽培されなくなりました。東南アジアでは焼畑耕作に結びついて古くから栽培され(中国では房の大きいオオアワを梁、コアワを粟と呼びます。日本の粟はオオアワに属します)、日本でも縄文時代から栽培され、稲作以前の主食の一つであったとみられています。イネ伝来後は、稲作ができない畑地帯、山間の焼き畑や救荒食料などとして栽培されてきました。その品種によって、また同一品種内でも変異が大きい作物で、粳種と糯種があります。

 「あわ」の語源は、

 この「あわ」は、味のアハ(淡)いところから、オホホ(大穂)の音転、ア(小)・ハ(円)の意、粒がアハアハ(散放々々)して粘りがないからなどとする説があります。

  「アウア」、AUA(far advanced,at a great height or depth)、「(住居から)遠く離れた(またははるかに高い場所(山の上など)で栽培する作物。あわ)」

の転訛と解します。

545ひえ(稗)

 稗は、粟とともに日本に伝来し、縄文時代から栽培されてきたイネ科の一年草で、生育の初期にはイネに似ていますが、成長するとイネよりも粗大な葉を生じ、通常イネよりも草丈が高くなり、小さな子実を多数付けたやや小さい穂を多数付けます。湿地でも、生育初期を除き乾燥地でも、高寒冷地でもよく生育し、主として稲作不適地で救荒作物や飼料作物として栽培されています。

 「ひえ」の語源は、ヒ(良)・エ(荏)で荏に似て食うに良いから、日毎に盛んに茂るヒエ(日得)の義、卑しき穀物のイヤシの略転、寒地に作るのでヒエ(冷)の義、風にあたるとこぼれやすいフリエ(振荏)の義、ホミヤセ(穂実痩)の反などとの説があります。

 この「ひえ」は、

  「ヒエ」、HIE((Hawaii)attractive,distinguished,dignified)、「(葉が大きく丈が高くて)目立つ(作物。ひえ)」

の転訛と解します。

546きび(黍)・きみ(黍。古名)・きびだんご(黍団子)

 黍は、弥生時代に伝来したとされる古くは重要な食料でしたが、最近ではほとんど食用とはされず、飼料としてわずかに痩せ地、山間地などで栽培されます。イネ科の一年草で、小さな小実を多数付けた総状の小穂を茎頂から伸びた穂軸に付け、穂が穂軸の両側または片側に散開して垂れるものと垂れないで直立する品種があります。中国華北では古くは度量衡の基準になるほど主要な穀物でしたが、後収量の多い粟にとって代わられたといいます。

 岡山名物の吉備団子は、もともとは黍粉でつくつた団子だつたのでしょうが、現在は白玉粉(米粉)で作られています。

 「きび(きみ)」の語源は、キミ(黄実)の転、マキミ(真黄実)の上略、ケミ(食実)の義、クビフリ(頸振)の反などと、「だんご」の語源は、ダンキ(団喜)の転、米麦の粉をねり団(あつ)めたものであるところから、形が丸いところからとの説があります。

 この「きび」、「きみ」、「(きび)だんご」は、

  「キヒ・ピヒ」、KIHI-PIHI(kihi=cut off,strip of branches etc.;pihi=spring up,begin to grow,shoot)、「穂が・(穂軸から)散開する(作物。きび)」(「キヒ・ピヒ」のH音が脱落して「キピ」から「キビ」となつた)

  「キヒ・ミヒ」、KIHI-MIHI(kihi=cut off,strip of branches etc.;mihi=sigh for,admire,show itself)、「穂が・(いっぱいに稔実しているさまを)見せつける(作物。きび)」(「キヒ・ミヒ」のH音が脱落して「キミ」となつた)

  「タ(ン)ゴ」、TANGO(take up,take in hand,remove)、「(穀粉を捏ねたものから一口大に)手に取った(丸めて蒸したり茹でたりしたもの。団子)」または「タ(ン)ガ・(ン)ガウ」、TANGA-NGAU(tanga=be assembled,row;ngau=bite,hurt,attack)、「(穀粉を丸めたものを)列に並べて・(串に)挿した(焼いたもの。団子)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「ダン」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)

の転訛と解します。

547そば(蕎麦)・そばがき(蕎麦掻き)

 蕎麦は、タデ科の一年草で、種子はそば(食物)の原料として重要な作物です。冷涼な気候に適し、生育期間が2〜3ケ月と短いため、高地での栽培や災害時の救荒作物として有用です。種子は、粉としてそば切り(麺)とし、また蕎麦掻きや菓子に加工します。そば切り(麺)が考案されたのは新しく江戸時代初期であつたという説があります。

 「そば」の語源は、ソバムギ(稜麦)の略、その実に角(かど)があるところからソバ(稜)の義、畑のソバ(傍)に植えるところから、麦に次いで美味である意のソバムギからなどとの説があります。

 この「そば」、「(そば)がき」は、

  「タウ・ウパ」、TAU-UPA(tau=come to rest,be suitable;upa=fixed,at rest,satisfied)、「休閑地に(または休息時に)・適した(作物(または食物)。そば)」(「タウ」の語尾のU音と「ウパ」の語頭のU音が連結し、AU音がO音に変化して「トパ」から「ソバ」となった)

  「(ン)ガキ」、NGAKI(clear off weeds or brushwood,avenge,apply oneself to,strive)、「(そば粉に熱湯を入れ)一心不乱に(掻き回してつくる食べ物。そばがき)」(NG音がG音に変化して「ガキ」となつた)

の転訛と解します。

548よもぎ(蓬)・もぐさ(艾)

 蓬は、各地の山野に自生する芳香があるキク科の多年草で、春に新芽を摘んで餅に入れ、また葉裏の綿毛で灸療治用の艾を作ります。

 「よもぎ」の語源は、ヨモキ(善燃草)の義、ヨクモエクサ(佳萌草)の義、ヨリモヤシキ(捻燃生)の義、ヨモギ(常世萌)の義などと、「もぐさ」の語源は、モエグサ(燃草)の略、モムクサ(揉草)の略、オシマロムルクサの義との説があります。

 この「よもぎ」は、

  「イオ・モ(ン)ギ」、IO-MONGI(io=muscle,spur,ridge;mongi=water)、「川や海の・岸(に生える野草。よもぎ)」(「モ(ン)ギ」のNG音がG音に変化して「モギ」となった)

  「モ・クタ」、MO-KUTA(mo=for,for the benefit of,against;kuta=a rush,encumbrance)、「(灸に用いる)役に立つ・(雑)草(艾)」または「モク・タ」、MOKU-TA(moku=few,little;ta=dash,beat,lay)、「少し・痛む(熱さを感じる治療に用いるもの。艾)」(ちなみに、「きゅう(灸)」は、「キヒ・ウ」、KIHI-U(kihi=indistinct of sound,barely audible;u=bite,gnaw,be fixed,reach its limit)、「静かに・(艾を皮膚の経穴の上で燃やして)熱を与える(治療法。灸)」(「キヒ・ウ」のH音が脱落して「キイ・ウ」から「キュウ」となった)の転訛と解します。)

の転訛と解します。

549しそ(紫蘇)

 紫蘇は、中国原産のシソ科の一年草で、全体に芳香があり、葉、芽、穂を香辛料、着色料として広く利用します。

 この「しそ」は、

  「チ・タウ」、TI-TAU(ti=throw,cast;tau=alight,be suitable,expressing satisfaction)、「(人を満足させる)芳香を・放つ(野菜。しそ)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ソ」となつた)

の転訛と解します。

550せり(芹)

 芹は、各地の水辺に自生するセリ科の多年草で、春から夏に長い匍匐枝を延ばし、栄養繁殖して水・湿地に大きな群落を形成します。春の七草の一つで『日本書紀』、『万葉集』にもでてくる香気高い日本特産野菜の一つです。

 「せり」の語源は、一所にセリ(競)合って生えるから、一所にセマリ(迫)合って生えるから、シゲレリ(茂)の反、セセラギヰ(浅流藺)の義、河の瀬にあるところからなどとの説があります。

 この「せり」は、

  「タイリ」、TAIRI(block up)、「(繁茂して)辺り一面を占拠する(野菜。せり)」(AI音がE音に変化して「テリ」から「セリ」となつた)

の転訛と解します。

551うど(独活)

 独活は、各地の山野に自生するウコギ科の多年草で、その若い茎は芳香があり、古くから山菜として、また原産の野菜として利用されています。現在では、春から秋に肥培管理した根株を室に入れ、また厚く盛土をして食用の軟白茎を養成しています。

 「うど」の語源は、ウヅ(埋)の転、ウド(埋所)の義、ウ(うつほ)・ト(土)から、ウ(うばら)・ト(とげ)からなどとの説があります。

 この「うど」は、

  「ウトウト」、UTOUTO(use vindictively)、「(茎を取っても取っても生えてくる)しつこい(野菜。うど)」(反復語尾が脱落して「ウト」から「ウド」となった)

の転訛と解します。

552たらのき(針桐)・とげ

 たらのきは、ウコギ科の落葉小高木で、幹、茎、葉柄、羽軸、小葉の中脈など随所に鋭いとげのあるところから針桐とも呼ばれ、その若芽はウドに似た香りがあり、山菜の王者の名があります。

 「たら」の語源は、タラは梵語の貝多羅の略、とげがあるところからタラはトガリヤの反との説があります。

 この「たらのき」、「とげ」は、

  「タラ・(ン)ガウ・キ」、TARA-NGAU-KI(tara=point,spike as a thorn,peak,wane;ngau=bite,hurt,act upon,attack;ki=full,very)、「とげが・いたるところを・(攻撃から)防備している(木。たらのき)」(「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」となった)

  「ト・(ン)ゲ」、TO-NGE(to=tingle;nge=noise,screech)、「(刺さると)痛んで・悲鳴を上げるもの(とげ)」(「(ン)ゲ」のNG音がG音に変化して「ゲ」となった)

の転訛と解します。

553わさび(山葵)・わさびおろし(山葵卸)

山葵は、北海道から九州まで各地の谷間に自生するアブラナ科ワサビ属の多年草で、強い辛みをもつ日本特産の香辛野菜です。渓流に造成されたわさび田で栽培されます。『播磨国風土記』や『延喜式』にもみえ、古くから珍重されてきました。最近の粉わさびや練り山葵の原料は、山葵ではなく、ホースラディッシュ(わさびだいこん)を使用します。山葵の根茎は、細かくすりおろすことで辛みが増すため、わさびおろしの道具はサメの皮をはじめ種々のものが考案されました。 

 「わさび」の語源は、辛いところからワルサナリヒビク(悪障響)の略、ワルシタヒビキ(悪舌響)の義、ハナセメ(鼻迫)の約転、ワサアフヒ(早葵)の義との説があります。

 この「わさび」、「(わさび)おろし」は、

  「ワワタ・ピヒ」、WAWATA-PIHI(wawata=desire earnestly,yearning;pihi=spring up,begin to grow)、「(あまりの刺激に)飛び上がり・たくなる(香辛料。わさび)」(「ワワタ」の反復語頭が脱落して「ワタ」から「ワサ」と、「ピヒ」のH音が脱落して「ピ」から「ビ」となった)

  「オロ・チ」、ORO-TI(oro=sharpen on a stone,grind;ti=throw,cast,overcome)、「(刃物を砥石で研ぐように)磨って・細かくする(すりおろす。器具)」

の転訛と解します。

554さんしょう(山椒)・はじかみ(椒。古名)

 山椒は、北海道から九州まで各地の山地に自生するミカン科の落葉低木で、古くから葉および果実を香辛料として、また薬用として利用してきました。古名をはじかみといいます。(山椒を漢名とする説がありますが、中国には椒、花椒、山胡椒の名はありますが、山椒は山の頂上を指す語で、植物名ではありません。)

 古名の「はじかみ」の語源は、ハジケマ(罅裂子)の転、ハジ(花がハゼて実が出る)・カミラ(韮の古名。味が似る)から、辛くてハ(歯)がシカム(蹙)からとの説があります。

 この「さんしょう」、「はじかみ」は、

  「タ(ン)ガ・チオ」、TANGA-TIO(tanga=be assembled,row;tio=cry,call)、「(あまりの刺激に)悲鳴が・続く(香辛料。さんしょう)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サン」となった)

  「パチ・カミ」、PATI-KAMI(pati=ooze,spurt,splash;kami=eat)、「(噛まれるような)刺激がある(実が)・はじける(野菜)」(「パチ」のP音がF音を経てH音に変化し「ハチ」から「ハジ」となった)または「パチチ・カミ」、PATITI-KAMI(patiti=warm oneself;kami=eat)、「(噛まれるような)刺激があって・(体が)熱くなる(野菜)」(「パチチ」のP音がF音を経てH音に変化し、反復語尾が脱落して「ハチ」から「ハジ」となった)

の転訛と解します。

555しょうが(生姜。生薑)・はじかみ(薑。古名)・ひねしょうが(古生姜)

 生姜(生薑)は、ショウガ科の多年草で、インド原産とされる重要な香辛料です。日本では平安時代にはすでに栽培が行われ、本来山椒を指す「はじかみ」の名を占有するようになりました(「はじかみ」については、前出554さんしょう(山椒)の項を参照してください)。根しょうがと葉しょうががあり、古い根しょうがを「ひねしょうが」と呼びます。

 「しょうが」の語源は、ショウ(乾した薑に対する語)・ガ(薑・姜の呉音カウの約)、キョウクハ(薑顆)の義と、古名の「はじかみ」の語源は、クレノハジカミ(呉椒)の略、ハシアカミ(端赤)の義、ハシカミ(歯蹙)の義、ハシタカラミ(歯舌辛子)の義などと、「ひね」の語源は、ヒイネ(干稲)の約、ヘイネ(経稲)の約、ヒサナレ(久馴)の義、フリナレ(経馴)の義などとの説があります。

 この「しょうが」、「ひね(しょうが)」は、

  「チ・オ(ン)ガ」、TI-ONGA(ti=throw,cast,overcome;onga=agitate,shake about)、「圧倒されるような・刺激がある(野菜。しょうが)」(「オ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「オガ」となった)

  「ヒ(ン)ガイア」、HINGAIA(be fallen upon)、「放置された(古い。生姜)」(NG音がN音に、AI音がE音に変化し、語尾のA音が脱落して「ヒネ」となった)

の転訛と解します。

556みょうが(茗荷)

 茗荷は、本州以南の温暖地に自生するショウガ科の多年草で、全草に独特の芳香と辛みがあり、古くから花や若い茎葉が香辛料として利用されてきました。

 「みょうが」の語源は、メガ(妹香)の音便、セウガ(薑)の対で男の称セに対しメは女との説があります。

 この「みょうが」は、

  「ミヒ・オ(ン)ガ」、MIHI-ONGA(mihi=sigh for,greet,admire;onga=agitate,shake about)、「感嘆する・(良好な)刺激がある(野菜。みょうが)」(「ミヒ」のH音が脱落して「ミイ」と、「オ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「オガ」となった)

の転訛と解します。

557わらび(蕨)・はな(蕨粉)・ほだ(蕨。方言)・ぜんまい(薇)

 蕨は、シダの一種、コバノイシカグマ科の夏緑性草本で、山間の日向の斜面などに自生する春の代表的な山菜で、古くは薇も含めて蕨と総称していました。若芽を摘んであくを抜いて食用とし、塩漬けや乾燥して保存食とし、根茎からでんぷん(蕨粉。「はな」といいます)を採取して救荒食料としました。秋田県角館地方では蕨を「ほだ」といい、蛇に噛まれたときにほだを揉んで傷口につけると治るといいました(蕨は多量の蓚酸を含みます)。

 薇は、ゼンマイ科の夏緑性シダで、平地から山地にかけての林下に自生する春の代表的な山菜です。展開しない若芽を摘んであく抜きをしてから乾燥させて食用とします。

 「わらび」の語源は、ネネリヤカメグキ(撓々芽茎)の義、ワラハテフリ(童手振)の義、形がワラヒ(藁火)に似ているからワラノヒ(曲平伸)の略、色が焼いた藁に似ているからワラヒ(藁火)、ワナミ(輪並)の義などと、「ぜんまい」の語源は、芽が銭の大きさに巻いているところから、ゼニマキ(銭巻)の音便、シジミメマキ(縮芽巻)のの義、機械のゼンマイに似ているからとの説があります。

 この「わらび」、「はな」、「ほだ」、「ぜんまい」は、

  「ワラ・アピアピ」、WARA-APIAPI(wara=desire,rumour;apiapi=crowded,confined)、「評判の高い・(先端が)握り拳のような(山菜。わらび)」(「ワラ」の語尾のA音と「アピアピ」の語頭のA音が連結し、反復語尾が脱落して「ワラピ」から「ワラビ」となった)

  「ワ(ン)ガイ」、WHANGAI(feed,nourish,offer as food)、「(人の命を)養うもの(救荒食料。蕨粉)」(WH音がH音に、NG音がN音に変化し、語尾のI音が脱落して「ハナ」となった)

  「ホタ」、HOTA(press on)、「(蛇に噛まれた傷口に揉んで)押しつける(薬。蕨)」

  「テナ・マウイ」、TENA-MAUI(tena=encourage,urge forward;maui=left hand,a convolute scroll pattern)、「(上に)力強く伸びる・渦を巻いている(若芽。その植物。ぜんまい)」(「テナ」が「ゼン」と、「マウイ」のUI音がI音に変化して「マイ」となった)(「発条(ぜんまい)」も同じ語源です。)

の転訛と解します。

558たで(蓼)

 蓼は、タデ科タデ属の植物の総称ですが、狭義には「蓼食う虫も好き好き」の語源となった葉が辛く、形が柳の葉に似るタデ科の一年草ヤナギタデをいいます。これは水中でも盛んに発芽し、冠水した葉は水中で光合成ができるので、水位が不規則に変動する水辺に多く生えます。葉は香辛料としてタデ酢などに用いられます。

 「たで」の語源は、辛いところからタダレ(爛)の義、トカタケ(咎闌)の反、シタアヂアレ(舌味荒)の義、双葉のときから辛みを持つのでタテ(持出)の義との説があります。

 この「たで」は、

  「タ・タイ」、TA-TAI(ta=dash,lay;tai=the sea,the coast,tide)、「(水位が変動する)水辺に・生育する(植物。たで)」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「デ」となつた)

の転訛と解します。

559あかざ(藜)

 藜は、アカザ科の一年草で、芽芯や若芽が赤いことからアカザの名があるとされます。路傍や乾燥した荒れ地に自生し、茎はよく分枝し、高さ1メートル以上に達し、赤みの目立たないシロザとともに、その若芽は食用となり、茎は乾燥して老人の杖に用います。

 「あかざ」の語源は、アカアサ(赤麻)の約、アカナ(赤菜)の音通、アカクサ(赤草)の意、アカアザ(赤痣)の略、アカネハ(茜葉)の義などとの説があります。

 この「あかざ」は、

  「ア・カ・タ」、A-KA-TA(a=belonging to;ka=take fire,be lighted,burn;ta=dash,beat,lay)、「(火が燃えるような)赤い・色の・芽をふく(植物。あかざ)」または「ア・カタカタ」、A-KATAKATA(a=belonging to;katakata=dry up)、「乾燥地に・多い(植物。あかざ)」(「カタカタ」の反復語尾が脱落して「カサ」から「カザ」となつた。乾燥した肌などの形容「カサカサ」と同じ語源です)

の転訛と解します。

560おおばこ(大葉子。車前草)

 大葉子(車前草)は、東アジアに広く分布するオオバコ科の多年草で、路傍や裸地によくみられます。芽の位置が低く葉や茎に強い繊維があって、踏まれてもよく耐えることができます。若葉は食用に、葉、種子は薬用にされます。

 「おおばこ」の語源は、オホハコ(大葉子)の義、オホバコバ(大葉小葉)の略との説があります。

 この「おおばこ」は、

  「オフ・パコパコ」、OHU-PAKOPAKO(ohu=stoop;pakopako=gleanings,scraps of food,a species of plantain)、「大地にへばりついている(丈が低い)・(落ち穂のように)ひっそりと忘れられた(植物。車前草の一種。おおばこ)」(「オフ」のH音が脱落して「オウ」から「オオ」と、「パコパコ」の反復語尾が脱落して「パコ」から「バコ」となった)

の転訛と解します。

561ひゆ

 ひゆは、インド原産のヒユ科の一年草で、古くから薬用または鑑賞用に栽培されてきました。葉に黄・紅・暗紫色など変異のあるものが多く、夏から秋に花穂を高く伸ばします。若い葉茎は熱帯地方で広く蔬菜として利用されます。「ハゲイトウ」はこれから育成されました。また「けいとう(鶏頭)」もこの仲間です。(けいとう(鶏頭)については、599-5けいとう(鶏頭)の項を参照してください。)

 「ひゆ」の語源は、ヒイル(氷入)の義、炎天下で折っても枯れないところからヒヨ(日強)の義、ヘシ・ユズの反、ヒハユ(日映)の義、諸菜のなかでとくに茎葉が高くみえるのでミユ(見)の義との説があります。

 この「ひゆ」は、

  「ヒ・イフ」、HI-IHU(hi=raise,rise;ihu=nose)、「(頂上に鼻のように)花穂を・高く伸ばす(植物。ひゆ)」(「ヒ」のI音と、「イフ」の語頭のI音が連結し、H音が脱落して「ヒユ」となった)

の転訛と解します。

562だいこん(大根)・おおね(淤富泥。古名)・すずしろ(蘿蔔。古名)・かがみぐさ(鏡草。古名)・たくあんづけ(沢庵漬)・べったらづけ・ふろふき(風呂吹き)・しもつかれ

 大根は、東地中海地域原産のアブラナ科の二年草で、古くから栽培・利用された重要な野菜で、古名を大根(おおね。『古事記』に「淤富泥(おほね)」とみえます)、蘿蔔(春の七草の一つとされています)、鏡草(とくに古く宮中で元日に鏡餅の上に置いた大根の輪切りおよび大根そのものの称です)といいました。日本の大根は、世界でも最も品種の変化に富み、料理法もまた多岐にわたっています。

 「すずしろ」の語源は、スズナの代わりに用いるところからスズシロ(菘代)の義スズシシロ(涼白)の義、スズ(小)・シロ(白)の義と、「たくあんづけ」の語源は、沢庵和尚がが漬けはじめたから、タクワヘ(貯へ)漬の誤り、沢庵和尚の墓石の形が漬物石に似ていたなどの説があります。、

 この「おおね」、「すずしろ」、「かがみ(ぐさ)」、「たくあん(づけ)」、「べったら(づけ)」、「ふろふき」・「しもつかれ」は、

  「オホオホ・ネイ」、OHOOHO-NEI(ohooho=of great value,needing care(Hawaii)to acclaim;nei=to denote proximity to or connection with the speaker,to indicate contonuance of action)、「たいへん(身近で親しみがある)・用途が広い(価値が高い野菜。大根)」(「オホオホ」の反覆語尾が脱落して「オホ」から「オオ」と、「ネイ」が「ネ」となった)

  「ツツ・チ・ロ」、TUTU-TI-RO(tutu=move with vigour,be raised,violent;ti=throw,cast,overcome;ro=roto=inside)、「力強く・(土)中へ・伸びる(野菜。大根)」

  「カハ・(ン)ガミ」、KAHA-NGAMI(kaha=rope;ngami,whakangami=swallow up)、「太くなった・縄(のような野菜。大根)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「(ン)ガミ」のNG音がG音に変化して「ガミ」となった)

  「タク・ワナ」、TAKU-WHANA(taku=slow;whana=recoil,rush,charge,impel)、「ゆっくりと(時間をかけて)・(漬物石で)押す(大根の漬物)」(「ワナ」が「ワン」、「アン」となった)

  「ペタペタ・アラ」、PETAPETA-ARA(petapeta=all at once,worn out;ara=way,layer of grass thatch on a roof)、「(屋根をこけら板で葺くように輪切りの大根を)並べて・(薄塩と麹で)即席に(漬けた。大根の漬物)」(「ペタペタ」の反復語尾が脱落した語尾のA音と「アラ」の語頭のA音が連結して「ペタラ」から「ベッタラ」となった)

  「フラ・アウ・フキ」、HURA-AU-HUKI(hura=remove a covering,bare;au=smoke,fog,sea;huki=spit,stick in)、「皮を剥いた(大根を)・蒸して・串を刺す(火の通り具合を確かめる。大根料理)」(「フラ」の語尾のA音と「アウ」の語頭のA音が連結したAU音がO音に変化して「フロ」となった)

  「チモ・ツカハ・ラエ」、TIMO-TUKAHA-RAE(timo=peck as a bird,prick;tukaha=strenuous,vigorous,hasty;rae=forehead,temple)、「(大根を)力をこめて・(鳥がつつくように)粗くおろして・(鮭の)頭(とともに煮る。北関東地方の郷土料理)」(「チモ」が「シモ」と、「ツカハ」のH音が脱落して「ツカ」と、「ラエ」のAE音がE音に変化して「レ」となった)(『嬉遊笑覧』巻之十は往古の「すむつかり」(炒り大豆に酢をかけたもの)の遺製が江戸時代の武蔵、下野、上野の「すみづかり」(粗くおろした大根を搾り炒り大豆と酒粕を加えて煮たもの)になったとしますが、現在の群馬県、栃木県には「すみづかり」の語は残っていないようです。なお、この「すみづかり」は、「ツ・ウミ・ツカリ」、TU-UMI-TUKARI(tu=stand,fight with,energetic;(Hawaii)umi=to strangle,suffocate,suppress;tukari=dig and throw up into hillocks)、「(大根を)躍起になって(おろして)・搾って・山のように積み上げた(ものを用いた料理)」の転訛と解します。料理の内容の変遷に伴い、名称も変化したものかも知れません。)

の転訛と解します。

563かぶ(蕪)・かぶら(蕪)・すずな(菘)

 蕪(かぶ。かぶら)は、アブラナ科の二年草で、古くはすずなともいい、春の七草の一つでした。主として根の部分を利用し、煮食のほか漬物としてよく利用されます。

 「かぶ」の語源は、カブ(根)の義と、「かぶら」の語源は、カブラナ(根茎菜)の略、カブアル(株有)の義、カフナ(下分菜)の転、カシラカブリ(頭円)の略、カブラ矢(鏑矢)の形に似るからなどと、「すずな」の語源は、小菜の義、スズハナナ(鈴花菜)の略との説があります。

 この「かぶ」、「かぶら」、「すずな」は、

  「カプ」、KAPU(hollow of the hand(kapunga=palm of the hand,handful))、「手のひらの窪み(にちょうどおさまる形の野菜。蕪)」

  「カプラ(ン)ガ」、KAPURANGA(handful(kapunga=palm of the hand,handful))、「一掴みの(大きさの野菜。蕪)」(語尾のNGAH音が脱落して「カプラ」から「カブラ」となった)(この語は、「カプ(ン)ガ」と同じく「カプ」から派生した語で同義す。)

  「ツ・ツ(ン)ガ」、TU-TUNGA(tu=stand,be erect,be turned up,indicating disdain;tunga=circumstance etc. of standing,foundation)、「(葉の部分よりも小さいのでとかく)軽視される(または掘り起こした)・根の部分(主として根茎を食べる野菜。蕪)」(「ツ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ツナ」から「ズナ」となった)

の転訛と解します。

564さといも(里芋)・やつがしら(八頭)・ずいき(芋茎)

 里芋は、東南アジア原産のサトイモ科の多年草で、日本では縄文時代から各地で栽培されていたと考えられる重要な野菜です。主として地下の球茎を食用としますが、ずいきと呼ぶ葉柄も食べられます。単に「いも」とも、はたけいも(畑芋)、たいも(田芋)、いへついも(家津芋)などともいいました。

 「やつがしら」の語源は、イヤツカシライモ(彌個頭芋)の義と、「ずいき」の語源は、その塊根の髄すなわち中心から出た茎の義でズイケイ(髄茎)の略、取り分ける時ズイと鳴るから、食べて感激するズイキ(随喜)から、スリクキ(研茎)の転などとの説があります。

 この「さといも」、「やつがしら」、「ずいき」は、

  「タハト・イヒ・マウ」、TAHATO-IHI-MAU(tahato=steep-to,shelving rapidly of the shore;ihi=split,divide,separate;mau=bring,carry)、「(水に浸かっている)湿気の多い土地を好む・(子芋を親芋から)分離して・収穫する(野菜。里芋)」(「タハト」のH音が脱落して「タト」から「サト」と、「イヒ」のH音が脱落して「イ」と、「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)

  「イア・ツカハ・チラハ」、IA-TUKAHA-TIRAHA(ia=indeed;tukaha=strenuous,vigorous,hasty;tiraha=bundle,make into a bundle)、「実に・元気よく・(親芋と子芋が分かれずに一つの)大きな塊になった(品種。里芋)」(「ツカハ・チラハ」のH音が脱落して「ツカ・チラ」から「ツガシラ」となった)

  「ツ・イキ」、TU-IKI(tu=stand,be erect,be turned up,indicating disdain;iki=consume,devour,sweep away,clear off)、「(芋の部分に比して)軽視される・皮を剥いた(茎・葉柄。ずいき)」

の転訛と解します。

565くわい(慈姑)

 慈姑は、中国原産のオモダカ科の水生多年草で、古くから各地の水田で栽培されます。地下茎を食用とします。

 「くわい」の語源は、葉の形からクヒワレヰ(噛破集)の義、クリワカレヰ(栗分率)の義、根は黒くて丸く葉は蘭に似るところからクワヰ(黒丸蘭)の義、水生であるのでカハイモ(河芋)の転略、葉の形が鍬に似るのでクワイモ(鍬芋)の略などの説があります。

 この「くわい」は、

  「クワイ」、KUWAI(wet,watery)、「水の中で生育する(品種。慈姑)」

の転訛と解します。

566うり(瓜)・きゅうり(胡瓜)・すいか(西瓜)

 瓜は、広義にはウリ科に属する栽培植物やその果実の総称ですが、狭義にはきゅうり、すいか、まくわうり、しろうり、メロンなどキュウリ属の果実を指します。ウリ類の果実は、多肉・多汁な果肉を有するものが多いので、食用として重要です。

 「うり」の語源は、ウルミ(熟実)の意、ウル(潤)に通ずる、口の渇きをウルホスから、ウム(熟)ラシの反などと、「きゅうり」の語源は、キウリ(黄瓜)の義、キウリ(木瓜)の義、キウリ(臭瓜)の義などと、「すいか」の語源は、サイカ(西瓜の唐音)の転との説があります。

 この「うり」、「きゅうり」、「すいか」は、

  「ウ・リ」、U-RI((Hawaii)u=breast,soaked,to drip,ooze;ri=screen,protect,bind)、「水が滴る(果肉を)・(果皮が)覆っている(果実。瓜)」または「フリ」、HURI(seed,young shoot)、「(中に)種子(が多い。瓜)」(H音が脱落して「ウリ」となった)

  「キ・フリ」、KI-HURI(ki=full,very;huri=seed,young shoot)、「(中に)種子が・たくさんある(果肉をもつ瓜。胡瓜)」(「フリ」のH音が脱落して「ウリ」となった)

  「ツヒ・カハ」、TUHI-KAHA(tuhi=write,adorn with painting;kaha=rope)、「(外側に)縄(の模様)が・書いてある(瓜。西瓜)」(「ツヒ・カハ」のH音が脱落して「ツイ・カア」から「スイカ」となった)

の転訛と解します。

567なす(茄子)・なすび(茄子)

 茄子は、インド原産のナス科の一年草で、重要な果菜として古くから栽培されています。「なすび」ともいい、夏には次々と実が成り、煮食、漬物として利用されます。

 「なす」は「なすび」の転と、「なすび」の語源は、ナカスミ(中酸実)の約略、ナリススム(生進)の略、ニアヰスミミ(丹藍墨実)の義、ナスミ(茄子・生実)の義、ナヒミ(生染実)の転などとの説があります。

 この「なす」、「なすび」は、

  「ナ・ツ」、NA-TU(na=satisfied,content;tu=serve,send)、「十分に(満足するほど大量に)・(果実を)供給する(野菜。なす)」

  「ナ・ツ・ピピ」、NA-TU-PIPI(na=satisfied,content;tu=serve,send;pipi=half-grown,not matured,yielding)、「十分に(満足するほど大量に)・供給される・未熟な果実(なす)」(「ピピ」の反復語尾が脱落して「ピ」から「ビ」となった)

の転訛と解します。

568ねぎ(葱)・き(葱。古名)・ねぶか(根深。古名)・にら(韮)・みら(韮。古名)・にんにく(大蒜)・らっきょう(辣韮)・わけぎ(分葱)・あさつき(浅葱)・のびる(野蒜)・ぎょうじゃにんにく(行者大蒜)

 葱は、中国西部またはシベリア地域原産の特有の刺激臭をもつユリ科ネギ属の多年草で、葉の部分を食用とする重要な野菜として古くから栽培されています。古くは「き」(『日本書紀』には「岐」とみえます)または「ねぶか」ともいいました。

 韮は、東アジア原産のネギ属の野菜で、葉を食用とし、全体に強い匂いがあり、大きな株となって束生します。古くは「みら」といいました。

 大蒜は、西アジア原産とみられるネギ属の野菜で、地下の大型の鱗茎を食用または強壮薬に用いるため栽培され、全体に強烈な刺激臭があります。

 辣韮は、東アジア独特のネギ属の野菜で、初秋に茎葉を伸ばして花を付け、冬も葉が枯れずに越冬し、夏に葉が枯れて休眠する直前に地下の鱗茎を収穫し、主として漬物とします。(これは漢名辣韮(ラッキュウ)の転とする説がありますが、「ラッキュウ」の音に似た縄文語の音でその本質を表現した名称と考えます。)

 分葱は、葱よりも小ぶりで葉も細く、匂いも少なく、若いうちに食用とします。

 浅葱は、海岸や山地にも自生し、分葱よりも葉が細く、匂いも少ないのが特徴です。

 野蒜は、日本全土の山野、堤、路傍に自生し、春に細い葉と鱗茎を食用とします。

 行者大蒜は、北海道から近畿までの山地に自生し、葉は扁平で長楕円形、初夏に中心から花茎を伸ばして白色花を開いて葉は枯死します。強いニンニク臭を持ち、若芽、根茎を食用とします。

 「ねぎ」の語源は、キ(葱)の根を食することからネギ(根葱)の義、キ(葱)の根を植えることからネギ(根葱)の義、ネグキ(根茎)の義、その臭がキタナシの義などと、「にら」の語源は、ニホヒキラフ(匂嫌)の略、ミラの転訛、細く伸びた形なのでノヒラカの反、ネメヒラ(根芽平)の義、髪に似るところからニ(似)・ラ(頭)の義と、「にんにく」の語源は、ニホヒニクム(匂悪)の略、カニホヒニク(香匂憎)の義、仏教で禁じられていたため隠れて食べたので「忍辱」の音からと、「ぎょうじゃにんにく」の語源は、行者がこれを食べて苦しい修行に耐えたからとの説があります。

 この「ねぎ」、「き」、「ねぶか」、「にら」、「みら」、「にんにく」、「らっきょう」、「わけぎ」、「あさつき」、「のびる」、「ぎょうじゃ(にんにく)」は、

  「ネイ・キヒ」、NEI-KIHI(nei,neinei=stretch forwards;(Hawaii)kihi=edge,tip,sharp point of a leaf)、「(葉の)先が鋭く尖って・伸びている(野菜。ねぎ)」

  「キヒ」、KIHI((Hawaii)edge,tip,sharp point of a leaf)、「(葉の)先が鋭く尖っている(野菜。ねぎ)」

  「ネイ・プカカ」、NEI-PUKAKA(nei=to denote proximity to,to indicate continuance of action;pukaka=straight-grained,direct)、「すうっと・(縦に)真っ直ぐ目が通る(真っ直ぐ裂ける野菜。葱)」(「ネイ」が「ネ」と、「プカカ」の反復語尾が脱落して「プカ」から「ブカ」となった)

  「ニヒ・ヒラ」、NIHI-HIRA(nihi,ninihi=steep,move stealthly,surprise;hira=numerous,great)、「たくさん増えて(または薬効が高くて)・びっくりする(野菜。にら)」(「ニヒ」・「ヒラ」のH音が脱落して「ニ・ラ」から「ニラ」となった)

  「ミラ」、MIRA(lashing,binding)、「一かたまり(の大きな株にすぐ成長する野菜。韮)」

  「ニニヒ・ニク」、NINIHI-NIKU(nihi,ninihi=steep,move stealthly,surprise;(Hawaii)niku=dirty,smelly,filthy)、「臭くて・びっくりする(野菜。にんにく)」(「ニニヒ」のH音が脱落して「ニニ」から「ニン」となった)

  「ララ・キオ」、RARA-KIO(rara=dry,scorch;kio=projection,protuberance)、「(夏に)葉が枯れる・(根が)太った(野菜。辣韮)」(「ララ」の反覆語尾が脱落して「ラッ」と、「キオ」が「キョウ」となつた)

  「ワカ・エ(ン)ギア」、WHAKA-ENGIA(whaka=make an immediate return for anything,towards;engia=expressing assent)、「全く・(芽が)伸びたらすぐに(若いうちに食べる葱。分葱)」(「ワカ」の語尾のA音と「エ(ン)ギア」の語頭のE音が連結してE音に、NG音がG音に変化し、語尾のA音が脱落して「ワケギ」となった)

  「アタ・ツキ」、ATA-TUKI(ata=gently,slowly,vlearly;tuki=beat,butt,attack)、「優しく・刺激する(葱。浅葱)」

  「ノ・ピピ・ウル」、NO-PIPI-URU(no=belonging to;pipi=half-grown,not matured,yielding;uru=head,hair of the head)、「未熟な(若い)・髪の毛・のような(細い葱。野蒜)」(「ピピ」の反復語尾が脱落して「ピ」から「ビ」と、「ウル」の語頭のU音が脱落して「ル」となった)

  「(ン)ギ(ン)ギオ・チア」、NGINGIO-TIA(ngingio=withered,shrivelled,wrinkled;tia=adorn by sticking in feathers,peg)、「(しなびたように)扁平な(葉が)・(花茎の周りを飾っている)生えている(葱。行者大蒜)」(「(ン)ギ(ン)ギオ」の反復語幹が脱落し、NG音がG音に変化して「ギオ」から「ギョウ」と、「チア」が「チャ」から「ジャ」となった)

の転訛と解します。

569ごぼう(牛蒡)・きたきす(牛蒡。古名)・うまふぶき(牛蒡。古名)・きんぴらごぼう(金平牛蒡)

 牛蒡は、ヨーロッパ、シベリアから中国東北地方原産のキク科の二年草で、古くから長く伸びた根を食用・薬用としますが、日本人以外はほとんど利用しないものです。牛蒡は、「ごんぼ」、「ごんぼう」ともいい、古くは「きたきす」、「うまふぶき」の名がありました。

 金平牛蒡は、細く刻んだ牛蒡をごま油で炒め、醤油と砂糖で煮詰め、唐辛子を振りかけた料理で、強精作用があるとして坂田金時の子の怪力で知られる金平(きんぴら)の名が付けられたとする説があります。

 この「ごぼう」、「きたきす」、「うまふぶき」、「きんぴら(ごぼう)」は、

  「(ン)ゴ(ン)ゴ・ポウ」、NGONGO-POU(ngongo=sad,low-born,sick person;pou=pole,stake)、「卑しい生まれの・棒(のような野菜。ごぼう)」(「(ン)ゴ(ン)ゴ」のNG音がG音に変化し、反復語尾が脱落して「ゴ」となつた。または「(ン)ゴ(ン)ゴ」の最初のNG音がG音に、次のNG音がN音に変化して「ゴノ」から「ゴン」となった)

  「キタ・アキツ」、KITA-AKITU(kita=tightly,intensely;akitu=close in on,point,end)、「固い・先端を持つ(野菜。牛蒡)」(「キタ」の語尾のA音と「アキツ」の語頭のA音が連結して「キタキツ」から「キタキス」となった)

  「ウマ(ン)ガ・フフキ」、UMANGA-HUHUKI(umanga=pursuit,food(applied only to birds and rats);huhuki=huki=spit a bird etc. on a stick,spit consisting of a single pointed stick on which fish etc. are roasted)、「焼き串に突き刺して焼いた・小動物(のような色・形の野菜。牛蒡)」(「ウマ(ン)ガ」の語尾のNGA音が脱落して「ウマ」となった)

  「キノ・ピララ」、KINO-PIRARA(kino=evil,bad,dislike;pirara=separated,scattered)、「(唐辛子の)刺激臭を・放つ(料理。きんぴら)」(「キノ」が「キン」と、「ピララ」の反復語尾が脱落して「ピラ」となつた)

の転訛と解します。

570ふき(蕗)・ふきのとう(蕗薹)

 蕗は、日本原産のキク科の多年草で、古くから栽培され、自生しているものも採取して、花茎および葉柄を利用してきました。早春に出芽する花茎を「ふきのとう」、花が咲いた後に出る長い葉柄を「ふき」と呼びます。

 「ふき」の語源は、冬に黄色の花が咲くところからフユキ(冬黄)の中略、フフキの省呼、ハヒロクキ(葉広茎)の義、ヒロハクキ(広葉茎)の義との説があります。

 この「ふき」、「(ふきの)とう」は、

  「フフ・キ」、HUHU-KI(huhu=strip off a outer covering etc.,make bare;ki=full,very,to,at,on)、「(葉柄の)表皮を剥いて・料理する(野菜。ふき)」(「フフ」の反復語尾が脱落して「フ」となった)

  「トフ」、TOHU(mark,sign,point out,show)、「(出芽を)見せつける(もの。薹)」(H音が脱落して「トウ」となった)

の転訛と解します。

571まめ(豆)・いんげん(隠元豆)・ささげ(大角豆)・あずき(小豆)・そらまめ(空豆)・えんどう(豌豆)

 豆は、マメ科の植物およびその種子の総称です。古くはマメは大豆を指しました。いんげんは、マメ科の一年草で、蔓性のものと矮性のものがあり、それぞれ多数の品種があります(下記の解釈からすると、成熟した種子を食用とする大手亡、虎豆、うずら豆の系統を指しているようです)。その名の由来となった隠元禅師が伝えたのは「ふじまめ(藤豆。花の形が藤の花に似るという)」であったとする説があります。ささげも、いんげんと同様多数の品種があります(下記の解釈からすると、蔓性のものを指しているようです)。あずきは、中国原産といわれ、日本へは古く渡来し、祝い事や年中行事に欠かせない赤飯やあずきがゆ、また餡に使われる重要な穀類です。そらまめは、マメ科の一・二年草で、日本ではアフリカ北部原産の大粒種のみ栽培されます。えんどうは、近東地域原産とされ、さやえんどうおよびグリーンピース用に栽培されます(下記の解釈からすると、成熟種子を指しているようです)。

 「まめ」の語源は、マルミ・マロミ(円実)の義、皮が剥けるのでミナムケの反、マミ(馬子)の義と、「いんげん」の語源は、隠元禅師が中国からもたらしたからと、「ささげ」の語源は、サヤが物を差し上げている(先端がやや上へ反り返る)ようだから、ササキ(細小角)の転、ササキ(小牙)の義、ササゲ(小食)の義、サヤホソナギマメ(莢細長豆)の義などと、ア(小)・ツキ(角)の義、早く煮えて軟らかくなるのでア(赤)・ツキ(解)の義、アツキ(赤粒草)の義などと、「そらまめ」の語源は、始めは莢が緑色で空を向いている(後に成熟すると黒色となって下垂する)からと、「えんどう」の語源は、葛の異名苑童をあてたとの説があります。

 この「まめ」、「いんげん」、「ささげ」、「あずき」、「そら(まめ)」、「えんどう」は、

  「マハ・メハ」、MAHA-MEHA(maha=many,abundant;meha=apart,separate)、「多数・(莢から)分離した(穀物。まめ)」(「マハ」・「メハ」のH音が脱落して「マ・メ」となつた)

  「イ・(ン)ゲネ」、I-NGENE(i=past tense;ngene=wrinkle,fold,fat)、「太(ふと)・った(豆。隠元豆)」(「(ン)ゲネ」が「ンゲン」となった)

  「タタ・(ン)ゲ」、TATA(dash down,break in pieces by dashing on the ground,wag,nod)-NGE(thicket)、「灌木に(蔓が巻き付いて成長し)・(うなづくように)莢を垂らす(植物。ささげ)」(「タタ」が「ササ」と、「(ン)ゲ」のNG音がG音に変化して「ゲ」となった)

  「アツア・キ」、ATUA-KI(atua=god,object of superstitious regard,strange,extraordinary;ki=full,very)、「(吉凶によらず)特別の場合に・(食べることが)多い(穀物。あずき)」(「アツア」の語尾のA音が脱落(名詞形の語尾のA音は脱落することが多い)して「アツ」から「アズ」となつた)

  「タウラ(ン)ガ」、TAURANGA(resting place,anchorage for canoes)、「(分厚い莢の)休息場所(の中に居る豆。空豆)」(AU音がO音に変化し、語尾のNGA音が脱落して「トラ」から「ソラ」となった)(なお、「そら(空)」は、「タウラ(ン)ギ」、TAURANGI(unsettled,changing,incomplete)、「(天気が)常に変転するもの(空)」(AU音がO音に変化し、語尾のNGI音が脱落して「トラ」から「ソラ」となった)の転訛と解します。ちなみに、マオリ語で「空」は、「ラ(ン)ギ」、RANGI(sky,heaven)です。)

  「エネ・トウ」、ENE-TOU(ene=flatter,anus;tou=dip into a liquid,wet)、「(表皮に皺があるので)水に漬けて・(喜ばす)膨れる(豆。えんどうまめ)」(「エネ」が「エン」と、「トウ」が「ドウ」となった)

の転訛と解します。

572こんにゃく(蒟蒻)

 蒟蒻は、インドシナ原産のサトイモ科の多年草で、主として北関東や東北の山間の傾斜地で栽培されます。

 「こんにゃく」の語源は、漢語コニャク(蒟蒻)(正しくはクジャクまたはクニャク)の音転との説があります。

 この「こんにゃく」は、

  「コニヒ・ハク」、KONIHI-HAKU(konihi=stealthly,touch lightly;haku=complain of,find fault with)、「軟らかくて掴み難いと・苦情が出る(食物。またはその原料の植物。こんにゃく)」(「コニヒ」のH音が脱落して「コニイ」となり、「ハク」のH音が脱落して「アク」となり、「コニイアク」から「コンニャク」となった)

の転訛と解します。

573うめ(梅)

 梅は、中国原産のバラ科サクラ属の落葉小高木で、中国から薬木として渡来し、奈良時代以前にすでに栽培されていました。古くは「むめ」と呼ばれました。食用としての実梅と観賞用の花梅があります。

 「むめ」の語源は、梅の字音メが変化した、ウメ(烏梅。熟れかけの実を薫製にした薬)から、ウツクシクメヅラシキの略、ウベ(宜。美称)の転、ウヅメ(珍目)の略、ウムミ(熟実)の約転、ウミ(大実)の転などとの説があります。

 この「むめ」は、

  「ムフ・マエ」、MUHU-MAE(muhu=grope,overgrown with vegetation;mae=languid,withered,struck with astonishment etc.)、「鬱蒼と繁茂して・(人の)力を奪う(有毒な実を付ける樹木。梅)」(「ムフ」のH音が脱落して「ム」と、「マエ」のAE音がE音に変化して「メ」となった)

の転訛と解します。

574もも(桃)

 桃は、中国西部原産のバラ科モモ亜属の落葉小高木で、古く日本に渡来し、弥生時代の遺跡から果実の核が出土しています。食用および観賞用に多くの品種があります。

 「もも」の語源は、マミ(真実)の転、色が赤いところからモエミ(燃実)の義、同じくモミジミ(紅葉実)の義。マロマロ(円々)の反、実の多いところからモモ(百)に通ずる、毛のあるところからモモ(毛々)の義などとの説があります。

 この「もも」は、

  「モモ」、MOMO(in good condition,well proportioned)、「良い形の(果実。もも)」

の転訛と解します。

575かき(柿)・ころがき(枯露柿)・かきしぶ(柿渋)

 柿は、果実を食用とするため栽培されるカキノキ科の落葉高木で、日本へは奈良時代に中国から渡来したと考えられています。品種はすこぶる多岐にわたります。白い粉のふいた干し柿を枯露柿といいます。また、柿渋は、昔は傘、渋紙、紙衣など防水・防腐に用いましたが、最近では日本酒製造の清澄剤や染色にも用いられます。

 「かき」の語源は、赤い実が成るのでアカキ(赤木)の上略、その実の色からアカキ(赤)の上略、アカミ(赤子)の義、実が赤いところからカカヤクの略転、実が堅いところからカタキ(堅)の略などとの説があります。

 この「かき」、「ころ(がき)」、「(かき)しぶ」は、

  「カ・ハキ」、KA-HAKI(ka=take fire,burn;haki=expressing disgust,reviling)、「(真っ赤に燃える火のように)赤い色をした・(食べると渋くて)嫌になる(果実。かき)」(「カ」のA音と、「ハキ」のH音が脱落した語頭のA音が連結して「カキ」となった)

  「コロ」、KORO(old man)、「(老人の白髪のような)白い(粉を吹いた干し柿。枯露柿)」

  「チプ」、TIPU(=tupu=increase,issue,be firmly fixed)、「(物の表面に)しっかりと定着する(防水・強化・保存効果を与えるもの。柿渋)」(「チプ」が「シブ」となった)

の転訛と解します。(貝類のかき(牡蠣)については、後出752かき(牡蠣)の項を参照してください。)

576なし(梨)

 梨は、バラ科ナシ属植物の総称ですが、日本ナシは中国原産のヤマナシが改良されたものといわれ、古く7世紀から栽培され、明治以降品種改良が進んでいます。

 「なし」の語源は、ナカシロ(中白)の略、風があると実らないことから風ナシの義、ナス(中酢)の転、奈子の字音、次の年まで色が変わらないところからナマシキの反、ネシロミ(性白実)の義などとの説があります。

 この「なし」は、

  「ナチ」、NATI(pinch or contract)、「(圧縮したように皮や果肉が)堅い(果実。梨)」(「ナチ」が「ナシ」となった)

の転訛と解します。

577みかん(蜜柑)・うんしゅうみかん(温州蜜柑)・たちばな(橘)・からたち(枸橘。枳穀)・くねんぼ(九年母)・きんかん(金柑)・ぽんかん(椪柑)・ぶんたん(文旦)・はっさく(八朔)

 蜜柑は、広義ではからたち、きんかんを含めた柑橘類全体の総称ですが、食用の柑橘類を指す場合もあり、狭義では温州蜜柑だけを指します。これらはいずれもミカン科の常緑果樹です。古くは生食されたミカン(紀州みかんの類)を橘と呼びました。京都御所の紫宸殿の南階下の西側の右近の橘はこれであるとされます。垂仁紀にみえる田道間守が持ち帰った非時香果(ときじくのかくのこのみ)を「たちばな」と呼んだのがこの橘であるとする説があります。日本では橘が古くから野生していました。枸橘は、果実に芳香がありますが、食用ではなく薬用とされます。九年母は、樹高3〜5メートル、果実は、径6センチメートル程度、表皮は厚く種子が多いが甘く生食されます。金柑は、樹高3メートル、果実は径2センチメートル弱、冬に黄金色に熟し、果肉は酸味強く苦味があって果皮は甘く、生食しまた煮食します。椪柑は、インド原産で果実は径6〜8センチメートル、果柄部は凸出し、果皮薄く果肉は芳香と甘味に富んでいます。文旦は、ザボン(ポルトガル語zamboaからとされます)の別名で、径10〜20センチメートル、柑橘類中最大の大きさです。八朔は、広島県原産、果実は適度な甘味と酸味があり、生食に適します。

 「みかん」の語源は、ユカン(柚柑)の転訛、その味からミツカン(蜜柑)の義と、「うんしゅう」の語源については不明(中国浙江省の温州とは全く関係がありません)と、「たちばな」の語源は、田道間守が将来したことからタチマバナ(田道間花)の約転、厳寒の中にあって色象を発するところからタチハナ(立花)の義、タマツリハナナカ(玉釣花中)の反、民家にはないのでタチノハナ(館花)の義、カラタチノハナの義、香りの高く立つ花であるからなどと、「からたち」の語源は、カラタチバナ(唐橘。韓橘)の略、カラタチ(空橘)の義、イカリハリタチ(怒刺立)の義などと、「くねんぼ」の語源は、田道間守が持ち帰るまで9年かかったという伝説から、ボ(母)は別名を乳橘というところから、ク(香)の義、インド語の柑橘kumuranebuの略などと、「きんかん」の語源は、漢名金橘からと、「ぽんかん」の語源は、ポンは原産地インド西部の地名Poonaの中国音からと、「ぶんたん」の語源は、唐人の謝文旦がもたらしたから、文橙の転と、「はっさく」の語源は、旧暦8月1日から食べられるから(実際は8月では未だ小さく、12〜1月に採取され、1〜5月に出荷されるます)との説があります。

 この「みかん」、「うんしゅう(みかん)」、「たちばな」、「からたち」、「くねんぼ」、「きんかん」、「ぽんかん」、「ぶんたん」、「はっさく」は、

  「ミイ・カ(ン)ガ」、MII-KANGA(mii=good-looking;kanga=ka=take fire,be lighted,burn)、「綺麗な・光り輝く(橙黄色の果実。蜜柑)」(「ミイ」が「ミ」と、「カ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「カナ」から「カン」となった)または「ミヒ・カ(ン)ガ」、MIHI-KANGA(mihi=greet,admire;kanga=ka=take fire,be lighted,burn)、「尊敬すべき(神聖な)・光り輝く(橙黄色の果実。蜜柑)」(「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」と、「カ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「カナ」から「カン」となった)

  「ウ(ン)ガ・チウ」、UNGA-TIU(unga=act or circumstance etc. of becoming firm,place etc. of arrival;tiu=soar,wander,swift,prompt)、「(品種改良の)試行錯誤を繰り返した・結果の到達点(である品種。温州蜜柑)」(「ウ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ウナ」から「ウン」と、「チウ」が「シュウ」となった)

