国語篇(その三)


国語篇(その三)<韓国語語源説批判>

(平成16-3-1書込み。平成24-10-1最終修正)(テキスト約34頁)


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目 次

第1 はじめに

第2 李寧煕『日本語の真相』に例示された語源の検討

第3 「李寧煕の変転の法則」(講演会資料)の検討

第4 金公七『万葉集と古代韓国語ー枕詞に隠された秘密』の枕詞の解釈の検討

<修正経緯>

 

 

<韓国語語源説批判>

 

第1 はじめに

 

 私は、”韓国語が日本語の語源だ”とする説は誤りであると考えます。多数の韓国人および日本人がこの説を唱えていますが、ここでは李寧煕氏および金公七氏の説を取り上げて批判を行います。ただし、『万葉集』の語彙の一部およびその他の日本語の語彙の一部の語源については、まだ私の検討が不十分のため、結論を留保します。

(注1)ここで批判の対象とする李寧煕氏および金公七氏の説は、(1)李寧煕『日本語の真相』文春文庫、1994年、(2)「李寧煕の変転の法則」(平成3(1991)年6月26日に東京プレスセンターにおいて行われた講演会の配布資料)および(3)金公七『万葉集と古代韓国語』ちくま新書、1998年です。

(注2)この稿をまとめるにあたって西脇幸雄『古代朝鮮語で日本の古典は読めるか』大和書房、1991年および安本美典『新・朝鮮語で万葉集は解読できない』JICC出版局、1991年を参考にしました。

 

 その誤りとする理由は、次の通りです。

 

1 李寧煕氏および金公七氏が主張する韓国語から変化したとする日本語は、韓国語とその音韻があまりにも甚だしく異なっています。

 李女史は、相当部分の日本語は、韓国語の音韻変化によるものではなく、日本語の表記に用いられた漢字の吏読読みが日本風の読みに変化したことによる音韻変化と解釈し(したがってこの場合韓国語と日本語との間の音韻変化の対応性は最初から全く存在しないことを認めています)、他方金氏は、万葉集の枕詞について韓国語から日本語への直接の音韻変化を証明することは最初から諦め、日本語表記の漢字の字義からそれに対応する意味をもつ韓国語を探し、枕詞によって修飾される被枕詞との意味的な一致関係を求めるといったまわりくどい、理解に苦しむ方法をとっています。

 これに対し、日本語と音韻が全く同一か、極めて僅かしか変化していない、すなわち日本語の真の語源と考えられるポリネシア語が存在し、しかも、その意味が日本語と全く一致するばかりか、韓国語よりも日本語により近い(より本質を明確に示す)意味を有しています。

 

2 李女史が主張する韓国語から音韻が変化したとする例のうち、とくに子音の変化で恒常的に韓国語の濁音が日本語では清音に変化するということは日本人の言語感覚ではまずあり得ない(子音が清音から濁音に変化することは通常存在しますが、その逆は稀にしか起こらない)と考えます。

 また、(2)の「法則その七」のようにア行音(母音)がg・k音(子音)に変化するということはあり得ないと考えます。語頭の子音が脱落することはあり得ますが、もともと無かった子音が付加されることはなく、それがあると主張することは全く別の単語を変化したものと主張していることであると考えます。

 

3 李女史の(2)の「法則その八」は、漢音、唐音または呉音で読まれる日本語の漢字の発音が、韓国語の漢字の発音(吏読)から変化したと主張しています(例えば「法則その八」の韓国語のダング(当・党・唐)→日本語のとう(当・党・唐)や、「法則その九」の韓国語の「ジル(質)」→日本語の「しつ(質)」)が、これらはもともと中国語であって、日本語の語源とすること自体が誤りであり、李女史は日本語の基礎的知識を全く持っていないことを証明するもので、また、漢字の読み方(発音)がすべて韓国から伝わった韓国式読みの音韻変化であるということは誤りと考えます。

 

4 李女史は古代韓国語が日本語の語源であったといいながら、単語の比較は殆どが現代韓国語と現代日本語とで比較しています。しかも、その比較している単語とその意味の解釈は正確性を欠いています。

 例示している韓国語の単語は、一語なのか複合語なのかが明確でありません。また、その意味の解釈がすべて正確とは思われません。

 例えば、(1)の73頁の韓国語の「ヲサ(長)」は「(人々の)長」であるといいながら、その語が物理的に「長い」意味をも持つかどうかに言及することなしに飛躍して「ヲサ・ギィ(長・耳。兎)」と解釈するのは極めて疑問です(漢字の「長」には「老」と「長」の意味が含まれていても、韓国語に当然に含まれるとは限らないと考えるのが通常の判断です)。

 また、例えば(1)の45頁の「とんぼう」という日本語は、『広辞苑』(第4版)にも、岩波書店『古語辞典』にも、小学館『日本国語大辞典』(旧版)にも収録されていません。『日本国語大辞典』には「とんば」(茨城・徳島方言)、「とんぱ」(千葉方言)の語が収録されていますが、音韻変化がテーマなのですから、比較対照の語彙は正確でなければ比較の意味がありません(どこの方言かわからない単語を例示したのでは信憑性がないというべきです)。

 さらに、古代韓国語がどのようなものであったか、新羅語、百済語がどのように変化して現代韓国語となったかが殆ど触れられていません。さらに李女史が示す古代韓国語なるものの出典が明示されておらず(記紀、万葉集よりもはるかに時代が新しい11世紀ないし13世紀に記録された僅かな郷歌と12世紀の『鶴林類事』、『朴通事諺解』の僅かな語彙に求めているようですが、これらは中世韓国語であって古代韓国語ではありません)、古代韓国語の辞典が編纂されているわけでもなく、この語源説を検証しようとしても全く不可能です。しかも「高句麗、百済系の古代語が日本語の中から化石のように掘り出される」(p180)などは本末転倒も甚だしいというべきです。(私の語源説は、比較方法論を明示し、かつ依拠する辞典類はすべてISBNコード付きでインターネットに公開しています。)

 

5 李女史の(2)の「法則その十二」の一部(例えば「べべ(着物)」、「まんま(ご飯)」など)には音韻・意味が殆ど一致しているものがありますが、これらについても音韻の一致するポリネシア語が存在することからすると、日韓共通の語源としてのポリネシア語の存在が想定されます。古代において九州北部と朝鮮半島南部はいわゆる「倭」の領域であり、ポリネシア語を祖語とする共通の言語(縄文語)を使用していたと考えられますので、韓国語よりもポリネシア語の語源の方が圧倒的に日本語の音韻に近く、かつ意味も近いことの説明がつくと考えます。

 

6 (1)の276頁の「宗像(むなかた)」を「ム・ナ・カ・タ」と一音づつに分解して語源解釈をしていますが、このような方法は誤りの可能性が高いことに留意する必要があります。

 言葉には、いろいろな意味が含まれます。その全体像を把握することなく、単語を恣意的に音節に区切って、いろいろの意味がある中の一つの意味を取り出して繋ぎ合わせて解釈すると、大きな誤りを犯すことがあります。(これは私の経験でもあります。)

 一音節の単語、例えば「サ」、「シ」、「ス」、「セ」など、それぞれが一つの単語として複数・多数の、広い意味をもつことは当然ですが、発音が異なるということは、原則としてそれぞれ別の意味をもつ、母音の違いによって異なる意味が持たせてあるということです。「サ」、「シ」、「ス」、「セ」が全部それぞれ「鉄」、「金属」の意味であるという説がありますが、このようなことは通常は全くあり得ないことです。

 単語は、また二音節、三音節と組み合わせを連ねることによって、次次に複雑な意味を持たせてゆきます。多音節になればなるほど、その意味は専門化、特定化し、狭い意味しか持たないようになります。

 地名、人名などの解釈は、言葉の全体像が把握できる辞書を頼りに、多音節の単語で音韻が一致するものがないかどうかを探すことから始めるべきで、いたずらに一音節に単語を区切って、一音ごとに意味をつまみ食いして繋げて解釈することは、私の経験からしても、間違いの元であると考えています。

 

7 金氏の解釈は、万葉集の枕詞について韓国語から日本語への直接の音韻変化を証明することは最初から諦め、中国でcocktailを鶏尾と翻訳しているのと同じことが行われたという仮定の下に、日本語表記の漢字の字義からそれに対応する意味をもつ韓国語を探し、枕詞によって修飾される被枕詞との意味的な一致関係を求める方法を採っています。この結果、日本語と韓国語の語彙の対応関係は単語と単語の音韻・意味の対応ではなく、音韻対応を無視した語句全体の意味の対応を求めたために、同じ意味をもついくつかの単語から恣意的に選択した単語を並べて解釈するという厳密さを欠いた全く大ざっぱなものとなっています。

 このため、枕詞と被枕詞の意味的な一致関係を求めるあまり、語句の解釈のこじつけによる抽象的、一般的な広い意味として解釈する傾向が顕著にみられます。やはりこれは言語の比較方法論として誤りというべきでしょう。万葉集の歌人が歌を詠む場合にすべて韓国語で修飾語を考え、それを翻訳して枕詞としていたなどということは、作歌法として信じ難いことです。

 

(注)以下の○印はそれぞれの書に記された韓国語語源説です。(韓国語→日本語として整理し、括弧内に記載頁を付します。)

 ☆印はその説に対する反論または韓国語語源として示された日本語のポリネシア語語源説です。(ポリネシア語は原則としてマオリ語により、ハワイ語による場合はその旨を特記します。)

 

第2 李寧煕『日本語の真相』(文春文庫、1994年)に例示された語源の検討

 

第一章 日本語はこうして韓国語から生まれた

 

○友((古)ドンモ。dong-mo)→ともtomo(p24)

☆友(とも)、「トモ」、TOMO(pass in,enter,begin,assault,take by assault,storming party)、「(仲間に)入ったもの(友)」または「(行動を共にする)戦友」 

 

○女神((古)ガム。gam)→かみkami(p25)

☆神(かみ)、「カミ」、KAMI(eat)、「(人を)征服するもの(神)」

 

○母(パパ。papa)→ははhaha(p26)

☆母(はは)、「パパ」、PAPA((Hawaii)flat surface,foundation,purification of woman,wife of Rangi)、「(創造神ランギの妻であり、大地の神である)母」

 

○皮(カパ。kapa)→かはkaha(p26)

☆皮(かわ)、「カ・ワ」、KA-WHA(ka=take fire,be lighted,burn;wha=be disclosed,get abroad)、「(身体から)剥がして・乾燥したもの(皮)」

(参考)(1)川(かわ)、「カワ」、KAWA(heap,reef of rocks,channel,passage between rock

s or shoals)、「水路(川)」または「浅瀬(川)」

(2)側(かわ)、「カハ」、KAHA(rope,noose,boundary line of land,edge)、「側(かわ)」または「端(はし)」

 

○達((古)ダル。dal)→だちdati(漢字の日本風読みから)(p29)

☆達(たち)、「タ・アチ」、TA-ATI(ta=the...of;ati=offspring,descendant,clan)、「仲間(達)」(「タ」のA音と「アチ」の語頭のチ音が連結して「タチ」となった)

(注)漢字「達」の漢音は「タツ」、呉音は「ダチ」ですが、韓国語を経由して漢語が入つたというよりは、呉音が直接入つたとき、すでに縄文語に同音同義の語彙があったと解するべきでしょう。

 

○「じやない(ではないか)」→じゃない(p30)

☆「じゃない」という表現は、現代の口語体であり、上代に韓国語から変化したものとは到底考えられません。

 

○等耶((古)ダラ。da-raの吏読)(ドウラ。deung-ra→deu-raの吏読)→「とや(不確実な伝聞を示す助詞)」(p32)

☆「とや」、「トイ・イア」、TOI-IA(toi=be moist,exude;ia=indeed)、「実に・はっきりしない」(「トイ」の語尾のI音と「イア」の語頭のI音が連結して「トヤ」となった)

 

○包み入れる(ボグム)→ふくむ(含む)(p37)

☆「含む」、「プク・ム」、PUKU-MU(puku=swelling,abdomen,entrails,swell;mu=silent)、「無言で・内蔵する(含む)」(「プク」のP音がF音を経てH音に変化して「フク」となった)

 

○支柱材(添え物、調味料)(バチ(支え、添え)・ガム(材、物))→はじかみ(山椒、生薑など香辛料)(p37)

☆「パチ・カミ」、PATI-KAMI(pati=try to obtain by coaxing,flattery,etc.:kami=eat)、「(舌を)喜ばす・食べ物(香辛料)」(「パチ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハチ」から「ハジ」となった)

 

○海(バダ)→わだ(海)(p38)

☆「ワタ」、WHATA(elevate,hang,be laid,rest)、「(悠々と)横たわっている(存在。海)」

(なお、海(わたつみ)は、「ワタ・ツ・ミ」、WHATA-TU-MI(whata=elevate,hang,be laid,rest;tu=stand,settle,firgt with,energetic;mi=stream,river)、「(悠々と)横たわって・いる・(大きな)川(海)」)

 

○下の者(身分の非常に低い者)(バダクチ)→わたくし(私)(p38)

☆「ワタ・クチ」、WHATA-KUTI(whata=elevate,bring into prominence,hang,be laid,protorude,stand out;kuti=contract,pinch)、「身体を縮めて(小さくなって)・控えている(者)」

 

○勧誘語(ジャジャ)→さあさあ(勧誘語)(p39)

☆「タ」、TA(a term of address,cccasionally it may be translated "friend")、「友よ(どうぞ)」の反復語

 

○尊属のお年寄りの女性(古語パパ、婆婆)→はは(母)(p39)

☆「パパ」、PAPA(anything broad or flat,foundation,God of ground)、「(大地の)女神(主婦)」

 

○咲く(ペナ)→はな(花)(p39)

☆「パパ・アナ」、PAPA-ANA(papa=burst,expload,break off suddenly or shortly;ana=denoting continuance of action or state)、「(急に爆発するように)開く・もの(花)」(「パパ」のP音がF音を経てH音に変化し反復語尾が脱落して「ハ」となり、「ハ」のA音と「アナ」の語頭のA音が連結して「ハナ」となった)

 

○堤(ドウク)→つか(塚)(p39)

☆「ツ・ウカ」、TU-UKA(tu=stand,settle,firgt with,energetic;uka=hard,firm,be fixed)、「(土を)堅く・積み上げたもの(塚)」(「ツ」のU音と「ウカ」の語頭のU音が連結して「ツカ」となった)

 

○何処(オドウレ)→いずれ(何処)(p39)

☆「イツ・レイ」、ITU-REI(itu=side;rei=there)、「(どこかの)彼方の・あたり」

 

○遊び遊び行動するさま(古語ノロノロ)→のろのろ(のろいさま)(p39)

○ひそかにするさま(ソロソロ)→そろそろ(徐々に)(p39)

☆(1)「ナウ・ロア・ナウ・ロア」、NAU-ROA-NAU-ROA(nau=come,go;roa=long,long of time,delayed)、「ゆっくり・ゆっくり・やって来る(さま)(「ナウ」のAU音がO音に変化して「ノ」と、「ロア」の語尾のA音が脱落して「ロ」となった)」

(2)「トロトロ」、TOROTORO(put forth the hands,spy out,stir a fire,a climbing plant,an ant)、「(蟻のように)ゆつくりと(行動するさま)」

 

○サム(生)→すむ(住む・棲む)(p39)

