古典篇(その五)

(平成13-7-15書込。20-12-20最終修正)(テキスト約39頁)


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<『古事記』の神名>

  目 次

[ア]

001阿加流比売002足名椎003葦原色許男神004阿須波神005阿遅鋤高日子根・「み谷二渡らす」歌006淡道之穂之別007天津久米命008天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命009天津日高日子穂々出見命010天津麻羅010-2天御虚空豊秋津根別011天照大御神012天宇受売命013天忍日命014天忍穂耳命015天迦久命016天児屋命017天佐具売018天手力男神019天鳥船神020天迩岐志国迩岐志天津日高日子番能迩迩藝命021天忍許呂別022天忍男022-2天之狭手依比売023天之常立神023-2天之両屋024天之冬衣神025天之菩日命026天之御中主神027天之尾羽張神028天火明命029天若日子029-2天一根029-3天比登都柱

[イ]

030伊奢沙和気大神031伊耶那岐神(命)032伊耶那美(命)033市寸嶋比売034稲田宮主須賀之八耳035稲羽八上比売036石押分之子037石長比売038井氷鹿038-2飯依比古

[ウ]

039宇迦之御魂神040宇都志国玉神041上筒之男神042上津綿津見神043宇摩志阿斯訶備比古遅神

[エ]

044愛比売

[オ]

045奥津嶋比売命046大穴牟遅神047大国主神048大気都比売神049大宜都比売049-2大多麻流別050大年神050-2大野手比売051大物主神052大山津見神053大綿津見神054於美豆奴神055思金神

[カ]

056金山毘古神057神阿多津比売058神大市比売059神産巣日神

[キ]

060木俣神

[ク]

061久延毘古062櫛名田比売063国常立神

[ケ]

064気比大神

[コ]

065事代主神066木花之佐久夜毘売

[サ]

067刺国若比売068佐比持神069狭依毘売070猿田毘古神071槁根津日子

[シ]

072下照比売073塩椎神074白日別

[ス]

075少名毘古那神076須勢理毘売

[ソ]

077底筒之男神078底津綿津見神

[タ]

079高木神080高比売命081高御産巣日神082多岐津比売命083多紀理毘売命084建速須佐之男命085建日方別086建日別087建日向日豊久士比泥別088建御雷之男神089建御名方神090建依別

[チ]

091道反之大神092道敷大神

[ツ]

093月読命

[テ]

094手名椎

[ト]

095鳥取神096登由宇気神097豊宇気毘売神098豊玉毘売099豊日別100鳥之石楠船神

[ナ]

101中筒之男神102中津綿津見神103泣沢女神104鳴女

[ニ]

105贄持之子

[ヌ]

106沼河比売

[ハ]

107波迩夜須毘古神108波迩夜須毘売神109波比岐神

[ヒ]

110火之玄毘古神111火之迦具土神112火之夜藝速男神113水蛭子

[フ]

114布津御魂115布帝耳神116布刀玉神

[ホ]

117火須勢理命118火照命119火遠理命

[マ]

120悪事一言善事一言言離神葛城一言主神121正勝吾勝々速日天之忍穂耳命

[ミ]

122甕速日神123甕布都神124御倉板挙神125御食津大神126弥都波能売神127御井神

[ヤ]

128八嶋士奴美神129八嶋牟遅神130八千矛神131八重言代主神132山田曽富騰

[ヨ]

133黄泉津神134予母都志許売

[ワ]

135和久産巣日神

<修正経緯>

 

<『古事記』の神名>

 

[はじめに]

 

 『古事記』には321の神名が記録されますが、ここではそのうち次回の<古典篇(その六)>「古代天皇の諡号・宮都・父母兄弟・后妃・皇子名」で解説するものを除き、重要と思われる135の神名(一部人名・地名を含みます)について解説します。ここでは、神名の名義は、発音の似た日本語の意味や宛字の漢字の語義に依存する従来の誤った解釈の一典型として、主として『古事記』(新潮日本古典集成、校注西宮一民、新潮社、昭和54年)の付録「神名の釈義」によりました。

 なお、ポリネシア語による解釈は、原則としてマオリ語により、ハワイ語による場合はその旨注記します。

 

[ア]

 

001阿加流比売(アカルヒメ)の神

 名義は、「色美しく、ツヤのある女性」の意とされます。新羅の賎女が日光に感じて赤玉を産み、その玉が新羅の王子の手に入り、乙女となって王子(天之日矛(アメノヒホコ))の妻となりますが、王子の横暴に耐えかね、逃げ出して難波に来て、比売碁曽(ひめごそ)社の祭神となります。『延喜式』四時祭下条は比売碁曽の別名を「下照(シタテル)比売」(029天若日子の妻072下照比売の項を参照してください)とします。

 この「あかる」、「したてる」、「あめのひほこ」は、

  「アカ・ル」、AKA-RU(aka=affection,scrape away;ru=shake,agitate,scatter)、「感情が・揺れ動いた(取り乱した、または堪忍袋の緒が切れた・姫)」

  「チタハ・テ・ル」、TITAHA-TE-RU(titaha=lean to one side,pass on one side;te=crack;ru=shake,agitate,scatter)、「(夫と)離別する・成り行きとなって・取り乱した(姫)」(「チタハ」のH音が脱落して「チタア」から「シタ」となつた)

  「ア・メノ・ヒ・ホコ」、A-MENO-HI-HOKO(a=the...of,belonging to;meno=whakameno=show off,make a display;hi=raise,rise;hoko=lover,exchange)、「(自分の身分を)誇示した・身分の高い・恋人」または「アマイ・ナウ・ヒ・ホコ」、AMAI-NAU-HI-HOKO(amai=giddy,dizzy;nau=come,go;hi=raise,rise;hoko=lover,exchange)、「浮ついた性格で・(日本へ)やって来た・身分の高い・恋人」(「アマイ」のAI音がE音に変化して「アメ」と、「ナウ」のAU音がO音に変化して「ノ」となった)

の転訛と解します。

 

002足名椎(アシナヅチ)

 名義は、「晩稲の稲の精霊」の意、「足名」は「浅稲」の約、「浅」は「遅」と同源とされます。一方、「足のない精霊」で農耕の水神、蛇と解する説もあります。国津神052大山津見神の子とされ、084建速須佐之男命が助けた062櫛名田比売の父で、母は094手名椎です。

 この「あしなづち」は、

  「アチ・ナツ・チ」、ATI-NATU-TI(ati=descendant,clan;natu=scratch,tear out;ti=throw,cast,overcome)、「(娘を)略奪されて・打ちのめされた・一族(の父)」

の転訛と解します。

 

003葦原色許男(アシハラノシコオ)の神

 名義は、「地上の現実の国にいる醜い男」の意とされます。047大国主命の別名の一です。しかし、076須勢理毘売は大国主命を「甚麗しき神」と父に告げていますし、各地に恋人が多数あったことなどからすると、「醜い男」と解するのは誤りと考えられます。

 この「あしはらのしこお」は、

  「アチ・パラ・ノ・チコ・アウ」、ATI-PARA-NO-TIKO-AU(ati=descendant,clan;para=bravery;no=of;tiko=protrude;au=sea,firm,certainly)、「真に・ずば抜けた・勇者の・一員)」

の転訛と解します。

 

004阿須羽(アスハ)の神

 名義は、祈年祭祝詞の中に見えるところから、「宅地の基礎が堅固なこと」の意とされます。084須佐之男命の子の050大年神と天知迦流美豆比売との間に生まれた9神中の第4子の名です。『延喜式』神名帳に「足羽(アスハ)神社」があり、越前国に「足羽(アスハ)郡」があります。

 この「あすは」は、

  「アツ・ワ」、ATU-WHA(atu=to indicate a direction or motion towards(away,forth),to indicate reprocicated action;wha=be disclosed,get abroad)、「(川が)押し流して・(地面を)剥き出しにする地域(そこに居る神)」

の転訛と解します。

 

005阿遅鋤高日子根(アヂスキタカヒコネ)の神・「み谷二渡らす」歌

 名義は、「立派な鋤の高く輝く太陽の子」の意、「阿遅」は「味」で「良い」意味の美称とされます。「阿遅鋤」は「刀剣」を、「刀剣」は「竜蛇神」、「雷神」を連想させるとする説があります。この神は、047大国主命と胸形の奥津宮の083多紀理比売との間に生まれ、「天若日子の反逆」の条で029天若日子の喪を弔ったとき、遺族に天若日子と間違えられ、喪屋を破壊して去り、妹080高比売命(別名072下照比売)が兄の名を顕わすために歌を詠みます。
 なお、『出雲国風土記』は阿遅須枳高日子命とします。

 この「あじすきたかひこね」は、

  「アチ・ツキ・タカ・ヒコ・ネイ」、ATI-TUKI-TAKA-HIKO-NEI(ati=descendant,clan;tuki=beat,attack;taka=heap,lie in a heap,go or pass round,fall off;hiko=move at random or irregularly;(Hawaii)nei=to rumble as an earthquake,sighing as of the wind)、「(喪屋を)破壊して・去った(または評判を落とした)・各地を遍歴した・一人で・(世の中を揺るがした)物議を醸した(神)」

の転訛と解します。

 高比売命が兄の名を顕わそうと歌った歌は、記には 
  「天(あめ)なるや 弟棚機(おとたなばた)の 項(うな)がせる 玉(たま)の御統(みすまる) 御統に 穴玉(あなたま)はや み谷(たに) 二渡(ふたわた)らす 阿治志貴高(あぢしきたか) 日子根(ひこね)の神ぞ」
とあり、紀の一書にはほぼ同一の歌とともに
  「天離(あまさか)る 夷(ひな)つ女(め)の い渡(わた)らす迫門(せと) 石川片淵(いしかはかたふち) 片淵(かたふち)に 網張(あみは)り渡(わた)し 目(め)ろ寄(よ)しに 寄(よ)し寄(よ)り来(こ)ね 石川片淵(いしかはかたふち)」
の歌が記され、これらの歌は記は「夷振(ひなぶり)」と、紀は「夷曲(ひなぶり)」であるとします。
 これらの歌は、前者は「天にいる機織女が、頸にかけている玉の御統、その御統に通してある穴玉は、(極めて美しいが、それは全く)谷二つに渡って輝いている阿遅鋤高日子根神とおなじである。」の意と、後者は「夷つ女が瀬戸を渡って(魚をとる)石川の淵よ。その淵に網を張り渡し、網の目を引き寄せるように、寄っておいで。石川片淵よ。」の意と、また、「夷曲」は「前に歌に「夷つ女」という詞があるのによる曲の命名。中国楽府の命名法を学んだものであろう」と解され(以上いずれも岩波日本古典文学大系『日本書紀上』注)、「夷振」は「田舎風の歌曲」(岩波日本古典文学大系『万葉集』注)と解されています。

 これらの歌は、

  「天(あめ)なるや」 「アマイ・(ン)ガル・イア」、AMAI-NGARU-IA(amai=swell on the sea,giddy;ngaru=wave of the sea;ia=indeed)、「実に・波のうねりが・盛り上がるように」(「アマイ」のAI音がE音に変化して「アメ」と、「(ン)ガル」のNG音がN音に変化して「ナル」となった)

  「弟棚機(おとたなばた)の」 「アウト・タ(ン)ガ・パタ・ノ」、AUTO-TANGA-PATA-NO(auto=trail behind,slow;tanga=be assembled;pata=cause,occasion)、「徐々に・(兄が暴発する)原因が・相次いで起こった」(「アウト」のAU音がO音に変化して「オト」と、「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」となった)

  「項(うな)がせる」 「ウ(ン)ガ・(ン)ガテ・ル」、UNGA-NGATE-RU(unga=act or circumstance etc. of becoming firm;ngate=move,shake;ru=shake,scatter,earthquake)、「(兄の気持を)揺るがす・(地震のような)動きが・だんだんとはっきりしてきた」(「ウ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ウナ」と、「(ン)ガテ」のNG音がG音に変化して「ガテ」から「ガセ」となった)

  「玉(たま)の御統(みすまる) 御統に」 「タマ・ノ・ミヒ・ツマル・ミヒ・ツマル・ニヒ」、TAMA-NO-MIHI-TUMARU-MIHI-TUMARU-NIHI(tama=son,man,emotion,spirit;no=of;mihi=sigh for,show itself;tumaru=shady;nihi,ninihi=move stealthly,come stealthly upon,surprise)、「(兄の魂)心・の・名状しがたい・(アメノワカヒコの死を)哀悼する(気持ち)/その名状しがたい・哀悼(の気持ち)が・徐々にやってくる」(「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」と、「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」となった)

  「穴玉(あなたま)はや」 「アナ・タマ・ハ・イア」、ANA-TAMA-HA-IA(ana=yes,his,her;tama=son,man,emotion,spirit;ha=what!,breath,sound;ia=indeed,current)、「彼(兄)の・心は・実に・(大きく)息づいた」

  「み谷(たに)二渡(ふたわた)らす」 「ミヒ・タ(ン)ギ・プタ・ワ・タラツツ」、MIHI-TANGI-PUTA-WHA-TARATUTU(mihi=sigh for,show  itself;tangi=cry,weep,mourn;puta=perforation,survivor,move from one place to another,pass through;wha=be disclosed,get abroad;taratutu=fierce)、「哀悼(の気持ち)を・表して・生き残った者(兄)が(または(お悔やみに)やつて来た)・(死者と間違われたために哀悼の気持ちを)暴挙として・表現した」(「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」と、「タ(ン)ギ」のNG音がN音に変化して「タニ」と、「プタ」のP音がF音を経てH音に変化して「フタ」と、「タラツツ」の反復語尾が脱落して「タラツ」から「タラス」となった)

 「天離(あまさか)る」 「ア・マタ・カル」、A-MATA-KARU(a=the...of,belonging to;mata=raw,unripe;karu=spongy matter enclosing the seeds of a gourd)、「粗野で・軽い・(社会)の(鄙)」

 「夷(ひな)つ女(め)の」 「ヒ(ン)ガ・ツ・マイ・ノ」、HINGA-TU-MAI-NO(hinga=fall from an errect position,be overcome with astonishment or fear;tu=stand,settle;mai=dance;no=of)、「(都から落ちていった場所の)地方に・住む・(踊りを踊る)女・の」(「ヒ(ン)ガ}のNG音がN音に変化して「ヒナ」となつた)

 「い渡(わた)らす迫門(せと)」 「イ・ワ・タラツツ・タイトア」、I-WHA-TARATUTU-TAITOA(i=past tense,beside;wha=be disclosed,get  abroad;taratutu=fierce;taitoa=brave,manly)、「勇気をもつて・(女性の)凄さを・見せつけ・た」(「タラツツ」の反復語尾が脱落して「タラツ」から「タラス」と、「タイトア」のAI音がE音に変化し、語尾のA音が脱落して「テト」から「セト」となった)

 「石川片淵(いしかはかたふち)」 「イ・チ・カワ・カ・タフチ」、I-TI-KAWA-KA-TAHUTI(i=past tense;ti=throw,cast;kawa=a class of incantations or ceremonies in connection with a new house or canoe,the birth of a child,a battle,etc.;ka=to denote the commencement of a action or condition,at the beginning of a narrative to introduce a condition(when,as soon as,should);tahuti=run away,hurriedly)、「直ちに・急いで・(通常新しい生命の無事を祈る呪文。ここでは喪屋を破壊した兄の身の無事を祈る)呪文を・唱え・た」

 「片淵(かたふち)に」 「カ・タフチ・ニヒ」、KA-TAHUTI-NIHI(ka=to denote the commencement of a action or condition,at the beginning of a narrative to introduce a condition(when,as soon as,should);tahuti=run away,hasten;nihi,ninihi=move stealthly or carefully)、「直ちに・急いで・注意深く」(「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」となった)

 「網張(あみは)り渡(わた)し」 「アミ・パリ・ワタ・チ」、AMI-PARI-WHATA--TI(ami=gather,collect;pari=flowing of the tide,bark as a dog;whata=elevated stage,elevate,bring into prominence,protrude;ti=throw,cast)、「水の流れ(のような呪文)を・(集めて)反復して・卓越し(た呪文となっ)て・唱えて」(「パリ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハリ」となった)

 「目(め)ろ寄(よ)しに」 「メロ・イ・オチ・ニヒ」、MERO-I-OTI-NIHI(mero=small;i=past tense,beside;oti=finished,gone or come for good;nihi,ninihi=move stealthly or carefully)、「小さな(呪文が)・次第に・(集まって良い)結果を・生む(ように)」 (「イ・オチ」が「ヨチ」から「ヨシ」となった)

 「寄(よ)し寄(よ)り来(こ)ね」 「イ・オチ・イ・オリ・コネイ」、I-OTI-I-ORI-KONEI(i=past tense,beside;oti=finished,gone or come for good;ori=cause to wave to and fro,sway,move about;konei=implying nearness to or connection with the speaker)、「(良い)結果を・生み・あちこち動い・て・寄る(ように)」(「イ・オチ」が「ヨチ」から「ヨシ」と、「イ・オリ」が「ヨリ」となった)

  「夷曲(ひなぶり)」 「ヒ(ン)ガ・プリ」、HINGA-PURI(hinga=fall from an errect position,lean;puri=sacred,pertaining to ancient lore,one instructed in esoteric lore)、「(都から落ちていった場所の)地方の・古い伝承」(「ヒ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ヒナ」となった)

の転訛と解します。

006淡道之穂之狭別(アハジノホノサワケ)

 名義は、「淡路島の粟の初穂の男子」の意、「淡道」は「粟(阿波)の国(徳島県。また四国の総称)へ行く道」、「穂之狭」は「穂が初めて出る、初穂」、「別」は「地方を別け治める者」とされます。岐・美2神の国生みの最初の島の名です。

 この「あはじのほのさわけ」は、

  「アワ・チノ・ホノ・タワケ」、AWA-TINO-HONO-TAWAKE(awa=channel,river;tino=exact,quite,very;hono=join,add,be on the point of;tawake=rapair a hole in a canoe)、「海峡(の中)に・正に・(本州と四国を)結んで・(海峡に蓋をするように)塞いでいる(島。そこに居る神)」

の転訛と解します。

 

007天津久米(アマツクメ)の命

 名義は、「天上界の、隅々を守る人」の意、「久米」は「隈(クマ)」(道の曲がり角ないし奥まった所)の音転かとされます。天孫降臨に際し、013天忍日命とともに武具を帯びて先導した神です。神代紀下には、来目部の遠祖、天患津大来目が大伴連の遠祖、天忍日命に率いられた、とあります。

 この「あまつくめ」は、

  「アマ・ツ・クメ」、AMA-TU-KUME(ama=outrigger of a canoe;tu=stand,settle;kume=pull,drag)、「対馬の地に・住む・(先頭に立って他を)引っ張って行く(神)」

の転訛と解します。

 

