
ヒリンガムへようこそ
車は門をくぐり抜けて、邸宅へ続く長くまっすぐな私道を降り始める。道の両側に手入れが行き届いた芝生が広がっている。午後の太陽が前方にある大きな2階建ての屋敷の窓に反射してきらめく。板石の敷かれたテラスの広場で私道は円を描き、車は停止した。

館の影で暗くなった低いテラスの端には力強い像が衛兵のように立っている。同じ石から切り出されたかのような使用人の一団が、そのそばに取り澄まして立っている。正装した背の高い猫背の若者が、執事の服を着た大きな年上の男性の隣に立っている。猫背の男は車のドアを開けるようにボーイに合図する。ボーイはドアをパタンと閉めると、君たちが車から降りるときに直立不動の姿勢をとる。
「こんにちは。ウェザービーと申します」と若い方の紳士が言う。「地所の家令をしています。ボールトン卿から皆様が特別なご友人であると聞いています。皆様をお迎えできることを大変嬉しく思います。筆頭執事のドーズを紹介してもよろしいですか?」と続けて、彼は同僚を指し示す。「彼が皆様をお部屋にご案内しますので、最高に楽しいご滞在をその目でお確かめください」。
ウェザービーがボーイに合図すると、彼らは車から荷物を降ろし始めた。
ニコラス:使用人たちは何人くらいいますか? 男女比は?
CM:使用人は全部で10人くらいです。男女比は半々くらいですね。
ニコラス:彼らはボールトン卿のSAVEとしての活動を理解しているの?
CM:いえ、知らないでしょう。彼らはあくまでエステートの管理人たちです。
スティーヴ:使用人に向かって自己紹介をして頭を下げます。「何かとご迷惑をおかけするかもしれませんが」。
CM:(ウェザービー)「いえ、とんでもありません。最高のおもてなしをするようにと仰せつかっています」。そう言うとウェザービーは案内をドーズに任せて、あなたたちを見送ります。筆頭執事のドーズと荷物運びのボーイがあなたたちを2階へと案内します。用意されているのはスイートが3部屋です。この3部屋を自由に使って良いと言われます。
ドーズは言う。「全てにご満足していただけたら良いのですが。家令ウェザービーからボールトン卿の指示を伝え聞いております。可能な限り、皆様に干渉しないようにと仰せつかっています。従って、スタッフが皆様の目に触れることはほとんどない事をお約束します。従業員たちの目を気にせずに自由になさってください。しかし、どんな場合においても、必要を満たしていなかったらすぐにお知らせください。我々は皆様にサービスを提供するためにここにいるのです。
ロバート・セワード医師が2時間で到着いたしますので、それまでにさっぱりして休息を取っておけば楽しい時間を過ごせるかと思います。もしそれまでお部屋にいるなら、時間になったらメイドのブリジットが呼びに参ります」。
そしてドーズは踵を返すと、ホールの方へ姿を消す。
ニコラス:時間があるなら旅の疲れを取るためにもひとシャワー浴びつつ、セワードを待ちましょう。
トム:うむ。
ニコラス:……もう使用人の中にヴァンパイアが紛れ込んでいるということはないかな?
スティーヴ:可能性はあると思いますよ。
トム:それなら《アンノウンの感知》をやっておくかい?