  (1)「タハ・チ・パ(ン)ガ」、TAHA-TI-PANGA(taha=side,edge,go by;ti=throw,cast;panga=throw,lay,place)、「(朝廷の紫宸殿の前の)側に・置き・据える(植物。橘)」(「タハ」のH音が脱落して「タ」と、「パ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「パナ」から「バナ」となった)
または(2)「タ・チパ・ナ」、TA-TIPA-NA(ta=the...of,dash,beat,lay;tipa=turn aside,escape(titipa=deceitful;tipatipa=false);na=belonging to)、「実に・(真の非時香果ではない)偽物に・属する(植物。橘)」(「チパ」が「チバ」となった)
または(3)「タ・アチ・パナ」、TA-ATI-PANA(ta=the...of,dash,beat,lay;ati=decsendant,clan;pana=thrust or drive away,cause to come or go forth in any way)、「(とげで)襲う・種類で・(傍らに)寄せ付けない(植物。橘)」(「タ」のA音と「アチ」の語頭のA音が連結して「タチ」と、「パナ」が「バナ」となった)

  「カラ・タハ・チ」、KARA-TAHA-TI(kara,kakara=scent,flavour,savoury;taha=side,edge,go by;ti=throw,cast)、「(果実が)芳香を・周囲に・発散する(植物。橘)」(「タハ」のH音が脱落して「タ」となった)

  「クネ(ン)ガ・ポウ」、KUNENGA-POU(kune,kunenga=plump,swell as pregnancy advances;pou=pole,fasten to a stake etc.)、「太った(果実が)・(高い)枝の先に実る(植物。九年母)」(「クネ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「クネナ」から「クネン」となった)

  「キニ・カ(ン)ガ」、KINI-KANGA(kini=nip,acrid,pungent;kanga=ka=take fire,be lighted,burn)、「(果肉に酸味があって)苦い・光り輝く(橙黄色の果実。金柑)」(「キニ」が「キン」と、「カ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「カナ」から「カン」となった)

  「ポナ・カ(ン)ガ」、PONA-KANGA(pona=knot,joint in the arm or leg;kanga=ka=take fire,be lighted,burn)、「(果実の上部に)瘤がある・光り輝く(橙黄色の果実。椪柑)」(「ポナ」が「ポン」と、「カ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「カナ」から「カン」となった)

  「プ(ン)ガ・タ(ン)ガ」、PUNGA-TANGA(punga=lump,swelling,joint;tanga=be assembled)、「太りに・太った(大きな果実。その植物。文旦)」(「プ(ン)ガ・タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「プナ・タナ」から「ブンタン」となった)

  「ハ・アツ・タク」、HA-ATU-TAKU(ha=what!;atu=to indicate a direction or motion onwards,implying a forward preliminary motion;taku=slow)、「何と・成熟が・遅い(果実。八朔)」(「ハ」のA音と「アツ」の語頭のA音が連結して「ハツ」から「ハッ」となった)

の転訛と解します。

578ゆず(柚子)・だいだい(橙)・すだち(酸橘)・かぼす(臭橙)・しーくわしゃー(沖縄橘)

 柚子は、ミカン科の常緑小高木で、かなりの大木に成長し、果実は偏球形で100〜130グラム、表皮に凸起が多く香りがあり、果肉は酸味強く、日本の代表的調味用柑橘類として用いられます。橙は、200グラムほど、酸味が強く苦味があり、5月に開花し、冬に色付いたものが翌夏には緑化したのち冬に再着色し、翌年まで樹上に止まる特性があります。酸橘、臭橙は柚子の仲間です。沖縄には「しーくわしゃー」という橘があり、青い未熟な酸味の強い果実は芭蕉布の漂白に用い、熟したものは果汁としてレモン代わりに用います。

 「ゆず」の語源は、酸いものであるのでユズ(柚酸)の義、イヤウルフスミ(彌潤酸実)の義、ヨス(彌酢)の義などと、「だいだい」の語源は、新果が実のると旧果が落ちるところから代々の意、へたに台が二つ重なっているところから台台の意、柚子類の中ではとくにおおきいところから大大の義、「しーくわしゃー」の語源は、「酢喰わし」からとの説があります。

 この「ゆず」、「だいだい」、「すだち」、「かぼす」、「しーくわしゃー」は、

  「イ・ウ・ツ」、I-U-TU(i=past tense;u=bite,gnaw,be firm,reach its limit;tu=fight with,be ignited,energetic)、「(酢っぱい)強い刺激が・頂点に達し・ている(果実。柚子)」(「イ・ウ」が「ユ」となった)または「イフ・ツ」、IHU-TU(ihu=nose;tu=stand,settle)、「(表皮に鼻)凸起が・ある(多い果実。柚子)」(「イフ」のH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

  「タヒタヒ」、TAHITAHI(tahi=one,repeated,unique(tahitahi=scrape,touch lightly,within a little))、「(成熟した果実が一斉に落果せず)一つ・また一つ(と落果する果実。橙)」(H音が脱落して「タイタイ」から「ダイダイ」となった)

  「ツ・タ・チ」、TU-TA-TI(tu=fight with,be ignited,energetic;ta=dash.beat,lay;ti=throw,cast,overcome)、「(酢っぱい)強い刺激が・襲って・拡散する(果実。酸橘)」

  「カポ・ツ」、KAPO-TU(kapo=catch at,anatch,flash;tu=fight with,be ignited,energetic)、「飛びかかってくる・(酢っぱい)強い刺激(がある果実。香橙)」

  「チヒ・クワハ・タハ」、TIHI-KUWAHA-TAHA(tihi=summit,top;kuwaha=mouth.entrance;taha=side,spasmodic twitching of the muscles)、「最高に(酢つぱくて)・口を・しかめる(痙攣させる果実。沖縄橘)」(「チヒ」のH音が脱落して「チイ」から「シー」と、「クワハ」のH音が脱落して「クワ」と、「タハ」のH音が脱落して「タア」から「シャー」となった)

の転訛と解します。

579あんず(杏)

 杏は、中国原産のバラ科の落葉小高木で、その果実をいい、平安時代にはカラモモ(唐桃)と呼ばれました。品種も多く、冷涼な高地で栽培されています。

 「あんず」の語源は、杏子の唐音から、アマスウメ(甘酢梅)の義との説があります。

 この「あんず」は、

  「ア(ン)ガ・アツ」、ANGA-ATU(anga=face or move in a certain direction,turn to doing anything;atu=to indicate a direction or motion towards)、「(果肉が核から)離れ・易い(果実。あんず)」(「ア(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「アナ」となつた語尾のA音と、「アツ」の語頭のA音が連結して「アナツ」から「アンズ」となつた)

の転訛と解します。

580びわ(枇杷)

 枇杷は、中国原産のバラ科の常緑小高木で、その果実をいい、日本における栽培は古いものの、自生の果実の小さい品種で、果実としての利用が高まったのは江戸時代に大果の品種茂木が導入され、明治以降普及してからのことでした。

 「びは」の語源は、葉の形がビワ(琵琶)に似ているところから、蜂が総生りになった姿に似ているところからハチフサの反、ヒロハ(広葉)の義との説があります。

 この「びは」は、

  「ピハ」、PIHA((Hawaii)full,filled,complete)、「(果実の中に種子が)一杯に詰まっている(種子が大きくて果肉が少ない果実。びわ)」(大果の品種茂木(もぎ)は、天保・弘化(1830-48)の頃貿易船によって中国からもたらされた種子から長崎県茂木地方で育成されたと伝えられます。この地名の茂木については、地名篇(その十八)の長崎県の(3)のc寄船鼻の項を参照してください。)

の転訛と解します。

581いちじく(無花果)・ほろろいし(無花果。古名)

 無花果は、地中海沿岸地方原産のクワ科の落葉小高木で、栽培果樹としては世界最古とされ、日本へは江戸時代初期に長崎に渡来し、唐柿(とうがき)、南蛮柿(なんばんがき)、「ほろろいし」とも呼ばれ、花が見あたらないままに果実ができるところから無花果と表記されました。

 「いちじく」の語源は、ペルシア語anjirの漢訳映日果(えいじつくわ)の上下略・転音またはその近世音インヂクヲの転、イチジュク(一熟)の義、イタメチチコボル(傷乳覆)の約転との説があります。

 この「いちじく」、「ほろろいし」は、

  「イ・チチ・クフ」、I-TITI-KUHU(i=past tense;titi=peg,pin;kuhu=thrust in,conceal)、「(たくさんの)針(状の果肉)を・中に隠し・ている(果実。いちじく)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」となった)

  「ホロ・ロ・イチ」、HORO-RO-ITI(horo=fall in fragment,crumble down;ro=roto=inside;iti=small)、「(果実の)中味が・小さく・砕ける(果実。無花果)」

の転訛と解します。

582なつめ(棗)

 棗は、クロウメモドキ科の落葉小高木で、中国ではいまでも重要な果樹として栽培され、食用および薬用とされていますが、日本では古く渡来しながら、果樹としては重要視されませんでした。

 「なつめ」の語源は、初夏に芽を出すところからナツメ(夏芽)の義との説があります。

 この「なつめ」は、

  「ナ・ツマエオ」、NA-TUMAEO(na=belonging to;tumaeo=lazy)、「どちらかといえば・無精な(あまり手を掛けることがない果樹。その果実。棗)」(「ツマエオ」のAE音がE音に変化し、語尾のO音が脱落して「ツメ」となった)または「ナツ・メハ」、NATU-MEHA(natu=scratch,tear out;meha=apart,separate)、「(木から)掻き・取る(果実。なつめ)」(「メハ」のH音が脱落して「メ」となつた)

の転訛と解します。

583あけび(木通。通草)

 木通は、山野に自生するアケビ科の落葉蔓性木本で、果実は大きく成熟して裂開します。半透明の果肉は甘く、食用とされます。

 「あけび」の語源は、ムベよりも熟期が早いのでアキ(秋)ムベの意、アケミ(開肉)の転、アカミ(赤実)の転、アマカツミ(甘葛実)の転などとの説があります。

 この「あけび」は、

  「アケ・ピヒ」、AKE-PIHI(ake=forthwith,from below,upwards;pihi=cut,split)、「(ぶら下がって成熟した果実が)上に向かって・裂けて口を開ける(植物。あけび)」(「ピヒ」のH音が脱落して「ピ」から「ビ」となつた)

の転訛と解します。

584はぎ(萩)

 萩は、マメ科ハギ属の落葉低木で、細い枝に可憐な花を付け、秋の訪れを告げる古くから広く親しまれている日本の代表的な植物です。秋の七草の一つで、『万葉集』では梅、桜をしのぐ137首に取り上げられています。

 「はぎ」の語源は、ハエキ(生芽)の意、ハナコシの反、ハヘクキ(延茎)の義、ハヘキ(延木)の義、養蚕に用いる枝を多く束ねたハギ(多枝細条)から、ハヤクキバム(早黄)の義、ハキ(葉黄)の義などとの説があります。

 この「はぎ」は、

  「ハ・ア(ン)ギ」、HA-ANGI(ha=what!,breathe;angi=free,move freely)、「呼吸するように・(風によく)揺れ動く(花。萩)」(「ハ」のA音と、「ア(ン)ギ」のNG音がG音に変化して「アギ」となつたその語頭のA音が連結して「ハギ」となつた)

の転訛と解します。

585れんぎょう(連翹)

 連翹は、中国原産のモクセイ科の株立ちとなる落葉低木で、早春に鮮黄色の花を垂れ下がった枝に多数付けます。

 「れんぎょう」の語源は、枝が多く連なっているところから、トモエソウの漢名「連翹」が誤って用いられたとの説があります。

 この「れんぎょう」は、

  「レ(ン)ガ・(ン)ギア・オフ」、RENGA-NGIA-OHU(renga=fine particles,yellow;ngia=seem,appear to be;ohu=beset in great numbers,surround)、「黄色(の花)が・無数に集まっている・ように見える(植物。連翹)」(「レ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「レナ」から「レン」と、「(ン)ギア」のNG音がG音に変化して「ギア」と、「オフ」のH音が脱落して「オウ」となり、「レン・ギア・オウ」から「レンギョウ」となった)

の転訛と解します。

586やまぶき(山吹)

 山吹は、バラ科の落葉低木で、しなやかな枝に鮮やかな黄色の花を付け、山野に自生し、庭園にも植えられます。古くから親しまれた花です。

 「やまぶき」の語源は、山中に生え花の色がフキ(欸冬)に似るから、ヤマハルキ(山春黄)の約、イヤミナキハナキ(彌実無黄花木)の義、山谷に生え、枝が風に随って振揺れるヤマフキ(山振)の義などとの説があります。

 この「やまぷき」は、

  「イア・マプ・キヒ」、IA-MAPU-KIHI(ia=indeed;mapu=move freely;kihi=strip of branches etc.)、「実に・枝が・風に従って揺れる(木。山吹)」(「マプ」が「マブ」と、「キヒ」のH音が脱落して「キ」となった)
 (この「キヒ(枝条)」から派生した「キヒヒ((枝条が多い、枝条に特徴がある)灌木)」が、マオリ語では「キヒヒ(トベラノキ)」となり、縄文語では日本列島に普遍的に存在する「キヒヒ(山吹)」となって、「黄(色)」の語源となったと考えられます。「黄(色)」については、国語篇(その九)の100きいろいの項を参照してください。)

  または「イア・マ・プキキ」、IA-MA-PUKIKI(ia=indeed;ma=white,clean;pukiki=stunted,puny)、「実に・(清らかな)鮮やかな(黄色の花をつける)・弱々しい(風に揺れる木。山吹)」(「プキキ」の反復語尾が脱落して「プキ」から「ブキ」となった)

の転訛と解します。

587ふじ(藤)

 藤は、日本固有種のマメ科の落葉蔓性木本で、春に長く延びた蔓に淡紫色の長い花房を垂らします。日本人の生活や伝統文化に密接に関連しています。

 「ふじ」の語源は、吹き流しの意のフキチリ(吹散)の略、春の景物であるのでハルトキ(春時)の反、ハルツリ(張釣)の反、古くは蔓を鞭にしたことからブチ(鞭)の義、フサタリキナ(房垂花)の義などとの説があります。

 この「ふじ」は、

  「フチ」、HUTI(hoist,pull out of the ground,fish with a line)、「(持ち上げた)垂れた(花を付ける植物。藤)」

の転訛と解します。

588あじさい(紫陽花)

 紫陽花は、ユキノシタ科の落葉低木で、観賞用として庭園に栽植されるものは、古い時代に山野に自生するガクアジサイを品種改良した園芸種です。紫陽花の花の色は、土壌の酸性度によつて変化します。水分をよく吸うので裏庭など半日陰に植えられることの多い植物です。

 「あじさゐ」の語源は、アヅ(集)・サヰ(サアヰ(真藍))の約転、アヂ(味。美称)・サアヰ(狭藍)の義、アダアヰの略、群れて咲くことからアヂサハヰ(鴨多率)の約、アツサキ(厚咲)の転などとの説があります。

 この「あじさゐ」は、

  「アチ・タヰ」、ATI-TAWHI(ati=descendant,clan;tawhi=hold,hold back,suppressed)、「(日陰に)控えている・種類の(植物。(萼)あじさい)」または「アチチ・タヰ」、ATITI-TAWHI(atiti=turn aside,wander;tawhi=hold,hold back,suppressed)、「(放浪する)花の色を変える・(日陰に)控えている(植物。(萼)あじさい)」(「アチチ」の反復語尾が脱落して「アチ」から「アジ」となった)

の転訛と解します。

589つつじ(躑躅)・さつき(皐月)

 躑躅は、ツツジ科ツツジ属の低木または高木で、常緑または落葉性、花は漏斗状の合弁花で、野生種、栽培種ともに日本は世界一の種類数をもっています。皐月は、ツツジ科ツツジ属の常緑低木で、川岸の岩上に自生します(躑躅、皐月ともに水分を多量に要求する特性があります)が、観賞用として鉢や庭に植えられることも多い植物です。

 「つつじ」の語源は、ツヅキサキギ(続咲木)の義、つぼみが女の乳頭に似るところからタルルチチ(垂乳)の略転、タクヒ(焚火)の転、ツヅリシゲル(綴茂)の義などと、「さつき」の語源は、躑躅よりも遅く陰暦5月に咲く花の意との説があります。

 この「つつじ」、「さつき」は、

  「ツツ・チ」、TUTU-TI(tutu=stand erect,be prominent,summon,assemble,steep in water;ti=throw,cast)、「(燃えるように)一際目だつ(または花が集まって咲く)・(山野に)生えている(植物。躑躅)」または「(水に浸かる)水辺に・生えている(植物。躑躅)」

  「タ・ツキ」、TA-TUKI(ta=the...of,dash;tuki,tutuki=reach the farthest limit,stumble)、「極めて遅く・(一斉に)咲く(躑躅。皐月)」

の転訛と解します。

590くちなし(梔子)

 梔子は、東アジアの暖地に自生するアカネ科の常緑手伊保せくで、白色の美しい香の高い花をつけます。果実は楕円体で6の稜と6の萼裂片があり(碁盤・将棋盤の脚は、「口無し」にちなんでこの果実を象っています)、熟しても裂開せず、黄色の染料に用います。

 「くちなし」の語源は、実が熟しても開かないところからクチナシ(口無)の義、クチニガシ(口苦)の義、キナス(黄為)の義との説があります。

 この「くちなし」は、

  「クチ・ナチ」、KUTI-NATI(kuti=draw tightly together,purse up,contract;nati=pinch or contract,restrain)、「(果実が)堅く・(裂開せずに)締まっている(閉じている植物。梔子)」

の転訛と解します。

591あせび(馬酔木)・あしび(馬酔木。古名)

 馬酔木は、ツツジ科アセビ属の常緑低木で、山地の風当たりの強い乾いた土地に好んで生育し、春に細長い総状花序が垂れ、多数の白い花をつけます。古くは「あしび」といいました。有毒植物です。

 「あしび」の語源は、馬がこの葉を食べると酔って足がなえるところからアシジヒ(足癈)の略、アシタワミ(足撓)の約転、アシミ(悪実)の音便との説があります。

 この「あせび」、「あしび」は、

  「ア・タエ・ピ」、A-TAE-PI(a=the ...of,belonging to;tae=arrive,extend to,amount to;pi=young of bird etc.)、「小さな花が・木一杯に広がって・咲く(植物。馬酔木)」(「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

  「ア・チヒ・ピ」、A-TIHI-PI(a=the ...of,belonging to;tihi=summit,top,lie in a heap;pi=young of bird etc.)、「小さい花が・(木の枝に)吊り下がって・咲く(植物。馬酔木)」(「チヒ」のH音が脱落して「チ」から「シ」となった)

の転訛と解します。

592しゃくなげ(石楠花)

 石楠花は、綺麗な大型の花をつけ、厚い葉を持つツツジ科ツツジ属の常緑低木または小高木で、冷涼で湿度の高い高冷地を好み、乾燥を嫌い、気候への適応力が弱い特性があります。

 「しゃくなげ」の語源は、石楠花は中国産の別種の漢名を誤って用いたとします。

 この「しゃくなげ」は、

  「チ・アク(ン)ガ・(ン)ガイ」、TI-AKUNGA-NGAI(ti=throw,overcome;akunga=rank and file;ngai=tribe,clan,dried leaves of bulrush)、「花が整列・せず(ばらばらに固まって咲く)・葉が(乾燥したように)堅い(植物。石楠花)」(「アク(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「アクナ」と、「(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ゲ」となつた)

の転訛と解します。

593きく(菊)

 菊は、中国原産のキク科の多年草の花の観賞用の栽培種で、奈良時代に渡来し、食用種を含む多くの品種があります。

 「きく」の語源は、菊の字音から、花の形が物を掬い上げるときの手の形に似ていることから「掬」の意による、カク(香薫)の義、キバナグサ(黄花草)の義との説があります。

 この「きく」は、

  「キ・ク」、KI-KU(ki=full,very;ku,kuku=firm,stiff,thickened)、「密集した(花弁からなる花が)・たくさん付く(咲く植物。菊)」

の転訛と解します。

594あざみ(薊)

 薊は、全国いたるところに自生するキク科アザミ属の多年草で、葉はおおむね大形で羽状に裂け、縁に切れ込みがあり、刺(とげ)が多く、紅紫色の半球状の頭花が咲きます。根は食用になります。

 「あざみ」の語源は、アザは八重山語で刺(とげ)の意で、アザミは刺多い物の意、刺の多いのをアザム(惘)意、花に紫と白がアザミ(交)たる義、アラサシモチ(粗刺持)の義、アアスルドハリモチ(噫鋭刺持)の義などとの説があります。

 この「あざみ」は、

  「ア・タミ」、A-TAMI(a=belonging to;tami=press down,repress,suppress,food)、「(葉が打ちひしがれたように)切れ込みがたくさんある・部類の(植物。薊)」または「(根の部分が)食用に・なる(植物。薊)」

の転訛と解します。

595たんぽぽ(蒲公英)・ふじな(蒲公英。古名)・たな(蒲公英。古名)

 蒲公英は、人里の路傍、土手、空き地などに群生するキク科タンポポ属の多年草で、葉はロゼット状に根生し、羽状に切れ込みがあり、春に黄色の舌状花が集まった頭花を花茎の先に付け、果実には白い冠毛が傘状につき、風に乗って飛散します。若葉は食用になります。古くは「ふじな」、「たな」といいました。

 「たんぽぽ」の語源は、タンは古名タナの転、ホホは花後のわたがほほけているところから、鼓草(つづみぐさ)をいうところから、鼓の音を擬した語、タマフキフク(玉吹々)の義、タンポ(槍先につける球形の緩衝材、拓本を取る際墨を付ける球形の道具)ホ(穂)からとの説があります。

 この「たんぽぽ」、「ふじな」、「たな」は、

  「タ(ン)ガ・ポポ」、TANGA-POPO(tanga=be assembled,row;popo=pointed,sharp)、「尖った(細い冠毛が)・集まった(果実をつける植物。蒲公英)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「タン」となった)または「タ(ン)ガ・ポイポイ」、TANGA-POIPOI(tanga=be assembled,row;poipoi=toss,swing,wander about)、「(風に乗って)放浪する(冠毛が)・集まった(果実をつける植物。蒲公英)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「タン」と、「ポイポイ」のOI音がO音に変化して「ポポ」となった)

  「フチ・ナ」、HUTI-NA(huti=hoist,pull out of the ground,fish with a line;na=satisfied,belonging to)、「(花後の冠毛が釣り上げられるように)風に乗って・満足気に飛んでゆく(植物。蒲公英)」

  「タ(ン)ガ」、TANGA(be assembled,row)、「(尖った細い冠毛が)集まった(果実をつける植物。蒲公英)」(NG音がN音に変化して「タナ」となった)

の転訛と解します。(なお、槍先に付け、拓本に用いる「たんぽ」は、「タ(ン)ガ・ポ」、TANGA-PO(tanga=be assembled,row;po,popo=crowd round,throng,pat with the hand,anoint)、「(棒の先に)付けた・(綿を集めた)丸めたもの」または「(棒の先に)付けた・とんとんと軽く叩く(墨を付ける)もの」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「タン」となった)の転訛と解します。)

596あさがお(朝顔)・ひるがお(昼顔)

 朝顔は、アジア原産のヒルガオ科の蔓性の一年草で、日本で観賞用として改良され、江戸時代には多くの品種が育成されました。薬用としては平安時代から栽培されていました。夏の早朝大輪の美しい花を咲かせ、午前中にはしぼみます。

 昼顔は、アジア原産のヒルガオ科の夏緑の蔓性の多年草で、各地の路傍や野原に自生し、朝顔に似た花を昼間に開きます。若芽は食用、全草を薬用とします。

 「あさがほ」の語源は、朝咲いて昼しぼむ花の意、カホは美しい顔の義で朝美しい花の意、アサアヲ(朝青)の転、アサカホル(朝薫)の転との説があります。

 この「あさがほ」、「ひるがお」は、

  「アタ・(ン)ガハウ」、ATA-NGAHAU(ata=early morning;ngahau=brisk,hearty)、「朝(のうちは)・元気な(花。朝顔)」(「(ン)ガハウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ガホ」から「ガオ」となった)

  「ヒ・ル(ン)ガ・(ン)ガハウ」、HI-RUNGA-NGAHAU(hi=raise,rise;runga=the top,up,upwards,up above;ngahau=brisk,hearty)、「(太陽が高く・上にある時刻の)昼(のうちは)・元気な(花。昼顔)」(「ル(ン)ガ」の語尾のNGA音が脱落して「ル」と、「(ン)ガハウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ガホ」から「ガオ」となった)

の転訛と解します。「ゆうがお(夕顔)」については前出の534ひょうたん(瓢箪)の項を参照してください。

597ききょう(桔梗)

 桔梗は、キキョウ科の多年草で、各地の山野の日当たりの良い場所に自生し、夏に綺麗な青紫色の五弁の花を咲かせ、鑑賞用に栽培もされます。『万葉集』の山上憶良の詠んだ秋の七草の「朝貌(あさがほ)」は、この桔梗のこととされます。根にはサポニンを含み、解毒・去痰作用があります。

 この「ききょう」は、

  「キ・キオ」、KI-KIO(ki=full,very;(Hawaii)kio=to excrete,evacuate,give birth to a child(often sarcastic))、「十分に・(毒・痰などを)排出する(薬用植物。桔梗)」(「キオ」が「キョウ」となった)

の転訛と解します。

598りんどう(竜胆)

 竜胆は、リンドウ科の多年草で、各地の山野に自生し、茎は直立し、秋に茎頂および葉腋に綺麗な青紫色の五裂の釣鐘状の花を咲かせます。根は「竜胆(りゅうたん)」として薬用とされます。

 この「りんどう」は、

  「リ(ン)ガ・トフ」、RINGA-TOHU(ringa=hand,arm;tohu=mark,sign,point out,show)、「(五裂する花が直立する茎頂にある)手が・(上を)指し示しているような(花。その植物。竜胆)」(「リ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「リナ」から「リン」と、「トフ」のH音が脱落して「トウ」から「ドウ」となった)

の転訛と解します。

599とりかぶと(鳥兜)

 鳥兜は、各地の山野に自生するキンポウゲ科の多年草で、秋に茎の先端に総状または円錐状の花序に濃い紫色の烏帽子状の多数の花をつけます。漢名の附子(ぶし)は根の形状から、「烏頭(うず)」は花の色・形からとされます。とくに根に強いアルカロイドを含む有毒植物で、人も死に至ることがあり、古くは鳥獣を捕るための矢毒を作っていました。

 「とりかぶと」の語源は、花の形が舞楽で用いる鳥兜に似ているからとの説があります。

 この「とりかぶと」は、

  「ト・リカ・プトト」、TO-RIKA-PUTOTO(to=drag,haul;rika=writhe,impatient,provoking;putoto=bloody,raw)、「(人や動物が)無残に・もだえ苦しむ・結果をもたらす(毒をもつ植物。鳥兜)」(「プトト」の反覆語尾が脱落して「プト」から「ブト」となった)

の転訛と解します。

599-2すみれ(菫)・すもうとりぐさ(相撲取草。古名)

 菫は、日当たりの良い山野に自生するスミレ科の多年草で、地上茎がなく、根から葉と数本の花茎を出し、春に花茎の先に一つづつ濃紫色の可憐な花をつけます。古くは相撲取草ともいいました。

 「すみれ」の語源は、花の形が墨壺の墨さしに似ているところからスミレフデ(墨入筆)の略、花の形がスミイレ(炭入れ)に似ているところからスミイレハナ(墨入花)の義、ソミレ(染)の義などとの説があります。

 この「すみれ」、「すもうとり」は、

  「ツ・ミレ」、TU-MIRE(tu=fight with,energetic;mire,mimire=bind round,lash,seize)、「(花茎を)きつく・(根元で)縛っている(植物。菫)」

  「ツモウ・タウリ」、TUMOU-TAURI(tumou,tumau=fixed,permanent,continuous;tauri=fillet,band,bind)、「(花茎を根元で)帯で・固定しているような(草。菫)」(「タウリ」のAU音がO音に変化して「トリ」となった)

の転訛と解します。

599-3あおい(葵)・あふひ(葵。古名)

 現在葵と呼ばれるものは数種あり、

(1)もっとも古くからアオイ(アフヒ)と呼ばれてきたものはウマノスズクサ科のフタバアオイ(双葉葵)で、湿潤な場所に良く生育する匍匐性の多年草で、初夏に白い花をつけ、カモアオイとも呼ばれて京都の賀茂神社や松尾大社の神事に用いられ、また、徳川家の家紋(三枚の双葉葵の葉を図案化した葵巴紋)にも用いられてきました。下記のマオリ語による解釈はフタバアオイを意味し、従来の語源説はより時代の新しいタチアオイまたはフユアオイを意味しています。

(2)次に一般にアオイと呼ばれるようになったのは葉の形が似ているアオイ科のタチアオイ(立葵。漢名蜀葵)で、ハナアオイ(花葵)ともいい、二年草または多年草、高さ1〜2メートル、夏に赤、桃、白、紫と変化に富む鮮やかな色の花を葉腋の下部から上部へ順次咲かせます。『万葉集』に出てくるアフヒはこの種とする説(ただし、植物学者はこの説を採り、国語学者はフユアオイ説を採る者が多いようです。)があります。

(3)江戸時代以降は新たに渡来したフユアオイ(冬葵)をアオイと呼ぶようになりました。冬葵は、アオイ科の二年草または多年草、高さ0.5〜1メートル、桃色花を夏から秋に葉腋に数花かたまって咲かせます。

(4)他にゼニアオイ(銭葵)、カンアオイ(寒葵)、モミジアオイ(紅葉葵)、トロロアオイ(黄葵)、ホテイアオイ(布袋葵)などがあります。

 「あおい」の語源は、日を仰ぐ意のアフヒ(仰日)から、アフヒ(押日)の義、アフヒ(逢日)の義などとの説があります。

 この「あおい(あふひ)」は、

  「ア・オイ」、A-OI(a=the...of,belonging to,drive,compel;oi=soft mud,grow,be abundant,creep)、「軟らかで湿潤な土地に・生える(植物。葵)」

  「ア・フヒ」、A-HUHI(a=the...of,belonging to,drive,compel;huhi=discomfiture,weariness,swamp,cover)、「(繁殖力が)弱い・部類の(植物。葵)」

の転訛と解します。

599-4なでしこ(撫子)・せきちく(石竹)

 撫子は、北海道を除く全国各地の山野に自生するナデシコ科の多年草で、夏に淡紅色の先が細裂した5弁の可憐な花を開きます。「かわらなでしこ」ともいわれ、秋の七草の一つです。

 石竹は、中国原産のナデシコ科の多年草で、全体に白い粉に覆われたような特徴があり、春に茎頂に縁が鋸歯状に裂けた5弁の花を開きます。江戸時代に鑑賞用として多くの品種が育成されました。

 「なでしこ」の語源は、花が小さく色も愛すべきものであるところからナデシコ(撫子)といったもの、ナデサスリクサ(撫擦草)の義、密茂するところからナヅミシゲ(泥茂)の義、ナテチクソウ(南天竺草)の義との説があります。

 この「なでしこ」、「せきちく」は、

  「ナ・テ・チコ」、NA-TE-TIKO(na=belonging to;te=crack;tiko=stand out,protrude)、「(花弁が)著しく・割れている(細裂している花。撫子)」

  「テ・キ・チクム」、TE-KI-TIKUMU(te=crack;ki=full,very;tikumu=Celmisia spectabilis and other similar species of plant;the silky pellicle or skin of tikumu leaves)、「(花弁の先に)たくさんの・(鋸歯状の)割れ目がある・(キク科植物の一種(例えばヨモギ)のように絹のような肌をした)全体に白い粉に覆われた(植物。石竹)」(「チクム」の語尾のM音が脱落して「チク」となった)

の転訛と解します。

599-5けいとう(鶏頭)・けいとうげ(鶏頭花。異名)

 鶏頭は、ヒユ科の一年草で、古くから鑑賞用に庭園などで栽培され、夏から秋に茎頂に真っ赤な鶏冠のような花序をつけます。古くは鶏頭花(けいとうげ)、唐藍(からあい)ともいいました。

 「けいとう」の語源は、形が鶏冠に似ているところから、漢名鶏冠を鶏頭と誤つたとの説があります。)

 この「けいとう」、「(けいとう)げ」は、

  「ケイ・トウ」、KEI-TOU(kei=stern of a canoe;tou=anus,tail of a bird,kindle,set on fire)、「真っ赤に燃える・舟の艫(とも)のような(形の花。鶏頭)」(なお、「ひゆ」については561ひゆの項を、鶏冠(とさか)については636にわとり(鶏)の項を参照してください。)

  「(ン)ガイ」、NGAI(tribe or clan)、「その(部族)種類に属する(植物)」(NG音がG音に、AI音がE音に変化して「ゲ」となった)

の転訛と解します。

599-6あやめ(菖蒲)・かきつばた(杜若)・しょうぶ(菖蒲)

 あやめは、アヤメ科の多年草で、山野に自生しまた観賞用として庭、池辺などに栽培され、初夏に紫や白の花を咲かせます。垂れ下がった外花被の基部に黄と紫の虎斑模様があり、内花被は直立します。

 かきつばたは、アヤメ科の多年草で、池沼、水辺などの湿地に生え、鑑賞用として栽培されます。アヤメとよく似ていますが、外花被に中央に一本の目立つ白線が入り、その基部の虎斑に紫の横線がなく、葉に中脈がありません。古くは、「かきつはた」といいました。

 しょうぶは、サトイモ科の多年草で、各地の池や川辺に群生します。全体に一種の香気があり、初夏に花茎の先端に淡黄色の小花の密集した円柱形の花穂をつけます。古くは「あやめ」ともいいました。邪気を払い疫病を除くということから端午の節句に菖蒲湯の風習があります。

 「あやめ」の語源は、葉脈からアヤメ(文目)の義、アヤベ(漢部)の輸入した草だから、漢女草の義、アヤ(鮮やか)・メ(見える)から、菖蒲の冠をした女が蛇になったという天竺の伝説から蛇の異名であるアヤメを花の意とした、アヲイヤメ(青彌芽)の義などと、「かきつばた」の語源は、花汁を染料としたところからカキツケハナ(掻付花)の転、カキツケ(書付)・バタ(ハナの転)の義、カケリツババナ(翔燕花)の義、垣下に咲く花の義、カキツバタ(垣端)の義などとする説があります。

 この「あやめ」、「かきつはた(かきつばた)」、「しょうぶ」は、

  「アイ・アマイ」、AI-AMAI(ai=procreate,beget;amai=giddy,dizzy)、「目のくらむような(色鮮やかな)・(外側の)花の中から(内側の)花が生れている(花弁が二重の植物。あやめ)」(「アイ」のI音と「アマイ」の語頭のA音が連結し、AI音がE音に変化して「アヤメ」となった)

  「カキ・ツハ・タ」、KAKI-TUHA-TA(kaki=neck,throat;tuha=spit,expectorate;ta=dash,beat,lay)、「首(にあたる花弁)に・(唾を吐いたような)一本の白線が・ある(花。その植物。かきつばた)」または「カキ・ツ・パタ」、KAKI-TU-PATA(kaki=neck,throat;tu=stand,settle;pata=drop of water etc.,drip,cause)、「首(にあたる花弁)に・(水が流れた跡のような)一本の白線が・ある(花。その植物。かきつばた)(なお、枕詞の「かきつはた」については、国語篇(その五)の212かきつはたの項を参照してください。)

  「チホイ・オプ」、TIHOI-OPU(tihoi=diverge,turn aside;opu=set)、「花弁が(三方に)分岐して・納まっている(花。しょうぶ)」(「チホイ」のH音と語尾のI音が脱落して「チオ」から「ショ」となった)

の転訛と解します。

599-7しゃが(射干。胡蝶花)・いちはつ(一八。鳶尾)

 しゃがは、中国原産のアヤメ科の多年草で、古くから渡来し、低山地に群生します。日陰でも良く育ち、葉は常緑で光沢があり根茎から扇状に出、茎は七つ前後に分枝し、枝ごとに次々と25輪ぐらいの白い胡蝶にたとえられる一日花を咲かせ、走出枝で増えるのが特徴です。

 いちはつは、中国原産のアヤメ科の多年草で、古くから渡来し、庭園に栽培されるとともに、藁屋根の棟に植えて補強に用いられました。「いちはつ」の語源は、4月下旬から開花し、早く咲くのでイチハツ(最初)の義とする説があります。

 この「しゃが」、「いちはつ」は、

  「チ・ア(ン)ガ」、TI-ANGA(ti=throw,cast;anga=face or move in a certain direction,set about doing anything)、「枝を伸ばして(増えてゆく)・葉を一方に扇状に付ける(植物。しゃが)」(「ア(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「アガ」となつた)

  「イチ・パツ」、ITI-PATU(iti=small;patu=screen,wall,edge,boundary(patutu=shelter from the weather))、「小さな・(風よけの)衝立(となる植物。いちはつ)」(「パツ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハツ」となった)

の転訛と解します。

599-8すいせん(水仙)

 水仙は、地中海沿岸地帯の原産で、ヒガンバナ科の多年草、スイセン属の鱗茎植物の総称です。早春に咲く花は、斜め下向きに咲く花冠の中にカツプ状の副花冠が付くのが特徴です。古くは「せつちゅうか(雪中花)」ともいいました。

 「すいせん」の語源は、湿地を好み水を欠くことができないことによるとする説があります。

 この「すいせん」は、

  「ツヒ・タイナ」、TUHI-TAINA(tuhi=odour;taina=younger brother of a man,younger sister of a woman)、「芳香がある・花の中に(妹のような)小さい花をもつ(花。その植物。水仙)」(「ツヒ」のH音が脱落して「ツイ」から「スイ」と、「タイナ」のAI音がE音に変化して「セナ」から「セン」となった)

の転訛と解します。

599-9けし(芥子。罌粟)・つがる(津軽。異名)

 芥子は、東部地中海沿岸から小アジアにかけての地方原産のケシ科の越年草で、5月に大きな美しい一日花をつけ、ケシ坊主という球形の果実の中に極めて小さな種子(ケシの実)を多数結びます。その未熟な球果に傷をつけてアヘンの原料となる乳液を採取します。日本には、足利時代にインドから津軽地方に(?)渡来したらしく、天保年間(1830〜44)に関西にも広がり、はじめ「つがる(津軽)」と呼ばれたといいます。(下記の解釈によれば、「つがる」は地名ではなく、芥子の最大の特徴を表した名称です。)

 「けし」の語源は、「芥子」の音を誤っていった、花が開くと白くなることからヒラケシロシの略、ケ(食)シジム(蹙)の義とする説があります。

 この「けし」、「つがる」は、

  「ケ・エチ」、KE-ETI(ke=different,strange,extraordinary;eti=recoil,shrink)、「異常に・小さくなった(種子。その植物。芥子)」(「ケ」のE音と「エチ」の語頭のE音が連結して「ケチ」から「ケシ」となった)

  「ツ(ン)ガ・ル」、TUNGA-RU(tunga=wound,circumstance etc. of being wounded;ru=shake,agitate,scatter)、「(未熟な球果につけた)傷から・(アヘンの原料となる乳液が)流れ出る(植物。芥子)」()

の転訛と解します。

599-10はす(蓮)・はちす(蓮。古名)・つゆきぐさ(露木草。古名)・つまなしぐさ(妻無草。古名)

 蓮は、ハス科の多年生水草で、古く中国から渡来し、池沼、水路、水田に自生または食用・薬用・観賞用として栽培され、泥中の根茎(蓮根)から高さ1〜2メートルの葉柄・花茎を伸ばします。仏教と結びついた花として生活文化に浸透しています。古くは「はちす(蓮)」、「つゆきぐさ(露木草)」、「つまなしぐさ(妻無草)」などともいいました。

 「はちす」の語源は、蓮の実が蜂の巣に似ていることからハチス(蜂巣)からと、「はす」の語源は、蓮の実が蜂の巣に似ていることからハチスの中略、実が自ら馳せ飛び抜けることからハス(馳)の義とする説があります。

 この「はす」、「はちす」、「つゆき(ぐさ)」、「つまなし(ぐさ)」は、

  「ハ・ツ」、HA-TU((Hawaii)ha=trough,ditch;tu=stand,settle,fight with)、「池沼や水路に・生える(植物。はす)」

  「ハ・チチ・ツ」、HA-TITI-TU((Hawaii)ha=trough,ditch;titi=peg,stick in pegs,be fastened with pegs;tu=stand,settle,fight with)、「池沼や水路に・(水底から)茎を伸ばして・生える(植物。はちす)」(「チチ」の反復語尾が脱落して「チ」となつた)

  「ツイ・ウ・キ」、TUI-U-KI(tui=pierce,thread on a string,sew;u=be firm,be fixed,reach its limit;ki=full,very)、「(定着しかかっているもの)水滴を・たくさん・(葉の上に糸で繋ぎ止めるように)点々と保持する(植物。はす)」(「ツイ・ウ」が「ツユ」となった)

  「ツ・マ(ン)ガ・チチ」、TU-MANGA-TITI(tu=stand,settle,fight with;manga=branch of river,brook,ditch;titi=peg,stick in pegs,be fastened with pegs)、「水路や池沼に・生える・(水底から)茎を伸ばす(植物。はす)」(「マ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「マナ」と、「チチ」の反復語尾が脱落して「チ」から「シ」となった)

の転訛と解します。

599-11ひつじぐさ(羊草)・こうほね(河骨)

 羊草は、日本に野生する数少ないスイレン科の多年生水草で、各地の池沼に自生します。日本で栽培される睡蓮(すいれん。漢語)は、ほとんどが渡来の洋種の睡蓮です。泥中の根茎から長い柄を伸ばして葉を水面に浮かべます。夏花茎を伸ばしてハスに似た白い花をつけ、昼開いて夜閉じ、花後茎は水中に沈んで海綿質の果実を結びます。

 河骨は、日本全国の浅い池沼、水流の緩やかな水路に自生するスイレン科の多年生水草で、根茎は太く白い海綿質で、柄を伸ばして水中葉および水上葉を出し、夏に鮮黄色の大きな萼片の中に目立たない小花がつまった花を水上に咲かせます。

 「ひづじぐさ」の語源は、未(ひつじ)の刻(午後2時)に花を開くから(実際には開花は午前中です。)と、「こうほね」の語源は、根茎が白い骨のようであることからカハホネ(河骨)の音便、カラホネ(幹骨)の義とする説があります。

 この「ひつじ(ぐさ)」、「こうほね」は、

  「ヒ・ツ・チチ」、HI-TU-TITI(hi=raise,catch with hook and line,rise;tu=stand,settle,fight with;titi=peg,stick in pegs,be fastened with pegs)、「(水底から)引っ張り上げられて・いる・茎を伸ばした(植物、羊草)」(「チチ」の反復語尾が脱落して「チ」となった)

  「カウ・ホナエ」、KAU-HONAE(kau=alone,bare,stalk;honae=small basket or wallet)、「茎(の先)に・(小さな花弁が多数入っている)籠のような花(が付く植物。こうほね)」(「カウ」のAU音がOU音に変化して「コウ」と、「ホナエ」のAE音がE音に変化して「ホネ」となった)

の転訛と解します。

599-12をもと(万年青)

 万年青は、ユリ科の常緑多年草で、本州中部以南の山地の樹下などに野生し、江戸時代以降日本独特の観葉植物として、多くの園芸品種が育成されました。

 「をもと」の語源は、豊前の宇佐神宮の東にある御許(おもと)山に産することから、アヲモト(青本)の義、オホモト(大本)の義、オモヒト(母人)の義、「烏木毒」の唐音ヲモトからとする説があります。

 この「をもと」は、

  「アウモウ・トフ」、AUMOU-TOHU(aumou=constant,persistent;tohu=mark,show,preserve)、「いつまでも変わらない・(姿を)見せる(植物。おもと)」(「アウモウ」のAU音がO音に、OU音がO音に変化して「ヲモ」と、「トフ」のH音が脱落して「ト」となった)

の転訛と解します。

599-13こけ(苔)

 苔は、コケ植物に属する鮮類、苔類、地衣類およびそれらに似たシダ類の総称です。

 「こけ」の語源は、コケ(木毛)の義、コケ(小毛)の義、コキ(木著)の転、古くなってコロ(比)を過ぎると生ずることからコロコエ(比越)の反、魚の鱗をいうコケに似るからとする説があります。

 この「こけ」は、

  「コケ」、KOKE(move forwards,glide,spread)、「(いつのまにか)広がっていく(植物。こけ)」

の転訛と解します。

599-14おみなえし(女郎花)・をみなへし・をみなべし・をみなめし

 女郎花は、古くは「をみなへし」、「をみなべし」、「をみなめし」ともいい、オミナエシ科の多年草で、各地の日当たりの良い山野に自生します。茎は直立して0.6から1メートル前後になり、夏から秋にかけて枝の先端に黄色の小さな花が多数密に集まつて咲きます。

 「をみなへし」の語源は、花の色は美女をも圧(へ)すところから、オミナウエシ(女植)の略、ヲミナはヲムナ(女)の義、ヘシはヒレセリの反、ヲミナメ(女見)キーシベ(蘂)の義などの説があります。

 この「おみなえし(をみなへし)」、「をみなべし」、「をみなめし」は、

  「アウ・ミナ・ヱチ」、AU-MINA-WHETI(au=firm,intense;mina=desire,feelinclination for;wheti=rotund,protuberant)、「密に・(しきりに枝分かれをして体積を増やし)膨れ・たがっている(植物)」(「アウ」のAU音がO音に変化して「ヲ(オ)」と、「ヱチ」のWH音がH音に変化して「ヘチ」から「ヘシ」となり、後にH音が脱落して「エシ」となった)

  「アウ・ミナ・ペチ」、AU-MINA-PETI(au=firm,intense;mina=desire,feelinclination for;peti=heap up(whakapeti=collect,gather))、「密に・(しきりに枝分かれをして体積を増やし)膨れ・たがっている(植物)」(「アウ」のAU音がO音に変化して「ヲ(オ)」となった)

  「アウ・ミナ・メチ」、AU-MINA-METI(au=firm,intense;mina=desire,feelinclination for;meti,metimeti=fat)、「密に・(しきりに枝分かれをして体積を増やし)太り・たがっている(植物)」(「アウ」のAU音がO音に変化して「ヲ(オ)」となった)

の転訛と解します。(枕詞「をみなへし(女郎花)」については、国語篇(その五)の209をみなへし(女郎花)の項を参照してください。)

599-15いちご(苺)・いちびこ(苺)

 いちご(苺)は、バラ科の小低木または多年草で、実が食用となるものが多いものです。苺の古名をいちびこといいました。通常は江戸時代中期に渡来したオランダ苺をいいます。

 苺の語源は、イチビコの略(イチビコは、イチビの転、イチビはイツイヒ(厳粒)の約)、イヲ(魚)の血ある子のごとしから、ヨキチゴリ(好血凝)から、イチはイチ(息集)の義、イはイシイ(美味)の上略、チはチ(乳)の味、コは如の意とする説があります。

 この「いちご」、「いちびこ」は、

  「イ・チ(ン)ゴ」、I-TINGO(i=past tense,beside;tingo,tingotingo=speckled)、「斑点(表面に粒々)が・ある(果実。その果実を付ける植物)」(「チ(ン)ゴ」のNG音がG音に変化して「チゴ」となった)

  「イチ・ピカウ」、ITI-PIKAU(iti=small;pikau=carry on the back,load for the back)、「小さな(粒を)・(背負う)表面につけている(果実。その果実を付ける植物)」(「ピカウ」のAU音がO音に変化して「ピコ」から「ビコ」となった)

の転訛と解します。

599-16しいな(粃・秕)・しいなせ・しいなし・しいら・しいた

 しいな(粃・秕)は、殻ばかりで実のない籾をいい、また草木の果実のよくみのっていないものをいいます。また、「しいなせ」、「しいなし」、「しいら」、゜しいた」ともいいます。

 「しいな」の語源は、@古語「シヒナセ」の略、Aシニヒイネ(死日稲)の義、Bシホミナリ(萎実成)の義、Cシイナ(凋生)の義、Dシイネ(死稲)の転などの説があります。また「しいなせ」の語源は、@サミナセ(真実無稲)の義、Aシンナセ(心無稲)の義とする説があります。

 この「しいな」、「しいなせ」、「しいなし」、「しいら」、「しいた」は、

  「チヒ・ヒ(ン)ガ」、TIHI-HINGA(tihi=summmit.top;hinga=lean)、「(最高に)全く・(実が入らずに)痩せた(籾または果実。粃。秕)」(「チヒ」のH音が脱落して「チ」から「シ」と、「ヒ(ン)ガ」のH音が脱落し、NG音がN音に変化して「イナ」となった)

  「チヒ・ヒ(ン)ガ・テ」、TIHI-HINGA-TE(tihi=summit,top;hinga=lean;te=particle used with verbs to make a emphatic ststement)、「実に・(最高に)全く・(実が入らずに)痩せた(籾または果実。粃。秕)」((「チヒ」のH音が脱落して「チ」から「シ」と、「ヒ(ン)ガ」のH音が脱落し、NG音がN音に変化して「イナ」となった)

  「チヒ・ナチ」、TIHI-NATI(tihi=summit,top;nati=pinch,contract)、「(最高に)極限まで・(実が入らずに)潰れた(籾または果実。粃。秕)」(「チヒ」のH音が脱落して「チイ」から「シイ」となった)

  「チヒ・ヒラ」、TIHI-HIRA(tihi=summit,top;hira=widespread)、「(最高に)極限まで・(実が入らずに厚みがなくて)幅だけがある(籾または果実。粃。秕)」(「チヒ」のH音が脱落して「チ」から「シ」と、「ヒラ」のH音が脱落して「イラ」となったなった)

  「チヒ・イタ」、TIHI-ITA(tihi=summit,top;ita=tight,fast)、「(最高に)極限まで・(実が入らずに殻だけが)締まっている(籾または果実。粃。秕)」(「チヒ」のH音が脱落して「チ」から「シ」となった)

の転訛と解します。

599-17ぼけ(木瓜)

 木瓜(ぼけ)は、春に美しい花を咲かせる中国原産のバラ科の落葉低木。日本には平安時代に渡来し、古くから庭木や盆栽、切り花に利用されています。日本原産のクサボケも同じバラ科の落葉小低木で、木瓜と同様に花は3〜5個が葉のわきに束になって咲く特性があります。

 この「ぼけ」は、

  「ポケ」、POKE(beset in numbers,work at in crowds)、「(花が)密集して咲く(特性の植物)」

の転訛と解します。

 なお、地名の「ボケ山古墳」および「大歩危小歩危(おおぼけこぼけ)」の「ぼけ」も同じ語源です。地名篇(その四)の大阪府の(14)藤井寺市のcボケ山古墳の項および地名篇(その十四)の徳島県の(5)三好郡のb大歩危小歩危の項を参照してください。

 また、老人性痴呆の「ぼけ」は、「パウ・ケ」、PAU-KE(pau=consumed,denoting the complete or exhaustive character of any action;ke=different,strange,extraordinary)、「すべての行動に・異常が認められる(人。その症状)」(「パウ」のAU音がO音に変化して「ポ」から「ボ」となった)または上記と同じ語源で「ポケ」、POKE(appear as a spirit,haunt)、「幽霊に取り憑かれた(ような人。その症状)」の転訛と解します。

599-18どくだみ

 ドクダミ科の多年草で、各地に普通に見られ、根茎が盛んに枝分かれして増え、茎・葉に強い悪臭がある。乾燥した全草は駆虫・利尿などの漢方薬として用いられる。

 この「どくだみ」は、

  「ト・クタイタイ・アミ」、TO-KUTAITAI-AMI(to=stem of raupo(bulrush) or maize etc.,be pregnant;kutaitai=of a disagreeable taste;ami=gather,collect,odour)、「茎に・嫌な・臭いがある(植物。どくだみ)」(「ト」が「ド」と、「クタイタイ」の反復語尾が脱落して「クタイ」となり、さらに語尾の二重母音が脱落して「クタ」となり、その語尾のA音と「アミ」の語頭のA音が連結して「クタミ」から「クダミ」となった)

の転訛と解します。

599-19またたび(木天蓼)

 サルナシ科のつる性落葉木本で、卵状長楕円形の果実をつける。乾燥した果実を木天蓼といい、中風・リウマチの漢方薬として用いる。この植物は、猫が特に好み、たべるとすぐに酔ったようになる。猫の万病の薬といわれる。

 この「またたび」は、

  「マタ・タピ」、MATA-TAPI(mata=just;tapi=apply,as dressings to a wound)、「(猫が食べると)すぐに・(適応する、酔ったようになる)効き目が表れる(植物。またたび)」(「タピ」が「タビ」となった)

の転訛と解します。

(3) 動物名

 

a 動物名

 

601いのしし(猪)

 

 猪は、古代から鹿とならんで重要な蛋白源であるとともに、畑作農業の害獣でした。

 この「いのしし」は、マオリ語の

  「イ・ナウ・チチ」、I-NAU-TITI(i=ferment,be stirred;nau=come go;titi=go astray)、「(山中を)徘徊していて突然遭遇する(動物)」(「ナウ」のAU音がO音に変化して「ノ」となった)

の転訛と解します・

 

602ゐ・ゐのしし(猪)

 

 猪は、古くは「ゐ(猪)」ともいったようで、これをその「声」からとする説があります(平凡社『世界大百科事典』)。

 この「ゐ」、「ゐのしし」は、マオリ語の

  「ヰヰ」、WIWI(flinch)、「(遭遇すると恐怖で)立ちすくむ(動物)」(反復語尾の「ヰ」が脱落した)

  「ヰニ・チチ」、WINI-TITI(wini,wiwini=shudder,dread,terror;titi=go astray)、「(山中を)徘徊している恐ろしい(動物)」(「ヰニ」の語尾が変化して「ヰノ」となつた)

の転訛と解します。

 

603くさいなぎ(猪)

 

 猪の古名を「くさいなぎ」といつたようで、『和名抄』は猪を「久佐為奈岐」と訓じています。『今昔物語集』などもこの語を用いていますが、それは京都の上流社会人が野猪と形態の類似した「マミ(あなぐま。方言で「クサイ」という)」との区別を知らなかつたからであるとする説があります(平凡社『世界大百科事典』)。

 猪は、有蹄類中唯一巣を作る種で、雌雄とも地面に浅い窪みを掘り、草や枯れ枝を敷いて昼間睡眠用の巣を作るほか、妊娠した雌猪は、群れを離れて乾燥した薮の中に草を集めて出産用の巣を作って出産し、子育てをする特性があります。

 この「くさいなぎ」、「くさい」は、マオリ語の

  「クタ・イナキ」、KUTA-INAKI(kuta=a rush;inaki=overlap,crowed one upon another,thatch)、「草むらや薮の茂みの中に巣を作る(動物)」