008天津日高日子波限建鵜葺草葺不合(アマツヒコヒコナギサタケウガヤフキアエズ)の命

 名義は、「天上界の神聖な男子で、日の御子である、渚で勇ましく鵜の羽で産屋の屋根を葺き終わらぬうちに生まれた者」の意とされます。011天照大御神の玄孫。009天津日高日子穂々出見(ホホデミ)命098豊玉毘売(トヨタマビメ)の間に生まれた子です。母は、見るなの禁忌を犯されて海宮に戻り、母の妹玉依毘売(タマヨリビメ)に育てられた後玉依毘売と結婚し、五瀬命、稲氷命、御毛沼命、若御毛沼命(のちの神武天皇)が生まれます。

 この「あまつひこ/ひこなぎさたけ/うがやふきあえず」は、

  「アマ・ツ・ヒ・コ/ヒコ・ナ・(ン)ギタ・タケ/ウ(ン)ガ・イア・フキ・アエ・ツ」、AMA-TU-HI-KO-HIKO-NA-NGITA-TAKE-UNGA-IA-HUKI-AE-TU(ama=outrigger of a canoe;tu=stand,settle;hi=raise,rise;ko=adressing to girls and males;hiko=move at random or erregularly;na=satisfied,belonging to;ngita=fast,firm;take=stump,chief;unga=send;ia=indeed,current;huki=transfix,glance suddenly;ae=in answer to a negative question it affirms the negative and must be rendered by no;tu=be wound)、「対馬の地に・住む・身分の高い・男子(の系統)で/あちこち遍歴した・しっかりした・信頼される氏族の長で/(見るなの禁忌を犯されて産屋を)覗かれて・傷ついた・(母が)残した(子)」

の転訛と解します。(このように「天津日高」は、本来「天孫族の出身地である対馬に住む身分の高い男子」の意で、『日本書紀』には付されていません。『古事記』では、編集者がその正確な意味を理解せずに、天孫の子孫に敬称として付したものでしょう。)

009天津日高日子穂々出見(アマツヒコヒコホホデミ)の命

 名義は、「天上界の神聖な男子で、日の御子である、多くの稲穂が出る神霊」の意とされます。011天照大御神の曾孫。020天孫迩迩藝(ニニギ)命066木花之佐久夜毘売を妻として三子を生んだその第三子。別名「119火遠理(ホオリ)命(山佐知毘古)」。兄118火照(ホデリ)命(海佐知毘古)と漁猟具を交換し、兄の釣り針を失い、その返却を強要されて、海神の宮へ行き、098豊玉毘売(トヨタマビメ)と結婚し、釣り針と塩盈珠・塩乾珠を得て戻り、二つの珠で兄を服従させます。008天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命が生まれます。

 この「あまつひこ/ひこほほでみ」は、

  「アマ・ツ・ヒ・コ/ヒコ・ホホ・テ・ミヒ」、AMA-TU-HI-KO-HIKO-HOHO-TE-MIHI(ama=outrigger of a canoe;tu=stand,settle;hi=raise,rise;ko=adressing to girls and males;hiko=move at random or erregularly;hoho=prominent;te=the,emphasis,crack;mihi=greet,admire)、「対馬の地に・住む・身分の高い・男子(の系統)で/(釣り針を求めて)あちこち遍歴した・特に・尊敬すべき・卓越した(神)」

の転訛と解します。

 

010天津麻羅(アマツマラ)

 名義は、「天上界の片目の人」の意で、「麻羅」は「目占(マウラ)」の約とされます。天照大神が天岩戸に隠れたので、招き出すために鏡を作ることとなり、「鍛人(カヌチ。金打ちの約)」である天津麻羅が呼ばれます。綏靖前紀には「天津真浦」とあります。

 この「あまつまら」、「あまつまうら」は、

  「アマ・ツ・マラ」、AMA-TU-MARA(ama=outrigger of a canoe;tu=stand,settle;mara=a term of addressto a man,farm)、「対馬に・住む・男子」または「アマ・ツ・マラ(ン)ガ」、AMA-TU-MARANGA(ama=outrigger of a canoe;tu=stand,settle;maranga=rise up from a recumbent position,arise from sleep,be lifted)、「対馬に・住んでいて・(寝ていたところを)叩き起こされた(者)」(「マラ(ン)ガ」の語尾のNGA音が脱落して「マラ」となった)

「アマ・ツ・マウラ(ン)ガ」、AMA-TU-MAURANGA(ama=outrigger of a canoe;tu=stand,settle;mauranga=mau=carry,bring,take up,lay hold of)、「対馬に・住んでいて・連れて来られた(者)」(「マウラ(ン)ガ」の語尾のNGA音が脱落して「マウラ」となった)

の転訛と解します。

 

010-2天御虚空豊秋津根別(アマツミソラトヨアキツネワケ)

 名義は、「天の御空に群れ飛ぶ蜻蛉の男子」。「御虚空」は「神聖な空」、「秋津」は「蜻蛉」で稲の精霊で豊作の予祝、「根」は「根元」で美称、「別」は「地方を分け治める者」の意で男子の美称。二神の国生みによって最後に生まれた「大倭豊秋津島」(本州)の亦の名です。新潮日本古典集成は「天」に「津」が付かないとして「あめの」と訓じますが、ここでは通常の「あまつ」の訓を採りました。

 この「あまつみそらとよあきづねわけ」は、

  「ア・マツ・ミヒ・トラ・トイ・アウ・アキツ・ネイ・ワカイ(ン)ガ」、A-MATU-MIHI-TORA-TOI-AU-AKITU-NEI- WAKAINGA(a=the...of;matu=ma atu=go,come;mihi=greet,admire;tora=burn,blaze,be erect;toi=native,aboriginal;au=firm.intense;akitu=close in on,fight,point,summit;nei=to denote proximity,to indicate continuance of action;wakainga=distant home)、「あの・(人々が)行き来する・尊崇すべき・輝いている・原住民が・密に・集住し・続けている・遠く離れた本拠(場所)」(「ワカイ(ン)ガ」のAI音がE音に変化し、名詞形語尾のNGA音が脱落して、「ワケ」となった)

の転訛と解します。

 

011天照大御神(アマテラスオオミカミ)

 名義は、「天にあって照り輝く偉大な神々しい神」の意とされます。031伊耶那岐命が黄泉国から帰って筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原で禊をしたとき、左の目を洗って生まれた第一の神です。伊耶那岐命は、天照大御神に高天原(タカマノハラ)を支配するよう命じます。

 この「あまてらすおおみ(かみ)」、「たかまのはら」は、

  「アマ・テラ・ツ・オホ・ミヒ」、AMA-TERA-TU-OHO-MIHI(ama=outrigger of a canoe;tera=that,yonder;tu=stand,settle;oho=surprise,wake up,arise;mihi=lament,greet,admire)、「彼方の・対馬の地に・住む・高い地位にある・尊敬すべき(神)」または「彼方の・対馬の地に・住む・(スサノオの来訪を反乱かと誤解して)驚愕して・嘆き悲しんだ(神)」

  「タカムア・ノ・ハラ」、TAKAMUA-NO-HARA(takamua=fore,front;no=of;hara=a stick bent at the top,used as a sign that a chief had died at the place)、「(氏族の首長がその場所で死んだことを示す)先を折った杖・の・前の土地(=氏族の首長の墳墓のある聖地)」(「タカムア」の語尾のUA音がA音に変化して「タカマ」となつた)(この解釈は、アマテラスは祖先の祭祀を司る祭司であったことを示します。)

の転訛と解します。

 

012天宇受売(アメノウズメ)の命

 名義は、「天上界の、髪飾りをした巫女」の意、「天(アメノ)」は単なる美称ではなく「天上界(高天原)と関係を持つと認識されたものに冠する美称、「宇受」は神霊の依代となる「髪華(ウズ)」で「かんざし」を指し、神懸かりして踊る巫女とされます。この神の子孫は、070猿田毘古神の名をもらって「猿女(サルメ)の君」と呼ばれます。

 この「あめのうずめ」、「さるめ」は、

  「ア・メノ・ウツ・マイ」、A-MENO-UTU-MAI(a=the...of,belonging to;meno=whakameno=show off,make a display;utu=spur of a hill,dip up water etc.;mai,maimai=dance)、「高いところ(舞台の上)で・踊りを・誇示した(女神)」(「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」となった)

  「タル・マイ」、TARU-MAI(taru=shake,overcome;mai,maimai=dance)、「(身体を)震わせて・踊る(人)」(「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」となった)

の転訛と解します。

 

013天忍日(アメノオシヒ)の命

 名義は、「天上界の、威圧的な霊力」の意、「忍」は「押さえつける」意で威力あるものの美称とされます。

 この「あめのおしひ」は、

  「ア・メノ・オ・チヒ」、A-MENO-O-TIHI(a=the...of,belonging to;meno=whakameno=show off,make a display;o=the...of,belonging to;tihi=summit,top)、「(自分が天孫の護衛の)最高責任者であることを・誇示した(神)」

の転訛と解します。

 

014天忍穂耳(アメノオシホミミ)の命

 121正勝吾勝々速日天之忍穂耳命の項を参照してください。

 

015天迦久(アメノカク)の命

 名義は、「天上界の、輝く刀剣」の意、「迦久」は「輝く」意、027天尾羽張神088建御雷神と並ぶところから刀剣と解すべきとされます。天孫降臨に先立ち、011天照大御神の使いとして天安河を堰止め、道を塞いだ岩屋に居る天尾羽張神の許へ行った神です。

 この「あめのかく」は、

  「ア・メノ・カク」、A-MENO-KAKU(a=the...of,belonging to;meno=whakameno=show off,make a display;kaku=scrape up,bruise,shred)、「(道を塞ぐ障害物を)破壊する能力を・誇示した(神)」

の転訛と解します。

 

016天児屋(アメノコヤネ)の命

 名義は、「天上界の、小家屋」の意とされます。011天照大御神の岩戸隠れの際には鹿骨を灼いて占いをし、「布刀詔戸言祷白(フトノリトゴトホキモウ)し」て祈願をし、天孫降臨の際には、五伴緒の筆頭として随伴した、朝廷の祭祀を司つた中臣連等の祖先神です。

 この「あめのこやね」、「ふとのりごとほき」は、

  「ア・メノ・コ・イア・ヌイ」、A-MENO-KO-IA-NUI(a=the...of,belonging to;meno=whakameno=show off,make a display;ko=sing,shout;ia=indeed,current;nui=large,many)、「実に・数多く・(祝詞、呪文を)唱える能力を・誇示した(神)」

  「フ・タウ・(ン)ゴリ・(ン)ゴト・ホキ」、HU-TAU-NGORI-NGOTO-HOKI(hu=desire;tau=alight,settle down,sing;ngori=weak;ngoto=be deep,firmly;hoki=return,restorative charm)、「(アマテラスの帰還の)願いを・低い声で・しっかりと・歌い上げ、再生復活の呪文を唱える」(「(ン)ゴリ」のNG音がN音に変化して「ノリ」と、「(ン)ゴト」のNG音がG音に変化して「ゴト」となった)

の転訛と解します。

 

017天佐具売(アメノサグメ)

 名義は、「天上界の、隠密なるものを探り出す女」の意とされます。アマテラスの命を受けて029天若日子を詰問するために降下した雉、104鳴女(ナキメ)の声を不吉として射殺すよう天若日子に進言しました。

 この「あめのさぐめ」は、

  「ア・メノ・タ・クメ」、A-MENO-TA-KUME(a=the...of,belonging to;meno=whakameno=show off,make a display;ta=dash,beat,attack;kume=pull,drag)、「(吉凶の)占いの能力を誇示して・(鳴女を)襲う(射殺する)ように・誘導した(女)」

の転訛と解します。

 

018天手力男(アメノタヂカラヲ)の神

 名義は、「天上界の、手の力の強い男」の意とされます。天岩屋からアマテラスを引き出し、天孫降臨に随伴した神です。

 この「あめのたぢからを」は、

  「ア・メノ・タ・チカロ」、A-MENO-TA-TIKARO(a=the...of,belonging to;meno=whakameno=show off,make a display;ta=dash,beat,attack;tikaro=pick out of a hole)、「(アマテラスに)跳び付いて・岩屋から引き出す・力を誇示した(神)」

の転訛と解します。

 

019天鳥船(アメノトリフネ)の神

 名義は、「天上界と関連のある立派な、鳥の飛ぶように軽快な船」の意とされます。岐・美2神が生んだ100鳥之石楠船(トリノイハクスフネ)神の別名で、088建御雷神の副使として大国主命の許へ遣わされます。

 この「あめのとりふね」は、

  「ア・メノ・トリ・フネ」、A-MENO-TORI-HUNE(a=the...of,belonging to;meno=whakameno=show off,make a display;tori=cut;hune=down)、「(敵を)切り・倒す・力を誇示する(神)」または「ア・メノ・トリ・フネイ」、A-MENO-TORI-HUNEI(a=the...of,belonging to;meno=whakameno=show off,make a display;tori=cut;hunei,huneinei=anger)、「怒って・(敵を)切る・力を誇示する(神)」

の転訛と解します。

 

020天迩岐志国迩岐志天津日高日子番能迩迩藝(アメニキシクニニキシアマツヒコヒコホノニニギ)の命

 名義は、「天にも親しく地にも親しい、天上界の神聖な男子で、日の御子である、稲穂の豊穣」の意、「迩岐志」は「柔らかい」の義で「親和」を表し、「日子」は日神天照大御神の嫡流たる男子の意、「番能迩迩藝」は「稲穂の豊穣」の意(稲穂の賑々の約)とされます。011天照大御神の子の121正勝吾勝々速日天忍穂耳(マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミ)命が、079高木神の娘の万幡豊秋津師比売(ヨロズハタトヨアキズシヒメ)を妻として生んだ第二子です。父に代わり葦原中津国への降臨を命じられたホノニニギは、筑紫の日向の高千穂の久士布流多気(クジフルタケ)に天降り、052大山津見神の娘の066木花之佐久夜毘売を妻とし、118火照命117火須勢理命119火遠理命を生みます。

 この「あめにきしくににきし/あまつひこ/ひこほのににぎ」は、

  「アマ・ニキ・チ・クニ・ニキ・チ/アマ・ツ・ヒ・コ/ヒコ・ホノ・ニニキ」、AMA-NIKI-TI-KUNI-NIKI-TI-AMA-TU-HI-KO-HIKO-HONO-NINIKI(ama=outrigger of a canoe;niki,niniki=small;ti=throw,cast;(Hawaii)kuni=to burn,be lighted;tu=stand,settle;hi=raise,rise;ko=adress of girls or males;hiko=move at random or irregularly;hono=continual,join,proceed to do)、「対馬の地に・あっても・幼く、陽が照る地(葦原中津国)に・あっても・幼い(存在である)/対馬の地に・住む・身分の高い・子/(対馬を離れて)遠くに移住する・(アマテラスの)血統を嗣ぐ・幼い子(神)」

の転訛と解します。

 

021天忍許呂別(アメノオシコロワケ)

 名義は、「天上界と関連のある立派な、威圧的に凝り固まった男子」の意、「忍」は「押さえつける」意、「許呂」は「凝る」意、「別」は「地方を分け治める者」の意とされます。岐・美2神が生んだ「隠岐(オキ)の三子の島」の別名です。

 この「あめのおしころわけ」、「おき」は、

  「アマイ・ノホ・チコロ・ワカイ(ン)ガ」、AMAI-NOHO-TIKORO-WAKAINGA(amai=swell on the sea;noho=sit,stay,settle;tikoro=sunken,wasted away;wakainga=distant home)、「遠くにある・(縄文海進により全体が)沈んで・(海の上に)残った・隆起(島。それを支配する(神))」(「アマイ」のAI音がE音に変化して「アメ」と、「ノホ」のH音が脱落して「ノオ」と、「ワカイ(ン)ガ」のAI音がE音に変化し、語尾のNGA音が脱落して「ワケ」となった)

  「オキ」、OKI((Hawaii)cut in two,divide)、「(島前・道後の)二つに分かれている(島)

の転訛と解します。

 

022天忍男(アメノオシオ)

 名義は、「天上界に関連のある立派な、威力のある男子」の意とされます。岐・美2神が生んだ「知訶(チカ)の嶋」(長崎県五島列島)の別名です。『肥前国風土記』松浦郡値嘉(チカ)郷の条には「小近(ヲチカ)」、「大近(オホチカ)」の島名がみえ、遣唐使の船が発する所で、烽の場が8ケ所あるとあります。大陸との海上交通の要地でした。

 この「あめのおしお」、「ちか」は、

  「アマイ・ノ・オチ・アウ」、AMAI-NO-OTI-AU(amai=swell on the sea;no=of;oti=finished;au=sea,current)、「海の上に浮かぶ隆起(島)・で・海が・果てる場所(の神)」(「アマイ」のAI音がE音に変化して「アメ」と、「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」となった)」

  「チカ」、TIKA(straight,keeping a direct course)、「(大陸との)最短コース(にある場所。島)」

の転訛と解します。

 

022-2天之狭手依比売(アメノサデヨリヒメ)

 名義は、「天上界と関連のある立派な、叉手網(さであみ)に霊が依り憑く女性」とされます。二神の国生みによって生まれた「津島」の亦の名です。「津島」を「津(船着き場)の島」と解し、『魏志倭人伝』に「対馬国」は「良田無く、海物を食して自活し、船に乗りて南北に市糴す」とあるように海人の業を専らとしていたことから、叉手網を神格化した名となつたと解する向きがあります。

 この「あめのさでより」は、

  「アマイ・ノ・タタイ・イオ・リ」、AMAI-NO-TATAI-IO-RI(amai=swell on the sea,giddy,dizzy;no=of;tatai=measure,arrange,adorn;io=muscle,line,spur,lock of hair;ri=screen,protect,bind)、「海の上に浮かんで・いる・飾られた(美しい)・山の・衝立のような(島)」(「アマイ」のAI音がE音に変化して「アメ」と、「タタイ」のAI音がE音に変化して「タテ」から「サデ」となった)

の転訛と解します。

 

023天之常立(アメノトコタチ)の神

 名義は、「天空が永久に立ち続けること」の意、この「天」は「高天原」ではなく「天空」とされます。

 この「あめのとこたち」は、

  「アマイ・ノ・トコ・タチカ」、AMAI-NO-TOKO-TATIKA(amai=swell on the sea;no=of;toko=pole,stilt,ray of light;tatika=coastline)、「海の上に浮かぶ隆起(島)・の・海岸線に・杭を打った(生成して間がない柔らかな島を固めた)(神)」(「アマイ」のAI音がE音に変化して「アメ」と、「タチカ」の語尾の「カ」が脱落して「タチ」となった)

の転訛と解します。

 

023-2天之両屋(アメノフタヤ)

 名義は、「天空にある二つの屋根」。「屋」は屋根の形をした島。二神の国生みによって生まれた「両児(ふたご)の島。五島列島の南の男女群島で、男島と女島が並び、海上遠く天空に見えるのでこの名が付いたとします。東シナ海の要衝の島です。

 この「あめのふたや」は、

  「ア・メノ・プタ・イア」、A-MENO-PUTA-IA(a=the...of,belonging to;meno=show off,make display;puta=opening,move from one place to another.pass through in or out;ia=indeed,current)、「海上に・その姿を見せつけている・実に・(船がそこを)経由する(島)」(「プタ」のP音がF音を経てH音に変化して「フタ」となった)