☆「ツ・ム」、TU-MU(tu=stand,settle;mu=silent)、「(ひそかに)住む」

 

○ネリ(宣下)→のり(法)(p39)

☆「(ン)ガウ・リ」、NGAU-RI(ngau=raise a cry,indistinct of speech;ri-bind,screen,protect)、「不明瞭な言語を・連ねる(「託宣を下す」が転じて「法」、「則」となった)」(「(ン)ガウ」のNG音がN音に、AU音がO音に変化して「ノ」となった)

 

○ガンナイ(女)→かない(妻)

☆家内は漢語で、(1)家族、家人、(2)妻(とくに自分の妻を謙遜していう)の意味です。韓国語語源とすることは誤りです。

 

○グジュ(汚物)→くず(屑)

☆「クフ・ウツ」、KUHU-UTU(kuhu=insert,conceal;utu=dip up water etc.,dip into for the purpose of filling)、「(地中に)埋め込んで・隠すもの(屑)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」となった)

 

音韻変化の法則(p42)

 

b系音の場合

 

(1)韓国語のb音が日本語のf音になる

 

○ブル(火・bul)→ふ(火の上代東国語形)(p43)

☆「アヒ」、AHI(fire)、「火」(語頭のA音が脱落(複合語の語頭の定冠詞のAがしばしば省略される例にひきずられた)して「ヒ」となった)

(注)「ふ」を「火」とすること自体が誤りと解します。

 そもそも韓国語が変化して「ふ」となったものであれば、なぜ関西に「ふ」がなく、東国のみにあるのか説明がつきません。

 『万葉集』(20-4419)の「あしぶ(を焚く)」(佐々木信綱編『新訓万葉集下』岩波文庫、1927年)を「葦火(を焚く)」と解釈して「ふ」を「火」としていますが、この「あしぶ」は、「ア・チプ」、A-TIPU(a=the...of,belonging to;tipu=tupu=shoot,bud)、「木の若枝の・類(柴)」と解されます。

 

○ボグム(含)→ふくむ(含む)(p43)

☆既出(p37)

 

(2)韓国語のb音が日本語のw音になる

 

○バダ(海。ba-da)→わだ(海)(p43)

☆既出(p38)

 

○バダクチ(身分の低い下の者)→わたくし(私)(p43)

☆既出(p38)

 

(3)韓国語のb音が日本語のh音になる

 

○ボビ(選ぶこと)→ほうび(褒美)(p43)

☆褒美は漢語語源です。

 

○バチルア(天井ささえ。ba-chil-a)→はしら(柱)(p43)

☆「ハハ・チラ」、HAHA-TIRA(haha=desolate,deserted;tira=fin of a fish,mast of a canoe)、「(舟から)取り外された・帆柱(ただの柱)」(「ハハ」の反復語尾が脱落して「ハ」となった)

 

p系音の場合

 

韓国語のp音が日本語のh音になる

 

○パパ(老媼。pa-pa)→はは(母)(p43)

☆既出(p26,p39)

 

○ペナ(咲。pae-na)→はな(花)(p43)

☆既出(p39)

 

j系音の場合

 

韓国語のj音が日本語のs音になる

 

○ジャジャ(勧誘語。ja-ja)→ささ・さあさあ(勧誘語)(p44)

☆既出(p39)

 

○ジャンチ(祝宴・漁や狩りによって得た小さい物。jan-chi)→さち(幸)(p44)

☆既出(p39)

 

d系音の場合

 

韓国語のd音が日本語のts音またはz音になる

 

○ドウク(堤。duk)→つか(塚・土を盛り上げた所)(p44)

☆既出(p39)

 

○オドウレ(何処。eo-deu-le)→いずれ(何れ・何処)(p44)

☆既出(p39)

 

ch系音の場合

 

韓国語のch音が日本語のs音またはj音になる

 

○バダクチ(身分の低い下の者)→わたくし(私)(p43、p44)

☆既出(p38)

 

○バチガム(添え物、調味料の意。bad-chi-gam)→はじかみ(山椒、生薑などの古名)(p44)

☆既出 (p37)

 

終声ng系音の場合

 

韓国語の終声ng音が日本語のu音になる

 

○トン(筒、桶。tong)→どう(筒)(p45)

☆「筒(とう)」、「桶(とう)」は漢字の音読みであり、韓国語語源とするのは誤りです。

 

○ドムボン(そそっかしい、そこつ者。deom-beong)→とんぼう(そこつ者)(p45)

☆「トヌ・ウパ」、TONU-UPA(tonu=still,continually,quite,just;upa=fixed,at rest,satisfied)、「ずっと・(頭の働きを)休めたままの(人)」(「トヌ」の語尾のU音が「ウパ」の語頭のU音と連結して「トヌパ」から「トンパ」、「トンバ」となった)

(注)「とんぼう(そこつ者)」という日本語は、『広辞苑』(第4版)にも、岩波書店『古語辞典』にも、小学館『日本国語大辞典』(旧版)にも収録されていません。『日本国語大辞典』には「とんぼう」の意味は「蜻蛉」、「風俗などが人情に厚く誠実なこと」などとあって「そこつ者」という意味はなく、「とんば(軽率な者)」(茨城・徳島方言)、「とんぱ(軽率な者)」(千葉方言)の語が収録されているだけです。音韻変化がテーマなのですから、比較対照の語彙は正確でなければ比較の意味がありません(どこの方言かわからない単語を例示したのでは信憑性がない)というべきです。

 

 

第2章 身体語、頭からおでこ・おっぱい・手・足まで

 

○ア(端)・タム(丸)→あたま(頭)(p52)

☆「ア・タマ」、A-TAMA(a=the...of,belonging to;tama=emotion,desire,strong feeling)、「(感情、意志などの源である)魂の・宿る場所(頭)」

 

○マラ(頭、頂、身分の高い男性、王を意味する古語。マル、マリとも。)→マロ(麻呂、麿)、マル(丸)(p53)

☆(1)「マロ」、MARO(a sort of kilt or apron worn by males and females)、「(まわしを付けた)正装した(身分の高い。男女)」

(2)「マル」、MARU(power,authority,shelter,shield)、「強い力がある(人。刀など)」または「人を護るもの(船、城など)」

 

○チュモ(頂、首長、王)→つむ(頭)、つむり(頭)(p53)

☆「ツム」、TUMU(promontry,headland,stump,contrary of wind)、「(身体から)突き出ているもの(頭)」または「ツム・ウリ」、TUMU-URI(tumu=promontry,headland,stump,contrary of wind;uri=descendant,relative)、「(身体から)突き出ている・類のもの(頭)」

 

○チュモ(王)・ガル(ガリ。刀)→つむがり(都牟刈)(太刀)(p53)

☆「ツム・(ン)ガリ」、TUMU-NGARI(tumu=promontry,headland,stump,contrary of wind;ngari=disturbance,great,power)、「向かい風を起こして・(迫る危険を)妨害する(強い力を持つ。刀)」(「(ン)ガリ」のNG音がG音に変化して「ガリ」となった)

 

○デゴル(頭)→でこ(額、木偶)(p55)

☆「テコ」、TEKO(rock,isolated,standing out(tekoteko=carved figure on the gable of a house,figurehead of a canoe))、「突出した部分(額)」または「(舟の舳先に付けた神像のような)木彫の人形(またはその首)」

 

○デクル(頭)→でくる(木偶)(p56)

☆「テ・クル」、TE-KULU(te,tete=young shoot,figurehead of a canoe without arms and legs;(Hawaii)kulu=timber)、「木製の・(舟の舳先に付けた手足のない神像のような)人形」

(注)「でくる(木偶)」という語は小学館『日本国語大辞典』(旧版)には見当たりません。なお、「でくるぼう(でくのぼう。木偶坊)」は、「テ・クルポ」、TE-KULUPO(te,tete=young shoot,figurehead of a canoe without arms and legs;kurupo=abscess,putrefying sore)、「腐った・(舟の舳先に付けた手足のない神像のような)人形のような(自分の意志では動けない、または何の役にも立たない。人間)」の転訛と解します。

 

○メエ(古語meo。集め、目、眼、山、墓、米(飯)、女陰)→め(目、眼)(p57)

☆「マイ・アイ」、MAI-AI(mai=hither,to indicate direction or motion towards;ai=expressing the reason for which anything is done or the object in view in doing it,marking the time or place of an action or event)、「人や物の動きを追って・しっかりと把握するもの(目)」(「マイ」および「アイ」のAI音がE音に変化して「メ・エ」から「メ」となった)

(注)目(眼)はマオリ語で「マタ、MATA(eye)」、ハワイ語で「マカ、MAKA(eye)」なのに「マイ・アイ」といったのは、縄文人または倭人が大陸または半島からの渡来人に対し「目」の機能を説明した言葉がそのまま名詞として理解され定着したものかと考えられます。

 なお、韓国語の「メエ(山、墓)」に相当する語(韓国語自身の語源と考えられる縄文語)は、「メ・ウエ」、ME-UE(me=as if like;ue=push,shake,an incantation recited uponthe roof of a house)、「(新築の家の屋根の上でお祓いをするように、その上で)お祓いをする場所・のような所(山、墓)」、「米」は「メ」、ME((Hawaii)to lap up water)、「水を(舐めるように)吸う(作物。稲。その穀物(米))」(なお、この「米」は、「コメ」、KOME((Hawaii)papyrus,bulrush)、「パピルス(のような植物)」または「コ・メ」、KO-ME(ko=a wooden implement for digging or planting;(Hawaii)me=to lap up water)、「鍬で耕す・水を(舐めるように)吸う(作物。稲。その穀物(米))」と解されます。)、「女陰」は「マイ」、MAI((Hawaii)sickness,genitals)、「(両性の)生殖器」(AI音がE音に変化して「メ」となった)でいずれも「マイ・アイ(目、眼)」とは別の語です。

 

○モイダ(省略形メエダ。集まる・会う)→ミ(見)(p58)

☆「キミ」、KIMI(seek,look for)、「探し求める」または「イミ」、IMI((Hawaii)look for)、「探し求める」(ハワイ語の「イミ」の語頭のI音が脱落して「ミ(見)」となった)

(注)「モイダ(省略形メエダ)」がどうして「ミ」となり、かつ意味が変わるのか、理解に苦しみます。本書全般について音韻変化が恣意的なことが特徴として挙げられます。

 

○ヌン(眼)・ブシ(古語。潰し)(目潰し=眩しい)→マブシ(目潰し=眩しい)(p58)

☆「マプ・チ」、MAPU-TI(mapu=whiz,sob,flow freely;ti=throw,cast,overcome)、「(強い光に)圧倒されて・ふらふらと歩く(眩しい)」

 

○マゲ(麻木、麻茎、麻稽。古語。男性性器)・バビ(擦る)(男女の性交)→まぐはひ(目合。男女の性交)(p59)

☆「マ(ン)グ・ワヒ」、MANGU-WAHI(mangu=black;wahi=split,break through,break open)、「暗黒の中から・登りつめる(行為)」(「マ(ン)グ」のNG音がG音に変化して「マグ」となった)または「マ(ン)ガイ・パヒ」、MANGAI-PAHI(mangai,mangaingai=mouth,slow,moving heavily;pahi=beat,gloomy,ooze,leak)、「ゆっくりとしかも激しく動いて・(精液を)洩らす(行為)」(「マ(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「マゲ」から「マグ」と、「パヒ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハヒ」となった)

(注)韓国語説の言葉の意味は「(男性の)自慰(行為)」ともとられます。また、李女史は「目合」を女性本位の書き方としますが、これは「目」を「女陰」と解釈することを前提としたもので、前述のように「目」は「マイ」、MAI((Hawaii)sickness,genitals)、「(両性の)生殖器」ですから、そのような解釈は成り立ちません。

 

○メ(mae鞭)・メンメ(幼児語。鞭)→めんめ(小児を叱るときの語。東京でメエという。)(p60)

☆「マイ」、MAI(become quiet)、「静かにしなさい」(AI音がE音に変化して「メ」となった)

(注)日本では幼児を叱ったり、躾をするときに「鞭」を使う例は全く聞いたことがありません。韓国ではどうなのか私は浅学で全く知りませんが、李女史のいう生活に密着した言葉であればあるほど風俗習慣に合わない意味の言葉は使われない筈です。

 

○マチ(合わせる)・ゲ(古語。木、毛)(睫毛)→まつげ(睫毛)(p61)

☆「マ・アツ・(ン)ガイ」、MA-ATU-NGAI(ma-atu=go,come;ngai=tribe,clan)、「(瞬きをすると)合わさったり・離れたりする・類(たぐい)のもの(睫毛)」(「マ」のA音と「アツ」の語頭のA音が連結して「マツ」と、「(ン)ガイ」のNG音がG音に、AI音がE音に変化して「ゲ」となった)

 

○マンオル(古語mang-eol。小さくて丸く固まったもの)→マンヨル→まゆ(眉)・まゆ(繭)(p62)

☆(1)「マ・アイ・イホ」、MA-AI-IHO(ma=white,clear;ai=beget;iho=up,above)、「清らかに・(目の)上に・生成したもの(眉)」(「マ」のA音が「アイ」のA音と連結して「マイ」となり、その語尾のI音が「イホ」のH音が脱落した「イオ」のIO音と連結して「マイオ」から「マヨ(眉の古形)」となった)
または「マイ・アウ」、MAI-AU(mai=become quiet;au=firm,intense)、「(蚕が桑葉を食べるのをやめて)静かになると・(場所を決めて)作るもの(蛹)」(「マイ」の語尾のI音と、「アウ」のAU音がO音に変化したそのO音が連結して「マイオ」から「マヨ」となった)

(2)「マ・アイ・フ」、MA-AI-HU(ma=white,clear;ai=beget;hu=promontry,hill)、「清らかに・・高まりとなって・生成したもの(眉)」(「マ」のA音が「アイ」のA音と連結して「マイ」となり、その語尾のI音が「フ」のH音が脱落した「ウ」のU音と連結して「マユ」となった)
または「マイ・ウ」、MAI-U(mai=become quiet;u=be firm,be fixed)、「(蚕が桑葉を食べるのをやめて)静かになると・(場所を決めて)作るもの(蛹)」(「マイ」の語尾のI音と「ウ」のU音が連結して「マユ」となった)

(注)「眉」が「小さくて丸く固まったもの」とはどうしても考えられません。実に「不適切」そのものです。

 

○バ(ba場)・ナ(na出)→はな(鼻。先端、突端。)(p63)

☆「ハ(ン)ガ」、HANGA(=ha=breath,taste,breathe)、「呼吸するもの(鼻)」(NG音がN音に変化して「ハナ」となった)

 

○ゴジ(串、岬、串刺し)→くち(口)(p64)

☆「クチ」、KUTI(draw tightly together,purse up,contract,nip)、「(いつもは)しっかりと閉じているもの(口)」

(注)谷や川の入り口のように狭まったところには、「クチ(口)」という地名が多く付けられています。

 

○イプ(ib口)→いう(言う)(p64)

☆「イ・フ」、I-HU(i=ferment,be stirred of the feelings;hu=resound,bubble up,tenor or drift of a speech)、「感情が湧くのにつれて・(音吐朗々と)演説する」

 

○ボル(bol古語。頬。幅)→ほほ(頬)(p65)

☆「ハウハウ」、HAUHAU(strike,hew,chop)、「(平手で)打つ場所(頬)」(AU音がO音に変化して「ホホ」となり、またAU音がO音に変化し、二番目のH音が脱落して「ホオ」となった)

