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夜明け前、最も暗き刻、死にゆく者が最期の夜を過ごし、身体から離れていく刻。全エジプトのファラオ、苦痛に眠れぬトトメスが、ナイル川から吹く微風がカーテンを揺らす寝所で寝返りを打つ。 「メリテト」 と彼が弱々しく呼ぶと、この長き夜の間、常に王の枕元に立っていた人物が、一言も聞き逃すまいと顔を近くに寄せてくる。 「お呼びでしょうか、王よ? 私は常にここにおります」 異世界を間近に見る事のできる何者かに監視されているかのように、今、ファラオの目は取り乱している。おそらく、それは死を司るジャッカルに対する恐れなのだろう。この冷酷極まりないファラオに苦しめられた人々の内、一刻も早くジャッカルに饗されることを望んだ者がどれだけいたであろうか? 「メリテト、お前は我を独りにはすまいな?」 死にゆくファラオは下僕の腕を苛立たしげに引っ張る。 「そのようなことがないのはお分かりでしょう、王よ」 メリテトはマントに隠した毒薬の瓶に密かに触れた。それは王の地下世界へ旅路に自らを同伴させるためのもの。そしていつの日か、王が再び生者の国を歩む時に、彼を王の隣に置いておくためのものであった。 |
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