

出会い:ジェームズ・ナルティ登場
シカゴまでの空の旅は少し揺れたが、それ以外は退屈なものだった。無事オヘア空港に着陸すると、すぐにターミナルの中を歩いていく。ターミナルは友人や家族に出迎えられる乗客で混雑している。混雑の中でSAVEの連絡員を見落としたかと心配し始めた矢先、ドラ声が君たちの名前を呼ぶ。
「ジム・ナルティだ」と男は付け加える。50がらみの体格の良い男で、短い灰色の髪をして、髭を綺麗に剃っている。ツーピースのスーツを着て、縞のネクタイにインダロのタイタックをしている。彼は笑顔を見せずに「町をドライブしながら話そう」と言う。そして手荷物エリアに向かって歩き始める。
スティーヴ:手荷物もって後に続きます。
トム:道すがら、情報を聞きましょう。
CM:幸いナルティが乗ってきた車に全員乗れます。彼は皆さんの手荷物を車のトランクに入れる間はまったく事件について触れません。そしてバタンとドアを閉めて車に乗り込むと、「いや、すまなかったね」と言って詫びます。
スティーヴ:「いいえ」。
CM:(ナルティ)「今後も警察内部の情報を得るためには、私がSAVEという組織に関わっているという事が漏れる危険は極力冒したくないものでね。秘密を守る事が重要なのだということは理解してもらえると思う」。
トム:「うむ」。
ニコラス:ナルティはどういう立場で我々に協力してくれるわけ?
CM:彼はちょっと特殊な立場のメンバーとしてSAVEに協力しています。皆さんは一応、SAVEの活動に最も力を注いでくださいね、という事を依頼されています。しかしナルティは、なるべく警察内部の情報に近い所にいてくれよ、という命令を受けています。SAVEにとって役に立つ内部情報の入手経路としての役割を期待されているというわけです。
ニコラス:なるほど!
スティーヴ:ふ〜む。
CM:(ナルティ)「SAVE外部の一警官としてこの事件に携わっていたら、これが私が最後に担当する事件になっただろう」。
トム:「それは?」。
CM:「殺人事件が起こる前にシカゴに連れて行きたかったのだが」とナルティは言います。「ま、少し遅かった。ちょうどシカゴで事件が起こったところだ」。
ナルティは頭を振って笑う。「20年間警察で働いてきたが、こんなのは見たことがない。他と一緒だよ:侵入した形跡も、争った形跡も、何もない。ここに写真がある」。彼は腕を伸ばしてベッドに横たわる若い男性の現場写真を手渡す。彼の右手の握りこぶしは固く握り締められ、寝巻きは拡げられて、胸の中央に50セント銀貨大の傷口が見えている。
「被害者はハーヴィー・ウェル、クック・カウンティ病院の実験技術者だ。2日間出勤しなかったため、ガールフレンドが心配して、彼のアパートに強引に中に入り込んだらしい。他の被害者と同様に、彼には麻酔薬が使われていた。死因は骨髄が吸い出された事と、それに付随する失血。右手が固く握られているのが分かるかね? 指を開かせて見つけたものがこれだ」。
ナルティは2枚目の写真を渡す。それは被害者の右手のアップだ。彼の手のひらの上にはバッジがある。それには「シカゴ・リンク博物館でトトメス王を見ました」と書かれている。
「不気味だと思わんか?」とナルティは言った。
ニコラス:被害者の表情は?
CM:麻酔薬を使われていたそうなので、苦悶の表情を浮かべている事はありません。
スティーヴ:博物館でトトメス展が開催され始めたのはいつからですか?
CM:一週間前からだね。
スティーヴ:被害者がトトメス展に行った可能性はありますね。
ニコラス:これが犯人側のメッセージだという線は?
スティーヴ:死後にこれほど固く握らせる事はできないでしょうから、その可能性は薄いかと。
ニコラス:犯人がつけていた物を毟り取ったんだとしたら、何か繊維とかが残っていそうだけど。
CM:そういうことはなかったそうなので、単純に手当たり次第に何かを握ってしまっただけなのかもしれません。そう考えれば、おそらく彼はシカゴ・リンク博物館で開催されているトトメス展に行ったんでしょう。
ニコラス:凶器は何かということは判明しているんだっけ?
CM:医術に使う専門器具らしいです。凶器自体は発見されていませんが、医療用器具を使用しているという事は間違いないそうです。怪力で胸を引き裂いて、髄液ズルズルーっという感じではないということです。
スティーヴ:使われた麻酔薬も通常医療に用いられるもの?