の転訛と解します。

 

024天之冬衣(アメノフユキヌ)の神

 名義は、「天上界の、冬の着物」の意とされます。「衣類の豊穣を賛美する」ものとされます。084須佐之男命の子孫17世神の第5世。054於美豆奴神115布帝耳神の間に生まれ、067刺国若比売と結婚して047大国主神を生みます。

 この「あめのふゆきぬ」は、

  「アマイ・ノ・フイ・ウキ・ヌイ」、AMAI-NO-HUI-UKI-NUI(amai=swell on the sea;no=of;hui=put or add together,assembly;uki=distant times;nui=large,big,many)、「非常に・古い古い・昔に・海の上に浮かぶ隆起(島)・に居た(神)」

の転訛と解します。

 

025天之菩日(アメノホヒ)の命

 名義は、「高天原直系の稲穂の霊力」の意とされます。011天照大御神084須佐之男命との誓約において、天照大御神の右の角髪に巻いた御統(ミスマル)の珠から生まれた5男神の第2子。081高御産巣日神・天照大御神の命により、葦原中国平定の使者として遣わされますが、047大国主神に媚びて3年たっても復命しなかつたとあります。(出雲国造神賀詞では命ぜられた通り復命したとします。)この神の子の建比良鳥(タケヒラトリ)命が出雲国造ら7氏の祖となります。

 この「あめのほひ」、「こび(媚び)」は、

  「ア・メノ・ホピ」、A-MENO-HOPI(a=the...of,belonging to;meno=whakameno=show off,make a display;hopi=be terrified,be faint-hearted)、「気が弱い(復命できない)ことを・さらけ出した(神)」(「ホピ」のP音がF音を経てH音に変化して「ホヒ」となつた)

  「コピ」、KOPI(weak,flaccid,timid)、「気が弱い」

の転訛と解します。

 

026天之御中主(アメノミナカヌシ)の神

 名義は、「高天原の神聖な中央に位置する主君」の意とされます。天地初発の時に高天原に化成した最初の神です。

 この「あめのみなかぬし」は、

  「ア・メノ・ミナカ・ヌイ・チ」、A-MENO-MINAKA-NUI-TI(a=the...of,belonging to;meno=whakameno=show off,make a display;minaka=desire;nui=large,big,many;ti=throw,cast,overcome)、「(世界の)万物を・支配するという・意志を・見せつけた(神)」

の転訛と解します。

 

027天之尾羽張(アメノヲハバリ)(の神)

 名義は、「天上界と関連のある、剣の峰の先の刃が張った刀(または雄々しい大蛇(ハハ)の刀)」の意とされます。031伊耶那岐神が、032伊耶那美神を火傷させ死亡させたその子、111迦具土(カグツチ)神を斬ったときの剣の名です。別名を「伊都之尾羽張(イツノヲハバリ)」といいます。さらに、「建御雷神の派遣」の条に、天安河の水を塞き、道を塞ぐ神として登場します。(015天迦久(アメノカク)の命の項を参照して下さい。)

 この「あめのをはばり」、「いつのをはばり」は、

  「ア・メノ・オハ・パリ」、A-MENO-OHA-PARI(a=the...of,belonging to;meno=whakameno=show off,make a display;oha=utter incantation over,generous,abundant;pari=cliff,upstanding,abundance)、「充分に・呪文を唱えて(呪力を与えた)・その(斬る)力を見せつけた(剣。またその神)」

  「イ・ツ・ノ・オハ・パリ」、I-TU-NO-OHA-PARI(i=past tense;tu=fight with,be ignited,energetic;oha=utter incantation over,generous,abundant;pari=cliff,upstanding,abundance)、「充分に・呪文を唱えて(呪力を与えた)・活力に満ちている(剣。またその神)」

の転訛と解します。

 

028天火明(アメノホアカリ)の命

 名義は、「天上界の、稲穂の赤らみ」の意とされます。121天忍穂耳(アメノオシホミミ)命と万幡豊秋津師比売(ヨロズハタトヨアキズシヒメ)命の間に生まれた第一子。第二子は、020天迩岐志国迩岐志天津日高日子番能迩迩藝(アメニキシクニニキシアマツヒコヒコホノニニギ)の命です。

 この「あめのほあかり」は、

  「ア・メノ・ホア・カリ」、A-MENO-HOA-KARI(a=the...of,belonging to;meno=whakameno=show off,make a display;hoa=a generic name for charms for many purposes,friend;kari=dig,rush along violently)、「圧倒する・呪術をかけられて・そのていたらくを見せつけた(神)」

の転訛と解します。記紀は、この神の事績について何も語りませんが、この神名からしますと、この神とニニギとの間に世嗣を巡る争いがあって、それに敗れたのかも知れません。

 

029天若日子(アメノワカヒコ)

 名義は、「天上界の若様(世嗣)」の意とされます。天津国玉神の子。天孫降臨に先立ち、高天原から葦原中国へ国譲りの交渉のために弓矢を賜って派遣された第二の使者。047大国主神の娘、072下照比売(シタテルヒメ)と結婚し、8年の間復命せず、詰問のため遣わされた雉の104鳴女を賜った矢で射殺し、射返された矢で殺されます。

 この「あめのわかひこ」は、

  「ア・メノ・ワカ・ヒコ」、A-MENO-WAKA-HIKO(a=the...of,belonging to;meno=whakameno=show off,make a display;waka=canoe,medium of an atua;hiko=move at random or irregularly)、「神の媒介者(使者)として・遠方へ旅をしたことを・誇示した(神)」

の転訛と解します。

 

029-2天一根(アメヒトツネ)

 名義は、「天に接する一つの根元」。二神の国生みによって生まれた「女嶋(ひめしま)」の亦の名で、大分県国東半島の東北にある姫島とされます。

 この島は、四つの火山島が砂州で繋がって生成した島で、古代から良質な黒曜石を産し、瀬戸内海航路の重要な目標となる島でした。

 この「あめひとつね」は、

  「アマイ・ヒタウ・ツ(ン)ゲヘ」、AMAI-HITAU-TUNGEHE(amai=swell on the sea;short petticoat or apron;tungehe=quail,be alarmed)、「(海上に)隆起した(島で)・(周囲のエプロンのような)平地が狭くて・びっくりする(島)」(「アマイ」のAI音がE音に変化して「アメ」と、「ヒタウ」のAU音がO音に変化して「ヒト」と、「ツ(ン)ゲヘ」のNG音がN音に変化し、H音が脱落して「ツネ」となった)

の転訛と解します。

 

029-3天比登都柱(アメヒトツハシラ)

 名義は、「天に接する一本の柱」。この「天」は「天空」、「柱」は「神の依代となる木」、二神の国生みによつて生まれた「伊伎の島」の名で、絶海の孤島であるところから天に接してみえるさまから命名されたと解されている。

 この「あめひとつはしら」は、

  「アマイ・ヒタウ・ツ・パチ・ラ」、AMAI-HITAU-TU-PATI-RA(amai=swell on the sea,giddy,dizzy;hitau=short petticoat or apron;tu=stand,settle,fight with,energetic;pati=ooze,splash,shallow;ra=wed)、「海の上に浮かんでいる・白い波しぶきを・付けた・エプロンを・(周りに)装着している(島)」(「アマイ」のAI音がE音に変化して「アメ」と、「ヒタウ」のAU音がO音に変化して「ヒト」となった)

の転訛と解します。

 

[イ]

 

030伊奢沙和気(イザサワケ)大神の命

 名義は、「誘い合う神稲(さ)の男子の大神」の意とされます。応神天皇と名を交換した、敦賀市角鹿の気比(ケヒ)神宮の祭神、064気比大神、別名125御食津大神の名です。

 この「いざさわけ」は、

  「イ・タタ・ワケ」、I-TATA-WAKE(i=past tense;tata=dash down,strike repeatedly,oppose,nod;wake=wakewake=hurry,hasten)、「(いるかを叩いて)捕獲した・気の短い(神)」もしくは「(名前の交換に)同意した・気の短い(神)」または「イ・タタ・ワカイ(ン)ガ」、I-TATA-WAKAINGA(i=past tense;tata=dash down,strike repeatedly,oppose,nod;wakainga=distant home)、「(いるかを叩いて)捕獲した・本拠地が遠い(遠い場所から出てきた・神)」もしくは「(名前の交換に)同意した・本拠地が遠い(遠い場所から出てきた・神)」

の転訛と解します。

 

031伊耶那岐(イザナキ)の神(命)

 名義は、「媾合に誘い合う男性」の意とされます。「神世7代」の条で国土神として化成し、032伊耶那美(イザナミ)の神(命)とともに神世7代の第7代です。「伊耶那岐命と伊耶那美命」の条では、浮漂する国土の修理固成のためまず淤能碁呂(おのごろ)島を作り、そこで結婚して14の国(島)生みと10の神生みの大事業を行います。妻の死後黄泉国を訪れ、帰還後禊をして23神を化成し、最後に011天照大御神093月読命084建速須佐之男命の3貴子を生み、これに高天原、夜の食国、海原の分治を委任し、後に須佐之男命を追放し、淡海の多賀に鎮座(『日本書紀』は「幽宮を淡路の州に構りて」とも、「日の少宮(ワカミヤ)に留り宅みましき」ともします。)します。

 この「いざなき」は、

  「イ・タ(ン)ガ・キ」、I-TANGA-KI(i=past tense;tanga=be assembled,division of persons;ki=full,very)、「身体の部分に・余りがあった(男性)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「ザナ」となつた)

の転訛と解します。

 最初に国生みと神生みを行った場所の「おのごろ」は、

  「オ・(ン)ゴ(ン)ゴロ」、O-NGONGORO(o=the...of;ngongoro=utter exclamations of surprise or admiration)、「あの・(イザナキとイザナミが天の御柱を巡って互いに相手を)賛美し(て結婚し)た(場所。島)」(「(ン)ゴ(ン)ゴロ」の最初のNG音がN音に、次のNG音がG音に変化して「ノゴロ」となった)

の転訛と解します。

 なお、鎮座地の「淡海の多賀」、「淡路」、「日の少宮」は、

  「アウ・ミハ・ノ・タ(ン)ガ」、AU-MIHA-NO-TANGA(au-miha=heavy sea;no=of;tanga=circumstance or place of laying,be assembled(ta=the;nga=satisfied))、「荒れる海・の中の・居住地」(「ミハ」の語尾の「ハ」が脱落し、「タ(ン)ガ)」のNG音がG音に変化して「タガ」となつた。恐らく「対馬の地」を指すものと考えられます。)

  「アウア・チ」、AUA-TI(aua=far advanced,far on,at a great height or depth;ti=throw,cast)、「遠く離れたところに・置かれた(土地)」(必ずしも「淡路島」ではなく、「対馬」の可能性が高いと考えられます。)

  「ヒナウ・ワカ・ミヒ・イア」、HINAU-WAKA-MIHI-IA(hinau=a tree,Elaeocarpus dentatus;waka=canoe;mihi=sigh for,greet;ia=indeed)、「実に・悲しみを込めた・木の・カヌー(の棺。棺に納められて埋葬された墓)」(「ヒナウ」のAU音がO音に変化して「ヒノ」と、「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となった)

の転訛と解します。

(注) 二神によって生成された国(島)については、それぞれ、@淡道之穂之狭別島淡路国)、A伊豫二名島a伊豫国044愛比売)、b讃岐国038-2飯依比古)、c粟国大宜都比売)、d土左国090建依別)、B隠岐三子島隠岐国021天之忍許呂別)、C筑紫島a筑紫国074白日別)、b豊国099豊日別)、c肥国087建日向日豊久士比泥別)、d熊曽国(086建日別)D伊伎島029-3天比登都柱)、E津島022-2天狭手依比売)、F佐度島G大倭豊秋津島010-2天御虚空豊秋津根別)、H吉備児島(085建日方別)I小豆島050-2大野手比売)、J大島049-2大多麻流別)、K女島029-2天一根)、L知訶島(022天忍男)M両児島023-2天両屋)の項を参照してください。

032伊耶那美(イザナミ)の神(命)

 名義は、「媾合に誘い合う女性」の意とされます。031伊耶那岐(イザナキ)の神(命)とともに神世7代の第7代です。火神を生んで死亡し、出雲国と伯伎国の境の「比婆の山」に葬った(『日本書紀』は紀伊国の熊野の有馬村に葬つた)とあります。 

 この「いざなみ」は、

  「イ・タ(ン)ガ・ミ」、I-TANGA-MI(i=past tense;tanga=be assembled,division of persons;(Hawaii)mi=urine,to void urine)、「身体の部分に・空になっている(足りない部分がある)(女性)」(「タ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「タナ」から「ザナ」となつた)

の転訛と解します。

 

033市寸嶋(イチキシマ)比売の命

 名義は、「神に斎(イツ)く島の女性」の意、「市寸」は「斎(イツク。身を清浄にして神に仕える)」の転とされます。別名は「069狭依(サヨリ)毘売」。011天照大御神084須佐之男命の誓約において、スサノオの剣から生まれた083多紀理毘売045奥津嶋比売)、033市寸嶋比売(069狭依毘売)、082多岐津比売の3女神の第二子。大島の宗像神社の中津宮に鎮座します。

 この「いちき」は、

  「ウィチキ」、WHITIKI(bind,gird,hold)、「(奥津島と本土とを)結ぶ(島の女神)」

の転訛と解します。

 

034稲田宮主須賀之八耳(イナダノミヤヌシスガノヤツミミ)の神

 名義は、「稲田の宮殿の首長である、須賀の地の多くの神霊」の意、「八」は多数を表し、「耳」は「霊(ミ)」を重ねた語とされます。084建速須佐之男命062櫛名田比売と結婚して、その父002足名椎を稲田の宮殿の首長に任命したものです。

 この「いなだ」、「すがのやつみみ」は、

  「イ・ナチア」、I-NATIA(i=past tense,beside;nati,natia=pinch,contract)、「狭くなっている(場所)」(「ナチア」のIA音がA音に変化して「ナタ」となった)または「イナ・タ」、INA-TA((Hawaii)ina=pry as with a lever;ta=dash,beat,lay)、「(娘を)暴力で奪われる・目にあった(場所)」

  「ツ(ン)ガ・ノ・イア・ツ・ミミ」、TUNGA-NO-IA-TU-MIMI(tunga=circumstance of standing,site;no=of;ia=current,indeed;tu=stand,settle;mimi=stream,river)、「実に・川の上に・位置している・居住地」(「ツ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「ツガ」から「スガ」となった)

の転訛と解します。

 

035稲羽(イナバ)の八上(ヤカミ)比売

 名義は、「因幡国の八上郡の豪族の娘である巫女」の意とされます。047大国主神とその兄弟の八十神に求婚され、大国主神の妻となって060木俣神を生みますが、正妻076須勢理毘売を恐れて因幡国へ帰ります。

 この「いなば」、「やかみ」は、

  「ヒ(ン)ガ・パ」、HINGA-PA(hinga=fall from an errect potion,be killed,be overcome with astonishment or fear,be outdone in a contest;pa=touch,reach,be connected with,assault,stockade)、「故事(大国主神の八上比売への求婚とその後の八十神から受けた迫害)に・関係した(地域)」(「ヒ(ン)ガ」のH音が脱落し、NG音がN音に変化して「イナ」となった)

  「イア・カミ」、IA-KAMI(ia=current,indeed;kami=eat)、「川に・呑み込まれる(洪水が襲う・地域)」

の転訛と解します。(地名篇(その十二)の鳥取県の(1)因幡国八上郡の項を参照して下さい。)

 

036石押分之子(イハオシワクノコ)

 名義は、「巌を押し分けて出てきた者」の意とされます。神武東遷の際、吉野の山中で岩を押し分けて出てきて、神武天皇軍を歓迎した尾を生やした(獣の毛皮の尻当てをした)国津神の名で、吉野の国巣(クズ)の祖です。

 この「いはおしわくのこ」、「くず」は、

  「イ・ハ・オチ・ワク・ノ・コ」、I-HA-OTI-WAKU-NO-KO(i=past tense,beside;ha=breathe,what!;oti=finished;waku=rub,scrape,abrade;no=of;ko=adressin to girl or males)、「息を切らせて・(山を)削り(道を付けた)・終えた・人」

  「クフ・ツ」、KUHU-TU(kuhu=thrust in,insert,conceal;tu=stand,settle)、「(穴の中に)隠れて・住んでいる(種族)」(「クフ」のH音が脱落して「ク」となった)

の転訛と解します。

 

037石長(イハナガ)比売

 名義は、「岩のように長久に変ることのない女性」の意とされます。052大山津見神の娘。天孫020迩迩藝命が笠沙(カササ)の岬で066木花之佐久夜毘売に求婚し、父は喜んで姉の石長比売を副えて貢ったが、醜いとして帰されます。

 この「いはなが」は、

  「イ・ハナ・(ン)ガ」、I-HANA-NGA(i=past tense;hana=shine;nga=satisfied)、「(容色の)輝きが・盛りを・すでに過ぎている(姫)」(「(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「ガ」となった)

の転訛と解します。

 

038井氷鹿(イヒカ)

 名義は、「神異の光りをもつ井戸」の意、「氷鹿」は「光り」とされます。神武東遷の際、光りのある井戸から出てきた尾を生やした国津神の名とされます。

 この「いひか」は、マオリ語の

  「イヒ・カ」、IHI-KA(ihi=split,front of a house,entrance of a cave;ka=take fire,be lighted,burn)、「灯をつけている・洞窟の入り口(その洞窟に住む人)」

の転訛と解します。

038-2飯依比古(イヒヨリヒコ)

 名義は、飯の霊が依り憑く男性。二神の国生みによって生まれた伊予二名の島(四国)の中の讃岐国(香川県)の名です。

 この「いひよりひこ」は、

   「イヒ・イオ・リ」、IHI-IO-RI(ihi=split,separate,power,authority; io=muscle,line,spur,lock of hair;ri=screen,protect,bind)、「孤立した・丘が・密集している(地域。そこを統治する身分の高い男子)」

の転訛と解します。

 

[ウ]

 

039宇迦之御魂(ウカノミタマ)の神

 名義は、「稲に宿る神秘的な霊」の意、「宇迦」は「食物(ウケ)」の古形とされます。084須佐之男命052大山津見神の娘、058神大市(カムオホチ)比売を妻として生んだ神です。

 この「うかのみたま」は、

  「ウカ・ノ・ミヒ・タマ」、UKA-NO-MIHI-TAMA(uka=firm,be fixed;no=of;mihi=greet,admire;tama=son,child,spirits)、「(出生地に)定着した・尊崇すべき・子(の神)」(「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となつた)

の転訛と解します。

 

040宇都志国玉(ウツシクニタマ)の神

 名義は、「現実の国土の神霊」の意、「国玉」は「国霊(魂。タマ)」とされます。047大国主神の別名。スサノオの根の国へ行った046大穴牟遅(オオアナムヂ)神が数々の試練を克服して帰還するとき、スサノオから贈られた名です。