  「クタ・ヰ」、KUTA-WI(kuta=a rush;wi=tussock grass)、「草むらや薮の茂み(の中に居る動物)」

の転訛と解します。

 

 ちなみに、この巣を「あます」または「かるも」といいます。

 この「あます」、「かるも」は、マオリ語の

  「ア・マツ」、A-MATU(a=the...of,belonging to;matu=fat,richness of food,gist,kernel)、「(中に)おいしい獲物(がある巣)」

  「カル・マウ」、KARU-MAU(karu=spongy matter enclosing the seeds of a gourd;mau=lay hold of,fixed,established)、「(草を)ふわふわに敷き詰めた(巣)」

の転訛と解します。

 

604かえる(蛙)

 

 蛙は、人にとって身近にいて親近感があるユーモラスな動物として認識されていたようで、その生態の特徴をよくつかんだ名称が、地域、時代により異なって多数存在します。

 そのうち最も一般的な名称である「かえる」は、マオリ語の

  「カヘ・ル」、KAHE-RU(kahe,kahekahe=pant;ru=shake,agitate)、「腹を波打たせて大きく息をする(動物)」(「カヘ」のH音が脱落して「カエ」となつた。なお、旧かなづかひでは「かへる」でした)

の転訛と解します。

 

605かわず(蛙)

 

 蛙を「かわず」ともいいます。

 この「かわず」は、マオリ語の

  「カワ・ツ」、KAWA-TU(kawa=channel,passage between rocks or shoals;tu=stnd,settle)、「川岸に住んでいる(動物)」

の転訛と解します。

 

606ひきがえる(蝦蟇)

 

 蛙の中で、動作が鈍く、外形と体色が不気味で、背中のいぼから有毒な粘液を分泌するものを「ひきがえる」といいます。

 この「ひきがえる」は、マオリ語の

  「ピキ・カヘ・ル」、PIKI-KAHE-RU(piki=ward off,fend,belittle;kahe,kahekahe=pant;ru=shake,agitate)、「(毒を持っているので人が)払いのける・腹を波打たせて大きく息をする(動物)」または「(動作が鈍く、他を)無視をしているような・腹を波打たせて大きく息をする(動物)」(「ピキ」のP音がF音を経てH音に変化して「ヒキ」と、「カヘ」のH音が脱落して「カエ」となつた)

の転訛と解します。

 

607がま(蝦蟇)

 

 ひきがえるの別名を「がま」といいます。

 この「がま」は、マオリ語の

  「(ン)ガ・ウマ」、NGA-UMA(nga=breathe;uma=bosom,chest)、「胸で息をする(動物)」(「(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「ガ」と、「ウマ」の語頭の「ウ」が脱落して「マ」となつた)

の転訛と解します。「かえる」と同義で別表現の名称です。

 

608びっき(蛙)(嬰児)

 

 「びっき」は、東北地方や沖縄県では(1)蛙をいい、東北地方では生まれたばかりの(2)赤ん坊、嬰児も指すことがあります。

 この「びっき(1)、(2)」は、マオリ語の

  (1)「ピ・キ」、PI-KI(pi=eye,corner of the eye or mouth;ki=full,very)、「眼が突出している(動物)」

  (2)「ピキ」、PIKI(come to the rescue of(pikipiki=be constantly in attendance))、「(四六時中)世話を焼かせるもの」

の転訛と解します。(国語篇(その二)の「107ビッキ」の項を参照して下さい。)

 

609もみ(毛瀰。蝦蟆。蛙)

 

 『日本書紀』応神紀19年10月条に、吉野の国樔(くず。土着の人)は「蝦蟆(かへる)を煮て上味(よきあじはひ)とす。名付けて毛瀰(もみ)と曰ふ。」とあります。蛙を「もみ」といっていたのです(原文の「蝦蟆」を『日本書紀』岩波古典文学大系本は単に「かへる」としますが、岩波『古語辞典』は「アカガエル」とし、角川『漢和中辞典』は「がまがえる」とするなど説が異なっています。ここでは下記のとおり「蛙」とする解釈を採用します)。

 この「もみ」は、マオリ語の

  「モミ」、MOMI(suck,suck up,swallow up)、「息を一杯に吸い込んで腹を膨らませる(動物)」

の転訛と解します。

 

610どんこ(蛙)

 

 長崎・宮崎・鹿児島県などの方言で、蛙を「どんこ」といいます。「どんこ」には、泥子、鈍子、鈍公、鈍骨、呑空などの字をあてています。

 この「どんこ」は、マオリ語の

  「トノ・カウ」、TONO-KAU(tono=bid,command,demand;kau=swim,wade)、「水の中に飛び込んで泳きたがる(習性を持つ動物)」(「トノ」の語尾のO音が脱落して「トン」から「ドン」に、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となつた)

の転訛と解します。

 

611へび(蛇)

 

 蛇は、トカゲ目ヘビ亜目の爬虫類の総称で、不吉なもの、執念深いものとして嫌われる一方、古くから神や神の使いとして信仰の対象となつていました。

 この「へび」は、古語「612へみ」の転訛とする説があります。

 この「へび」は、マオリ語の

  「ヘヘ・ピヒ」、HEHE-PIHI(hehe=gone astray,wrong,not fulfilling requirement;pihi=cut,split,begin to grow)、「あちこちさまよう・(定期的に)脱皮する(動物。蛇)」(「ヘヘ」の反復語尾が脱落して「ヘ」と、「ピヒ」の語尾の「ヒ」が脱落して「ピ」となつた)

 

612へみ(蛇)

 

 蛇の古名を「へみ」ともいいました。

 縄文時代中期の土偶に、蛇を頭に巻き付けた女性のものが出現し、各地で発掘されています。これは蛇を神の使いと崇め、蛇を自在に操る能力を持つ巫女を霊力あるものとして尊崇した古代の信仰の現れと考えられます。現在でも、沖縄のユタ(巫女)は、猛毒を持つハブを自在に操ることができなければ一人前とは認められません。

 この「へみ」は、マオリ語の

  「ヘミ」、HEMI(=hemihemi=back of the head)、「(巫女の)後頭部(の頭髪を住処とするもの。蛇)」

  または「ヘヘ・ミヒ」、HEHE-MIHI(hehe=gone astray,wrong,not fulfilling requirement;mihi=sigh for,greet,acknowlege an obligation)、「あちこちさまよう・尊崇すべき(動物。蛇)」(「ヘヘ」の反復語尾が脱落して「ヘ」と、「ミヒ」の語尾の「ヒ」が脱落して「ミ」となつた)

の転訛と解します。

 

613くちなわ(朽縄、蛇)

 

 蛇の古名を「くちなわ」ともいいました。通常その形によるものとされます。

 この「くちなわ」は、マオリ語の

  「クチ・(ン)ガハ」、KUTI-NGAHA(kuti=pinch,contract;ngaha=lizard)、「手足のない(圧縮された)・とかげ(=蛇)」(「(ン)ガハ」のNG音がN音に変化して「ナハ」から「ナワ」となった)

の転訛と解します。

 

614まむし(蝮)

 

 日本各地に分布する有毒の蛇で、古名を「くちばみ」、「たちひ」、「はみ」ともいいました。

 「真虫(まむし)」の意とする説があります。

 この「まむし」は、マオリ語の

  「マハ・ムイ・チ」、MAHA-MUI-TI(maha=many.abundance;mui=swarm round,molest;ti=throw,cast)、「多くの悩み(噛まれて受ける被害)を撒き散らす(蛇)」(「マハ」のH音が脱落して「マ」と、「ムイ」のUI音がU音に変化して「ム」となつた)

の転訛と解します。

 

615くちばみ(蝮)・たちひ(蝮)・はみ(蝮)

 

 蝮の古語を「くちばみ」、「たちひ」、「はみ」ともいいました。「ばみ」、「はみ」は、「へみ」、「へび」と同源とする説があります。

 この「くちばみ」、「たちひ」、「はみ」は、マオリ語の

  「クチ・パハ・ミヒ」、KUTI-PAHA-MIHI(kuti=pinch,contract;paha=arrive suddenly;mihi=sigh for,greet,acknowlege an obligation)、「(頭が圧縮された)頭が平べったい・突然現れる・尊崇すべき(蛇。まむし)」(「パハ」と「ミヒ」のH音が脱落して「パア」・「ミイ」から「パ」・「ミ」となつた)

  「タ・チヒ」、TA-TIHI(ta=dash,beat,lay;tihi=summit,top,topknot of hair,lie in a heap)、「(巫女の)頭髪(のまげ)を住処とするもの(蝮)」

  「ハハ・ミヒ」、HAHA-MIHI(haha=seek,look for,search;mihi=sigh for,greet,acknowlege an obligation)、「(何かを)探してさまよう・尊崇すべき(蛇。まむし)」(「ハハ」の反復語尾が脱落して「ハ」とも「ミヒ」のH音が脱落して「ミイ」から「ミ」となつた)

の転訛と解します。

 

616ひらくち(蝮)

 

 福岡、佐賀、長崎、大分、熊本県などの方言で、蝮を「ひらくち」といいます。蝮に噛まれるとヒリヒリ痛むことから、「ひりひり」の転とする説があります。

 この「ひらくち」は、マオリ語の

  「ヒラ・クチ」、HIRA-KUTI(hira=abundant,important of consequence;kuti=pinch,contract)、「(噛まれると)重大な結果(生死にかかわる)をもたらす・(頭が)平べったい(蛇。まむし)」

の転訛と解します。

 

617あおだいしょう(青大将)

 

 青大将は、日本各地に分布する無毒の全長1〜2メートルの蛇で、背面は暗褐緑色です。性質は温和です。特別変異で体色が白いものは、白蛇として尊崇されます。

 この「あおだいしょう」は、マオリ語の

  「アホ・タイ・チオホ」、AHO-TAI-TIOHO(aho=string,line;tai,tatai=strike,perform certain ceremonies to remove TAPU etc. striking the object with a twig;tioho=apprehensive)、「呪文を唱えて小枝で払うと・物わかりが良い(おとなしくしている・または退散する)・紐(のような・蛇)」(「アホ」のH音が脱落して「アオ」と、「チオホ」のH音が脱落して「チオオ」から「ショウ」となった)

  または「アホ・タイ・チホイ」、AHO-TAI-TIHOI(aho=string,line;tai,tatai=strike,perform certain ceremonies to remove TAPU etc. striking the object with a twig;tihoi=go to a distance,turn aside)、「呪文を唱えて小枝で払うと・退散する・紐(のような・蛇)」(「アホ」のH音が脱落して「アオ」と、「チホイ」のH音が脱落し、OI音がOU音に変化して「チョウ」から「ショウ」となった)

の転訛と解します。

 

618やまかがし(山棟蛇)

 

 本州以南、朝鮮半島南部、中国、台湾に分布する中型の蛇で、全長約70〜120センチメートル、背面はオリーブ色、黒斑が多く、体側には紅色の斑点があります。やや弱い毒を持ちます。平地や低山地の水田、池沼など水辺に多く、日本ではもっとも個体数が多いとされます。

 この「やまかがし」は、マオリ語の

  「イア・マ・カ(ン)ガ・チ」、IA-MA-KANGA-TI(ia=indeed,current;ma=white,clear;kanga=place of abode,home;ti=throw,cast)、「実に・清らかな場所(水辺など)に・住処が・(いたるところに)分散しているもの(蛇)」
または「イア・マ・カ(ン)ガ・チ」、IA-MA-KANGA-TI(ia=indeed,current;ma=white,clear;kanga=curse,abuse,execrate;ti=throw,cast)、「実に・清らかな場所(水辺など)に(住む)・のろいを・撒き散らすもの(蛇)」

の転訛と解します。

 

619かがち(蛇)・やまかがち(蟒蛇)

 

 蛇の古名を「かがち」といいました。また、「やまかがち」の名も残ります。

 この「かがち」は、マオリ語の

  「カ(ン)ガ・チ」、KANGA-TI(kanga=curse,abuse,execrate;ti=throw,cast)、「のろいを・撒き散らすもの(忌み嫌われるもの)」

の転訛と解します。

 

620おろち(大蛇)

 

 極めて大きな蛇を「おろち」といいます。『古事記』のスサノオの八岐大蛇退治の条に、「高志(こし)の八俣(やまた)の遠呂智(おろち)」とあります。

 この「おろち」は、「オは峰、ロは接尾語、チは霊威あるものの意」とする説があります。

 この「おろち」は、マオリ語の

  「オロ・チ」、ORO-TI(oro=clump of trees,copse;ti=throw,cast)、「倒れている材木(のように太い・大蛇)」

の転訛と解します。

 

621うわばみ(大蛇)

 

 大蛇を「うわばみ」といい、とくに熱帯産のニシキヘビなどをいい、大酒飲みの称となっています。

 また、民話に大きな獲物を呑み込んで苦しがる大蛇が、うわばみ草を食べることによって楽になるという話があります(この場合、「うわばみそう」とはいっても、「おろちそう」とは決していいません)。

 この「うわばみ」は、マオリ語の

  「ウワ・パマエ」、UWHA-PAMAE(uwha,uha=female of animals,calm,gentle;pamae,pamamae=hurt or grieved in pain,grief)、「苦痛に悩んでいる・おとなしい(大蛇。大酒飲み)」(「パマエ」のAE音がI音に変化して「パミ」となった)

の転訛と解します。

 

622はぶ

 

 奄美大島、徳之島、沖縄本島および周辺の離島に分布する危険な毒蛇で、全長1〜2.3メートルあり、毎年多数の死者を含む被害が出ています。

 この「はぶ」は、マオリ語の

  「ハ・プ」、HA-PU(ha=what!;pu=loathing,hating)、「最も憎むべきもの(毒蛇)」

の転訛と解します。

 

623うま(馬)・青(あお)馬・葦毛(あしげ)馬・当て馬

うま(馬)は、奇蹄目ウマ科の哺乳動物で、世界各地で古くから家畜として飼育されてきました。

 『魏志倭人伝』は、倭国には「牛、馬、虎、豹、羊、鵲がいない」と記します。日本列島にいつ入つたかは不明ですが、縄文時代前期末の遺跡から馬の歯が出土し、古墳時代後期の遺跡からにわかに馬具や馬の埴輪の出土が増加します。

 平安時代以降「むま」と表記した例が多く見られます。

 馬の毛色によって青みがかった黒毛を青(あお)馬、白い毛に黒や茶が交じつた毛を葦毛(あしげ)、赤茶色の毛を栗毛(くりげ)などと区分します。

 競走馬の種付けの際に牝馬の発情を促すためだけに近づける牡馬を当て馬と称します。

 語源は、(1)マ(馬)の字音から、(2)蒙古語モリ、満州語モリン、韓語マル、シナ語マなどと同語源で馬の移入とともに音が入った、(3)「胡馬」の字を漢音で読んだ、(4)良い動物なので「ウマ(美)」の義、(5)「王(大)馬」の別音「ウマ」から、(6)「ウ(大)・マ(畜類の総称)」からなどの説があります。

 この「むま」、「あお」、「あしげ」、「あて」は、

  「ム・マエ」、MU-MAE(mu=silent;mae=languid,listless,struck with astonishment)、「静かに(黙って)・(尻尾を)ぶらんぶらんと振っている(動物)」(「ム」のM音が脱落して「ウ」と、「マエ」の語尾のE音が脱落して「マ」となった)

  「アオ」、AO(daytime,dawn,cloud,bright)、「明け方(の空の色)」(古語の「青」は、黒と白との中間の範囲を示す広い色名で、主に青、緑、藍をさし、時には黒、白をもさしたとされ、『日葡辞書』はAuo(アヲ)を「耳の内側の毛がすこし白い、青馬の色。この毛が他の部分の毛のようにすべて黒いときはクロという。」とします。)

  「ア・チ(ン)ゲイ」、A-TINGEI(a=the...of,belonging to;tingei=unsettled,ready to move)、「(何色とも)定め難い(色)」(「チ(ン)ゲイ」のNG音がG音に変化し、語尾のI音が脱落して「シゲ」となった)

  「アテ」、ATE(liver,heart,a term of affection,spirit,high feeling)、「(牝馬の)気分を高揚させる(ためだけに近づける牡馬)」

の転訛と解します。

 

624うし(牛)

 うし(牛)は、偶蹄目ウシ科の哺乳動物で、世界各地で古くから家畜として飼育されてきました。

 『魏志倭人伝』は、倭国には「牛、馬、虎、豹、羊、鵲がいない」と記します。日本列島にいつ入つたかは不明ですが、縄文時代の遺跡からその存在が知られます。主として農耕用、運搬用の役畜となったのは律令国家の形成期以降と考えられているようです。

 語源は、(1)オホシシ(大宍)の約、(2)「ウ(大)・シ(宍。肉)」から、(3)有能であるところから「ウシ(大人)」と同語、(4)形が恐ろしいことから、(5)労役に使われることから「憂し」の義、(6)鳴き声「モウシ」から、(7)オソユキアシ(遅行脚)から、(8)打って使うことからウッサリ(打去)の反、(9)恐ろしげであることからヲツサリ(怖去)の反などの説があります。

 この「うし」は、

  「ウ・チ」、U-TI(u=breastof a female,udder,teat;ti=throw,cast,overcome)、「(大きな)乳房を・ぶら下げている(動物)」

と解します。

 

625しか(鹿)・かもしか(羚羊。氈鹿)・となかい(馴鹿)

しか(鹿)は、偶蹄目シカ科の哺乳類の総称で、枝分かれした角を持ち、古くから重要な狩猟の対象でした。

 鹿の語源は、(1)「メカ(女鹿)」に対する「セカ(背鹿・夫鹿)」の転、(2)「シシカ(肉香)」の義、(3)「シ(宍)・カ(ケ(食)の転)」から、(4)「シシ(宍)・カル(軽い)」の義、(5)シは慕う、カは啼き声からなどの説があります。

 かもしか(羚羊)は、アジア産の小型の偶蹄目ウシ科カモシカ属に属する哺乳類の総称で、ふつう標高600〜3000メートル の森ややぶのある山の斜面や岩場に棲んでいます。雌雄ともに長さ約20センチメートルの短い洞角をもち、目の下には眼下腺が発達し、この分泌物を枝などにこすりつけてなわばりの目印にします。ニホンカモシカは九州、四国、本州(中国地方を除く)のふつう1000メートル以上の高い山の森林に棲み、岩棚を休み場や出産に利用し、見晴しのきく岩の上に何時間も立ち続けるのが見られます。

 羚羊の語源は、(1)その皮をカモ(氈)として用いるところから(名言通・重訂本草綱目啓蒙)、(2)カモはカビと同義で、やわやわしい義、その毛の柔らかいところから(俚言集覧)、(3)カモは、カマフ義(和句解)とする説があります。

 となかい(馴鹿)は、ヨーロッパとアジアの亜北極、北極地帯にすむシカの総称で、ほかのシカとちがって、オス・メスともに角があり、オスの角は長くて枝分かれし、先端がわずかに平たくなっており、枝角はよく発達しています。メスの角はオスのものより小さく単純な形をしています。オスメス混合の大きな群れをつくり、草や若葉、コケなどを食べ、季節移動をします。スカンディナビア半島からシベリア、アラスカからカナダ、グリーンランドなどに分布し、サーミランド(ラップランド)やシベリアでは昔から家畜として飼養されています。寒冷な気候によく適応しています。

馴鹿の語源は、アイヌ語トナッカイtonakkyからとする説があります。

 この「しか」、「かもしか」、「となかい」は、

「チヒ・カハ」、TIHI-KAHA(tihi=summit,top,lie in a heap;kaha=strong,rope,edge,ridge of a hill)、「(山の)崖の上に・立っている(動物)」(「チヒ・カハ」のH音が脱落して「シ・カ」となった)

  「カハ・モア・チヒ・カハ」、KAHA-MOA-TIHI-KAHA(kaha=strong,able,strength;moa=climb;tihi=summit,top,lie in a heap;kaha=strong,rope,edge,ridge of a hill)、「(険しい岩場を)登ることが・できる・(山の)崖の上に・立っている(動物)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「モア」の語尾のA音が脱落して「モ」と、「チヒ・カハ」のH音が脱落して「シ・カ」となった)

  「ト(ン)ガ・カイ」、TONGA-KAI(tonga=south,chilled,frozen;kai=fulfil its proper function,have full play)、「凍った(寒い)場所で・十分に力を発揮する(動物)」(「ト(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「トナ」となった)

の転訛と解します。

626くま(熊)・ひぐま(羆)

くま(熊)は、食肉目クマ科に属するほ乳類の総称で、植物食の傾向が強い大型の食肉類です。ひぐま(羆)は、もっとも大型のクマです。

 くまの語源は、(1)穴居する「クマシシ」から、(2)暗がりに住む「クマ(隈)」に居るから、(3)「クマ(隠)」の義、(4)黒い獣の義、(5)体にある月の輪を月のクマに見立てたもの、(6)人と組むところから「クム(組)」の転、(7)「カミ(神)」の転などの説があります。

 この「くま」、「ひ(くま)」は、

「クマ」、KUMA((Hawaii)cracking of the skin between fingersand toes;=hakuma=dark,thick)、「山と山の間(隈)に居る(動物)」または「黒くて毛深い(動物)」

  「ヒ」、HI(raise,rise)、「(立ち上がると)背が高い(熊)」

の転訛と解します。

627さる(猿)・ましら(猿)・えて(猿)

 さる(猿)は、ヒトにもっとも近縁な動物で、哺乳綱霊長目のうちヒト科を除いたものの総称です。

 日本の猿は尾が短く体が小さく、縄文時代から食用とされたほか、古くから愛玩用とされてきました。古くは「ましら(猿)」とも、また忌み言葉として猿がたくみに物をつかむところから「えて(得手。猿の異名)」とも称されました。

 語源は、(1)獣の中では知恵が勝っていることから「マサル(勝)」の意、(2)サはサハグ、サハガシの意の古語、ルは助詞、(3)サルル(戯)ものであるところから、(4)物真似するところから「サアリ(然有)」の転、(5)人を威嚇するところから「シカレル」の反、(6)サトリアル(智有)の義、(7)食物などを「サラヘ(浚)」取るところから、(8)木からぶら下がる「サガル」の中略、(9)アイヌ語で猿をいう「サロ」または「サルウシ(尻尾をもつ)」からなどの説があります。

 また、岡山県津山市の美作国一宮中山(ちゅうさん。なかやま)神社は、『延喜式』吉田家本に「チウサン」と訓があり、『今昔物語』に「今ハ昔、美作ニ中参(チウサン)・高野(カウヤ)ト申ス神在(オハシ)マス。其神ノ体ハ、中参ハ猿、高野ハ蛇(クチナハ)ニテゾ在マシケル」とあり、今も中山神社の裏山の盤座に猿(さる)神社が鎮座していることから、中山の神は猿であり、猿の別名が「中参(ちゅうさん)」であったと考えられます。

 さらに、山梨県大月市には、日本三奇橋の一つ、猿橋(さるはし)があります。

 この「さる」、「ましら」、「えて」、「ちゅうさん」、「さるはし」は、

  「タル」、TARU(shake,overcome)、「(相手を)震撼させる(動物)」(この「さる」は「猿田(さるた)彦」の「さる」と同語源です。古典篇(その五)の070猿田毘古(さるたびこ)の神の項を参照してください。)

  「マチ・ラ」、MATI-RA(mati,matimati=toe,finger,a game involving quick movements of the fingers and hands;ra=wed,there,yonder,intensive)、「自在に・手足を俊敏に動かす(動物。猿)」

  「エタヒ」、ETAHI(how great!)、「何と偉大な(能力を持つ動物。猿)」(H音が脱落した後のAI音がE音に変化して「エテ」となった)

  「チウ・タ(ン)ガ」、TIU-TANGA(tiu=soar,wander,swing;tanga=be assembled,row,tier)、「群をなして・(山中の木々を)渡り歩く(動物。猿)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サン」となった)

  「タ・ルハ・アチアチ」、TA-RUHA-ATIATI(ta=dash,beat,lay,allay;ruha=largebranches of a tree;atiati=drive away)、「大きな木の枝(のように岸から横へ桁)を・せり出して・繋げた(橋)」(「ルハ」の語尾のA音と、「アチアチ」の反復語尾が脱落した「アチ」の語頭のA音が連結して「ルハチ」から「ルハシ」となった)

の転訛と解します。

628いぬ(犬)・野良(のら)犬・おおかみ(狼)

いぬ(犬)は、食肉目イヌ科のほ乳類で、最も古い家畜です。直系の祖先はおおかみ(狼)とされます。飼い主を失った犬(猫)を野良(のら)犬(猫)と呼びます。

 いぬの語源は、(1)啼き声からの転、(2)イナル(ウナル(唸))の語幹の転、(3)遠くからでも飼い主の下へ「イヌル」意、(4)「イヘ(家)・ヌヒ(奴婢)」の約、(5)家に「イヌル(寝る)」義などの説があります。

 この「いぬ」、「のら」、「おおかみ」は、

「イ・ヌイ」、I-NUI(i=ferment,be stirred;nui=large,many)、「たくさんの(子犬が)・湧いて出る(ように産まれる動物。犬)」(「ヌイ」の語尾のI音が脱落して「ヌ」となった)

  「ノ・オラ」、NO-ORA(no=of,belonging to;ora=alive,well in health,safe,satisfied,survive)、「(飼い主から離れて)ちゃんと・生き延びている(犬・猫)」(「ノ」のO音と「オラ」の語頭のO音が連結して「ノラ」となった)

  「オホ・カミ」、OHO-KAMI(oho=spring up,wake up,arise;kami=eat)、「(敏速に)飛びかかって・(獲物を)食べる(動物)」

の転訛と解します。

629ねこ(猫)・どら猫

ねこ(猫)は、食肉目ネコ科のほ乳類の総称で、一般にはイヌに次いで古いとされる家畜のイエネコを指します。日本へは仏教伝来とともにネズミの害を防ぐために輸入されたとされます。盗み喰いをするふてぶてしい猫をどら猫と呼びます。

 この語源は、(1)「ネ・コマ(寝・高麗または寝子・獣)」の下略、(2)「ネ・コマ(クマ(熊)の転またはカミ(噛)の転)」、(3)寝るを好むから、(4)鼠を好むから、(5)「ネコマチ(鼠小待)」の約などの説があります。

 この「ねこ」、「どら」は、

「ネイ・カウ」、NEI-KAU(nei=to denote proximity,to indicate continuancr of action;kau=alone,swim,wade)、「いつもふらふらと・出歩いている(動物)」(「ネイ」の語尾のI音が脱落して「ネ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

  「トラ」、TORA(blaze,be erect used of showing warlike feelings)、「(好戦的な態度を示して)居丈高となる(猫)」(虎(とら)の語源と同じです。)

の転訛と解します。

630ねずみ(鼠)

ねずみ(鼠)は、齧(げつ)歯目ネズミ亜目に属するほ乳類の総称です。

 この語源は、(1)「ネズミ(根住・根棲)」の義、(2)「アナズミ(穴住)」の約転、(3)「ネズミ(不寝魅)」の義、(4)人が寝た後に物を盗む「ネヌスミ(寝盗)」の義などの説があります。

 この「ねずみ」は、

「ネイ・ツ・フミ」、NEI-TU-HUMI(nei,neinei=stretch forward,wagging,bobbing up and down;tu=fight with,energetic;humi=abundant,abundance)、「多数が(集まって)・精力的に・はね回る(習性がある。動物)」(「ネイ」の語尾のI音が脱落して「ネ」と、「フミ」のH音が脱落して「ミ」となった)

の転訛と解します。

 

631たぬき(狸)・むじな(狸。東北方言)・金長(きんちょう)狸

 たぬき(狸)は、アナグマまたはアライグマに似たイヌ科の食肉類の動物です。東アジアの特産で、夜行性、日中は巣穴で休息し、一つの巣穴には一ないし数頭の家族で生活し、内部は常に清潔を保ち、糞は巣穴の外の一定の場所に排泄する習性(貯め糞)があります。古くから、とくに東北地方では、狸を「むじな」と呼びました。

 語源は、(1)皮を手貫(たぬき)に用いるところから、(2)タノキミ(田君)の転、(3)タノケ(田怪)の義、(4)タネコ(田猫)の義、(5)イツハリネブリオキ(偽唾起)の義、(6)死んだように見せかけて人をイダシヌクから、(7)人の魂を抜き取るタマヌキの略などの説があります。

 また、香川県小松島(こまつしま)市の西部には、阿波狸合戦で知られる人に恩恵を与えるといわれる金長(きんちょう)狸を祀る金長神社があります。

 この「たぬき」、「むじな」、「きんちょう」は、

  「タヌ・キ」、TANU-KI(tanu=bury,plant,smother with;ki=full,very)、「たくさん・貯め糞をする(巣穴の外の一定の場所で糞をする習性を持つ。動物)」

  「ム・チナ」、MU-TINA(mu=silent;tina=fixed,fast,firm,satisfied,overcome)、「(びっくりすると死んだように)静かに・固まってしまう(狸寝入りをする動物。狸)」

  「キナ・チオホ」、KINA-TIOHO(kina=sea egg,a globular calabash;tioho=apprehensive)、「(丸いひょうたんのような)太鼓腹をした・物わかりのよい(人間に幸福を授ける。狸)」(「キナ」が「キン」に、「チオホ」のH音が脱落して「チオオ」から「チョウ」となった)

の転訛と解します。

 (ちなみに、上記の「タヌ・キ」は「讃岐(さぬき)国」の語源と同じで、国名は、「たくさん・埋葬してある(平野の中に古墳や墳墓のような丘陵(山)が・たくさんある。地域。国)」の転訛と解します。

 なお、狐(きつね)には、余った食物を地中に埋蔵する習性がありますが、他方イソップ童話で狡猾な動物として語られているように、死んだふりをして、危機から逃れたりまたは近づいてきた小動物を捕まえたりする習性があり、「きつね」の名はこの習性に由来するものと考えられます。(次出627きつね(狐)の項を参照してください。)

 

632きつね(狐)

 きつね(狐)は、小型のイヌに似て体が細長く四肢が短い食肉目イヌ科の動物です。狐(きつね)は、原則として夜行性、雑食で、余った食物を地中に埋蔵する習性がありますが、他方イソップ童話で狡猾な動物として語られているように、死んだふりをして、危機から逃れたりまたは近づいてきた小動物を捕まえたりする習性があります。

 語源は、(1)キツは鳴き声、ネは助詞または尊称、(2)「キ(臭)・ツ(助詞)・エヌ(犬)」の転、(3)キツネ(黄猫)の義、(4)体色がいつも黄色の「キツネ(黄恒)」から、(5)息を切らさずに逃げることから「イキツネ(息常)」の上略、(6)人を化かして同棲する「キツネ(来寝)」からなどの説があります。

 この「きつね」は、

  「キ・ツネヘ」、KI-TUNEHE(ki=full,very;tunehe=closethe eyes as when overcome with asleep,be drowsy)、「しばしば・圧倒されると眼を閉じる(習性を持つ。動物)」(「ツネヘ」のH音が脱落して「ツネ」となった)

の転訛と解します。

 

633うさぎ(兎)・をさぎ(兎)

 うさぎ(兎)は、長い耳と長大な門歯をもつウサギ目のほ乳類の動物の総称です。聴覚が鋭く俊敏な行動能力があるので捕らえにくく、わなや銃の他に、積雪地方に特有の捕獲方法として、藁製の輪や薪を放り上げて鷲や鷹の羽音をさせ、驚いたウサギが隠れようとして雪の中に首をつっこんで動かずにいるのを手づかみにする「ばいうち」や、西日本では網を張って兎を追い込む鳥を捕らえるのに似た方法で捕獲したことから、鳥と同じく羽で数えるようになったといわれます。

 語源は、(1)古くはウ、ウサギは後の称、(2)「ウ(本名)・ササカ(舎舎迦。梵語)」の略転、(3)ヲサキ(尾先切)の転、(4)「ウ(兎)・サギ(サケ(細毛)の転)」から、(5)ウスゲ(薄毛)の転、(6)ウサギ(愛鷺)の意、(7)月の中に現れるので「ウ(中)・サキ(上)」から、(8)朝鮮語「ヲサ(長)・ギィ(耳)」からなどの説があります。

 なお、『和名抄』は「宇佐岐(うさぎ)」と訓じますが、『万葉集』東歌(巻14-3529)は「乎佐藝(をさぎ)」とあり、方言でも広い地域で「をさぎ」とするところから、古代にはこの二つの名が並び称されたかとする説があります。

 この「うさぎ」、「をさぎ」、「ばいうち」は、

  「ウタ・ア(ン)ギ」、UTA-ANGI(uta=the land,the inland;angi=free without hindrance,move freely)、「内陸の地を・自由に動き回る(動物)」(「ウタ」の語尾のA音と「ア(ン)ギ」の語頭のA音が連結し、NG音がG音に変化して「ウタギ」から「ウサギ」となった)

  「アウタキ」、AUTAKI(roundabout,circuitous,lead by a circuitous way)、「(巣に帰るのに外敵を警戒して)回り道をする(動物)」(AU音がO音に変化して「オタキ」から「オサギ」となった)

  「パイ・ウチ」、PAI-UTI(pai=good,excellent,suitable;uti=bite)、「上手な・捕獲(方法)」

の転訛と解します。

 

634からす(烏)・頭八咫烏(やたのからす)・ひもすどり(烏の異称)

 からす(烏)は、スズメ目カラス科カラス属の烏の総称です。

 烏は、古くから神意を伝達する霊鳥と考えられてきました。

 記紀では道に迷った神武天皇の窮地を救った天照大神の使者に「頭八咫烏(やたのからす)」の名を与えています。(神武紀2年2月条は頭八咫烏(やたのからす)に賞を与えたとあり、その苗裔は葛野主殿縣主部であると記しますから、これは鳥ではなく人であることは明らかです。)

 また、弥生時代の土器や銅鐸などに外洋を航行する船の舳先に鳥が描かれたものがあり、航海の進路を示すものと考えられています。

 『和名抄』は、「加良須(からす)」と訓じます。

 語源は、(1)鳴き声を擬声化したカラにスを付した、(2)クロシ(黒し)と相通ずる、(3)カラス(黒羽)の義、カラはクロ(黒)の転、スはシに通じ鳥の意、(4)草木をカラス(枯らす)から、(5)「カアラ(鳴き声)・ヲス(雄)」からなどの説があります。

 なお、古くは烏の異称を「ひもすどり」といいました。語源は、カカ(日日)と鳴くところから「日申鳥」の義とする説があります。

 この「からす」、「やたのからす」、「ひもす(鳥)」は、

  「カラ・アツ」、KARA-ATU(kara=old man,secret plan,a request for assistance in war either verbal or material,flag;atu=to indicate a direction or motion onwards,to indicate reciprocated action,implying a forward preliminary motion)、「進むべき方向を示す・戦争(または航海)の手助けをする(動物。鳥。烏)」(「カラ」の語尾のA音と「アツ」の語頭のA音が連結して「カラツ」から「カラス」となった)

  「イア・タ・ノ・カラ・ツ」、IA-TA-NO-KARA-TU(ia=indeed;ta=dash;no=of;kara=oldman;tu=fight with,energetic)、「本当に・先頭に立って突進する・元気な・老人」(古典篇(その六)の201H8頭八咫烏(やたのからす)の項を参照してください。)

  「ヒ・モツモツ」、HI-MOTU(hi=make a hissing noise;motumotu=firebrand,a charm and rite used by fowlers and fishers,appearing like islands)、「島のような陸地が見えると・けたたましく鳴く(鳥)」または「けたたましく鳴く・炬火(たいまつ)のような(人を先導する鳥)」(「モツモツ」の反復語尾が脱落して「モツ」から「モス」となった)

の転訛と解します。

635きじ(雉)・きぎし(雉)

きじ(雉)は、日本の国鳥とされるキジ目キジ科の鳥で、オスは全長約90cm(メスは約60cm)、古くは「雉(きぎし)」と呼ばれ(記歌謡。さ野つ鳥雉(きぎし)は響(とよ)む庭つ鳥鶏(かけ)は鳴く)、とくに地震などのときや繁殖期のオスが「雉も鳴かずばうたれまい」の諺どおり、鋭い声で鳴く習性があります。

 この語源は、(1)「キギシ(雉子)」の中略、(2)キギスの反のキスの転、(3)キンキンと鳴くところから、(4)低く飛ぶので「ヒキシ(低)」の上略、(5)子を思うあまり野火に「ヤキシヌ(焼死)」ところからなどの説があります。

 この「きじ」、「きぎし」は、

  「キ・チ」、KI-TI(ki=say,tell,call,full,very;ti=throw,cast,overcome)、「(鋭い声で周囲に)言葉を・投げかける(鳥)」

  「キキ・チ」、KIKI-TI(kiki=speak;ti=throw,cast,overcome)、「(鋭い声で周囲に)言葉を・投げかける(鳥)」

の転訛と解します。

636にわとり(鶏)・かけ(鶏)・しゃも(軍鶏)・ちゃぼ(矮鶏)・とさか(鶏冠)

にわとり(鶏)は、キジ目キジ科ニワトリ属の家禽で、古くは「庭つ鳥」、「鶏(かけ)」と呼ばれ(記歌謡。さ野つ鳥雉(きぎし)は響(とよ)む庭つ鳥鶏(かけ)は鳴く)、もともとは報時、闘鶏、愛玩を目的として家畜化されたものが、卵・肉用となりました。闘鶏用のしゃも(軍鶏)をはじめ多くの品種がありますが、ちゃぼ(矮鶏)は体が小さく、メスはおとなしく卵を抱き、雛を育てるのがうまいので、キジやキンケイの仮親として用いられます。

 にわとりの成鳥には、頭部にとさか(鶏冠)があるのが特徴です。

 にわとりの語源は「庭の鳥」とされ、しゃもの語源は江戸時代初期にシャムから輸入された「シャムロ」からという説があり、ちゃぼの語源は(1)原産地であるインドシナの地名「チャンパ」から、(2)チベット語のニワトリ(チャモ、chamo)から、(3)「チヒニハトリ(小庭鳥)」からなどの説があります。

 この「にわとり」、「かけ」、「しゃも」、「ちゃぼ」、「とさか」は、

「ニヒ・ワ・ト・オリ」、NIHI-WA-TO-ORI(nihi=steep,move stealthly;wa=definite place,area;to=drag,open or shut a door or a window;ori=cause towave to and fro,sway,move about)、「そっと歩く・場所(庭)に飼われている・あちこち・行き来する(鳥)」(「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」と、「ト」のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「トリ」となった)

  「カカイ」、KAKAI(eat frequenly,frequentative(fulfil its proper function))、「(暁に)繰り返し時を告げる(鳥)」または「しょっちゅう(餌を)ついばんでいる(鳥)」(AI音がE音に変化して「カケ」となった)

  「チア・モモウ」、TIA-MOMOU(tia=slave,servant;momou=struggle,wrestle)、「闘争をする・奴隷の(鶏)」(「モモウ」の反復語尾が脱落して「モ」となった)

  「チア・ポ」、TIA-PO(tia=slave,servant;po,popo=pat with the hands,soothe,lullaby)、「子守りをする・奴隷の(鶏)」

  「タウ・タカ」、TAU-TAKA(tau=ridge of a hill,reef,come to rest,settle down,be suitable,beautifull;taka=heap,heap up,lie in a heap)、「(ごつごつした岩のような)美しい・高まり(鶏冠)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」となった)

の転訛と解します。

637うずら(鶉)

うずら(鶉)は、キジ目キジ科の小型の鳥で、全長約20cm、飼養すると短期間で繁殖し、年間百個以上の卵を生むので、古くから美味な肉や卵を食用とし、また鳴き声を楽しむために飼われてきました。

 この語源は、(1)山鳥を意味する朝鮮語から、(2)鳴き声がウ(憂)く、ツラ(辛)いことから、(3)「ウ(フ(生)の転)・ツラ(群)」から、(4)茂草の中にいるので「ウヅミアル(埋有)」の転、(5)北から南へ移る「うつら(徒)」の転などの説があります。

 この「うずら」は、

「ウツ・ウラ(ン)ガ」、UTU-RANGA(utu=return for anything,reward;uranga=u=be firm,reach the land,reach its limit)、「(飼養の)返礼(肉や卵)が・とても多い(鳥)」(「ウツ」の語尾のU音と「ウラ(ン)ガ」の語頭のU音が連結し、語尾のNGA音が脱落して「ウツラ」から「ウズラ」となった)

の転訛と解します。

638はと(鳩)

はと(鳩)は、ハト目ハト科の鳥の総称で、世界に広く分布し、樹上または地上にすみ、小枝や樹皮、雑草などを平らに積み重ねただけの簡単な巣をつくるのが特徴です。

 この語源は、(1)羽音「ハタハタト」の略、(2)速鳥の義、(3)鳴き声「ハツーハツー」からまたは「ハトーポーポー」から、(4)中国北部でハトをいう「ハッコク(撥穀)」から、(5)いつも二羽が離れず八の形をなすところから、(6)羽の強い鳥の義、(7)「ハタタク(羽叩)」の義などの説があります。

 この「はと」は、

「ハ・アト」、HA-ATO(ha=breathe,what!;ato=thatch,enclose in a fence)、「何と・(屋根を葺くように、小枝や樹皮、雑草を)積み重ねるだけ(の巣を作る。鳥)」(「ハ」のA音と「アト」の語頭のA音が連結して「ハト」となった)

の転訛と解します。

639すずめ(雀)

すずめ(雀)は、スズメ目ハタオリドリ科の鳥で、全長約15cm、日本では人里に住む最も一般的な鳥です。

 この語源は、(1)スズは鳴き声、メはムレ(群)の転、(2)スズは鳴き声、メは小鳥の義、(3)「スズロムレ(漫群)」の義、(4)スズはササに通じ小、メは小鳥の義、(5)踊りながら進むことから、(6)古くは「チュン、チュン」と鳴く小鳥の総称などとする説があります。

 この「すずめ」は、

「ツツ・マイ」、TUTU-MAI(tutu=set on fire,be raised as dust or disturbance etc.,vigourous;mai=to indicate direction or motion towards)、「(何かに驚くと)群をなして一斉に・飛び上がる(鳥)」(「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」となった)

の転訛と解します。

640つばめ(燕)・つばくら(つばくらめ。つばくろ)

つばめ(燕)は、つばくら(つばくらめ・つばくろ)ともいい、スズメ目ツバメ科の代表種で、好んで人家に営巣し、旋回性、機敏性に富む飛行をしながら昆虫を捕食します。

 つばめの語源は、(1)「ツバクラメ」の略、(2)土を食んで巣をつくるので「ツチハム(土食)」の略と、つばくらめの語源は(1)「ツバクラ」は鳴き声から、メはムレ(群)の転、(2)「ツバ(光沢)・クラ(黒)・メ(鳥)」の義、(3)「ツチバミクラメ(土食黒女)」から、(4)「ツチクラヒ(土喰)」から、(5)「ツバサクリカエリムレ(翼繰返群)」からなどの説があります。

 この「つばめ」、「つばくら(つばくろ)」は、

  「ツパ・マイ」、TUPA-MAI(tupa=start,turn sharply aside,escape;mai=to indicate direction or motion towards)、「敏活に(体を)翻して・飛ぶ(鳥)」(「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」となった)

  「ツパ・クラエ」、TUPA-KURAE(tupa=start,turn sharply aside,escape;kurae=project,be prominent)、「敏活に体を翻して飛ぶことが・(他の鳥よりも)際だっている(鳥)」(「クラエ」の語尾のE音が脱落するか、E音がO音に変化して「クラ」または「クロ」となった)

の転訛と解します。

641かも(鴨)・あひる(家鴨)・おしどり(鴛鴦)

かも(鴨)は、カモ目カモ科カモ亜科に属する水鳥の総称で、世界に広く分布し、雌雄異色で、繁殖期には複雑な集団求愛ディスプレーを行い、一夫一婦で巣について卵を暖めます。

 あひるは、マガモを家畜化したもので、飛翔力を失い、複婚性で就巣性も失っています。

 おしどり(鴛鴦)は、古くから仲の良い鳥の代表と考えられています。

 かもの語源は、(1)「浮かぶ鳥」から、(2)「カム(頭群)」から、(3)波を「カウブル」義、(4)足を「カキモガク」から、(5)雁(がん)と同義で清音「カム」の転などの説があります。

 あひるの語源は、(1)「アシヒロ(足広)」の略転、(2)「アシヒロゲユキ(足広行)」の義、(3)アヒはイヘ(家)の転、ルは朝鮮語のカモ(ori)の転などの説があります。

 おしどりの語源は、(1)雌雄互いに愛するところから「ヲシ(愛)」の義、(2)「イトヲシミ」深い鳥から、(3)「ヲシ(雄雌)」の義、(4)「ヲシ(雄慕)」の義、(5)「思イ死ヌル」鳥の義などの説があります。

 この「かも」、「あひる」、「おし(どり)」は、

「カハ・マウ」、KAHA-MAU(kaha=strong,persistency;mau=fixed,continuing,caught,entangled,expressing feelings of horror or admiration)、「(繁殖期に)力強く(長時間)・求愛行動を行う(鳥)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)

  「アピ・ル」、API-RU(api,apiapi=crowded,dense,confined,constricted;ru=shake,agitate,scatter)、「(雌雄の)親密性を・放棄した(鳥)」

  「オチ」、OTI(finished,gone or come for good)、「(夫婦で)仲むつまじく暮す(鳥)」

の転訛と解します。

642うぐいす(鶯)

 うぐいす(鶯)は、「ホーホケキョ」と啼くスズメ目ヒタキ科の鳥で、全長約16cm、山梨・福岡県の県鳥となっています。その糞は肌を美しくする効能があるとされて古くは洗顔に使用されました。

この語源は、(1)ウグヒは啼き声、スは鳥名に付く接尾語、(2)「ウク(奥)・ヒス(出づ)」から、(3)ウはフ(生)の転、スは巣、茂みに巣をつくる鳥の義、(4)愛食巣または愛作巣の意、(5)卯の方(陽気な方)に巣を作る鳥、(6)「ウメクヒスメル(梅食棲)」の約、(7)虫喰ヒドリの義などの説があります。

 この「うぐいす(うぐひす)」は、

「ウク・ウヰ・ツ」、UKU-UWHI-TU(uku=wash using clay for soap;uwhi=cover,spread out;tu=fight with,energetic)、「(女性がその糞を)一生懸命に・塗りたくって・洗顔する(鳥)」(「ウク」が濁音化し、その語尾のU音と「ウヰ」の語頭のU音が連結し、WH音がH音に変化して「ウグヰ」から「ウグヒ」となった)

の転訛と解します。

 

643わし(鷲)

 わし(鷲)は、タカ目タカ科の鳥のうち、昼行性の猛禽類で通常大型のものの通称です。ワシ、タカともに飛翔力に優れ、空中または地上の獲物を鋭い爪のある脚で捕まえ、鋭く尖った嘴で引き裂いて食べます。

 語源は、(1)悪い鳥であることから「アシ(悪し)」の義、(2)車輪の如く飛ぶことから「ワシ(輪如)」、(3)自分の羽の素晴らしさをしっていることから「ワサ(姿)・シリ(知)」の反、(4)「ウエハミハシ(飢喰嘴)」の義、(5)動作が敏捷であるところから「ハシ(捷)」の義などの説があります。

 この「わし」は、

  「ワチ」、WHATI(be broken off short,be bent at an angle, come quickly)、「素早く飛んでくる(または嘴の先が曲がっている。鳥)」

の転訛と解します。

 

644たか(鷹)

 たか(鷹)は、タカ目タカ科の鳥のうち、昼行性の猛禽類で通常小型のものの通称です。ワシ、タカともに飛翔力に優れ、空中または地上の獲物を鋭い爪のある脚で捕まえ、鋭く尖った嘴で引き裂いて食べます。鷹は、飼養、訓練して鷹狩りに用いられ、勇猛で姿に威厳があるところから霊鳥として崇敬されました。

 語源は、(1)「タカ(高)」く飛ぶところから、(2)タケキ(猛)意から、(3)「タカヒドリ(手飼鳥)」の意、(4)「ツマカタ(爪堅)」の反、(5)「ツメイカ(爪厳)」の義などの説があります。

 この「たか」は、

  「タ・アカ」、TA-AKA(ta=the...of,dash,beat,lay;aka=clean off,scrape away)、「素早く舞い降りて・(獲物を)浚ってゆく(鳥。鷹)」(「タ」のA音と「アカ」の語頭のA音が連結して「タカ」となった)

の転訛と解します。

 

645はやぶさ(隼)

 はやぶさ(隼)は、タカ目ハヤブサ科の鳥の総称で、しばしばワシ・タカと混同されます。飛翔力が特に強いことが特徴です。飼養、訓練して鷹狩りに用いられます。

 語源は、(1)「ハヤツバサ(早翼、速翼)」の義、(2)「速羽」の義、(3)「ハヤトビツバサ(速飛翼)」の約、(4)「ハヤフセ(速伏)」の義などの説があります。

 この「はやぶさ」は、

  「ハ・イア・プタ」、HA-IA-PUTA(ha=what!;ia=indeed;puta=hole,move from one place to another,come forth,escape)、「何と・実に・(目標の場所へ素早く)動く(飛んで行く。鳥)」

  または「パイア・プタ」、PAIA-PUTA(pa,paia=block up,prevent,assault;puta=hole,move from one place to another,come forth,escape)、「(目標の場所へ素早く)動いて・(獲物を)襲う(鳥)」(「パイア」のP音がF音を経てH音に変化して「ハヤ」と、「プタ」が「ブサ」となった)

の転訛と解します。(古典篇(その八)の215F18隼総別(はやぶさわけ)皇子の項を参照してください。)

 

646とび(鳶)・とび(供物、贈り物)

 とび(鳶)は、タカ目タカ科の鳥のうち、他のタカに比して嘴、脚が未発達で、力が弱く、腐肉を好むものをいいます。

 語源は、(1)「トビ(飛)」の義、(2)「トヲヒキ(遠引)」の反、(3)遠くの物を見る鳥であるところから「トヲミ(遠見)」の義などの説があります。

 なお、古くは西日本で、神仏への供物や他人への贈り物を「とび」といいました。

 この「とび」は、

  「ト・ピ」、TO-PI(to=drag,open or shut a door or a window;pi=eye)、「(獲物を探して)目を走らせながら・(大空を)往復する(鳥。鳶)」

  「トピ」、TOPI(cook in a small native oven)、「(土中の小さな)蒸焼き穴で調理した(ご馳走)」

の転訛と解します。

 

647かささぎ(鵲)・カチガラス

 かささぎ(鵲)は、スズメ目カラス科の鳥で、別名を「カチガラス」といい、ユーラシア大陸のほぼ全域に棲息します。

 『魏志倭人伝』は、倭国には「牛、馬、虎、豹、羊、鵲がいない」と記します。日本へは17世紀に朝鮮から人為的に移植され(『日本書紀』推古天皇6年4月条に輸入記事が見えますが、このときは定着しなかったものと考えられます。古典篇(その六)の233H3難波吉士磐金(いはかね)・鵲(かささぎ)の項を参照してください。)、それ以来九州の筑紫平野で繁殖し、殆ど移動することはありません。国の天然記念物、佐賀県の県鳥となっています。

 鵲はヨーロッパでは烏(からす)とともに不吉な鳥とされていますが、中国・朝鮮半島では陰気な烏(からす)の鳴き声に比して軽くすがすがしい鳴き声と感じられて吉鳥とされ、韓国の国鳥となっています。

 『和名抄』は、「加佐佐岐(かささき)」と訓じます。

 語源は、(1)カサはこの鳥の朝鮮の方言、サギは鷺の意、(2)カサはこの鳥の朝鮮の方言カスまたはカシの転、サギはサハギ(噪)から、(3)カザシアサギ(翳浅黄)の義などの説があります。また、カチガラスは、鳴き声が「カチカチ」と聞こえることからいうとする説があります。

 この「かささぎ」、「カチ(烏)」は、

  「カタ・タ(ン)ギ」、KATA-TANGI(kata=opening of shellfish,laugh;tangi=sound,cry,weep)、「笑い・声を立てる(鳥)」(「タ(ン)ギ」のNG音がG音に変化して「タギ」から「サギ」となった)

  「カチ」、KATI(leave off,be left in statu quo)、「(そこに置き去りにされたままになっている)住む場所を移動しない(烏)」

の転訛と解します。

 

648うとう(善知鳥)

 善知鳥(うとう)は、「黒褐色の大型のチドリ目ウミスズメ科の鳥で、日本では北海道と本州北部で繁殖し、・・・海に面した断崖の緩く傾斜した草地に1から2mの深さの穴を掘って中に1腹1卵を産む・・・。(平凡社『世界大百科事典』)」鳥で、北海道の天売島の集団繁殖地は有名で、江島列島の繁殖地は国の天然記念物になっています。

 この鳥にまつわる青森県の民話が謡曲『善知鳥(烏頭。うとう)』に取り上げられたことから有名となりました。

 なお、静岡県掛川市には日本最大級の横穴古墳である宇洞(うとう)ケ谷横穴の古墳があり、山梨県塩尻市の南部には伊那郡辰野町へ抜ける三州街道の善知鳥(うとう)峠(856メートル)があります。(信州には、至るところに「うとう」と呼ぶU字形に凹んだ切り通しの山道があります。)

 語源は、(1)繁殖期にオレンジ色の嘴の付け根に灰色の突起ができることからアイヌ語「ウトウ(突起)」の意、(2)鳥の鳴き声から、(3)ウツ(空)の転、(4)穴を掘って巣を作ることから「ウツボ」の意などの説があります。

 この「うとう」は、

  「ウ・トウ」、U-TOU(u=be fixed,reach its limit,bite;tou=annus,posteriors)、「肛門(のような穴の中)に・定着する(営巣する。鳥)」

  または「肛門(のような穴の中)に・造営されている(古墳)」または「尻(の割れ目)のような・場所にある(峠。山道)」

の転訛と解します。

 

649あび(阿比)(鳥)・かづく(鳥)

 あび(阿比)(鳥)は、アビ目アビ科の鳥で海岸や内湾、河口などに住み、潜水して主に魚類を食べます。

 瀬戸内海の広島県の上蒲刈島と大崎下島、斎(いつき)島を結ぶ海域に、天然記念物指定を受けた「アビ渡来群遊海面」があり、回遊するイカナゴを潜水して捕食するアビ(古名「かづくとり」)が群集する場所で、イカナゴを追って浮上してきた鯛や鱸を釣り上げる鳥持網代(とりもちあじろ)と称される漁法が古くから冬季に行われています。