(参考)マオリ語の「頬」は、「パパリンガ」、PAPARINGA(cheek(papa=flat;ringa=hand))、「(平手で打つ場所)頬」です。

 

○アグ(a-gu古語。顎。鮟鱇)・アギイ(a-gui古語。顎。鮟鱇)→あぎ(古語。顎)とふ(相手に向かって発言する)・あご(顎)(p67)

☆(1)「ア(ン)ギ・トフ」、ANGI-TOHU(angi=free,move freely;tohu=mark,sign,show,lay by)、「(神功皇后が注いだ酒に酔った黒鯛が)フラフラになった様子を・見せた」

(2)「ア(ン)ゴ」、ANGO(gape,be open of things not fitting together)、「(口を)開くもの(顎)」(NG音がG音に変化して「アゴ」となった)

(参考)日本語の「鮟鱇(あんこう)」は、「ア(ン)ゴ・コウコウ」、ANGO-KOUKOU(ango=gape,be open;koukou=crest of a crane etc.)、「(小魚を誘引する頭に付いた疑似餌のような)提灯をぶら下げて・(大きな)口を開けている(魚)」(「ア(ン)ゴ」のNG音がN音に変化して「アノ」から「アン」と、「コウコウ」の反復語尾が脱落して「コウ」となった)と解します。

 

○トボルイダ(teo-beo-ri-da裂け目などを広げる、大げさに言う)→とふ(問う)(p69)

☆「トフ」、TOHU(mark,sign,show,lay by)、「見せる」

 

○ギイ(gwi耳、角(すみ))・ミ(高句麗語。耳)→きく(聞く)・みみ(耳)(p70)

☆(1)「キヒ・クク」、KIHI-KUKU(kihi=indistinct sound,barely audible,murmur of the sea;kuku=nip,draw together,close,anything used as pincers)、「微かな音を・(ピンセットでつまむように)聞き分ける(聞く)」(「キヒ」のH音が脱落して「キ」と、「クク」の反復語尾が脱落して「ク」となった)

(2)「ホミミ」、HOMIMI((Hawaii)=homi=withered,stunted,feeble)、「弱い(音を聞き分けるもの。耳)」(H音が脱落して「ミミ」となった)

(注)マオリ語の「耳」は「タリ(ン)ガ」、TARINGA(ear,circumstance etc. of waiting)、「耳」または「待って聞き取るもの(耳)」で、ハワイ語の「耳」は「ペペイアオ」、PEPEIAO(ear,to hear,cotyledon,stipule,scallops in lace)、「耳」または「植物の(二枚の)子葉、ホタテ貝の耳など」で同じポリネシア語でもその機能に着目した名とその形状の特徴に着目した名に分かれます。身体語でも部族によって異なる例の一つです。

 

○ヲサ(長)・ギイ(耳)(兎)。ヲサ(長)・ハ(大)・ミ(耳)(高句麗語。兎)→をさぎ(古語。兎)(p71)

☆(1)「アウタキ」、AUTAKI(roundabout,circuitous,lead by a circuitous way)、「(巣に帰るのに外敵を警戒して)回り道をする(動物)」(AU音がO音に変化して「オタキ」から「オサギ」となった)

(2)「ウタ・ア(ン)ギ」、UTA-ANGI(uta=the land,the inland;angi=free without hindrance,move freely)、「内陸の地を・自由に動き回る(動物)」(「ウタ」の語尾のA音と「ア(ン)ギ」の語頭のA音が連結し、NG音がG音に変化して「ウタギ」から「ウサギ」となった)

(注)韓国語の「ヲサ(長)」は「(人々の)長」であるといいながら、その語が物理的に長さが「長い」意味をも持つかどうかに言及することなしに飛躍して「ヲサ・ギィ(長・耳。兎)」と解釈するのは極めて疑問です(漢字の「長」には「老」と「長」の意味が含まれていても、韓国語の「ヲサ」に当然に含まれるとは限らないと考えるのが通常の判断ではないでしょうか)。

 なお、日本語の「ヲサ((村の)長)」には、「長い」という意味はありません。この「をさ」は、「アウタ」、AUTA(toss,writhe)、「(年齢の)順番(で就任する。年長者である長)」(AU音がO音に変化して「オタ」から「ヲサ」となった)の転訛と解します。日本の社会では、長く平和だった縄文時代から生活共同体としての村落はその代表者を集団の和を重んじて年長者による輪番制によって選出していた名残りと考えられます。(この「ヲサ」は「(日本語と外国語を)輪番(にしゃべる。通訳、通事)」の意味でもあります。)

 

○ムトナ(mut-na陸・出。突き出ている胴体。胸)→むな(古語。胸)・むね(胸)(p74)

☆(1)「ムナ」、MUNA(tell or speak of privately,chat,secret,beloved)、「私的な秘密(を抱えるもの、またはそれを吐き出す(話す)もの。胸)」

(2)「ム・ネイ」、MU-NEI(mu=murmur at,show discontent with,silent;nei=to denote proximity,to indicate continuance of action)、「(ぶつぶつと)不満を・言い続けるもの(胸)」(「ネイ」の語尾のI音が脱落して「ネ」となった)

 

○ジヨツ(jeod乳)。パ(吸う)・イ(もの)→ち(古語。乳(房))。おっぱい(乳房)(p75)

☆(1)「チヒ」、TIHI(summit,top,peak)、「尖っているもの(乳)」(H音が脱落して「チ」となった)

(2)「オ・パヒ」、O-PAHI(o=the...of,belonging to;pahi=ooze,flow,leak)、「(乳が)流れ出る・もの(乳房)」(「パヒ」のH音が脱落して「パイ」となった)または「オ・パイ」、O-PAI(o=the...of,belonging to;pai=good,excellent,suitable)、「素晴らしい・もの(乳房)」

(注)「乳」には、「乳(液)」と「乳(房)」の二つの意味があり、日本語の場合には文脈によって判断ができますが、外国語の単語の語源解釈の場合にはその意味を明確にしなければならないのに、李女史はこれらについてあまりにもルーズです。

 

○バル(バラ、バリ。古語。腹)→はら(腹)(p77)

☆「ハラ(ン)ギ」、HARANGI(listless,idle)、「軟らかい(だぶだぶしているもの。腹)」(語尾のNGI音が脱落して「ハラ」となった)

 

○ベ(古語・現代語。腹)・ソ(古語。中)(臍)。ベ・ソ・クリ(ku-ri包(巻いた糸の塊)。繰る、括る)→へそ(臍)。へそくり。くる(繰る)・くくる(括る)(p78)

☆(1)「ハエ・ト」、HAE-TO(hae=slit,tear,cause pain;to=drag,open or shut a door or a window)、「(臍の胡麻を)取ると・(腹が)痛くなるもの(臍)」または「取られると・痛いもの(秘密の貯金。へそくり)」(「ハエ」のAE音がE音に変化して「ヘ」となった)

(2)「クフ・ウリ」、KUHU-URI(kuhu=thrust in,insert;uri=dark,deep in colour)、「暗いところに・入れておくもの(隠しておくもの。へそくり)」(「クフ」のH音が脱落し、その語尾のU音と「ウリ」の語頭のU音が連結して「クリ」となった)

(3)「クフ・ル」、KUHU-RU(kuhu=thrust in,insert;ru=shake,agitate,scatter)、「勢い良く・(内側へ)引き入れる(繰る)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」となった)

(4)「クク・ウル」、KUKU-URU(kuku=nip,draw together,close,anything used as pincers;uru=head,chief,top,upper end)、「上の部分を・縛る(括る)」(「クク」の語尾のU音と「ウル」の語頭のU音が連結して「ククル」となった)

(注)「繰る」と「括る」とは音は似ていても全く動作の異なった行為で、日本語ではきちんとこれを区別して別の言葉で表現していることに注目してください。言葉の音(おん)は、一音一音がそれぞれ意味を持っているのです。

 

○モドモド(mod-mod集まり。根元)→もも(股)。もともと(元来)(p80)

○メエ(またはモイ。古語。山)→もも(山が二つ集まった果実。桃)。もも(百。百済)(p81)

☆(1)「モモウ」、MOMOU(=mamau=grasp,wrestle with)、「レスリングをする(挟んで締め付けるもの。股)」(語尾のU音が脱落して「モモ」となった)

(2)「モ・トモ・ト」、MO-TOMO-TO(mo=for,for the use of,against;tomo=enter,begin,assault;to=drag,open or shut a door or a window)、「入り口を開けて・中に入る・ためには(一番最初の段階に遡ってみると。もともと)」または「トモトモカ(ン)ガ」、TOMOTOMOKANGA(entrance)、「入り口(最初)」(語尾のKANGA音が脱落して「トモトモ」から転倒して「モトモト」となった)

(3)「モモ」、MOMO(in good condition,well proportioned)、「均整のとれた良い形の(果実。桃の実)」

(4)「モウモウ」、MOUMOU(wasted,to no purpose)、「(建国または日本の援助が)無駄になった(国)」または「ク・タラ」、KU-TARA(ku=make a low inarticulate sound,tara=loosen,separate)、「(内部の抗争による)軋み音を発し・統一がとれなかった(国)」

 

○ボデ(ボデイ。ボンドウ。古語。袋、女陰)→ほと((女性の)陰(部))。ほて、ほてい(布袋)。ふうとう(封筒)(p83)

☆(1)「ホト」、HOTO(begin,make a convulsive movement(hotohoto=palpitate))、「痙攣を起こすもの(女陰)」

(2)「ホテオ」、HOTEO(a large calabash)、「大きなひょうたんのような(容器。袋。それを持った和尚)」(語尾のEO音がEI音に変化して「ホテイ」となった)

(3)「フ・ウ・トウ」、HU-U-TOU(hu=silent,quiet,secretly;u=be firm,be fixed;tou=posterior,lower end of anything,as the point of a whipping top)、「秘密に(するために)・端(はし)を・固めるもの(封をするもの。封筒)」

 

○ボ(風呂敷)・クリ(包)→ふくろ(袋)。(松)ぼっくり(毬)。ふぐり(陰嚢)(p85)

☆(1)「プク・ロ」、PUKU-RO(puku=swelling,abdomen,entrails;ro=roto=inside)、「中が・膨れているもの(袋)」(「プク」のP音がF音を経てH音に変化して「フク」となった)

(2)「ポクルクル」、POKURUKURU(lump,full of lumps)、「塊(毬果)」(反復語尾が脱落して「ポクル」となり、語尾のU音がI音に変化して「ポクリ」から「ボックリ」となった)

(3)「フ・(ン)グ・リ」、HU-NGU-RI(hu=silent,quiet,secretly;ngu=squid,egg case of paper nautilus;ri=bind,protect,screen)、「秘すべき・(鮹の)卵が入つた(軟らかい)袋が・(二つ)合わさったもの(陰嚢)」(「(ン)グ」のNG音がG音に変化して「グ」となった)

(注)上記のうちとくに(3)については、音韻が全く同一で、かつ、その形容がいかに具体的でかつ的確であることかに驚かれたことと思います。縄文人は、物を観察する目が鋭く、その本質をきちんと把握して、的確に、場合によっては身近な動植物等を例とした比喩を用いて表現する能力を備えていました。単なる「袋」などという貧弱で単細胞的、石器時代人的な表現では満足できなかった高度な思考能力の持ち主だったのです。

 

○『日本書紀』神代上の一書に穀物の起源説話があり、月夜見尊が殺した保食神の死体の頭(ソシマラ、ソシマル、ソシマリ)から牛(ソ)・馬(マル)、額(チヤ)の上に粟(チヨ)、眉(マンヨル)の上に蚕(マンヨル)、眼(ヌン)の中に稗(ヌイ)、腹(ペ)の中に稲(ピヨ)、陰部(ボデ。コンパト)に麦(ボリ)・大豆(コン)・小豆(パト)が生じたとします。(『古事記』はスサノオが殺した大宜津比売神の死体の頭に蚕、二つの目に稲種、二つの耳に粟、鼻に小豆、陰に麦、尻に大豆が生じたとします。)紀の人体の場所と生じた物が韓国語の音でそれぞれ対応している。

☆紀の一書の説話における対応関係は指摘の通りでしょう。ただ、それはあくまでも語呂合わせの記録があったというにすぎません。この紀の一書を編集記録した部族に韓国語に精通していた者がいたことは否定できませんが、それが直ちに韓国語が日本語の語源となった証拠とはなり得ないのです。

 起源説話として重要なことは、「口(『古事記』は「鼻口又尻」とします。いずれも分泌物を出す身体の穴です。)から食物を出して饗応した」神の死体のどの部分に何が生じたかの対応関係を分析することによって、その説話を伝えた民族のいろいろな思考、信仰や、身体の部分と作物のそれぞれの関係、役割、重要性、伝承等を知ることであると私は考えます。この見地からしますと、語呂合わせに終始した紀の一書の説話は、作物の渡来についての何がしかの情報は提供してくれるかも知れませんが、民族のいろいろな思考、信仰や、身体の部分と作物のそれぞれの関係、役割、重要性、伝承等を知る手がかりの大半が失われていると考えるべきでしょう。

 

○デ(dae古語。茎、細長い棒状のもの、竹。(人を叩いた)回数)→て(手)(p90)

○ウデ(上の茎、上の手)→うで(腕)(p91)

○ブトデ(bud-dae筆軸)→ふで(筆)(p91)

☆(1)「テ」、TE(crack)、「(先が指となって)分かれているもの(手)」

(2)「ウ・テ」、U-TE(u=be firm,be fixed;te=crack)、「手を・(その先に)固定しているもの(腕)」

(3)「プ・タイタイ」、PU-TAITAI(pu=pipe,tube;taitai=dash,knock,brush)、「ブラシがついた・(竹の)管(筆)」(「プ」のP音がF音を経てH音に変化して「フ」と、「タイタイ」の反復語尾が脱落し、AI音がE音に変化して「テ」から「デ」となった)または「フテテ」、HUTETE(be tied up in a corner of a bag etc.)、「(毛の束を)端にくくりつけたもの(筆)」(反復語尾が脱落して「フテ」から「フデ」となった)

 

○ア(a。アシa-si。百済語。端)→あ(足)。あし(足)(p92)

☆(1)「ア」、A(the...of,drive,urge,compel,collect)、「(人を駆る)移動させるもの(足)」

(2)「ア・チ」、A-TI(a=the...of,drive,urge,compel,collect;ti=throw,cast)、「(人を駆って)走らせる・(身体の下に)突き出ているもの(足)」

 

○ア(a。アシa-si。百済語。端)・ジエ(jae古語。城、峠)→あ(畦)。あぜ(畦)(p95)

☆「ア・タイ」、A-TAI(a=the...of,drive,urge,compel,collect;tai=the sea,the coast,tide,wave,anger)、「波のような(田の境界の土の小壁)」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」かせ「ゼ」となった)

(注)李女史は、「畦」を「細長く土を盛り上げた端」と解釈して無理矢理に「アシ(端)」と結びつけていますが、「畦」は「細長く土を盛り上げた」線状の小壁そのものを指すもので、決して「端」ではありません。「田の端」と考えているのかも知れませんが、田と田の境界である畦をどうして「端」といえるのでしょうか。これこそ「こじつけ」の最たるもりです。

 