 この「うつしくにたま」は、

  「ウツ・チ・ク・ヌイ・タマ」、UTU-TI-KU-NUI-TAMA(utu=spur of a hill,return for anything,satisfaction;ti=throw,cast,overcome;ku=silent;nui=large,big,many;tama=son,child,spirits)、「静まり・返っている場所(=国)を・征服して・頂点に立つ(または満足している)・(スサノオの)子(の神)」(「ヌイ」のUI音がI音に変化して「ニ」となった)

の転訛と解します。

 

041上筒之男(ウハツツノオ)の神

 名義は、「上の、帆柱受けの太い筒柱の男」の意とされます。黄泉国から帰還したイザナキが筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原で禊をした際に「綿津見」3神と共に化成した077底筒之男命101中筒之男命、上筒之男命の「筒之男」3神の1です。

 この「うはつつのお」は、

  「ウア・ツツ・ノホ」、UA-TUTU-NOHO(ua=neck,backbone;tutu=steeping in water;noho=sit,stay,settle)、「(イザナキの)頚のところに・水に浸かって・居る(神)」(「ノホ」のH音が脱落して「ノオ」となった)

の転訛と解します。

 

042上津綿津見(ウハツワタツミ)の神

 名義は、「上の、海の神霊」の意とされます。黄泉国から帰還したイザナキが筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原で禊をした際に「筒之男」3神と共に化成した上津綿津見神、102中津綿津見神078底津綿津見神の「綿津見」3神の1です。

 この「うはつわたつみ」は、

  「ウア・ツ・ワ・タツ・ミヒ」、UA-TU-WA-TATU-MIHI(ua=neck,backbone;tu=stand,settle;wa=definite place;tatu=strike one foot against the other,stumble;mihi=greet,admire)、「(イザナキの)頚のところに・居る・潮流が・ひしめき合って流れる・場所(=海)の・尊崇すべき(神)」

の転訛と解します。

 

043宇摩志阿斯訶備比古遅(ウマシアシカビヒコヂ)の神

 名義は、「立派な葦の芽の男性」の意、「宇摩志」は「良いものを讃める」語、「阿斯訶備」は「春に萌え出る葦の芽」、「比古遅」は「男性への親称」とされます。国土浮漂のとき、葦芽のように伸びるものを依代として化成した神です。

 この「うましあしかびひこぢ」は、

  「フ・マチ・アチ・カピ・ヒ・コチ」、UMA-TI-ATI-KAPI-HI-KOTI(hu=hill,promontry;mati=toe,finger;ati=descendant,clan,beginning;kapi=be covered,be occupied;hiko=move at random or irregularly;ti=throw,cast,overcome)、「国土の高まりの・指先が・あちこちに伸びて・一帯を覆い・始めた場所に・化成した(神)」(「フ」のH音が脱落して「ウ」となった)

の転訛と解します。

 

[エ]

 

044愛比売(エヒメ)

 名義は、「可愛い女性」の意とされます。イザナキ・イザナミ2神に国生みから生まれた伊予二名(イヨノフタナ)の島(四国)の中の伊予(イヨ)国の名です。

 この「えひめ」、「いよ」は、

  「エヒ・マイ」、EHI-MAI(ehi=well!;mai=fermented,become quiet)、「良い・温泉が湧く(場所)」(「マイ」のAI音がE音に変化して「メ」となった)

  「イ・イオ」、I-IO(i=past tense,beside;io=muscle,line,spur,lock of hair)、「(中央構造線の)山脈が直進する・場所のそば(の地域)」

の転訛と解します。

 

[オ]

 

045奥津嶋(オキツシマ)比売の命

 名義は、「沖ノ島に坐す女性」の意とされます。別名は「083多紀理(タキリ)毘売」。011天照大御神084須佐之男命の誓約において、スサノオの剣から生まれた083多紀理毘売(045奥津嶋比売)、033市寸嶋比売069狭依毘売)、082多岐津比売の胸形(ムナカタ)3女神の第一子。胸形の沖津島に鎮座します。

 この「おきつ」、「むなかた」は、

  「オキ・ツ」、OKI-TU((Hawaii)oki=cut in two,divide;tu=stand,settle)、「遠く離れて・居る(女神)」

  「ムナ・カタ」、MUNA-KATA(muna=tell or speak of privately,secret;kata=laugh,of cry of a bird etc.)、「神託を・(叫ぶように)宣る(神)」

の転訛と解します。

 

046大穴牟遅(オオアナムヂ)の神

 名義は、「偉大な、鉱穴(砂鉄を採る穴)の貴人」の意とされます。この「穴」を「洞窟」と解する説もありますが、「牟遅」は「貴(ムチ)」の意、「鉄器文明をもつて広い国土を統一した貴人」とされます。別名を047大国主神003葦原色許男神130八千矛神040宇都志国玉神といいます。神代紀上には「大己貴命」と、その訓注に「於褒阿娜武智(オホアナムチ)」とあります。

 この「おおあなむぢ」は、

  「オホ・アナ・ムフ・チ」、OHO-ANA-MUHU-TI(oho=wake up,arise;ana=cave,denoting continuance of action or state;muhu=grope,push one's way through bushes,stupid;ti=throw,cast,overcome)、「すっくと立っている・これまでに・手探りで道を切り開いてきて(波瀾万丈の経験を重ねて)・(国を)征服した(神)」(「ムフ」のH音が脱落して「ム」となった)

の転訛と解します。

 

047大国主(オオクニヌシ)の神

 名義は、「偉大な、国土の主人」の意とされます。084須佐之男命の子孫17世神の第6世。024天之冬衣(アメノフユキヌ)神067刺国若比売(サシクニワカヒメ)・/a>フ間に生まれた神。別名を046大穴牟遅神003葦原色許男神130八千矛神040宇都志国玉神といいます。大国主神には多くの兄弟がいましたが、結局大国主神が兄弟たちを追放して国土を統一します。『古事記』は、その過程を最初は大穴牟遅神、葦原色許男神、八千矛神の名で叙述し、最後にスサノオから大国主神、宇都志国玉神の名を与えられます。

 この「おおくにぬし」は、

  「オホ・クニ・ヌイ・チ」、OHO-KUNI-NUI-TI(oho=wake up,arise;(Hawaii)kuni=to burn,blaze,kindle;kunikuni=dark;nui=large,big,many;ti=throw,cast,overcome)、「すっくと立っている・灯がともる場所(国土)の・偉大な・征服者(の神)」

の転訛と解します。

 

048大気都比売(オオケツヒメ)の神

 名義は、049大宜都比売(オオゲツヒメ)と同じで、「宜(ゲ)」は「気(ケ)」の連濁、「偉大な、食物を司る女性」の意とされます。この神名は、「五穀の起源」条に049大宜都比売の名とともに見え、さらに「大年神の子孫」条に羽山戸神と結婚する神として見えます。

 この「おおけつ」は、

  「オフ・カイ・ツ」、OHU-KAI-TU(ohu=surround;kai=food;tu=stand,settle)、「食物に・囲まれて・居る(女神)」(「オフ」のH音が脱落して「オウ」と、「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)

の転訛と解します。

 

049大宜都比売(オオゲツヒメ)

 名義は、048大気都比売(オオケツヒメ)神と同じで、「宜(ゲ)」は「気(ケ)」の連濁、「偉大な、食物を司る女性」の意とされます。岐・美2神の国生みによって生まれた伊予之二名島(四国)の中の(1)「粟の国」(阿波国。徳島県)の名で、のちに「五穀の起源」条に大気都比売の名とともに見えます。しかし、この名が見える「五穀の起源」条は、追放された084須佐之男命が「大気都比売」に食物を乞い、食物を鼻・口・尻から出すのを見たスサノオが(2)「大宜都比売」を殺したと意図的に異なる表現をしており、明らかにこの名に特別な意味を持たせています。

 この「おおげつ」は、

  「アウ・(ン)ゲヘ・ツ」、AU-NGEHE-TU(au=sea,firm,certainly;ngehe=soft,lazy,peaceful,calm;tu=stand,settle)、(1)「実に・平和な・状態にある(国)」(「岐・美2神の国生み」条の「粟の国」)および(2)「実に・怠惰な・ことをする(女神)」(「五穀の起源」条における「大宜都比売」)(「アウ」のAU音がOU音に変化して「オウ」と、「(ン)ゲヘ」のNG音がG音に変化し、H音が脱落して「ゲ」となった)

の転訛と解します。

 

049-2大多麻流別(オホタマルワケ)

 名義は、「偉大な、船が停泊することの男子」。「大」は美称、「多麻流」は「溜まる」で、ここでは船の停泊の意、二神の国生みによって生まれた「大嶋」の別称です。大嶋は山口県大島郡の周防大島(屋代島)とされます。

 この「おほたまるわけ」は、

   「オホ・タマル・ワカイ(ン)ガ」、OHO-TAMARU-WAKAINGA(oho=spring up,wake up,arise;tamaru=shady,cloudy;wakainga=distant home)、「(海から)すっくと立ち上がって・(海に大きな)陰を落としている・(本土から)遠く離れた居住地(の島。その島を支配する神)」(「ワカイ(ン)ガ」のAI音がE音に変化し、語尾のNGA音が脱落して「ワケ」となった)

の転訛と解します。

 

050大年(オホトシ)の神

 名義は、「立派な稲の稔り」の意、「年」の漢字の字義の「穀物の熟すること」によります。084須佐之男命052大山津見神の娘、058神大市(カムオホチ)比売・/a>妻として生んだ神です。

 この「おほとし」は、

  「オホ・トチ」、OHO-TOTI(oho=wake up,arise;toti=limp,halt)、「すっくと立っている・びっこを引く(神)」

の転訛と解します。

 

050-2大野手比売(オホノデヒメ)

 名義は、「大きな野の地形を持つ女性」。「手」は「地形・側面・方向」を示す接尾語。二神の国生みによって生まれた「小豆(あずき)嶋」の別名です。「小豆嶋」は、香川県小豆(しょうど)島です。

 この「おほのでひめ」は、

  「オホ・(ン)ゴテ」、OHO-NGOTE(oho=wake up,arise;ngote=dimunitive,suck,suckle)、「起き上がった(高い山がある)・乳児(乳をほしがる。水が不足している。島)」(「(ン)ゴテ」のNG音がN音に変化して「ノテ」となった)

の転訛と解します。

 

051大物主(オオモノヌシ)の神

 名義は、「偉大な、畏怖すべき精霊(モノ)の主」の意とされます。047大国主(オオクニヌシ)神の国作りの最終段階で、075少名毘古那(スクナヒコナ)神が常世国へ去つたので独力では国作りができないと嘆いているところへ、海を照らして寄り来る神があり、「自分の御魂を御諸山(三輪山)に祀れ」と言ったとあるその神の名です。

 『古事記』は、大物主神と大国主神を別神とし、その後は丹塗矢に化して勢夜陀多良(セヤダタラ)比売と結婚して神武天皇の皇后となる富登多多良伊須須岐(ホトタタライススキ)比売を生み、また崇神天皇条では祟り神として夢枕に立ち、その子孫意富多多泥古(オホタタネコ)を神主として祀るよう告げます。

 『日本書紀』は、大物主神を大国主神の「亦の名」としますが、『古事記』・『出雲国風土記』にはなく、紀においてもなんらの先行する物語なしに、突如として崇神紀に出現するところから、「亦の名」を疑問視する説があります。

 この「おおものぬし」は、

  「オホ・モノ・ヌイ・チ」、OHO-MONO-NUI-TI(oho=wake up,arise;mono=disable by means of incantations,an incantation to disable an enemy;nui=large,big,many;ti=throw,cast,overcome))、「(あたりを)睥睨する・敵を折伏する(呪術を行う)・偉大な・征服者(の神)」(「ヌイ」のUI音がU音に変化して「ヌ」となった)

の転訛と解します。

 

052大山津見(オオヤマツミ)の神

 名義は、「偉大な、山の神霊」の意、「大」は美称、「津」は連体助詞、「見」は「神霊」とされます。岐・美2神の国生みで生まれ、「八俣大蛇」条では002足名椎094手名椎の親神の「国津神」とされ、「須佐之男命の子孫」条ではスサノオの妻058神大市(カムオオチ)比売の親神として、「コノハナサクヤヒメ」条では066木花佐久夜毘売037石長比売の親神として登場します。また、「伊耶那岐神火神を斬る」条では火神の死体から8種の「山津見神」が化成します。

 『日本書紀』神代紀上(一書(第8))には5種の「山祇(ヤマツミ)」の名があり、その首(かしら)を「大山祇(オオヤマツミ)」とあり、神代紀下にはコノハナサクヤヒメは「天津神が大山祇神をって生ませた」(別伝は父大山祇神。『古事記』は大山津見神は男神)とあります。

 この「おおやまつみ」は、 

  「オホ・イア・マ・ツ・ミヒ」、OHO-IA-MA-TU-MIHI(oho=wake up,arise;ia=indeed,current;ma=white,clear;tu=stand,settle;mihi=greet,admire)、「すっくと立っている・実に・清らかな場所(山)に・居る・尊崇すべき(神)」

の転訛と解します。

 

053大綿津見(オホワタツミ)の神

 名義は、「偉大な、海の神霊」の意とされます。岐・美2神の国生みの中で「海の神」して生まれました。

 この「おほわたつみ」は、

  「オホ・ワ・タツ・ミ」、OHO-WA-TATU-MIHI(oho=wake up,arise;wa=definite space,area;tatu=strike one foot against the other,stumble;mihi=greet,admire)、「すっくと立っている・潮流が・ひしめき合って流れる・場所(=海)に居る・尊崇すべき(神)」

の転訛と解します。

 

054於美豆奴(オミズヌ)の神

 名義は、「大水の主」の意、「美豆」は「水」、「奴」は「主」とされます。須佐之男命の子孫17世神の第4世。深淵之水夜礼花(フカフチノミズヤレハナ)神と天之都度閇知泥(アメノツドエチネ)神の間に生まれた神で、115布帝耳神を妻として024天之冬衣神を生みます。『出雲国風土記』の「国引きましし八束水臣津野(ヤツカミズオミツノ)命」と同じと思われます。出雲国の祖神です。

 この「おみずぬ」、「やつかみず/おみつの」は、

  「オ・ミ・ツ・ヌイ」、O-MI-TU-NUI(o=the place of;mi=urine,stream,river;tu=stand,settle;nui=large,big,many)、「水(湖、川、湿地など)が・たくさん・ある・場所(に居る・神)」

  「イア・ツカハ・ミ・ツ/オ・ミ・ツ・ヌイ」、IA-TUKAHA-MI-TU(ia=indeed,current;tukaha=strenuous,vigorous;mi=urine,stream,river;tu=stand,settle)-O-MI-TU-NUI(o=the place of;mi=urine,stream,river;tu=stand,settle;nui=large,big,many)、「実に・元気な(暴れる)・水(湖、川、湿地など)が・ある(場所)/水(湖、川、湿地など)が・たくさん・ある・場所(に居る・神)」

の転訛と解します。

 

055思金(オモイカネ)の神

 名義は、「多くの思慮を兼ね備える」の意とされます。081高御産巣日神の子。「天岩戸」条で011天照大御神を天岩戸から引き出すための謀をめぐらし、「葦原中国の平定」条では、025天菩比神、次いで029天若日子、そして雉の104鳴女、最後に088建御雷神の派遣を献策して国譲りを成功させ、「天孫降臨」条では「常世思金(トコヨノオモイカネ)神」はニニギに随伴して「御魂代の鏡の前で行う政事(まつりごと)を取り持て」とアマテラスから命じられます。

 『日本書紀』神代紀上では「深謀遠慮」の神とし、神代紀下ではその妹万幡豊秋津姫が天忍穂耳尊の妃となつたとあります。

 この「おもいかね」、「とこよ」は、

  「アウ・モヒ・カネ」、AU-MOHI-KANE(au=rapid;mohi,mohimohi=smooth;kane=head)、「速く・(滑らかに)回転する・頭(を持つ・神)」(「アウ」のAU音がO音に変化して「オ」となつた)

  「トコ・イオ」、TOKO-IO(toko=pole,stilt;io=spur,ridge,muscle)、「竿の・先に居るような(高い場所から周囲を見回している)」(「天岩戸」条には「常世長鳴鳥」が登場します)

の転訛と解します。

 
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[カ]

 

056金山毘古(カナヤマヒコ)の神

 名義は、「鉱山の男性」の意とされます。032伊耶那美神が火神を産もうとする時に、嘔吐(たぐり)して化成した神。神代紀上では金山彦とします。

 この「かなやま」は、

  「カナ・イア・マ・ヒコ」、KANA-IA-MA-HIKO(kana=stare wildly,bewitch;ia=indeed,current;ma=white,clear;hiko=move at random or irregularly,shine)、「(溶鉱炉の火を)じっと見つめる・実に・清らかな場所(山。鉱山)を・渡り歩く(神)」

の転訛と解します。

 

057神阿多津(カムアタツ)比売

 名義は、「神聖な、阿多の巫女」の意、「神」は「巫女」を指すとされます。「阿多」は薩摩国阿多郡阿多郷(鹿児島県加世田市から野間半島にかけての地域)で、神代紀下に「吾田長屋笠沙之碕」とあり、阿多隼人の本拠地です。別名は「066木花之佐久夜毘売」。神代紀下は「神吾田鹿葦津(カムアタカシツ、カムアタカアシツ)姫」、別名「木花開耶(コノハナノサクヤ)姫」。天孫020迩迩藝命の求婚に応じ、父052大山津見神は姉037石長比売とともに貢りますが、姉は醜いとして帰されます。

 後に木花開耶姫は妊娠しますが、迩迩藝命が一夜の交わりで妊娠するわけがないと疑ったので、姫は出入り口のない「八尋(やひろ)殿」を建てて中に篭もり、「私の産む子が国津神の子であれば無事には生まれない。天神の子であれば無事に生まれるだろう」と言ってその産屋に火を付けて子を産みます。

 その火が盛んに燃える時に生まれた子は118火照(ホデリ)の命、次に117火須勢理(ホスセリ)の命、次に119火遠理(ホヲリ)の命(亦の名は009天津日高日子穂穂手見(アマツヒコヒコホホデミ)の命)です。

 この「かむあたつ」、「かむあたかしつ」は、

  「カ・ムア・タツ」、KA-MUA-TATU(ka=take fire,be lighted,burn;mua=the front,sacred place;tatu=be at ease,be content)、「(聖なる)産所に・火をかけて・平気だった(安産した。姫)」

  「カ・ムア・タ・カチ・ツ」、KA-MUA-TA-KATI-TU(ka=take fire,be lighted,burn;mua=the front,sacred place;ta=dash,beat,breathe,be relieved;kati=leave off,be left in statu quo,well,enough;tu=stand,settle)、「(聖なる)産所に・火をかけて・無事に・何事もなく・助け出された(姫)」

の転訛と解します。

 

058神大市(カムオホチ)比売

 名義は、「神々しい、立派な市」の意とされます。052大山津見神の娘で、084須佐之男命の妻となり、050大年神039宇迦之御魂神を生みます。

 この「かむおほち」は、

  「カム・オホ・イチ」、KAMU-OHO-ITI(kamu=eat,clutch of the hand;oho=wake up,arise;iti=small)、「手を合わせている・すっくと立つた・小さい(姫)」