 この「あび」、「かづく(鳥)」は、

  「アピアピ」、APIAPI(crowded,dense,constricted)、「群集する(鳥)」(反復語尾が脱落して「アピ」から「アビ」となった)

  「カハ・ツク」、KAHA-TUKU(kaha=strong,able;tuku=let go,leave,send,present,catchin a net)、「(魚を)網に追い込む(または漁師に魚の贈り物をする)・力のある(鳥)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)

の転訛と解します。

650かり(雁)・がん(雁)

 この「かり」および「がん」は、カモ目カモ科のガン類の総称で、ハクチョウ類とカモ類の中間の大きさを持ち、カモ科の中ではもっとも陸上生活に適応しているといわれます。

 北半球の高緯度地方と南とを往復する渡り鳥で、常に階段状の列を作つて飛ぶ(雁行(がんこう))ことはよく知られています。

 この「かり」、「がん」は

  「カリ」、KARI(=kakari=fight,notch)、「(他の鳥と異なり、ぎざぎざの(階段状の)列を作る)雁行して渡る(鳥。雁)」

  「(ン)ガ(ン)ガオ」、NGANGAO(dress timber with an adze,alternate edge and depression)、「(斧で削つた材木の表面のように)ぎざぎざの(階段状の)列を作って渡る(鳥。雁)」(「(ン)ガ(ン)ガオ」の最初のNG音がG音に、次のNG音がN音に変化して「ガナオ」から「ガノ」、「ガン」となつた)

の転訛と解します。

 

651つる(鶴)・たづ(田鶴)・たんちょう(丹頂)・まなづる(真鶴)・なべづる(鍋鶴)

 「つる(鶴)」は、ツル目ツル科の鳥の総称で、熱帯や南半球では留鳥ですが、北半球では高緯度地方で繁殖して冬季に南へ渡つて越冬する種が多くいます。日本では、古名を「たづ(田鶴)」といい、「たんちょう(丹頂)」が北海道に留鳥として棲み、「まなづる(真鶴)」、「なべづる(鍋鶴)」などが冬鳥として渡来してきています。

 「つる」は、頸と足が長く、その姿が美しいところから、古来瑞鳥・霊鳥として尊重され、亀とともに長寿の象徴として親しまれてきました。ツル類に独特の行動として、翼を広げてピョンピョンと飛び上がったり、気取つた格好で歩いたり、頸を伸ばしてくちばしを上に突き上げたりする「鶴のダンス」や、番の雌雄がくちばしを上に突き上げて大きな声で鳴き交わす「鳴き合い」があります。

 この「つる」、「たづ」、「たんちょう」、「まな」、「なべ」は、

  「ツル」、TURU(post,pole,upright)、「(頸と足が長くて)直立している(鳥。鶴)」(なお、植物の「つる(蔓)」は、「ツ・フル」、TU-HURU(tu=stand,settle,fight with,energetic;huru=contract,draw in,gird on as a belt)、「しっかりと・巻き付くもの(蔓)」(「フル」のH音が脱落して「ル」となった)の転訛と解します。さらに、弓の「つる(弦)」も同じ語源で、「しっかりと・(弓の両端を)引っ張るもの(弦)」と解します。)

  「タハ・ツ」、TAHA-TU(taha=side,spasmodic twitching of the muscles;tu=fight with,energetic)、「衝動的な動き(鶴の舞)を・精力的に行う(鳥。鶴)」(「タハ」のH音が脱落して「タ」となった)

  「タ(ン)ガ・チオ」、TANGA-TIO(tanga=be assembled;tio=cry)、「組になって・鳴く(鳴き合いをする。鳥)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「タン」と、「チオ」が「チョウ」となった)

  「マナ」、MANA(authority,power,psychic force)、「霊力を持つ(鳥)」または「マ(ン)ガマ(ン)ガ」、MANGAMANGA(unsteady,tottering)、「よろよろと歩く(鶴のダンスを踊る。鳥)」(NG音がN音に変化し、反復語尾が脱落して「マナ」となった)

  「ナペ」、NAPE(say falteringly,make a false stroke with the paddle)、「戯れの声を上げたり、仕草をしたりする(鳥)」

の転訛と解します。

652かめ(亀)・すっぽん(鼈)・たいまい(玳瑁)

 「かめ(亀)」は、特殊な構造の甲をもつカメ目の爬虫類の総称で、多くの種類があります。多くは穏和で、危険を感ずると甲羅の中に首、手足を引っ込めますが、「すっぽん(鼈)」は性質が荒く、長い頸部を伸ばして後方にも噛みつく習性があります。ウミガメ類は総じて食用として喜ばれ、とくに「たいまい(玳瑁)」はその鱗甲が美しく、鼈甲細工の材料としてとして珍重されてきました。

 この「かめ」、「すっぽん」、「たいまい」は、

  「カハ・マイ」、KAHA-MAI(kaha=strong,strength,persistency;mai=become quiet)、「強い(甲羅と外皮を持ち)・温和しい(危険を感ずると甲羅の中に首、手足を引っ込めて静かになる。動物。亀)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」となった)

  「ツ・ポノ」、TU-PONO(tu=fight with,energetic;pono=true,bountiful)、「攻撃的で・疲れを知らない(動物。鼈)」

  「タイ・マイ」、TAI-MAI(tai=the sea,the tide;mai,maimai=a dance to welcome guest at a cry)、「歓喜の声を上げて歓迎する・海からの客人(贈り物である動物。玳瑁)」

の転訛と解します。

653こうもり(蝙蝠)・かはほり・こうぼり

 こうもり(蝙蝠)は、翼手目に属する哺乳類の総称で、前肢が著しく発達し、指の間から体の脇、尾にかけて膜があり、翼となつています。洞穴、屋根裏などに潜み、夕方から飛び出して蚊、昆虫や小動物などの食物をとります。

 古名を「かはほり」、「こうぼり」、「かくいどり(蚊喰鳥)」などといいました。「こうもり」の語源は、「カハホリ」の音便、蚊を好むところからカモリ(蚊守)の義、カハヤ(厠)モリの義とする説があります。

 この「こうもり」、「かわほり」、「こうぼり」は、

  「コフ・モリ」、KOHU-MORI(kohu=hollow,concave;mori=fondle,caress)、「洞穴を・好む(住みつく動物。蝙蝠)」(「コフ」のH音が脱落して「コウ」となった)

  「カハ・ホリ」、KAHA-HORI(kaha=strong,strength;hori=a cloak with black twisted strings here and there)、「黒い上着を・広げた(ようにして飛ぶ動物。蝙蝠)」

  「コフ・ポリ」、KOHU-PORI(kohu=hollow,concave;pori=wrinkle,fold,people,tribe)、「洞穴に・(折り重なって住む)種族(の動物。蝙蝠)」(「コフ」のH音が脱落して「コウ」となった)

の転訛と解します。

654りす(栗鼠)・むささび・ばんどり・もま・ももんが

 りす(栗鼠)は、ねずみに似ていますが、一般に四肢と尾が長く、尾が房状の、齧歯目リス科の小哺乳類の総称で、昼行性のリス亜科と夜行性のムササビ亜科に大別されます。

 りすの典型は、昼行性・樹上生で、樹洞や木の枝の上に小枝や葉を集めて大きな球形の巣を作り、昼間に活発に行動します。「りす」の語源は、「栗鼠」の音「リッソ」の転、クリスキ(栗好)の義との説があります。

 むささびは、前・後肢と体の間に飛膜を広げて滑空する大型の夜行性・樹上生のりすで、小型の高山に住むものは「ももんが」と呼ばれます。飛膜は、滑空時以外は体側に引き込まれて目立たちません。むささびは、「ばんどり」、「もま」とも呼ばれます。むささびの語源は、羽大きく身小さいところからミササビ(身細)の義、ミサイ(身細)の義、尾を折り返し背中をひしとへすところからミル、サマ、セナ、ヘシの反、ミツバサソヒトビ(身翼添飛)の義、その声からムセムセビ(咽々)の義かなどとする説があります。

 この「りす」、「むささび」、「ばんどり」、「もま」、「ももんが」は、

  「リ・ツ」、RI-TU(ri=screen,protect;tu=fight with,energetic)、「巣を作って・活発に行動する(動物。栗鼠)」

  「ムツア・タピ」、MUTUA-TAPI(mutua=mutu=brought to an end,cropped,having the end cut off,truncated;tapi=apply as dressing to a wound,mend,repair)、「(飛翔する時に広げる)飛膜を(飛翔しない時は)切り取つて・手当をしている(隠して平然と行動する動物。むささび)」(「ムツア」のUA音がA音に変化して「ムタ」から「ムサ」となった)

  「パ(ン)ガ・ト・オリ」、PANGA-TO-ORI(panga=throw,aim a blow at;to=drag,open or shut a door or a window;ori=cause to wave to and fro,sway,move about)、「(風のように飛んできて)獲物を襲う・あちこち・行き来する(鳥のような動物。ばんどり)」(「パ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「パナ」から「バン」と、「ト」のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「トリ」から「ドリ」となった)

  「マウ・オマ」、MAU-OMA(mau=fixed,continuing,caught;oma=move quickly,run)、「実に・速く飛翔する(動物。もま)」

  「マウ・マウ(ン)ガ」、MAU-MAUNGA(mau=fixed,continuing,caught;maunga=mountain)、「山に・定着している(動物。ももんが)」(「マウ・マウ(ン)ガ」のAU音がO音に変化して「モモンガ」となった)

の転訛と解します。

655もぐら(土竜)・ひみず

 もぐら(土竜)は、食虫目モグラ科の地下生の哺乳類で、土中のミミズなどを捕食するためもっぱら盛んに土中を横行します。

 ひみずは、もぐらの一種ですが半地下生で、日本特産、本州、四国、九州の山地の湿地などに住み、あまり穴は掘らず、ミミズなどのほか植物の種子、根なども食べます。夜行性で、語源は「日見ず」からとする説があります。

 この「もぐら」、「ひみず」は、

  「マウ・(ン)グ(ン)グ・ウラ(ン)ガ」、MAU-NGUNGU-URANGA(mau=fixed,continuing,caught;ngungu=turn aside,lead astray;uranga=u=reach the land,reach its limit)、「(極限まで)徹底的に・(地中を)迷走し・続ける(動物。土竜)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」と、「(ン)グ(ン)グ」のNG音がG音に変化し、反復語尾が脱落して「グ」となり、そのU音と「ウラ(ン)ガ」の語頭のU音が連結し、名詞形語尾のNGA音が脱落して「グラ」となった)

  「ヒ・ミ・ツ」、HI-MI-TU(hi=rise,raise;mi=urine,stream;tu=stand,settle)、「高い山の・湿潤な場所に・住む(動物。ひみず)」

の転訛と解します。

656ひばり(雲雀)

 雲雀は、スズメ目ヒバリ科の鳥の一種または総称で、畑地・草原などに住み、繁殖期にはオスが空中高く舞い上がって複雑なさえずりを長く続けます。

 この語源は、(1)晴れた日に高く上り鳴くことから「ヒハル(日晴)」の義、(2)「ヒマヒ(日に向かへり)」の転、(3)「マヒツバサフリ(舞翼振)」の義、鳴き声「ピパリ」からか、(4)「ヒラハリ(翩張)」の義、(5)高くのぼることから「ヘヘ(隔々)リ」の義、(6)「ヒ(日)ハ(遙または羽)リ(アガリサガリのリ)」などとする説があります。

 この「ひばり」は、

  「ヒ・パリ」、HI-PARI(hi=raise,draw up,rise;pari=bark as a dog)、「(空)高く飛んで・(高い声で)さえずる(鳥)」

の転訛と解します。

657とら(虎)

 とら(虎)は、食肉目ネコ科の中でライオンと並ぶ最大の猛獣で、氷河時代にはユーラシア大陸のほぼ全域に分布していましたが、今日ではアジア特産で、アムール,ウスリー、中国東北部、朝鮮半島、中国南部、カスピ海南岸、東南アジア、インド、スマトラ、ジャワ、バリに分布します。体長約2メートルから大きなものでは約3メートルに達します。身体の上面および側面は黄褐色で黒い縞があります。虎は、単独で森林に住み、鋭い牙と鉤条の爪を持ち、主に夜活動してシカ、イノシシ、牛や鳥類、魚類を食べます。日本列島には生息していませんでしたが、古くからその存在は知られていました。多くの地域で勇猛の代名詞とされてきています。

 この語源は、(1)人里から離れて住む動物であるところからトヲラカの反(名語記)、(2)恐ろしくてトラ(捕ら)まえられぬところからか(和句解)、(3)人をトラ(捕ら)ゆる動物であるところから(日本釈名・和訓栞)。トル(採る)の義(言元梯)。トリクラヒ(捕食)の義(日本語源学ー林甕臣)、(4)朝鮮語(済州島の古語タムラ(耽羅)またはトラ(度羅)?)からか(名言通・日本語源ー賀茂百樹)、(5)虎の皮はマタラ(斑)であるところから、マタラの転か(類聚名物考・言元梯)、(6)朝鮮の古語で毛の斑を意味するツルの転(大言海)、(7)トは虎をいう楚国の方言オト(於菟)から。ラは助詞(箋注和名抄)、(8)中国南部タイ系ドウ族の虎をいうタイラから(十二支考ー南方熊楠・語源辞典動物篇ー吉田金彦・広辞苑(タイ語系南方語起源?))などとする説があります。

 この「とら」は、

  「トラ」、TORA(burn,blaze,be erect used of showing warlike feelings)、「すこぶる猛々しい気性の(動物)」

の転訛と解します。

658ひつじ(羊)・やぎ(山羊)・やぎゅう(野牛(山羊の異名))

 ひつじ(羊)は、ウシ科の哺乳類で、多くはらせん形の角を持ち、草食性で、性質はおとなしく、群れをなして住みます。古くから家畜化されました。

 羊の語源は、(1)十二支の未からで、未の時は日が西へさがる通路すなわちヒツジ(日辻)の義(日本釈名・古今要覧稿・名言通・本朝辞源・大言海など)、(2)ヒタス(養)シシ(獣)の義(大言海)、(3)屠所へ引かれる羊の様をいうヒキ、ダス、シニの反。またハヒ、ヅル、シニの反(名語記)、(4)ハシチヒウシ(愛小牛)の義(日本語源学ー林甕臣)、(5)ヒはヒゲの意。ツは助詞。ジはウシの略(外来語の話ー新村出)、(6)ヒツキの祭にシヌ(死ぬ)の意か。中国で典氏が行う祭の時殺すことから(和句解)、(7)朝鮮の古代方言(?)からか(新村出。現代朝鮮語はヤング)などとする説があります。

 やぎ(山羊)は、ウシ科の哺乳類で、ヒツジによく似ていますが、尾が短く、雄にはあごひげがあり、角は鎌形でらせん形にはなりません。古くから家畜化されました。また、「やぎゅう(野牛)」ともいいました。

 山羊の語源は、(1)羊の朝鮮語ヤングから(外来語の話ー新村出・大言海)、(2)ヤギウ(野牛)の訛か(大言海・国語の中に於ける漢語の研究ー山田孝雄)とする説があります。

 この「ひつじ」、「やぎ(やぎゅう)」は、

  「ヒヒ・ツ・ウチ」、HIHI-TU-UTI(hihi=ray of the sun,shy;tu=fight with,energetic;uti=bite(utiuti=annoy,worry))、「臆病で・懸命に・(草を)食べる(動物。羊)」(「ヒヒ」の反覆語尾が脱落して「ヒ」と、「「ツ」のU音と「ウチ」の語頭のU音が連結して「ツチ」から「ツジ」となった)

  「イア・(ン)ギア・フ」、IA-NGIA-HU(ia=indeed;ngia=seem,appear to be;hu=resound,make any inarticulate sound)、「実に・(羊に)よく似ていて・(メーと)高い声を上げる(動物)」(「イア」が「ヤ」と、「(ン)ギア」のNG音がG音に変化し、語尾のA音が脱落して「ギ」と、「フ」のH音が脱落して「ウ」となり、後にこの「ウ」も脱落した)

の転訛と解します。

b 魚貝類名

 

701たい(鯛)

 

 鯛は、狭義では「まだい(真鯛)」を指し、体長1メートルに達するものもある大型魚で、美しい体型と体色を持ち、古くから最も重要な食用魚とされ、貝塚からも大量の骨が発見されています。

 この「たい」は、マオリ語の

  「タヒ」、TAHI(one,single,together(te tahi=the first))、「(魚の中で)一番の(魚)」

の転訛と解します。

 

702いか(烏賊)・げそ(烏賊の足)・するめ(鯣)

 

 烏賊は、日本人にとって古くからなじみが深く、漁獲量も多い魚で、強い走光性を持つため、集魚灯を使う漁法が盛んに行われます。

 マオリ語には「イカ、IKA(fish,prized possession,cluster,band,troop,heap)、魚または群れをなす(魚)」という言葉があります(オーストロネジア語にほぼ共通し、ハワイ語(イア、I'A(fish))、インドネシア語(イカ、IKA(fish))、マライ語(イカン、IKAN(fish))などがあります)が、これは一般名詞です。

 また、烏賊の足を「げそ」と、烏賊を乾したものを「するめ(鯣)」と呼びます。

 この「いか(烏賊)」、「げそ」、「するめ」は、マオリ語の

  「ヒ・カ」、HI-KA(hi=raise,rise;ka=take fire,be lighted,burn)、「灯をともすと(灯に向かって深海から表層へ)上がってくる(魚)」(「ヒ」のH音が脱落して「イ」となった)

  「(ン)ガイ・タウ」、NGAI-TAU(ngai=tribe,clan;tau=turn away,look in another direction,attack,strange)、「(十本の足がそれぞれ)別々に動く(奇妙な動きをする)・種類のもの(烏賊の足)」(「(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ゲ」と、「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ソ」となった)

  「ツル・マエ」、TURU-MAE(turuturu=make firm or permanent;mae=languid,listless)、「堅くなった・ぐにゃぐにゃであったもの(いかの乾物。鯣)」(「マエ」のAE音がE音に変化して「メ」となった)

の転訛と解します。

 なお、集会場で脱いだ履き物の「げそく(下足)」も、上記の「げそ」と同じ語源で、

  「(ン)ガイ・タウ・クフ」、NGAI-TAU-KUHU(ngai=tribe,clan;tau=turn away,look in another direction,attack,strange;kuhu=insert,conceal)、「(脱ぎ捨てられて)ばらばらに置かれた(履き物が)・(下足箱に)入れられた・種類のもの(下足)」(「(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ゲ」と、「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ソ」と、「クフ」のH音が脱落して「ク」となった)

と解します。

 

703まんぼう

 

 海の魚「まんぼう」は、フグ目に属し、大きな体で大洋の表層を緩慢な動作でのんびりと泳ぐ(たまに横になって漂うこともある)ことで知られています。

 この「まんぼう」は、マオリ語の

  「マナ・ポウ」、MANA-POU(mana=power,psychic force;pou=pau=consumed,exhausted)、「生命力を消耗した(ような鈍重な魚)」(「マナ」の語尾のA音が脱落して「マン」に、「ポウ」が「ボウ」に変化した)

の転訛と解します。

 この「マナ(生命力、精神力、霊力など)」は、沖縄・奄美ではそのまま今でも使われている言葉です。

 なお、地下の取水トンネル「1102まんぼ」は、やや語源が異なります。

 

704はまぐり(蛤)

 

 蛤は、古代から浅蜊と並んで浅海における重要な海産物でした。

 蛤は、浅蜊と異なり、一カ所に定着せず、足を使って潜行したり、移動したり、とくに干潮時には、粘液質を分泌しこれを抵抗板として、潮流に乗って広範囲に移動する特性があります。そこで、養殖する場合は砂浜に仕切りを作る必要があります。

 蛤の名は、殻の形が栗に似るからとする説、浜の「ぐり(小石)」の意とする説があります。

 この「はまぐり」は、マオリ語の

  「ハ・マク・リ」、HA-MAKU-RI(ha=breathe;maku=wet,wetness;ri=bind,protect)、「呼吸をして(口から粘液質を分泌して)湿潤と結合する(潮流に乗って移動する貝)」

の転訛と解します。

 

705あさり(浅蜊)

 

 浅蜊は、古代から蛤と並んで浅海における重要な海産物でした。

 浅蜊は、蛤と異なり、乾燥にも強く、一生をほぼ一カ所に定着して過ごす特性があります。

 浅蜊の名は、「漁る」の転、「浅い所に住む貝」の意、「砂利の中にいる貝」の意とする説などがあります。

 この「あさり」は、マオリ語の

  「アタ・リ」、ATA-RI(ata=gently,slowly,quite;ri=bind,protect)、「従順で(砂浜に)定着している(貝)」

の転訛と解します。

 

706たいらぎ(平貝)

 

 たいらぎは、ハボウキガイ科の二枚貝で、平貝(たいらがい)ともいわれますが、決して「平ら」ではなく、殻の長さ22cm、高さ11cm、幅4.5cmになる大型の細長い三角形の貝です。房総半島以南、南九州まで分布し、有明海、伊勢湾、東京湾などの内湾に多く生息します。貝柱は美味ですしの材料になる高級食材です。

 砂泥底に細長くなった殻頂を下にして、足糸を出し、小石などに付着して直立して立ち、浮遊有機物やプランクトンを食べています。

 この「たいらぎ」は、マオリ語の

  「タイラ(ン)ギ」、TAIRANGI(stir as in mixing anything with water)、「海の中で何かをかきまぜている(ように立っている貝)」

の転訛と解します。

 

707あわび(鮑)

 

 鮑は、美味で乾燥すると保存がきくため、古代から重要な海産物でした。『延喜式』には、鮑の加工品の名が多くみえます(このうち、「たんら(耽羅)のあわび」については、追って別途解説します)。 

 この「あわび」は、マオリ語の

  「アウ・アピ」、AU-API(au=firm,intense;api,apiapi=crowded,confined,constricted)、「(岩に)しっかりと付着している(貝)」(「アウ」の語尾のU音と「アピ」の語頭のA音が連結して「ワ」となつた)

の転訛と解します。

 

708たんら(耽羅)のあわび

 

 『延喜式』(巻24、主計上)の諸国の負担すべき調の中に「耽羅鰒(たんらのあわび)6斤」 と、肥後国の調の中に「耽羅鰒39斤」、豊後国の調の中に「耽羅鰒18斤」が記載されています。

 この耽羅鰒について網野善彦氏は、「渋沢敬三が「耽羅(済州島)産と同種貝の意か」として注目し、「或いは特殊製法の差かも知れない」と(『祭魚洞襍考』)、・・・宮本常一は・・・済州島の海人の来往を推測し(「海人ものがたり」『中村由信写真集 海女』所収解説)・・・、森浩一氏も・・・済州島から季節的に移動する海女の採取したものとし(『日本の古代』2、「古代人の地域認識」、中央公論社、昭和61年)・・・、私も済州島との交易を含めて直接の交流関係を認めうる・・」とされます(『日本の古代』8、「中世から見た古代の海民」、中央公論社、昭和62年)。

 しかし、誰が採取したかまたは誰が加工製造にあたったかは鮑の外観からは判別できない(収納に従事する国庁の役人も朝廷の役人も判別できない)こと、調の本質はその国の産物の貢上にあり、外国との交易によつて調達したものを貢上することはまず考えられないこと、『延喜式』の他の鰒の種類は、製品の形状または加工法によるものがほとんどと考えられる(御取鰒、着耳鰒、鳥子鰒、都都伎鰒、放耳鰒、長鰒、短鰒、凡鰒、串鰒、横串鰒、細割鰒、葛貫鰒、火焼鰒、羽割鰒、陰鰒、薄鰒、雑鰒などの名がみえる)ことから、済州島との交流説には納得できません。

 この「たんら」は、マオリ語の

  「タ(ン)ガラ」、TANGARA(loose,slack,unencumbered)、「(大きさ・包装形態などが)ばらばらの(または不揃いの・あわび)」(NG音がN音に変化して「タナラ」から「タンラ」となった)

の転訛と解します。

 なお、この件に関しては次の問題が残ります。

 上記の網野善彦氏の論文は、「平城宮跡出土木簡(木簡番号344は、天平17(745)年9月、志摩国英虞郡名錐郷(三重県志摩郡大王町(現志摩市)内とされます。筆者注)戸主大伴部国万呂戸口同部得嶋御調耽羅鰒六斤が貢上されたことを示している」とします。しかし、この記述が依拠したと考えられる原典である国立奈良文化財研究所『平城宮木簡 一』付録解説(昭和44年)の釈文(p.130)は確かに「耽羅鰒」としていますが、同書の木簡(PL52,SK820,No.344)の写真は右のとおり「耽」ではなく「身」偏に「包」と読むのが最も適切と考えられます。

 この「身」偏に「包」の漢字は、康煕字典(渡部温註、講談社、昭和52年)にも、日本最大の漢和字典である諸橋轍次『大漢和字典』にも見当たりません。「耳」偏でなく「身」偏に「沈」の旁(つくり)の字は「耽」の異字とされ、『延喜式』もこの異字を用いて「耽羅鰒」と表記しています。また、「魚」偏に「包」および「虫」偏に「包」の字は、いずれも音は「ホウ」、訓は「アワビ」とされます。『延喜式』では殆ど「鰒」と表記しますが、志摩国の庸の項でのみ「鮑」と表記します(『新訂増補国史大系 延喜式 中篇』吉川弘文館による。このことは志摩国の産物のみに特別の種類の「鮑」があった可能性を示唆します)。

 したがつて、「身」偏に「包」を「耽」と読んだ国立奈良文化財研究所の判断はそれなりに理由がないこともないのですが、明らかに旁に「包」とあることを重視すれば、志摩国の特産物である「魚」偏に「包」と書こうとして、「身」偏に「沈」の旁の字の用例に引きずられて「身」偏を書いた可能性があると考えられます。

 そうしますと、これは「耽羅鰒(たんらのあわび)」ではなく、「鮑羅鰒(ほうらのあわび)」であつたと考えることができます。

 この「ほうら」は、

  「ホウ・ウラ(ン)ガ」、HOU-URANGA(hou=bind,lash together;uranga=act or circumstance of becoming firm)、「(乾燥して)堅くなる途中のもの(生乾きのもの)を・集めたもの(鮑の一種)」(「ホウ」の語尾のU音と「ウラ(ン)ガ」の語頭のU音が連結し、NGA音が脱落して「ホウラ」となった)

の転訛と解します。

709さけ(しゃけ。鮭)・すけ(大きな鮭)・イヨボヤ(鮭の方言名)

 さけ(しゃけ。鮭)は、サケ目サケ科の魚で、北半球中緯度から高緯度に広く分布する重要な食用魚類です。東日本では古くは鮭を「すけ」と呼び、秋に川を遡上するものを「あきあじ(秋味)」、夏に沿海で穫れるものを「ときしらず(時不知)」とも呼びました。

 語源は、(1)肉が裂けやすいことから、(2)稚魚のときから胸腹が裂けているから、(3)肉色が酒(さけ)に酔ったようであるから、または朱(あけ)の転、(4)産卵のときに腹が裂けるから、(5)海から側へ逆(さか)さまに上るところから、(6)セケ(瀬蹴)の義、(7)鮭の大きいものをいう古語「スケ」(『常陸国風土記』)から、(8)アイヌ語「サクイペ(夏の食物)」から、(9)アイヌ語「シャケンペ(夏食)」からなどとする説があります。

 新潟県村上(むらかみ)市の三面(みおもて)川は、日本最古の鮭の産卵保護のための人工河川である「種川の制」を設けたところとして著名で、市内には通称「イヨボヤ(鮭の方言名)会館(内水面漁業資料館)」があります。

 この「さけ」、「しゃけ」、「すけ」、「イヨボヤ」は、

  「タ・アケ」、TA-AKE(ta=dash,beat,lay;ake=indicating immediate continuation in time(forthwith),intensifying the force)、「次から次へと・殺到する(魚)」(「タ」のA音と「アケ」の語頭のA音が連結して「タケ」から「サケ」となった)

  「チ・アケ」、TI-AKE(ti=throw,cast,overcome;ake=indicating immediate continuation in time(forthwith),intensifying the force)、「次から次へと・(積み上がるように)押し寄せる(魚)」(「チ」のI音と「アケ」の語頭のA音が連結して「チアケ」から「シャケ」となった)

  「ツケ」、TUKE(elbow,angle,nudge,jerk,rough(applied to the sea))、「(手に負えないほど強い力で)暴れる(大きな魚)」

  「イ・アウ・ポイ・イア」、I-AU-POI-IA(i=ferment,be stirred;au=cloud,current,sea,string;poi=swarm,cluster;ia=indeed,current)、「海(の中)から・湧いて出てくるもの(魚)で・実に・大群をなすもの(鮭)」(「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」と、「ポイ・イア」が連結して「ポヤ」から「ボヤ」となった)

の転訛と解します。

(なお、「酒(さけ)」については、後出1011さけ(酒)の項を参照してください。)

 

710ます(鱒)・サクラマス

 ます(鱒)は、日本ではサケ属のサクラマス(マス類の中では最も美味とされ、時期によってはサケ類をも凌ぐといわれます)を指すことが多く、サケ属でもサケ以外の魚はすべてマスと呼ばれます。

 語源は、(1)朝鮮方言の松魚から「マスノイヲ」といったものか、(2)「メスルド(目鋭)」の義、(3)味の勝る義、(4)大きいところから「マス(増)」などの説があります。なお、サクラマスは、桜の花の咲くころに海から川を遡るのでこの名がついたといわれます。

 この「ます」、「さくら(鱒)」は、

  「マツ」、MATU(fat,richness of food,kernel of a matter)、「(脂が乗って)美味しい(魚)」

  「タ・クラ」、TA-KURA(ta=the...of,dash,beat,lay;kura=red,ornamented with feathers,precious,treasure)、「実に・素晴らしい(味の。鱒)」

の転訛と解します。

 

710-2クニマス(国鱒)

 秋田県の田沢湖には、かつて辰子姫伝説(悲恋のすえ湖に身を投げて龍神と化し、投げ捨てた松明がクニマスとなったとも、自らの美貌を永遠に保ちたいと観音に願掛けして霊泉の水を飲んで龍神と化し、帰らぬ娘を捜して龍となった姿に驚愕した母が投げ捨てた松明がクニマスとなったともいいます)にちなむ陸封性のクニマスが生息していましたが、昭和15(1940)年ごろに湖の東を流れる強酸性の玉川の水を引き入れ、発電を開始したのに伴っていったん絶滅しました。クニマスは、体長30〜40cm、成魚は全体に黒色で、美味な高級魚とされていました。

 平成22年12月に山梨県の西湖で絶滅したと考えられていたクニマスが生育しているのが確認されました。

 この語源は、江戸時代に田沢湖を訪れた秋田藩主がクニマスを食べ、お国産の鱒ということで国鱒と名付けられたと伝えられています。

 この「くにます」は、

  「クニ・マツ」、KUNI-MATU((Hawaii)kuni=to burn,blaze,kindle,scorch;matu=fat,richness of food,kernel of a matter)、「(松明の燃えさしが魚になったという伝説が残る)焼けぼっくいのような(黒い色をした)・美味しい(魚)」(「マツ」が「マス」となった)

の転訛と解します。(田沢湖、辰子潟およびクニマスについては、地名篇(その二)の秋田県の(9)田沢湖の項を参照してください。)

711イクラ・すじこ(筋子)・すずこ(筋子)・はららご(筋子の古名)

 イクラは、鮭・鱒の成熟卵を塩漬けにした食品で、一粒ずつ卵巣から分離したものをいい、そのままのものを「すじこ(筋子)」、「すずこ(筋子)」といい、古くは「はららご」といいました。

 イクラの語源は、ロシア語「イクラ、ikra(魚の卵)」からとする説があります。

 この「イクラ」、「すじこ」、「すずこ」、「はららご」は、

  「イクラ」、IKURA(haemorrhage)、「出血(のように赤い色をした。鮭・鱒の卵)」

  「ツ・チコ」、TU-TIKO(tu=stand,settle,fight with,energetic;tiko=evacuate the bowels)、「(表面を覆っている薄い皮を破ると)一挙に・(中のイクラが)外へ流れ出る(もの。鮭・鱒の卵巣)」

  「ツツ・カウ」、TUTU-KAU(tutu=summom,assemble;kau=multitude,company)、「(卵が)たくさん・集まった(もの。鮭・鱒の卵巣)」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

  「パララ・(ン)ガウ」、PARARA-NGAU(parara=container,vessel;ngau=bite,hurt,act upon,attack)、「(魚の卵の)入れ物(卵塊)を・崩したもの(イクラ。または筋子)」(P音がF音を経てH音に変化して「ハララ」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)

の転訛と解します。

 

712やまめ(山女魚)・あまご(甘子)

 やまめ(山女魚)は、サクラマスのうち川で一生を過ごす種をいい、主として東日本の渓流にすみ、釣りの対象として好適です。近似のものとしてビワマスが陸封された「あまご(甘子)」があります。

 やまめの語源は、「ヤママスムレ(山鱒群)」の義とする説があります。

 この「やまめ」、「あまご」は、

  「イア・アマイマイ」、IA-AMAIMAI(ia=indeed,current;amaimai=nervous)、「実に・神経質な(魚)」(「アマイマイ」の語頭のA音が「イア」の語尾のA音と連結し、最初のAI音がA音に、次のAI音がE音に変化して「イアマメ」から「ヤマメ」となった)

  「アマイマイ・(ン)ガウ」、AMAIMAI-NGAU(amaimai=nervous;ngau=bite,hurt,attack)、「神経質に(注意しながら)・(餌に)食いつく(魚)」(「アマイマイ」の反復語尾の「マイ」とその直前のI音が脱落して「アマ」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)

の転訛と解します。

 

713まぐろ(鮪)・めじ(小型の鮪)・しび(大型の鮪)・はつ(鮪の異名)

 まぐろ(鮪)は、スズキ目サバ科マグロ属の海産魚の総称で、ほとんど世界中の海域に棲息する群遊性の大型外洋魚です。小型のものを「メジ」と、大型のものを「シビ」と、畿内では「ハツ」(『物類称呼』)と称しました。

 語源は、(1)眼黒の義、(2)真黒の義とする説があります。

 この「まぐろ」、「めじ」、「しび」、「はつ」は、

  「マ(ン)グ・ロ」、MANGU-RO(mangu=black;ro=roto=inside)、「内部(の肉色)が・黒い(魚)」(「マ(ン)グ」のNG音がG音に変化して「マグ」となった)

  「メチ」、METI(=metimeti=fat)、「脂肪がついている(魚。小型の鮪)」

  「チピ」、TIPI(pare off,go quickly,play at ducks and drakes)、「速く泳ぐ(魚。大型の鮪)」

  「ハ・ツ」、HA-TU(ha=breath,what!;tu=fight with,energetic)、「何と・活発な(速く泳ぐ魚。鮪)」

の転訛と解します。

(なお、『日本書紀』には「鮪(しび)」、「鮪女(しびめ)」の人名がみえます。古典篇(その十)の武烈紀の225H1鮪(しび)の項および古典篇(その十三)の舒明紀の234H2女嬬鮪女(しびめ)・八口(やくち)采女鮪女(しびめ)の項を参照してください。)

 

714くろまぐろ・めばちまぐろ・びんながまぐろ・トロ

 鮪の中には、もっとも肉が赤くて美味とされる「くろまぐろ」、色も味も濃いがくろまぐろに比して色変わりが速い「めばちまぐろ」、身が白っぽくて脂肪分が少ないためもっぱらオイル漬缶詰の原料となる「びんながまぐろ」などがあり、身の中では腹の部分の脂肪が霜降り状に入った「トロ」と称する肉が珍重されています。

 この「くろ」、「めばち」、「びんなが」、「めかじき」、「トロ」は、

  「クロ」、KULO((Hawaii)to wait a long time,to stand long)、「(肉色が)長時間褪せない(鮪)」

  「メア・パチ」、MEA-PATI(mea=red,reddish;pati=ooze,spurt,splash)、「赤い(肉色が)・次第に褪せて行く(鮪)」(「メア」のA音が脱落して「メ」となった)

  「ピ(ン)ガ(ン)ガ」、PINGANGA(lean,shrunk)、「痩せている(脂肪分が少ない鮪)」(最初のNG音がN音に、次のNG音がG音に変化して「ピナガ」から「ビンナガ」となった)

  「トロ」、TORO(stretch forth,extend,thrust or impel endways)、「(脂肪が肉の中に霜降り状に)入り込んでいる(肉)」

の転訛と解します。

 

715まかじき・めかじき

 まかじき、めかじきは、スズキ目カジキ亜目のマカジキ科、メカジキ科に属するマグロに似た海産魚で、いずれも槍状の長い突き出た上あごを持つ魚です。肉が白くて堅くカジキの中では最も美味な「まかじき」、特に性質がどう猛で、肉が脂肪分が多く味が落ちる「めかじき」などがあります。

 「かじき」の語源は、突き出た上あごが木造船の加敷(かじき)(船底板の脇の棚板)を突き通すことがあることから「カジキトホシ(加敷通)」の約とする説があります。

 この「まかじき」、「めかじき」は、

  「マ・カチ・キ」、MA-KATI-KI(ma=white,clear;kati=bite,nip;ki=full,very)、「清らかな(性質が比較的に温和な)・突っつく・鋭い(嘴をもつ。魚)」

  「マイ・カチ・キ」、MAI-KATI-KI(mai=to indicate direction or motion towards or character in ralation to,to indicate such relation to the principal character of the story;kati=bite,nip;ki=full,very)、「本質的に・突っつく(どう猛な性質がある)・鋭い(嘴がある。魚)」(「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」となった)

の転訛と解します。

 

716かつを(堅魚)

 かつを(堅魚)は、スズキ目サバ科の海産魚で、世界中の温帯から熱帯の海に棲息する魚です。

 語源は、(1)鮮度が急激に落ちるので火を通したり乾燥して食べると肉質が堅くなることから「カタウヲ(堅魚、固魚)」の義、(2)愚かであることから「カタウヲ(頑魚)」の転、(3)「コツヲ(乾魚)」の転などの説があります。

 この「かつを」は、

  (1)「カハツ・オフ」、KAHATU-OHU(kahatu=tahatu=upper edge of a seine net or of a canoe sail,horizen;ohu=beset in great numbers,surround,stoop)、「海の表層(水平線)に・多数が群をなしている(魚。鰹)」(「カハツ」および「オフ」のH音が脱落して「カツ」、「オ」となった)

  または(2)「カ・アツ・オフ」、KA-ATU-OHU(ka=take fire,be lighted,burn;atu=to indicate a direction or motion onwards,to indicate reciprocated action;ohu=beset in great numbers,surround,stoop)、「(火がついたように)活発に・一方向に向かって泳ぐ・多数が群をなしている(魚)」(「カ」のA音と「アツ」の語頭のA音が連結して「カツ」と、「オフ」のH音が脱落して「オウ」から「オ」となった)

の転訛と解します。

 なお、『古事記』は、221A雄略天皇が221E1若日下部(わかくさかべ)命に求婚するため河内に行かれた時、志幾の大縣主の家が天皇の家と同じように堅魚(かつを)(堅魚木。宮殿・神社などの棟木の上に横たえ並べた装飾の木。形は円柱状で鰹節に似ている。(『広辞苑』))を上げているのを見て怒り、その家を焼こうとしたと伝えます。

 この「かつを」は、上記の(1)と同じで、「地引網の上部に・たくさん付いているもの(浮子(うき)。浮子のような木材=堅魚木)」または「(カヌーの)帆の上部のような(家の屋根の棟に)・たくさん付いているもの(堅魚木)」(「カハツ」および「オフ」のH音が脱落して「カツ」、「オ」となった)の転訛と解します。(古典篇(その十)の221H15都摩杼比(つまどひ)の項を参照してください。)

 

717そうだかつを(宗太鰹)

 かつを(鰹)の中でも「そうだかつを(宗太鰹)」は、やや小型で鰹に似ていますが、腹面に縞が無く、血合肉の部分が多いため刺身には不向きで、削り節の原料とされています。

 この「そうだ」は、

  「タウ・タ」、TAU-TA(tau=stranger;ta=a term of address with certain tribes)、「(普通の鰹と異なった)他所者の・種類の(鰹)」(「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」から「ソウ」となった)

の転訛と解します。

 

718すずき(鱸)・コッバ(鱸の稚魚)・セイゴ(鱸の幼魚)・フッコ(鱸の幼魚)・オオタロウ(鱸の老成魚)

 すずき(鱸)は、スズキ目スズキ科の海産魚で、日本各地、東シナ海、台湾、南シナ海北部の沿岸に分布し、体長最大1メートルに達する重要な食用魚です。古代から盛んに利用されてきたと考えられます。成長とともに名前と棲息場所が変わる出世魚で、関東では全長約10cmまでをコッバ(鱸の稚魚)、全長約25cmまでをセイゴ(鱸の幼魚)、全長約30cmから60cmまでをフッコ(鱸の幼魚)、全長約60cm以上をスズキ(成魚)、とくに大型のものをオオタロウ(鱸の老成魚)と呼んでいます。

 語源は、(1)「ススキ(進)」の義、(2)「すすい(濯)」だように身が白いことから、(3)口に比して尾鰭が小さいので「スス(小)」から、(4)「スサマジグチ(凄口)」の義、(5)鱗がスス(煤)けたような色をしていることからなどの説があります。

 この「すずき」、「コッバ」、「セイゴ」、「フッコ」、「オオタロウ」は、

  「ツツキ」、TUTUKI(reach the farthest limit,be finished,be completed)、「成長しきった(魚)」(なお、植物の「すすき(薄)」については前出の518すすき(薄)の項を参照してください。)

  「カウ・ツパ」、KAU-TUPA(kau=swim,wade,multitude,company;tupa=start,turn sharply aside,escape)、「群をなして・さっと逃げる(稚魚)」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

  「タイ(ン)ゴ」、TAINGO(spotted,mottled)、「斑点がある(斑点がはっきり出てきた。魚)」(AI音がEI音に、NG音がG音に変化して「テイゴ」から「セイゴ」となった)

  「プツ・コ」、PUTU-KO(putu=swell,increase,multiply;ko=addressing to males and females)、「膨らんだ・子供(幼魚)」(「プツ」のP音がF音を経てH音に変化して「フツ」となった)

  「オホ・タラウ」、OHO-TARAU(oho=spring up,wake up,arise;tarau=relish,condiment)、「(起き上がった)大きな・美味な(魚)」(「オホ」のH音が脱落して「オオ」と、「タラウ」のAU音がOU音に変化して「タロウ」となった)

の転訛と解します。

 

719ぶり(鰤)・モジャコ(稚魚)・ワカシ(ワカナ)・イナダ・ワラサ・フクラギ(ツバス)・ヤズ・ハマチ(ハリマチ)・メジロ

 ぶり(鰤)は、スズキ目アジ科ブリ属の海産魚で、温帯性の回遊魚です。体型は典型てきな紡錘形で、背は青緑色、腹は銀白色で、口先から眼を通り尾まで黄色の帯模様があります(英語でブリをイェロー・テイル、Yellow-tailと呼びます)。

 成長にともなって名前が変わる出世魚で、稚魚はモジャコ、後は地域によって呼称が異なりますが、15cmまでのものはワカシ(ワカナ)またはフクラギ(ツバス。ツバイン)、30cmから60cmまでのものを順次イナダ、ワラサと、または順次ヤズ、ハマチ(ハリマチ)、メジロと呼び、最後に70cmから100cmのものを共通してブリと呼びます。

 『和名抄』は、「波里万知(はりまち)」と訓じています。

 語源は、(1)脂が乗っていることから「アブラ」の略転、(2)炙って食べることから「アブリ(炙)」の上略、(3)年を経ていることから「フリ(経)」の濁音化、(4)体が大きいところから「フクレリ」の反、(5)「ミフトリ(身肥)」の義などの説があります。

 この「ぶり」、「モジャコ」、「ワカシ」、「ワカナ」、「フクラギ」、「ツバス」、「イナダ」、「ワラサ」、「ヤズ」、「ハマチ」、「ハリマチ」、「メジロ」は、

  「プ・ウリ」、PU-URI(pu=tribe,bundle,heap,double;uri=dark,deep in colour)、「濃い色(鮮やかな黄色)の・帯を締めている(頭から尾に黄色の条線がある。魚)」(「プ」のU音と「ウリ」の語頭のU音が連結して「プリ」から「ブリ」となった)

  「モチハ・カウ」、MOTIHA-KAU(motiha=a dance;kau=swim,wade)、「踊るように・泳いでいる(稚魚)」(「モチハ」のH音が脱落して「モチア」から「モジャ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

  「ウアカハ・アチ」、UAKAHA-ATI(uakaha=vigorous,streneous,difficult;ati=descendant,clan)、「活発な(泳ぎをする)・種類の(幼魚)」(「ウアカハ」のH音が脱落して「ワカ」となり、その語尾のA音と「アチ」の語頭のA音が連結して「ワカチ」から「ワカシ」となった)

  「ウアカハ・ナ」、UAKAHA-NA(uakaha=vigorous,streneous,difficult;na=satisfied,by,belonging to)、「活発な(泳ぎをする)・種類に属する(幼魚)」(「ウアカハ」のH音が脱落して「ワカ」となった)

  「フク・ラ(ン)ギ」、HUKU-RANGI(huku=tail;rangi,rarangi=line,rank,row)、「尾に・(ブリの特徴である黄色の)線が出てきた(幼魚)」(「ラ(ン)ギ」のNG音がG音に変化して「ラギ」となった)

  「ツパ・ツ」、TUPA-TU(tupa=start,turn sharply aside,escape;tu=fight with,energetic)、「勢い良く・身を翻して逃げる(幼魚)」

  「イナ(ン)ガ・タ」、INANGA-TA(inanga=whitebait,the adult of the minnow,the fry of the smelt;ta=dash,beat,lay)、「速く泳ぐ・鮒の成魚に似た魚」(「イナ(ン)ガ」の語尾のNGA音が脱落して「イナ」となった。名詞形の語尾のNGA音はしばしば脱落する)

  「ワ・ラタ」、WHA-RATA(wha=be disclosed,get abroad;rata=tame,quiet,familiar)、「恐る恐る・(それまで棲んでいた場所から)外の海へ泳ぎ出した(魚)」

  「イア・ツ」、IA-TU(ia=indeed,current;tu=fight with,energetic)、「実に・勢い良く(泳ぐ。魚)」

  「ハ・マチ」、HA-MATI(ha=breathe,what!;mati,matimati=toe,finger,a game involving quick movements of the fingers and hands)、「何と・敏捷な動きをする(魚)」

  「ハリ・マチ」、HARI-MATI(hari=dance,song ,carry;mati,matimati=toe,finger,a game involving quick movements of the fingers and hands)、「敏捷な動きの・踊りを踊る(ように動く。魚)」

  「メ・チロ」、ME-TIRO(me=if,as if like;tiro=look,survey,examine)、「(ブリの成魚の)ように・見える(魚)」

の転訛と解します。

 

720ヒラマサ・カンパチ

 ヒラマサは、ブリと同じくスズキ目アジ科ブリ属の海産魚で、体型はブリに似ていますが、平べったいのが特徴で、関西ではヒラ、ヒラソ、ヒラサなどと呼ばれます。

 カンパチは、ヒラマサと同じくスズキ目アジ科ブリ属の海産魚で、体型はブリに似ていますが、体色はやや赤ないし褐色がかり、とくに口先が赤いので、北陸ではアカイヲ、関西、九州ではアカハナ、アカバナなどと呼ばれます。

 カンパチの名は、眼を斜めに横切る黒帯が頭を背中からみると八の字にみえるからという説があります。

 この「ヒラマサ」、「カンパチ」は、

  「ヒラ・マタ」、HIRA-MATA(hira=numerous,great,multitude,widespread;mata=face,eye,particle adding little force to the clause some times may be translated "just")、「正(まさ)しく・(体型が)平べったい(魚)」

  「カナパ・チ」、KANAPA-TI(kanapa=bright,gleaming,conspicuous from colour;ti=throw,cast,overcome)、「(口先に明るい)赤い色が・付いている(魚)」または「顕著な色(黒い帯)が・付いている(魚)」(「カナパ」が変化して「カンパ」となった)

の転訛と解します。

 

721ぼら(鯔)・ハク(稚魚)・ゲンブク(稚魚)・キララゴ(稚魚)・オボコ(幼魚)・スバシリ(幼魚)・イナ(幼魚)・トド(老魚)

 ぼら(鯔)は、スズキ目ボラ科の汽水魚で、世界中の熱帯から温帯の沿岸海域および汽水域に棲息します。成長とともに名前が変わる出世魚の一つで、ハク、ゲンブク、キララゴ(全長2cmから3cm)、オボコ、スバシリ(全長3cmから18cm)、イナ(全長18cmから30cm)からボラ(全長30cm以上)となり、特に大きくなったものをトド(「とどのつまり」の語源とされます)と呼びます。いなせな魚河岸の若者が結ったという鯔背髷(いなせまげ)の名にみるように鯔の頭の背面は平たく広いのが特徴です。

 語源は、(1)「腹太き」の意、(2)「ミフトリ(身太)イナ(鯔の幼魚)」の義とする説があります。

 この「ぼら」、「ハク」、「ゲンブク」、「キララゴ」、「オボコ」、「スバシリ」、「イナ」、「トド」は、

  「ポラ」、PORA(large sea-going canoe,flat-roofed)、「背が平たい(魚)」

  「ハク」、HAKU(complain of,find fault with)、「(間違いを探すように)あっちをつつたりこっちをつついたりしている(稚魚)」

  「(ン)ゲネ・プク」、NGENE-PUKU(ngene=wrinkle,fat;puku=swelling,abdomen)、「腹が・膨れている(稚魚)」(「(ン)ゲネ」のNG音がG音に変化して「ゲネ」から「ゲン」となった)

  「キ・ララ・コ」、KI-RARA-KO(ki=full,very;rara=shoal of fish,be scattered,rush in disorder;ko=addressing to males and females)、「たくさん・ばらばらに泳いでいる・稚魚」

  「オ・ポコ」、O-POKO(o=the...of,belonging to;poko=go out,be extinguished,obscured)、「(どこにどうしているのか)どうも・良く見えない(幼魚)」

  「ツパ・チリ」、TUPA-TIRI(tupa=start,turn sharply aside,escape;tiri=throw or place one by one,scatter,)、「敏捷に動いて・散らばる(幼魚)」

  「イナ(ン)ガ」、INANGA(whitebite,the adult of the minnow,the fry of the smelt)、「(鮒の成魚のような)幼魚」(語尾のNGA音が脱落して「イナ」となった。名詞形の語尾のNGA音はしばしば脱落します)

  「トト」、TOTO(sacred kit)、「(大きくて立派なので)神への捧げ物に欠かせない(魚)」

の転訛と解します。

 (なお、鹿児島県の火山灰土壌の「ボラ」については、後出907コラ・ボラの項を参照してください。)

 

722さば(鯖)

 さば(鯖)は、スズキ目サバ科に属する海産魚の総称で、重要な食用魚ですが、鮮度低下が速く、また蕁麻疹の原因物質を生じやすい欠点をもっています。

 語源は、(1)歯が小さいところから「サハ(小歯)」の義、(2)「サバ(狭歯)」の義、(3)「セバキ(狭き)」の略転、(4)多く集まるところから「サハ(多)」の転、(5)周防国佐婆郡の名産であるところから、(6)「セアヲハ(背青斑)」の意、(7)「セマダラ(背斑)」の意などの説があります。

 また、僧侶などが食事のときに食事の一部を取り分けて、屋根、庭などに放り投げ、鬼神、餓鬼または鳥獣に施すものを「さば(仏語サンハン(生飯)、サンパン(散飯)、三把)」といいます。

 この「さば」は、

  「タハパ」、TAHAPA(pass by,be left behind,side)、「(鮮度低下が速く好まれないので)脇に投げられる(魚)」または「(一部を)脇に除ける(計算の対象から除外する。サバを読む。魚)」

  または「(一部を)脇に取り分ける(鬼神・餓鬼・鳥獣に施す。食事)」

の転訛と解します。(H音が脱落して「タパ」から「サバ」となった)

 なお、砂混じりの粘土の「さば(砂婆)」については後出901さば(砂婆)の項を参照してください。

 

723さわら(鰆)

 さわら(鰆)は、スズキ目サバ科の海産魚で、体は細長い流線型で、左右に扁平で、鼻先が尖っています。群を作り、冬は深場にいますが、春には産卵のために表層に上がって回遊します。

 語源は、(1)「サハラ(狭腹)」の義、(2)シタハラカの反、(3)「サバハラナメラ(鯖肌滑)」の義などの説があります。

 この「さわら」は、

  「タ・ワラ」、TA-WHARA(ta=the...of,dash,beat,lay;whara=be struck,be pressed,a plant,possibly applied to any plant with ensiform(sword-shaped) leaves)、「(剣のように鋭く尖って)扁平な・体を持つ(魚)」(ちなみに、植物の「さわら(椹)」も同じ語源で、「剣のように尖った葉を・持つ(樹)」と解します。)

の転訛と解します。

 

724あじ(鯵)・むろあじ(室鯵)・ぜんご(ぜいご。稜鱗)

 あじ(鯵)は、スズキ目アジ科アジ亜科に属する回遊性の多獲性魚の総称です。アジ亜科の魚は、「ぜんご」または「ぜいご」と呼ぶ堅い鋭い棘のある稜鱗が測線部(室鯵は後半部のみ)に発達するのが特徴です。あじの中のむろあじ(室鯵)は、主として干物に加工され、とくにクサヤの干物は有名です。

 語源は、(1)「アジ(味)」ある魚の意、(2)その背の形から「アラヂ(粗路)」の義、(3)「イラモチ(苛持)」の義とする説があります。

 この「あじ」、「むろ(鯵)」、「クサヤ」、「ぜんご」、「ぜいご」は、

  「アハ・チ」、AHA-TI(aha=expressing remonstrance or warning;ti=throw,cast,overcome)、「(鋭い稜鱗があるという)警報を・発している(魚)」または「(危険を感ずると仲間に)警報を・発する(すると一斉に方向転換をする。魚)」(「アハ」のH音が脱落して「ア」となった)