○エエダ(ye-da古語。行く)。ア・エエダ(古語。行く)→ゆく(行く)。あゆみ(歩み)(p96)

☆(1)「ヰウ・ク」、WHIU-KU(whiu=throw,put,plant,drive,cause to go,collect;ku=silent)、「静かに・歩く」(「ヰウ」が「ユ」となった)

(2)「ア・ヰウ・ミ」、A-WHIU-MI(a=the...of,drive,urge,compel,collect;whiu=throw,put,plant,drive,cause to go,collect;mi=urine,stream,river)、「水の流れのように・歩く・さま(歩み)」

 

○ガシ(新羅語。端、足)→かし、かち(徒歩)。かし(河岸)(p97)

☆(1)「カハ・ア・チ」、KAHA-A-TI(kaha=strong,strength,persistency;a=the...of,drive,urge,compel,collect;ti=throw,cast)、「どこまでも・足で・移動する(こと。またその人々)」(「カハ」のH音が脱落し、その語尾のA音と「ア」のA音が連結して「カ」となった)

(2)「カチ」、KATI(block up,shut of a passage,barrier,boundary)、「(水路・陸路の終点である)境界の場所(河岸)」

(注)新羅語の「足」と日本語の「徒歩」では意味が全く異なり、語源ということはできないと考えます。なお、(2)の「カチ」が倭語から新羅語に入って「ガシ」となったものと考えられます。

 

 

第3章 天体語、月・日から雨・風・氷まで

 

○ドギ(ドールギ、ドーギ。新羅語。廻るもの、廻ること、月、鳥)→つき(月)(p104)

☆「ツキ」、TUKI(pound, beat,give the time to paddlers in a canoe(tutuki=reach the farthest limit;whakatuki=carry to completion))、「(カヌーの拍子取りのように)時間の経過を規則正しく伝えるもの(月)」または「(満)月」または「(新月から満月に向かっている)上弦の月」

(注)韓国語で最も一般的な月を表す語は、「ダル(廻る・卵)」ですが、何故この「ダル」が日本語に入らず、地方方言にしか過ぎない「ドギ」が入ったのでしょうか。他にも一般的な語彙でなく、方言あるいは日本列島への渡来者が知らなかった可能性の高い古語を李女史は語源として想定しています。女史は、この問題点を隠蔽するために、一つのものを表す語彙には多数あるからとしますが、これでは多数あるうちの一つが何故選ばれたかの解答になっていません。

 

○ドグ(ドールグ(ドールギの転))→つく(上代東国語。月)(p108)

☆「ツク」、TUKU(let go,leave,send,present,descend(tutuku=depart,be off))、「(満月から新月までの)下弦の月」

(注)李女史は、東海岸に住んでいた新羅人が多数東国に移住したので、「ドグ」が「つく(上代東国語。月)」となったとしますが、その証拠があるのでしょうか。

 

○ダル(古語。鳥、鶏)→ダリ、ドリ(廻るもの、帰巣するもの(鳥))→とり(鳥)(p111)

☆「ト・オリ」、TO-ORI(to=drag,open or shut a door or a window;ori=cause to wave to and fro,sway,move about)、「あちこち・行き来するもの(季節がくると渡りをする。鳥)」(「ト」のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「トリ」となった)

(注)「帰巣するもの」は鳥だけでしょうか。巣を営む地上の動物はすべて「帰巣するもの」のはずです。李女史はこんな単純なことに疑問を感じないのでしょうか。世界の地上に住む動物の中で「季節がくると渡りをする」のは鳥だけです。

 

○ドギ(新羅語。廻るもの、帰巣するもの(鳥))→とき(朱鷺)(p112)

☆「トキ」、TOKI(tokitoki=altogether,without exception,very calm)、「非常に静かな(鳥)」または「(繁殖期には)集団をつくる(鳥)」

(注)ドギ語源説は、「とき(朱鷺)」だけが何故「鳥」という一般名詞で呼ばれるのかという疑問に答えていません。

 

○ビ(古語。光、光線、色)→ひ(日)(p113)

☆「ヒヒ」、HIHI(ray of the sun)、「 (太陽の)光」(反復語尾が脱落して「ヒ」となった)

 

○ベ、ベシ、ボ、ボシ(古語。陽射し)→ほ(乾)、ほし(乾し)(p115)

☆(1)「ホウ」、HOU(enter,force downwads or under)、「(下に)押さえつける(干す、晒す)」(OU音がO音に変化して「ホ」となった)

(2)「ホウ・チ」、HOU-TI(hou=enter,force downwads or under;tt=throw,cast,overcome)、「(下に)押さえつけて・置く(干す、晒す)」(「ホウ」のOU音がO音に変化して「ホ」となった)または「ポウ・チ」、POU-TI(pou=post,pole,fasten to a stake etc.,elevate upon poles;tt=throw,cast,overcome)、「棒にかけて(上に)・置く(干す、晒す)」(「ポウ」のP音がF音を経てH音に、OU音がO音に変化して「ホ」となった)

 

○ビ(日、光)・ネモシ(古語。いつまでも)(終日)→ひねもす(終日)(p115)

☆「ヒヒ・ネイ・モツ」、HIHI-NEI-MOTU(hihi=ray of the sun;kari=dig,wound,rush along violently;nei=to denote proximity,to indicate continuance of action;motu=severed,separated,escaped(whakamotu=remain silent and still))、「(日の)光が・逃げ出す(射さなくなる)・までずつと(終日)」(「ヒヒ」の反復語尾が脱落して「ヒ」と、「ネイ」のEI音がE音に変化して「ネ」となった)

(注)これも韓国語が日本語に入ったのではなくて、縄文語(倭語)が韓国語に残って音韻変化したものの好例です。

 

○ビカリ(古語。光、彩)→ひかり(光)(p117)

☆「ヒヒ・カリ」、HIHI-KARI(hihi=ray of the sun;kari=dig,wound,rush along violently)、「強く照らす(当たる)・光線」(「ヒヒ」の反復語尾が脱落して「ヒ」となった)

 

○ア(端)・メ(水)→あめ(雨)(p118)

☆「アワ・マエ」、AWHA-MAE(awha=storm,rain;mae=languid,listless,withered)「元気のない・(台風の)雨」(「アワ」のWH音が脱落して「ア」と、「マエ」のAE音がE音に変化して「メ」となった)

 

○ビ(雨)・ジャ(細かい、細い、小さい)・メ(水)→ひさめ(古語。大雨)(p118)

☆「ヒタ・マエ」、HITA-MAE(hita=move convulsively or spasmodically;mae=languid,listless,withered)、「(冷たさに)痙攣を起こす・弱い(雨)」(「マエ」のAE音がE音に変化して「メ」となった)または「ヒタ・メ」、HITA-ME(hita=move convulsively or spasmodically;me=if,as if like)、「痙攣を起こした・ような(激しい。雨)」

 

○ゴ(小)・ジャ(細かい、細い、小さい)・メ(水)→こさめ(小雨)(p120)

☆「コタ・マエ」、KOTA-MAE(kota=anything to scrape or cut with,sawdust,fragments of charcoal from burnt bush;mae=languid,listless,withered)、「鋸屑のような(細かい)・弱い(雨)」(「マエ」のAE音がE音に変化して「メ」となった)

 

○ゴマ(小さい者)→こま(細かい、細々)(p121)

☆「コ・マハ・カイ」、KO-MAHA-KAI(ko=a wooden implement for digging or planting;maha=many,abundance;kai=consume,eat,fulfil its proper function)、「何回も・十分に・鍬で耕した(土のような。細かい)」

 

○ガシ(ga-si漱ぐ、濯ぐ、去る、失せる。ガセ)→かぜ(風)(p122)

☆「カハ・テ」、KAHA-TE(kaha=strong,strength,persistency;te=crack,emit a sharp explosive sound)、「強く・(吹き)分けるもの(風)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)

 

○ガモ(干ばつ)・ガシヌン(漱ぐ、消え去る)→かむかぜの(神風の。「伊勢」にかかる枕詞)(p124)

☆「カム・カハ・テ・ノ」、KAMU-KAHA-TE-NO(kamu=eat,close of the hand;kaha=strong,strength,persistency;te=crack,emit a sharp explosive sound;no=of)、「風を・(食べる)支配する・(神が)居る(「伊勢」にかかる)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)

(注)日本列島では古代から干ばつだけが豊作の障害だったのではなく、長雨も悩みの種であり、朝廷は風の神に祈って「五風十雨」のたとえのように天候の順調な経過を祈願し、また水の神に干ばつには青馬を、長雨には白馬を奉納するのが例でした。

 

○ゴボリ(ゴブ(gobかじかむ、凍る)・オル(eol凍る)=かじかんだ氷、固い氷)→こほり(氷)(p125)

☆「カウ・ハウ・リ」、KAU-HAU-RI(kau=alone,only(whakakau=come gradually into view or appear,rise of heavenly bodies);(Hawaii)hau=cool,ice,frost;ri=screen,protect,bind)、「次第に姿を見せる・板(衝立)のような・氷」(「カウ・ハウ」のAU音がO音に変化して「コ・ホ」となった)

 

○ミドリ(水石)→みどり(緑)(p126)

☆「ミヒ・タウリ」、MIHI-TAURI(mihi=greet,admire;tauri=band,wristlet or anklet)、「尊重すべき・装身具((深い緑色をした)ヒスイの勾玉または腕輪。その色。緑(色))」(「タウリ」のAU音がO音に変化して「トリ」から「ドリ」となった)

 

○ドリ(廻るもの)→とり(鳥)(p126)

☆「ト・オリ」、TO-ORI(to=drag,open or shut a door or a window;ori=cause to wave to and fro,sway,move about)、「あちこち・行き来するもの(季節がくると渡りをする。鳥)」(「ト」のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「トリ」となった)

 

○シャリ(米)→しゃり(ご飯。(銀)しゃり)(p126)

☆「チ・アリ」、TI-ARI(ti=throw,cast;ari=clear,white,appearance)、「(外観の)白さを・さらけ出している(白い飯)」

 

○ゴモリ(夢)・クヌン((夢を)見る)→こもりくの(「泊瀬」にかかる枕詞)(p126)

☆「コモ・リ・ク・ノ」、KOMO-RI-KU-NO(komo=thrust in,insert;ri=screen,protect,bind;ku=silent;no=of)、「(周りを囲む障壁のような)山の・中に入った(盆地)の・静かな場所・の」または「コムリ・ク・ノ」、KOMURI-KU-NO(komuri=gentle breeze;ku=silent;no=of)、「静かな・心地よい風が吹く・場所の」

 

○ビ(氷の韓国の音読み)→ひ(氷)

☆「ヒ」、HI(raise,draw up,rise)」、「(水よりも軽いので水に)浮くもの(氷)」

 

 

第4章 こう習えば面白い韓国語

 

○ガッバ(gad-ba古語。皮)→かぱ(古語。皮)・かは(皮)(p135)(前出第1章p26参照)

 

○パパ(papa古語。尊属老婦、祖母)→ぱぱ(古語。母)・はは(母)(p136)(前出第1章p26参照)

 

○バダク(ba-dak。広い場所)→はたけ(畑)(p137)

☆「パタ・カイ」、PATA-KAI(pata=prepare food;kai=eat,food,fulfil its proper function(kainga=field of operation))、「食物を・生産する場所(畑)」(「パタ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハタ」と、「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)

(注)畑という人の生存に不可欠の重要な生産手段の名称が、「広い場所」というような単純かつ、汎用的な名称であるはずがありません。

 

○ガ(ga(ガッgad)古語・現代語。際、端、辺。川)・バ(ba古語・現代語。所・場所・事)(端の場)→ガッバ(gad-ba古語。皮、川)→かは(川)。かっぱ(合羽)(p138)

☆(1)「カワ」、KAWA(heap,reef of rocks,channel,passage between rocks or shoals)、「水路(川)」または「(岩や浅瀬の間を辿る)通路(川)」

(2)「カハ・パ」、KAHA-PA(kaha=rope,a garment;pa=block up,prevent,screen)、「(雨風から身を)守る・上着(合羽)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」から「カッ」となった)

 

○ガシ(ガサ。古語。皮膚、皮)→かさ(笠,傘)(p139)

☆「カハ・タ」、KAHA-TA(kaha=crested grebe;ta=dash,beat,lay)、「(かいつぶりの)冠毛を・載せたような(笠。傘)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)

 

○サルム(生、生活)→サム→すむ(住む、棲む)(p141)

☆「ツ・ウム」、TU-UMU(tu=stand,settle;umu=earth oven,scarf)、「(地面に掘った蒸し焼き穴のような)竪穴(住居)に・住む」(「ツ」のU音が「ウム」の語頭のU音と連結して「ツム」から「スム」となった)

 

○サレエ(言う、告げる)・ベエ(見せる、見せること)→(お)さらへ(お浚い)(p143)

☆「オ・タライ」、O-TARAI(o=the...of,belonging to;tarai=dress,shape,fashion)、「(斧で木を削るように)形を整える(芸を磨く)・こと(そのための会)」

 

 

第5章 純日本風な言葉、あられ・お年玉の正体

 

○ドウ・ジ(deo-ji古語。より多く作ること)→とし(年、歳)(p148)

☆「タウ・チ」、TAU-TI(tau=season,year,period of time,interval;ti=throw,cast,overcome)、「(目前に放り出された)今の(新しい)・年(歳)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」となった)

 

○ドウジ・ダマ(増産・分け入れ)→(お)としだま(お年玉)(p154)

☆「オ・タウ・チ・タマ」、O-TAU-TI-TAMA(o=the...of,belonging to;tau=season,year,period of time,interval;ti=throw,cast,overcome;tama=child,son,emotion,strong feeling(whakatamatama=be above doing a thing,be too proud,give oneself airs))、「(目前に放り出された)新しい・年(の初め)に・(人の)気持ちを浮き浮きさせる・(特別の)もの(お年玉)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」となった)

(注)ハワイ語の「カマ(マオリ語のタマのT音がK音に変化した)」には、KAMA(child,person,bind,wrap,the victim)、「(一包みに)まとめたもの(玉)」や「(縛り上げた)捕虜(転じて支配下にある男女の蔑称)」の意味があります。

 

○アラリ(alali。アラレ。alale粒々、粒毎に(充実した))・バルジル(bal-jil足の所作、足蹴)→あられはしり(蹈歌)(p155:159)

☆(1)「アラ・レイ・パチ・リ」、ARA-REI-PATI-RI(ara=rise up,be awake(araara=rising of body of men for the war dance);rei=breast,chest;pati=try to obtain by coaxing,flattery etc.;ri=protect,screen,bind)、「(戦いに出発する前に行う踊りのように力強く足踏みをしながら)胸を・張り・威勢を示す動作を・重ねる(踊りに似た。舞楽)」(「レイ」のI音が脱落して「レ」と、「パチ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハチ」から「ハシ」となった)

(2)「アラアライ・パチ・リ」、ARAARAI-PATI-RI(araarai=screen on every side;pati=try to obtain by coaxing,flattery etc.;ri=protect,screen,bind)、「四方八方に衝立があるような(一所で足踏みをする)・威勢を示す動作を・重ねる(踊りに似た。舞楽)」(「アラアライ」のAA音がA音に、AI音がE音に変化して「アラレ」と、「パチ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハチ」から「ハシ」となった)

 