CM:そうだね。成分は判明していて、通常の医薬品らしい。
ニコラス:ここまでやって犯人が分からないというのは……。
トム:う〜む。
CM:ナルティも「不気味だとは思わんかね?」というくらいだから、不気味ですな(笑)。
(ナルティ)「君たちに捜査してもらうのは、この事件絡みということになるだろうな」。
トム:「そういうことになるだろうね」。
CM:ナルティは若干特殊なやり方であなたたちに協力してくれます。まず、事件に新しい展開があったら伝え、進捗状況のチェックのために毎日電話をする。また、もし警察の資料で調べたいものがあれば、彼が調べてくれます。
スティーヴ:それはぜひお願いしたい。
CM:(ナルティ)「そして君たちが犯人を追い詰めた時にはぜひ連絡してほしい。私も対決に立ち会おう。しかし、勤務時間外の夜にしか、そうする事はできない」。
ニコラス:「ところで、あなたはアンノウンの存在と対決した事はあるのか?」。
CM:(ナルティ)「あるとも」。彼は「ショウンバーグの吸血鬼」事件という、つい最近起こったアンノウン絡みの事件に巻き込まれて、その際にSAVEにスカウトされました。そういう意味では、彼もあなたたち同様に新米のエンヴォイということになります。実際にエンヴォイとしてアンノウンに立ち向かうのは、今回の事件が初めてです。
トム:なるほど。基本的には情報提供者である、と。
CM:そうですね。そして残念ながら彼にできないことは「殺人事件の被害者のアパートに立ち入らせる事」、「警察の資料への直接の閲覧」、「民間人を傷つけた罪で逮捕されたキャラクターの釈放」、「銃器所持の許可証、武器、カメラ、レコーダー、暴動用装備、あらゆる種類の偽造身分証明書をキャラクターに提供する事」です。
ニコラス:今までロンドン、パリ、ベルリン、ニューヨークで6人ずつ殺されているよね。殺されるペースみたいなのは決まっているの? 1週間に1人、とか。
CM:いいえ、もっと速いペースですね。
ニコラス:4週間でロンドンの連続殺人が終わっているのか。4週間で6人っていうこと?
CM:4ヶ月で24人殺されているってことですね。1週間に1人以上のペースで殺されています。
スティーヴ:シカゴでも6人狙われる可能性は高いですね。だから、5日に1人くらいのペースで被害者が出る?
CM:均等割すればそうだね。でもそこまで規則的ではありません。中4日だったり、中3日だったりもします。
ニコラス:等間隔で死んでいるわけではないのか!
スティーヴ:そこまでの規則性はないみたいですね。特に儀式的な気配が漂うわけでもないのか。
ニコラス:1ヶ月っていうのはトトメス展の開催期間ってこと?
CM:それに合致しています。そしてシカゴに来て、1人目の犠牲者が出ました。
スティーヴ:「きわめて高い確率でトトメス展と連続殺人はリンクしている可能性があるが、確定ではない。ただ、リンクしていないなら、それは普通の警察がやるべき仕事だ」。
トム:「そうだな」。
スティーヴ:「よって、我々はリンクしているという前提で捜査に当たろう」。
ニコラス:シカゴでの開催は1週間前から? そうすると、あと3週間の内に5人死ぬ可能性があるのか……。
快適な宿泊施設
空港から35分車を走らせると、ウィリス・タワーとジョン・ハンコック・ビルが見下ろすシカゴの輪郭線が見えてくる。ナルティはオハイオ通りで高速道路を降りて、不規則に広がったダウンタウン・エリアを車で抜けていく。ここでは車はノロノロと流れ、君たちはこの国で最大の都市の1つであるシカゴの景観を目にする。
空き地、印刷所、倉庫はすぐに画廊、ギフトショップ、ナイトクラブに道を譲る。小さなハンバーガー・スタンドから様々なレベルの食の殿堂まで、そこら中にあらゆる種類のレストランがある。ナルティはシカゴの東の境界線を作るミシガン湖に向かって車を走らせる。オハイオ通りと湖岸通りの交わる交差点の直前で、彼は「湖岸通り旅館(Lake Shore Drive Sleepy Time Inn)」の駐車場に入った。「ここが君たちの宿泊場所だ。悪い所ではないよ」と彼は歯切れ悪く言う。
CM:「小さな組織のSAVEは、常にエンヴォイに最高の場所を用意する余裕があるわけではありません」とシナリオに書いてあるくらいなので、まぁ、それなりのホテルです。
一同:(笑)。
CM:(ナルティ)「では、よろしく頼む。何かあったら連絡をくれ。夜だったら合流できる」。そう言って彼は警察署へ戻っていきます。部屋は2部屋手配してあるそうです。皆さん、チェックイン、と。アサートンの講演は夕刻からです。それまではまだかなり時間があります。
トム:「じゃあ、まずトトメス展に行くか」。
ニコラス:「行ってみよう」。
|