  「ムフ・ロア」、MUHU(stupid,incorrect or faulty of carving)-ROA(long,length)、「(稜鱗の)長さが・不正な(マアジの半分しかない。魚)」(「ムフ」のH音が脱落して「ム」と、「ロア」の語尾のA音が脱落して「ロ」となった)

  「クタ・イア」、KUTA-IA(kuta=encumbrance,clog;ia=indeed,current)、「実に・邪魔になる(嫌らしい、臭い。干物)」

  「テネ・(ン)ガウ」、TENE-NGAU(tene=be importunate;ngau=bite,hurt,attack)、「しつこく・刺す(棘のような。鱗)」(「テネ」が「テン」から「ゼン」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)

  「タイ・(ン)ガウ」、TAI-NGAU(tai=the sea,tide,wave,anger,violence;ngau=bite,hurt,attack)、「荒々しく・刺す(棘のような。鱗)」(「タイ」のAI音がEI音に変化して「テイ」から「ゼイ」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)

の転訛と解します。

 

725いわし(鰯)・うるめいわし・キビナゴ・かたくちいわし・シラス(稚魚)・カエリ(幼魚)・アオコ(幼魚)・コバ(小羽)・コベラ・チュウバ(中羽)・オオバ(大羽)

 いわし(鰯)は、ニシン目ニシン科のまいわし、ウルメイワシ科のうるめいわしとカタクチイワシ科のかたくちいわしの総称です。

 うるめいわしは、英語でビッグアイ・サーディン、Big-eye sardineと呼ぶように目がやや大きく、脂瞼(しけん)という透明な膜に覆われ、目がうるんだように見えることから名付けられたとする説があります。キビナゴは、ウルメイワシ科に属する小型のいわしで、全長約10cm、体側中央を銀白色の幅の広い帯が走り、その上に細い黒青色の帯が並んでいます。

 かたくちいわしは、やや小型で、下あごが上あごより著しく短いことから名付けられたとする説があります。

 まいわしもその成長にともなって名前が変わり、35mm以下をシラス(稚魚)、35mmから45mmのものをカエリ(幼魚)またはアオコ(幼魚)、体長6cm以下を小イワシ、6から11cmのものをコバ(小羽)またはコベラ、11から16cmのものをチュウバ(中羽)、16cm以上のものをオオバ(大羽)と呼んでいます。

 語源は、(1)死にやすい魚であるので「ヨワシ(弱)」の転、(2)賤しい魚であるので「イヤシ(賤)」の転、(3)「イワシ(祝)」の義などの説があります。

 この「いわし」、「うるめ」、「キビナゴ」、「かたくち」、「シラス」、「カエリ」、「アオコ」、「(小・中・大)バ(羽)」、「コベラ」は、

  「イ・ワチ」、I-WHATI(i=past tense,ferment,be stirred;whati=be broken off short,turn and go away,come quickly)、「(海の中から)湧いて出て・急にやってくる(魚)」または「(海の中から)湧いて出て・やってきたかと思うとすぐに居なくなる(魚)」

  「ウル・フメ」、URU-HUME(uru=head,chief;hume=bring to a point,gather up,gird on,put on a girdle)、「頭(眼)が・(透明な)膜で覆われている(魚)」(「フメ」のH音が脱落して「ウメ」となり、その語頭のU音が「ウル」の語尾のU音と連結して「ウルメ」となった)

  「キ・ピ・ナコ」、KI-PI-NAKO(ki=full,very;pi=eye;nako,nakonako=adorn,ornament)、「大きな・眼をして・(体を)飾っている(魚)」

  「カタ・クチ」、KATA-KUTI(kata=laugh,opening of shellfish;kuti=contract,pinch)、「(締める)口を・開けている(下あごが上あごより著しく短い。魚)」

  「チラ・ツ」、TIRA-TU(tira=file of men,row,company of travellers;tu=fight with,energetic)、「群をなして・活発に動いている(稚魚)」

  「カエア・リ」、KAEA-RI(kaea=wander,ri=screen,protect,bind)、「さまよう(魚が)・群をなしている(幼魚)」(「カエア」の語尾のA音が脱落して「カエ」となった)

  「アオ・コ」、AO-KO(ao=daytaime,cloud,bud,bright;ko=addressing to males and females)、「蕾(つぼみ)のような・幼魚」

  「パ」、PA(clump,group,flock etc.)、「(魚の)種類」

  「コ・パエラ(ン)ギ」、KO-PAERANGI(ko=descend,cause to descend;paerangi=stick feathers into the hair)、「髪に(綺麗な)鳥毛を挿したような(体色が美麗に彩られている)魚の・子供(のような魚)」(「パエラ(ン)ギ」のAE音がE音に変化し、語尾のNGI音が脱落して「ペラ」から「ベラ」となった)

の転訛と解します。

 

726さんま(秋刀魚)・サイラ・サエラ・セイラ

 さんま(秋刀魚)は、ダツ目サンマ科の海産魚で、秋の味覚を代表する大衆魚です。強い走光性を持つので夜間に集魚灯を用いて大量に漁獲されます。10月から11月には脂肪分は20%にも達します。

 近畿、中国、四国ではサイラ(学名(Cololabis saira)となっています)、サエラなどと、九州ではセイラなどと呼ばれます。

 語源は、(1)体が狭長であるところから「サマナ(狭真魚)」の音便約、(2)「スナホメナ(直理魚)」からなどの説があります。

 この「さんま」、「サイラ」、「サエラ」、「セイラ」は、

  「タ(ン)ガ・アマ」、TANGA-AMA(tanga=be assembled,row,company;(Hawaii)ama=light,bright)、「光に・集まる(習性がある。魚)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化し、その語尾のA音と「アマ」の語頭のA音が連結して「タナマ」から「サンマ」となった)

  「タ・イラ」、TA-IRA(ta=the...of,dash,beat,lay;ira=freckle,variegated,shine)、「(きらきらと)光るものに・突進する(集まる。魚)」

  「タ・アイラ」、TA-AILA(ta=the...of,dash,beat,lay;(Hawaii)aila=any oil,grease,lard)、「脂肪が・(豊富に)乗っている魚」(「アイラ」のAI音がE音に変化して「エラ」となった)

  「タイ・イラ」、TAI-IRA(tai=the sea,tide,wave,violence,dash;ira=freckle,variegated,shine)、「(きらきらと)光るものに・(群をなして)突進する(習性がある。魚)」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

の転訛と解します。

 

727かれい(鰈)・まこがれい(真子鰈)・オヒョウ・ひらめ(鮃)

 かれい(鰈)は、カレイ目カレイ科の魚類の総称で、寒帯から温帯、まれに熱帯の沿岸から深海までの海底に、一部は汽水湖に棲息する底生魚です。

 かれいの中でも小型のまこがれい(真子鰈)は、水深100mよりも浅い砂泥底に棲み、ゴカイなどの多毛類や、二枚貝、小型の甲殻類が底から出てくるところを待ち伏せして餌にしています。かれいの中で最大のオヒョウは、全長2mを越し、100m以上の深海底に棲息し、強い遊泳力でたらなどの底生魚や甲殻類をどん欲に摂取します。

 ひらめ(鮃)は、通常「左ひらめの右かれい」といわれるように体の左側に両目がついているもので、体色を環境に合わせて変化させることができるといわれています。

 古くは「かれい」と「ひらめ」の区別がなく、どちらかといえば大型のもの、体色の薄いものをかれいとし、ともに王余魚または比目魚と記しました。『和名抄』は、「加良衣比(からえひ)。俗に加礼比(かれひ)」と訓じます。

 語源は、(1)「カラ(韓)エヒ」の約、(2)エヒよりもやや痩せていることから「カラ(痩)エヒ」の約、(3)味が良いところから「カラ(美称)エヒ」の約、(4)「カタワレイヲ(片割魚)」の略、(5)「カタビラアル魚」の義などの説があります。

 この「からえひ」、「かれひ」、「まこ」、「オヒョウ」、「ひらめ」は、

  「カラ・イヒ」、KARA-IHI(kara=basalic-stone;ihi=split,separate,power,shudder,quiver,coward)、「(玄武岩のような)黒褐色の・臆病な(海底にじっと身を潜めている。魚)」または「玄武岩(の表面)を・剥ぎ取った(ような。魚)」(「カラ」の語尾のA音と「イヒ」の語頭のI音が連結し、AI音がE音に変化して「カレヒ」から「カレイ」となった)

  「カレヘ」、KARAHE(run)、「(海底を)走る(ように敏捷に移動する。魚)」(語尾のE音がI音に変化して「カレヒ」から「カレイ」となった)

  「マコ」、MAKO(peeled,stripped of)、「(眼が無い半身の)皮が剥かれている(魚)」または「マエコ」、MAEKO(lazy,)、「(海底で餌が目の前に出現するのを待つ)物ぐさな(魚)」(AE音がA音に変化して「マコ」となった)

  「オ・ヒオイ」、O-HIOI(o=the...of,belonging to;hioi=thin,lean)、「体が・薄い(魚)」(「ヒオイ」の語尾のI音が脱落して「ヒョウ」となった)

  「ヒラ・メ」、HIRA-ME(hira=numerous,great,multitude,widespread;;me=if,as if like)、「平べったい魚(かれい)に・似ている(魚)」

の転訛と解します。

 

728たら(鱈)・コマイ(氷魚・氷下魚)・すけそうだら(すけとうだら。助宗鱈)・たらこ(鱈子)・めんたいこ(明太子)

 たら(鱈)は、タラ目タラ科の海産魚の総称で、日本近海にはマダラ(真鱈)、コマイ(氷魚)、すけそうだら(すけとうだら。助宗鱈)の三種があり、いずれも北方寒流系の魚です。

 コマイ(氷魚・氷下魚)は、マダラよりも小さく、北海道北東部で結氷した海面や汽水面の下に産卵のために集まる魚群を氷に孔を開けて漁獲します。

 すけそうだら(助宗鱈)は、マダラよりも細く長く、冬の荒れる北の海でトロール等により漁獲され、身は冷凍すり身として蒲鉾等練り製品の原料に、卵巣は塩漬けとしてたらこ(鱈子)やめんたいこ(明太子)に加工されます。

 語源は、(1)皮が斑であることから「マダラ(斑)」の略、(2)「フトハラ(太腹)」の義、(3)「タル(足)」の義、(4)切っても身が白いので血が足らぬ義などの説があります。

 この「たら」、「コマイ」、「すけそう(すけとう)」、「たらこ」、「めんたいこ」は、

  「タハラ(ン)ギ」、TAHARANGI(listless,inactive,undecided)、「ぐにゃぐにゃしている(魚)」(語中のH音と語尾のNGI音が脱落して「タラ」となった)

  「カウ・マイ」、KAU-MAI(kau=swim,wade;mai=to indicate direction or motion towards or character in ralation to,to indicate such relation to the principal character of the story)、「回遊する(汽水域まで入り込む)・習性がある(魚)」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

  「ツケ・タウ」、TUKE-TAU(tuke=elbow,angle,nudge,jerk,rough(applied to the sea);tau=stranger)、「荒れる海で穫れる・(マダラと)違う種類の(魚)」(「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」から「ソウ」となった)

  「タハラ(ン)ギ・コ」、TAHARANGI-KO(taharangi=listless,inactive,undecided;ko=descend,cause to descend)、「ぐにゃぐにゃしている(魚)の・卵(子)」(「タハラ(ン)ギ」の語中のH音と語尾のNGI音が脱落して「タラ」となった)または「タ・ラコ」、TA-RAKO(ta=the...of,dash,beat,lay;rako=albino)、「(鱈の)魚の・(卵巣または精嚢)卵(子)」

  「メネ・タヒ・コ」、MENE-TAHI-KO(mene=show wrinkles,contort the face;tahi=one,single,unique;ko=descend,cause to descend)、「(辛さに)顔をしかめる・独特の(味付けをした)・鱈子」(「メネ」が「メン」と、「タヒ」のH音が脱落して「タイ」となった)

の転訛と解します。

 

729にしん(鰊・鯡・春告魚)・かどいわし・数の子

 にしん(鰊・鯡・春告魚)は、ニシン目ニシン科を代表する大平洋北部に広く分布する寒流系の回遊魚です。各地で「かど」、「かどいわし」とも呼ばれます。卵巣を乾燥・塩蔵したものは「数(かず)の子」です。

 北海道のニシン漁場で歌われるヤーレンという囃子ことばで始まるソーラン節は有名です。

 語源は、(1)身を二つに割いて干す(身欠鰊)ところから「ニシン(二身)」の義、(2)「ニシン(妊身)」の義、(3)盆や正月に両親の揃っている者は必ず食べなければならない「ニシン(二親)」の義、(4)「ニゲヒソミウヲ(逃潜魚)」の義などの説があります。

 この「にしん」、「かど」、「かずのこ」、「ソーラン」、「ヤーレン」は、

  「ヌイ・チニ」、NUI-TINI(nui=large,many;tini=very many,host)、「数え切れないほど・無数(に押し寄せる。魚)」

  「カト」、KATO(pluck,break off,flowing,flood of the tide)、「潮流のような(次から次へと押し寄せるいわしのような。魚)」

  「カ・ツヌ・コ」、KA-TUNU-KO(ka=take fire,be lighted,burn;tunu=roast,broil;ko=descend,cause to descend)、「火で・(炙って)乾燥した・(ニシンの)子(数の子)」(「ツヌ」が「ツノ」となった)

  「タウラ(ン)ガ」、TAURANGA(resting place,anchorage for canoes,fishing ground,wanderer)、「(鰊網を曳く・鰊を掬い上げる)漁場」(AU音がOU音に、NG音がN音に変化して「トウラナ」から「ソウラン」となった)

  「イア・レ(ン)ガ」、IA-RENGA(ia=indeed,current;renga=overflow,be full)、「実に・(鰊で)溢れかえっている(ソーラン=漁場)」(「レ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「レナ」から「レン」となった)

の転訛と解します。

 

730はたはた(鰰)・ブリコ・しょっつる(魚醤)

 はたはた(鰰)は、スズキ目ハタハタ科の寒流域に棲む海産魚で、日本沿海では日本海北部の海底に棲んでいますが、産卵期の11月から12月ころに大群で秋田県などの沿岸に産卵のために押し寄せます。そのころ雷が鳴ることが多いため、カミナリウオ(雷魚)とも呼ばれます。

 その卵は、ブリコと呼ばれて珍重され、ハタハタを塩蔵して作った魚醤を秋田では「しょっつる」と呼び、鍋料理などに使用しています。

 語源は、(1)「ハタタガミ(霹靂)」のころ穫れるからとする説があります。

 この「はたはた」、「ブリコ」、「しょっつる」は、

  「パタパタイアワ」、PATAPATAIAWHA(heavy rain(pata=drop of water etc.;ia=indeed;wha=be disclosed,get abroad))、「(豪雨)嵐(とともに出現する。魚)」(P音がF音を経てH音に変化し、語尾のIAWHA音が脱落して「ハタハタ」となった)

  「プリ・コ」、PURI-KO(puri=hold in the hand,keep,keep in memory;ko=descend,cause to descend)、「(記憶に残る)素晴らしい味の・卵(子)」

  「チオフ・ツツル」、TIOHU-TUTURU(tiohu=stoop;tuturu=fixed,permanent)、「(魚を)長期間にわたって・漬け込んだ(製品)」(「チオフ」のH音が脱落して「チオ」から「ショ」となった)

の転訛と解します。

 

731このしろ(鮗)・シンコ・コハダ・ツナシ

 このしろ(鮗)は、ニシン目ニシン科の海産魚で、関東では当歳魚をシンコ、15cm程度のものをコハダ、関西ではツナシと呼びます。背鰭は16本から20本の軟条からなり、一番後側の軟条は糸状に長く延びて尾鰭の付け根にまで達し、体には10本ほどの縦縞が走り、えらぶたの後ろに大きな黒斑があります。古くは、塩焼きにすると火葬の際の屍臭がするとして忌み嫌い、武士の切腹の際の腹切魚とする風習がありました。

 語源は、(1)屍臭がするところから「子の代(しろ)」にしたという説話から、(2)胞衣と鮗を地に埋めると子が成長する俗信から「子の代(しろ)」の義、(3)「コハダノトシヨリウヲ」の義、(4)「コノシロ(甲白)」の義などの説があります。

 この「このしろ」、「シンコ」、「コハダ」、「ツナシ」は、

  「コノ・チラウ」、KONO-TIRAU(kono=bend,curve,loop,noose;tirau=peg,stick)、「(縦縞とそれに繋がった長い軟条の)輪縄のような・棒(を持つ。魚)」(「チラウ」のAU音がO音に変化して「チロ」から「シロ」となった)

  「チネイ・コ」、TINEI-KO(tinei,tineinei=unsettled,ready to move,confused,disordered;ko=descend,cause to descend)、「やっと泳げるようになった・子供(魚)」(「チネイ」のEI音がI音に変化して「チニ」から「シン」となった)

  「コハ・タ」、KOHA-TA(koha=spot,scar;ta=dash,beat,ley)、「(えらぶたの後ろに大きな)黒斑が・ある(魚)」

  「ツ(ン)ガ・チ」、TUNGA-TI(tunga=decayed tooth,rotten;ti=throw,cast,overcome)、「(屍体の)臭いを・発する(魚)」(「ツ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ツナ」となった)

の転訛と解します。

 なお、『日本書紀』には制魚(このしろ)の人名が見えます。古典篇(その十三)の孝徳紀の236H6塩屋制魚(しほやのこのしろ)の項を参照してください。

 

732ふぐ(ふく。河豚)・ふくとう・トラフグ・ショウサイフグ・クサフグ

 ふぐ(ふく。河豚)は、フグ目フグ科の海産魚の総称で、関西以西では「ふく」、「ふくとう」などと呼び、食用として最も賞味されるトラフグのほか、ショウサイフグ、小型で猛毒を持つクサフグなどがあります。

 『和名抄』は、「布久(ふく)」と訓じます。

 語源は、(1)怒ると腹が「フク(脹)」れるところから、(2)「シブク(渋)」の義、(3)「フド(斑魚)」の義、(4)「ブス(毒)」の転などの説があります。

 この「ふぐ(ふく)」、「ふくとう」、「トラ」、「ショウサイ」、「クサ」は、

  「プク」、PUKU(swelling,tumour,abdomen,entrails,affections)、「(危険を察知すると)腹を膨らせる(魚)」(P音がF音を経てH音に変化して「フク(フグ)」となった)

  「プク・タウ」、PUKU-TAU(puku=swelling,tumour,abdomen,entrails,affections;tau=tie with a cord,bundle,sing,bark)、「(危険を察知すると)腹を膨らせて・(丸い)塊になる(魚)」または「(危険を察知すると)腹を膨らせて・(歯をきしらせて)鳴く(魚)」(「プク」のP音がF音を経てH音に変化して「フク(フグ)」と、「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」となった)

  「トラ」、TORA(burn,blaze,be erect used of showing warlike feelings)、「(危険を察知すると)戦闘意欲を誇示するように体を立たせる(腹を膨らませる。魚)」

  「チオ・タイ」、TIO-TAI(tio=cry;tai=the sea,tide,wave,violence)、「(釣り上げられると歯をきしらせて)荒々しく・鳴く(魚)」(「チオ」が変化して「ショウ」となった)

  「クタ」、KUTA(encumbrance,clog)、「(小さくて猛毒がある)邪魔者の(魚)」

の転訛と解します。

 

733あんこう(鮟鱇)

 あんこう(鮟鱇)(「あんごう」とも呼ばれました。)は、アンコウ目アンコウ科の海産魚の総称で、温帯から熱帯にかけて広く分布し、沿岸のやや深い海底に棲息します。背びれ前部のとげの先の触手状のひらひらを揺り動かして小魚を誘引し捕食するため、英語でアングラー(釣師)フィッシュ、Angler-fishの名があります。

 この「あんこう」は、

  「ア(ン)ゴ・コウコウ」、ANGO-KOUKOU(ango=gape,be open;koukou=crest of a crane etc.)、「(小魚を誘引する頭に付いた疑似餌のような)提灯をぶら下げて・(大きな)口を開けている(魚)」(「ア(ン)ゴ」のNG音がN音に変化して「アノ」から「アン」と、「コウコウ」の反復語尾が脱落して「コウ」となった)

の転訛と解します。

 

734くじら(鯨)・クジリ(鯨)・いさな(勇魚)・ナガス(長須)鯨・セミ(背美)鯨・コク(克)鯨・ザトウ(座頭)鯨・スナメリ(砂滑)・ゴンドウ(巨頭)鯨・いるか(海豚)・カマイルカ・バンドウイルカ・しゃち(鯱)・サカマタ・オバケ(オバイキ)

 くじら(鯨)は、クジラ目に属するほ乳類の総称で、体長数メートル以下の小型のものを一般に「いるか(海豚)」と呼ぶことがあります。くじらは、古くは「クジリ(久慈理)」(『塵袋』)といい、また「いさな(勇魚)」といいました。

 ナガス(長須)鯨は、世界最大種のシロナガス(白長須)鯨を含む大型の鯨で、髭鯨の中では最も速く泳ぎ、300メートルまで潜水することができます。

 セミ(背美)鯨は、大型の鯨で、背鰭のかわりに瘤があり、潜水時間が短く、比較的に動作が鈍く、死体が海に沈むことがないので、捕鯨の格好の対象となってきました。

 コク(克)鯨は、中型の鯨で、背鰭のかわりに瘤があります。

 ザトウ(座頭)鯨は、ずんぐりした鯨で低い背鰭が琵琶を背負った座頭の姿に似ているのでこの名がついたとされます。アクロバットのように海面から飛び上がってジャンプする習性があります。

 スナメリ(砂滑)は、体長1.5メートル前後の世界最小の沿岸性の鯨で、ボラ、コノシロなどの小魚の魚群を数頭で取り囲んで捕食する習性があり、瀬戸内海などでは古くからスナメリが追い込んだ小魚を漁師が釣り上げる漁法があり、漁師に親しまれていました。(現在スナメリは絶滅危惧種として採捕が禁止され、広島県竹原市沖の群遊海面は県の天然記念物となっています。)

 ゴンドウ(巨頭)鯨は、丸い頭と大きな背鰭をもつイルカの仲間です。他の鯨の群と異なり、よく集団で陸に座礁することがあります。

 いるか(海豚)は、小型の歯鯨の総称で、マ(眞)イルカ、カマイルカ、バンドウイルカなどがあります。

 イルカの中で最大のものをしゃち(鯱)(「さかまた」ともいいます)と呼び、高い知能と強い遊泳力を持ち、魚、鮫、イルカのほかシロナガス鯨までも襲う習性があります。

 くじらの語源は、(1)「クシシラ(大獣)」の約、(2)皮が黒く内側が白いことから「クロシラ(黒白)」の約、(3)「クシラ(奇)」の義、(4)捕らえても簡単にはおとなしくならないことから「コジル」義、(5)浮上して船を穿つことから「クジラ(穿輩)」の義、(6)口が大きいので「クチビロ(口広)」の約転らどとする説があります。

 いるかの語源は、(1)「チノカ(血臭)」の転、(2)「イル(イヲ(魚)の転)・カ(獣)」の義、(3)「ユルキ(行)」の転、(4)一浮一没の魚「イリウク(入浮)」の転などとする説があります。

 しゃちの語源は、「シャ(サハル(碍)の義)・キ(キリ(限)の反)」の転とする説があります。

 くじらの皮下脂肪層を薄切りにして冷水で晒し、辛子酢味噌で食べる食品を関西では「オバケ」といいます。「オバケ」は「尾羽毛(をばいき)」から転訛したとする説(『鯨肉調理方』天保3年)があります。(「オバケ」には、他に「化け物」の意と、「年越しの民俗」(雑楽篇(その一)の168おばけを参照してください。)としての意があります。)

 この「くじら」、「クジリ」、「いさな」、「ナガス」、「セミ」、「コク」、「ザトウ」、「スナメリ」、「ゴンドウ」、「いるか」、「カマ」、「バンドウ」、「しゃち」、「サカマタ」、「オバケ(オバイキ)」は、

  「クフ・チラ」、KUHU-TIRA(kuhu=thrust in,insert,conceal;tira=fin of fish)、「鰭を・隠している(大魚)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」となった)(鯨類の尾鰭は魚類と異なって水平で、かつて江戸時代まで日本近海で捕鯨の対象となったセミ(背美)鯨、コク(克)鯨には背鰭が無く、ザトウ(座頭)鯨は低い背鰭が特徴です。)

  「クフ・チリ」、KUHU-TIRI(kuhu=thrust in,insert,conceal;tiri=throw or place one by one,present,scatter,remove TAPU from anything)、「鰭を・取り去った(大魚)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」となった)
または「クチ・イリ」、KUTI(contract,pinch)-IRI(be elevated on something,hang)、「(背の上に立つもの)鰭が・(圧縮された)小さくなった(大魚)」(「クチ」の語尾のI音と「イリ」の語頭のI音が連結して「クチリ」から「クジリ」となった)

  「イヒ・タ(ン)ガ」、IHI-TANGA(ihi=power,authority,shudder,divide;tanga=beassembled)、「(とてつもない)力を・身に付けている(大魚)」(「イヒ」のH音が脱落して「イ」と、「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「サナ」となった)

  「(ン)ガ(ン)ガ・ツ」、NGANGA-TU(nganga=breathe heavily or difficulty;tu=fight with,energetic)、「苦しそうに息をして(長く潮を吹き)・勢い良く泳ぐ(鯨)」(「(ン)ガ(ン)ガ」の最初のNG音がN音に、次のNG音がG音に変化して「ナガ」となった)

  「タイ・ミヒ」、TAI-MIHI(tai=the sea,tide,wave,violently;mihi=sigh for,greet,admire,repentant)、「(死んでも海に沈むことがないので)波が・嘆く(魚)」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「セ」と、「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となった)

  「コクフ」、KOKUHU(insert into a series or company,bastard)、「なんとか(鯨の)仲間に入れられている(鯨)」(H音が脱落して「コク」となった)

  「タタウ」、TATAU(turn about,vaciliate)、「(海面から)飛び上がってジャンプする(習性がある。鯨)」(AU音がOU音に変化して「タトウ」から「ザトウ」となった)

  「ツ(ン)ガ・メリ」、TUNGA-MERI(tunga=circumstance etc. of standing,site,foundation;meri=enclose)、「(小魚を)包囲して・漁場とする(鯨)」(「ツ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ツナ」から「スナ」となった)

  「(ン)ゴ(ン)ゴ・タウ」、NGONGO-TAU(ngongo=waste away,sad,invalid,a pool of water;tau=come to rest,settle down,be suitable)、「(陸に)乗り上げて・(自分の体を)棄てる(魚)」(「(ン)ゴ(ン)ゴ」の最初のNG音がG音に、次のNG音がN音に変化して「ゴノ」から「ゴン」と、「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」となった)

  「イ・ルカルカ」、I-RUKARUKA(i=past tense,ferment,be stirred of feelings;rukaruka=utterly)、「完璧に・感情を表現する(魚)」(「ルカルカ」の反復語尾が脱落して「ルカ」となった)

  「カカマ」、KAKAMA(quick,nimble(kama=eager))、「敏捷な(イルカ)」(反復語頭の「カ」が脱落して「カマ」となった)

  「パ(ン)ゴ・タウ」、PANGO-TAU(pango=black,of dark colour;tau=come to rest,settle down,be suitable)、「(楽しそうに)遊弋している・色の黒い(イルカ)」(「パ(ン)ゴ」のNG音がN音に変化して「パノ」から「バン」と、「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」から「ドウ」となった)

  「チア・アチ」、TIA-ATI(tia=catch and kill vermin;ati=descendant.clan)、「(害虫を殺すように他の鮫などを)容赦なく殺しまくる・種類に属する(魚)」(「チア」のA音と「アチ」の語尾のA音が連結して「チアチ」から「シャチ」となった)

  「タ・カマタ」、TA-KAMATA(ta=the...of,dash,beat,lay;kamata=tip of a branch or leaf,top of a tree)、「(魚の中で)最高の地位に・ある(魚)」または「(火伏のまじないとして建物の屋根の)一番高い場所に・置かれる(魚)」

  「オ・パケ」、O-PAKE(0=the...of;pake=a rough cape made of undressed leaves of flax)、「(ごわごわの)粗い織物のような肌の・食物」または「アウ・パエキリ」、AU-PAEKIRI(au=firm,intense;paekiri=the narrow lrvrl space immediately outside the outer stockade)、「(冷水で晒して)縮れた・(最外側の黒皮を剥いだ)皮膚(の部分の脂肪層)」(「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」と、「パエキリ」のAE音がAI音に変化し、語尾の「リ」が脱落して「パイキ」から「バイキ」となった)

の転訛と解します。

 なお、『日本書紀』には、鯨(くじら)の人名が見えます。古典篇(その十三)の舒明紀の234H1大伴鯨(くぢら)連の項を参照してください。

の転訛と解します。

734-2あざらし(海豹)・あしか(海驢)・とど(海馬)・おっとせい(膃肭臍・せいうち(海象)

 あざらし(海豹)おもに両極地方を中心に生息する食肉性のやや大型の海生哺乳類で、ネコ目アザラシ科の総称です。外耳がなく、首は短くて比較的硬く、前肢は短いが爪(つめ)をもち、これを使って岩端や海氷上を這い、後肢は前に曲がらず、泳ぐときは、左右の後肢を魚が尾鰭(おびれ)を振るように左右に振って泳ぎます。

 海豹の語源は、(1)もと蝦夷語(和訓栞)、(2)アサラシ(磯鹿)から(碩鼠漫筆・日本語源ー賀茂百樹)とする説があります。

 あしか(海驢)北半球の寒帯沿岸にすむ食肉性のやや大形の哺乳類で、ネコ目アシカ科の総称です。雄は長く立派なたてがみをもち、シーライオンsea lionと呼ばれます。遊泳が巧みで、左右同時に前脚の鰭で水をかくようにして泳ぎ、陸上では後ろの鰭脚(ひれあし)を前に曲げて体を支え、四肢を使って移動します。アシカ科にはアシカのほかに、オタリアやトド、オットセイなどが含まれます。繁殖期にはハーレムを形成します。魚類やイカなどを食べ、上陸して休養、就眠するときは群れのうち1頭だけは見張りをするといいます。古くは「アシカは常に眠りを好み、島の上でいびきをかいて眠る」(和漢三才図絵)と信じられていました。

 海驢の語源は、(1)アシシカ(葦鹿)の意。葦の間に棲み、形が鹿に似るところから(東雅・名言通・日本語源ー賀茂百樹)、(2)アマシカ(海鹿)の義(言元梯・和訓栞)。ウナシカ(海之鹿)の義(日本語源ー賀茂百樹)とする説があります。

 とど(海馬)は、北海道沿岸からカリフォルニア沿岸にまで生息するアシカ科の大型哺乳類です。アシカよりはるかに大きく、雄は体長3.2〜4.0メートル、体重は1000キログラムをこえるものもあり、雌は体長2.8〜3.0メートル、体重270〜600キログラムに達します。ハーレムは、おっとせいよりは小さく、1頭の雄と10〜20頭の雌で構成されます。日本では北海道の礼文島で1925年(大正14)まで繁殖していたといいますが、現在ではほぼ絶滅したと考えられています。古くは、アシカが成長してトドになったと考えられていました(物品識名)。

 海馬の語源は、アイヌ語Tondo、Todo、またはTotoからか(国語学論考ー金田一京助・大言海)とする説があります。

 おっとせい(膃肭臍)は、アシカ科の哺乳類で、北太平洋に生息するキタオットセイを通常オットセイといいます。ベーリング海のプリビロフ諸島、コマンドル諸島、千島列島などで繁殖します。オスは7歳くらいで成熟し、体長2メートル、体重250キログラムに達し、メスは3歳で成熟しますが、平均体重は52キログラムです。大柄な年長のオスは40頭ものメスでハレムを形成し、戦いに負けるまでライバルのオスを追い払い続けます。

 膃肭臍の語源は、アイヌ語のonnewを中国で膃肭と音訳し、その臍が薬用とされ、本草家に「海狗腎」または「膃肭臍」と呼ばれました。これが中国の本草書から日本に入ったとする説があります。

 せいうち(海象)は、上顎(あご)の犬歯が長くのびた特異な象牙質の牙がめだつネコ目アシカ亜目セイウチ科の大型の海生哺乳類です。カナダ、シベリア、カムチャツカ北東沿岸およびアラスカ、グリーンランド、ノルウェー北部、エルズミア島の北西沿岸の北極の氷縁部に生息します。タイヘイヨウセイウチの体長およそ3.8メートル、体重は雄が1350キログラム、雌は900キログラムに達します。主食は貝類で、エビやタコ、カニ、魚なども食べます。集団性が強く、繁殖期、回遊期を問わず集団でいますが、繁殖期を除くと雌雄は別々の集団を形成します。

 海象の語源は、ロシア語のsivuch(トドの意)とする説があります。

 この「あざらし」、「あしか」、「とど」、「おっとせい」、「せいうち」は、

  「ア・タラチ」、A-TARATI(a=the...of,drive,urge,compel;tarati=spurt,splash)、「例の・水しぶきを上げて精力的に泳ぎ回る(海獣。あざらし)」(「タラチ」が「ザラシ」となった)

  「アチ・イカ」、ATI-IKA(ati=offspring,clan;ika=victim)、「(犠牲となって)死んだようによく眠る・種類の(海獣。あしか)」(「アチ」が「アシ」となり、その語尾のI音と「イカ」の語頭のI音が連結して「アシカ」となった)

  「トト」、TOTO(stem)、「大きな材木のような(海獣。トド)」(「トト」が「トド」となった)

  「アウト・タイ」、AUTO-TAI(auto=trailing behind,slow;tai=tide,anger,rage,violence)、「勇猛な(雄が)・(多数の雌を)率いる(ハーレムを作る習性がある海獣。おっとせい)」(「アウト」のAU音がO音に変化して「オト」から「オット」と、「タイ」のAI音がEI音に変化して「セイ」となった)

  「タイ・ウチ」、TAI-UTI(tai=tide,anger,rage,violence;uti=bite)、「(牙で)襲いかかる・勇猛な(海獣。せいうち)」(「タイ」のAI音がEI音に変化して「セイ」となった)

の転訛と解します。

735さめ(鮫)・フカ(鱶)・ワニ(鰐)・ジンベイ(甚平)サメ・ホオジロ(頬白)サメ・ウバ(姥)サメ・コバン(小判)サメ

 さめ(鮫)は、軟骨魚綱板鰓亜綱のうちエイ目を除く魚類の総称とされ、関西以西ではフカ(鱶)、山陰ではワニ(鰐)と呼ぶことがあります。

 ジンベイ(甚平)サメは、魚類中最も大型のサメですが、人を襲うことはありません。カツオの群がこのサメに付くことが多いことで知られています。

 ホオジロ(頬白)サメは、大型で鼻づらは円錐形に尖り、大きな矢じり形の歯が鋸状に並び、体色は腹部を除き青灰色または茶灰色で、人などを一呑みにし、小型船に孔を開けるなど映画「ジョーズ」のモデルとなった極めて凶暴なサメです。

 ウバ(姥)サメは、大型で、通常は海面近くを遊泳するところから、英語名をバスキング(日光浴する)シャーク、Basking-sharkと呼ばれます。

 コバン(小判)サメは、サメ類ではなく、頭の後ろに背鰭が変化した卵形の平たい吸盤を持ち、サメやそのほかの大型の魚類に付着して生活する魚の総称です。

 語源は、(1)「サメ(狭目・狭眼)」の義、(2)「ササメ(少々目)」の略、(3)鮫肌の意から「サムミ(寒身)」の転、(4)「カハメ(皮目)」が「サラサラ」と粒立つているから、(5)昼は眠り、夜は目を覚ますので「サメ(覚)」の義、(6)「サヒ(刃物)」の転などの説があります。

 この「さめ」、「フカ」、「ワニ」、「ジンベイ」、「ホオジロ」、「ウバ」、「コバン」は、

  「タ・マイ」、TA-MAI(ta=the...of,dash,beat,lay;mai=to indicate direction or motion towards or character in ralation to,to indicate such relation to the principal character of the story)、「(突進するように)泳ぎ続ける・習性がある(魚)」または「(人を)襲う・習性がある(魚)」(「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」となった)

  「プカ」、PUKA(eager,jealous,impatient)、「躍起になる(襲う。魚)」(P音がF音を経てH音に変化して「フカ」となった)

  「ワニ」、WANI(scrape,defame,speak harshly of)、「評判が悪い(魚)」

  「チノ・パイ」、TINO-PAI(tino=essenciality,exact,absolute,main;pai=good,excellent,suitable,pleasant,handsome)、「本質的に・良い(優しい)性格の(鮫)」(「チノ」が「ジン」と、「パイ」のAI音がEI音に変化して「ペイ」から「ベイ」となった)

  「ホホウ・チラウ」、HOHOU-TIRAU(hohou=bind,lash together(houhou=dig up,peck holes in drill);tirau=peg,stick)、「錐(のような鼻)で・襲いかかる(鮫)」(「チラウ」のAU音がO音に変化して「チロ」から「シロ」となった)

  「ウパ」、UPA(fixed,settled,at rest,satisfied)、「休息している(または満足している。鮫)」

  「コパ(ン)ガ」、KOPANGA(=kopa=space in front of a house)、「家の前に広場を持っている(頭の上に吸盤がある。魚)」(NG音がN音に変化して「コパナ」から「コバン」となった)

の転訛と解します。

 

736うなぎ(鰻)・むなぎ・まむし・あなご(穴子)・はも(鱧)・うつぼ

 うなぎ(鰻)は、ウナギ目ウナギ科の硬骨魚の総称で、古くは「むなぎ」といい、関西では「まむし」ともいいました(関西の鰻飯は鰻の蒲焼きを飯の上に載せず、飯の間に埋め込みます)。

 あなご(穴子)は、ウナギ目アナゴ科の海産魚の総称で、ウナギに似ますが腹鰭がなく、鱗もなく、日中は海底の砂泥や岩の間に潜み、主として夜間に餌を漁ります。

 はも(鱧)は、ウナギ目ハモ科の海産魚で、「はむ」ともいい、口が大きく歯が鋭く、日中は海底の砂泥や岩の間に潜み、夜間に活発に魚貝類を漁ります。淡泊で美味ですが小骨が多く、江戸時代に開発された技術かとされる骨切りが必要です。

 うつぼは、ウナギ目ウツボ科の海産魚の総称で、アナゴに似ますが口が大きく歯が鋭く、貪食で闘争性が強いのが特徴です。

 うなぎの語源は、(1)古語「ムナギ」の転、(2)皮を「ムク(剥)」から、(3)「ムナキ(棟木)」に似ているから、(4)「ムナキ(胸黄)」から、(5)「ム(身)・ナキ(長)」から、(6)「ウヲナガキ」の義などの説があります。

 あなごの語源は、(1)穴に居る「アナゴ(穴魚)」の義、(2)「アナゴモリ(穴籠)」の義などの説があります。

 はもの語源は、(1)古語「ハム」の転、(2)海鰻の唐音から、(3)「ハモチ(歯持)」の義、(4)友の小魚を「ハム(食)」ところから、(5)「ハミ(蝮蛇)」に似るから、(6)鱗が無く肌が見える「ハタミユ(肌見)」から、(7)口をハッと張ってモガクところからなどの説があります。

 この「うなぎ」、「むなぎ」、「まむし」、「あなご」、「うつぼ」、「はも(はむ)」は、

  「ウ(ン)ガ・ア(ン)ギ」、UNGA-ANGI(unga=send,cause to come forth,seek;angi=free,move freely,approach stealthily)、「(餌を)探して・(ふらふらと)動き回る(魚)」(「ウ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ウナ」となり、「ア(ン)ギ」のNG音がG音に変化して「アギ」となり、「ウナ・アギ」から「ウナギ」となった)または「ウ・ナキ」、U-NAKI(u=bite,gnaw,be firm,be fixed,arrive by water,reach its limit;naki=glide,move with an even motion)、「どこまでも(遠くまで)・滑るように動いて行く(魚)」

  「ムヌ・ア(ン)ギ」、MUNU-ANGI(munu,munumunu=dredge,scrape up;angi=free,move freely,approach stealthily)、「(餌を求めて)水底の泥を浚って・(ふらふらと)動き回る(魚)」(「ムヌ」の語尾のU音が「ア(ン)ギ」の語頭のA音と連結し、NG音がG音に変化して「ムナギ」となった)または「ム・ナキ」、MU-NAKI(mu=silent;naki=glide,move with an even motion)、「静かに・滑るように動いて行く(魚)」

  「マ・ハムチ」、MA-HAMUTI(ma=white,clear,for,to be acted on by;hamuti=privy)、「(飯の)上に置かれて・秘密にされた(さらに飯で覆われた。鰻飯。その鰻)」(「ハムチ」のH音が脱落して「ムチ」から「ムシ」となった)

  「アナ・(ン)ガウ」、ANA-NGAU(ana=cave;ngau=bite,hurt,attack)、「穴に(潜んで)いて・(餌となる魚などを)襲う(魚)」(「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)

  「ハ・アム」、HA-AMU(ha=breathe,what!;amu=grumble,begrudge,complain)、「何と・(小骨が多くて食べ難いと)ぶつぶつと文句をいう(魚)」(「ハ」のA音と「アム」の語頭のA音が連結して「ハム」から「ハモ」となった)

  「ウツ・ポ」、UTU-PO(utu=return for anything,reward,make response;po=night,season)、「夜に・(餌を捕る)行動を起こす(魚)」(ちなみに、矢を入れる武具の靫(うつぼ)は、「ウ・ツポウ」、U-TUPOU(u=be firm,be fixed;tupou=bow the head,fall or throw oneself headlong)、「(矢を)真っ逆様に放り込んで・固定するもの(靫)」の転訛と解します。)

の転訛と解します。

 

737なまず(鯰)・ゴンズイ・ギギ・ギバチ(義蜂)

 なまず(鯰)は、ナマズ目ナマズ科の淡水魚で、平野部の湖沼や流れの緩やかな川の泥、砂泥底に棲み、昼間は物陰に潜み、夕刻から餌を漁り、川の掃除屋といわれます。

 ゴンズイは、ナマズ目ゴンズイ科の海産魚で、毒のある棘を持ち、夜行性で昼間は岩礁や密生した海藻の中に多数が集まっていることが多く、とくに幼魚が「ゴンズイ玉」といわれる大きな塊状の集団を作ります。

 ギギ・ギバチは、いずれもナマズ目ギギ科の淡水魚で、胸鰭の棘を動かしてギーギーという音を立て、背鰭・胸鰭の棘には毒があります。「ギギ」の名はその立てる音から、「ギバチ」の名は「蜂のように刺すギギ」からとされます。

 なまずの語源は、(1)「ナメラカ(滑)」であるところから、(2)「ナメハダウヲ(滑肌魚)」の義、(3)「ナメリデ(滑手)」の義、(4)「ナマツ(魚不味)」の義などの説があります。

 この「なまず」、「ゴンズイ」、「ギバチ」は、

  「ナ・マハ・ツ」、NA-MAHA-TU(na=satisfied,belonging to,indicating parentage or descent;maha=satisfied,depressed,many(mamaha=liver,seat of the emotion);tu=stand,settle,fight with,energetic)、「満足して・座っている・種類の(魚)」または「(外見は)満足している(おとなしい)ようで・(実は)性質が荒々しい・種類の(魚)」(「マハ」のH音が脱落して「マ」となった)

  「(ン)ゴ(ン)ゴ・ツイ」、NGONGO-TUI(ngongo=a spear thrown by hand;tui=pierce,thread on a string,put the hand or arm through a loop)、「槍(毒のある棘)で刺す・腕を組んで(集団となって)行動する(魚)」(「(ン)ゴ(ン)ゴ」の最初のNG音がG音に、次のNG音がN音に変化して「ゴノ」から「ゴン」となった)

  「ギア・パチア」、NGIA-PATIA(ngia=seem,appear to be;patia=spear)、「槍・のような(棘がある。魚)」(「ギア」のNG音がG音に変化し、語尾のA音が脱落して「ギ」と、「パチア」の語尾のA音が脱落して「パチ」から「バチ」となった)

の転訛と解します。

 

738こい(鯉)・こひ・マゴイ(野生品種)・ヤマト(大和。養殖品種)

 こい(鯉)は、コイ目コイ科の淡水魚で、日本では古くは「こひ」と呼ばれ、またマゴイと呼ばれる野生品種に対し養殖品種をヤマト(大和)と呼ぶことがあります。

 日本では、古来鯉を高貴な魚として(『徒然草』第118段)扱ってきました。現在は、食用魚として漁業の対象となるほか、鑑賞魚として養殖されています。

 語源は、(1)「コヒラ(小平)」から、(2)「コヒゲ(小髭)」の下略、(3)「コヒ(乞)」の義、(4)味が良いため人が恋したから、(5)雌雄が相恋して離れない「コヒ(恋)」から、(6)「コミ(甲美)」の義、(7)身が「コエ(肥)」ているから、(8)味が諸魚に勝っている「コエ(越)」から、(9)「クヒノウヲ(淡水魚)」の略などの説があります。

 この「こい」、「こひ」、「マ(コイ)」、「ヤマト」は、

  「コイ」、KOI(move about,good,suitable(kokoi=rub in dye))、「(悠々と)泳ぎ回る(魚)」もしくは「染料で染めた(色の付いた。魚)」

  「コヒ」、KOHI(collect,gather together,dark mud used for dyeing black(kohikohi=a fish;whakakohikohi=a zigzag pattern often used in plaiting girdles))、「集団をなす(魚)」もしくは「ジグザグに泳ぐ(魚)」もしくは「(黒い)泥で染めた(魚)」(H音が脱落して「コイ」となった)

  「マ」、MA(white,clean(whakama=shame,shay))、「(野生の)臆病な(人になつかない。鯉)」

  「イア・マトマト」、IA-MATOMATO(ia=indeed,current;matomato=deep,green,growing vigorously,of pleasing appearance)、「実に・(餌を与えられて)成長が速い(鯉)」または「実に・(鑑賞用として)見た目が好ましい(鯉)」(「マトマト」の反復語尾が脱落して「マト」となった)

の転訛と解します。

 

739あゆ(鮎)・アイ

 あゆ(鮎)は、サケ目サケ科アユ属の魚で、川魚の王と呼ばれ、別名をアイ、年魚、香魚とも呼ばれます。川で生まれ、幼期は海で育ち、再び川へ戻って中流域の石や岩盤に藻が付着した場所に縄張りを持ち、上下の唇に櫛状に発達した歯と舌を用いて付着藻類をこそげ取って食べて成長し、成熟すると下流へ戻って産卵します。

 語源は、(1)動詞アユル(落ちる)から、(2)愛すべき魚の意、(3)「ア(小)・ユ(白)」の意、(4)「イハヨル(岩寄)」の反、(5)「アヘ(饗)」の転、(6)酢酒塩などで「アヘテ(和)」食べて「ヨキウヲ(良魚)」の義などの説があります。

 この「あゆ」、「アイ」は、

  「アハ・イフ」、AHA-IHU(aha=a sawlike weapon made of shark's teeth;ihu=nose)、「鋸のような(櫛状の歯が付いた)・鼻(で水苔を掻き取って食べる。魚)」(「アハ」のH音が脱落して「ア」と、「イフ」のH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

  または「アイ・イフ」、AI-IHU((Hawaii)ai=food,food plant,to eat,to bite;ihu=nose)、「鼻で・(水苔を)掻き取って食べる(魚)」(「アイ」のI音と「イフ」の語頭のI音が連結しH音が脱落して「アイウ」から「アユ」となった)

  「アイ」、AI((Hawaii)food,food plant,to eat,to bite)、「(水苔を)掻き取って食べる(魚)」

の転訛と解します。

 

740ふな(鮒)・マブナ(真鮒)・ヒワラ・ゲンゴロウブナ(源五郎鮒)・ヘラブナ・ナガブナ(長鮒)・ニゴロブナ(煮頃鮒、似五郎鮒)

 ふな(鮒)は、コイ目コイ科フナ属の淡水魚の総称で、コイに似ますがヒゲがありません。マブナ(真鮒)(体の背面は暗灰褐色、側面から腹面は銀白色で、ギンブナ(銀鮒)、クロブナ(黒鮒)、ヒワラの別名があります。)、ゲンゴロウブナ(源五郎鮒)(マブナよりも体高が高く左右に平たく、ヘラブナの別名があります。)、ナガブナ(長鮒)(諏訪湖に棲み、体高が低く左右に幅がり、頭部が大きい鮒です。)、ニゴロブナ(煮頃鮒、似五郎鮒)(琵琶湖に棲み、ゲンゴロウブナよりも体高が低く左右に幅がり、眼が大きい鮒で、鮒ずしの原料となります。)などの種類があります。

 語源は、(1)「フ(鮒の音)・ナ(魚)」の義、(2)煮ると骨が軟らかくなるので「ホネナシ(骨無)」の略、(3)「ハルナル(春生)」の反「フヌ」の転、(4)「ヒラオブナリ(平帯形)」の義、(5)近江の鮒が第一であるところからフはアフミの上下略、ナはマナ(真魚)の上略、(6)「フシト(臥魚)」の義などとする説があります。

 この「ふな」、「マ」、「ヒワラ」、「ゲンゴロウ」、「ヘラ」、「ナガ」、「ニゴロ」は、

  「フナ」、HUNA(conceal,destroy,unnoticed)、「(水草や岩の蔭に)隠れている(魚)」

  「マ」、MA(white,clean(whakama=shame,shay))、「(野生の)臆病な(鮒)」

  「ヒワ・ラ」、HIWA-RA(hiwa=watchfull,vigorous of growth,dark;ra=by way of,there,yonder)、「(彼方の)あの・注意深い(魚)」

  「(ン)ゲネ・(ン)ゴロ」、NGENE-NGORO(ngene=fat,wrinkled;ngoro=snore,utter exclamation of surprise or admiration)、「肥って・(驚いたように)眼を見張っているいる(鮒)」(「(ン)ゲネ」、「(ン)ゴロ」のNG音がG音に変化して「ゲネ・ゴロ」から「ゲンゴロウ」となった)

  「ヒヱラ」、HIWERA(burnt,brown or red as if burnt)、「焼け焦げた(黒褐色の。鮒)」(W音が脱落し、IE音がE音に変化して「ヘラ」となった)または「ハエ・エラ(ン)ギ」、HAE-ERANGI(hae=slit,split,gleam,appear or shine as stars before dawn,be conspicuous;erangi=it is better,but,on the contrary)、「(明けの明星のように)際だって光っている・好ましい(鮒)」(「ハエ」のAE音がE音に変化して「ヘ」と、「エラ(ン)ギ」の語尾のNGI音が脱落して「エラ」となり、「ヘ・エラ」から「ヘラ」となった)

  「ナ・(ン)ガ」、NA-NGA(na=satisfied,belonging to,indicating parentage or descent;nga=satisfied,breathe)、「どちらかといえば・(満足している)悠々としている(鮒)」(「(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「ガ」となった)

  「ヌイ・(ン)ゴロ」、NUI-NGORO(nui=large,many;ngoro=snore,utter exclamation of surprise or admiration)、「(驚いたように)大きな・眼を見張っている(鮒)」(「ヌイ」のUI音がI音に変化して「ニ」と、「(ン)ゴロ」のNG音がG音に変化して「ゴロ」となった)

の転訛と解します。

 

741どじょう(泥鰌)・ホトケドジョウ・アジメドジョウ・シマドジョウ

 どじょう(泥鰌)は、コイ目ドジョウ科の淡水魚で、平野部の浅い池沼、水田、水路などの泥底に棲み、泥中に潜って小動物を長いヒゲで探って漁ります。いろいろな種類がありますが、ホトケドジョウ(日本固有種で、綺麗な水を好み、浮き袋が発達しているため、中層に静止し、ときどきゆっくりと泳ぐ習性があります。)、アジメドジョウ(最も美味とされ、アユと同様に石の表面に付着した藻類を食べ、越冬期には川底の湧水穴の回りに密集して繁殖する習性があります。)、シマドジョウ(砂や砂利底を好んで棲み、太くて短いヒゲで餌を探る習性があります。)

 古来いろいろの表記が行われていますが、『文明本節用集』は、「ドヂャウ」と訓じます。

 語源は、(1)「ドロツヲ(泥津魚)」の義、(2)「ドロスミウヲ(泥棲魚)」の義、(3)「ドチャウ(土長)」の義、(4)髭があるので「ドジョウ(土尉)」の意、(5)「トロセウ(泥髭)」の義などの説があります。

 この「どじょう」、「ホトケ」、「アジメ」、「シマ」は、

  「ト・チホウ」、TO-TIHOU(to=drag,open or shut a door or window;tihou=an implement used for cultivating)、「鍬を・引く(土を耕すように泥の中の餌を捕らえて食べる。魚)」(「ト」が「ド」と、「チホウ」のH音が脱落して「チオウ」から「ジョウ」となった)

  「ホト・ケ」、HOTO-KE(hoto=begin,start,make a convulsive movement;ke=different,strange)、「(川の中層に静止していたのが)急に動き出す・変わった(泥鰌)」

  「アチ・マイ」、ATI-MAI(ati=descendant,clan;mai=become quiet)、「(冬になると川底の湧水孔の周囲に密集して)静かになる・種類の(泥鰌)」(「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」となった)

  「チマ」、TIMA(a wooden implement for cultivating the soil)、「(木の)堀り棒で土を掘り崩す(ように砂や砂利の中の餌を捕らえて食べる。泥鰌)」

の転訛と解します。

 

742ドンコ(鈍甲)

 スズキ目カワアナゴ科の淡水魚で、ハゼに似ますが頭は扁平で著しく幅が広く口が大きく、体色は黄褐色から黒褐色で、側面には明瞭な雲形の斑点がある魚で、全長約25cmに達します。

 この「ドンコ」は、

  「ト(ン)ガコ」、TONGAKO(be scabbed,feste)、「皮癬(皮膚病の一種)にかかったような(斑紋がある。魚)」(NG音がN音に変化して「トナコ」から「ドンコ」となった)

の転訛と解します。

(ちなみに、水郷で著名な福岡県柳川(やながわ)市の観光川下りの1013ドンコ舟の語源は、魚名と異なり、「ト・(ン)ガコ」、TO-NGAKO(to=drag,open or shut a door or a window;ngako=fat)、「(川を)行き来する・肥った(幅の広い。舟)」(「ト」が「ド」と、「(ン)ガコ」のNG音がN音に変化して「ナコ」から「ンコ」となった)と解します。)

 