一同:(コロコロ)……(全員失敗)。
CM:何の心配もすることなく、ゆっくりとくつろげます。
トム:館の中をぶらついておきますかねぇ。
スティーヴ:テラスから下を見下ろして、脱出経路を確認しておきます(笑)。
CM:当然何らかのロールは必要となりますが、テラスから庭の芝生に飛び降りる事は可能です。屋敷の2階は自由に使ってOKということでしたが、鍵が掛かって入れない部屋もあります。来客用には開放していない、物置やそういう類の部屋なのでしょう。
スティーヴ:ホームセンターで買っておいた部材を削って白木の杭を作っておきます。
CM:では皆さん、時間まで思い思いに室内でくつろいで過ごすということで。
キャンセルされた約束
ドアがノックされて、静かな女性の声でこのように言う。「ご夕食の用意ができました」。赤毛のルームメイド、ブリジットがドアの外に立っている。
トム:「セワード医師は来られたかな?」。
CM:(ブリジット)「セワード医師から電話がありまして、病院で残業するとのことです。多分コーヒーの頃にはお見えになるでしょう」。
ニコラス:「食事は先に済ませておいてくれということか」。
CM:(ブリジット)「そのようなご伝言です」。
ニコラス:「なんとなく、嫌な予感がしてきたな……」。
スティーヴ:「ははは、考えすぎだろう」。
食堂に着くとテーブルには人数分+1人分の用意ができている。3人の若いメイドが大皿、水差し、食器を運んで、食堂の中を忙しく動き回っている。君たちがテーブルに着く直前に、使用人が1人分の皿を片付けた。
すぐに最初のコースが持って来られる:大きな蓋付きの深皿に入ったモックタートルスープだ。すぐにコースが続き、テーブルの上はバイキング状態になる:大きなゆでた牛肉、フライドチキン、鮭、パン、グレーズをかけた野菜、ハーブを添えた茹でたジャガイモ。背の低い黒髪のメイドが銀製のパンくず皿を持って回ってきて、くずを払いのけていく。ご馳走の余り物が片付けられた途端、仕上げにカスタードが出される。
コーヒーが出される。セワードはまだ到着しない。
スティーヴ:「心配だな。車を回してもらって、行ってみようか?」。
トム:「その前に、電話をしてみたらどうだい?」。
CM:「確かに、到着が遅れているようですな」とドーズが言ったところで、外から金切り声が聞こえてきます。すぐに館内のドアが開け閉めされ、玄関ホールに使用人たちの足音が鳴り響きます。
ニコラス:「我々も行ってみよう!」。
CM:皆さんが顔を見合わせて腰を浮かせたところで、黒髪のメイドが食堂に走りこんできます。そしてフランス語のアクセントでこう言います。「おお、ムッシュー。すぐに来てください! 多分、お仲間のお医者様ではないでしょうか?」。
一同:!!
CM:皆さんが屋敷の前の車止めに行くと、見慣れない黒い車が停まっています。車の後部ドアの所にくたっと倒れているメイドがいます。彼女が悲鳴の主でしょう。ブリジットです。
ニコラス:「大丈夫か!?」。
CM:車の後部ドアが開いていて、中から二本の足がにゅっと突き出しています。
スティーヴ:慌てて車に駆け寄りますが、そこに見えるのは?
CM:ねじれてメチャクチャになった男性の死体です。死体は明後日の方向に首がゴキンと傾いてしまっているので、おそらく首の骨が折れているのでしょう。着ている服から、男は裕福で、フォーマルで重大な席に出席しようとしていたことが分かります。
ニコラス:顔は? 俺たちはセワードの顔を知らないんだよね?
CM:知りませんな。
スティーヴ:運転手は? ここで殺されたっぽいのかな?
CM:運転手の姿はありません。そして少なくともセワードは後部座席に乗っていたようです。
トム:運転手がいない?
スティーヴ:運転席を見ますけど、誰かが座っていたような形跡はありますか?
CM:誰かの重みで沈んでいる感じが伺えます。きっと誰かがついさっきまで運転していたのでしょう。キーは挿さったままです。
スティーヴ:玄関前だから光量は十分ありますよね? 足跡を探してみたいのですが。
CM:足跡を探すなら……<捜査>か<追跡>かな。<追跡>なら一般判定で良いです。
スティーヴ:<追跡>成功。
CM:車から立ち去ったと思わしき足跡がないことが分かります。
ニコラス:忽然と消えたってこと? 運転席に誰かが座っていた形跡があるのに?
CM:(くらら)「自動車で運転手と後部座席の乗客がここまでやって来て、後部座席の乗客が殺されて、運転手は忽然と消えた、という状況ね。……何なの?」。
スティーヴ:おっと、基本を忘れていた。《アンノウンの感知》。(コロコロ)成功。
CM:アンノウンの気配が感じられる!