の転訛と解します。

 

059神産巣日(カムムスヒ)の神

 名義は、「神々しく神聖な生成の霊力」の意とされます。造化3神の一柱で、026天之御中主神081高御産巣日神に次いで三番目に高天原に化成した独神で御を隠している別神であり、生命体の蘇生復活を司る至上神とされます。「五穀の起源」条では五穀の生みの御祖となり、「大穴牟遅神の受難」条では殺された046大穴牟遅神を蘇生させ、「大国主命の国作り」条では常世国の075少名毘古那神の御祖として登場し、「大国主命の国譲り」条でも高天原の神として登場します。

 この「かむむすひ」は、

  「カム・ムツ・ヒ」、KAMU-MUTU-HI(kamu=eat,clutch of the hand;mutu=brought to an end,completed;hi=raise,rise)、「手を合わせている・最高の地位に・到達している(神)」

の転訛と解します。

 

[キ]

 

060木俣(キマタ)の神

 名義は、「神木の木股」の意、「神の依代」とされます。別名「127御井(ミイ)の神」。046大穴牟遅神035稲羽八上比売の間に生まれた神です。八上比売は、正妻076須勢理毘売を恐れて木俣神を木の股に刺し挟んで帰りました。

 この「きまた」は、

  「キノ・マタ」、KINO-MATA(kino=bad,ugly;mata=face,eye)、「醜い・顔をした(神)」

の転訛と解します。

 

[ク]

 

061久延毘古(くえびこ)

 名義は、「身体の崩れた男性」の意、「久延」は「崩(ク)え」で、歩行不能者の案山子の名とされます。075少名毘古那神の素性を明らかにした天下の事を知っている神です。『古事記』編纂時には「132山田曽富騰(ソホド)」とも言われていました。

 この「くえびこ」は、

  「クハ・エ・ヒコ」、KUHA-E-HIKO(kuha=ragged;e=emphasis;hiko=move at random or irregularly,shine)、「襤褸をまとって・あちこち彷徨する(神)」(「クハ」のH音が脱落して「ク」となった)

の転訛と解します。

 

062櫛名田(クシナダ)比売

 名義は、「霊妙な、稲の田の女性」の意、「櫛」は「奇(ク)し」と姫が変身する「湯津爪櫛(ユツツマグシ)」の両方にかかるとされます。002足名椎094手名椎の娘で、八岐大蛇の生贄になるところを084須佐之男命は姫を「湯津爪櫛」に変身させ、「御美豆良(ミミヅラ)」に挿し、大蛇に酒を飲ませて退治して助け、その妻となり、128八島士奴美(ヤシマジヌミ)神を生みます。

 この「くしなだ」、「ゆつつまぐし」は、

  「クチ・ナチア」、KUTI-NATIA(kuti=draw tightly together,contract;nati,natia=pinch,fasten bulrush thatch on the roof of a house)、「縮めて(櫛に変えて)・(屋根を葺くように)髪に挿した(姫)」(「ナチア」のIA音がA音に変化して「ナタ」となった)または「クチ・(ン)ガタ」、KUTI-NGATA(kuti=draw tightly together,contract;ngata=anything small,snail)、「縮められて・小さくなった(姫)」(「(ン)ガタ」のNG音がN音に変化して「ナタ」から「ナダ」となった)

  「イ・ウツ・ツマウ・クチ」、I-UTU-TUMAU-KUTI(i=past tense,beside;utu=spur of a hill;tumau=fixed;kuti=draw tightly together,contract)、「頭の上に・しっかりと固定した(挿した)・(姫を)縮めたもの(=櫛)」(「イ」のI音と「ウツ」の語頭のU音が連結して「ユ」となり、「ツマウ」の語尾の「ウ」が脱落した)

の転訛と解します。

 

063国之常立(クニノトコタチ)の神

 名義は、「国土が永久に立ち続けること」の意とされます。国土神として最初に化成し、独神として身を隠している神世7代の第1代で、023天常立神と対をなしています。

 この「くにのとこたち」は、

  「クニ・ノ・トコ・タチカ」、KUNI-NO-TOKO-TATIKA((Hawaii)kuni=to burn,blaze,kindle;kunikuni=dark;no=of;toko=pole,stilt,ray of light;tatika=coastline)、「灯がともる場所(国土)・の・海岸線に・杭を打った(生成して間がない柔らかな島を固めた)(神)」(「タチカ」の語尾の「カ」が脱落して「タチ」となった)

の転訛と解します。

 

[ケ]

 

064気比(ケヒ)の大神

 名義は、「食物の神霊の大神」の意、「気」は食物、「比」は「霊(ヒ)」とされます。敦賀市角鹿の気比神宮の祭神。即位前の応神天皇と名を取り替えた030伊奢沙和気(イザサワケ)大神です。別名「125御食津大神」。神功前紀には「角鹿の笥飯(ケヒ)の大神」とあります。

 この「けひ」は、

  「カイ・ヒ」、KAI-HI(kai=food;hi=raise,catch with hook and line,rise)、「食物(いるか)を・釣り上げた(場所。そこにある神社)」(「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となつた)

の転訛と解します。

 

[コ]

 

065事代主(コトシロヌシ)の神

 名義は、「神の言葉を受け、その神の代わりに託宣することを司る主役」の意、「事」は「言葉・事柄(内容)」とされます。047大国主神と神屋楯(カムヤタテ)比売命との間に生まれた神。大国主神の国譲りに際し、高天原の使者に対し、大国主神は子の「131八重事代主(ヤヘコトシロヌシ)神」が答えると回答します。天武紀元年7月条には高市県主許梅に神懸りして託宣したとあります。

 この「ことしろぬし」は、

  「コト・チロ・ヌイ・チ」、KOTO-TIRO-NUI-TI(koto=loathing,sob;tiro=look,sirvey;nui=large,big,many;ti=throw,cast,overcome)、「(戦争を)嫌がった・ように見える・偉大な・主人(征服者)(の神)」

転訛と解します。

 

066木花之佐久夜(コノハナノサクヤ)毘売

 名義は、「桜の花が咲くように咲き栄える女性」の意とされます。057神阿多津比売020迩迩藝命の求婚に応じ、父052大山津見神は姉037石長比売とともに貢りますが、姉は醜いとして帰されます。

 この「このはなのさくや」は、

  「コ・ノ・ハナ・ノ・タク・イア」、KO-NO-HANA-NO-TAKU-IA(ko=girl;no=of;hana=shine,glow;taku=slow,edge;ia=indeed,current)、「(美貌が)輝き出すのが・実に・遅れている(花も蕾の)・娘」

の転訛と解します。

 

 

[サ]

 

067刺国若(サシクニワカ)比売

 名義は、「国を占有する子の巫女」の意とされます。084須佐之男命の子孫17世神の第5世024天之冬衣神と結婚して047大国主神を生みます。

 この「さしくにわか」は、

  「タハチチ・クニ・ワカ」、TAHATITI-KUNI-WAKA(tahatiti=peg,wedge;(Hawaii)kuni=to burn,blaze,kindle;kunikuni=dark;waka=canoe,medium of a god)、「灯のともる場所(国土)を・杭で繋ぎ止めた・霊媒である(姫)」(「タハチチ」のH音と反復語尾の「チ」が脱落して「タチ」から「サシ」となった)

の転訛と解します。

 

068佐比持(サヒモチ)の神

 名義は、「匕首(アイクチ)持ち」の意、「佐比」は「刃物、刀剣、鋤」とされます。009日子穂穂出見命を海神の宮から上つ国へ一日で送った一尋和迩(ヒトヒロワニ)の名です。

 この「さひもち」、「ひとひろ」は、

  「タヒ・モチ」、TAHI-MOTI(tahi=one,single,a wooden implement for cultivating;moti=consumed,scarce)、「(ヒコホホデミを送るのに)一(日)を・要した(ワニの神)」

  「ピト・ピロ」、PITO-PIRO(pito=at first;piro=victory in a game)、「競争で・一番の(泳ぎが速い・ワニ)」(「ピト」、「ピロ」のP音がF音を経てH音に変化して「ヒト」、「ヒロ」となった)

の転訛と解します。

 

069狭依(サヨリ)毘売

 名義は、「神霊の依り付く女性」の意とされます。033市寸嶋(イチキシマ)比売命の別名です。

 この「さより」は、

  「タ・イオ・リ」、TA-IO-RI(ta=the;io=muscle,line;ri=bind,protect)、「(奥津島と本土とを)結ぶ・綱(のような島の・女神)」

の転訛と解します。

 

070猿田毘古(サルタビコ)の神

 名義は、「日神の使いの猿が守る神田の男性」の意とされます。「天孫降臨」条では「天の八衢(アメノヤチマタ)」に「上は高天原、下は葦原中国を光(テラ)す神、伊牟迦布(イムカフ)神」として天孫020迩迩藝命を出迎え、道案内をつとめ、012天宇受売に送られて「阿邪訶(アザカ)」に鎮座し、比良夫貝に手をはさまれて溺れて死にます。

 この「さるたびこ」、「あめのやちまた」、「てらす」、「いむかふ」、「あざか」は、

  「タル・タ・ヒコ」、ARU-TA-HIKO(taru=shake,overcome;ta=dash,beat,lay;hiko=move at random or irregularly)、「(人を)震撼・させる・あちこち巡歴する(神)」または「タ・ルタ・ヒコ」、TA-RUTA-HIKO(ta=the,dash,beat,lay;ruta=rage,blaster;hiko=move at random or irregularly)、「猛威を振るう・あちこち巡歴する(神)」

  「アマ・ノ・イア・チマ・タ」、AMA-NO-IA-TIMA-TA(ama=outrigger of a canoe;no=of;ia=indeed,current;tima=a wooden implement for cultivating the soil;ta=dash,beat,lay)、「(日本列島のアウトリガーのような形をした)対馬の地・の・実に・掘り棒で掘り散らかしたような地形のところ(浅茅湾)に・在る場所」

  「テラ・ツ」、TERA-TU(tera=that,yonder;tu=stand,settle)、「彼方に・立ちはだかっている(神)」

  「イ・ムカ・フ」、I-MUKA-HU(i=past tense,beside;muka=way;hu=resound,cry)、「路の・脇で・大声を上げている(神)」

  「アタ・カ」、ATA-KA(ata=clearly,openly;ka=take fire,be lighted,burn)、「(海へ向かって)開けている場所にある・居住地(集落)」

の転訛と解します。

 

071槁根津日子(サオネツヒコ)

 名義は、「船梶の根元の立派な男子」の意とされます。神武東遷の途中、速吹門(ハヤスヒノト。豊予海峡。明石海峡との説もありますが、『日本書紀』の方が路順としては正確です)で、「釣りしつつ打ち羽挙(ハブ)き来る人」に逢い、水先案内をさせ、この名を付けたとあります。『日本書紀』では「珍(ウヅ)彦」と名乗り、「椎根津彦(シヒネツヒコ)」の名を与えたとします。

 この「さおねつひこ」、「はやすひのと」、「うちはぶく」、「うづひこ」、「しひねつひこ」は、

  「タ・オネ・ツ・ヒコ」、TA-ONE-TU-HIKO(ta=the;one=beach,sand;tu=stand,settle;hiko=move at random or irregularly)、「海岸に・住んで・(漁に)あちこち出かける(人)」

  「ハ・イア・ツヒ・ノ・ト」、HA-IA-TUHI-NO-TO(ha=breath;ia=current,indeed;tuhi=delineate,conjure;no=of;to=drag,open or shut a door or window)、「魔法をかけたように・潮流が・呼吸をする(潮流の向きが変わる)・戸口(海峡)」

  「ウチ・ハプク」、UTI-HAPUKU(uti=bite;hapuku=cram food into the mouth)、「(釣った魚を)噛んで・口に詰め込む(人)」

  「ウツ・ヒコ」、UTU-HIKO(utu=dip up water,dip into for a purpose of filling;hiko=move at random or irregularly)、「(漁のために)海へ出て・あちこち動き回る(人)」

  「チヒ・ネ・ツ・ヒコ」、TIHI-NE-TU-HIKO(tihi=summit,top;ne=emphasis;tu=stand,settle;hiko=move at random or irregularly)、「(船の)最も高い所に・座っている(水先案内をする)・(海を)あちこち動き回る(人)」

の転訛と解します。

 

[シ]

 

072下照(シタテル)比売の命

 名義は、「下界まで照り輝く雷の女性」の意とされます。047大国主神083多紀理毘売との間に生まれた子で、005阿遅鋤高日子根(アジスキタカヒコネ)神の妹、別名は080高比売です。029天若日子の妻となり、死別します。

 この「したてる」は、

  「チタハ・テ・ル」、TITAHA-TE-RU(titaha=lean to one side,pass on one side;te=crack;ru=shake,agitate,scatter)、「(夫と)離別する・成り行きとなって・取り乱した(姫)」(「チタハ」のH音が脱落して「チタア」から「シタ」となつた)

の転訛と解します。

 

073塩椎(シオツチ)の神

 名義は、「潮流を司る精霊」の意、「潮つ霊(チ)」からとされます。119火遠理命が兄の釣り針を失って悩んでいたとき、无間勝間(マナシカツマ)の小船に乗せ、海神の宮への道を教えます。『日本書紀』神代紀下では「事勝国勝長狭(コトカツクニカツナガサ)」、「塩土老翁(シオツチノヲヂ)」とあります。

 この「しおつち」、「まなしかつま」、「ことかつくにかつながさ」は、

  「チア・ウツ・チ」、TIA-UTU-TI(stick,servant,parent;utu=satisfaction,reward(whakautu=fondle,caress);ti=throw,cast)、「(困ったときに)援助の手を・差し伸べる・親(または召使い)」

  「マナ・チカ・ツマ」、MANA-TIKA-TUMA(mana=power,having power;tika=straight,keeping a direct course;tuma=challenge)、「(目標に向かって)真っ直に・進む(挑戦する)・霊力(を与えられた・船)」

  「コト・カチ・クニ・カチ・ナ・(ン)ガ・タ」、KOTO-KATI-KUNI-KATI-NA-NGA-TA(koto=sob;kati=well,enough;(Hawaii)kuni=to burn,be lighted;na=belonging to;nga=satisfied;ta=lay,breathe)、「逆境(悲嘆)のときも・良しとし・順境(繁栄)のときも・良しとして・満足して・座つている(神)」(「(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「ガ」となつた)

の転訛と解します。

 

074白日別(シラヒワケ)

 名義は、「明るい太陽の男子」の意とされます。岐・美2神の国生みによって生まれた筑紫の島(九州)の中の「筑紫(ツクシ)国」の名です。

 この「しらひわけ」、「つくし」は、

  「チ・ラヒ・ワカイ(ン)ガ」、TI-RAHI-WAKAINGA(ti=throw,cast,overcome;rahi=great,abundant;wakainga=distant home)、「巨大な大きさに・(岐美二神が)生み落とした・(大和から離れた)遠い土地に住む神(その支配する土地)」(「ワカイ(ン)ガ」のAI音がE音に変化し、語尾のNGA音が脱落して「ワケ」となった)または「チラ・ヒ・ワカイ(ン)ガ」、TIRA-HI-WAKAINGA(tira=file of men,fin of a fish,mast of a canoe;hi=araise,rise;wakainga=distant home)、「高い・魚の鰭のような山(三郡山地、背振山地)がある・(大和から離れた)遠い土地に住む神(その支配する土地)」(「ワカイ(ン)ガ」のAI音がE音に変化し、語尾のNGA音が脱落して「ワケ」となった)

  「ツ・クチ」、TU-KUTI(tu=stand,settle;kuti=pinch,contract)、「(福岡平野と筑紫平野の間の)狭いところに・位置している(場所を中心とする・国)」

の転訛と解します。

 

[ス]

 

075少名毘古那(スクナビコナ)の神

 名義は、「体の小さい男性」の意、「少名」は「少な」、「毘古」は男性の美称、「那」は小さなものへの愛称とされます。059神産巣日神の子で、047大国主神に協力して国作りをし、常世国へ帰ります。「手俣(タナマタ。指の間)より久岐斯(クキシ。漏れ落ちた)」ほどの「小人」とされますが、『播磨国風土記』神前郡埴丘里条の記事は小人説を否定しています。(古典篇(その二)の2の(5)の項を参照して下さい。)

 この「すくなびこな」、「たなまた」、「くきし」は、

  「ツクヌイ・ヒコ・ヌイ」、TUKUNUI-HIKO-NUI(tukunui=main body of an army,large;hiko=move at random or irregularly;nui=large,big,many)、「多くの・地域を転々とした・戦闘部隊(を率いた・神)」

  「タナ・マタ」、TANA-MATA(tana=his,her;mata=face,eye)、「彼(親である神産巣日神)の・眼で」

  「ク・キテ」、KU-KITE(ku=silent;kite=see,find,recognize)、「黙つて・(スクナビコナが我が子であること、またはその能力を)確認した」(「キテ」のE音がI音に変化して「キチ」から「キシ」となつた)

の転訛と解します。

 

076須勢理(スセリ)毘売

 名義は、「勢いに乗つて性行が進み高ぶる巫女」の意とされます。084須佐之男命の娘で、003葦原色許男神と結婚し、父が夫に課した数々の試練を克服する方法を伝授します。

 この「すせり」は、

  「ツテ・リ」、TUTE-RI(tute=a charm to ward off malign influences;ri=protect,bind)、「災難を防除するまじないで・(夫を)守つた(妻。またはそのまじないを・身につけていた(妻))」

の転訛と解します。

 

[ソ]

 

077底筒之男(ソコツツノオ)の神

 名義は、「底の、帆柱受けの太い筒柱の男」の意とされます。黄泉国から帰還したイザナキが筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原で禊をした際に「綿津見」3神と共に化成した底筒之男命、101中筒之男命041上筒之男命の「筒之男」3神の1です。

 この「そこつつのお」は、

  「トコ・ツツ・ノホ」、TOKO-TUTU-NOHO(toko=pole,push or force to a distance;tutu=steeping in water;noho=sit,stay,settle)、「(イザナキの)身体の遠くに・水に浸かって・居る(神)」(「ノホ」のH音が脱落して「ノオ」となった)

の転訛と解します。

 

078底津綿津見(ソコツワタツミ)の神

 名義は、「底の、海の神霊」の意とされます。黄泉国から帰還したイザナキが筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原で禊をした際に「筒之男」3神と共に化成した042上津綿津見神102中津綿津見神、底津綿津見神の「綿津見」3神の1です。

 この「そこつわたつみ」は、

  「トコ・ツ・ワ・タツ・ミヒ」、TOKO-TU-WA-TATU-MIHI(toko=pole,push or force to a distance;tu=stand,settle;wa=definite place;tatu=strike one foot against the other,stumble;mihi=greet,admire)、「(イザナキの)身体の遠くに・居る・潮流が・ひしめき合って流れる・場所(=海)の・尊崇すべき(神)」

の転訛と解します。

 
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[タ]

 