743ムツゴロウ

 ムツゴロウは、有明海および八代海のみに棲息するスズキ目ハゼ科の魚で、両眼が頭から突き出て自由に動かせ、干潟に掘った穴に住み、胸鰭で干潟を這い回ったり飛び跳ねたりして、近くの珪藻を食べ、穴から遠く離れることはないという習性があります。

 この「ムツゴロウ」は、

  「ムフ・ツ・(ン)ゴロ」、MUHU-TU-NGORO(muhu=grope,feel after,push one's way through bushes etc.;tu=fight with,energetic;ngoro=snore,utter exclamation of surprise or admiration)、「活発に・(手探りで=胸鰭で)這い回る・(驚いたように)眼が飛び出している(魚)」(「ムフ」のH音が脱落して「ム」と、「(ン)ゴロ」のNG音がG音に変化して「ゴロ」から「ゴロウ」となった)

の転訛と解します。

 

744なまこ(海鼠)・イリコ(海参)・キンコ(光参)・マナマコ・コノコ・コノワタ

 なまこ(海鼠)は、ナマコ綱に属する筒形の軟らかい体をした棘皮動物の総称です。

 なまこを腸を除いて茹でて干したものをイリコ(海参)といい、とくに三陸以北で穫れる長楕円形のなまこをキンコ(光参)と呼び、生食に供する体にいぼのような足のあるなまこをマナマコと呼び、その内臓の塩漬けをコノコ、コノワタと呼んで珍重します

 語源は、(1)「ナマ(生)・コ(海鼠)」の義、(2)「ヌメコノ(滑凝)」または「ナメリコリ(滑凝)」の義、(3)「ナワク(刃割口)」の義などの説があります。

 この「なまこ」、「いりこ」、「キンコ」、「マナマコ」、「コノコ」、「コノワタ」は、

  「ナ・マコ」、NA-MAKO(na=belonging to;mako=peeled,stripped off)、「(固い)皮を剥ぎ取った・ような(軟らかい。動物)」

  「イリ・コ」、IRI-KO(iri=be empty,hungry,be elevated on some,rest uponthing;ko=descend,descendant)、「(腸を)除いた(後に乾燥した)・種類の(海鼠)」

  「キナ・コ」、KINA-KO(kina=sea-urchin,sea-egg,a globular calabash;ko=descend,descendant)、「(楕円形の)ひょうたんのような・種類の(海鼠)」(「キナ」が「キン」となった)

  「マ(ン)ガ・マコ」、MANGA-MAKO(manga=branch of a tree etc.;mako=peeled,stripped off)、「(枝のような)足がある・(固い)皮を剥ぎ取った(軟らかい。動物)」(「マ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「マナ」となった)

  「コノ・コ」、KONO-KO(kono=bend,curve,loop,noose;ko=descend,descendant)、「(輪縄のような)細長く繋がった・種類のもの(腸。その加工品)」

  「コナウ・ワタ」、KONAU-WHATA(konau=yearn for,desire;whata=elevate,hang,be laid,stand out)、「(美味として)特に珍重される・(外へ)引き出されたもの(腸。その加工品)」(「コナウ」のAU音がO音に変化して「コノ」となった)

の転訛と解します。

 

745たこ(鮹、章魚)

 たこ(鮹、章魚)は、頭足綱八腕形目に属する軟体動物の総称です。日中はほとんど物陰に隠れ、夜間に甲殻類、貝類を餌とし、攻撃をうけると墨を吐いて逃れます。

 語源は、(1)タはテ(手)の転、コはココラ(許多)の意、(2)「タ(手)・コ(海鼠)」の義、(3)「テナガ(手長)」の略転、(4)「テコブ(手瘤)」の義、(5)たこの手が物に凝り付くところから「タコ(手凝)」の義、(6)鱗がない「ハタコ(膚魚)」の義、(7)足が多いので「タコ(多股)」の義などとする説があります。

 この「たこ」は、

  「タコ」、TAKO(loose,peeled off)、「ぐにゃぐにゃの(軟らかい体の。魚)」

  または「タコフ」、TAKOHU(mist,vapour,enshrouded in mist)、「(危険を感ずると墨を吐いて)霧の中に隠れる(魚)」(H音が脱落して「タコ」となった)

の転訛と解します。

 

746かに(蟹)・ズワイガニ・マツバガニ蟹・コウバコ(抱卵している雌蟹)・セイコ(抱卵している雌蟹)・ゼンマル(若い雌蟹)・モサ(幼蟹)・ワタ(脱皮後の蟹)・ガザミ・ワタリガニ・モクズガニ

 かに(蟹)は、甲殻綱十脚目短尾類に属する節足動物の総称で、大半は海底に棲息しますが、淡水に棲むものや陸にあがるものもあります。

 ズワイガニは、クモガニ科に属する日本各地で水産上重要な蟹で、オスで甲幅15cm、山陰地方ではマツバガニとも呼ばれ、また雌蟹をコウバコ、抱卵している雌蟹をセイコ、若い雌蟹をゼンマル、幼蟹をモサ、脱皮後の蟹をワタと呼びます。

 ガザミは、ワタリガニ科の甲幅25cmの大型の蟹で長距離を泳ぐことができ、近縁種を含めてワタリガニとも呼ばれます。

 モクズガニは、イワガニ科に属する蟹で、川の上流に棲み、秋に汽水域で産卵、春に稚蟹が川を遡上するライフ・サイクルを持っています。肺吸虫の中間宿主となることがあります。

 「かに」の語源は、(1)殻が赤くなるところから「カ(殻)・ニ(丹)」の義、(2)「カニ(皮丹)」の義、(3)「カニ(甲丹)」の義、(4)カはセナカ(背中)、ニはニ(丹)の義、(5)甲が堅くよく逃げることから「カタニゲ(堅逃げ)」の略、(6)「かたかたへ・のきさる」意からカタノキの反などとする説があります。

 「ガザミ」の語源は、(1)「カニハサミ」の義、(2)「ガサメ」の転、(3)「カサメ(擁剣。はさみの意)」からなどの説があります。

 この「かに」、「ズワイ」、「マツバ」、「コウバコ」、「セイコ」、「ゼンマル」、「モサ」、「ワタ」、「ガザミ」、「ワタリ」、「モクズ」は、

  「カニ」、KANI(rub backwards and forwards,saw,dance)、「(鋸を引くように横一方向へだけ)行ったり来たりする(虫。蟹)」

  「ツワ・アイ」、TUWHA(spit,expectrate)-AI(beget,procreate)、「唾(泡)を・吐き出す(虫。蟹)」(「ツワ」が「ズワ」と、「ズワ」の語尾のA音と「アイ」の語頭のA音が連結して「ズワイ」となった)

  「マハ・ツパ」、MAHA-TUPA(maha=many,abundance;tupa=start,turn sharply aside,escape)、「多数(の蟹)が・(危険を感じると)一斉に逃げ出す(蟹)」(「マハ」のH音が脱落して「マ」となった)

  「コウ・パカウア」、KOU-PAKAUA(kou=good;pakaua=muscular,brawny,sinewy)、「良く・筋肉(卵)が付いている(蟹)」(「パカウア」の語尾のA音がまず脱落し、AU音がO音に変化して「パコ」となった)

  「タイ・コウ」、TAI-KOU(tai=addressing to males and females;kou=good)、「(抱卵している)良い・雌(蟹)」(「タイ」のAI音がEI音に変化して「テイ」から「セイ」と、「コウ」の語尾のU音が脱落して「コ」となった)

  「タイナ・マル」、TAINA-MARU(taina=younger brother,younger sister;maru=power,shield,shelter)、「甲羅を持つ・若い妹(若い雌の蟹)」(「タイナ」のAI音がE音に変化して「テナ」から「テン」、「ゼン」となった)

  「モタ」、MOTA(=mata=just,unripe,fresh,a small fish similar to INANGA)、「生まれたばかりの(蟹)」

  「ワタ」、WHATA(elevate,so publish,be suspended,rest,stand out)、「(脱皮して)大きくなって抜け出した(蟹)」または「(脱皮して甲羅が堅くなるまで)休息している(蟹)」

  「(ン)ガ・タミ」、NGA-TAMI(nga=the,satisfied;tami=food,press down,suppress)、「食べて・堪能する(蟹)」(「(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「ガ」となった)

  「ワ・タリ」、WHA-TARI(wha=be disclosed,get abroad;tari=cary,bring,urge, incite)、「(生活領域の)外へ・自発的に出て行く(蟹)」

  「モクツクツ」、MOKUTUKUTU(vermin)、「(寄生虫を持っていて人に)害を与える(蟹)」(反復語尾が脱落して「モクツ」から「モクズ」となった)

の転訛と解します。

 

747えび(蝦、海老)・クルマエビ(車海老)・イセエビ(伊勢海老)

 えび(蝦、海老)は、甲殻綱十脚目長尾類に属する節足動物の通称で、遊泳に適したクルマエビ(体長20cm前後、体に濃い色の縞模様があり、体を丸めた時に車輪のように見えるところからこの名が付いたとされます。)、コエビなどの側扁型と、イセエビ(体長20cmから30cm、はさみがなく、長大な触角をもちます。)などの横扁型があります。

 この語源は、(1)体色がエビ(葡萄)に似る、(2)エヒゲ(吉髭)の約転、(3)エタヒゲまたはエヒゲ(枝髭)の義、(4)エビ(柄髭)の義、(5)長い毛の意などとする説があります。

 この「えび」、「クルマ」、「イセ」は、

  「エ・ピ」、E-PI(e=to denote action in progress or temporary condition;pi=eye,corner of the eye or mouth)、「眼の脇(の触角)を・しょっちゅう動かしている(魚。蝦)」

  「クルマ」、KULUMA((Hawaii)accustumed to,intimate with,usual)、「ありきたりの(見慣れた。蝦)」

  「イヒ・タエ」、IHI-TAE(ihi=split,separate,ray of the sun,tendrill of a plant;tae=arrive,reach,extend to,touch of feeling)、「(大きな)触角で・(周囲を)探る(蝦)」(「イヒ」のH音が脱落して「イ」と、「タエ」のAE音がE音に変化して「テ」から「セ」となった)

の転訛と解します。

 

748しゃこ(蝦蛄)

 しゃこ(蝦蛄)は、甲殻綱口脚目シャコ科の甲殻類の総称で、体長15cm、内湾の砂泥底に穴を掘って潜み、夜間に魚、甲殻類、貝類などを漁ります。

 語源は、(1)「シャククワ(シャクナゲの転)・エビ」の転、(2)蝦蛄の唐音からなどの説があります。

 この「しゃこ」は、

  「チア・アコ」、TIA-AKO(tia=abdomen,stomach;ako=split,have a tendency to split)、「腹(から殻)が・剥きやすい(魚。蝦蛄)」(「チア」の語尾のA音と「アコ」の語頭のA音が連結して「チアコ」から「シャコ」となった)

の転訛と解します。

(ちなみに、熱帯水域に棲む二枚貝のうち最大のシャコ貝の「しゃこ」は、「チ・イア・コ」、TI-IA-KO(ti=throw,cast,overcome;ia=indeed;ko=a wooden implement for digging or planting)、「(木製の)堀り棒では(貝をこじあけようとしても)・とても・歯が立たない(大型の。貝)」と、キジのうち小型でウズラよりも大型の鳥であるシャコの「しゃこ」は、「チ・イア・コ」、TI-IA-KO(ti=throw,cast,overcome;ia=indeed;ko=sing as bird,resound,shout,a wooden implement for digging or planting)、「実に・(掘り棒で)土を掘るような音の鳴き声を・立てる(鳥)」の転訛と解します。)

 

749うに(海胆。雲丹)・バフン(馬糞)ウニ・ホヤ(海鞘)

 うに(海胆。雲丹)は、ウニ綱に属する棘皮動物の総称で、長短さまざまの棘で覆われ、海藻や小動物を食べます。日本内地でもっとも一般的なウニはその色や形がバフンに似るからとされるバフン(馬糞)ウニで、その生殖巣は生でまたは塩漬けとした雲丹として食用とされます。

 ホヤ(海鞘)は、尾索綱ホヤ目に属する原索動物の総称で、食用のマホヤの通称です。

 「うに」の語源は、(1)「ウヰ(海胆)」の転、(2)「ウニ(海丹)」の義、(3)「ウミイ(海胆)」の約転などとする説があります。

 「ほや」の語源は、(1)「ホヤ(寄生木の異称)」が根を張るように体型が似るから、(2)香炉や手あぶりの「ホヤ(火屋)」に似るからなどという説があります。

 この「うに」、「バフン」、「ホヤ」は、

  「ウフ・ヌイ」、UHU-NUI(uhu=cramp,stiffness,benumbed;nui=large,many)、「(触ると人を痺れさせる)棘が・多い(動物。ウニ。その生殖巣を加工した食品)」(「ウフ」のH音が脱落して「ウ」と、「ヌイ」のUI音がI音に変化して「ニ」となった)

  「パフ・ウヌ」、PAHU-UNU(pahu=burst,explode;unu=pull off,draw out,bring out)、「(火にかけて爆発させて)割って・(生殖巣を)取り出す(ウニ)」(「パフ」の語尾のU音が「ウヌ」の語頭のU音と連結して「パフヌ」から「バフン」となった)

  「ホホ・イア」、HOHO-IA(hoho=drop,trickle,speak angrily,waterfall;ia=indeed,current)、「実に・(中から何ともいえない)液汁が流れ出す(動物)」(「ホホ」の反復語尾が脱落して「ホ」となった)(ちなみに、寄生木(やどりぎ)の異称の「ほや」および香炉や手あぶりの「火屋(ほや)」の「ほや」は、「ホホイア」、HOHOIA(annoyance)、「(宿主に)迷惑をかける(木)」または「(風が吹き消すのを)妨害する(もの)」(反復語頭が脱落して「ホヤ」となった)の転訛と解します。)

の転訛と解します。

 

750こぶ(こんぶ。昆布)・のり(海苔)・「(のり)ひび」・もずく(水雲)

 こぶ(こんぶ。昆布)は、褐藻類コンブ科に属する海藻の総称で、通常はそのうち食用となるものの一群をいいます。

 のり(海苔)は、通常紅藻類ウシケノリ科のアマノリ類の海藻を「ひび」(そだ、竹枝、網など)に付着させて養殖したものを原料として作られる干し海苔をいいます。

 もずく(水雲)は、不規則に密に分枝をもつ柔らかい粘り気の多い糸状の食用とする褐藻で、低潮線付近のホンダワラ類の体上に付着して生育します。

 「こぶ(こんぶ)」の語源は、(1)「昆布」の音から、(2)「瘤(こぶ)」を治すところから、(3)アイヌ語「コムブ(Kombu)」から、(4)海中に広がる姿が布に似るので「ヒタルヌノ(混布)」から、(5)コモ(海藻)」の転などの説があります。

 「のり」の語源は、(1)「ヌルヌル(滑滑)」の義、(2)煮ると「ノリ(糊)」のようになるから、(3)水の底では布のように見えることから「ヌノウミ(布海)」の反、(4)「ナノリソモ(莫告藻)」(「なのりそも」の故事については古典篇(その八)の允恭紀の219E2衣通(そとほし)郎姫の項を参照してください。)から、(5)「ネメコリ(滑凝)」の義、(6)潮に乗るものであるところから「ノリ(乗)」の義、(7)粘り気があるところからなどの説があります。

 この「こぶ(こんぶ)」、「のり」、「(のり)ひび」、「もずく」は、

  「コプ」、KOPU(full,filled up,blistered,bent,warped)、「(海中に)いっぱいになつて揺れている(海藻)」または「コヌヌ・プ」、KONUNU-PU(konunu=a black flax cape;pu=tribe)、「黒い布のような・種類の(海藻)」(「コヌヌ」の反復語尾が脱落して「コヌ」から「コン」となった)

  「ノホ・オリ」、NOHO-ORI(noho=sit,stay,settle;ori=cause to wave to and fro,sway,move about)、「(海中で)ゆらゆら揺れている・(岩石に)付着しているもの(海藻)」または「(紙を漉くように)揺らして・(簀の上に)定着させたもの(板海苔)」(「ノホ」のH音が脱落して「ノ」となり、その語尾のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「ノリ」となった)(ちなみに「糊(のり)」の「のり」は、「ノホ・リ」、NOHO-RI(noho=sit,stay,settle;ri=bind)、「(何かを)接着させるために・(その表面に)塗布するもの(糊)」(「ノホ」のH音が脱落して「ノ」となった)の転訛と解します。)

  「ピピ」、PIPI(bathe with water,smear with oil etc.)、「(海苔の胞子を付着させるために)海水に浸っているもの(ひび)」(最初のP音がF音を経てH音に、次のP音がB音に変化して「ヒビ」となった)

  「モ・ツク」、MO-TUKU(mo=for,for the benefit of,against;tuku=let go,leave,send,settle down)、「(他の藻に)くっついて・寄生している(海藻)」

の転訛と解します。

751いかなご・こうなご(小名子)

 「いかなご」は、スズキ目イカナゴ科の海産魚で、北海道から九州までの沿岸に生息します。多くの地方では小型のものを「こうなご(小名子)」と呼びます。

 総菜用や素干し、煮干し、佃煮としたり、ハマチ養殖などの飼料とされます。この群は移動性が少なく、他の魚が餌とするため集まるので、漁師の格好の漁場となる特性があります。

 この「いかなご」、「こうなご」は、

  「イカ・ナ・(ン)ガウ」、IKA-NA-NGAU(ika=fish;na=belonging to;ngau=bite,hurt,attack)、「(他の)魚が・襲う(餌にする)・種類の(魚)」(「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)

  「コ・ウ(ン)ガ・(ン)ガウ」、KO-UNGA-NGAU(ko=to give emphasis;unga=send,cause to come forth,expel;ngau=bite,hurt,attack)、「いずれ・(他の魚に)食べられて・しまうこととなる(魚。小名子)」(「ウ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ウナ」と、「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)

の転訛と解します。

752かき(牡蠣)・いたぼがき(板甫牡蠣)

 牡蠣は、イタボガキ科に属する二枚貝の総称で、各地の沿岸に分布し、盛んに養殖が行われています。板甫牡蠣は、岩礁に付着する牡蠣です。

 この「かき」、「いたぼ(がき)」は、

  「(ン)ガキヒ」、NGAKIHI(rock-oyster,limpet)、「(岩に付着する)牡蠣」(NG音がG音に変化し、H音が脱落して「ガキ」となり、清音化して「カキ」となった)または「カハキ」、KAHAKI(remove by force,carry away)、「(岩から)力を入れて剥ぎ取る(貝。牡蠣)」(H音が脱落して「カアキ」から「カキ」となった)

  「イタ・ポウ」、ITA-POU(ita=tight,fast;pou=pole,fasten to a stake etc.,establish)、「(岩などに)しっかりと・付着している(牡蠣)」

の転訛と解します。

753しいら(魚偏に暑)

 しいらは、シイラ科の海魚で全長1.8mに達し、体は著しく側扁(厚みが少なく幅が広い)し、長い魚です。背鰭の基部は長く頭頂部から尾鰭近くまであります。夏、美味で多く塩乾魚とされます。その語源は、塩辛くて食べるときに塩を入れないという意かとする説があります。 

 この「しいら」は、

  「チヒ・ヒラ」、TIHI-HIRA(tihi=summit,top;hira=widespread)、「最高に・(厚みが少なくて)幅が広い(魚)」(「チヒ」のH音が脱落して「チ」から「シ」と、「ヒラ」のH音が脱落して「イラ」となったなった)

の転訛と解します。

754まてがい(馬刀貝)

 まてがいは、マテガイ科の二枚貝で、北海道南部以南の潮間帯に分布し、内湾の干潟にすみます。殻は長円筒形で、殻長12cm、巾1.5cm、膨み1.2cm、砂泥に垂直に深く穴を掘ってすみ、すんでいる穴に食塩を入れると飛び出してくるので容易に採ることができます。

 この「まて」は、

  「マテ」、MATE(in want of,lacking)、「(塩分を)渇望している(貝。馬刀貝)」

の転訛と解します。

c 昆虫名

 

801とんぼ(蜻蛉)

 

 蜻蛉は、身近な昆虫で、世界に約6000種、日本列島には約200種いるといわれます。

 この「とんぼ」は、マオリ語の

  「トノ・ポウ」、TONO-POU(tono=bid,command,bid to go;pou=pole,post)、「竿の先に止まりたがる(虫)」(「トノ」の語尾のO音が脱落して「トン」となつた)

の転訛と解します。(なお、「ビンナガマグロ」を「とんぼ」と呼ぶことがありますが、これについては追って別途解説します。)

 

802あきつ・あきづ(蜻蛉)

 

 蜻蛉の古語を「あきつ」、「あきづ」、「あけず」、「だんぶり」などと呼びました。このうち「あきつ」、「あきづ」は『古事記』、『日本書紀』などに「秋津島」などとして記され、「あけず」は東北地方の方言として残されています。

 この「あきつ」は、マオリ(ハワイ)語の

  「アキ・ツ」、AKI-TU(aki=dash,beat;(Hawaii)aki=to furl as sails;tu=stand,settle)、「(水面の上に)停止して尻尾の先で水面を叩く(虫)」または「(休むときは)帆を畳むように羽根を畳んで止まる(虫)」

の転訛と解します。

 

803あけず(蜻蛉)

 

 「あけず(蜻蛉)」が東北地方の方言として残されています。

 この「あけず」は、マオリ語の

  「アケ・ツ」、AKE-TU(ake=indicating immediate continuation in time;tu=stand,settle)、「(草木の先などに)ほんの僅かな時間止まってはすぐ飛び立つ(習性をもつ虫)」

の転訛と解します。(国語篇(その二)の「61アケズ」の項を参照して下さい。)

 

804だんぶり(蜻蛉)

 

 蜻蛉の古語の一つに「だんぶり」があります。北東北地方、佐渡地方の方言として残っています。

 この「だんぶり」は、マオリ語の

  「タ(ン)ガ・プリ」、TANGA-PURI(tanga=be assembled;puri=sacred,pertaining to ancient lore)、「(祖霊が蜻蛉となって集団で訪れるなど)古くからの伝承がある・集団で飛来する(虫。蜻蛉)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「ダン」と、「プリ」が「ブリ」となった)

の転訛と解します。

 蜻蛉を古代人がどのように考えていたのかは必ずしも明確ではありませんが、祭器として用いられたであろう銅鐸にとんぼの絵が刻まれていたところからすると、「豊饒」のシンボルであった可能性が高いと考えられます。またそれは秋に集団で現われるところから「先祖の霊」とも考えられ、さらに機敏に空中の小昆虫を補食する飛行性能から「神と人を結ぶ意思疎通の使者」と考えられていたとも思われます。(なお、銅鐸は弥生時代のある時期から突然姿を消し、地下に埋蔵されます。これを支配者の交替によって銅鐸祭祀、銅鐸信仰が消滅したと考える見方があり、これとともに蜻蛉を「神聖な虫」とする考えも消滅、封印されたのかも知れません。)

 

805ちょう・ちょうちょう(蝶)

 

 蝶も身近な昆虫で、世界に約18,000種、日本列島には約230種、ほかに迷い蝶約40種がいるといいます。

 「ちょう」の語源は、漢語の「蝶」(薄くてひらひらした虫の意)で、その音の「tap」が「tep」となり、「てふ」となり、「てふてふ」、「ちょうちょう」となったとするのが通説です。
 この「てふ」の転とする説には、疑問(藤堂昭保・加納喜光編『学研新漢和大字典』2005年では漢音dapテフ、呉音depデフとします)があり、いずれも音が離れており、チョウ(チョウチョウ)に転訛したとは考えられません。蝶の古名の806てびらこ、807かわひらこと並んで古くからちょう(ちょうちょう)の名称があったか、または後に中国名が渡来して広まったとしても、他の外国渡来の名称と同様、外国名と音が同じか、またはそれと似た音の縄文語で、そのものの特徴を表現した名称をつけたものが「ちょう・ちょうちょう(蝶)」となったと考えられます。

 この「ちょう(ちょうちょう)」は、マオリ語の

  「チホ(チホ・チホ)」、TIHO(soft,flacid)、「やわらかに(ゆっくりと)羽ばたいて飛ぶ(虫。蝶)」(「チホ」のH音が脱落して「チオ」から「チョウ」となった)

の転訛と解します。

 

806てびらこ(蝶)

 

 蝶の古名を「てびらこ」、「かわひらこ」といいました。

 この「てびらこ」は、マオリ語の

  「テ・ヒラ・カウ」、TE-HIRA-KAU(te=the;hira,hihira=shy,suspicious,go over carefully;kau=swim,wade)、「(例の)あの・頼りなさそうにひらひらと・(泳ぐように)飛ぶ(習性をもつた虫。蝶)」(「ヒラ」が「ビラ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

の転訛と解します。(国語篇(その二)の「100テビラコ」の項を参照して下さい。)

 

807かわひらこ(蝶)

 

 蝶の古名「かわひらこ」は、マオリ語の

  「カハ・ヒラ・カウ」、KAHA-HIRA-KAU(kaha=strong,strength,persistency;hira,hihira=shy,suspicious,go over carefully;kau=swim,wade)、「長い時間・頼りなさそうにひらひらと・(泳ぐように)飛ぶ(習性をもつた虫。蝶)」(「カハ」が「カワ」と、「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

の転訛と解します。(国語篇(その二)の「100テビラコ」の項を参照して下さい。)

 

808かっぽ(蝶)

 

 滋賀県、三重県などでは、蝶のことを「かっぽ」といいます。「大空を闊歩するから」と解されているようですが、「闊歩」などという漢語が日本に導入される以前からの方言である可能性が高く、明らかにこじつけです。

 この「かっぽ」は、マオリ語の

  「カポ」、KAPO(blind)、「眼が見えない(ような飛び方をする虫)」

の転訛と解します。

 

809せみ(蝉)

 

 半翅類(カメムシ目)セミ科の昆虫の総称で、日本で非常に親しまれ、鳴き声の激しさと命の短さからよく文芸作品の題材とされている虫です。また、地中から現れるため、「再生・不死の象徴」ともされ、古代の中国では貴人の遺体の口中に玉製の蝉を含ませて埋葬する例がありました。さらに、古代の中国では高い木に止まって樹液のみを吸って生き、高い声で鳴くところから、聖人の象徴ともされたといい、この「再生・不死」と「聖人」の象徴の思想は、ギリシアからローマに伝わり、ナポレオンの皇帝戴冠式の衣装の胸元を飾つた黄金の蝉につながったとする説があります。

 この「せみ」は、(1)「蝉」の漢音(セン)が和音化した、

(2)「クマゼミなどの鳴き声」によるという説があります。

 この「せみ」は、マオリ語の

  「テ・ミ」、TE-MI(te=crack,emit a sharp explpsive sound;mi=urine,stream)、「けたたましく鳴いて、おしっこをする(そして飛び去る・虫)」

  または「テ・ミヒ」、TE-MIHI(te=crack,emit a sharp explpsive sound;mihi=greet,admire)、「けたたましく鳴く・尊崇すべき(虫)」(「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となった)

の転訛と解します。

 

810あぶらぜみ

 

 あぶらぜみは、日本で最も普通に見られるセミで、その鳴き声が油の煮えたぎる音に似ているところからその名がついたとされます。世界的には、種類が少なく、日本に2種、中国福建省から四川省の山地に1種あるだけです。

 この「あぶら」は、マオリ語の

  「アプ・ラ」、APU-RA(apu=bark as a dog;ra=sun)、「(炎暑の中で)太陽に向かって吠え立てるように鳴く(虫)」

  または「ア・プラ」、A-PURA(a=the...of,belonging to;pura=any small foreign substance in the eye,blind)、「眼の中にごみが入つたような(ぎごちない飛び方をする虫)」

の転訛と解します。

 

811にいにいぜみ

 

 にいにいぜみは、「閑かさや岩にしみいる蝉の声」と詠まれているセミとされる小型のセミです。

 この「にいにい」は、マオリ語の

  「ニヒニヒ」、NIHINIHI(move stealthily,steal past,glide by)、「そっと飛んできてそっと去ってゆく(虫)」

の転訛と解します。

 

812かなかなぜみ(ひぐらしぜみ。蜩)

 

 北海道南部以南に分布する中型のセミで、おもに明け方と夕方に「カナカナ」と鳴きます。

 この「かなかな」は、マオリ語の

  「カナカナ」、KANAKANA(witchcraft)、「(人を)魔法にかける(ように鳴く虫)」

の転訛と解します。

 

813おやぜみ

 

 愛知県・滋賀県などの方言で、「あぶらぜみ」を「おやぜみ」といいます。

 この「おや」は、マオリ語の

  「アウ・イア」、AU-IA(au=gall,smoke,cloud(auau=disagreeable,frequently repeated);ia=indeed,current)、「実にうるさくてしようがない(虫)」

の転訛と解します。

 

814くまぜみ

 

 関東地方以南に分布する日本最大のセミで、身体は頑丈で黒く光沢があるところから「熊」の名がつけられたといいます。

 この「くま」は、ハワイ語の

  「クマ」、KUMA((Hawaii)=hakuma=pock-marked,ravaged,dark)、「あばた面の(または黒い虫)」

の転訛と解します。

 

815わしわし

 

 福岡方言で「くまぜみ」を「わしわし」といいます。

 この「わしわし」は、マオリ語の

  「ワチ・ワチ」、WHATI-WHATI(be broken off,turn and go away,flee)、「突然鳴くのを止めて飛び去る(虫)」

の転訛と解します。(鳥類の「鷲(わし)」については、643わし(鷲)を参照してください。)

816へぼ(地蜂)・へぼ飯

 「へぼ」は、中部方言で地蜂(または土蜂、蜜蜂)を指し、蟻地獄(福井方言)、とんぼ(九州方言)を指すこともあります。

 岐阜県恵那郡および長野県伊那郡などの山村には、真綿の小片をつけた餌を運ぶ地蜂を追跡して、地蜂の巣を煙で燻して採取した幼虫を佃煮のように煮てご飯に混ぜて食べる「へぼ飯」という郷土食があります。

 この「へぼ」は、

  「ヘ・ポ」、HE-PO(he=troublous,difficulty;po,popo=crowd round,smoulder,soothe,lullaby)、「(地中の地蜂の巣を)煙で燻す(幼虫を取る)のが・なかなか難しい(地蜂。その幼虫の料理)」

の転訛と解します。

 なお、「へぼ」には、(1)「技量が拙劣なこと、平凡なことなど」、(2)「(うらなりや出来の悪い)茄子・瓜など」(千葉・神奈川・宮城方言)、(3)「水疱瘡、とびひ」(東北方言)、(4)「赤ん坊」(新潟方言)などの意味もあります。

 これらのうち(1)から(3)までは「ヘ・パウ」、HE-PAU(he=troublous,difficulty;pau=consumed,denoting the complete or exhaustive charactor of any action)、(1)「完璧な行動をとることが・難しい(人間)」、(2)「完全な生育を遂げることが・難しかった(野菜・果物)」、(3)「(体力を)消耗する性質の・(治療が)難しい(病気)」(「パウ」のAU音がO音に変化して「ポ」から「ボ」となった)と解され、(4)は上記の「へぼ(地蜂)」と同じ語源で「あやしたり、寝かしつけるのが・難しい(赤ん坊)」と解されます。

817かいこ(蚕)・まゆ(繭)・まよ(繭。古形)・けご(毛蚕)・さなぎ(蛹)

 蚕は、絹糸をつくるカイコガの幼虫で、卵から孵化したばかりの幼虫をけご(毛蚕・蟻蚕とも)といい、5回の眠と脱皮を繰り返しながら、ひたすら桑葉を食べて成長し、最後に上簇して繭を作り、その中で蛹となります。カイコの飼育は中国ではじまり、3世紀半ばには日本で養蚕が行われ(『魏志倭人伝』)、紀元前1世紀ごろの墓から絹織物の残片が発見されています。

 「かいこ」の語源は、@クハコ(桑子)を飼う義、カヒコ(粮子)の義、カヒコ(養子)の(義)、Aカヒクハ(飼桑)の転、Bカヒコモリ(貝籠)の転との説が、「まゆ」の語源は、@形が人の眉に似ているから、Aマユフ(真木綿)の義、Bマは接頭語、ユはイの転で蚕の尻から粘質の糸状のものをいうなどの説が、「さなぎ」の語源は、@サナキ(鐸)に見立てたもの、振れば中で音がするから、Aウセナカコモリ(亡中籠)の義との説があります。

 この「かいこ」、「まゆ(まよ(まゆの古形))」、「けご」、「さなぎ」は、

  「カイ・カウ」、KAI-KAU(kai=eat;kau=alone,only)、「ひたすら・(桑葉を)食べる(虫。蚕)」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

  「マイ・ウ」、MAI-U(mai=become quiet;u=be firm,be fixed)、「(蚕が桑葉を食べるのをやめて)静かになると・(場所を決めて)作るもの(蛹)」(「マイ」の語尾のI音と「ウ」のU音が連結して「マユ」となった)および<古形>「マイ・アウ」、MAI-AU(mai=become quiet;au=firm,intense)、「(蚕が桑葉を食べるのをやめて)静かになると・(場所を決めて)作るもの(蛹)」(「マイ」の語尾のI音と、「アウ」のAU音がO音に変化したそのO音が連結して「マイオ」から「マヨ」となった)
(なお、人の眉(まゆ。古形まよ)は、「マ・アイ・フ」、MA-AI-HU(ma=white,clean;ai=beget;hu=promontry,hill)、「清らかに・高まりとなって・生成したもの(眉)」(「マ」のA音が「アイ」の語頭のA音と連結して「マイ」となり、その語尾のI音が「フ」のH音が脱落した「ウ」のU音と連結して「マユ」となった)および<古形>「マ・アイ・イホ」、MA-AI-IHO(ma=white,clean;ai=beget;iho=up,above)、「清らかに・(目の)上に・生成したもの(眉)」(「マ」のA音が「アイ」の語頭のA音と連結して「マイ」となり、その語尾のI音が「イホ」のH音が脱落した「イオ」のIO音と連結して「マイオ」から「マヨ」となった)の転訛と解します。以上眉については国語篇(その三)の第2の眉の項を再掲しました。)

  「ケ・(ン)ガウ」、KE-NGAU(ke=different,strange;ngau=bite,hurt,attack)、「小さくて奇妙な・(桑葉を)食べる(虫。毛蚕)」(「(ン)ガウ」のNG音がG音に、AU音がO音に変化して「ゴ」となった)

  「タハ(ン)ガ・ア(ン)ギ」、TAHANGA(naked,empty)-ANGI(free,without hindrance,float)、「(虫が殻を)脱ぎ捨てて・(自由になる)外へ出てくるもの(蛹)」(「タハ(ン)ガ」のH音が脱落し、NG音がN音に変化して「タナ」から「サナ」となり、その語尾のA音と「ア(ン)ギ」の語頭のA音が連結し、NG音がG音に変化して「サナギ」となった)

の転訛と解します。

(4) 鉱物名

 

901さば(砂婆)

 

 「風化した花崗岩」の意で、「902そうけい(藻珪)」と同じですが、愛知県西加茂郡小原村東郷地区をはじめ三河地区での呼び方で、商品名になっています。タイルなどセラミック製品の原料として愛知県瀬戸地区、岐阜県多治見地区、滋賀県信楽地区の窯業工場で使用されています(通商産業省地質調査所『地質ニュース』554号、2000年10月号による)。

 この「さば」は、マオリ語の

  「タパ」、TAPA(pulverise soil,chapped)、「粉々になった(土、石)」

の転訛と解します。

 

902そうけい(藻珪)

 

 「風化した花崗岩」の意で、「901さば(砂婆)」と同じですが、愛知県西加茂郡小原村東郷地区に隣接する岐阜県恵那郡明智町阿妻地区をはじめ美濃地区での呼び方で、商品名になっています。901さば(砂婆)と同じく、タイルなどセラミック製品の原料として愛知県瀬戸地区、岐阜県多治見地区、滋賀県信楽地区の窯業工場で使用されています(通商産業省地質調査所『地質ニュース』554号、2000年10月号による)。

 この「そうけい」は、マオリ語の

  「トウケケ」、TOUKEKE(churlish)、「粗く(砕けている石)」

の転訛(語尾のK音が脱落し、E音がI音に変化して「トウケイ」となった)と解します。

 

903どたん(土丹)

 

 土丹は、鎌倉方言で、「破砕泥岩」をいいます。中世の鎌倉の小路(こうじ)は、すべて土丹を敷いて突き固めてあつたようです。一種独特の舗装が施されていたのです(『ものがたり 日本列島に生きた人たち』第2巻の「2 ある郎党等の鎌倉暮らし(河野真知郎)」による、岩波書店、2000年)。

 この「どたん」は、マオリ語の

  「タウタ(ン)ガ」、TAUTANGA(alighting)、「(路面に)敷き込む(もの)」(「タウタ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がN音に変化して「トタナ」から「トタン」、「ドタン」となった)

の転訛と解します。

 

904蛙目(がえろめ)粘土・木節(きぶし)粘土

 蛙目(がえろめ)粘土、木節(きぶし)粘土は、愛知県多治見(たじみ)市周辺で産する陶器製造に用いられる良質の粘土です。

 この「がえろめ」、「きぶし」は、

  「(ン)ガイ・エロ・メ」、NGAI-ERO-ME(ngai=tribe,clan;ero=putrid,thin,decrease;me=asif,like)、「まるで・腐っているような(軟らかい)・部類に属する(粘土)」(「(ン)ガイ」のNG音がG音に変化して「ガイ」となり、その語尾のI音と「エロ」の語頭のE音が連結して「ガエロ」となった)

  「キ・プチ」、KI-PUTI(ki=full,very;puti=dried up,cross-grained ortough of timber)、「木の節(ふし)のような・十分に(固い。粘土)」

の転訛と解します。

 

905ヨナ・黒ボク

 熊本県の阿蘇山の火山活動により噴出した火山灰およびそれが降り積もった土壌は、地元では「ヨナ」と、九州各地では一般に「黒(くろ)ボク」と呼びます。

 この「ヨナ」、「黒(くろ)ボク」は、

  「イ・アウ(ン)ガ」、I-AUNGA(i=past tense,beside;aunga=not including)、「(養分を全く)含まない(そのために有用な植物が生育しない。火山灰。その灰が降り積もった土壌)」(「アウ(ン)ガ」のAU音がO音に、NG音がN音に変化して「オナ」となり、その語頭の「オ」が「イ」と連結して「ヨナ」となった)

  「クフ・ロ・パウク」、KUHU-RO-PAUKU(kuhu=insert,thrust in;ro=roto=inside;pauku=a thick closely woven cloak of flax which when dipped in water served as a protection from spear thrusts)、「(地面の)中へ・入り込んで・水を含むと槍で突いても通さない鎧のように固くなる(火山灰。その土壌)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」と、「パウク」のAU音がO音に変化して「ポク」から「ボク」となった)

の転訛と解します。

 

906シラス・赤ホヤ

 南九州地方には農耕に適しない火山灰土壌が広く分布しますが、そのうちの「シラス」は鹿児島県姶良カルデラの爆発に伴い噴出した軽石を主体とする土壌で、「赤(あか)ホヤ」は鹿児島県南方の鬼界カルデラの爆発に伴い噴出したガラス質火山灰を主体とする土壌です。

 この「シラス」、「アカホヤ」は、

  「チラ・ツ」、TIRA-TU(tira=row,fin of fish,bundle,make into a bundle;tu=fight with,energetic)、「熱心に・荷物をつくる(非常に強く・凝り固まる性質を持つ。火山灰土壌)」

  「アカ・ホイア」、AKA-HOIA(aka=long and thin roots of trees or plants;hoia=wearied,annoyed)、「(樹木や作物の)長くて細い根を・困らせる(根が地中に延びるのを妨げる。火山灰土壌)」

の転訛と解します。

 

907コラ・ボラ

 鹿児島県開聞(かいもん)岳から噴出した火山灰は、薩摩半島南部から大隅半島まで広い範囲に堆積し、「コラ」と呼ばれています。なお、南九州一帯に分布する軽石は、通常「ボラ」と呼ばれています。

 この「コラ」、「ボラ」は、

  「コラ」、KORA(small fragment,spark,fire)、「細かな(灰)」

  「ポラ」、PORA(large sea-going canoe,stranger,floor mat,a white stone)、「(一種の)白い石」

の転訛と解します。

 

908ジャーガル(土壌)

 沖縄県屈指の農業地帯である東風平(こちんだ)町に広がる土壌は、ジャーガルと呼ばれる泥灰岩の風化した肥沃な土壌です。

 この「ジャーガル」は、

  「チア(ン)ガ・ル」、TIANGA-RU(tianga=mat to lie on,a flax basket;ru=shake,scatter)、「(大地に)敷物を・敷き散らしたような(大地を覆っている。土壌)」(「チア(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「チアガ」から「ジャーガ」となった)

の転訛と解します。

 

909紅殻(べんがら)

 紅殻は、代赭(たいしゃ)、インド赤、ベネチアン赤、ターキー赤、血朱、鉄朱、鉄丹とも呼ばれる酸化鉄を主体とする赤色無機顔料です。塗料・ガラスなどの研磨剤として古くから広く用いられました。

 この名は、インドのベンガルに産したからという説があります。

 この「べんがら」は、

  「ペナ・(ン)ガラフ」、PENA-NGARAHU(pena=like that,treat in thatway;ngarahu=charcoal or any black pigment,cinders)、「(顔料の)木炭(の粉)に・類似した顔料」(「ペナ」が「ペン」から「ベン」に、「(ン)ガラフ」のNG音がG音に変化し、語尾の「フ」が脱落して「ガラ」となった)

の転訛と解します。

 

(5) 機械器具・日用品名

 

1001たかせぶね(高瀬舟)

 

 森鴎外の短編小説に「高瀬舟」があります。今はほとんど見ることができなくなりましたが、昭和のはじめごろまでは、この川舟は、全国の河川、湖沼や海浜におけるかなり主要な人や貨物の輸送手段でした。

 この高瀬船は、古代から河川を中心に用いられた喫水の浅い平底の小舟です。高瀬舟と類似したものに「1006ひらたぶね(平駄舟)」があります。近世以後、高瀬舟は川舟の代表として、各地の河川で見られるようになり、大きさも小は5石積みから大は200〜300石積みに至るまでさまざまで(京〜伏見の高瀬川のものは15石積み、利根川水系のものは200石積みなど)、就航河川の状況に応じて船型・構造を異にしました。

 この「たかせ」は、マオリ語の

  「タカ・テ」、TAKA-TE(taka=go or pass round,turn on a pivot;te=crack)、「割れ目(川)を動き回る(川舟)」

の転訛と解します。

 

1002ちゃぶね(茶舟)

 

 関東地方、とくに東京湾周辺では、川から海(東京湾周辺)の貨物輸送に、高瀬舟よりもやや大型の「茶舟」とよばれる舟が使われていました。平底で、おおむね10石(ないしそれ以上)積みが標準とされたようです。

 この「ちゃ」は、マオリ語の

  「チ・イア」、TI-IA(ti=overcome,throw,cast;ia=current,rushing stream)、「激流を乗り切ることができる(舟)」

の転訛と解します。

 

1003ごだいりき(五大力)

 

 関東地方、とくに東京湾周辺では、川から海(東京湾周辺)の貨物輸送に、茶舟よりもさらに大型の「五大力」とよばれる舟が使われていました。

 和船ですが、平底ではない北前船などに似た海船形式で、帆を持ち、帆走ができない場所では海船と異なり船縁に棹走り用の縁があり、長さ9〜20メートル、幅3〜6メートル、50石から150石積み程度のものでした。一般の大型の廻船は、沖懸かりして瀬取(せとり)船に荷物を積み替えますが、この五大力は積み替えの必要がない小回りのきく廻船でした。

 江戸時代に江戸と木更津を結んでいた木更津船は、広重の版画(「上総木更津」)にある通り、この五大力船であったようです。

 この「ごだいりき」は、マオリ語の

  「(ン)ガウ・タイ・リキ」、NGAU-TAI-RIKI(ngau=bite,hurt,attack;tai=the sea,tide,wave;riki=small,few)、「(外洋の)潮流を乗り切ることができる小さい(船)」(「(ン)ガウ」のNG音がG音に変化し、AU音がO音に変化して「ゴ」となつた)

の転訛と解します。

 また、この五大力は、関西でも元禄ごろには使われていたようです。

 なお、和船には、船型を示す名称として、(1)「関(せき)船」(早(はや)船とも。小型のものは「小早」という。細長い船型のもの)と(2)「弁才(べざい。弁財とも)船」(荷物輸送を主とし、幅の広いずんぐりした船型のもの)の二つがあり、五大力を弁才船と同義で用いている例があります。

 ちなみに、長唄や歌舞伎にでてくる「五大力」は、「五大力菩薩」の略で、当時手紙の封じ目にこの三字を書くと菩薩の加護で無事に届くと信じられていました。この五大力も上記と同様の意味として解釈することができます。

 

1004べざいぶね(弁才船)

 

 江戸時代に瀬戸内海を中心に発達し、次第に全国に広まった外洋航行に適した船型、構造の大型の帆船を「弁才船」といいます。いわゆる千石船をはじめ、桧垣廻船、樽廻船や、後期以降の北前船は、次第に大型化し、2千石積みをこえるものも出現したといわれます。

 弁材の由来は、舳(へさき)の「へ」が「在」る船だからという説があります。

 この「べざい」は、マオリ語の

  「ペ・タイ」、PE-TAI(pe=crushed;tai=the sea,tide,wave)、「波浪を砕く(海船)」

  または「パイ・タイ」、PAI-TAI(pai=excellent,suitable,good-looking;tai=the sea,tide,wave)、「波浪(を乗り切るのに)に適した(船型の海船)」(「パイ」のAI音がE音に変化して「ペ」となった)

の転訛と解します。

 

1005せきぶね(関船)

 

 平安中期以降瀬戸内海の要所を抑えた海賊が一般船舶から関銭(せきせん。通航料)を徴収し、その代償として航路の安全を保証しましたが、そのために用いられた細長い船型をもつ船足の早い小型船を関船といいました。

 のち戦国時代以降に大型化した軍船も関船というようになりました。

 この「せき」は、マオリ語の

  「テキ」、TEKI(scrape lightly,graze,drift with the anchor down but not touching the bottom;outer fence of a stockade)、「(波の上を)滑るように進む(海船)」

の転訛と解します。(上記の「テキ」には、「居住地の外側の境界」、転じて「関所」、「関所で使用する船」という意味もありますが、一般名称としてはこのように「快速船」と解すべきでしょう。)

 

1006ひらたぶね(平駄舟)

 

 江戸時代仙台藩領であった石巻(いしのまき)湊は、牡鹿半島の付け根、北上川の河口に発達した湊で、江戸時代には奥州第一の湊といわれました。中世には「牡鹿湊(おしかみなと)」、「牡鹿津」と呼ばれていましたが、元和年間(1615〜24年)伊達政宗が北上川の流路を付け替え、本流を石巻に南下させ、江戸廻米の積出港としたのに伴って大きく発展しました。(石巻の地名については、地名篇(その二)の宮城県の(9)石巻湊の項を参照して下さい。)

 この北上川の水運で用いられた川舟は、小型のものは高瀬舟、大型のものは平駄(ひらた)舟といい、河口で外洋航行用の「天当(てんとう)船」に積み替えられて江戸、あるいは関西などへ向かいました。

 このような状況は、阿武隈川水運でも全く同じでした。

 この平駄舟は、関西にも古くからあったようです。

 この「ひらた」は、マオリ語の

  「ヒラ・タ」、HIRA-TA(hira=widespread,great,numerous;ta=stem,stalk)、「胴の幅が広い(川舟)」

の転訛と解します。

 

1007てんとうぶね(天当船)

 

 北上川、阿武隈川水運で用いられた外洋航行用の船を「天当(てんとう)船」といいました。

 これは近世から近代にかけて日本の各地で最も広く使用されていた和船(平凡社『世界大百科事典』による)で、「天刀」、「天道」、「伝道」などとも記されています。大きさはまちまちで、漁船よりは運搬船として使用されました。

 この「てんとう」は、マオリ語の

  「テナ・タウ」、TENA-TAU(tena=encourage,urge forward;tau=bundle)、「荷物を(目的地へ)押し出す(運ぶ海船)」(「テナ」の語尾のA音が脱落して「テン」と、「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」となった)

の転訛と解します。

 

1008にたりぶね(荷足船)

 

 東京湾、相模湾あたりで使われていた小型の和船で、五大力船よりは小さく、猪牙(ちょき)船よりは大きい船を「にたりぶね(荷足船)」といいました。

 東京湾では桁曳(けたひき)漁にも使用されましたが、主として荷船として使用されました。幅が狭く、船足が比較的速いため、飛脚船としても使用されたといいます。

 この「にたり」は、マオリ語の

  「ヌイ・タリ」、NUI-TARI(nui=large,many;tari=carry,bring)、「大量の荷物を輸送する(船)」

の転訛と解します。

 

1009ちょきぶね(猪牙船)

 

 瀬戸内海を中心に、西は北九州から東は太平洋岸を回って東京湾に至る広い海域に分布していた和船に「ちょきぶね(猪牙船)」がありました。

 このうち瀬戸内海や有明海でいう「ちょきぶね」は50〜60石積みの大型運搬船でしたが、多くは長さ6〜7メートル、幅1.3メートル程度の小型の軽快な船でした。多くはやはり運搬船、漁船として使われましたが、江戸ではこれがもっぱら吉原通いの船として使われました。

 「ちょき」とは、(1)その形が猪の牙に似るから、(2)「さく(舟偏に乍。舟の意)」の転訛、(3)「長吉(ちょうきち)という者、鮮魚を諸浦より江戸に漕す押送り船を模して薬研形の小舟を作り、長吉舟と号(なづ)く」(喜田川守貞『近世風俗志』岩波文庫)などの説があります。

 この「ちょき」は、マオリ語の

  「チ・ハウ・キ」、TI-HAU-KI(ti=throw,cast;hau=eager,brisk,seek,vitality of man;ki=full,very)、「男らしさを十分に見せつけるように活発に動き回る(船)」(「チ」と「ハウ」のH音が脱落し、AU音がO音に変化した「オ」が連結して「チョ」となった)

の転訛と解します。

 

1010べかぶね(べか舟)

 

 山本周五郎『青べか物語』に登場する「べかぶね」は、「(1)海苔採集に用いる、薄板で造った小舟。一人乗りで、艫(とも)部に縛りつけた櫂(かい)で漕ぐ。(2)川船の一。薄板で造り、江戸時代利根川支流などで水運に用いた。」(岩波書店『広辞苑』第四版)ものです。

 この「べか」は、マオリ語の

  「ペカ」、PEKA(branch of a river or tree,firewood,turn aside)、(1)「小回りが効く(小さい舟)」または(2)「川の支流(小水路で使う・舟)」

の転訛と解します。

 

1011酒(さけ)・みき(御酒)・みわ(神酒)・くし(酒の古称)・ささ(酒の古称)・どぶろく(濁酒)・こうじ(糀)・もろみ(諸味)・とうじ(杜氏)

 酒(さけ)は、エチルアルコールを含みそれを飲むと酩酊する飲料で、日本の在来酒を指し、古来「き」(神に供える「みき(御酒。神酒)」)、みわ(神酒)、「くし(酒の古称)」、「ささ(酒の古称)」などとも呼ばれました。酒には、清酒、どぶろく(濁酒)があり、蒸した米に米こうじ(糀)を加えて発酵させたもろみ(諸味)を搾ってつくります。

 とうじ(杜氏)は、農漁村出身の酒造季節労働者またはその季節労働者を指揮して酒蔵で清酒を醸造する最高責任者です。

 「さけ」の語源は、(1)「シルケ(汁食)」の転、(2)米から醸造して清したから「スミケ(清食)」の転、(3)主として神に供した「サケ(栄饌)」から、(4)「サケ(早饌)」の義、(5)「スミキ(澄酒)」の約、(6)「サカエ(栄)」の義、(7)「サカミズ(栄水)」の下略、(8)風寒邪気を避ける「サケ(避)」の義、(9)暴飲すれば害となるので「サケ(避)」の義などとする説があります。

 この「さけ」、「さけ」、「みき」、「みわ」、「くし」、「ささ」、「どぶろく」、「こうじ」、「もろみ」、「とうじ」は、

  「タ・ケ」、TA-KE(ta=dash,beat,lay;ke=strange,different)、「(それを飲むと)奇妙(な気分)に・襲われる(酩酊する。飲料)」

  「ミヒ・キ」、MIHI-KI(mihi=greet,admire;ki=full,very)、「(神から下された)実に・尊い(酒)」(「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となった)

  「ミ・ワ」、MI(urine,water)-WA((Hawaii)to make a noise,roar,to talk much)、「(飲むと)口数が多くなる・水(酒。神酒)」(M音が脱落して「イワ」となつた)

  「クヒ・チ」、KUHU-TI(kuhu=thrust in,insert;ti=throw,cast,overcome)、「(呑むと)身体の中に(酔いが)回って・倒されるもの(酒)」(「クヒ」のH音が脱落して「ク」となった)

  「タタ」、TATA(beat down,strike repeatedly)、「(呑むと)酔って倒れるもの(酒)」

  「トプ・ロク」、TOPU-ROKU(topu=pair,assembled in a body;roku,rokuroku=dim)、「(ぼんやりした)濁ったものが・(本体と)一緒になっている(酒。濁酒)」

  「カウ・チ」、KAU-TI(kau=ancestor;ti=throw,cast,overcome)、「(酒の先祖となる)もとが・混ぜられたもの(糀)」(「カウ」のAU音がOU音に変化して「コウ」となった)

  「マウ・ロ・ミ」、MAU-RO-MI(mau=food product,carry,bring,fixed,continuing;ro=roto=inside;mi=stream,river)、「(仕込まれた原料の)米の飯が・内部まで・水のようになったもの(もろみ)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった)

  「トフ・チヒ」、TOHU-TIHI(tohu=mark,sign,company or division of any army,point out,show;tihi=summit,top,lie in a heap)、「(酒醸造の)職業集団の・最高の地位にいる人(杜氏)」(「トフ」のH音が脱落して「トウ」と、「チヒ」のH音が脱落して「チ」から「ジ」となった)(なお、酒造季節労働者も「とうじ」と呼ばれることがあり、この場合の「とうじは、「タウ・チ」、TAU-TI(tau=season,year,period of time;ti=throw,cast,overcome)、「(毎年)季節が巡ってくると・(仕事に)投入される(出稼ぎしてくる。人)」(「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」となった))