トム:「う〜む。運転手はまさしく“霧のように”消えてしまっているというわけか」。
スティーヴ:「コウモリになって飛び去ったかもしれないぞ」。
ニコラス:「どう考えても、この人物がセワード医師に間違いないだろう。これで、120年前にドラキュラを倒したといわれる人物の子孫たちは誰もいなくなったというわけか……」。
トム:「うむ」。
ニコラス:「では、これでヴァンパイアは目的を達したのか?」。
スティーヴ:「いや、まだ意趣を返しただけで、目的は別だろうな」。
ニコラス:「とりあえず、これで人的な部分で情報を集めていくのは困難になったな」。
スティーヴ:「うむ」。
ニコラス:「全てが偶然の重なった末のセワード医師の被害妄想という可能性もあったわけだが、この死体を見てはそれを信じる事はできなくなった」。
CM:5分位するとブリジットが目を覚ましますよ。ブリジットに外傷はなく、彼女はただ単に死体に驚いて失神したようです。
ニコラス:「大丈夫か? 何を見たんだ!?」。
CM:(ブリジット)「車が近づく音を聞いて、出迎えるために外に出たのです。自動車には運転手がいないのが見ました。奇妙には思いましたが……。そして自動車のドアを開けたら……あの方が死んでいたのです!」。
スティーヴ:う〜む。さて、こういう事態になりましたが……。
CM:「警察を呼びましょう」とドーズが言って、ホールにある電話へと走っていきました。
一行はスコットランドヤードの警官から型通りの取調べを受けますが、ヒリンガム・エステートの従業員たちがアリバイの証明をしてくれます。警官たちは現場の検証を終えて、夜遅くに引き上げていきました。
ドラキュラの警告
スティーヴ:「さて、間をおかずにこれから調査と言っても、こんなに夜遅くにヴァンパイアの根城に行くのはゾッとしないな。今日は旅の疲れもあるから休んで、明日になったらカーファックスへ行ってみよう」。
トム:「うむ」。
ニコラス:「既にヴァンパイアの攻撃が始まっているようだから、全員まとまって一部屋で寝たほうが良い」。
スティーヴ:「うむ、そうしよう」。
CM:雑魚寝で良ければ、部屋は充分に四人を収容する広さはあります。ニコラスは年少なので部屋の隅っこです。
夜の帳が落ち、そして、家は静寂に包まれた。その日の出来事を深く考えることを許す、あるいは甘い空想――空想は夢となり、人をまどろみに誘う――に迷い込ませる類の静寂だ。
何かが暖炉の近くではためく。鳩か? あるいは石に軽く触れようとしている灰色の手? ショックが平穏を霧散させるが、次に見た時には炉床の上にも暖炉の中にも異常はなくなっている。
一同:「ん〜!?」。
スティーヴ:暖炉の前にもニンニクを置いておきます。
CM:では遠赤外線で良い感じに焼けました。ホクホクです。
一同:(笑)。
ニコラス:この状況でグッスリ眠るっていうのはかなり難しいよね(笑)。
スティーヴ:いざという時のためにテラスに近い場所で眠った方が良いかもしれませんね。
CM:では不安に思いながらもぐぅぐぅ寝ていると……全員、知覚力の一般判定をしてください。
トム:ゴホン、ゴホン!(失敗)
CM:真夜中にテラスへ出るための扉にゴツンゴツンと何かが当たる音で目を覚まします。
スティーヴ:テラスの扉に目を凝らしてみますが……?
CM:ガッシャーーーーン! という事でテラスの扉の窓が粉々に割れて、一匹の大きなコウモリが部屋の中に入ってきます!
一同:うぇ!?
CM:月光が差し込む部屋の天井近くで、大きなコウモリが円を描いて飛んでいます。さすがにこの破砕音でトムも目を覚ましました。コウモリはベッドから立ち上がろうとする人の頭上すれすれを嘲笑うかのように飛び回って、立ち上がるのを邪魔します。
ニコラス:枕元に置いておいたヌンチャクを握り締めます! コウモリは襲ってくるの?
CM:立ち上がろうとする人間めがけて急降下してくるだけで、実際に噛み付いたりはしてきません、まだ。
ニコラス:俺たちを足止めしているってことか?
スティーヴ:可能性は高いですね。
トム:うむ。
CM:コウモリはしばらくうるさく飛び回っていましたが、遠赤外線でホクホクに焼きあがったニンニクを見ると、割れた窓から外へと飛び出していきました。
スティーヴ:コウモリが出て行ったのなら、明かりをつけます。
CM:部屋の中には割れたガラスの破片が飛び散っています。その割れたガラスの向こう、つまり外から、笛や鐘の音が聞こえてきます。「ピィィィィッ!」とか「カンカンカン!」とか。犬の鳴き声や、「向こうへ行ったぞーーー!」と言う声もします。
トム:誰がやっているんだ?
スティーヴ:警察?
ニコラス:声は屋敷の敷地内じゃないよね?