○アル(al。卵、粒、玉、穀物)・アル・イ(名詞形をつくる接尾語)→アラリ(alali。アラレalale)→あられ(霰)(p156)

☆「アラアライ」、ARAARAI(screen on every side)、「四方八方に衝立があるような(どこへも動けないようにあたり一面に降る無数の小さな氷の玉。霰)」(AA音がA音に、AI音がE音に変化して「アラレ」となった)

 

○ドンドン(dong-dong物がふわふわ浮動しているさま、足をばたばた動かす)→どんどん(物事が滞らず盛んに進むさま)(p158)

☆「トヌトヌ」、TONU-TONU(tonu=still,continually,immediately)、「続けて(すぐさま。物事が滞らず盛んに進むさま)」(「トヌトヌ」が「トントン」から「ドンドン」となった)

(注)これも韓国語が日本語に入ったのではなくて、縄文語(倭語)が韓国語に残って音韻変化したものの好例です。

 

 

第6章 思想と詩の器・・・・・・春・夏・秋・冬

 

○バル(バリ、バラ。原、広げる、正しくする)→はる(春)・はら(原)(p166)

☆(1)「ハ・ル」、HA-RU(ha=breath,breathe,taste;ru=shake,agitate,scatter)、「(万物が)息を・吹き返す(季節。春)」

(2)「ハラ」、HARA(excess above a round number,a stick bent at the top used as a sign that a chief had died at the place)、「(先を折った杖を挿した)祖先の首長が死んだ場所(葬った場所。原)」

(3)「パラ」、PARA(a flake of stone,sediment,refuse,dust,cut down bush etc.,clear)、「灌木を切り開いた(開墾した。場所。原)」または「砂礫の(場所。荒れ地。原)」(P音がF音を経てH音に変化して「ハラ」となった)

(注)韓国語がほんとうに日本語の語源であるならば、四季のように生活に密着した重要な基礎語は韓国語がそのまま入るはずなのにそうではなく、「春=原=農耕作業を広げる(季節)」などと意味をこじつけなければ解けないということは、日本人が自らの思想で呼称した用語が既に存在したことを認めたことであり、韓国語が語源ではないことを証明するものと考えます。

 

○ダモル(統治者)・ギツ(領土)・バル(原、広げる、正しくする)→たまきはる(「うち」、「命」、「世」などにかかる枕詞)(p168)

☆「 たまきはる」は、仁徳記歌謡のほか、万葉集に18例ありますが、

 (1)「命」a(5-904。…朝な朝な言ふこと止みー命絶えぬれ…)、b(9-1769。かくのみし恋ひし渡ればー命も吾は惜しけくもなし)、(2)「内(の朝臣)」(仁徳記歌謡。ー内の朝臣汝こそは世の長人そらみつ大和の国に雁卵産と聞くや)、(3)「宇智」(1-4。ー宇智の大野に馬なめて朝踏ますらむその草深野)、(4)「幾代」(17-4003。冬夏と分くこともなく白たへに雪は降り置きていにしへゆありきにければこごしかも岩の神さびー幾代経にけむ)、(5)「我が」(10-1912。ー吾が山の上に立つ霞立つとも坐とも君がまにまに)にかかる枕詞で、語義・かかり方未詳とされます。

 この「たまきはる」は、

  (1)a「タ・マキ・ハル」、TA-MAKI-HARU(ta=the...of;maki=invalid,sick person,sore;haru=bark(haruharu=soiled,disagreeable to the eye))、「この・弱っている・病人(の)」

  (1)b,(5)「タ・マキ・ハル」、TA-MAKI-HARU(ta=the...of;maki=invalid,sick person,sore;haru=bark(haruharu=soiled,disagreeable to the eye))、「この・不快な(悲しい)・痛み(悩み。思い出。の)」

  (2)「タマ・キハ・ル」、TAMA-KIHA-RU(tama=son,man,emotion,spirits;kiha=pant,gasp;ru=shake,agitate,scatter)、「(豊かな)見識を・保持して・(人に)教え諭す」

  (3)「タマキ・ハル」、TAMAKI-HARU(tamaki=start involuntarily,omen;haru=bark(haruharu=soiled,disagreeable to the eye))、「(馬が)不意に・いななく」

  (4)「タ・マキハ・ル」、TA-MAKIHA-RU(ta=the...of,dash,beat,lay;makiha=insipid;ru=shake,agitate,scatter)、「(退屈な)何もなかったように・時間だけが・過ぎてゆく」

の転訛と解します。

 

○ギップ(古語。お金や品をいくつかに分けて、一人一人にふりあてる分)→きっぷ(切符)(p172)

☆「キヒ・ツプ」、KIHI-TUPU(kihi=cut off,destroy completely,strip of branches etc.;tupu=grow,spring,issue,begin,be firmly fixed)、「分割して・(それぞれを券として)発行したもの(切符)」(「キヒ」のH音が脱落して「キ」と、「ツプ」が「ップ」となった)

 

○ナツ(nad穀物。昼)・イ(名詞形をつくる接尾語)→ナヂ(nazi)→なつ(夏)(p172)

☆「ナハ・ツ」、NAHA-TU(naha,nahanaha=well arranged,in good order;tu=fight with,energetic)、「(動植物が)生き生きと・活動する(季節。夏)」(「ナハ」のH音が脱落して「ナ」となった)

(注)韓国語がほんとうに日本語の語源であるならば、四季のように生活に密着した重要な基礎語は韓国語がそのまま入るはずなのにそうではなく、「夏=穀物。昼=穀物が稔る(季節)」などと意味をこじつけなければ解けないということは、日本人が自らの思想で呼称した用語が既に存在したことを認めたことであり、韓国語が語源ではないことを証明するものと考えます。

 

○アギ(a-gi子。小)→あき(秋)(p174)

☆「アキ」、AKI((Hawaii)to take a nip and let go,to nibble,to furl as sails)、「収穫する(または収穫物を積み上げる季節。秋)」

(注)韓国語がほんとうに日本語の語源であるならば、四季のように生活に密着した重要な基礎語は韓国語がそのまま入るはずなのにそうではなく、などと意味をこじつけなければ解けないということは、日本人が自らの思想で呼称した用語が既に存在したことを認めたことであり、韓国語が語源ではないことを証明するものと考えます。

 

○『万葉集』の山上憶良の歌(巻8-1520)の「秋にあらずとも」の「秋」は「子」の意である。(p174)

☆この説には根本的な疑問があります。後出の(総括)を参照してください。

 

○『古事記』雄略記の「蜻蛉(あきづ)」、「阿岐豆野(あきづの)」を「短躯の土着民」、「その住んでいた土地」と解する。(p175)

☆この解釈にはその根拠が全くありません。『古事記』の原文について「蜻蛉(あきづ)」や、「空みつ倭の国」などの意味を含めて厳密な解釈を行った上での議論が必要と考えます。(なお、「蜻蛉(あきづ)」については雑楽篇の801とんぼの項を、「秋津島」・「空みつ倭の国」については古典篇(その五)の奈良県の(1)大和の項を参照してください。)

 

○ガサミョルダ((財産などが)増えて豊富だ)→かさむ(嵩む)(p176)

☆「カハ・タムイ」、KAHA-TAMUI(kaha=strong,strength,persistency;tamui,tamuimui=throng,crowd around)、「どんどん・積み重なってゆく」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「タムイ」の語尾のI音が脱落して「タム」から「サム」となった)

 

○ベヨ(be-yoはらむ)→ふゆ(冬)(p176)

☆「フイ・ウ」、HUI-U(hui=put or add together,meet,assembly,be affected with cramp,twitch in a way regarded as ominous;u=be firm,be fixed,reach its limit)、「(家族が)肩を寄せ合って・過ごす(または寒さに震える季節。冬)」

 

(総括)韓国語がほんとうに日本語の語源であるならば、四季のように生活に密着した重要な基礎語は韓国語がそのまま入るはずなのにそうではなく、「春=原=農耕作業を広げる(季節)」、「夏=穀物。昼=穀物が稔る(季節)」、「秋=(穀物の)子=収穫(季節)」、「冬=はらむ=はらむ(季節)」などと意味をこじつけなければ解けないということは、日本人が自らの思想で呼称した用語が既に存在したことを認めたことであり、韓国語が語源ではないことを証明するものです。

 李女史もこの弱点に気づき、推理として高句麗語、百済語に「バル」、「ナヂ」、「アギ」、「ベヨ」があったのではないかとしています(p179)。これこそ縄文語(倭語)が韓国語の語源となったことを証明していると考えます。

 

 

第7章 法隆寺の謎の十二文字を解く

 

 この章については私の勉強が進んでいませんので、意見を留保します。

 

 

第8章 「あくたいもくたい」という悪口をあばく

 

○アグ・タイ(古語。a-gu-da-i子供・もぎ取り(睾丸を・もぎ取った。男))→あくたい(悪態)(p221)

☆「アク・タイ」、AKU-TAI(aku=delay,scrape out,cleanse;tai=the sea,tide,wave,violence,dash,strike,knock)、「(腹の中にある不満や感情を)すべてさらけ出して・打撃を加える(悪口を吐く)」

 

○メエグ・タイ(古語。moe-gu-da-i女の子・もぎ取り(女性と一緒に住めない。男))→もくたい(悪口)(p224)

☆「マウク・タイ」、MAUKU-TAI(mauku=a fern;tai=the sea,tide,wave,violence,dash,strike,knock)、「(食用の澱粉を採取するために)羊歯を・叩く(ように打撃を加える。悪口を吐く)」(「マウク」のAU音がO音に変化して「モク」となった)

 

○ア・グダ(汚い・端(小さい・屑))→あくた(芥)(p227)

☆「ア・クタ」、A-KUTA(a=the...of,belonging to;kuta=encumbrance,clog as old and infirm people on a march)、「邪魔物(芥)」

 

○アグジュ・メェグジュ(小くず・大くず(子供くそ・女くそ))→あくぞもくぞ(悪口)(p228)

☆「アク・タウ・マウク・タウ」、AKU-TAU-MAUKU-TAU(aku=delay,scrape out,cleanse;tau=attack;mauku=a fern)、「(腹の中にある不満や感情を)すべてさらけ出して・攻撃を加え・(食用の澱粉を採取するために)羊歯を・叩く(ように攻撃を加える。悪口を吐く)」

 

○グジュ(汚いもの)→くそ(糞)(p229)

☆「クフ・トウ」、KUHU-TOU(kuhu=thrust in,conceal;tou=anus,posteriors)、「お尻(肛門の中)に・隠れているもの(糞)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」となった)

 

○アラブ(糞などを排泄したい)→(くそ)まる(糞を排泄する)(p230)

☆「マルイ」、MARUI(drop off in great numbers)、「(尻から糞を下に)落とす(排泄する)」(語尾のI音が脱落して「マル」となった)

 

 

第9章 難訓歌「三諸の・・・・・・」を訓むと桃太郎が見える

 

 この章の主題である『万葉集』巻2-156の歌については、国語篇(その六)の<付>および(その七)において解明しましたので、そちらを参照してください。

 以下この歌と関係がない部分について検討します。

 

○ムト(陸)・ナ(出る)・ガ(際、端)・タ(地)(「陸が突き出ている端っこの地」または「陸を出る(出発する)端っこの地」)→むなかた(宗像。地名・神社名)(p276)

☆「ムナ・カタエ」、MUNA-KATAE(muna=tell or speak of privately,chat,gossip,secret,beloved;katae=how great!)、「(秘密の)託宣を下す・偉大な神(その神を祀る神社。その神社が鎮座する土地)」(「カタエ」の語尾のE音が脱落して「カタ」となった)

(注)李女史は、「宗像(むなかた)」を「ム・ナ・カ・タ」と一音づつに分解して語源解釈をしていますが、このような方法は誤りの可能性が高く避けるべき方法の筆頭です。地名は、土地を特定するための名称ですが、「陸が突き出ている端っこの地」または「陸を出る(出発する)端っこの地」などという意味では日本列島の海岸部に適合する地が無数にあって場所を特定できません。女史は、「何故その地名がそこだけにつけられているのか」ということを考えたことがないようで、地名学について全く素人のようです。(第1の6の項を参照してください。)

 

○ジャックジャック(ja-ggu-ja-gguひっきりなしに、限(きり)なしに)→ざっくざっく(p277)

☆「タクタク」、TAKUTAKU(recite,used chiefly of genealogy or incantations etc.)、「(系図を述べ立てたり、呪文を唱えるように)長々と朗唱する(次から次へと続くさま)」

 

○ムト(陸)→むつ(陸奥。国名)(p277)

☆「ムツ」、MUTU(finished,brought to an end)、「(陸地の)最果ての(土地。国)」

(注)韓国語の「ムト」には単なる「陸(または胴体)」という意味しかありませんが、マオリ語の「ムツ」は音韻、意味ともに完全に一致しています。これが語源でなくて何なのでしょう。

 

○ムト・ナ(突き出ている・胴体の部分=胸)→むな(胸)(p279)(既出p276)

 

○ガ・タ(端の地)→かた(像、潟)(p281)(既出p276)

☆「カタ」、KATA(laugh,opening of shellfish)、「(貝が)口をあけているような場所(潟)」

(注)韓国語の「ガ・タ」には単なる「端の地」という意味しかありません。「端の地」という意味では、半島、岬などが「端の地」に最もよく適合しますが、「潟」にはほとんど適合しません。宗像地方を「カタ(潟)」とは誰も呼んでいませんし、「カタ・ガタ(端の地」という日本語も存在しません。

 これに対してマオリ語の「カタ」は音韻、地理学上の意味ともに完全に一致しています。これが語源でなくて何なのでしょう。

 

○タムラ・タムブラ(tam-ra,tam-boo-ra丸い(国))→つぶら(円)・とんぶり(箒草の実)(p281)

☆(1)「ツプラ(ン)ガ」、TUPURANGA(verbal noun of tupu=grow,increase,issue,be firmly fixed)、「大きく見開いた(眼。その眼のようにまん丸い)」(語尾のNGA音が脱落して「ツプラ」から「ツブラ」となった)

(2)「トナ・プリ」、TONA-PURI(tona=excrescence,wart,corn etc.;puri=hold in the hand,retain possession of,keep,detain)、「(箒草の茎から)手でしごき取った・(穀物のような)実(とんぶり)」(「トナ」が「トン」となった)

 

○タムブラ(tam-ra,tam-boo-ra丸い)→どんぶり(丼)(p281)

☆「トナエ・プリ」、TONAE-PURI(tonae=a small basket for food;puri=hold in the hand,retain possession of,keep,detain)、「手(手のひら)に収まる(大きさの)・食物の容器(丼)」(「トナエ」の語尾のAE音が脱落して「トン」から「ドン」となった)

 

 

第10章 「さらば百済よ」・・・・・・歴史を生きる言葉

 

○ジャシ(新羅語。城)→さし(上代語。城)(p300)

☆「タハ・チ」、TAHA-TI(taha=side,margin,edge;ti=throw,cast)、「(山や川の)縁(へり)に・築かれている(施設。城)」(「タハ」のH音が脱落して「タ」から「サ」となった)

 

○クタ・クタラ(お米のとれる広い地、豊かな大きい地、都)→くだら(百済)(p301)

☆「ク・タラ」、KU-TARA(ku=make a low inarticulate sound,tara=loosen,separate)、「(内部の抗争による)軋み音を発し・統一がとれなかった(国)」

 

○ララ(津渡、川をわたること。国)→ナラ→なら(奈良)(p302)