の転訛と解します。

1011-2しょうちゅう(焼酎)・あわもり(泡盛)・くうす(古酒) 

 焼酎は、16世紀に沖縄から製法が伝わった蒸留酒で、米、麦、さつまいも、雑穀のほか、酒粕・味醂粕を原料として製造され、江戸時代には極めて激烈な酒として知られ、傷口の消毒剤として広く利用されました。「焼」は加熱の意、「酎」は重醸、つくりかえした濃い酒の意とする説「榮酒」の転音とする説があります。

 泡盛は、沖縄特産の米焼酎で、15世紀にはじまったシャム(現タイ国)との交易によって製法が伝来し、沖縄を代表する酒となりました。泡盛の名は、1671年尚貞王の将軍徳川家綱への献上品目録にみえ、島津藩がその品質のよさを強調するために、移し替えの際に泡が良く立つ意で名付けたとする説、元来粟を原料としたからとする説があります。

 泡盛は、甕に入れて長期間熟成したものを「くうす(古酒)」と呼んで珍重します。南蛮渡りの甕がよいとされ、「消費しただけ新たに入れて量を減らさない」(国立国語研究所編『沖縄語辞典』による)風習があり、戦前には300年近く貯蔵したものもあったといいます。

 この「しょうちゅう」、「あわもり」、「くうす」は、

  「チオ・チウ」、TIO-TIU(tio=sharp or piercing of cold,cry;tiu=soar,wander,sway to and fro)、「(飲むと)ピリピリして(刺激があって)・ふらふらする(強い酒。焼酎)」

  「アウア・マウリ」、AUA-MAURI(aua=far advanced,at a great height or depth;mauri=life principle,source of the emotions)、「(飲むと)我を忘れて・(高いところを)さまよう(気分になる酒。泡盛)」(「アウア」が「アワ」と、「マウリ」のAU音がO音に変化して「モリ」となった)

  「クフ・ウツ」、KUHU-UTU(kuhu=thrust in,conceal;utu=return for anything,reward,make response)、「(甕に入れて)貯蔵して・(飲んだ分を)注ぎ足しておく(酒。古酒)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」となった)

の転訛と解します。

1012大舶(おほつむ)・母廬紀(もろき)船・はし船

 皇極紀元年8月条は、百済の使者の帰国に際し、大舶(おほつむ)と同船(分注は母廬紀(もろき)船とします)と計3隻を与えたとします。この母廬紀(もろき)船は「諸木船」で「多くの木材を合わせて作った船」と解されています。なお、『釈日本紀』は「同船」の別訓として「はしふね」を載せます(小学館『日本国語大辞典』)。

 この「おほつむ」、「もろき」、「はし」は、

  「オホ・ツム」、OHO-TUMU(oho=spring up,wake up,arise;tumu=promontory,contraryof wind,go against the wind)、「(舷側が)高くなっている・風に逆らって進む(ことができる。大船)」

  「モロキ」、MOROKI(continuing)、「(昔から続く)在来の(船)」または「(2隻の船を)連結した(ダブル・カヌーまたはカタマラン形式の。船)」

  「パチ」、PATI(shallow)、「浅瀬を航行する(舷側が低い。船)」(P音がF音を経てH音に変化して「ハチ」から「ハシ」となった)

の転訛と解します。

 

1013ドンコ舟

 ドンコ舟は、北原白秋の生地、水郷で知られる福岡県柳川(やながわ)市の川下り観光に用いられる幅の広い川船です。

 この「ドンコ」は、

  「ト・(ン)ガコ」、TO-NGAKO(to=drag,open or shut a door or a window;ngako=fat)、「(川を)行き来する・肥った(幅の広い。舟)」(「ト」が「ド」と、「(ン)ガコ」のNG音がN音に変化して「ナコ」から「ンコ」となった)

の転訛と解します。

(ちなみに、頭が扁平で著しく幅が広く口が大きい特徴をもつ川魚の742ドンコ(鈍甲)の語源はやや異なり、「ト(ン)ガコ」、TONGAKO(be scabbed,feste)、「皮癬(皮膚病の一種)にかかったような(斑紋がある。魚)」(NG音がN音に変化して「トナコ」から「ドンコ」となった)の転訛と解します。)

 

1014山原(やんばる)船

 山原(やんばる)船は、太平洋戦争以前に沖縄県中頭郡与那城町平安座(へんざ)島を本拠地として、沖縄近海での海上輸送を大規模に行なっていた100隻近くの船団の船です。

 この「やんばる」は、

  「イアナ・パル」、IANA-PARU(iana=intensive;paru=deep,low(paruparu=deeply laden))、「(荷物を積んで喫水が)実に・深い(船)」(「イアナ」が「ヤナ」から「ヤン」となった)

の転訛と解します。

(ちなみに、天然記念物のヤンバルクイナで有名な山原(やんばる)は、沖縄島北部の名護市・国頭(くにがみ)郡の山岳地帯を指す広域地名ですが、上記と同じ語源で、「(山が)実に・深い(地域)」と解します。)

 

1015サバニ(舟)・ウバ

 サバニ(舟)は、鹿児島県トカラ列島から南の南西諸島各地で使われていた刳り舟で、奄美大島ではウバ、徳之島ではイグリブネとも呼びました。沖縄県の糸満(いとまん)漁夫は勇敢で知られ、昔から日本各地のみならず東南アジア各地に出漁して定住し、サバニ舟と「アギャー」と呼ぶ独特の追い込み漁で活躍していました。

 この「サバニ」、「ウバ」は、

  「タパニヒ」、TAPANIHI(go stealthly)、「静かに(軽快に)動き回る(船)」(H音が脱落して「タパニ」から「サバニ」となった)

  「ウパ」、UPA(fixed,settled,at rest,satisfied(whakaupa=delay,prolong,satisfy))、「(昔から)使い続けてきた(舟)」

の転訛と解します。

1015-2反子(そりこ)舟

 島根県の中海を中心に用いられる小さい漁船を反子(そりこ)舟と呼びます。舳先が著しく高く反っていることによるとされます。台湾紅嶼島の原住民の漁船をはじめ、南方諸国には舳先・艫が高く反った漁船が多くみられ、その系統を伝えるものと考えられます。

 この「そりこ」は、

  「タウ・リコ」、TAU-RIKO(tau=come to rest,float,lie steeping in water;riko=wane)、「(舳先が高く反った)三日月が・浮かんでいる(ような形の。舟)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ソ」となった)

の転訛と解します。

1016榑木(くれき)

 榑木(くれき)(単に榑(くれ)ともいいます。)は、主として上質のヒノキ大樹から割出した木材をいい、古くは柱材でした(延暦10(791)年当時は長さ1丈2尺、幅6寸、厚さ4寸と公定されていました。)が、次第に屋根板向きに放射状に小割(いわゆる蜜柑割)した木材となったようです。

 この「くれき」は、

  「クレヘ」、KUREHE(folded,wrinkled)、「折り畳んだ(何枚も重ねて揃えて縛った。木の板材)」(H音が脱落して「クレ」となった)

の転訛と解します。

 

1017タタラ・鞴(ふいご)・赤目(あこめ)砂鉄・ズク(銑鉄)・真砂(まさ)砂鉄・ケラ(鋼)・カラミ(鉱滓)・ムラゲ(村下)・金屋子(かなやご)神

 タタラは、日本古来の代表的な砂鉄と木炭を原料とする製鉄炉で、この炉を含む製鉄設備全般または鞴(ふいご。送風器)を指すこともあります。

 タタラの操業法には、安山岩質または塩基性岩類の閃緑岩質の地層に多く産出する珪素分が少なくチタン分が多い赤目(あこめ)砂鉄からズク(銑鉄)をつくるズク押し法と、酸性岩類の花崗岩質の地層から産出する珪素分が多くチタン分が少ない真砂(まさ)砂鉄からケラ(鋼)(玉鋼を最高とする種々の品位の鋼や不純物を含みます。)をつくるケラ押し法があり、鉱滓をカラミまたはノロと呼びます。

 タタラですべての作業の指揮をとる責任者をムラゲ(村下)と呼び、製鉄に従事する者が崇敬する神を金屋子(かなやご)神と称します。

 タタラの語源は、(1)「タタクアリ・タタキアリ(叩有)」の略転、(2)踏鞴を踏んで風を送るときの音から、(3)鉱石を爛らし溶かす設備であるところから「タタ(爛)・ラ(接尾語)」からなどとする説があります。

 この「タタラ」、「赤目(あこめ)砂鉄」、「銑鉄(ずく)」、「真砂(まさ)砂鉄」、「ケラ」、「カラミ」、「ノロ」、「ムラゲ」、「金屋子(かなやご)神」は、

  「タタラ」、TATARA(loose,nutied,quick,active,distant)、「(ボウボウと)活発に(火が燃える。製鉄炉。またはその送風器)」

  「フイ・(ン)ゴ」、HUI-NGO(hui=put or add together,come togetjher,meet,double up;ngo=cry,make any articulate sound)、「叫び声を・集中させた(ような音を出す。送風器。鞴)」(「(ン)ゴ」のNG音がG音に変化して「ゴ」となった)

  「アコ・マイ」、AKO-MAI(ako=split,have a tendency to split;mai=to indicate direction or motion towards)、「(製鉄炉から)分離する(流れ出す)・性質がある(原料砂鉄)」(「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」となった)

  「ツク」、TUKU(let go,put off,send,settle down)、「(製鉄炉の中から)流れ出すもの(銑鉄)」

  「マタ」、MATA(heap,layer)、「(製鉄炉の中に)堆積する(性質がある。原料砂鉄)」

  「ケラケラ」、KERAKERA(foul,nauseous,anything rotten and putrid,filth)、「(その中にいろいろの腐ったもの)不純物(を含む鋼」(反復語尾が脱落して「ケラ」となった)

  「カラムイ」、KARAMUI(swarm upon or around)、「(そこらに群となって)堆積するもの(鉱滓)」(UI音がI音に変化して「カラミ」となった)

  「(ン)ゴ(ン)ゴ・ラウ」、NGONGO-RAU(ngongo=waste away;rau=leaf,project,extend)、「(不要物として)廃棄されて・堆積するもの(鉄滓)」(「(ン)ゴ(ン)ゴ」のNG音がN音に変化し、反復語尾が脱落して「ノ」と、「ラウ」のAU音がO音に変化して「ロむとなった)

  「ムラ・(ン)ゲ」、MURA-NGE(mura=blaze,flame;nge=noise,screech)、「(製鉄炉の)炎(の色)を見て・(部下に叫ぶ)指示をする(作業の責任者)」(「(ン)ゲ」のNG音がG音に変化して「ゲ」となった)

  「カナ・イア・(ン)ゴ」、KANA-IA-NGO(kana=stare wildly,bewitch;ia=indeed;ngo=cry,make any articulate sound)、「実に・(製鉄炉の)炎を凝視して・(部下に叫ぶ)指示をする(作業の責任者。その者が崇敬する神)」(「(ン)ゴ」のNG音がG音に変化して「ゴ」となった)

の転訛と解します。

 

1018長船(おさふね)刀鍛冶・同田貫(どうだぬき)刀鍛冶

 長船(おさふね)刀鍛冶は、備前国長船(現岡山県邑久郡長船町)を本拠地とする中世以降の日本刀の刀鍛冶を代表する鍛冶集団です。

 同田貫(どうだぬき)刀鍛冶は、慶長年間に現熊本県玉名市亀甲(かめのこう)において発祥したという映画「子連れ狼」の拝一刀が愛用することで知られる実用向きの日本刀の鍛冶集団です。

 この「おさふね」、「どうだぬき」は、

  「オタ・フネイネイ」、OTA-HUNEINEI(ota=unripe,uncooked,refuse;huneinei,hungeingei=anger,vexation,resentment)、「若さにまかせて・めったやたらに(鋼を叩いて鍛える。鍛冶工房)」(「フネイネイ」の反復語尾が脱落して「フネイ」から「フネ」となった)

  「トウ・タヌク」、TOU-TANUKU(tou=kindle,set on fire;tanuku=be strained,swallow)、「一心不乱に・(鉄を)火にかけて熱する(鍛冶工房)」(「タヌク」の語尾のU音がI音に変化して「タヌキ」となった)

の転訛と解します。

 

1019タンコ(桶職人)・バラショケ(笊)

 鹿児島県日置郡金峰(きんぽう)町は、昭和31(1956)年に阿多(あた)、田布施(たぶせ)の両村が合併した町で、江戸時代からの開田により南薩の穀倉といわれる地域に位置し、阿多の大工、木挽、タンコと呼ばれる桶職人、バラショケ(笊)作りの職人を輩出しています。

 この「タンコ」、「バラショケ」は、

  「タ(ン)ガ・コフ」、TANGA-KOHU(tanga=be assembled,row,company;kohu=hollow,concave,bent or warped so as to become concave etc.)、「桶(中が凹んだもの)を作る・人々の群れ(桶職人達)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「タン」となり、「コフ」のH音が脱落して「コ」となった)

  「パラ・チハケ」、PARA-TIHAKE(para=sediment,refuse,scraps;tihake=a kind of basket,vessel)、「(屑のような)割竹で作る・籠(ざる)」(「チハケ」のH音が脱落し、IA音がIO音に変化して「チオケ」から「ショケ」となった)

の転訛と解します。

1020梁(やな)・比彌沙伎理(ひみさきり)

梁(やな)は、川の瀬に杭を打って仕掛けた簀で魚を捕る装置です。

 『日本書紀』天武天皇4年4月条は、諸国の漁猟の方法に制限を加え、檻穽・機槍の類は禁止、4月から9月までの間比彌沙伎理(ひみさきり)・梁(やな)の設置は禁止、牛馬犬猿鶏の肉食を禁止したとあります。この「比彌沙伎理(ひみさきり)」の語は語義未詳とされ、『日本書紀通証』は「遮隙」と、『日本紀標注』は「隙挟」で隙間の狭い梁をかけて小魚までとることと、『書紀集解』は梁の傍注がまぎれたものとします。しかし、下記の解釈によれば、いわゆる「川干(かわぼし)」または「川狩(かわがり)」(川の流れを堰止めて、水を干し、その中の魚を捕獲する漁法)を指すものと考えられます。

 この「やな」、「ひさみきり」は、

  「イア・アナ」、IA-ANA(ia=current,indeed;ana=cave,denoting continuance of action or state)、「川の流れが・続いているよう(に見せかけた魚を捕る仕掛け)」(「イア」の語尾のA音と「アナ」の語頭のA音が連結して「ヤナ」となった)

  「ヒ・ミ・タキリ」、HI-MI-TAKIRI(hi=raise,rise;mi=stream,river;takiri=loosen,spread out food,open the receptacles containing it,draw away suddenly,snare with a noose and long string)、「(川の中に石を積むなどして水を堰き止め)水位を・高くして・(その下流を乾上がらせて川底に)散らばった魚を捕る(漁法)」

の転訛と解します。(古典篇(その十四)の天武紀の240H12比彌沙伎理(ひみさきり)の項を参照してください。)

 

1021柱(はしら)・通し柱(とおしばしら)・管柱(くだばしら)・大黒柱(だいこくばしら)

 通常建築や土木構造物で上部の荷重を支える垂直部材を柱(はしら)といいます。日本建築では、一、二階を一本で通す通し柱(とおしばしら)と、一階と二階を別々に立てる管柱(くだばしら)を区別します。

 また、民家の中心にある太い柱を大黒柱(だいこくばしら)と呼んで大事にする風習があります。大黒柱に大黒様を含めて神様を祀る習俗は殆ど見られませんが、その根元に銅銭が挟まれている例が稀に見られます(このことは上棟祭の際に屋根裏の大黒柱の上部に棟札を付けて家屋の無事息災を祈る習俗との関連を窺わせます)。

 この「はしら」、「とおし」、「くだ」、「だいこく」は、

  「ハ・チラ」、HA-TIRA(ha=what!;tira=mast of a canoe)、「何と・(船の)帆柱のような(家の柱)」または「パ・チラ」、PA-TIRA(pa=screen or blockade or anything used to close or block an open space;tira=mast of a canoe)、「(集落の外周に立てられた)柵のように林立した・(船の)帆柱のような(家の柱)」(「パ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハ」となつた)

  「ト・オチ」、TO-OTI(to=drag;oti=finished)、「(一階から二階までを)引っ張り・終えた(通した。柱)」

  「クフ・タ」、KUHU-TA(kuhu=insert,thrust in;ta=dash,lay)、「(一階と二階、二階と屋根の)間に挿入して・据えた(柱。管柱)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」となった)

  「タイ・コクフ」、TAI-KOKUHU(tai,taitai=dash,knock,perform certain ceremonies to remove tapu etc.;kokuhu=insert)、「(穢れを祓う)お祓いを行って・挿入して据えた(柱。大黒柱)」(「コクフ」のH音が脱落して「コク」となった)

の転訛と解します。

1022屋根(やね)

 雨露をしのぐために家屋の最上部に設けた覆いを屋根といいます。

 この「やね」は、

  「イ・アネアネ」、I-ANEANE(i=past tense,beside;aneane=sharp)、「(鋭く)尖って・いるもの(屋根)」(「アネアネ」の反復語尾が脱落して「アネ」となり、「イ」のI音と「アネ」の語頭のA音が連結して「ヤネ」となつた)(縄文時代の最初の住居は円形の竪穴式で、その竪穴の周囲に埋め込んだ柱の先端を結束してその上に茅等の草を葺いた円錐形の屋根が始まりであったと考えられます。)

の転訛と解します。

1023瓦(かわら)

粘土を一定の形に成形し、焼成したものを「瓦(かわら)」といい、寺院建築とともに中国から伝来し、現在では屋根葺き材の主流となっています。

 この「かわら(かはら。旧かな遣い)」の語源は、サンスクリツトのカパーラ(皿、鉢、頭蓋などの意)から、「瓦磚」の別音カハにラを添えたもの、カワラ(亀甲)の意、カハラ(甲冑)の意、屋上の皮の意、土を焼いて板に変えることからカハルの転、固くて割れやすいところからなどの説があります。

 この「かわら」は、

  「カウワラ(ン)ギ」、KAUWHARANGI(porched,dry)、「(火で)焼いた(屋根材。瓦)」(WH音がW音またはH音に変化し、語尾のNGI音が脱落して「カウワラ」または「カウハラ」から「カワラ(カハラ)」となった)

の転訛と解します。

 なお、「柿(こけら)葺」については、雑楽篇(その一)の251柿(こけら)葺の項を参照してください。

1024棟(むね)・棟(ぐし)・千木(ちぎ)

 屋根の最も高い所、稜線をなす部分を「棟(むね)」といいます。関東・東北地方では茅葺き・藁葺きの棟の部分を木や竹で作ったものを「ぐし」と呼んでいます。

 なお、神社建築では、大棟の上に千木(ちぎ)・鰹木(かつをぎ)を飾ります。

 この「むね」、「ぐし」、「ち(千)」は、

  「ムフ・ネイ」、MUHU-NEI(muhu=grope,overgrown with vegetation;nei=to denote proximity to or connection with,to indicate continuance of action)、「草が繁茂・している場所(棟)」(「ムフ」のH音が脱落して「ム」と、「ネイ」が「ネ」となつた)(最近まで地方の草葺き屋根の最上部に草花が生えて(生やして)いることはごく一般的な風景でした。)(なお、「むね(胸)」は、古くは「むな(胸)」で、「ムナ」、MUNA(tell or speak privately,chat,secret,beloved)、「秘密(を納めておく場所。胸)」の転訛と解します。また、「むね(胸)」は、「ム・ウネネ」、MU-UNENE(mu=silent,murmur at;unene=beg importunately)、「断ち切れない思いを・(自分自身に)問いかけるもの(胸)」(「ム」のU音と「ウネネ」の語頭のU音が連結し、反復語尾が脱落して「ムネ」となった)と解することができます。)

  「(ン)グ(ン)グ・チ」、NGUNGU-TI(ngungu,whakangungu=defend,protect;ti= tyrow,cast)、「(棟の部分から雨水が侵入して腐るのを)防ぐ(保護するための木竹が)・取り付けてある(棟。ぐし)」(「(ン)グ(ン)グ」のNG音がG音に変化し、反復語尾が脱落して「グ」となった)

  「チヒ」、TIHI(summit,top,lie in a heap)、「(屋根の)一番上にある(飾り木)」

の転訛と解します。なお、「鰹木(かつをぎ。堅魚木)」の「かつを」については、古典篇(その十)の221H15都摩杼比の項を参照してください。

1025梁(はり)

 家屋の上部からの荷重を支えるため、あるいは柱を連結・補強するための横材を「梁(はり)」と呼びます。

 この「はり」は、

  「ハリ」、HARI(carry,bear)、「(屋根の重みを)担うもの(梁)」(「針(はり)」も同じ語源で「(糸を)運ぶもの(道具。針)」と解します。)

の転訛と解します。

1026壁(かべ)・網代(あじろ)壁

家の四方を囲い、また室内の隔てとするものを「壁(かべ)」といいます。日本建築の壁には、板壁、土壁、貼付壁、茅壁、網代(あじろ)壁(檜皮や竹などを網代に組んで壁としたもの)、石壁など各種のものがあります。 

 この「かべ」、「あじろ」は、

  「カハ・アパイ」、KAHA-APAI(kaha=strong,strength,persistency;apai=front wall of a house)、「(家の)正面の壁が・(周囲に)延長したもの(家の壁)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となり、その語尾のA音と「アパイ」の語頭のA音が連結し、AI音がE音に変化して「カペ」から「カベ」となった)

  「アチ・ラウ」、ATI-RAU(ati=descendant,clan:rau=catch as in a net,gather into a basket)、「(魚などを)捕らえるもの(網)・と同じ種類のもの(網代)」(「ラウ」のAU音がO音に変化して「ロ」となった) 

の転訛と解します。

1027戸(と)・扉(とびら)・蔀戸(しとみど)・妻(つま)入り・平(ひら)入り

 家の出入り口およびそこに設けられた開閉のできる建具を「戸(と)」呼びます。広義では、窓、戸棚、門、乗り物の乗降口に設けられる可動のものを含みます。

 平安時代の『和名抄』では屋堂にあるものを戸、門にあるものを「扉(とびら)」と区別しますが、現在では通常引き戸に対して回転式の開き戸を扉と呼んでいます。扉と異なり水平方向に回転軸を持つものが寝殿造りにおける「蔀戸(しとみど)」です。「蔀(しとみ)」は、日除け、覆いの意と解されています。

 家屋の棟の妻(つま)方向に出入口を設けてこれを正面とするのを「妻(つま)入り」、これと直角方向に出入口を設けてこれを正面とするのを「平(ひら)入り」と呼びます。 

 この「と」、「とびら」、「しとみど」、「つま」、「ひら」は、

  「ト」、TO(drag,open or shut a door or a window)、「(引いて)開閉するもの(戸)」

  「トピ・ラ」、TOPI-RA(topi=shut as the mouth or hand;ra=wed,intensuve particle)、「(二枚の板が)結合して・(開口部を)閉ざすもの(扉)」

  「チトフ・ミイ・ト」、TITOHU-MII-TO(titohu=show,display;(Hawaii)mii=good-looking;to=drag,open or shut a door or a window)、「外観を・綺麗に見せる・戸」(「トフ」のH音が脱落して「ト」と、「ミイ」の連続母音が短縮して「ミ」となつた)

  「ツ・マ」、TU-MA(tu=stnd,settle;ma=white,faded,clean)、「(そこで屋根が)消える(無くなる)・場所に位置する(横に延びる屋根の端の場所。妻)」(衣服の「褄(つま)」も同じ語源です。)

  「ヒラ」、HIRA(numerous,great,widespread)、「(屋根が横に)長く延びる(場所。平)」

の転訛と解します。

1028窓(まど)・狭間(はざま)

 「窓」は、採光または通風の目的で壁、屋根に設けられた開口部をいいます。また、城郭の櫓、門、塀にあけられた防御用の「狭間(はざま)」も窓の一種です。

 この「まど」、「はざま」は、

  「マハ・ト」、MAHA-TO((Hawaii)maha=temple,side of the head;to=drag,open or shut a door or a window)、「(こめかみの位置にある)家の脇の高い所にある・(開閉する)戸(窓)」(「マハ」のH音が脱落して「マ」となった)

  「ハタタ・マハ」、HATATA-MAHA(hatata=blustering;maha=many,abundant)、「執拗な・脅かし(のための。窓)」(「ハタタ」の反復語尾が脱落して「ハタ」から「ハザ」とにった)(地名の桶狭間(おけはざま)については地名篇(その十七)の愛知県の(9)智多郡のb桶狭間の項を参照してください。)

の転訛と解します。

1029襖(ふすま)

 「襖」は、木製格子の両面に厚紙または布を貼り、周囲に木の枠を付けた引き違い建具をいいます。平安時代には障子の一種として扱われ、室町時代以降襖障子または唐紙障子と呼ばれました。 

 襖は、紙衾(かみふすま)に似るから、衾に代えて寒さを凌ぐから、衾を広げるように貼るから、臥す間立ての略、臥所の障子の意などとする説があります。

 この「ふすま」は、

  「プツ・ウマ(ン)ガ」、PUTU-UMANGA(putu=lie in a heap,lie one upon another,swell,increase(putuputu=close together,closely woven etc.);umanga=pursuit,custom,habituated)、「(両側から)合わせて閉める・ことを通常の用法とするもの(建具。襖)」(「プツ」のP音がF音を経てH音に変化して「フツ」から「フス」となり、その語尾のU音と「ウマ(ン)ガ」の語頭のU音が連結し、語尾のNGA音が脱落して「フスマ」となつた)

の転訛と解します。

 なお、寝具の衾(ふすま)も同じ語源で「(身体の)上に掛ける・ことを通常の用法とするもの(寝具。衾)」の意と、小麦粉の製粉などの際にできる副産物の麩(ふすま。穀物の表皮および胚などの屑)も同じ語源で「(製粉に伴って見掛けの容量が)膨れ上がる・ことが通常であるもの(麩。正しくは麦扁に皮)」の意と解します。

 また、継体天皇皇后の手白香皇女の衾田(ふすまだ)墓については古典篇(その十一)の226E1手白香皇女の項を参照してください。

 さらに、平安・鎌倉時代に朝廷が重罪人(主として悪僧)を捕らえさせるために発した宣旨を「衾宣旨(ふすまのせんじ)」といいました。この「衾」は、衾が身を覆うように上から罪人を覆い捕らえるための宣旨の意、または衾は死者に着せる経帷子のことで死罪にあたる重罪人の追捕のための宣旨の意ではないかとする説があります。この「ふすま」は、「フ・ツマ」、「HU-TUMA(hu=desire;tuma=challenge(whakatuma=defiance))、「(朝廷に)反抗した(罪人の)・(追捕を)要求する(命令)」と解します。

1030障子(しょうじ)・衝立(ついたて)・屏風(びょうぶ)

 障子は、古くは戸、衝立、襖などの総称でしたが、現在では鎌倉時代以降普及した明障子(あかりしょうじ)を指します。 

 屏風は風を屏(ふせ)ぐもので、「びょう」は屏の呉音とされます。

 この「しょうじ」は、

  「チハオ・チ」、TIHAO-TI(tihao=surround;ti=throw,cast)、「(人の居所、寝所を)囲むように・置くもの(障子)」(「チハオ」のH音が脱落し、AO音がOU音に変化して「チョウ」から「ショウ」となった)または「チホ・オチ」、TIHO-OTI(tiho=flaccid,soft;oti=finished,gone or come for good)、「(重くて固い襖に対して)軽くて柔らかに・仕上がった(建具。明障子)」(「チホ」のH音が脱落して「チオ」から「ショ」となつた)

  「ツヒ・タタイ」、TUHI-TATAI(tuhi=draw,adorn with painting;tatai=arrange,adorn)、「絵(または書)を描いた(書いた)もので・(室内を)飾るもの(衝立)」(「ツヒ」のH音が脱落して「ツイ」と、「タタイ」のAI音がE音に変化して「タテ」となった)

  「ピハオ・オプ」、PIHAO-OPU(pihao=surround;opu=set)、「(人の居所、寝所を)囲むように・置くもの(屏風)」(「ピハオ」のH音が脱落し、AO音がOU音に変化して「ピョウ」から「ビョウ」となった)

の転訛と解します。

1031暖簾(のれん)

 暖簾は、出入口にかける布で、平安時代には幌(とばり)といったものが、室町時代以降禅林用語として、禅堂の入り口に夏かける涼簾に対し、冬季に寒さを防ぐためかける布をいう暖簾(なんれん。のうれん)の語が一般化したとする説があります。近世には商家の日除けと看板を兼ねた外暖簾と、室内の内暖簾として盛んに使われ、商店の象徴、営業権を意味するようになりました。

 この「のれん」は、

  「(ン)ガウ・ラエ(ン)ガ」、NGAU-RAENGA(ngau=bite,hurt,attack;rae=forehead,temple(raenga=point of land))、「額(ひたい)で・払いのける(もの。暖簾)」(「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」と、「ラエ(ン)ガ」のAE音がE音に、NG音がN音に変化して「レナ」から「レン」となつた)

の転訛と解します。

1032床(ゆか)

 家屋の下部にあってその上に人がのり、物を置き、生活をするために設けられた平らな面を床といいます。

 この「ゆか」は、

  「イ・ウカ」、I-UKA(i=past tense,beside;uka=hard,be fixed(ukauka=bear,support,sustain))、「(人や物をその上に)載せて・いるもの(床)」

の転訛と解します。

1033簀の子(すのこ)

 奈良から平安時代には「簀の子敷き」・「簀の子縁」とは、当時の規格では方4寸の木材を水はけを良くするために間隔を開けて敷きならべたものをいいました。現在台所や流し、浴室などに用いる「簀の子」はこの張り方によるものです。

 この「すのこ」は、

  「ツ・(ン)ガウ・コ」、TU-NGAU-KO(tu=fight with,energetic;ngau=bite,hurt,attack;ko=to give emphasis)、「実に・たくさん・(食いちぎられて)隙間が空いているもの(簀の子)」(「ツ」が「ス」と、「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」となつた)または「ツ・(ン)ゴコ」、TU-NGOKO(tu=fight with,energetic;ngoko=itch,tickle)、「盛んに・(足の裏を)刺激するもの(簀の子)」(「ツ」が「ス」と、「(ン)ゴコ」のNG音がN音に変化して「ノコ」となつた)

の転訛と解します。

1034畳(たたみ)・円座(えんざ)・藁蓋(わろうだ)・藺(ゐ)草

 畳は、本来は「筵(むしろ)」、「菰(こも)」、皮畳、絹畳など「重ねて積み上げる敷物」の総称でした。藁・蒲・菅・藺草などを丸く平たく組んだ敷物を円座、または藁蓋といいました。8世紀ごろには何枚かの筵や菰を重ねて縫い合わせ、布で縁取りしたものが作られ、畳または帖と呼ばれたようです。最初は部屋の一部に敷くだけであったのが、15世紀末には部屋全体に敷き詰めるようになり、現在のように藁を圧縮した編んだ畳床に藺草で編んだ畳表を張った畳が庶民の住宅で用いられるようになったのはごく最近のことです。

 この「たたみ」、「えんざ」、「わろうだ」、「ゐ」は、

  「タタミ」、TATAMI(press down,suppress)、「(藁などを)圧縮して作つたもの(タタミ)」

  「エネ・タ」、ENE-TA(ene=flatter,cajole,anus;ta=dash,beat,lay)、「(人を)喜ばす・敷物(円座)」(「エネ」が「エン」となつた)

  「ワラ・ウタ」、WHARA-UTA(whara=a plant,sail,floor mat;uta=the inland,the interior)、「(地面でなく)室内に置く・(藁で作った)敷物(藁蓋)」

  「ヰ」、WI(tussock grass)、「稗に似た植物(藺草)」

の転訛と解します。

1035縁側(えんがわ)

 家の外側に沿い、室の外にある板敷きまたは畳敷きの場所を縁側といいます。古墳時代から日本の住宅の主室の前に簀の子張りの広縁を設けていました。

 この「えんがわ」は、

  「エ(ン)ガ・ワ」、ENGA-WA(enga,engaenga=overflow;wa=definite space,area)、「(家屋の本体の座敷から)はみ出した・場所(縁側)」

の転訛と解します。

1036雁木(がんぎ)

 雪深い東北地方で町屋の軒から庇を長く張り出し、その下を通路とした造りを雁木造りといいます。

 この「がんぎ」は、

  「(ン)ガナ・(ン)ギア」、NGANA-NGIA(ngana=be eagerly intent,persistent,strong:ngia=seem,appear to be)、「(雪の重みに耐えて)一生懸命に頑張っている・ように見える(回廊。雁木)」(「(ン)ガナ」のNG音がG音に変化して「ガナ」から「ガン」と、「(ン)ギア」のNG音がG音に変化し、語尾のA音が脱落して「ギ」となつた)

の転訛と解します。

 なお、木挽の用いる「大鋸」の「雁木(がんぎ)」も同じ語源で「(大きな木材と格闘して)一生懸命に頑張っている・ように見える(大鋸)」の意と解します。

 また、「橋の上の桟」や「船着き場の階段のある桟橋」の「雁木(がんぎ)」は、「(ン)ガ(ン)ガオ・(ン)ギア」、NGANGAO-NGIA(ngangao=dress timber with an adze,alternate edge and depression:ngia=seem,appear to be)、「(斧で削つた材木の表面のように)ぎざぎざがある・ように見える(桟または桟橋)」(「(ン)ガ(ン)ガオ」の最初のNG音がG音に、次のNG音がN音に変化して「ガナオ」から「ガノ」、「ガン」となり、「(ン)ギア」のNG音がG音に変化し、語尾のA音が脱落して「ギ」となつた)と解します。

1037囲炉裏(ゐろり)・ゆるり・ゆるぎ・いり・ひじろ・じろ

 地方の民家などで床を四角に切り抜いてつくった炉を囲炉裏と呼びました。暖房、煮炊き、乾燥、照明などの機能をもち、家族の団らんの場所でもありました。おそらく縄文時代からの竪穴式住居の地炉が高床式住居になつても引き継がれたものと考えられます。 

 囲炉裏は、「ゆるり」、「ゆるぎ」、「いり」、「ひじろ」、「じろ」などとも呼ばれました(ほかにも多数の呼び方があります)。

 「ゐろり」は、ヰル(居る)・ヰ(居。座)から、ヒイホリ(火庵)の転、ヰロリ(居・呂・里)で呂も里も火を覆い包む意などの説があります。

 この「ゐろり」、「ゆるり」、「ゆるぎ」、「いり」、「ひじろ」、「じろ」は、

  「ウイラ・オリ」、UIRA-ORI(uira=gleam,lightning,glow;ori=agitate,quiver(oriori=dandle,lull to sleep))、「(火が)赤々と燃えている・(人の)心を優しく揺さぶる(やすらぎが得られる場所。囲炉裏)」(「ウイラ」が「ヰラ」となり、その語尾のA音と「オリ」の語頭のO音が連結してO音に変化して「ヰロリ」となつた)

  「イ・ウル・ウリ」、I-URU-URI(i=past tense,beside;uru=enter,possess,associate oneself with;uri=descendant,relative)、「一家眷属が・集まって一体となっている・場所(囲炉裏)」(「イ」のI音と「ウル」の語頭のU音が連結して「ユル」と、「ユル」の語尾のU音と「ウリ」の語頭のU音が連結して「ユルリ」となった)

  「イ・ウル・(ン)ギア」、I-URU-NGIA(i=past tense,beside;uru=enter,possess,associate oneself with;ngia=seem,appear to be)、「集まって一体となっている・ように見える・場所(囲炉裏)」(「(ン)ギア」のNG音がG音に変化し、語尾のA音が脱落して「ギ」となつた)

  「イリ」、IRI(be elevated on something,hang)、「その上に(火棚に種子や食料を)貯蔵しておく場所(囲炉裏)」または「(自在鉤に)鍋などを掛けておく場所(囲炉裏)」

  「ヒ・チロ」、HI-TIRO(hi=raise,draw up,catch with hook and line;tiro=look,view)、「(火棚に種子や食料を)引き上げておく場所(囲炉裏)」または「(釣り針で魚を釣り上げるように)自在鉤に鍋などを掛けておく場所(囲炉裏)」

  「チラウ」、TIRAU(peg,stick)、「火箸を使う場所(囲炉裏)」(AU音がO音に変化して「チロ」から「ジロ」となつた)

の転訛と解します。

 なお、鰹節を作るとき釜底に溜まる煎汁または大豆を煮た汁を「いろり」と呼び、調味料に使いました。この「いろり」は、「イ・ロリ」、I-LOLI(i=past tense;(Hawaii)loli=to change,alter,influence)、「(煮煎した結果)変化・したもの(煎汁)」と解します。

1038炉(ろ)・五徳(ごとく)・焜炉(こんろ)・かんてき・七輪(しちりん)

 炉は、火を一定の場所で燃やして食物を調理し、暖を取つたり、照明の役割を果たすもので、日本では先土器時代のものが発見されています。また、先土器時代から縄文時代の早期にかけて、住居の外に炉穴や焼けた礫が集まった礫群(蒸し焼き穴とそこで使用された礫と考えられます。)が発見されています。縄文時代の前期以降は、竪穴住居の中に炉が設けられ、これが古墳時代以降囲炉裏に発展し、竈が煮炊き専用に併用されるようになったものと考えられます。

 炉、囲炉裏で鍋、釜などを固定するのに古くは三個の石を立てていたのが、弥生時代後期には土製の支脚が現れ、後に鉄など金属製の三脚または四脚が現れ、五徳と呼ばれるようになります。この「ごとく」の語源は、クトコ(火所)の倒語、コトコ(火所)の転、頼朝の富士の巻狩りの折、鉄輪が砂に入って傾き、これを逆さまに据えよとの命に対して君の御諚のゴトク(如)といった故事からなどの説があります。

 鉄や土で作った小さな移動可能な炉を焜炉(こんろ)といい、また「かんてき」、「七厘(七輪。しちりん)」ともいいます。「こんろ」の語源は「火炉」の宋音「コロ」の音便かとする説、「しちりん」の語源は物を煮るのに価七厘ほどの木炭で足りるからとする説があります。

 この「ろ」、「ごとく」、「こんろ」、「かんてき」、「しちりん」は、

  「ラウ」、RAU(catch as in a net,gather into a basket etc.receptacle)、「(加熱するものを)集めて容れる(容器。炉)」(AU音がO音に変化して「ロ」となつた)

  「(ン)ゴト・クフ」、NGOTO-KUHU(ngoto=head,be intense,firmly;kuhu=insert,conceal,cooking shed)、「(炉、囲炉裏の灰の中に)しっかりと・据えるもの(五徳)」(「(ン)ゴト」のNG音がG音に変化して「ゴト」と、「クフ」のH音が脱落して「ク」となった)

  「コ(ン)ガ・ラウ」、KONGA-RAU(konga=live coal or charcoal;catch as in a net,gather into a basket etc.receptacle)、「燃える炭を・集めて容れる(容器。焜炉)」(「コ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「コナ」から「コン」と、「ラウ」のAU音がO音に変化して「ロ」となつた)

  「カ(ン)ガ・テキ」、KANGA-TEKI(kanga=ka=take fire,be lighted,burn;teki=cartridge cases)、「燃える火を・容れる容器(焜炉)」(「カ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「カナ」から「カン」となつた)

  「チチ・リ(ン)ガ」、TITI-RINGA(titi=go astray;ringa=hand,arm)、「手に持って・持ち運べるもの(七輪)」(「チチ」が「シチ」と、「リ(ン)ガ」」のNG音がN音に変化して「リナ」から「リン」となった)

の転訛と解します。

 なお、夏用の薄い織物の「絽(ろ)」は、「ラウ」、RAU(leaf,feather)、「鳥の羽根のよう(に薄い織物。絽)」(AU音がO音に変化して「ロ」となった)と、舟を動かす「櫓(ろ)」は、「ロアウ」、ROAU(whakaroau=motionless,listless,remaining silent)、「大きな動作をしない(で舟を動かすもの。櫓)」(AU音がO音に変化して「ロオ」から「ロ」となった)の転訛と解します。

1039竈(かまど)・くど・へっつい

 古墳時代の5世紀になって竪穴住居の奥壁を掘って屋内で火を燃やした煙を外に出す竈が作られたとされます。古墳からは竈、釜、甑のセットの須恵器のミニチュアが出土します。6世紀後半には素焼きの移動式竈が出現します。

 竈を地方では「くど」、「へっつい」とも呼びました。「かまど」の語源は、竈処の意、カナヘト(鼎所)から、カマドノ(竈殿)から、火を燃やす間(カマ)の処(ト)からなどの説があり、「くど」の語源は、煙の漏れ出る所のクキド(漏処)から、竈の後ろを穿つた所のクリトコロ(繰処)から、ケブト(煙戸)の義、クワドコロ(火処)の転などの説があり、「へっつい」の語源は、ヘツイの転、火タキの義、ヘツキ(瓮築)の義、ヘツヒ(戸津火)の義、ヘツヒ(竈之霊)の義、ヒツキ(火城)などの説があります。

 この「かまど」、「くど」、「へっつい」は、

  「カマ・ト」、KAMA-TO(kama=eager;to=drag,stove,cooker(toanga=place etc. of dragging))、「勢いよく・(火を引き込んで釜や鍋を)熱する装置(竈)」

  「クフ・ト」、KUHU-TO(kuhu=insert,conceal,cooking shed;to=drag,stove,cooker(toanga=place etc. of dragging))、「(火を引き込む)竈を・その中に隠している(小屋。台所。転じてその中心にある竈)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」となった)

  「ハエ・ツ・ツヒ」、HAE-TU-TUHI(hae=slit,shine,gleam;tu=fight with,energetic;tuhi=redden,glow,conjure)、「まるで魔法をかけたように・勢いよく・(燃えて)赤々と輝く(竈)」(「ハエ」のAE音がE音に変化して「ヘ」と、「ツヒ」のH音が脱落して「ツイ」となった)

の転訛と解します。

 なお、熊本県八代地方などにみられる民家の「クド造り」については地名篇(その二十)の(12)八代郡のbの項を参照してください。

1040釜(かま)・かなへ・まろかなへ・鍋(なべ)・甑(こしき)・蒸籠(せいろう)・焙烙(ほうろく)

 釜は、炊飯や湯沸かしに用いる蓋付きの器具で、古くは釜(足のない底の丸い釜)を「加奈閉(かなへ)」、「末路賀奈倍(まろかなへ)」とも呼びました(『和名抄』)。古くは土器であつた(古墳から釜・甑・竈のミニチュアが副葬品として出土しています)のが、奈良時代には鋳鉄製または銅製のものが用いられました。食物の煮炊きに用いる基本的な調理器具としては、鍋があり、そのほか蒸し器として甑、蒸籠があり、炒る器具として焙烙があります。

 釜の語源は、カマ(竈)に載せる器の義、カマ(竈)カナヘ(鼎)の略、カナヘ(鼎)の丸いもの、カ(金)マ(丸)の義、カメ(鉄瓶)の義などとする説があり、鍋の語源は、ナ(肴)を煮るヘ(瓮。土器)でナヘ(鉄製のものはカナナヘ)、カナヘ(金鼎)の上略、ナ(中)ヘ(隔)の義などの説があり、甑の語源は、カシキ(炊)の転、コシキ(越器。物を蒸す時火気を中に隔てて上に越す器)などの説があり、蒸籠のセイは蒸の唐宋音とされ、焙烙の語源は、火炙器の義、炒り焦がすことをホイロ(火色)をかけるなどということからホイロキ(火色器)の転、焙路具の字音からなどの説があります。

 この「かま」、「かなへ」、「まろかなへ」、「なべ」、「こしき」、「せいろう」、「ほうろく」は、

  「カ・マハ」、KA-MAHA(ka=take fire,burn;maha=many,abundance)、「大量(の食料や水)を・(火にかけて)加熱する(調理器具。釜)」(「マハ」のH音が脱落して「マ」となった)

  「カ・ナヘ」、KA-NAHE(ka=take fire,burn;nahe=alone,only)、「(足がない)そのまま・火にかけるもの(調理器具。釜)」

  「マロ・カ・ナヘ」、MARO-KA-NAHE(maro=stiff,hard,solid;ka=take fire,burn;nahe=alone,only)、「(土器に比較して)堅牢で・(足がない)そのまま・火にかけるもの(調理器具。釜)」

  「ナ・ハパイ」、NA-HAPAI(na=by,belonging to,indicating parentage or descent;hapai=lift up,carry)、「(釜のように竈に固定せず)持ち運ぶ・種類のもの(調理器具。鍋)」(「ハパイ」の語頭のH音が脱落したA音と「ナ」のA音が連結し、AI音がE音に変化して「ナペ」から「ナベ」となった)

  「コチ・キ」、KOTI-KI(koti=spurt out,flow;ki=full,very)、「(蒸気を)十分に・噴出する(調理器具。蒸し器)(「轂(こしき)」(車輪の中央にあって軸をその中に貫き、幅(や)をその周囲に差し込んだ部分)も同語源で、「(幅を)たくさん・放出する(車輪の中央の部分)」と解します。)

  「タイヒ・ロ」、TAIHI-RO(taihi=be split;ro=roto=inside)、「(湯を入れる鍋と蒸す物を入れる)中身の器が・分離している(調理器具。蒸し器)」(「タイヒ」のAI音がE音に変化し、H音が脱落して「テイ」から「セイ」となった)

  「ハウロクロク」、HAUROKUROKU(unsettled,uncertain)、「(火の上に固定せず)常に動かしている(調理器具。焙烙)」(AU音がOU音に変化し、反復語尾が脱落して「ホウロク」となった)

の転訛と解します。

 なお、「鎌(かま)」は、「カ・アマ」、KA-AMA((Hawaii)ka=root cutting;ama=the curved posts supporting the gable of a house)、「(植物の)根を切る・(家の庇の支柱のような)曲がった棒(鎌)」(「カ」のA音と「アマ」の語頭のA音が連結して「カマ」となった)の転訛と解します。(国語篇(その三)の第3の(12)の項を参照してください。)

1041壺(つぼ)・甕(かめ)・皿(さら)・鉢(はち)・椀(わん)・丼(どんぶり)・銚子(ちょうし)・徳利(とくり)・杯(さかづき)・高坏(たかつき)・箸(はし)

 食物の容器として、口が細く胴が丸く膨らんだ容器を壺と、液体を入れる底の深い容器を甕と、平たく浅い器を皿と、皿よりは深く椀よりは浅い容器を鉢と、深い厚手の鉢を丼といい、酒を杯に注ぐ器(古くは長柄のものをいいましたが、近世以降は徳利をも指すようになりました)を銚子といい、細長くて口の狭い酒の容器を徳利といい、食物を盛る脚付きの台を高坏といい、酒を盛つて飲む器(古くは個人用ではなく、多人数で飲み回すための器でした)を杯といい、 また食事に用いる二本の棒を箸といいます。

 壺の語源は、形がツブラ(円)であるから、口がつぼんでいるから、ツ(土)クボムの義、ウツホ(空洞)の義などの説があり、甕の語源は、ケ(笥)と通ずるカ(甕)と水と火を隔てるヘ(瓮)の結合語、カはケ(笥)・メはミ(身)の転、ミカ(瓮)メ(器)から、カミベ(醸瓶)の約転、サカヘ(酒瓮)の約転などの説があり、皿の語源は、サラケ(浅甕)の下略、アサラケの上下略、アサアル(浅有)の転、朝鮮語サバル(金椀)の転などの説があり、鉢の語源は、梵語パツラ(鉢多羅。体・色・量三つとも法にかなっている意の応量器)から、椀の語源は漢語から、丼の語源は、物を水中へ投げ入れる音からとする説があり、銚子の語源はチウシ(注子)の転と、徳利の語源は酒が容器から出る音から、トクリ(曇具理)から、仏の宝器の徳利瓶から、得利の義、タクリ(嘔吐)の義などの説があり、杯の語源は酒坏から、酒津器からとの説があり、箸の語源は、食と口の間を渡すものであるからハシ(間)の義、同じくハシ(橋)の義、竹の端と端でつまむことからハシ(端)の義、ハシ(嘴)の転義などの説があります。

 この「つぼ」、「かめ」、「さら」、「はち」、「わん」、「どんぶり」、「ちょうし」、「とくり」、「さかづき」、「たかつき」、「はし」は、

  「ツ・ポ」、TU-PO(tu=stand,settle;po=food)、「食物を・入れてある(貯蔵・保管する容器。壺)」(「坪(つぼ。面積の単位)」は、「ツポウ」、TUPOU(bow the head,fall or throw oneself headlong)、「人が手足を伸ばして横になる(のに必要な広さ。面積。一坪)」(OU音がO音に変化して「ツポ」から「ツボ」となつた)の転訛と、「坪庭(つぼにわ)」の「坪」は、「ツポホ」、TUPOHO(consolation)、「(人を)慰める(庭)」(H音が脱落して「ツポ」から「ツボ」となつた)の転訛と解します。)

  「カハ・メ」、KAHA-ME(kaha=strong,strength;me=as if,like,as it were)、「(壺よりも大きくて)強い・ような(容器。甕)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)または「カハ・マイ」、KAHA-MAI(kaha=strong,strength;mai=fermented,food slightly fermented)、「(壺よりも大きくて)強い・発酵した食品(漬け物、酒など)を入れる(容器。甕)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」となった)(「亀(かめ)」についは前出の「652かめ(亀)」の項を参照してください。)

  「タラ」、TARA(loosen,separate)、「(食物を)個々に分配する(容器。皿)」

  「パ・アチ」、PA-ATI((Hawaii)pa=dish,plate,pan;ati=descendant,clan)、「皿の・一種(容器。鉢)」(「パ」のP音がF音を経てH音に変化し、そのA音と「アチ」の語頭のA音が連結して「ハチ」となった)

  「ワ(ン)ガ」、WHANGA(bay,apace,span with the thumb and fingers spread)、「(手の指を広げた大きさの)手のひらに入る大きさの(容器。椀)」(WH音がW音に、NG音がN音に変化して「ワナ」から「ワン」となった)

  「トヌ・プリ」、TONU-PURI(tonu=still,quite,just,only;puri,pupuri=hold in the hand,keep)、「ちょうど・手に持てる(容器。丼)」(「トヌ」が「トン」から「ドン」となった)

  「チオフ・チ」、TIOHU-TI(tiohu=tuohu=stoop,bow the head;ti=throw,cast)、「(お辞儀をするように容器を)傾けて・(液体を)注ぐもの(容器。銚子)」(「チオフ」のH音が脱落して「チオウ」から「チョウ」となった)

  「ト・クフ・ウリ」、TO-KUHU-URI(to=moisten,wet;kuhu=thrust in,insert;uri=descendant,race)、「液体を・中に入れる・(種類の)容器(徳利)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」となり、その語尾のU音と「ウリ」の語頭のU音が連結して「クリ」となった)

  「タカ・ツツキ」、TAKA-TUTUKI(taka=revolve,go or pass round;tutuki=reach the farthest limit,extend)、「(一座の中を)隅まで・巡るもの(飲み回すもの。杯)」(「ツツキ」の反復音が脱落して「ツキ」から「ヅキ」となった)

  「タカ・ツ・キ」、TAKA-TU-KI(taka=heap,lie in a heap;tu=stand,settle;ki=full,very)、「(食物を)きちんと・高いところに・置く(盛る)もの(高坏)」

  「ハ・チチ」、HA-TITI(ha=breath,taste;titi=peg,pin,stick)、「(使うと食物の)味が良い・棒(箸)」(「チチ」の反復語尾が脱落して「チ」から「シ」となった)(箸墓伝説の「箸」については入門篇(その三)の箸墓伝説の真実の項を参照してください。また、「橋(はし)」は「パハ・アチ」、PAHA-ATI(paha=arrive suddenly;ati=descendant,clan)、「アッという間に(向こう岸に)着く・種類のもの(橋)」(「パハ」のP音がF音を経てH音に変化し、その次のH音が脱落し、語尾のA音と「アチ」の語頭のA音が連結して「ハチ」から「ハシ」となった)と、「端(はし)」は「パ・アチ」、PA-ATI(pa=touch,reach;ati=beginning)、「始まりの・地点に達した場所(端)」と解します。)

の転訛と解します。

1042漏斗(じょうご)・瓢(ふくべ)・瓢(ひさご)・杓子(しゃくし。しゃもじ)・柄杓(ひしゃく)・おけ(桶)・ほかい(行器)・たらい(盥)

 漏斗は、上が広く下がつぼまって穴のある金属、木、竹製の器具で口の狭い器に水や酒などの液体を注ぎ入れるのに用いるものです。熊本県南部にはクド造りから発展した漏斗造りの民家があります。

 また、ひょうたんから作った水や酒、種子などを入れる容器を瓢(ふくべ)、または瓢(ひさご)(古くは瓢箪を縦に二つに割って水を汲む柄杓としたものを「ひさこ」と呼びました)といい、食物などを掬う道具を杓子(しゃくし)またはしゃもじ、水などを掬う道具を柄杓といい、水や食物などを容れる容器を桶、食物を盛って他所へ運ぶのに用いる脚のついた容器を行器(ほかい。外居とも)と、大量の水・湯をいれる桶を盥といいました。

 「じょうご」の語源は、「上戸」の意で酒を吸い込むところから、また、「承壺」の音からと、「ふくべ」の語源は、フクレベ(脹瓮)の義、フクラミハレミ(脹腫実)の義、フクレヘウ(脹瓢)の義などと、水を汲む「ひさこ」の語源は、ヒサゲコ(提子)の約、ヒサゴ(瓠)の義、ヒサクガタミ(柄杓形実)の義などと、「しゃくし」の語源はサジの転と、「ひしゃく」の語源は、ヒサゴ(瓠)の転訛、女房詞オヒヤ(水)をさぐることからヒサクの転などと、「おけ」の語源は、古くは麻(ヲ)を績ぐ笥(ケ)から、ウケ(空笥)の転、多くの物を込め入れるオホコメから、オホケ(大笥)からなどと、「ほかい」の語源は、ホカユク(他行)の義、ホカヒ(穂器)の義などと、「たらい」は「てあらい(手洗い)」の変化とする説があります。