CM:違います。カーファックスや精神病院の方からですね。
スティーヴ:装備を整えて懐中電灯も持って、外の騒ぎが何なのか確認に行きます。
CM:1階に降りていくと、既にホールには何名かの使用人がいます。(ドーズ)「安眠を妨害して申し訳ございません。精神病院でございます、サー、マダム」。
スティーヴ:「? 精神病院で、何が?」。
CM:(ドーズ)「多分、患者が逃げしたのでしょう。良くある事です。ご心配にはおよびません。戸締りは万全です」。
トム:「我々の部屋に何か生き物が飛び込んできたんだが? 窓ガラスが割れたよ」。
CM:(ドーズ)「ああ、その音でしたか! 精神病院の窓ガラスが割れたのかとも思いましたが、どうも音が近いような、とは思っていました」。
ニコラス:「他の使用人の方々は皆さん無事ですか?」。
CM:(ドーズ)「大丈夫です。ブリジットはまだ気分が優れないようですが」。
ニコラス:死体を発見してしまったら、気分が優れないのは、まぁ、仕方がないよな。
スティーヴ:このホールでも《アンノウンの感知》をしておきましょう。さっきのコウモリが足止めかもしれないという話もありましたし。(コロコロ)成功。
CM:反応はありません。
ニコラス:屋敷から出て、遠目に様子を見てみましょう。
CM:懐中電灯の光がいくつも見えます。おそらくは警察と病院の関係者10名くらいがあちこちと走り回っている感じです。
トム:近くに警察官がいるようなら、何が起きたか聞いてみたいね。
CM:ヒリンガムの敷地内から外へ出るわけですな? ドーズは止めますが、まぁ、基本的にはやりたいようにさせてくれます。犬を連れた警察官が数名、向こう側で右往左往している様子がうかがえます。
ニコラス:一番近くで捜索している警察官に話しかけられる距離まで行ってみましょう。
CM:では真夜中の闇の中をチラチラと動く懐中電灯目指して歩き始めました……それでは不意打ち判定をしましょう。
スティーヴ:(笑)。不意打ち判定ってなんでしたっけ? 知覚力? (コロコロ)成功。
ニコラス:(コロコロ)成功。
トム:失敗!
CM:暗がりから男が飛び出してきました。(ターゲットは、と……(コロコロ)……ニコラス)ニコラスにドロップキックをかましてきます。いわゆる患者服(?)を着た男です。しかしニコラスは不意打ちを受けなかったので、<マーシャルアーツ>の分の-20ペナルティをこちらが受けます。(コロコロ)スカッ!
ニコラス:「何者だ!?」。狂人ですか?
CM:髪を振り乱して、明らかに「狂人です!」といった風貌の男です。「SANチェック失敗してますよー」みたいな。
スティーヴ:私はドローバックで【不殺】(※明らかにアンノウンであることが分かっている相手じゃなければ攻撃できない不利な特徴)を取っていますので、手は出せません。よろしくお願いします。
ニコラス:取り押さえるにはどうすれば良いんだっけ?
CM:ストライク・ランクを下方修正するのは自由に出来ますので、ダメージを加減すれば良いのではないでしょうか?
素人の狂人が百戦錬磨のエンヴォイたちに敵うはずもなく、一矢も報いる事さえできずに、ニコラスとトムの拳で気絶させられてのでした。
CM:地面に倒れ伏したのは髪を振り乱した中年の男です。ガタイはなかなか良いですね(STR 78、STA 72)。囚人服のような、患者服を着ています。
スティーヴ:《アンノウンの感知》。成功。
CM:彼からアンノウンは感じられない。
ニコラス:大声で警官を呼びましょう。「おおい、ここだ! ここにいるぞ!!」。
CM:すると警官がやって来て、「ご協力、ありがとうございます!」。
ニコラス:「何があったのですか?」。
CM:(警官)「いえ、狂人が病院から脱走しまして。良くある事ですよ」。
ニコラス:「ついさっき、ヒリンガムでセワード医師が殺されたばかりですが、この患者との関係はあるのでしょうか?」。
CM:(警官)「いえ、それはありません。セワード医師が殺害されたと思わしき時間には、この患者は病室にいたことが確認されていますので。こんなにベラベラしゃべっちゃって良いのかな、俺?」。
スティーヴ:「お疲れ様です」。
CM:遅れて病院のスタッフらしき人物が来て、応急手当のような事をすると患者は意識を取り戻します。患者は拘束衣を着せられて、スタッフと警官に担がれていきます。
ニコラス:意識を取り戻した患者は、何か意味のありそうな事を言っていませんか?
CM:患者は首を捻じ曲げてあなたたちの方を見ると、涎を垂らしながらニヤニヤと笑っています。そして「旦那、やりましたぜ! 旦那、やりましたぜ!」と何度も繰り返します。
スティーヴ:「……旦那?」。
トム:「意味があることなのか、意味がないことなのか……?」。
CM:(病院スタッフ)「黙れ、ケンジントン! 静かにしないか!!」。どうやら患者はケンジントンという名前のようですが、警官とスタッフに連れて行かれました。ケンジントンの声が、夜の暗闇の中を遠ざかって行きます。
屋敷に戻るとドーズが迎えてくれます。コウモリが割ったガラスには応急処置をして目張りしてくれたそうです。
スティーヴ:「ようやく安眠できそうだ」。
|