079高木(タカギ)の神

 名義は、「神霊の依代となる高い木」の意とされます。081高御産巣日神の別名です。011天照大御神と相伴つて登場し、皇祖神として重要な働きをします。

 この「たかぎ」は、

  「タカ・キ」、TAKA-KI(taka=heap,lie in a heap;ki=full,very)、「至って・高い(地位にある・神)」

の転訛と解します。

 

080高(タカ)比売の命

 名義は、「高く輝く雷の女性」の意とされます。047大国主神083多紀理毘売との間に生まれた子で、005阿遅鋤高日子根神の妹、072下照比売命の別名です。029天若日子の妻となり、死別します。

 この「たか」は、

  「タカ」、TAKA(heap,lie in a heap,go or pass round,fall off,fail of fulfilment)、「(兄の名を顕す歌を詠んで評判が高かつたのに、夫の死に直面して取り乱して)評判を落とした(妻)」

の転訛と解します。

 

081高御産巣日(タカミムスヒ)の神

 名義は、「高く神聖な生成の霊力」の意とされます。造化3神の一柱で、026天之御中主神に次いで二番目に高天原に化成した独神で身を隠している別神で、011天照大御神と相伴つて登場し、皇祖神として重要な働きをします。

 この「たかむすひ」は、

  「タカ・ミヒ・ムツ・ヒ」、TAKA-MUTU-HI(taka=heap,lie in a heap;mihi=greet,admire;mutu=brought to an end,completed;hi=raise,rise)、「手を合わせている・最高の地位に・到達している(神)」(「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となつた)

の転訛と解します。

 

082多岐津(タキツ)比売の命

 名義は、「激流の女性」の意、「多岐」は「激流、早瀬」とされます。『日本書紀』では「湍津姫命」。011天照大御神084須佐之男命の誓約において、スサノオの剣から生まれた083多紀理毘売045奥津嶋比売)、033市寸嶋比売069狭依毘売)、多岐津比売の宗像3女神の第三子。玄海町田島の宗像神社の辺津宮に鎮座します。

 この「たきつ」は、

  「タキツ」、TAKITU(formation in colum for attack)、「(奥津島、中津島と本土とを結んで)縦一列に並ぶ(本土の姫神)」

の転訛と解します。

 

083多紀理(タキリ)毘売の命

 名義は、「霧の女性」の意、「多」は接頭語、「紀理」は「霧」とされます。011天照大御神084須佐之男命の誓約において、スサノオの剣から生まれた宗像3女神の第一子。別名は045奥津嶋(オキツシマ)比売命。大島村沖ノ島の宗像神社の奥津宮に鎮座します。047大国主神の妻となり、005阿遅鋤高日子根神072下照比売を生みます。

 この「たきり」は、

  「タキリ」、TAKIRI(loosen,free from TAPU)、「呪縛を解く(姫神)」

の転訛と解します。

 

084建速須佐之男(タケハヤスサノオ)の命

 名義は、「勇猛に勢いの赴くままに激しく進む男子」の意、「須佐」は「すさぶ、すすむ」と同根とされます。この「須佐」を出雲の須佐(島根県簸川郡佐田町)とする説がありますが、記の原文に「須佐二字以音」と音注がある(地名には音注を付さない)ところから誤りであることは明らかです。031伊耶那岐神が黄泉国から帰つて禊をしたときに、鼻を洗つて化成した3貴子の第3神です。

 この「たけはやすさのお」は、

  「タケ・ハ・イア・ツ・タノイ・ワウ」、TAKE-HA-IA-TU-TANOI-WAU(take=stump,chief;ha=what!;ia=indeed;tu=forceful;tanoi=be sprained;wau=quarrel,make a noise)、「氏族の首長で・何とも・実に・性格が烈しくて・(高天原で)騒ぎを起こして・懲らしめられた(神)」(「タノイ」の語尾のI音が脱落して「タノ」から「サノ」と、「ワウ」のAU音がO音に変化して「ヲ」となった)

  または「タケ・ハ・イア・ツ・タ(ン)ゴ・ワウ」、TAKE-HA-IA-TU-TANGO-WAU(take=stump,chief;ha=what!;ia=indeed;tu=forceful;tango=take,take up;wau=quarrel,make a noise)、「氏族の首長で・何とも・実に・性格が烈しくて・いつも・喧嘩していた(神)」(「タ(ン)ゴ」のNG音がN音に変化して「タノ」から「サノ」と、「ワウ」のAU音がO音に変化して「ヲ」となった)

の転訛と解します。

 

085建日方別(タケヒカタワケ)

 名義は、「勇猛な東南風の男子」の意、「日方」は本州西部では「東南風」とされます。岐・美2神の国生みによって生まれた「吉備(キビ)の児嶋(コシマ)」(岡山県児島半島)の名です。

 この「たけひかたわけ」、「きび」、「こしま」は、

  「タ・ケヒ・カタ・ワカイ(ン)ガ」、TA-KEHI-KATA-WAKAINGA(ta=the;kehi=defame,speak ill of;kata=laugh,opening of shellfish;wakainga=distant home)、「(出来が悪いと)悪口を言われている・貝が口を開けたような形をした・遠く離れている(島)(またはその土地を支配する神)」(「ワカイ(ン)ガ」のAI音がE音に変化し、語尾のNGA音が脱落して「ワケ」となった)

  「キ・ピ」、KI-PI(ki=full,very;pi=eye)、「大きな・眼(津山盆地)がある(地域。国)」

  「コチ・マ」、KOTI-MA(koti=cut in two,divide;ma=white,clean)、「(本土と)別れている・清らかな(場所。島)」

の転訛と解します。

 

086建日別(タケヒワケ)

 名義は、「勇猛な太陽の男子」の意とされます。岐・美2神の国生みによって生まれた筑紫の島(九州)の中の「熊曽(クマソ)国」の名です。

 この「たけひわけ」、「くまそ」は、

  「タ・ケヒ・ワカイ(ン)ガ」、TA-KEHI-WAKAINGA(ta=the;kehi=defame,speak ill of;wakainga=distant home)、「いつも・(大和に反抗すると)悪口を言われている・遠く離れている(国。またはその土地を支配する神)」(「ワカイ(ン)ガ」のAI音がE音に変化し、語尾のNGA音が脱落して「ワケ」となった)

  「ク・マ・タウ」、KU-MA-TAU(ku=silent;ma=white,clean;tau=come to rest,come to anchor,settle down)、「静かで・清らかな・休息をとる(場所。国)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」から「ソ」となつた)または「ク・マト」、KU-MATA(ku=silent;mato=deep swamp,deep valley)、「静かな・深い渓谷(の国)」

の転訛と解します。

 

087建日向日豊久士比泥別(タケヒムカヒトヨクジヒネワケ)

 名義は、「勇猛な、太陽に向かう、太陽の光りが豊で霊妙な力のある男子」の意、「久士比泥」は「奇(ク)し霊(ヒ)ネ(親称)」とされます。岐・美2神の国生みによって生まれた筑紫の島(九州)の中の「肥(ヒ)の国」の名です。この「肥」を「阿蘇山の火」と解する説もあります。

 この「たけひむかひとよくじひねわけ」、「ひ」は、

  「タ・ケヒ・ムク・ヒタウ・イオ・クチ・ピ・ヌイ・ワカイ(ン)ガ」、TA-KEHI-MUKU-HITAU-IO-KUTI-PI-NUI-WAKAINGA(ta=the;kehi=defame,speakill of;muku=wipe,smear;hitau=short apron;io=muscle,spur,lock of hair;kuti=pinch,contract;pi=eye;nui=large,big,many;wakainga=distant home)、「(出来が悪いと)悪口を言われている・巨大な・眼と・圧縮した・山脈の・(周りに)小さなエプロンのような平地を・なすりつけたような・(大和から)遠く離れた土地に住む(神。その神の住む土地)」(「ヒタウ」のAU音がO音に変化して「ヒト」と、「ワカイ(ン)ガ」のAI音がE音に変化し、語尾のNGA音が脱落して「ワケ」となった)

  「ピ」、PI(eye)、「眼(大きな外輪山の中に火口丘がある=阿蘇山)(阿蘇山がある地域・国)」(P音がF音を経てH音に変化して「ヒ」となった)

の転訛と解します。

 

088建御雷之男(タケミカヅチノヲ)の神

 名義は、「勇猛な、神秘的な雷の男」の意、「建」は「勇猛」、「御雷」は「御厳(ミイカ)・づ・霊(チ)」の約とされます。031伊耶那岐神が火神(111火之迦具土神)を斬り殺したとき、その剣の鍔についた血が岩にほとばしりついて化成した神です。血は火神の赤い炎で、鉱石を溶かし、刀剣を鍛える火で、雷神を表すものとされます。建御雷(タケミカヅチ)神とも呼ばれ、別名は、「建布都(タケフツ)神」、「豊布都(トヨフツ)神」です。「葦原中国の国譲り」条、「高倉下の献剣」条にみえ、のち鹿島神宮に祀られます。

 この「たけみかづちのを」、「たけふつ」、「とよふつ」は、

  「タケ・ミヒ・イカ・ツチカ・ノホ」、TAKE-MIHI-IKA-TUTIKA-NOHO(take=chief,origin,stump,absent oneself;mihi=greet,admire;ika=warrior,lie in a heap;tutika=uplight;noho=sit,stay)、「どっしりした(山のように偉大な)・尊崇すべき・戦士で・真っ直ぐに(立てた剣の上に)・座った(神)」

  「タケ・フ・ツ」、TAKE-HU-TU(take=chief,origin,stump,absent oneself;hu=silent,secret,hill;tu=stand,settle)、「どっしりした(山のように偉大な)・高いところに・居る(神)」

  「ト・イオ・フ・ツ」、TO-IO-HU-TU(to=the...of,drag,open or shut a door or window,be pregnant;io=muscle,spur,lock of hair;hu=silent,secret,hill;tu=stand,settle)、「山の・入り口の・高いところに・居る(神)」

の転訛と解します。

 

089建御名方(タケミナカタ)の神

 名義は、「勇猛な、製鉄炉の南方の元山柱」の意、「御名方」は「南方」で「製鉄炉の南方の元山柱」、すなわち「製鉄神」とされます。047大国主神の子で、天孫降臨に先立つて高天原から第三の使者として遣わされた088建御雷神と力競べをして敗れ、追われて科野(シナノ)国の州羽(スハ)海で服従を誓います。

 この「たけみなかた」、「しなの」、「すわ」は、

  「タケ・ミナカ・タ」、TAKE-MINAKA-TA(take=chief,stump,absent oneself;minaka=desire;ta=dash,beat,lay)、「どっしりした(山のように偉大な)・(大国主神から葦原中国を相続するという)希望を・打ち砕かれた(神)」

  「チナ・ノ」、TINA-NO(tina=fixed,satisfied,overcome,constipated;no=of,belonging to)、「(どちらかといえば)満足している・というべき(地域)」または「便秘している(四方を山に囲まれ、流れ出す川が少なくて狭く、大雨が降るとすぐ浸水する)・ような(地域)」

  「ツハ」、TUHA(=tuwha=spit)、「唾を吐く(厳冬に御神渡(オミワタリ)現象が生ずる・湖)」

の転訛と解します。

 

090建依別(タケヨリワケ)

 名義は、「勇猛な霊が依り憑く男子」の意とされます。岐・美2神の国生みによって生まれた伊予二名島(四国)の「土左(トサ)国」(高知県)の名(「土左」に「鋭(ト)し」を付会したもの)です。

 この「たけよりわけ」、「とさ」は、

  「タカイ・イオ・リ・ワカイ(ン)ガ」、TAKAI-IO-RI-WAKAINGA(takai=wrap up,wrap round,wind round;io=muscle,line,spur,lock of hair;ri=scree,protect,bind;wakainga=distant home)、「山が・障壁となって・(湾曲した山脈または陸地に沿って)風(または潮流)が廻る・遠く離れている(国。またはその国を支配する神)」(「タカイ」のAI音がE音に変化して「タケ」と、「ワカイ(ン)ガ」のAI音がE音に変化し、語尾のNGA音が脱落して「ワケ」となった)または「タ・ケヒ・オリ・ワカイ(ン)ガ」、TA-KEHI-ORI-WAKAINGA(ta=the;kehi=defame,speak ill of;ori=bad weather;wakainga=distant home)、「(出来が悪いと)悪口を言われている・(蒸し暑くて)気候が悪い・遠く離れている(国。またはその土地を支配する神)」(「ケヒ」のH音が脱落して「ケイ」となり、「ケイ」の語尾の「イ」が「オリ」と連結して「ヨリ」と、「ワカイ(ン)ガ」のAI音がE音に変化し、NGA音が脱落して「ワケ」となった)

  「トタ」、TATA(sweat)、「蒸し暑い(地域)」

の転訛と解します。

 

[チ]

 

091道反之(チガエシノ)大神

 名義は、「魔物を道から追い返した大神」の意とされます。031伊耶那岐命が黄泉国から脱出し、黄泉国との境に千引石(チビキノイハ)を置いて交通を遮断した、その大岩の名です。

 この「ちがえし」、「ちびき」は、

  「チカ・エチ」、TIKA-ETI(tika=straight,just;eti=shrink,recoil)、「直進するのを・ためらわせる(後退させる)(岩)」

  「チ・ピキ」、TI-PIKI(ti=throw,cast,overcome;piki=support,ward off,climb)、「(境に)置かれた・(異界の者を)払いのける(岩)」

の転訛と解します。

 

092道敷(チシキ)の大神

 名義は、「道を追い付いた大神」の意とされます。032伊耶那美命が黄泉国から脱出する031伊耶那岐命を追いかけて、黄泉国との境の黄泉平坂で追い付いたのでこの名がつけられました。

 この「ちしき」は、

  「チチキ」、TITIKI(=tiki=fetch,go for a purpose)、「つかまえた」または「チチ・キ」、TITI-KI(titi=go astray;ki=full,very)、「道草を・しすぎた」

の転訛と解します。

 

[ツ]

 

093月読(ツクヨミ)の命

 名義は、「月齢を数える」の意とされます。031伊耶那岐命が禊をしたとき、右の目を洗つて化成した3貴人の第二神。伊耶那岐命から「夜の食(ヲス)国を知らせ」と命じられます。

 この「つくよみ」、「よるのをす」は、

  「ツク・イオ・ミ」、TUKU-IO-MIHI(tuku=let go,put off,side,shore;io=muscle,spur,ridge;mi=stream,river)、「波が洗う・海岸に・立っている(神)」

  「イオ・ル・ノ・オツ」、IO-RU-NO-OTU(io=muscle,spur,ridge;ru=shake,scatter;no=of;otu=the part of the figurehead of a canoe which prevents water from coming into a canoe)、「カヌーの舳先の波除板のような・波が押し寄せる・海岸(防衛すべき場所)」

の転訛と解します。

 

[テ]

 

094手名椎(テナヅチ)

 名義は、「早稲の稲の精霊」の意、「手名」は「速稲(トイナ)」の約とされます。「足名椎」(晩稲)の対。一方、「手のない精霊」で農耕の水神、蛇と解する説もあります。国津神052大山津見神の子とされ、084須佐之男命が助けた062櫛名田比売の母で、父は002足名椎です。

 この「てなづち」は、

  「テ・ナツ・チ」、TE-NATU-TI(te=the,emphasis,crack;natu=scratch,tear out;ti=throw,cast,overcome)、「(娘を)引き裂かれ・略奪されて・打ちのめされた(母)」

の転訛と解します。

 

[ト]

 

095鳥取(トトリ)の神

 名義は、「鳥を捕らえる」の意、「鳥は人の霊魂を運ぶもので、鳥を捕らえる行為は神事」とされます。129八嶋牟遅神の娘で、047大国主神の妻となり、鳥鳴海(トリナルミ)神を生みます。

 この「ととり」、「とりなるみ」は、

  「ト・トリ」、TO-TORI(to=the...of,drag,open or shut a door or window;tori=cut)、「(湿地帯を)切り開いた(神)」または「トト・リ」、TOTO-RI(toto=blood,bleed;ri=protect,bind)、「血統を・つなげた(神)」

  「トリ・(ン)ガル・ミ」、TORI-NGARU-MI(tori=cut;ngaru=wave of the sea,corrugation;mi=stream,river)、「川が・波のように並んでいる場所を・切り開いた(川の支流・細流と湿地帯が交錯する場所に広い水路を開削して流れを良くし、干拓を行った)(神)」(「(ン)ガル」のNG音がN音に変化して「ナル」となった)

の転訛と解します。

 

096登由宇気(トユウケ)の神

 名義は、「豊かな食物」の意とされます。天孫降臨の際に随伴した神の一で、外宮の渡相(ワタラヒ)に坐す神です。原文には「此者坐外宮之渡相神者也」とありますが、外宮が内宮に対する語として用いられたのは平安朝の醍醐・朱雀・村上天皇頃からといいますから、この部分は後世の改竄とする説があります。

 この「とゆうけ」、「わたらひ」は、

  「ト・イオ・ウ・カイ」、TO-IO-HU-KAI(to=the...of,drag,open or shut a door or window;io=muscle,spur,ridge;u=be fixed,reach the land;kai=food)、「山のように・食物を・積み上げている(または運んできた・神)」(「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)

  「ワタ・ラヒ」、WHATA-RAHI(whata=elevated stage for storing food and for other purposes,support;rahi=great,abundant)、「巨大な・食糧倉庫(がある・場所)」

の転訛と解します。

 

097豊宇気(トヨウケ)毘売の神

 名義は、「豊かな、立派な食物(稲)の女性」の意、「豊」は「豊穣」、「宇気」は「ウ(立派な)・ケ(食物)」で「稲」(大殿祭の祝詞の中の『屋船豊宇気姫』の注に「是は稲の霊なり。俗の詞に『宇賀能美多麻』といふ」とあります)とされます。096登由宇気神と同一とする説、別とする説があります。

 この「とようけ」は、

  「ト・イオ・ウ・カイ」、TO-IO-U-KAI(to=the...of,drag,open or shut a door or window;io=muscle,spur,ridge;u=be fixed,reach the land;kai=food)、「山のように・食物を・積み上げている(神)」(「カイ」のAI音がE音に変化して「ケ」となった)

の転訛と解します。

 

098豊玉(トヨタマ)毘売

 名義は、「豊かな、玉に神霊が依り憑く巫女」の意、「玉」はここでは「真珠」とされます。海神の娘で、海神の宮を訪れた009穂々出見命の妻となり、出産のため夫を追って海辺に来ますが、八尋和迩(ヤヒロワニ)の姿で出産するところを夫に見られ、恥じて子供008天津日高日子波限建鵜葺草葺不合(アマツヒコヒコナギサタケウガヤフキアエズ)命を残して去り、妹玉依(タマヨリ)毘売(「古典篇(その六)の神武天皇の部」を参照してください)を子供の養育のために遣わします。

 この「とよたま」、「たまより」は、

  「タウ・イホ・タマ」、TAU-IHO-TAMA(tau=turn away,look in another direction;iho=heart,that wherein consists the strength of a thing,object of reliance,umbilical cord;tama=son,child)、「(自分が生んだ)子供との・絆を・断ち切って(海神の宮へ)帰つた(姫)」(「タウ」のAU音がO音に変化して「ト」と、「イホ」のH音が脱落して「イオ」から「ヨ」となった)