 この「じようご」、「ふくべ」、「ひさご」、「しゃくし」、「しゃもじ」、「ひしゃく」、「おけ」、「ほかい」、「たらい」は、

  「チ・ホウ・(ン)ゴ」、TI-HOU-NGO(ti=throw,cast;hou=enter,force downwards or under;ngo,ngongo=suck,suck out)、「注ぎ入れた(液体を)・下方に向かって・吸い出す(道具。漏斗。転じて四方を屋棟で囲み中央に漏斗のような屋根が中庭に向かつて落ち込む造りの家屋。その建築様式)」(「ホウ」のH音が脱落して「オウ」となり、「チ・オウ」が「チョウ」から「ジョウ」と、「(ン)ゴ」のNG音がG音に変化して「ゴ」となった)

  「フク・パエ」、HUKU-PAE(huku=tail;pae=hirizen,lie on one side,lie ready for use)、「(人の尻尾のように)腰に・付ける(使用するもの。ふくべ。ひょうたん)」(「パエ」のAE音がE音に変化して「ベ」となった)

  「ヒタコ」、HITAKO(yawn)、「口を開けている(容器。または水を汲む道具)」または「ヒ・タ(ン)ゴ」、HI-TANGO(hi=raise,rise;tango=take,take in hand,remove)、「(液体を入れて)持ち上げて・運ぶ(容器または汲む道具。ひさご)」(「タ(ン)ゴ」のNG音がG音に変化して「タゴ」から「サゴ」となつた)

  「チ・アク・ウチ」、TI-AKU-UTI(ti=stick,rod;aku=scrape out,cleanse;uti=bite)、「突き立て(食い込ませて)・掻き取る・棒(杓子)」(「チ」と「アク」が連結して「チャク」となり、その語尾のU音と「ウチ」の語頭のU音が連結して「チャクチ」から「シャクシ」となった)

  「チア・マウ・ウチ」、TIA-MAU-UTI(tia=peg,stake;mau=food product;uti=bite)、「食べ物に・突き立てる(食い込ませる)・棒(杓子)」(「チア」が「シャ」と、「マウ」の語尾のU音と「ウチ」の語頭のU音が連結し、AU音がO音に変化して「モチ」から「モジ」となった)

  「ヒ・チ・アク」、HI-TI-AKU(hi=raise,rise;ti=stick,rod;aku=scrape out,cleanse)、「掬い取って(掻き取つて)・持ち上げる・棒(柄杓)」

  「アウアウ・カイ」、AUAU-KAI(auau=frequently,basket of seed potatoes;kai=eat,food)、「食物を・入れる容器(桶)」(「アウアウ」のAU音がO音に変化し、反復語尾が脱落して「オ」と、「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)

  「ホカイ」、HOKAI(extended,far apart,bradthe)、「(食物を)遠く外へ持ち運ぶ(容器。行器。外居)」

  「タ・ラヒ」、TA-RAHI(ta=dash,lay;rahi=great,abundant)、「大量の(水・湯などを)・容れるもの(容器。盥)」(「ラヒ」のH音が脱落して「ライ」となった)

の転訛と解します。

1043風呂(ふろ)・浴衣(ゆかた)・柘榴口(ざくろぐち)

 古く日本の風呂は、密閉した部屋にこもらせて蒸気で蒸す蒸気浴が一般でした。現在のように温湯を入れた湯船に浸かる温湯浴が一般になるのは江戸時代後期以降のことです。徳川将軍は、入浴後浴衣を何枚も取り替え着て手ぬぐいを用いなかったといいます。江戸時代の銭湯では、湯船と外の洗い場を壁で仕切り、小さな柘榴口から出入りしていました。

 風呂の語源は、ムロ(室)の転、ユムロ(湯室)の略転、茶の湯のフロ(風炉)からとする説があり、浴衣は湯帷子(ゆかたびら)の下略とされ、柘榴口の語源は、当時鏡磨きは柘榴の酢を必要としていたので「かがみいる(鏡要る=屈み入る)」からこの名がついたとする説があります。

 この「ふろ」、「ゆかた」、「ざくろぐち」は、

  「フラ・アウ」、HURA-AU(hura=remove a covering,bare;au=smoke,fog,sea)、「裸になつて・(霧のような)水蒸気を浴びる(蒸し風呂)」(「フラ」の語尾のA音と「アウ」の語頭のA音が連結したAU音がO音に変化して「フロ」となった)

  「イ・ウカ・タ」、I-UKA-TA(i=past tense,beside,with,upon;uka=be fixed,stunch blood;ta=dash,beat,lay)、「(入浴後に)汗を止める・ために・着る(衣服。浴衣)」

  「タク・ロ・クチ」、TAKU-RO-KUTI(taku=edge,rim,hollow;ro=roto=inside;kuti=purse up,contractpinch)、「(湯船がある)内の・境の・狭まった出入り口(柘榴口)」(果実の柘榴(ざくろ)は、「タク・ラウ」、TAKU-RAU(taku=edge,rim,hollow;rau=catch as in a net,gather into a basket etc.)、「(口を開けた)穴の中に・(小さな実が)たくさん詰まっている(果実。その植物)」(「ラウ」のAU音がO音に変化して「ロ」となった)の転訛と解します。)

の転訛と解します。

1044剃刀(かみそり)・鋏(はさみ)

 頭髪・髭などを剃る剃刀が日本に伝えられたのは、6世紀中頃で仏教徒の剃髪の儀式に用いられたといいます。古く一般に髪や髭を整えるためには毛抜きを用いたといいます。また、鋏が日本に伝えられたのは、6世紀頃でギリシアから中国を経てU字形のもの(いわゆる和鋏の系統)が入ったとされます。鋏が一般に普及したのは江戸時代後期とされます。  

この「かみそり」、「はさみ」は、

  「カカ・ミイ・トリ」、KAKA-MII-TORI(kaka=fibre,single hair,line;(Hawaii)mii=good-looking;tori=cut)、「髪の毛を・美しく・切るもの(道具。剃刀)」(「カカ」の反復語尾が脱落して「カ」となった。「髪(かみ)」は「美しい髪の毛」の意)(「紙(かみ)」は、「カカ・アミ」、KAKA-AMI(kaka=fibre,stalk;ami=gather,collect)、「繊維(や植物の稈)を・集めた(漉いたもの。紙)」(「カカ」の反復語尾が脱落して「カ」となったその語尾のA音と「アミ」の語頭のA音が連結して「カミ」となった)と、「神(かみ)」は、「カミ」、KAMI(eat)、「(人を)征服するもの(神)」(国語篇(その三)の第2の(1)の項を参照してください。)と解します。)

  「ハハ・タミ」、HAHA-TAMI(haha=seek,look for;tami=press down,suppress,smother)、「(切るべき場所を)探して・(握るようにして押し)切るもの(道具。鋏。和鋏)」(「ハハ」の反復語尾が脱落して「ハ」となった)

の転訛と解します。

1045櫛(くし)・鬘(かづら)・髻華(うず)・挿頭(かざし)・簪(かんざし)・笄(こうがい)

 頭髪を整える最も基本的な道具の櫛は、最も古くは魚の骨製であつたと考えられますが、遺跡からの出土は報告されていません。次に骨製挽歯(刻歯)のもの、木製編歯(結歯)漆塗のもの、竹製編歯(結歯)漆塗のものが現れますが、縦長で髷(まげ)を留めるための挿し櫛(飾り櫛)であつたとされます。現在のような横櫛形の挽き櫛は奈良時代に大陸からもたらされたといいます。櫛は、神霊の依代(よりしろ)として、女性が特に大切にすべきものとされています。

 日本の髪飾りとしては、石器時代にすでに鹿の角や骨、木で作ったピン状の簪や飾り櫛があり、古代には蔓草や花などを頭に巻いた鬘(かづら)、うず高いもの=髻(もとどり)に花などを挿す髻華(うず)、花などを頭髪や冠に挿した挿頭(かざし)があり、大陸から渡来した銀製のピン釵子(さいし)がありました。その後幾多の変遷を経て、江戸時代には髪に挿す簪(かんざし)、髪を掻き上げる道具から髪に挿すものとなった笄(こうがい)が発達しました。 

 「くし」の語源は、上代の櫛の歯は長く髪に挿すものであつたことからクシ(串)に通ずる、クシ(髪)をけずるものであるところから、頭に挿すところからカシラ(頭)の転、トクシ(解)の上略などと、「かづら」の語源は、カは助語、ツラはツル(蔓)の転、カは上から覆う意、ツラは蔓で、カツラ(覆蔓)の義、カラカラという擬声語にツラ(連)を添えたもの、カカリツラナル(掛連)義などと、「うず」は、ウス(頂居)の義、ウ(至上)スス(清浄)の約濁と、「かんざし」の語源は、カミサシ(髪挿)の音便、髪の挿しざまの意、カザシ(挿頭)の転と、「こうがい」の語源は、カミガキ(髪掻)の音便とする説があります。

 この「くし」、「かづら」、「うず」、「かざし」、「かんざし」、「こうがい」は、

  「クフ・チチ」、KUHU-TITI(kuhu=insert,thrust in;titi=peg,comb for sticking in the hair)、「(髪の)中に入れて・梳くもの(道具。櫛。転じて髪)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」と、「チチ」の反復語尾が脱落して「チ」から「シ」となつた)(記紀所出の「湯津爪櫛(ゆつつまぐし)」については古典篇(その二)の1の(5)の項および古典篇(その五)の062櫛名田比売の項を参照してください。なお、「串(くし)」も同じ語源で「(魚や肉、野菜などの)中に(刺し)入れる・棒(串)」と解します。また、酒の古称「くし(酒)」については雑楽篇(その二)の1011酒の項を参照してください。)

  「カハ・ツラハ」、KAHA-TURAHA(kaha=crested grebe;turaha=startled,be separated,keep clear)、「カイツブリの冠毛のように・人をびっくりさせる(華麗な髪飾り。鬘)」または「分離した(着脱できる)・(カイツブリの冠毛のような)頭髪(かつら)」(「カハ・ツラハ」のH音が脱落して「カ・ツラ」から「カヅラ」、「カツラ」となった)(添え髪の鬘(かつら)も同じ語源です。前出404かつら(鬘)の項を参照してください。)

  「ウツ」、UTU(spur of a hill)、「(丘の上のように)こんもりと高くなつた(頭髪。そこに挿す飾り)」

  「カハ・タハ・チ」、KAHA-TAHA-TI(kaha=crested grebe;taha=side,edge;ti=throw,cast)、「(カイツブリの冠毛のように)頭上の冠の・脇に・(花などを)挿すもの(挿頭)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「タハ」のH音が脱落して「タ」から「ザ」となつた)

  「カネ・タハ・チ」、KANE-TAHA-TI(kane=head;taha=side,edge;ti=throw,cast)、「頭の・脇に・挿すもの(装身具。簪)」(「カネ」が「カン」と、「タハ」のH音が脱落して「タ」から「ザ」となつた)

  「コウ・(ン)ガイ」、KOU-NGAI(kou=knob,stump,protuberance;ngai=tribe,clan)、「(髪の毛を掻き上げて)高くする・のに用いる種類のもの(道具。装身具。笄)」(「(ン)ガイ」のNG音がG音に変化して「ガイ」となった)

の転訛と解します。

1046斧(おの)・斧(よき)・鉞(まさかり)・手斧(ちょうな)・鉈(なた)

 木や木材、薪などを伐つたり、割る道具に、斧(おの)または斧(よき)があり、大型のものとして鉞(まさかり)があり、また小型のものとして手斧(ちょうな)、鉈(なた)があります。

 「おの」の語源は、大斧をヨキといったところからオ(小)のヨキの略、オナ(小さい鉞)の転、ヲナギ(小薙)の義、ヲナ(雄刀)の義などと、「よき」の語源は、ヨコキリ(横切)の義、木を切るに良きの義、ヨモキリ(四方切)の反と、「まさかり」の語源は、柄より前に下がっている形からマヘサカリの義、ミヤ・ソマ・キヲ・レリの反、マサカリワリ(目盛割)の義、マサキリ(真割切)の義などと、「なた」の語源は、ナギタツ(薙断)の略、ナギガタナ(薙刀)の義、ナ(刃)タ(平)の義などとの説があります。

 この「おの」、「よき」、「まさかり」、「ちょうな」、「なた」は、

  「オ・(ン)ガウ」、O-NGAU(o=the...of;ngau=bite,hurt,attack)、「強い・打撃を加えるもの(道具。斧)」(「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」となった)

  「イオ・オキ」、IO-OKI(io=hard,tough;(Hawaii)oki=to cut,separate)、「丈夫な(苛酷な使用に耐える)・(木などを)切るもの(斧)」(「イオ」の語尾のO音と「オキ」の語頭のO音が連結して「ヨキ」となった)

  「マタ・カリ」、MATA-KARI(mata=just,spell;kari=dig,cleave,rush along violently)、「正に・(荒々しく)切り裂く(道具。鉞)」

  「チホウ・(ン)ガオ」、TIHOU-NGAO(tihou=an implement for cultivating;ngao=dress timber with an adze)、「鍬で大地を耕すように・材木の表面を削る(道具。手斧)」(「チホウ」のH音が脱落して「チオウ」から「チョウ」と、「(ン)ガオ」のNG音がN音に変化し、語尾のO音が脱落して「ナ」となった)

  「ナハ・タ」、NAHA-TA(naha,nahanaha=well arranged, in good order;ta=dash,beat)、「適当な・打撃を加える(道具。鉈)」(「ナハ」のH音が脱落して「ナ」となった)

の転訛と解します。

1047鋸(のこぎり)・鋸(のほきり)・大鋸(おが)・鉋(かんな)・鑿(のみ)・鏨(たがね)・錐(きり)・槌(つち)・玄翁(げんのう)

 大工道具として、木材を切る鋸(のこぎり)、削る鉋(かんな)、穴を穿つ鑿(のみ)、金属を断つたり、変形させたり、石に穴を開けたりする鏨(たがね)、穴を開ける錐(きり)、木材や釘を打つ槌(つち)、とくに大きく重い槌で柄に弾力がある玄翁(げんのう)があります。

 鋸は、古くは『和名抄』は「能保木利(のほきり)」、『和漢三才図絵』は「倭名能保岐利(のほきり)」「俗云能古岐利(のこきり)とします。これらは中世の絵巻物に見るかぎり、横挽用のもので、大型の縦挽用の鋸は「大鋸(おが)」といいました。

 「のこぎり」の語源は、向こうへ登らせては前に引いて切るところからノボギリの転、木屑を残して切るノコ(残)キリ(切)の義と、古名「のほきり」の語源は、ノビハギリ(延刃切)の転略、ノハキリ(延歯切)の義、ノボリキリ(登切)の義などと、「かんな」の語源は、古名カナの音便、カイナ(掻刃)の転、カキナデ(掻撫)の転などと、「のみ」の語源は、一所ノミ掘る意、ノ(刀)ミ(穴の意のメの転)の義、喉の道のように細い穴が開くところからノドミチの反、木に呑め込めて穴を掘るところから、ノベミ(延身)の義などと、「たがね」の語源は、タチガネ(断金)の略、タタキカネ(叩金)の義などと、「きり」の語源は、キリ(鑽・切)の意、揉むとキリキリと音がするから、キリキリ回るから、サキトガリ(先尖)の義などと、「つち」の語源は、ウチ(打)の転、トル・テニの反、テウチの義などとする説があります。

 この「のこぎり」、「のほきり」、「おが」、「かんな」、「のみ」、「たがね」、「きり」、「つち」、「げんのう」は、

  「(ン)ガウ・コキリ」、NGAU-KOKIRI(ngau=bite,hurt,attack;kokiri=dart,throw,thrust,rush forward)、「真っ直ぐ前に向かって・切り進むもの(道具。鋸)」(「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」となった)

  「(ン)ガウ・ホキ・リ」、NGAU-HOKI-RI(ngau=bite,hurt,attack;hoki=return;ri=screen,bind)、「切り進んでは・(刃を)戻す・ことを続けるもの(道具。鋸)」(「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」となった)

  「オ(ン)ガ」、ONGA(agitate,shake about)、「(鋸が広く大きいので)躍起になつて挽く(道具。大鋸)」(NG音がG音に変化して「オガ」となった)

  「カハ(ン)ガ・(ン)ガオ」、KAHANGA-NGAO(kahanga=evidence of strength;ngao=dress timber with an adze)、「明らかに長く・木材の表面を滑らかに削るもの(道具。鉋)」(「カハ(ン)ガ」のH音が脱落し、NG音がN音に変化して「カナ」から「カン」と、「(ン)ガオ」のNG音がN音に変化し、語尾のO音が脱落して「ナ」となった)

  「(ン)ガウ・オミ」、NGAU-OMI(ngau=bite,hurt,attack;(Hawaii)omi=to wither,droop)、「少しづつ(弱らせて)・(食い切る)掘るもの(道具。鑿)()」(「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」となり、その語尾のO音と「オミ」の語頭のO音が連結して「ノミ」となった)

  「タ・(ン)ガネイ」、TA-NGANEI(ta=dash,beat;nganei=tenei enei=this,each)、「丹念に一カ所づつ・叩くもの(道具。鏨)()」(「(ン)ガネイ」のNG音がG音に、EI音がE音に変化して「ガネ」となった)

  「キ・イリ」、KI-IRI(ki=full,very;iri=be empty)、「完全に・(中を空にする)孔を開けるもの(道具。錐)」(「キ」のI音と「イリ」の語頭のI音が連結して「キリ」となった)

  「ツ・チ」、TU-TI(tu=fight with,energetic;ti=throw,overcome)、「勢いよく・振り下ろすもの(道具。槌)」

  「(ン)ゲ(ン)ゲ・(ン)ゴフ(ン)ゴフ」、NGENGE-NGOHUNGOHU(ngenge=weary,weariness;ngohungohu=feeble,flabby,shrubs)、「(重くて)疲れる・(柄が)しなる(木を使つている槌。道具。玄翁)」(「(ン)ゲ(ン)ゲ」の最初のNG音がG音に、次のNG音がN音に変化して「ゲネ」から「ゲン」と、「(ン)ゴフ(ン)ゴフ」の反復語尾が脱落し、NG音がN音に変化し、H音が脱落して「ノウ」となった)

の転訛と解します。

1048釘(くぎ)・鎹(かすがい)・楔(くさび)

 釘は、材木・板などを継ぎあわせるために金属・木・竹の一を尖らせて打ち込むもので、鎹は、材木の合わせ目を緊結するために打ち込む両端の尖った金具で、楔は、堅い材木または金属で一端を厚く他端を薄くV字系の刃形に作ったもので木石を割り、重い物を持ち上げ、また継ぎ合わせたものが離れないよう両方に跨らせて打ち込むものです。

 「くぎ」の語源は、カギ(鉤)と通ずる、食い合わせて固める義、クヒキリ(食鑽)の義、カネノクヒ(銕杙)の義、ク(入)・キ(鋭利なもの)の意などと、「かすがい(かすがひ)」の語源は、カナスガヒ(金次)の略、カネツガヒ(兼・継合)の義、カス(ささえ止める)・カヒ(食合)の義などと、「くさび」の語源は、クシアヒ(串合)の略、キセメ(木責)の義、クヒサス(食刺)・ヒメ(古事記のヒメヤ)の義などとする説があります。

 この「くぎ」、「かすがい(かすがひ)」、「くさび」は、

  「クフ・(ン)ギア」、KUHU-NGIA(kuhu=insert,thrust in;ngia=seem,appear to be)、「(打たれて)中に入ってゆく・ように見えるもの(釘)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」と、「(ン)ギア」のNG音がG音に、語尾のA音が脱落して「ギ」となった)

  「カハ・ツイ・(ン)ガヰ」、KAHA-TUI-NGAWHI(kaha=strong,strength,persistency;tui=pierce,thread on a string,sew;ngawhi=suffer penalty,be punished)、「刑罰を受けるように・強く・打ち込んで(木材などを)緊結するもの(鎹)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「ツイ」の語尾のI音が脱落して「ス」と、「(ン)ガヰ」のNG音がG音に、WH音がH音に変化して「ガヒ」となった)

  「クフ・タピ」、KUHU-TAPI(kuhu=insert,thrust in;tapi=apply as dressings to a wound,patch,repair,find fault with,chide)、「(木片を)中に差し込むことで・(木材の接合箇所を)補強するもの(楔)」または「(金属片を石の)中に打ち込むことで・(石の弱い所を咎めて)割る(道具。楔)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」と、「タピ」が「サビ」となった)

の転訛と解します。

1049はそう(瓦偏に泉)・はんぞう(半挿。楾。はこがまえに也)・たしらか(多志良加。甕)

 「はそう」とは、胴部に小さい孔のある丸い壺形の土師器または須恵器で、口が極端に大きく漏斗状に開いているものです。胴部の孔に竹管を挿し、水を注ぐのに用いたと考えられてきましたが、なぜ口が異常に大きいのか疑問が残ります。

 松田寿男『古代の朱』(ちくま学芸文庫、筑摩書房)は、これを古代の水銀蒸留器と解し、胴部の孔は空気孔、上部の口縁には蓋をかぶせ、下部の胴体に入れた朱砂を熱して生ずるガスを蓋に開けた穴から水中に導いて水銀を採取していたものとし、「福井市本堂町から出土したハソウは明らかに実用品として再三使用されたもので、高熱で作製され、内部には朱砂が残留していた」とします。

 「はんぞう」とは、「はぞう」ともいい、湯・水を注ぐのに用いる器で、柄のある片口の水瓶で、それを半ば器の中へ挿し込んであるところからの名称とされます。また、洗面道具の一つで、小さな盥のことをもいうとされます。

 「たしらか」とは、@天皇の祭具の一つ。手を洗うための水を入れる素焼きのかめ。延喜式巻一・神祇・四時祭「供神今食料…高盤二十口。多志良加四口。陶鉢八口」、延喜式巻三・践祚大嘗祭・中「水部一人執多志良加」(小学館『日本国語大辞典』)とされますが、A延喜式巻二十四・主計上に五畿内国の調の中に「多志羅加二口。受一斗」とあり、その大きさからみて、@の天皇の祭具ではなく、一般の朝廷官人が用いる手水を入れる容器をもいったと考えられます。

 この「はそう」、「はんぞう」、「たしらか」は、

  「パトウ」、PATOU(entice,provoke)、「(朱砂から水銀を)抽出する(硬質の土器。道具)」(P音がF音を経てH音に変化して「ハトウ」から「ハソウ」となった)

  「ハ(ン)ガ・トウ」、HANGA-TOU(hanga=make,work,thing;tou=dip into a liquid,wet)、「(手・顔などを)水(または湯)に浸す・ためのもの(水または湯の容器。半挿。盥など)」(「ハ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ハナ」から「ハン」と、「トウ」が「ソウ」から「ゾウ」となった)

  「タ・チ・ラカ」、TA-TI-LAKA(ta=the...of;ti=throw,cast;(Hawaii)laka=tame,gentle)、「そつと・(水を)注ぐ・もの」

の転訛と解します。

1050べに(紅)・おしろい(白粉)・はふに(白粉)・ぱっちり(襟白粉)・かね(鉄漿)

 「べに(紅)」は、ベニバナから製した化粧料で、口紅・頬紅とし、染料・食用・薬用にも用います。
 なお、色の「くれない(紅)」については、国語篇(その四)の033くれなゐのの項を参照してください。

 「おしろい(白粉)」は、肌に塗って肌色を美しくみせる仕上げ用化粧品で、製品の形態によって粉,固型,水,練などの各種があり、白色顔料は地域によって異なりますが,白土,貝殻粉,穀粉,鉛白,甘汞(かんこう)などです。
 『魏志倭人伝』は「(倭人は)朱丹(朱砂の粉末と考えられます)を身体に塗っている。中国で粉(白粉・紅白粉)を用いるようなものだ。」とし、『日本書紀』持統紀6年閏5月条に「僧観成が鉛粉を造ったので褒美を与えた」とし、平安中期の『和名抄』は白粉に粉(之路岐毛能)と白粉(波布邇)の2種類をあげ,この「しろきもの」は鉛白、「はふに」は穀粉と解され、『延喜式』典薬寮の部には供御の白粉料として「糯米一石五斗、粟一石」とあるところからこれは穀粉であり、水銀を原料とする軽粉が白粉(伊勢白粉が著名)として使われたのは室町時代以降のようで,それまでは薬用が主であったと考えられています。
 なお、「おしろい」の語源は「お(接頭語)・白い」からとする説がありますが、古代「白い」という用例はなく、「白し」、「白き」といったことからこの説には疑問があります。また、色の「白い」については、国語篇(その九)の097白しの項を参照してください。

 「ぱっちり」は、水に溶いて用いる形の襟白粉をいいます。水に溶くと「パツチリ」と音がしたところからこの名がついたとする説があります。

 かね(鉄漿)は、歯を黒く染めたり、衣を紺色に染めたりするのに用いる鉄を酸化させた液および染歯の慣習、御歯黒をいいます。鉄漿付けに必要な鉄漿は,茶とか米のとぎ汁の中に古釘や折れ針などの鉄くずを入れ、色つやを出すために酢,酒,蒜なども混ぜ、さらに付きをよくするため,ヌルデの木の若葉に着く五倍子粉(ふしのこ)も合わせて用いられました。
 鉄漿は,平安時代の末ころまでは女子の慣習でしたが,その後しだいに公家の男子や武士にまで及び、中世には上層の武士の間で一般化し、女子は裳着(もぎ)、男子は元服といった15歳前後の成年式(成女式)のおりから付け始めました。江戸時代になると,男子の鉄漿はほとんど廃れましたが,女子の場合は庶民層にまで普及し、婚礼の前後に付ける慣習も増加し、やがて既婚女性の象徴としての性格を帯びるようになりました。明治維新後は、急速に廃れました。

 この「べに」、「おしろい」、「はふに」、「ぱっちり」、「かね」は、

  「パエ・ニヒ」、PAE-NIHI(pae=horizen,lie across,be laid to the chrge of anyone;nihi=move stealthly,timidity)、「(唇に)そっと・横に塗る(もの。紅。口紅)」(「パエ」のAE音がE音に変化して「ペ」から「ベ」と、「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」となった)

  「オ・チロ・オイ」、O-TIRO-OI(o=of,belonging to;tiro=look;oi=grow(oinga=childhood,youth))、「(それを付けると)若く・見える・もの(白粉)」(「チロ」の語尾のO音と「オイ」の語頭のO音が連結して「チロイ」から「シロイ」となった)

  「ハフ・ニヒ」、HAHU-NIHI(hahu=disinter the bones of the dead before removing them to their final resting place,scatter;nihi=move stealthly,timidity)、「(洗骨して白くするように)そっと・塗り広げる(もの。白粉)」(「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」となった)

  「パツ・チリ」、PATU-TIRI(patu=screen,wall,edge,boundary;tiri=throw or place one by one,scatter,place one on another)、「(襟首を白く)壁のように・塗り重ねる(もの。襟白粉)」

  「カネ」、KANE(choke(kanekane=pungent,nauseated))、「嫌な(刺激)臭がする(液。おはぐろの液)」

の転訛と解します。

1051ふで(筆)・すずり(硯)・すみ(墨)・かみ(紙)・やたて(矢立)

 「ふで(筆)」は、竹や木の柄の先に羊、狸、兎、鹿、馬などの毛を束ねて取り付け、墨汁や絵の具を含ませて文字や絵画などを書くのに用いるものです。その語源は、@フミテ(文手。書手)の義、Aフミイデの義、B幣束のホデ(梵天)に似るから、C筆の音ヒツの転などの説があります。

 「すずり(硯)」は、石ゃ瓦などで作り、墨をすり下ろすのに用いるものです。その語源は、スミスリ(墨磨)の略とする説があります。

 「すみ(墨)」は、油煙や松煙を膠液で練り、香料などを加えて型に入れて固めたもので、これを硯ですって墨汁とし、書画を書くのに用いるものです。その語源は、@スミ(炭)を粉末にして作ったから、またはスミ(油煙)から作ったから、A黒いところからスミ(炭)の音を借りた、B曇る意の古語スミから、Cソミ(染)の転、Dススノ実の略、またはスル実から、またはスリテ見ルところからなどの説があります。

 「かみ(紙)」は、植物繊維を水中でからみ合わせ、薄くすき上げて乾燥したものです。その語源は、@字を書くのに用いられた竹のカヌ(簡)の字音の転、A高麗の方言から、B原料のカウゾ(楮)から、C漉種を兼ね合わせて編み漉いたことからカネアミの略、Dカキミル(書き見る)の略などとする説があります。
 なお、雁皮紙および鳥の子紙については、前出538こうぞ(楮)の項を参照してください。

 「やたて(矢立)」は、@中世の武士が戦場へ携行した檜扇形の細長い木箱で、小さい硯、墨、筆、小刀などを入れ、矢とともにえびら、鎧の中に収めた「矢立の硯」をいい、またA近世墨壺に筆の入る筒をつけた携行陽の筆記具をいいます。その語源は、@矢立の硯の略、A筆を挿した形が矢に似ているところから、B矢籠に似ているからなどの説があります。

 この「ふで」、「すずり」、「すみ」、「かみ」、「やたて」は、

  「プ・タイタイ」、PU-TAITAI(pu=pipe,tube;taitai=dash,knock,brush)、「ブラシがついた・(竹の)管(筆)」(「プ」のP音がF音を経てH音に変化して「フ」と、「タイタイ」の反復語尾が脱落し、AI音がE音に変化して「テ」から「デ」となった)または「フテテ」、HUTETE(be tied up in a corner of a bag etc.)、「(毛の束を)端にくくりつけたもの(筆)」(反復語尾が脱落して「フテ」から「フデ」となった)

  「ツツリ」、TUTURI(be moist,drip)、「(墨)汁をつくるもの(硯)」

  「ツツ・ミ」、TUTU-MI(tutu=be raised as dust;(Hawaii)mi=urine,to void urine)、「身を削って・墨汁(という尿)を出すもの(墨)」(「ツツ」の反復語尾が脱落し、「ツ」から「ス」となった)
 なお、同音の「すみ(炭)」は、次項の1052すみ(炭・木炭)の項を参照してください。
 また、「すみ(隅。角)」は「ツ・ウミ」、TU-UMI(tu=stand,settle;(Hawaii)umi=to strangle,choke)、「(そこに)居ると・息苦しい(場所。隅)」(「ツ」のU音と「ウミ」の語頭のU音が結して「ツミ」から「スミ」となった)と解します。

  「カカ・アミ」、KAKA-AMI(kaka=fibre,stalk;ami=gather,collect)、「(樹皮や布や藁の)繊維を・集め(て漉い)たもの(紙)」(「カカ」の反復語尾が脱落した「カ」のA音と「アミ」の語頭のA音が連結して「カミ」となった)
 なお、同音の「かみ(神)」は「カミ」、KAMI(eat)、「(人を)征服するもの(神)」と、「かみ(髪)」は、「カカ・ミイ」、KAKA-MII(kaka=fibre,single hair,line;(Hawaii)mii=good-looking)、「美しい・髪の毛(髪)」(「カカ」の反復語尾が脱落して「カ」と、「ミイ」が「ミ」となった)(前出1044剃刀(かみそり)の項を参照してください。)と、「かみ(上)」は「カ・ミ」、KA-MI(ka=to denote the commencement of a new action or condition;(Hawaii)mi=urine,stream)、「川が・流れ始める(方向。位置。上)」(「しも(下)」は「チ・マウ」、TI-MAU(ti=throw,cast;mau=fixed,continuing)、「(川が放り出されて)流れて・行く(方向。位置。下)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」となった))と解します。

  「イア・タタイ」、IA-TATAI(ia=indeed;tatai=arrange,set in order)、「実に・(筆記に必要な品を)一つにまとめたもの(道具。矢立)」(「タタイ」のAI音がE音に変化して「タテ」となった)

の転訛と解します。

1052すみ(炭・木炭)・まき(薪)・たきぎ(薪)・しば(柴)

 「すみ(炭。木炭)」は、薪炭を蒸し焼きにして燃料または貯火用に供する黒塊です。その語源は、@触れると黒くなることからソミ(染)の転、A火の消えた後のスミ(済)の義、Bススヒの中略、C黒いところからスミ(墨)の義、Dタビ(手火)に対して定所で焚くスビ(栖火)の転などの説があります。

 「まき(薪)」は、竈、炉などに燃料として焚く細い枝や割木です。その語源は、@ツマキ(爪木)の略、Aカマキ(竈木)の略、Bモシキ(燃木)の約転などの説があります。

 「たきぎ(薪。焚木)」は、竈、炉などに燃料として焚く細い枝や割木です。

 「しば(柴)」は、山野に生える小さい雑木をいいます。その語源は、@シゲハ(茂葉)の義、Aシタバ(下葉)の略、B小木をいう古語ハシバから、Cシタ(重朶)の義などの説があります。

 この「すみ」、「まき」、「たきぎ」、「しば」は、

  「ツツ・ウミ」、TUTU-UMI(tutu=set on fire;(Hawaii)umi=to strangle,choke)、「(木材を)窒息させて・加熱したもの(蒸し焼きにしたもの。炭。木炭)」(「ツツ」の反復語尾が脱落した「ツ」のU音と「ウミ」の語頭のU音が連結して「ツミ」から「スミ」となった)(「すみ(墨)」、「すみ(隅。角)」は、前項の1051ふで(筆)の項を参照してください。)

  「マ・ハキ」、MA-HAKI(ma=for,by means of,by way of;haki=meek of no account,cast away)、「(燃料にする)他に・使い道がないもの(薪)」(「マ」のA音と、「ハキ」のH音が脱落した語頭のA音が連結して「マキ」となった)
 (なお、「まき」と同音の「牧(まき)」、巻狩りの「巻(まき)」、書物の「巻(まき)」、同一の血族集団をさす「巻(まき。まけ。まく)」は、雑楽篇(その一)の354牧(まき)の項を、「槇(まき)」については雑楽篇(その二)の528まき(槇)の項を参照してください。)

  「タキキ」、TAKIKI(stripped bare,cropped short)、「(皮をはいだ枝条や千切れた短い枝条など)半端なもの(薪)」

  「ヒパ」、HIPA(pass,exceed in length(whakahipahipa=irregular,of different lengths or heights))、「(大小長短)さまざまの(枝条。柴)」((PPN)SIPA「シパ」のS音がH音に変化して「ヒパ」となった)
 なお、同音の「しば(芝)」(路傍や空き地などに生えるイネ科植物などの茎葉の細い草)は「チ・パ」、TI-PA(ti=throw,cast;pa-clump,flock)、「(野に)放り出されて・密集して生えている(草。芝)」と解します。

の転訛と解します。

1053ぞうり(草履)・わらじ(草鞋)・わらんじ(草鞋)・わらんず(草鞋)・わらうず(草鞋)・わらぐつ(藁沓)

 草履は、藁(わら)やイグサ、竹皮などの植物を編んでつくった履物の総称です。わが国には古くから、沓(くつ:靴)のように足をつつむ履物と、下駄のように足の指を鼻緒につっかける履物とがありました。草履は後者に属します。また、旅行用などに用いられた草鞋(わらじ)は、古くは「わらんじ」、「わらんず」または「わらうず」と呼ばれ、イグサや麻などでつくられた沓の形をしていたとする説があります。

 この「ぞうり」、「わらじ」、「わらんじ」、「わらんず」、「わらうず」、「わらぐつ」は、

  「トウ・リ」、TOU-RI(tou=anus,lower end of anything,tail of a bird;ri=screen,protect,bind)、「(体の下端)足を・保護するもの(履き物。草履)」(「トウ」が「ゾウ」となった)
  または「タウ・リ」、TAU-RI(tau=come to rest,settle down,be suitable;ri=screen,protect,bind)、「(足を)保護して・(履き心地が)快適なもの(履き物。草履)」(「タウ」のAU音がOU音に変化して「トウ」から「ゾウ」となった)

  「ワラ・チ」、WHARA-TI(whara=a plant(possibly applied to any plant with ensiform leaves);ti=throw,overcome)、「(細長い剣先状の葉をもつ植物)藁で作ったもので・(足に履いて)履き潰すもの(草鞋)」(「チ」が「ジ」となった)

  「ワラ・ナチ」、WHARA-NATI(whara=a plant(possibly applied to any plant with ensiform leaves);nati=pinch or contract,weave a net)、「(細長い剣先状の植物)藁で・密に編んだもの(履き物。草鞋)」(「ナチ」が「ンジ」となった)

  「ワラ・ナ・ツツ」、WHARA-NA-TUTU(whara=a plant(possibly applied to any plant with ensiform leaves);na=by,belonging to,by way of;tutu=move with vigour)、「(細長い剣先状の植物)藁(で作ったもの)で・元気よく歩く・ためのもの(履き物。草鞋)」(「ナ」が「ン」と、「ツツ」の反覆語尾が脱落して「ツ」から「ズ」となった)

  「ワラ・アウ・ツツ」、WHARA-UTU(whara=a plant(possibly applied to any plant with ensiform leaves);au=firm,intense;tutu=move with vigour)、「(細長い剣先状の植物)藁で・密に編んだ・元気よく歩くためのもの(履き物。草鞋)」(「アウ」のAU音がOU音に変化して「オウ」となり、「ワラ・オウ」が「ワロウ」と、「ツツ」の反覆語尾が脱落して「ズ」となった)

  「ワラ・クフ・ツツ」、WHARA-KUHU-TU(whara=a plant(possibly applied to any plant with ensiform leaves);kuhu=thrust in,insert,conceal;tutu=move with vigour)、「(細長い剣先状の植物)藁(で作ったもの)の・中に(足を)入れて・元気よく歩くためのもの(履き物。藁沓)」(「クフ」のH音が脱落して「グ」と、「ツツ」の反覆語尾が脱落して「ツ」となった)

の転訛と解します。

1054げた(下駄)・せつた(雪駄)・はなお(鼻緒)

 下駄は、鼻緒(はなお)に足をつっかける履き物の一種で、日本独自のものか、大陸伝来のものかは不明ですが、かなり古くから存在したことは確かで、弥生後期の登呂遺跡(静岡県)でも水田で用いられる「田下駄(たげた)」が発掘されています。また、草履の一種の雪駄(せつた)は、イグサ草履の裏に竹の皮や革をつけたものが祖形となって発達した履物です。

 この「げた」、「せった」、「はなお」は、

  「(ン)ガイ・イ・タハ」、NGAI-I-TAHA(ngai=tribe or clan;i=past tense,from,beside,with,by,at,upon;taha=side,margin,edge)、「(平たい面をもつもの)板の・上に(足が)載る・部類の履き物(下駄)」(「(ン)ガイ」の語尾のI音と「イ」のI音が連結し、NG音がG音にAI音がE音に変化して「ゲ」と、「タハ」のH音が脱落して「タ」となった)

  「タイツ・タハ」、TAITU-TAHA(taitu=taken up,lift;taha=side,margin,edge)、「(地面に接する裏)面に・(竹皮や革などを)裏打ちして高くした(履き物。雪駄)」(「タイツ」のAI音がE音に変化して「テツ」から「セッ」と、「タハ」のH音が脱落して「タ」となった)(このせった(雪駄)については、国語篇(その二十一)の1434せったの項を参照してください。)

  「ハ(ン)ガ・アウ」、HANGA-AU(hanga=make,build,fashion;au=firm,intense)、「(足を履き物に)しっかりと・(組み上げて)密着させるもの(鼻緒)」(「ハ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ハナ」と、「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」となった)

の転訛と解します。

(6) その他

 

1101だんかずら(段葛)

 

 段葛は、葛石(かずらいし)を積んで一段高くした道をいい、特に鎌倉の鶴岡八幡宮の参道の中央の一段高くなった道をいいます。葛石とは、社寺の建物の壇などの上端の縁にあって、縁石(へりいし)を兼ねる長方形の石をいいます。

 この「だんかずら」は、マオリ語の

  「タ(ン)ガ・カハ・ツラハ」、TANGA-KAHA-TURAHA(tanga=row,tier,division;kaha=rope,boundary line of land,edge,ridge of a hill;turaha=be separated,open,wide)、「(地面から)分離して(尾根のように)高くなった列(の道)」(「タンガ」のNGA音がN音に変化して「タン」と、「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「ツラハ」の語尾の「ツ」音が脱落して「ツラ」となった)

の転訛と解します。

 

1102まんぼ

 

 東海地方に散在する地下に掘られた潅漑用の取水トンネルを「まんぼ」といいます(朝日新聞平成13年3月15日付け夕刊、「窓(日本のカナート)」による)。中近東諸国などの砂漠地帯にある地下の導水トンネル、イランの「カナート」などとほぼ同じものです。

 この「まんぼ」は、マオリ語の

  「マノ・ポウ」、MANO-POU(mano=interior,heart,overflow;pou=pour out)、「水が流れ出す地中(のトンネル)」

の転訛(「マノ」の語尾のO音が脱落して「マン」と、「ポウ」の語尾のU音が脱落して「ポ」から「ボ」となった)と解します。

 上記の記事によりますと、三重県員弁郡大安町の例では、掘削されたのは200年以上前といいますから、江戸時代中期で、庶民の間に縄文語がなお生きていたことの一つの証左です。

 なお、海の魚「まんぼう」は、やや語源が異なります(「703まんぼう」を参照してください)。

1103津波(つなみ)・ヨダ(津波)

 地震・海底変動などによって起こる長波を津波(つなみ。津浪、海嘯)といい、海岸に近づくと波高を増して大きな被害を与えることがしばしばあります。我が国では三陸海岸、北海道東岸などに大きな被害を与えています。平成16年12月のスマトラ沖地震ではインド洋沿岸諸国に甚大な被害を与え、平成23年3月の東日本大震災では、岩手・宮城・福島県の沿岸部に壊滅的な被害をもたらしました。

 この津波の「津(つ)」は、「港」の意と通常解されていますが被害を被るのは港だけではありません。「つなみ」は、「ツヨナミ(強浪)」の義、また「旋浪」の義とする説があります。

 古来三陸地方では、津波を「ヨダ」と呼びました(吉村昭『三陸海岸大津波』文春文庫)。

 「ツナミ、TSUNAMI」は、現在国際学術用語として認められています。

 この「つなみ」、「ヨダ」は、

  「ツ・(ン)ガミ」、TU-NGAMI(tu=stand,be high of the sea,fight with,energetic;ngami=swallow up)、「襲いかかってくる・膨れ上がる(海。津波)」(「(ン)ガミ」のNG音がN音に変化して「ナミ」となった)

  「イオ・タ」、IO-TA(io=muscle,spur,ridge,tough,hard,obstinate;ta=dash,beat,lay)、「激烈に・襲いかかる(海。津波)」(「イオ」が「ヨ」と、「タ」が「ダ」となった)

の転訛と解します。

 

1104得体(えたい)   

「得体(えたい)が知れない」という慣用句に用いられる用語で、「正体」、「本性」の意とされます。「為体(ていたらく)」の音読「イタイ」の転とする説があります。

 この「えたい」は、

  「エ・タイ」、E-TAI(e=to denote action in progress or temporary condition,to give emphasis,why,of course;tai(e tai)=used only as a term of address to males or females)、「(何処の)誰かと・呼びかける(素性・正体が不明の相手。またその相手の素性・正体)」

の転訛と解します。

 

1105得手勝手(えてかって)

 「得手勝手(えてかって)」という慣用句に用いられる用語で、「他人のことはかまわずに、自分の都合のよいことばかり考える」ことをいいます。「手前勝手」、「自分勝手」も同じ意です。

 この「えて」、「かって」は、

  「エ・テテ」、E-TETE(e=to denote action in progress or temporary condition,to give emphasis,of course;tete=exert oneself)、「存分に・(自分の)能力を発揮する(自分の得意な技。またその技に巧みなこと)」(「テテ」の反覆語尾が脱落して「テ」となった)

  「カハ・ツテ」、KAHA-TUTE(kaha=strong,able,persistency;tute=shove,push,nudge)、「(他をかえりみずに)力強く・押しまくる(自分のしたいままに振る舞うさま)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「ツテ」が「ッテ」となった)

の転訛と解します。

1106ラーフル(黒板拭き。黒板消し)

 「黒板拭き」または「黒板消し」のことを鹿児島県、宮崎県、大分県、愛媛県などでは一般に「ラーフル」と呼びます。株式会社内田洋行、日本理化学工業株式会社などの文房具製造販売会社のカタログでも「ラーフル」と呼んでいます。
 この名称は、幕末ないし明治初めから西日本で起こったという説がありますが、定かではありません。また、この語源はオランダ語の「rafel(こする)」とする説、英語の「raffel(ぼろ布)」とする説などがありますが、ヨーロッパでは現在黒板拭きを英語の「eraser」または「sponge」およびこれらの系統に属する語で呼んでおり、どのようにしてこの語が輸入されたか疑問が残ります。

 この「ラーフル」は、

  「ラフ・ル」、RAHU-RU(rahu=basket made of strips of undressed flax;ru=shake,agitate,scatter)、「(黒板を)拭う・粗い繊維の束(黒板拭き。黒板消し)」(「ラフ」が「ラーフ」となった)

の転訛と解します。縄文語が幕末まで生きて使われていた証拠の一つと考えます。

<修正経緯>

 

 第1回 平成13年4月15日 (401,501-505,601-610,701-707,801-808,901-903,1001-1007,1101-1102)

 第2回 平成13年6月1日 (506-511,611-622,708,809-815,1008-1010)追加

 第3回 平成16年1月1日 (512-522,623-636,709-750,904-909,1011-1019)追加 

 第4回 平成16年3月1日 雑楽篇を(その一)(その二)に分割。修正(702)

 第5回 平成16年4月1日 修正(635,636)

 第6回 平成16年4月9日 修正(「708たんらのあわび」のうち平城宮跡出土木簡に「耽羅鮑」とあるのは「蚫羅鮑」の誤りであることが判明しましたので、その件を削除しました。この記述は、網野善彦「中世からみた古代の漁民」(中央公論社『日本の古代』8所収)から引用したものですが、その原典となった三重県『大王町史』に誤植があり、所載の木簡の写真から明らかなように「蚫羅鮑」とすべきところを「耽羅鮑」と印刷されていたことが判明したとの連絡が大王町からあったことによるものです。)

 第7回  平成16年10月1日 636かけ(鶏)の別解釈および809せみの別解釈を追加。

 第8回  平成17年1月1日 1103津波の項を追加。

 第9回  平成17年6月1日 734くじら(鯨)の項に「オバケ(オバイキ)」の解釈を追加。

 第10回 平成17年8月1日 402美豆良から404かつらまでの項、650雁から652亀までの項、702烏賊の項にするめの解釈、751いかなごの項および1021柱から1048釘までの項を追加。

 第11回 平成17年10月1日 523竹から599-13苔までの項および752牡蠣の項を追加。

 第12回 平成17年12月1日 512柏の解釈を修正したほか、708耽羅(たんら)鰒についての第6回修正の前提となる事項について新しい事実が判明しましたので、追加修正。

 第13回 平成18年2月1日 1047鋸の項に「鋸(のほきり)」、「大鋸(おが)」、「玄翁(げんのう)」の解釈を追加。

 第14回 平成18年4月1日 599-14おみなえし(女郎花)の項を追加、1041壺の項に「銚子(ちょうし)」、「徳利(とくり)」、「杯(さかづき)」、「高坏(たかつき)」の解釈を追加。

 第15回 平成18年8月1日 653こうもり(蝙蝠)・かはほり・こうぼりの項、654りす(栗鼠)・むささび・もま・ももんがの項、655もぐら(土竜)・ひみずの項を追加、1017タタラの項に「ノロ」、1038炉の項に「焜炉」、「かんてき」、1040釜の項の甑に「轂(こしき)」の解釈を追加。

 第16回 平成19年1月1日 523たけ(竹)の項に「たかむな(筍)」の解釈を追加、599-15いちご(苺)・いちびこ(苺)の項を追加、702いかの項中「するめ」の解釈を修正。

 第17回 平成19年2月15日 インデックスのスタイル変更に伴い、本篇のタイトル、リンクおよび奥書のスタイルの変更、<次回予告>の削除などの修正を行ないました。本文の実質的変更はありません。

 第18回 平成19年6月1日 1011-2しょうちゅう(焼酎)・あわもり(泡盛)・くうす(古酒)の項を追加。

 第19回 平成19年8月1日 656ひばり(雲雀)の項を追加、702げそ(烏賊の足)の項に「げそく(下足)」の解釈を追加。

 第20回 平成19年9月20日 1011酒(さけ)の項にみわ(神酒)の解釈を追加、1015-2反子(そりこ)舟の項を追加。

 第21回 平成19年10月15日 1049はそう(瓦偏に泉)・はんぞう(半挿。楾。はこがまえに也)・たしらか(多志良加。甕)の項、1050べに(紅)・おしろい(白粉)・はふに(白粉)・ぱっちり(襟白粉)・かね(鉄漿)の項、1051ふで(筆)・すずり(硯)・すみ(墨)・かみ(紙)・やたて(矢立)の項および1052すみ(炭・木炭)・まき(薪)・たきぎ(薪)・しば(柴)の項を追加。

 第22回 平成19年11月15日 528まき(槇)および1052まき(薪)の項に同音の「まき」の参照記事を追加し、599-16しいな(粃・秕)・しいなせ・しいなし・しいら・しいたの項および753しいら(魚偏に暑)の項を追加しました。

第23回 平成20年3月1日 537あさ(麻)の項ににお(熟麻)およびけむし()の解釈を追加し、537-2ちょま(苧麻)・からむし(苧麻)・まお(真苧)・お(苧)・あおそ(青苧)・たに(商布)・さよみ(貲布)の項、599-17ぼけ(木瓜)の項および817かいこ(蚕)・まゆ(繭)・まよ(繭。古形)・けご(毛蚕)・さなぎ(蛹)の項を追加しました。

 第24回 平成21年9月28日 804だんぶり(蜻蛉)の解釈を修正しました。

 第25回 平成22年5月20日 541いたどり(虎杖)の項に「しゃじなっぽー」(岡山県方言)を追加しました。

 第26回 平成23年1月1日 625しか(鹿)の項に「かもしか(羚羊。氈鹿)」および「となかい(馴鹿)」の解釈を追加し、657とら(虎)の項、658ひつじ(羊)・やぎ(山羊)・やぎゅう(野牛(山羊の異名))の項、710-2クニマス(国鱒)の項および734-2あざらし(海豹)・あしか(海驢)・とど(海馬)・おっとせい(膃肭臍・せいうち(海象)の項を追加しました。

 第27回 平成23年2月1日 542いね(稲)の項の「わせ(早稲)」、「なかて(中生)」および「おくて(晩稲)」の解釈の一部を修正しました。

 第28回 平成23年5月1日 506けやき(欅)の項に「つき(槻)」の解釈を追加し、514くわ(桑)の項の「くわ(鍬)」の解釈を修正し、538こうぞ(楮)の項に「ゆう(木綿)」および「ぬさ(幣)」の解釈を追加し、539わた(棉)の項の一部を修正し、543むぎ(麦)の項の「すいとん」および「そうめん(素麺)」の解釈の一部を修正し、562だいこん(大根)の項に「おおね(淤富泥。古名)」の解釈を追加するとともに「たくわん」の解釈を修正し、569ごぼう(牛蒡)の項の「うまふぶき(牛蒡。古名)」の解釈の一部を修正し、571まめ(豆)の項の「ささげ(大角豆)」および「えんどう(豌豆)」の解釈の一部を修正し、1103津波(つなみ)の項に「ヨダ(津波)」の解釈を追加しました。

 第29回 平成23年7月1日 618やまかがし(山棟蛇)の解釈を一部修正し、711イクラの項の「はららご(筋子の古名)」の解釈を修正し、724あじ(鰺)の項の「むろ(あじ)」の解釈を修正し、734くじら(鯨)の項の「クジリ(鯨)」および746かに(蟹)の項の「ズワイガニ」の解釈の一部を修正しました。

 第30回 平成23年11月1日 501さくら(桜)の項に「かにわ(桜皮)」の解釈を追加し、625しか(鹿)の項の「かもしか(羚羊。氈鹿)」の解釈を修正し、1104得体(えたい)の項、1105得手勝手(えてかって)の項および1106ラーフル(黒板拭き。黒板消し)の項を追加しました。

 第31回 平成23年12月25日 1053ぞうり(草履)・わらじ(草鞋)・わらんじ(草鞋)・わらんず(草鞋)・わらうず(草鞋)・わらぐつ(藁沓)の項および1054げた(下駄)・せった(雪駄)・はなお(鼻緒)の項を追加しました。

 第32回 平成24年3月1日 806てびらこおよび807かわひらこの解釈を修正しました。

 第33回 平成24年4月1日 530いちょう(銀杏)・ぎんなん(銀杏)および552たらのき(針桐)の解釈を修正し、同項に「とげ」の解釈を追加し、554さんしょう(山椒)の項のはじかみ、564さといも(里芋)、572こんにゃく(蒟蒻)、580びわ(枇杷)、583あけび(木通。通草)、586やまぶき(山吹)、599とりかぶと(鳥兜)、599-3あおい(葵)、599-8すいせん(水仙)、599-15いちご(苺)の項のいちびこ(苺)および805ちょう・ちょうちょう(蝶)の解釈を修正しました。

 第34回 平成24年5月1日 586やまぶき(山吹)の解釈を修正しました。

 第35回 平成24年7月1日 628いぬ(犬)の解釈を修正しました。

 第36回 平成25年2月1日 543むぎ(麦)の項のそうめんの解釈および744なまこ(海鼠)の項のコノワタの解釈を修正し、1038炉(ろ)の項に「七輪(しちりん)」の解釈を追加しました。

 第37回 平成25年7月15日 750こぶの項の海苔および板海苔の解釈の一部ならびに1011酒(さけ)の項の杜氏(とうじ)の解釈を修正しました。

 第38回 平成26年8月5日 599-18どくだみの項、599-19またたび(木天蓼)の項および754まてがい(馬刀貝)の項を追加しました。

 第39回 平成28年12月15日 1053ぞうり(草履)の項のわらじ(草鞋)の解釈を修正しました。

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<読者の方々へお願い>

 

 民俗語彙、方言語彙などで皆様が疑問に思っている語彙、意味を知りたいと思っている語彙がございましたら、ご意見とともに是非お知らせください。できるものからポリネシア語により解釈を試み、この雑楽篇にも収録して行きたいと考えております。

 

        雑楽篇(その二) 終わり


 
U R L:  http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/
タイトル:  夢間草廬(むけんのこや)
       ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源
作  者:  井上政行(夢間)
Eメール:  muken@iris.dti.ne.jp
ご 注 意:  本ホームページの内容を論文等に引用される場合は、出典を明記してください。
(記載例  出典:ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/timei05.htm,date of access:05/08/01 など)
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