☆「ナ・ラハ」、NA-RAHA(na=satisfied,belonging to;raha=open,extended)、「ゆったりとした・開けている(土地。その地域に造成された宮都)」(「ラハ」のH音が脱落して「ラ」となった)

 

○サラ(sa-ra生きていて)・バァ(boa見よう、逢おう)→さらば(別れの言葉)(p308)

☆「タラ・パハ」、TARA-PAHA(tara=loosen,separate,brisk;paha=arrive suddenly,attack)、「別れても・(またいつか来て)逢おう(別れの言葉)」(「パハ」のH音が脱落して「パア」から「バ」となった)

 

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第3 「李寧煕の変転の法則」(平成3(1991)年6月26日に東京プレスセンターにおいて行われた講演会の配布資料)の検討

 

(1)法則その一(語末音はa伸びるか b消滅する)

 

○バダクチ(身分の非常に低い者)→わたくし(私)

☆「ワタ・クチ」、WHATA-KUTI(whata=elevate,bring into prominence,hang,be laid,protorude,stand out;kuti=contract,pinch)、「身体を縮めて(小さくなって)・控えている(者)」

 

○ゴヲツ(事)→こと(事)

☆a「コト(ン)ガ」、KOTONGA(misery)、「不幸な(悲惨な、難儀な)事(または事件)」(語尾のNGA音が脱落して「コト」となった。名詞形の単語の語尾のNGA音はしばしば省略される)

b「コト」、KOTO(loathing,averse,sob,make a low sound)、「いやな(事)」または「(低い声で言う)言(こと)」

 

○ボツ(点)→ほし(星)

☆a「パウ・ツ」、PAU-TU(pau=consumed,exhausted;tu=stand,settle)、「縮小したもの(点になったもの)が・(そこに)在る(点)」(「パウ」のAU音がO音に変化して「ポ」となった)

b「パウ・チ」、PAU-TI(pau=consumed,exhausted;ti=throw,cast,overcome)、「縮小したもの(点になったもの)が・(空に)放り出されている(星)」(「パウ」のP音がF音を経てH音に、AU音がO音に変化して「ホ」となった)

 

○バダクチ(身分の非常に低い者)→わたくし(私)

☆「ワタ・チ」、WHATA-TI(whata=elevate,bring into prominence,hang,be laid,protorude,stand out;ti=throw,cast,overcome)、「(身体を)放り出して・控えている(者)」

 

○ビツ(光線)→ひ(日)

☆a「ヒ」、HI(raise,rise,dawn)、「(空に)高く昇る(日、太陽)」

b「ヒヒ」、HIHI(ray of the sun,feelers of crayfish)、「(太陽の)光」(反復語尾が脱落して「ヒ」となり、「光を出すもの(太陽)」の意に転じた)

 

○モンチ(高句麗語の鞭)→むち(鞭)

☆「ム・チ」、MU-TI(mu=silent;ti=throw,cast,overcome)、「音もなく(飛んできて)・打ちのめす(鞭)」

 

○ミル(高句麗語の水)→み(水)

☆a「ミ」、MI((Hawaii)urine,stream,river)、「(大地の尿である)水の流れ、川」(転じて「水」)

b「ミ・ツ」、MI-TU((Hawaii)urine,stream,river;tu=stand,settle)、「静止した・水の流れ(水)」

 

○ドンモ(友)→とも(友)

☆「ト・マウ」、TO-MAU(to=drag,open or shut a door or window;mau=fixed,continuing,caught,understood)、「堅く(友情で)・引き合う(友)」

 

 

(2)法則その二(a濁音は語頭では清音 b語中では濁音)

 

○ダバル(束)→たば(束)

☆a「タ・アパ」、TA-APA(ta=the...of,stalk or stem of a plant;(Hawaii)apa=roll or ream as of paper,bolt as of cloth)、「(植物の)茎を・束ねて巻いたもの(束)」(「タ」のA音と「アパ」の語頭のA音が連結して「タパ」から「タバ」となった)

b「タ・パル」、TA-PARU(ta=the...of,stalk or stem of a plant;paru=leaves of bulrush used as thatch and tied in bundles as the outer coating for the walls and roof of a house)、「(茅の)茎で・(家の屋根葺材や壁材にするために)束ねたもの(束)」

 

○ブツ(くっつく)→ふた(蓋)

☆「フ・タ」、HU-TA(hu=hill,promontory,(Hawaii)hu=to rise,swell;ta=dash,beat,lay)、「(丘など)高いもの・(の上に)置くもの(蓋)」または「(土器の中で)沸騰するもの・(の上に)置くもの(蓋)」

 

○ダン(重ねて当てるもの)→たな(棚)

☆タ(ン)ガ、TANGA(be assembled,row,tier)、「列(または段)をなしているもの(棚)」(NG音がN音に変化して「タナ」となった)

 

○なべぶた(鍋蓋)・ほんだな(本棚)

☆連濁であって語源からの変化ではない。

 

 

(3)法則その三(母音は大幅に省略)

 

○ヲンニ(大きい人)→あに(兄)・あね(姉)・おに(鬼)

☆a「ア・ヌイ」、A-NUI(a=the...of,belonging to;nui=large,many)、「大きい・人(兄)」(「ヌイ」のUI音がI音に変化して「ニ」となった)

b「ア・ネヘ」、A-NEHE(a=the...of,belonging to;nehe=ancient times,old age)、「年長の・人(姉)」

c「オ・ヌイ」、O-NUI(o=the...of,belonging to;nui=large,many)、「巨大な・生物(鬼)」(「ヌイ」のUI音がI音に変化して「ニ」となった)または「オニ」、ONI(move,wriggle)、「(得体の知れない)うごめくもの(鬼)」

 

○ヲル(井・池)→い(井)・ゆ(湯)・ゆり(百 合)

☆a「ヱ」、WE(water)、「水(水が湧き出る井戸)」(E音がI音に変化して「ヰ」となった)

b「ウイ」、UI(disentangle,loosen a noose)、「(そこからほどけた輪縄のような蛇行する)水の流れが流れ出る(井戸)」(「ウイ」が「ヰ」となった)

c「イケ」、IKE(strike with a hammer or other heavy instrument)、「(金槌で叩いた跡のような)穴(その穴に水が溜まった。池)」

d「イ・ウ」、I-U(i=ferment,turn sour;u=bite,gnaw,be firm,be fixed,reach its limit)、「泡とともに湧き出すのが・頂点に達している(沸騰する。湯)」(「イ」と「ウ」が連結して「ユ」となった)

e「イフ・リ」、IHU-RI(ihu=nose,bow of a canoe;ri=bind,protect,screen)、「(カヌーの舳先のように)曲がった(花弁が)・繋がっている(花。百合)」(「イフ」のH音が脱落して「イウ」から「ユ」となった)

 

 

(4)法則その四(j音はS音に変化する)

 

○ジャジャレ(細々しい)→さざれ

☆「タタレ」、TATARE(=tare=hang,gasp for breathe,be drawn towards,be intent upon)、「(その上に次々に積み重なって)癒合する(石。さざれ石)」

 

○ジャジャ(さあさあの意の勧誘語)→さあさ あ(「ささ」とも・勧誘語)

☆「タタ」、TATA(near of place or time)、「近くへ(どうぞ)」

 

 

(5)法則その五(d・t音はts(つ)・z(ず)音に変化する)

 

○ドギ(月・回ってくるもの)→つき(月)

☆「ツ(ン)ギ」、TUNGI(set a light to,kindle,burn)、「(夜に地上を)照らす(月)」(NG音がG音に変化して「ツギ」から「ツキ」となった)

 

○ドガ(塚の古形)→つか(塚)

☆「ツ・カハ」、TU-KAHA(tu=stand,settle;kaha=rope,edge,ridge of a hill,strong,strength)、「(峰のように)高まりが・ある(塚)」または「強い力が・ある(故人の力を見せつけている。墓、塚)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)

 

○トジ(土地)→つち(土)

☆「ツ・ウチ」、TU-UTI(tu=fight with,energetic;uti=bite)、「(石が)さんざんに・噛み砕かれた(土)」(「ツ」のU音と「ウチ」の語頭のU音が連結して「ツチ」となった)

 

 

(6)法則その六(b・p音はh・w・a音に変化する)

 

a(b音がh音に)

 

○ボヲル(原)→はら(原)

☆a「ハラ」、HARA(a stick bent at the top used as a sign that a chief had died at the place)、「(部族の首長を埋葬した)墓場(原)」

b「パラ」、PARA(a flake of stone,sediment,dust)、「灰・砂礫(原)」(P音がF音を経てH音に変化して「ハラ」となった)

 

○ボヲル(仕事を始める・広げる)→はる(春)

☆「ハ・ル」、HA-RU(ha=breath;ru=shake,agitate,scatter,earthquake)、「(万物が)息を・吹き返す(春)」(既出第2の第6章の○バル(バリ、バラ。原、広げる、正しくする)(p166)の項を参照してください。)

 

○ブサ(高句麗・百済語の松)→ふさ(房)

☆「プ・タ」、PU-TA(pu=tribe,bunch,heap,stack;ta=dash,beat,lay)、「塊状になって・いる(房)」(「プ」のP音がF音を経てH音に変化して「フ」となった)

 

b(p音がh音に)

 

○パパ(年長の女性家族) →はは(母)

☆「パパ」、PAPA(the wife of Rangi,the fabled mother of the Islands and of men) 、「(創世神話の)母(神)」(P音がF音を経てH音に変化して「ハハ」となった)

 

○イパ(葉)→は(葉)

☆「ワ」、WHA(leaf,flake,feather)、「葉」、「羽」または「端(は)」(WH音がH音に変化して「ハ」となった)

 

○パツ(砕く)→は(歯)

☆「パ」、PA(block up,prevent,stockade,screen)、「(木を並べた柵のような)歯」(P音がF音を経てH音に変化して「ハハ」となった)

 

c(b音がw・a音に)

 

○バルガ(明)→あか(赤)

☆「ア・カ」、A-KA(a=the...of,belonging to;ka=take fire,be lighted,burn)、「火が燃える・ような(赤い)」

 

○バルガ(明)→あかす(証す)

☆「ア・カ・チ」、A-KA-TI(a=the...of,belonging to;ka=take fire,be lighted,burn;ti=throw,cast,overcome)、「火が燃えて・(光を投げる)照らす・ような(はっきりとさせる、証明する)」

 

○ バル(木の年輪の太さ)→わ(輪)

☆「ウア」、UA(backbone,neck,thick twisted or plaited hem on the collar of a cloak)、「首回りの飾り(輪)」

(注)一般に言語の変遷において単語の語頭の子音が脱落することはあっても、子音が付加されることはまずあり得ない。

 

 

(7)法則その七(o・eoなどア行音の一部はg・k音に変化する)

 

a○オ(来)→コ(来)

☆「カウ」、KAU(swim,wade)、「(泳ぐように)やって来る」(AU音がO音に変化して「コ」となった)

 

○イツダ+オ(立て続けに来る)→いたこ(潮来)

☆「イ・タコ」、I-TAKO(i=past tense,beside;tako=loose,peeled off)、「(川が)気儘に・流れている(場所)」

 

b○ヲギイ(漕)→こぐ(漕ぐ)

☆「コキ」、KOKI(move ahead as a canoe)、「(船を)前進させる(漕ぐ)」(語尾のK音が濁音化して「コギ」から「コグ」となった)

 

○ヲル(凍)→こる(凝る)

☆「コル」、KORU(folded,coiled,looped,)、「折り重なる(凝る)」

 

○ヲルゴル(心の形・顔)→こころ(心)

☆「コ・コロ」、KO-KORO(ko=a wooden implement for cultivating the soil;koro=desire,intend)、「欲望を・(耕す)制御する(心)」

 

 

(8)法則その八(ng音はu・i音に)

 

a○ダング(当・党・唐)→とう(当・党・唐)

☆日本語の「とう(当・党・唐)」は、いずれも漢字の音読みですので、韓国語を語源とするのは誤りです。

(注)日本語の「とう(当・党)」に相当するマオリ語:「トフ」、TOHU(mark,company or division of any army,point out,show)、「(軍隊の一部の)部隊(党)」または「指し示す(当)」(H音が脱落して「トウ」となった)

 韓国語のダングに相当すると思われるマオリ語:タ(ン)ガ、TANGA(be assembled,row,tier,division or company of persons)、「集団(党)」

 

○ゴング(共・供・恭)→きょう(共・供・恭)

☆日本語の「きよう(共・供・恭)」は、いずれも漢字の音読みですので、韓国語を語源とするのは誤りです。

 

b○ヨヲング(永・営・英・栄・詠・影・嬰・盈など)→えい

☆日本語の「えい(永・営・英・栄・詠・影・嬰・盈など)」は、いずれも漢字の音読みですので、韓国語を語源とするのは誤りです。

 

 

(9)法則その九(語末音l(ル)はts・ch・z音に変化)

 

○ジル(質)→しつ・しち(質)

☆韓国語の「ジル」が性質の「質」か、入質の「質」かが不明ですので、語源について云々できません。なお、日本語の「しつ・しち(質)」はいずれも漢字の漢音・呉音ですので、韓国語を語源とするのは誤りです。

(注)日本語の「しつ・しち(質)」に相当するマオリ語:「チ・イチ」、TI-ITI(ti=throw,cast,overcome;iti=small,for a little while)、「ほんの少しの間・(物や人を放り出す)手放す(質に入れる)」(「チ」のI音と「イチ」の語頭のI音が連結して「チチ」から「シチ」となった)

 

○ヨヲル(熱)→ねつ(熱)

☆「ネイ・ツ」、NEI-TU(nei,neinei=stretch forward,wagging,vacillating,bobbing up and down;tu=fight with,energetic)、「烈しく・はね回る(身体が熱をもつ)」(「ネイ」のEI音がE音に変化して「ネ」となった)

 

○ダル(達)→たち(達)

☆「タ・アチ」、TA-ATI(ta=the...of,belonging to,dash,beat,lay;ati=descendant,clan)、「(ある)部族に・属する人(達)」(「タ」のA音と「アチ」の語頭のA音が連結して「タチ」となった)

(注)韓国語のダルに相当するマオリ語:「タルル」、TARURU(close together,crowd,fleet of canoes)、「群衆」(反復語尾が脱落して「タル」から「ダル」となったか)

 

○ミル(水)→みず(水)

(1)法則その一に前出。

 

 

(10)法則その十(複合語語末音の第一子音は消滅、第二音は独立音節となる)

 

○サルム(生)→すむ(住む)

☆「ツ・ム」、TU-MU(tu=stabd,settle;mu=silent(satisfied))、「静かに(安心して)・定住する」

 

○ダルム(似る)→だま(騙される)

☆「タ・マチ」、TA-MATI(ta=the...of,dash,beat,lay;mati,matimati=toe and finger,a game involving quick movements of the fingers and hands)、「(手や指先を素早く動かす)手品を・してみせる(騙し)」

(注)韓国語のダルムに相当するマオリ語(?):「タルル」、TARURU(beguile,entice)、「騙す、誘う」

 

○ガルム(貯蔵)→かむ(醸む)

☆a「カム」、KAMU(eat,munch,close of th hand)、「噛む(酒を醸すために米を噛む)」

b{カモ・ツ}、KAMO-TU(kamo=eyelash,eye,wink,bubble up;tu=stand,settle,fight with,energetic)、「(泡を立てて)発酵が・(激しく)起こる(醸す)」