  「タマ・イオ・リ」、TAMA-IO-RI(tama=son,child;io=muscle,lock of hair,tough;ri=protect,bind)、「子供を・しっかりと・保護した(育てた)(姫)」または「タ・マイオリ」、TA-MAIORI(ta=the...of;maiori=maori=normal,ordinary,native)、「普通の(ワニでない)(姫)」

の転訛と解します。

 

099豊日別(トヨヒワケ)

 名義は、「光りが豊かな太陽の男子」の意とされます。岐・美2神の国生みによって生まれた筑紫の島(九州)の中の「豊(トヨ)国」(大分県・福岡県の一部)の名です。

 この「とよひわけ」は、

  「ト・イオ・ヒ・ワカイ(ン)ガ」、TO-IO-HI-WAKAINGA(to=drag,open or shut a door or a window;io=muscle,line,spur,lock of hair;hi=raise,rise;wakainga=distant home)、「(潮の干満に応じて)潮が行き来する・縄のような海峡(関門海峡(および豊予海峡))に面している・高くなっている(山地が多い)・(大和から)遠く離れた地域(に住む神)」(「ワカイ(ン)ガ」のAI音がE音に変化し、語尾のNGA音が脱落して「ワケ」となった)

の転訛と解します。

 

100鳥之石楠船(トリノイハクスフネ)の神

 名義は、「鳥のように軽快で、堅固な楠で造った船」の意とされます。岐・美2神が生んだ神で、別名は019天之鳥船です。

 この「とりのいはくすふね」は、

  「トリ・ノイ・ワク・ツ・フネ」、TORI-NOI-WAKU-TU-HUNE(tori=cut;noi=elevated,erected;waku=scrape,abrade;tu=fight with,energetic;hune=down)、「(敵を)斬ること・抜きんでて・精力的に・一掃して・捨てる(神)」

の転訛と解します。

 

   

[ナ]

 

101中筒之男(ナカツツノオ)の神

 名義は、「中の、帆柱受けの太い筒柱の男」の意とされます。黄泉国から帰還したイザナキが筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原で禊をした際に「綿津見」3神と共に化成した077底筒之男命、中筒之男命、041上筒之男命の「筒之男」3神の1です。

 この「なかつつのお」は、

  「ナカ・ツツ・ノホ」、NAKA-TUTU-NOHO(naka=denoting position near,move in a certain direction;tutu=steeping in water;noho=sit,stay,settle)、「(イザナキの)身体の近くに・水に浸かって・居る(神)」(「ノホ」のH音が脱落して「ノオ」となった)

の転訛と解します。

 

102中津綿津見(ナカツワタツミ)の神

 名義は、「中の、海の神霊」の意とされます。黄泉国から帰還したイザナキが筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原で禊をした際に「筒之男」3神と共に化成した042上津綿津見神、中津綿津見神、078底津綿津見神の「綿津見」3神の1です。

 この「なかつわたつみ」は、

  「ナカ・ツ・ワ・タツ・ミヒ」、NAKA-TU-WA-TATU-MIHI(naka=denoting position near,move in a certain direction;tu=stand,settle;wa=definite place;tatu=strike one foot against the other,stumble;mihi=greet,admire)、「(イザナキの)身体の遠くに・居る・潮流が・ひしめき合って流れる・場所(=海)の・尊崇すべき(神)」

の転訛と解します。

 

103泣澤女(ナキサハメ)の神

 名義は、「泣くことが多い女」の意、「泣澤」は「水音を鳴り響かせる澤」とされます。妻を亡くして悲しみ泣いた031伊耶那岐命の涙から化成した神です。「(天之)香山(カグヤマ)の畝尾(ウネヲ)の木の本(コノモト)に坐す」とされます。奈良県橿原市木之本町の「啼沢女の社(ナキサハメノモリ)」は、天之香久山の西麓の小高い所にあり、北方の一段低いところは上代の埴安の池の一部であったといいます。

 この「なきさはめ」、「(あまの)かぐ(やま)」、「うねを」、「このもと」は、

  「ナキ・タハ・メ」、NAKI-TAHA-ME(naki=glide,move with even motion;taha=calabash with a narrow mouth,side,edge;me=if,as if like)、「滑らかな・(口の細い)瓢箪に・似ている(形の・澤。その澤のほとりに鎮座する神)」

  「アマ・ノ・カク」、AMA-NO-KAKU(ama=outrigger of a canoe;no=of;kaku=scrape up,bruise)、「カヌーのアウトリガー(船側の浮子)が・傷ついている(ような・山)」

  「ウナヒアウア」、UNAHIAUA(wart)、「瘤(のような土地)」(H音が脱落してAI音がE音に、AU音がO音に変化し、語尾のA音が脱落して「ウネオ」となった)

  「コノ・モト」、KONO-MOTO(kono=bend,curve,loop;moto=strike with the fist)、「拳骨で殴られて・曲がった(ような土地)」

の転訛と解します。

 

104鳴女(ナキメ)

 名義は、「鳴く女」の意とされます。029天若日子が天孫降臨に先立ち、高天原から葦原中国へ国譲りの交渉のために弓矢を賜って派遣されますが、047大国主神の娘、072下照比売と結婚し、8年の間復命しなかったので、詰問のため遣わされた雉の名です。天若日子は鳴女を賜った矢で射殺し、射返された矢で殺されます。『日本書紀』神代紀下は「無名雉(ナナシキジ。ナナキキジ)」とします。

 この「なきめ」、「ななき」は、

  「ナキ・メ」、NAKI-ME(naki=glide,move with even motion;me=if,as if like)、「あたかも・滑るように(飛ぶ。雉)」または「ナ・キミ」、NA-KIMI(na=belonging to,by;kimi=seek,look for)、「追求する(雉)」

  「ナ・ナキ」、NA-NAKI(na=by,belonging to;naki=glide,move with even motion)、「どちらかと言えば・滑るように(飛ぶ。雉)」

の転訛と解します。

 

[ニ]

 

105贄持之子(ニヘモツノコ)

 名義は、「贄を持ち貢上する者」の意とされます。神武東遷の際、吉野川で筌(ウヘ。ヤナ)を伏せて魚を取っていた国津神の名、阿陀の鵜養(ウカイ)の祖です。

 この「にへもつのこ」、「うかい」は、

  「ニヒ・アイ・モツ・ノ・コ」、NIHI-AI-MOTU-NO-KO(nihi=steep,move stealthily;ai=not generally to be translated;motu=piece of flesh,severed,separated,escaped;no=of;ko=adressing to girl or males)、「ひそかに・やってきたもの(神武天皇軍)に・逃げられた(神武天皇軍に参加する機会を逃がした)・人」(「ニヒ」のH音が脱落して「ニ」と、「アイ」のAI音がE音に変化して「エ」となった)または「ヌイ・ヘモ・ツノウ・コ」、NUI-HEMO-TUNOU-KO(nui=large,big,many;hemo=be passed by,disappear;tunou=nod the head;ko=adressing to girl or males)、「大きな・もの(神武天皇軍。神武天皇軍に参加する機会)が過ぎ去るのを・黙って見過した・人」(「ヌイ」が「ニ」になった)

  「フフ・カイ」、HUHU-KAI(huhu=strip off an outer covering,cast off a rope etc.;kai=eat,food,fulfil its proper function)、「(鵜の首に結んだ)紐を操って・(鮎などを捕る)仕事をさせる(部族)」(「フフ」の反復語尾およびH音が脱落して「ウ」となった)

の転訛と解します。

 

[ヌ]

 

106沼河(ヌナカハ)比売

 名義は、「越後国沼川郷(新潟県西頚城郡糸魚川市)の女性」の意、「ぬ」は「(翡翠の)玉」とされます。130八千矛神047大国主神の別名)が求婚し、歌を唱和します。

 この「ぬなかは」は、

  「ヌヌイ・カハ」、NUNUI-KAHA(nui,nunui=large,big,many;kaha=strong,rope,a general term for several charms used when fishing or snaring birds)、「偉大な・巫女」または「ヌヌイ・カワ」、NUNUI-KAWA(nui,nunui=large,big,many;kawa=protected by carms,heap,channel,heir)、「大きな・水路(川)(のそばに住む・姫)」または「偉大な・相続人(である・姫)」

の転訛と解します。

 

[ハ]

 

107波迩夜須(ハニヤス)毘古の神

 名義は、「粘土の男性」の意、「はにやす」は「埴練(ハニ・ネヤス)」の約とされます。032伊耶那美命が火神を生み病臥して屎を出したときに化成した神で、対偶神は108波迩夜須毘売神です。神代紀上には「土の神を埴安(ハニヤス)神と号す」とあり、神武即位前紀には、天之香山の埴土から土器を作つて神を祀り天下を平定したのでそこを「埴安(ハニヤス)」というとあります。孝元天皇の御子「建波迩夜須(タケハニヤス)毘古命」については、古典篇(その六)の孝元天皇の項を参照してください。

 この「はにやす」は、

  「ハ(ン)ギ・イア・ツ」、HANGI-IA-TU(hangi=earth oven;ia=indeed,very;tu=stand,settle)、「実に・(蒸し焼き料理をつくるための穴のような)地面に掘った穴に・居る(神)」(「ハ(ン)ギ」のNG音がN音に変化して「ハニ」となった)

の転訛と解します。

 

108波迩夜須(ハニヤス)毘売の神

 名義は、「粘土の女性」の意、「はにやす」は「埴練(ハニ・ネヤス)」の約とされます。107波迩夜須毘古神の項を参照してください。

 

109波比岐(ハヒキ)の神

 名義は、祈年祭祝詞の中に見えるところから、「宅地の端から端へ線を引き区画をすること」の意とされます。084須佐之男命の子の050大年神と天知迦流美豆比売との間に生まれた9神中の第5子の名です。

 この「はひき」は、

  「パヒ・キ」、PAHI-KI(pahi=ooze,flow;ki=full,very)、「十分に・水を流す(川または泉。その神)」(「パヒ」のP音がF音を経てH音に変化して「ハヒ」となった)

の転訛と解します。

 

[ヒ]

 

110火之玄(ヒノカガ)毘古の神

 名義は、「火の明るく輝く男性」の意、「かか(火偏に玄)」は「火が燃えて輝く」意とされます。岐・美2神の国生みにおいて生まれた火の神で、032伊耶那美命が陰部を焼かれて死亡します。112火之夜藝速男(ヒノヤギハヤヲ)神の別名です。

 この「ひのかか」は、

  「ヒ(ン)ガ・ウ・カ(ン)ガ」、HINGA-U-KANGA(hinga=be killed,fall from an erect position;u=be firm,be fixed;kanga=ka=take fire,be lighted,burn)、「(イザナキに)殺されて・打ち捨てられた・火を燃やした(神)」(「ヒ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ヒナ」となり、その語尾のA音が次の「ウ」のU音と連結してO音に変化して「ヒノ」となつた)

の転訛と解します。

 

111火之迦具土(ヒノカグツチ)の神

 名義は、「火のちらちらと燃える精霊」の意、「迦具(かが、かぎ、かぐ、かげ)」は「火がちらちらと揺れる(燃える)」意とされます。岐・美2神の国生みにおいて生まれた火の神で、032伊耶那美命が陰部を焼かれて死亡します。112火之夜藝速男(ヒノヤギハヤヲ)神の別名です。

 この「ひのかぐつち」は、

  「ヒ(ン)ガ・ウカ・クツ・チ」、HINGA-UKA-KUTU-TI(hinga=be killed,fall from an erect position;uka=hard,be fixed;kutu=vermin,louse;ti=throw,cast)、「(イザナキに)殺されて・打ち捨てられて・蛆虫が・発生した(神)」(「ヒ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ヒナ」となり、その語尾のA音が次の「ウカ」のU音と連結してO音に変化して「ヒノカ」となつた)

の転訛と解します。

 

112火之夜藝速男(ヒノヤギハヤヲ)の神

 名義は、「火の焼く勢いが速く盛んな男性」の意、「夜藝」は「焼く」意とされます。岐・美2神の国生みにおいて生まれた火の神で、032伊耶那美命が陰部を焼かれて死亡します。別名は、110火之玄毘古神111火之迦具土神です。

 この「ひのやぎはやを」は、

  「ヒ(ン)ガ・ウイ・ア(ン)ギ・ハ・イア・アウ」、HINGA-UI-ANGI-HA-IA-AU(hinga=be killed,fall from an erect position;ui=disentangle,loosen a noose,ask;angi=free,something connected with the descent to the subterranean spirit world;ha=breathe;ia=indeed,current;au=firm,intense,sound(of sleep))、「(イザナキに)殺されて・自由になった・黄泉国の生命体が・実に・しっかりと・息をし始めた(その死体から数々の神々が化成した)(神)」(「ヒ(ン)ガ」のNG音がN音に変化して「ヒナ」となり、その語尾のA音が次の「ウイ」のU音と連結してO音に変化して「ヒノ」となり、「ウイ」のI音が「ア(ン)ギ」と連結し、NG音がG音に変化して「ヤギ」となつた)

の転訛と解します。

 

113水蛭子(ヒルコ)

 名義は、「水蛭(ヒル)のような手足の萎えた不具の子」の意とされます。岐・美2神が最初に生んだ子で、葦船に乗せて流されます。次に生まれた「淡島(アハシマ)」も子とは認められませんでした。

 この「ひるこ」、「あはしま」は、

  「ヒル・コ」、HILU-KO((Hawaii)hilu=strange;ko=adressing to girl or males)、「奇妙な・子」

  「アハ・チマ」、AHA-TIMA(aha=what?,who?,expressing remonstrance,warning,mockery;tima=a wooden implement for cultivating the soil)、「警告の証しの・掘り棒で土地を掘り散らかしたような(きちんとした五体満足ではない。恐らく「葡萄状鬼胎」と称されるものかと思われる)(子)」

の転訛と解します。

 

[フ]

 

114布都御魂(フツノミタマ)

 名義は、「ぷっつり断ち切る太刀の神霊」の意とされます。神武東遷の際に、神武軍が熊野で失神したとき、088建御雷神が高倉下(タカクラジ)に下された、葦原中国の平定に用いた太刀の名、佐士布都(サジフツ)神、または123甕布都(ミカフツ)神の別名です。なお、この刀は「石上(イソノカミ)神宮に坐す」とあります(『延喜式』神名帳には、石上布都之魂(イソノカミフツノミタマ)神社(備前国赤坂郡)、石上坐布留御魂(イヒノカミニマスフツノミタマ)神社(大和国山辺郡)があります)。

 この「ふつのみたま」、「さじふつ」、「たかくらじ」、「いそのかみ」、「ふる」は、

  「プツ・ノ・ミ・タマ」、PUTU-NO-MI-TAMA(putu=lie in a heap,incease,multiply;no=of;mi=stream,river;tama=son,child,(emotion,spirit))、「流れ出す・霊力を・増幅する(さらに大きくして働らかせる・剣)」(「プツ」のP音がF音を経てH音に変化して「フツ」となった)

  「タ・チ・プツ」、TA-TI-PUTU(ta=the,dash,beat,lay;ti=throw,cast,overcome;putu=lie in a heap,incease,multiply)、「打倒する力が・増幅される(剣)」(「プツ」のP音がF音を経てH音に変化して「フツ」となった)

  「タカ・クラ・チ」、TAKA-KURA-TI(taka=fall down;kura=treasure;ti=throw,cast,overcome)、「(天から)降ってきた・宝剣を・献上した(人)」

  「イト・ノ・カミ」、ITO-NO-KAMI(ito=object of revenge,enemy;no=of;kami=eat)、「敵を征服した・その・記念品(たる宝物・宝剣などを収蔵する場所・神社)」

  「フル」、HURU(contract,gird on as a belt,an incantation recited over weapons before fighting)、「(戦闘の前に刀剣などの武器に対し)呪文を唱えて霊力を与える(神霊)」

の転訛と解します。

 

115布帝耳(フテミミ)の神

 名義は、未詳ですが「衣類の神霊」の意か、とされます。084須佐之男神の子孫17世神の第4世054於美豆奴神の妻となり、024天冬衣神を生みます。

 この「ふてみみ」は、マオリ語の

  「プタヒ・ミミ」、PUTAHI-MIMI(putahi=join,meet;mimi=river)、「(二つの)川が・合流する(場所。そこに居る神)」(「プタヒ」の語頭のP音がF音を経てH音に変化し、語尾のH音が脱落し、AI音がE音に変化して「フテ」となった)

の転訛と解します。

 

116布刀玉(フトダマ)の神

 名義は、「立派な祭具の玉」の意、「布刀」は「太い、立派な」の意とされます。011天照大御神を天岩屋から引き出すために、鹿占をし、八尺(ヤサカ)の勾珠(まがたま)の五百津(イホツ)の御須麻流(ミスマル)の玉・八尺鏡(ヤタノカガミ)・白和幣(シロニギテ)と青和幣を付けた賢木(サカキ)を布刀御幣(フトミテグラ)として持ち祈願して成功します。天孫降臨に際して五伴緒の一つとして随伴します。

 この「ふとだま」、「ふとみてぐら」、「やさかのまが(たま)」、「いほつのみすまる(のたま)」、「やた(のかがみ)」、「にぎて」は、

  「フ・タウ・タマ」、HU-TAU-TAMA(hu=desire,silent,secretly;tau=sing,come to rest,settle down;tama=son,child,(emotion,spirit))、「祈願(呪文、祝詞)を・唱える・魂(神)」または「魂が・ひそやかに・依り憑く(神)

  「フ・タウ・ミヒ・テ・クラ」、HU-TAU-MIHI-TE-KURA(hu=desire,silent,secretly;tau=sing,come to rest,settle down;mihi=greet,admire;te=the;kura=ornamented with feathers)、「祈願が・込められた(呪文、祝詞を唱えた)・尊い・御幣(鳥の羽や後には楮、麻等の繊維、布、紙等で飾った呪物)」

  「イア・タカ・ノ・マ(ン)ガ」、IA-TAKA-NO-MANGA(ia=indeed,every,each;taka=fasten fishing hook;no=of;manga=branch of a tree or a river)、「木の枝・の・それぞれに・結び付けられた(玉)」(「マ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「マガ」となった)

  「イホ・ツ・ノ・ミヒ・ツ・マル」、IHO-TU-NO-MIHI-TU-MARU(iho=inside,kernel,downwards;tu=stand,settle;no=of;mihi=greet,admire;maru=power)、「(枝から)釣り下げて・ある・霊力が・篭もる・尊い(玉)」

  「イア・アタ」、IA-ATA(ia=indeed,every,each,just;ata=clearly,openly)、「実に・明らかに(物を)映す(鏡)」

  「ニキ・タイ」、NIKI-TAI(niki=small;tai=wave)、「(白い楮の繊維または青い麻の布が)小さな・波のように(うねって付いている・御幣)」(「タイ」のAI音がE音に変化して「テ」となった)

の転訛と解します。

 

[ホ]

 