 

○バルグ(明)→あか(赤)

☆4頁の「ア・カ」に同じ。

 

 

(11)法則その十一(n音とm音は変音しない)

 

n音○ノ(野)→ノ(野)

☆「ノア」、NOA(free from tapu or any other restriction.ordinary,indifinite)、「(墓場のような禁忌がない)野(原)」または「なにも束縛がない(野人など)」(語尾のA音が脱落して「ノ」となった)

 

○ノヲルイ(干す物)→のり(海苔)

☆「ノホ・オリ」、NOHO-ORI(noho=sit,stay,settle;ori=cause to wave to and fro,sway,move about)、「(海中で)揺れ動くものを・(紙のように)固定した(海苔)」(「ノホ」の語尾のO音と「オリ」の語頭のO音が連結して「ノリ」となった)

 

○ノルオノルオ(遊び遊び)→のろのろ(おそいさま)

☆「ナウ・ラウ・ナウ・ラウ」、NAU-RAU-NAU-RAU(nau=come,go;rau=catch as in a net,entangle)、「(網にかかったように)もがきながら・歩く(遅々とした・歩みのさま)」(「ナウ」・「ラウ」のAU音がO音に変化して「ノ」・「ロ」となった)

 

m音○アメ(ア=天+メ=百済語の水)→あめ(雨)

☆「ア・マエ」、A-MAE(a=the...of,belonging to;mae=languid,withered,struck with astonishment)、「打ちのめされる(憂鬱になる)・もの(雨)」(「マエ」のAE音がE音に変化して「メ」となった)

 

○モル(新羅語の水)→もる(漏る)

☆「マウ・ルア」、MAU-RUA(mau=carry,take up,fixed,continuing,waste,to no purpose;rua=pit,hole,store for provisions)、「穴が・無駄をしている(漏れている)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」と、「ルア」の語尾のA音が脱落して「ル」なった)

 

○モン(物)→もの(物)

☆「マウ・ノア」、MAU-NOA(mau=carry,take up,fixed,continuing,waste,to no purpose;noa=free from tapu or any other restriction,ordinary,indifinite)、「(何も禁忌や限定がない)ただ・そこにある(物)」(「マウ」のAU音がO音に変化して「モ」と、「ノア」の語尾のA音が脱落して「ノ」となった)

 

 

(12)法則その十二(a儀式 b技術 c幼児語の大部分は原音のまま)

 

a○トヲグ(餅)→しとぎの「とぎ」(神に捧げる餅)

☆「チ・ト(ン)ギ」、TI-TONGI(ti=throw,cast,overcome;tongi=point,peck as a bird,nibble at bait)、「(水に浸した米を鳥がついばむように)細かく・し尽くして粉にした(その餅)」(「ト(ン)ギ」のNG音がG音に変化して「トギ」となった)

 

○チチ(男・貴人の強調語)→ちち(父)

☆「チチ」、TITI(peg,stick in as a peg,adorn by sticking feathers into the hair)、「(頭の鉢巻に)鳥毛を挿して飾り立てた(貴人)」

 

○ヲサ(長)→おさ(長)

☆「オ・タ」、O-TA(o=the...of,belonging to;ta=dash,beat,lay)、「(村民を)駆りたてる・人(長)」

 

b○チュルギ(刺すもの)→つるぎ(剣)

☆「ツル・フキ」、TURU-HUKI(turu=post,pole,upright;huki=transfix,spit)、「刺す・(真っ直ぐな)棒(剣)」(「ツル」の語尾のU音と「フキ」のH音が脱落して「ウキ」となったその語頭のU音が連結して「ツルキ」となり、濁音化して「ツルギ」となった)

 

○ガムア(絡ませるもの)→かま(鎌)

☆a「カ・アマ」、KA-AMA((Hawaii)ka=root cutting;ama=the curved posts supporting the gable of a house)、「(植物の)根を切る・(家の庇の支柱のような)曲がった棒(鎌)」(「カ」のA音と「アマ」の語頭のA音が連結して「カマ」となった)

b「カマ」、KAMA((Hawaii)to bind,tie,wrap)、「(植物の茎などを切って)束ねる(ための道具。鎌)」

 

○ウス(砕く)→うす(臼)

☆「ウ・ツ」、U-TU(u=bite,gnaw;tu=fight with,energetic)、「激しく・(噛み)砕く(臼)」

 

c○アガ(赤ちゃん)→赤ちゃん

☆「ア・カ」、A-KA(a=the...of,belonging to;ka=take fire,be lighted,burn)、「(火が付いたように)激しく(泣き叫ぶ)・もの(赤ん坊)」

(注)韓国語のアガに相当するマオリ語:ア(ン)ガ、ANGA(driving force,thing driven etc.)、「(泣き叫び、手足をじたばたさせて手がつけられないほどの)力を発揮するもの(赤ん坊)」(NG音がG音に変化して「アガ」となった)または上記の「アカ」が濁音化したか。

 

○ベベ(布・布)→べべ(着物の幼児語)

☆「パイ・パイ」、PAI-PAI(pai=good,excellent,good-looking(whakapaipai=adorn,ornamented))、「(着)飾るもの(着物)」(「パイ」のAI音がE音に変化して「ペ」となった)

 

○マムマ(ご飯)→まんま(ご飯の幼児語)

☆「マ(ン)ガ・マ」、MANGA-MA(manga=remains of food after a meal,branch of a tree or river;ma=white,clear)、「(残飯のような)多種で少量の・綺麗な(ご飯)」(「マ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「マナ」から「マン」となった)

 

(注)ポリネシア語の日本語における子音・母音の変化については、地名篇(その十九)<海岸地名・海岸地帯民俗語彙>を参照してください。

 

 

 

第4 金公七『万葉集と古代韓国語ー枕詞に隠された秘密』(ちくま新書、1998年)の枕詞の解釈

 

[著者の韓国語の表示は音声記号のため、カタカナ表記では正確に表記することができません。あくまでも日本語との差異を感覚的に受け止めるための類似音表記としてご理解ください。]

 

(1)とぶとりの(飛鳥の)(p39)

○a「ナル・セ・ナン、夜明けの」(1-78。被枕詞の明日香は「朝明の都」の意)

b「ナル・セ・ン、素早い(飛ぶ鳥のような)」(16-3791。飛鳥壮士)

☆「トプ・トリノ」、TOPU-TORINO(topu=pair,assembled in a body;torino=a small basket for cooked food,twisted,flowing or gliding smoothly,be wafted)、「香しい空気が・漂つている(土地)」または「食物を入れた容器が・備わっている(食に不自由しないで快適に暮らせる。土地)」

(注)明日香(あすか)は、「アツ・カ」、ATU-KA(atu=to form comparative or superlative,or simply as an intensive;ka=take fire,be lighted,burn)、「最高の・居住地」の転訛と解します。(地名篇(その五)の奈良県の(47)飛鳥(あすか)の項を参照してください。)

 

(2)あしひきの(足引の)(p41、p207)

○a「タル・クル(ン)、高い」(15-3687。山)

b「タル・クリ、夜明け方の/高い」(7-1088。山河)

c「カルナモ、山の/柏」(8-1495。木の間)

☆「アチ・ヒキ・ノ」、ATI-HIKI-NO(ati=descendant,clan,beginning(atiati=drive away);hiki=lift up,raise,carry in the arms,remove;no=of)、「(山々などの中でも)高い・部類に・属する(山、山河または木)」

 

(3)たくづのの(栲角の)(p45)

○a「サイ(ナ)・プウル、徐(那)伐(新羅の都)の」(3-460。新羅国)

b「サナ・プウル、荒々しい/猛々しい」(20-4408。白髪/新羅国)

c「セン・ニャンクル、白い(しろいつたの)」(白髪)

☆「タク・ツノフノフ」、TAKU-TUNOHUNOHU(taku=slow;tunohunohu=old man or woman)、「動作のゆっくりとした・老女(または老人)である(新羅人の。または白髭の老人の。に係る)」(「ツノフノフ」のH音が脱落して「ツノノ」となった)

 

(4)おしてるや(押照や)(p48)

○「ミル・ハル・カ、(海水が)推し引く(崎の)」(6-977。難波(の海/崎))

☆「オチ・テレ・イア」、OTI-TERE-IA(oti=finished,gone or come for good;tere=drift,flow,moving quickly;ia=current,indeed)、「潮流が・速く・(干満とともに)行き来する(難波(の海))」(「テレ」が「テル」となった)

 

(5)あおによし(青丹よし)(p50)

○「プルウ・コ・スルム(ハ)、やや青く(見える)」(1-17。奈良の山または3-328。奈良の京師)

☆「アホ・ヌイ・イオ・チ」、AHO-NUI-IO-TI(aho=open space,string,radiant light;nui=large,many;io=muscle,line,spur;ti=throw,cast,overcome)、「大きく・開けた(土地で)・(紐のような)川が・(放り出されて)流れている(地域。奈良の地域)」(「アホ」のH音が脱落して「アオ」と、「ヌイ」のUI音がI音に変化して「ニ」となった)

(注)奈良(なら)は、「ナ・ラハ」、NA-RAHA(na=satisfied,belonging to;raha=open,extended)、「ゆったりとした・開けている(土地。その地域に造営された宮都)」(「ラハ」のH音が脱落して「ラ」となった)の転訛と解します。(「奈良」については地名篇(その五)の(3)奈良の項を、「青丹よし」は古典篇(その十五)の243B2平城宮(寧楽宮)の項を参照してください。)

 

(6)しきしまの(磯城嶋の)(p52、p197)

○「カン・ヌピ(ン)、神水山の」(9-1787。大和国)

☆「チキ・チ・マノ」、TIKI-TI-MANO(tiki=a post to mark a place which was tapu;ti=throw,cast,overcome;mano=thousand,indefinitely large number,host)、「(侵してはならない)聖地が・無数に・存在する(地域。大和国)」

 

(7)ふゆこもりの(冬隠の)(p54)

○「キョウル・サリ、冬を越した」(7-1336。春)

☆「フイ・ウ・コムリ」、HUI-U-KOMURI(hui=put or add together,meet,assembly,be affected with cramp,twitch in a way regarded as ominous;u=be firm,be fixed,reach its limit;komuri=backwards,gentle breeze,make supple by rubbing)、「(家族が)肩を寄せ合って・過ごす(または寒さに震える)季節(冬)を・後にした(過ぎ去った。春)」(「コムリ」が「コモリ」となった)

 

(8)たかひかる(高光)(p57)

○「クウチ・アプスム、限りない」(2-171。日皇子(の万代))

☆「タカヒ・カル」、TAKAHI-KARU(takahi=trample,place the foot on anything to hold it;karu=eye,look at)、「大地を踏みしめて・(四方を)見渡していた(日皇子)」

 

(9)ちはやぶる(千磐破)(p59、p206)

○「シャス・サイオタ、畏れる」(2-101。神)

☆「チハハ・イア・プル」、TIHAHA-IA-PURU(tihaha=rave,act like a madman;ia=indeed,current;puru=puri=sacred)、「荒々しい・実に・神聖な(神)」(「チハハ」の反復語尾のH音が脱落して「チハ」となった)

 

(10)あまとぶや(天飛や)(p61)

○a「ピ・タル・カ、鳩(の)」(5-876。鳥)

b「ピ・タン・キャル、絹織り(の)」(8-1520。領巾)

c「ピ・タル・シン、絹織り目(のような)または傾斜路(のような)」(2-207。軽の道)

☆「アマ・トプ・イア」、AMA-TOPU-IA(ama=outrigger on the windward side of a canoe,thwart of a canoe;topu=pair,assembled in a body;ia=indeed,current)、「実に・(風に向かって進むカヌーの浮き材のように)波を尾のように引く・もの(先端。くちばしなど)がある(鳥。領巾)」または「実に・(カヌーの)舳先のように・先上がりになっている(道)」

 

(11)ときつかぜ(時風)(p64)

○「カル・パラム、西南風」(12-3201。(吹く)吹飯の浜)

☆「トキ・ツ・カハ・テ」、TOKI-TU-KAHA-TE(toki=adze or axe;tu=fight with,energetic;kaha=strong,strength,persistency;te=crack)、「斧を・激しく振るうように・強い力で・(草木を)吹き分けるもの(強風)」(「カハ」のH音が脱落して「カ」となった)

 

(12)やすみしし(八隅知之)(p84)

○「キャジ・ハン、王(居西干)」(1-3。(我が)大君)

☆「イア・ツム・チチ」、IA-TU-MITITI(ia=indeed,current;tumu=promontory,go against the wind,stump,trunk,halt suddenly;titi=peg,comb for sticking in the hair,radiating lines of tatooing on the centre of the forehead,shine,adorn by sticking feathers,steep,go astray)、「実に・風に向かって立つているような(凛々しい、颯爽とした)・(鳥の羽根で)美しく装っている(大君)」(「ツム」の語尾のU音がI音に変化して「ツミ」から「スミ」となった)

 

(13)たかてらす(高照)(p86)

○「ノプ・パザン、尊い」(1-45。日皇子)

☆「タカ・テラ・ツ」、TAKA-TERA-TU(taka=heap,lie in a heap;tera=that,yonder,repeated to give distributive force;tu=stand,settle)、「高い・高い地位に・居られる(日皇子)」

 

(14)かむながら(神長柄)(p88)

○「プル・カズウイ、首王(始祖)(の)」(1-38。神/大君)

☆「カム・ナ・(ン)ガラ」、KAMU-NA-NGARA(kamu=eat,munch,close of the hand;na=satisfied,belonging to;ngara=snarl)、「(支配するもの)神が・(神らしく)がみがみと憤っている・ような(神の本質をさらけだしているような)」(1-38)または「ごうごうと音を立てている・ように・波が渦を巻いている(たぎつ(河内))」(1-39)(「(ン)ガラ」のNG音がG音に変化して「ガラ」となった)

(注)「かむながら」を「神の性質として」、「神であるままに」、「現人神として神そのままに」などと解されていますが、これは「かむ(神)」または「たぎつ(河内)」にかかる上記の形容句と解します。

 なお、「かむさび(神さび)」は、

a「カム・タ・アピ」、KAMU-TA-API(kamu=eat,munch,close of the hand;ta=dash,beat,lay;api,apiapi=crowded,dense,constricted)、「(支配するもの)神が・集まって・いる(神々しいものがある)」(3-317。1-38)(「タ」のA音と「アピ」の語頭のA音が連結して「タピ」から「サビ」となった)

b「カム・タピ」、KAMU-TAPI(kamu=eat,munch,close of the hand;tapi=apply as dressings to a wound,patch,mend,find fault with)、「(風雨に曝されて)傷んで・瑕疵が目立っている(古びている)」(5-867)

の転訛と解します。

 

(15)ふとしかす(太敷為)(p91)

○「クル・カン・チップ、大閣(大きな家。の)」(1-45。宮殿・宮居)

☆「フトイ・チカ・ツ」、HUTOI-TIKA-TU(hutoi=stunted,growing weakly,dishevelled;tika=shrill,straight,direct,just;tu=fight with,energetic)、「(持統天皇が)髪を振り乱し・金切り声をあげて・荒れ狂っている(京)」(「フトイ」の語尾のI音が脱落して「フト」となった)または「プタオ・チカ・ツ」、PUTAO-TIKA-TU(putao=widowed;tika=shrill,straight,direct,just;tu=fight with,energetic)、「未亡人(持統天皇)が・金切り声をあげて・荒れ狂っている(京)」(「プタオ」のP音がF音を経てH音に、AO音がO音に変化して「フト」となった)

(注)「(宮柱)太敷(ふとし)き」(1-36)は、「フトイ・チキ」、HUTOI-TIKI(hutoi=stunted,growing weakly,dishevelled;tiki=fetch,proceed to do anything,unsuccessful)、「(宮柱=朝廷を支える柱。持統天皇を指す)髪を振り乱している・不幸な人」または「(宮柱が)力無く・前方へ延びている(並んでいる)」の転訛と解します。

 

(16)こもりくの(隠口乃)(p93)

○a「コバ・オ・ン、美しい」(1-45、30-3263、3-424。(泊瀬の)山/川/処女)

b「コプム・クル、窪みの」(1-45。山)

c「コプ・トルタ(トヌウン)、曲がりくねる」(30-3263。川)

☆「コモ・リヒ・ク・ノ」、KOMO-RIHI-KU-NO(komo=thrust in,insert;rihi=flat;ku=silent;no=of)、「(山の中に)入ってゆくと・平らで・静かな・(場所)の」 (「リヒ」の音が脱落して「リ」となった)

 

(17)まきのたつ(真木立)(p96)

○「カム・ナ・クウツ、神水山」(1-45。荒山)

☆「マキノキノ・タツ」、MAKINOKINO-TATU(makinokino=disgusted,nauseated,fatigue;tatu=reach the bottom,be content,strike one foot against the other)、「極度の・不快感に襲われる(または疲労の・限度に達する)」(「マキノキノ」の反復語尾が脱落して「マキノ」となった)

 

(18)いはがね(石根)(p100)

○「トツ・カ・ピ、鬼火(の)」(1-45。禁樹)

☆「イ・ワ(ン)ガ・ネイ」、I-WHANGA-NEI(i=past tense,beside;whanga=stretch of water,any place to one side,stride,spread the legs,repeat after another;nei=to denote proximity,to indicate continuance of action)、「歩きに・歩い・た(場所)」(「ワ(ン)ガ」のWH音がH音に、NG音がG音に変化して「ハガ」となった)

 

(19)さかどりの(坂鳥乃)(p102)

○「カツ・サ・ン、夜明けの」(1-45。朝)

☆「タカ・トリノ」、TAKA-TORINO(taka=heap.lie in a heap,heap up;torino=a small basket for cooked food,flute,flowing or gliding smoothly)、「(太陽が)どんどんと・昇る(朝)」

 

(20)たまかぎる(玉限)(p104)

○「アラ・ラヒ、ほのかな」(1-45、10-2311、2-207。夕方/一目/磐垣淵)

☆「タマカ・キヒ・ル」、TAMAKA-KIHI-RU(tamaka=a round cord plaited with four or more strands;kihi=indistinct,cut off,destroy completely,strip of branches etc.;ru=shake,scatter,quiver)、「(何かを繋いでいる)紐を・切って・(それを)落としたような(釣瓶落としに陽が落ちる(1-45。夕)、迅速に過ぎて行く(13-3250。日)、ほんの一瞬の(10-2311。一目)または真っ逆様に落ち込むように切り立った(2-207。淵))」(「キヒ」のH音が脱落して「キ」から「ギ」となった)

(注)「玉がほのかに光る」という解釈では、上記の用例を素直に解釈できません。

 

(21)みゆきふる(三雪降)(p106)

○「カシ・バル/ブル、草地・小雑木地(の)」(1-45、2-199。(阿騎の)大野/林)

☆「ミイ・イ・ウフ・キ・フ・ウル」、MII-I-UHU-KI-HU-URU((Hawaii)mii=attractive,good-looking;i=past tense,beside;uhu=cramp,stiffness,benumbed;ki=full,very;hu=still,silent,quiet;uru=head,enter,possess,reach a place)、「きれいな・(人を)たいへん・痺れ・させるもの(=雪)が・静かに・(空から)降ってくる(阿騎の大野。冬の林)」

(注)これを枕詞とするのはいささか見当違いでしょう。

 

(22)はたすすき(旗須為寸)(p108)

○「カツ・パルウン、急傾斜の/痩せて青白い/気難しい」(14-3565、16-3800、1-45。山/穂/四能(土着民、地域))

☆「ハ・タツツ・キ」、HA-TATUTU-KI(ha=breath,breathe,taste,odour,sound,what!;tatu,tatutu=reach the bottom,be content,strike one foot against the other;ki=full,very)、「呼吸(または成長)が・限界に・達する(息が切れる急傾斜の(山)。成長しきった(すすきの穂。篠(竹))」

 

(23)くさまくら(草枕)(p111)

○「サ・ペカ、明け方に」(1-69。旅(行く))

☆くさまくら(草枕)は、

 「道の辺の草を枕にして寝る」意から(1)「旅」(1-5。ますらをと思へる我もー旅にしあれば思ひやるたづきを知らに)に、また「草の枕を結う」意で同音の「ゆふ(夕)」(『新古今和歌集』羇旅905。ー夕風寒くなりにけり衣うつなる宿や借らまし)などにかかり、さらに(2)地名「多胡(たご)」(14-3403。我が恋はまさかもかなしー多胡の入野の奥(おふ)もかなしも)(かかり方未詳)にかかる枕詞とされます。

  (1)「クタ・マクウ・ウラ(ン)ガ」、KUTA-MAKUU-URANGA(kuta=a rush;(Hawaii)makuu=topknot of hair;uranga=act or circumstance etc. of becoming firm)、「(藺草・灯心草などの)草(を結んで造った)の・髷(まげ)を・(睡眠中に)崩さないようにするもの(枕。その枕で寝る旅の)」(「マクウ」の語尾の反復母音のU音が脱落したU音と、「ウラ(ン)ガ」の語頭のU音が連結し、名詞形語尾のNGA音が脱落して「マクラ」となった)

  または(1)「ク・ウタ・マクラ」、KU-UTA-MAKURA(ku=silent;uta=put persons or goods on board a canoe etc.;makura=light red(makurakura=growing,reddish))、「空が赤くなったとき(暁に)・静かに・舟に乗り込む(旅に出る。その旅の)」(「ク」のU音と「ウタ」の語頭のU音が連結して「クタ」から「クサ」となった)

  (2)「クタ・マクラ」、KUTA-MAKURA(kuta=encumbrance as old and infirm people on a march;makura=light red)、「熱狂している・邪魔な人たち」 「ク・ウタ・マクラ」、KU-UTA-MAKURA(ku=silent;uta=put persons or goods on board a canoe etc.;makura=light red(makurakura=growing,reddish))、「ほのかに明るくなったとき(暁に)・静かに・舟に乗り込む(暁に旅に出る)」(「ク」のU音と「ウタ」の語頭のU音が連結して「クタ」から「クサ」となった)

(注)これだけで完結した詩句となっていますので、枕詞とする必要はない(例えば14-3403)と考えます。

 

(24)そらみつ(虚見都)(p128)

○「ピン・ポ・ン、誇りの(自分の)」(1-45。大和国)

☆「ト・ラミ・ツ」、TO-RAMI-TU(to=the...of,drag,open or shut a door or a window;rami=squeeze;tu=stand,settle,fight with,energetic)、「((我々が)戸を開けて)入り込んで・奪い取って・居座っている(大和国)」

 

(25)とりよろふ(取与呂布)(p151)

○「パ・ヒジャ・ナン(カムン・クル)、神水の山」(1-2。天香具山)

☆「ト・リオ・ロプ」、TO-RIO-ROPU(to=the...of,drag,open or shut a door or a window;rio=withered,dried up,wrinkled;ropu=company of persons,clump of trees,heap)、「あの・なだらかな・(木の瘤のような)山」(「リオ」が「リヨ」と、「ロプ」のP音がF音を経てH音に変化して「ロフ」となった)

 

(26)あもりつく(天降付)(p154)

○「カン・ナ・プル、神水の山」(3-257。天香具山)。なお、「天香具(あまのかぐ)山」も「神水の山」(1-2、3-257)

☆(1)「ア・モリ・ツク」、A-MORI-TUKU(a=the...of,belonging to;mori=low,mean,fondle,caress;tuku=let go,leave,send,side,shore,ridge of a hill)、「あの・低い・稜線の(岡。山)」

(2)「アマ・ノ・カク」、AMA-NO-KAKU(ama=outrigger of a canoe;no=of;kaku=scrape up,bruise,a rough cape made of pieces stripped off in the process of dressing flax)、a「(カヌーの舷側の)浮き材のような形・の・粗い黒皮(麻、楮、三椏、かじ等の植物の皮から白い繊維を採取する場合にその表皮からこそげ落とされる表面の黒皮)(を積み上げた。山)」またはb「(カヌーの舷側の)浮き材のような形・の・粗い黒皮の上着(をまとったような。山)」

(注)上代には(2)の意味が常識となっていたため、持統天皇の「春過ぎて夏きたるらし白たへの衣ほすてふ天の香具山」(1-28)の歌が詠まれたと考えられます。なお、この「しろたへ」は、「チロ・タエ」、TIRO-TAE(tiro=look;tae=dye,excrement,refuse of flax in dressing)、「粗い黒皮のように・(外観が)みえる(衣)」の転訛と解します。

 

(27)あきづしま(蜻島)(p157)

○「カ・ン・ヌピ、神水の山」(1-2。大和国)

☆(1)「アキツ・チマ」、AKITU-TIMA(akitu=close in on,fight,point,summit;tima=a wooden implement for cultivating the soil)、「(原住民が)集住している・(掘り棒で周囲を掘ったような)島」

(2)「アキツ・チマ(ン)ガ」、AKITU-TIMANGA(akitu=close in on,fight,point,summit;elevated stage on which food is kept)、「(原住民が)集住している・(高床の)食料倉庫(のような。土地)」(「チマ(ン)ガ」の語尾のNGA音が脱落して「チマ」から「シマ」となった)(この「シマ」がのちに「特定の(遊郭、色町などの)地域」、「特定の(ヤクザの)縄張り」の意味に変化したものと考えられます。)

 

(28)ひさかたの(久方の)(p192)

○a「アツウク・ハン、遙かな時空の」(7-1083、8-1661、20-4465。夜(空)、月夜、天)

b「アライ・ニャク、過ぎし日の」(3-292、12-3208。天、月夜)

c「アラ・カ、遠く離れた場所の」(2-204、13-3252。天、王都)

d「オラ・キャル、久しい時の」(20-4443。雨)

☆「ヒタ・カタ・ノ」、HITA-KATA-NO(hita=move convulsively or spasmodically;kata=laugh,opening of shellfish;no=of)、「ときどき衝動的に・笑った顔を見せる(または晴れ間をのぞかせる)(天、空、月など)」

 

(29)あらかねの(鑛の)(p197)

○「サ・ロバン、新しい土(現世)の」(『古今和歌集』仮名序。地)

☆「ア・ラカ・ネイ・ノ」、A-RAKA-NEI-NO(a=the...of,belonging to;raka=be entangled,agile,go,spread about;nei=to denote proximity,to indicate continuance of action;no=of)、「この・煩わしいことが・どこまでも続く・(土地。世界)の」

 

(30)かむかぜの(神風の)(p201)

○「カム・パラム(カ)、大きい石壁の」(2-163。伊勢)

☆「カハ・ムカ・タイ・ノ」、KAHA-MUKA-TAI-NO(kaha=strong,rope,boundary line of land etc.;muka=prepared fibre of flax,the way by which a god communicates with the medium;tai=the sea,the coast,tide,anger;no=of)、「辺境にある・(巫者が)神と交流する・海岸・(の場所)の」(「カハ」のH音が脱落して「カ」と、「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」から「ゼ」となった)

 

(31)たまほこの(玉鉾乃)(p210)

○a「アル・パン、前に行く」(18-4116。道)

b「クスウル・パン、もの悲しい」(2-230。道)

☆「タ・マホ・カウ・ノ」、TA-MAHO-KAU-NO(ta=the...of,dash,beat,lay;maho=quiet,undisturbed;kau=alone,only,swim,wade;no=of)、「そこにある・静かな・緩やかに曲がって・いる(道)」(「カウ」のAU音がO音に変化して「コ」となった)

 

(32)あまざかる(天離る)(p213)

○「ピ・ソア・ハタ、つまらない(取るに足りない)」(1-29。夷、鄙)

☆「ア・マタ・カル」、A-MATA-KARU(a=the...of,belonging to;mata=face,eye,raw,unripe;karu=spongy matter enclosing the seeds of a gourd,snare)、「あの・粗野で・軽い・(社会)の(鄙)」

 

(33)万葉(まんえふ。まんよう)集(p23)

(これは枕詞ではありませんが金氏が言及している解釈なので、ここで対比することとします。)

○「葉」には「世」、「代」の意味があり、古代新羅の郷歌集『三代目』(かつて存在したと史書に記載があるが現存していない)にならって編纂された。

☆「マノ・エフ」、MANO-EHU(mano=thousand,indefinitely large number;ehu=turbid,bail,exhume,disinter)、「たくさんの・(埋もれた古歌の中から)発掘してきた(歌集)」(「マノ」が「マン」となった)

  または「マ(ン)ゴイ(ン)ゴイ・アウ」、MANGOINGOI-AU(mangoingoi=fish with a line from the shore;au=sea,firm,intense)、「(海辺で)魚を釣り上げるように(たくさんの歌の中から取り集めて)・まとめた(歌集)」(「マ(ン)ゴイ(ン)ゴイ」のNG音がN音に変化して「マノイノイ」となったその反復語尾が脱落して「マノイ」となり、「アウ」のAU音がOU音に変化して「オウ」となり、これが連結して「マノイオウ」から「マンヨウ」となった)

 

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<修正経緯>

1 平成16年4月1日 第4の(16)「こもりくの」の☆ポリネシア語による解釈を修正しました。

2 平成16年9月1日 

(1)第2の第9章の万葉集2−156歌について国語篇(その六)および(その七)において解明したことに伴い、その旨修正しました。

(2)第4の(33)「万葉集」の解釈を追加しました。

3 平成18年8月1日 第2の第6章の「たまきはる」および第4の(23)「くさまくら」、(27)「あきづしま」の☆ポリネシア語による解釈を修正しました。

4 平成19年2月15日  インデックスのスタイル変更に伴い、本篇のタイトル、リンクおよび奥書のスタイルの変更、<次回予告>の削除などの修正を行ないました。本文の実質的変更はありません。

5 平成19年10月15日

 第2の(p91)の「筆(ふで)」の☆ポリネシア語による解釈を一部修正しました。

6 平成20年3月1日

 第2の(p62)の「まゆ(眉)・まゆ(繭)」のうち「まよ(繭)・まゆ(繭)」の☆ポリネシア語による解釈を修正しました。

7 平成24年10月1日

 第2の(p172)の「きっぷ(切符)」の☆ポリネシア語による解釈を修正しました。

国語篇(その三)終わり

 

U R L:  http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/
タイトル:  夢間草廬(むけんのこや)
       ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源
作  者:  井上政行(夢間)
Eメール:  muken@iris.dti.ne.jp
ご 注 意:  本ホームページの内容を論文等に引用される場合は、出典を明記してください。
(記載例  出典:ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/timei05.htm,date of access:05/08/01 など)
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