117火須勢理(ホスセリ)の命

 名義は、「火が烈しく燃え進むこと」の意とされます。「稲穂の稔りが進むこと」とする説もあります。020迩迩藝命066木花之佐久夜毘売が結婚して生んだ3神の第二子の名です。一夜で妊娠したことへの疑いを晴らすために出産に際して産屋の「戸無き八尋殿(ヤヒロドノ)」(『日本書紀』は「無戸室(ウツムロ)」)に火をつけ、その火が燃え進んだときに生まれました。神代紀下では燃え始めに「火酢芹(ホノスセリ)命」、その次に「火明(ホノアカリ)命」または「火進(ホススミ)命」を生み、火が避ったときに「火折彦火火出見(ホノオリヒコホホデミ)尊」が生まれたなどとしますが、書によつて相違があります。119火遠理命は、山佐知毘古として兄の118火照命、海佐知毘古と争い勝ち、兄を服従させますが、この火須勢理命は物語に登場しません。

 この「ほすせり」、「やひろ」、「うつむろ」は、

  「ホ・ツテ・リ」、HO-TUTE-RI(ho=shout,droop;tute=a charm to ward off malign influences;ri=protect,bind)、「災難を避ける呪文を・大声で唱えて・(わが身を)守った(神)」または「ホツ・タイリ」、HOTU-TAIRI(hotu=sob,desire eagerly;tairi=block up,be suspended)、「災難を避ける・ことをただ熱心に祈る(だけだった・神)」(「タイリ」のAI音がE音に変化して「テリ」から「セリ」となった)

  「イ・アヒ・ロ」、I-AHI-RO(i=past tense;ahi=fire;ro=roto=inside)、「中で・火を・燃やした(産屋)」(「イ」のI音と「アヒ」のA音が連結して「ヤ」となった)

  「ウツ・ムフ・ロ」、UTU-MUHU-RO(utu=satisfaction,(whakautu=fill up gaps);muhu=grope;ro=roto=inside)、「密閉した・中を・手探りで進む(産屋)」(「ムフ」のH音が脱落して「ム」となった)

の転訛と解します。

 

118火照(ホデリ)の命

 名義は、「火が明るく燃え盛ること」の意とされます。「稲穂の赤く色付くこと」とする説もあります。020迩迩藝命066木花之佐久夜毘売が結婚して生んだ3神の第一子の名です。火照命は、海佐知毘古として弟の山佐知毘古と争い負け、弟に服従します。

 この「ほでり」は、

  「ホ・タイリ」、HO-TAIRI(ho=shout,droop;tairi=block up,be suspended)、「災難を避けようと・大声で叫んだ(神)」(「タイリ」のAI音がE音に変化して「テリ」となった)

の転訛と解します。

 

119火遠理(ホヲリ)の命

 名義は、「火の勢いが弱まること」の意とされます。「稲穂が豊かに稔って折れ撓むこと」とする説もあります。020迩迩藝命066木花之佐久夜毘売が結婚して生んだ3神の第三子の名です。火遠理命は、山佐知毘古として兄の海佐知毘古と争い勝ち、兄を服従させます。別名を009天津日高日子穂々出見命といい、海神の娘098豊玉毘売を妻として008天津日高日子波限建鵜葺草葺不合)命を生みます。

 この「ほをり」は、

  「ホ・オリ」、HO-ORI(ho=shout,droop;ori=cause to wave to and fro,move about)、「大声で呪文を唱えて・潮の干満を起こした(神)」

の転訛と解します。

 
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[マ]

 

120悪事一言善事一言言離神葛城一言主(マガゴトモヒトコトヨゴトモヒトコトコトサカノカミカヅラキノヒトコトヌシ)の神

 名義は、「凶事も一言で、また吉事も一言で言い放つ神である、葛城の、一言で託宣する主の大神」の意、「言離」は「言放(コトサ)か」とされます。仁徳天皇皇后石之日売命以来、皇室の外戚として勢力があった大豪族葛城氏の奉祭神です。

 この「まがごと」、「よごと」、「ことさか」、「かつらぎ」は、

  「マハ(ン)ガ・(ン)ゴト」、MAHANGA-NGOTO(mahanga=twins;ngoto=penetrate,be deep)、「双子(であること=忌むべきこと)を・見抜く(凶事を予知する)」(「マハ(ン)ガ」のH音が脱落し、NG音がG音に変化して「マガ」と、「(ン)ゴト」のNG音がG音に変化して「ゴト」となった)

  「イ・ホキ・(ン)ゴト」、I-HOKI-NGOTO(i=ferment,be stirred;hoki=to give emphasis to an assent or affirmation;ngoto=penetrate,be deep)、「賛成すべきことが・起こることを・見抜く(吉事を予知する)」(「ホキ」のH音が脱落して「オキ」となり、「イ」と連結して「ヨキ」と、「(ン)ゴト」のNG音がG音に変化して「ゴト」となった)

  「コト・タカ」、KOTO-TAKA(koto=sob,make a low sound;taka=heap,lie in a heap,prepare)、「高いところに居て・低い声で託宣をする(神)」

  「カツア・ラ(ン)ギ」、KATUA-RANGI(katua=stockade;rangi=sky,heaven,tower or elevated platform used for purposes of attack or defence of a stockade)、「空にそびえる・砦(のような地域。そこにある山)」

の転訛と解します。

 

121正勝吾勝々速日天之忍穂耳(マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミ)の命

 名義は、「まさしく立派に私は勝った、勝利の敏速な霊力のある、高天原直系の、威圧的な、稲穂の神霊」の意とされます。011天照大御神084須佐之男との誓約において天照大御神の左の角髪に巻いた御統(ミスマル)の珠から生まれた5男神の第一子の名です。天照大御神の命によって葦原中国に降臨しようとした際、地上が騒がしいので、何度も使者を派遣しているうちに、020迩迩藝命が生まれ、代わりに降します。神代紀上には「天忍骨(アメノオシホネ)尊、天忍穂根尊」とあります。

 この「まさかつあかつかちはやひ/あめのおしほみみ」は、

  「マタ・カツア・ア・カツア・カチ・ハ・イア・ヒ/アマ・ノ・オチ・ハウミ・ミヒ」、MATA-KATUA-A-KATUA-KATI-HA-IA-HI-AMA-NO-OTI-HAUMI-MI(mata=really,just;katua=adult;a=recognition of person;kati=well,enough;ha=what!;ia=indeed;hi=raise,rise,shine;ama=outrigger of a canoe;no=of;oti=completed,finished;haumi=reserve,lay aside;mihi=greet,admire)、「全くの・成人で・本当に・一人前の男子で・実に・十分に・輝いていた(人物であった)が/(降臨を子のホノニニギに譲って)対馬の地に・隠退して・一生を終えた・尊崇すべき(神)」

の転訛と解します。

 

[ミ]

 

122甕速日(ミカハヤヒ)の神

 名義は、「神秘的でいかめしいことが猛烈である霊力」の意とされます。031伊耶那岐神が火神111火之迦具土神を斬り殺したとき、その剣の鍔についた地が岩にほとばしりついて化成した神です。

 この「みかはやひ」は、

  「ミカ・ハ・イア・ヒ」、MIKA-HA-IA-HI((Hawaii)mika=to press,crush;ha=what!;ia=indeed;hi=raise,rise,shine)、「粉砕する力が・なんとも・実に(強い)・高貴な(神)」

の転訛と解します。

 

123甕布都(ミカフツ)神

 名義は、「ぷっつり断ち切る太刀の神霊」の意とされます。神武東遷の際に、神武軍が熊野で失神したとき、088建御雷神が高倉下(タカクラジ)に下された、葦原中国の平定に用いた太刀の名、布都御魂(フツノミタマ)神の別名です。

 この「みかふつ」は、

  「ミカ・プツ」、MIKA-PUTU((Hawaii)mika=to press,crush;putu=lie in a heap,incease,multiply)、「粉砕する力が・増幅される(剣)」(「プツ」のP音がF音を経てH音に変化して「フツ」となった)

の転訛と解します。

 

124御倉板挙(ミクラタナ)の神

 名義は、「神聖な倉の中の棚に祭った稲霊」の意とされます。031伊耶那岐命が3貴子の分治を命じ、特に011天照大御神に自分の御頚珠を「玉の緒母由良迩(ヲモユラニ)取り由良迦志(ユラカシ)て」授けましたが、その珠の名です。

 この「みくらたな」、「たまのをもゆらにとり」、「ゆらかし」は、マオリ語の

  「ミヒ・クラ・タナ」、MIHI-KURA-TANA(mihi=greet,admire;kura=treasure;tana=his,her,its)、「尊い・彼の(または彼女の)・宝物(の神)」(「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となった)

  「タマヌ・オ・モイオイオ・ラ(ン)ギ・トリ」、TAMANU-O-MOIOIO-RANGI-TORI(tamanu=hum;o=of,belonging to;moioio=weakly;rangi=tune,drift;tori=cut)、「弱い・(珠が)揺らぐ(触れ合う)・音を・止めて」(「モイオイオ」の反復語尾が脱落して「モイオ」から「モユ」と、「ラ(ン)ギ」のNG音がN音に変化して「ラニ」となった)

  「イ・ウラカ・チ」、I-URAKA-TI(i=past tense;uraka=not;ti=throw,cast)、「(御頚珠を)投げる・ことをせずに(丁寧に手渡しをした)」

の転訛と解します。

 

125御食津(ミケツ)大神

 名義は、「御食物の大神」の意とされます。応神天皇と名を交換した、敦賀市角鹿の気比(ケヒ)神宮の祭神、064気比(ケヒ)大神030伊奢沙和気(イザサワケ)大神の別名です。

 この「みけつ」は、

  「ミヒ・カイ・ツ」、MIHI-KAI-TU(mihi=greet,admire;kai=food;tu=stand,settle)、「尊崇される・食物を・持つ(献ずる・神)」(「ミヒ」、「ケヘ」のH音が脱落して「ミ」、「ケ」となつた)

の転訛と解します。

 

126弥都波能売(ミツハノメ)の神

 名義は、「出始めの水の女性」の意、「弥都波」は「水早」とされます。032伊耶那美命が火神を生み、病臥して尿を出したときに化成した神です。

 この「みつは」は、マオリ語の

  「ミヒ・ツハ」、MIHI-TUHA(mihi=greet,admire;tuha,thwha=spit)、「尊崇される・唾を吐く(神。鉄砲水が流れる川の・神か)」(「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となった)

の転訛と解します。

 

127御井(ミイ)の神

 名義は、「神聖な井戸」の意とされます。046大穴牟遅神035稲羽八上比売の間に生まれた060木俣(キマタ)神の別名です。八上比売は、正妻076須勢理毘売を恐れて木俣神を木の股に刺し挟んで帰りました。

 この「みゐ」は、

  「ミヒ」、MIHI(lament,express discomfort)、「嘆き悲しんだ(神)」(H音が脱落して「ミイ」となった)

の転訛と解します。

 

[ヤ]

 

128八嶋士奴美(ヤシマジヌミ)の神

 名義は、「多くの島々を領有する主の神霊」の意、「士奴美」は「知主霊(シヌミ)」とされます。084須佐之男062櫛名田比売との子です。

 この「やしまじぬみ」は、

  「イア・チマ・チ・ヌイ・ミヒ」、IA-TIMA-TI-NUI-MIHI(ia=indeed;tima=a wooden implement for cultivating the soil;ti=throw,cast;nui=large,big,many;mihi=greet,admire)、「実に・掘り棒で掘り散らかしたような(屈曲が多い)地形の土地(出雲国嶋根郡の地域でしょう)を・たくさん・征服した・尊崇される(神)」(「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となった)

の転訛と解します。

 

129八嶋牟遅(ヤシマムヂ)の神

 名義は、「多くの嶋の貴人」の意とされます。047大国主神の妻となった095鳥取神の親神です。

 この「やしまむぢ」は、

  「イア・チマ・ムフ・チ」、IA-TIMA-MUHU-TI(ia=indeed;tima=a wooden implement for cultivating the soil;muhu=grope,push one's way through bushes,stupid;ti=throw,cast,overcome)、「実に・掘り棒で掘り散らかしたような(屈曲が多い)地形の土地を・手探りで道を切り開いて(波瀾万丈の経験を重ねて)・征服した(神)」(「ムフ」のH音が脱落して「ム」となった)

の転訛と解します。

 

130八千矛(ヤチホコ)の神

 名義は、「多くの矛」の意とされます。しかし、この神名が称されるのは、106沼河比売への求婚、076須勢理毘売の嫉妬の局面においてだけであるところから、「男女間の関係に関する意味」とする説(大林太良氏)があります。047大国主神の別名です。

 この「やちほこ」は、

  「イア・チ・ホコ」、IA-TI-HOKO(ia=indeed;ti=throw,cast,overcome;hoko=lover)、「実に・(たくさんの)愛人を・(あちこちに)置いていた(神)」

の転訛と解します。

 

131八重言代主(ヤエコトシロヌシ)の神

 名義は、「多くの、神の言葉を受け、その神の代わりに託宣することを司る主役」の意とされます。047大国主神と神屋楯(カムヤタテ)比売命との間に生まれた065事代主神の別名です。大国主神の国譲りに際し、高天原の使者に対し、大国主神は子の「八重事代主(ヤヘコトシロヌシ)神」が答えると回答します。

 この「やへのことしろぬし」は、

  「イア・ヘ・コト・チロ・ヌイ・チ」、IA-HE-KOTO-TIRO-NUI-TI(ia=indeed,current;he=wrong,mistaken,in trouble or difficulty;koto=loathing,sob;tiro=look,sirvey;nui=large,big,many;ti=throw,cast,overcome)、「本当に・もめ事(戦争)を・嫌がった・ように見える・偉大な・主人(征服者)(の神)」

の転訛と解します。

 

132山田曽富騰(ヤマダノソホド)

 名義は、「山田の濡れそぼつ人」の意、「曽富騰」は「そほちひと」の約、「案山子」のこととされます。スクナヒコナの素性を明らかにした天下の事を知っている神061久延毘古(くえびこ)の別名です。

 この「そほど」は、

  「ト・ハウ・タウ」、TO-HAU-TAUA(to=the...of;hau=famous,be heard;tau=come to rest,come to anchor)、「かの・有名な・(山の田で)休息している(神。案山子)」(「ハウ」と「タウ」のAU音がO音に変化してそれぞれ「ホ」、「ト」となつた)

の転訛と解します。

 

[ヨ]

 

133黄泉津(ヨモツ)神

 名義は、「死後の世界である黄泉(ヨミ)国を支配する神」の意、「よも」は「よみ」の母音調和とされます。031伊耶那岐命は、「黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)の坂本」で黄泉軍を撃退し、千引きの大岩を据えて境界としたとあることからみて、黄泉国は「坂の上=山の上」にあったことは明白です(神野志隆光『古事記の世界観』ほか)。

 この「よみ」、「よもつ」は、

  「イオ・ミヒ」、IO-MIHI(io=muscle,spur,ridge;mihi=lament)、「嘆き悲しむ・山の上(にある土地=死後の世界である黄泉(ヨミ)国)」(「ミヒ」のH音が脱落して「ミ」となった)

  「イオ・モツ」、IO-MOTU(io=muscle,spur,ridge;motu=separated,anything isolated)、「(この世と)別け隔てられた・山の上(にある土地=死後の世界である黄泉(ヨミ)国)」

の転訛と解します。

 

134予母都志許売(ヨモツシコメ)

 名義は、「黄泉国の醜悪な女」の意とされます。032伊耶那美命が禁忌を犯した伊耶那岐命に怒り、逃げる031伊耶那岐命を追わせた黄泉国の魔女です。神代紀上では「泉津醜女(ヨモツシコメ)」、亦の名を「泉津日狭女(ヨモツヒサメ)」とします。

 この「よもつしこめ」、「よもつひさめ」は、

  「イオ・モツ・チ・コメ」、IO-MOTU-TI-KOME(io=muscle,spur,ridge;motu=separated,anything isolated;ti=squeak;kome=food,eat,move the jaw as in eating)、「(この世と)別け隔てられた・山の上(にある土地=死後の世界である黄泉(ヨミ)国)の・歓声を上げて・食物を食べる(者)」

  「イオ・モツ・ヒ・タメ」、IO-MOTU-HITA-MAI(io=muscle,spur,ridge;motu=separated,anything isolated;hi=make a hissing noise;tame=food,eat)、「(この世と)別け隔てられた・山の上(にある土地=死後の世界である黄泉(ヨミ)国)の・歓声を上げて・食物を食べる(者)」

の転訛と解します。

 

[ワ]

 

135和久産巣日(ワクムスヒ)の神

 名義は、「若々しい生成の霊力」の意、「和久」は「稚・若」とされます。032伊耶那美命が火神を生み、病臥して尿を出したときに化成した最後の神です。

 この「わくむすひ」は、

  「ワハ・ク・ムツ・ヒ」、WAHA-KU-MUTU-HI(waha=mouth,voice;ku=silent;mutu=brought to an end,completed;hi=raise,rise)、「無口の・最高の地位に・到達している(神)」

の転訛と解します。

 
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<修正経緯>

1 平成14年9月15日

 074白日別の項、099豊日別の項を修正しました。

2 平成15年5月1日

 070猿田毘古の神の項を修正しました。

3 平成16年12月1日

 074白日別の項、099豊日別の項、087建日向日豊久士比泥別の項を修正しました。

4 平成17年6月1日

 004阿須波神の項、005阿遅鋤高日子根の項、006淡道之穂之狭別の項、010天津麻羅の項、021天忍許呂別の項、025天之菩日の項、034稲田宮主須賀八耳の項、057神阿多津比売の項、062櫛名田比売の項、085建日方別の項、086建日別の項、114布都御魂の項を修正しました。

5 平成18年8月1日

 031伊耶那岐の項を修正し、「淤能碁呂(おのごろ)島」の解釈と二神が生成した14島の一覧を追加しました。

6 平成19年1月1日 

 084建速須佐之男の項を修正しました。

7 平成19年2月15日

 インデックスのスタイル変更に伴い、本篇のタイトル、リンクおよび奥書のスタイルの変更、<次回予告>の削除などの修正を行ないました。本文の実質的変更はありません。

8 平成19年7月1日 

 005阿遅鋤高日子根および051大物主神の解釈を一部修正しました。

9 平成19年8月1日

 005阿遅鋤高日子根の項に「み谷二渡らす」の歌の解釈を追加しました。

10 平成20年12月20日

 010-2天御虚空豊秋津根別、022-2天之狭手依比売、023-2天之両屋、029-2天一根 、029-3天比登都柱、038-2飯依比古、049-2大多麻流別および050-2大野手比売の項(二神の国生みによつて生まれた島や国の名で未収録であったもの)を追加し、026天之御中主神、045奥津嶋比売命の項の胸形の神、051大物主神および100鳥之石楠船神の解釈を修正しました。

古典篇(その五) 終わり

 
U R L:  http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/
タイトル:  夢間草廬(むけんのこや)
       ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源
作  者:  井上政行(夢間)
Eメール:  muken@iris.dti.ne.jp
ご 注 意:  本ホームページの内容を論文等に引用される場合は、出典を明記してください。
(記載例  出典:ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/timei05.htm,date of access:05/08/01 など)
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